文献詳細
文献概要
理学療法の現場から
発達障害を持つ子どもと成人とその家族の基本的権利としての理学療法
著者: 榎勢道彦1
所属機関: 1南大阪療育園
ページ範囲:P.168 - P.168
文献購入ページに移動理学療法士の役割をあらためて考えていると,ふと頭に浮かぶ1人の女性がいる.2年前,「ひとり暮らしに必要な身の回り動作が自立できるようになりたい」と当園に来られた48歳の脳性まひの女性である.室内は四つ這い,屋外は電動車いすで自立して移動し,食事や更衣,入浴,排泄といった身の回り動作には介助を必要としていた.70歳を過ぎた母親と2人で暮らし,介助は母親と,別に暮らしている兄,ヘルパーが行っていた.「ひとり暮らし」に向けて作業療法開始の要請や自立生活支援センターへの相談を促し,同時に,食事動作の自立に向けた練習と車いす移乗の介助方法の検討などを行っていた.理学療法を開始してから,しばらく経ったある日,衝撃的な告白があった.就寝時には2階へ行き,その介助は母親が行っているというのである.さらに,母親は「階段昇降の介助は何十年もやってきている.コツがあるのでヘルパーには頼めない」という.すぐさま母親の介助をなくすことを検討した.時間帯の関係でヘルパーや兄に介助を頼むことは難しいということがわかり,2階へは行かなくてすむよう1階の住宅環境を調整することを作業療法士とともに検討した.しかし,1階の部屋は大きな道路に隣接しているため,騒音が気になり眠れないという.説得に説得を重ね,時間はかかったが,できる限りの防音対策を検討するということでようやく納得していただいた.今ではぐっすり1階で眠れているようである.
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