文献詳細
文献概要
特集 脳科学からみた理学療法の可能性と限界
高次神経機能障害に対する理学療法の可能性と限界
著者: 網本和1
所属機関: 1東京都立保健科学大学理学療法学科
ページ範囲:P.241 - P.247
文献購入ページに移動高次神経機能障害例のリハビリテーションに関する評価と治療については,最近,脳機能分析の進歩や厚生労働省のすすめる施策などによって,注目を集めつつある.ここでいう高次神経機能障害の範疇は極めて多岐にわたり,失語症,失行症などのいわゆる古典的な巣症状のみならず,注意障害,認知障害,記憶障害,遂行機能障害などが包含されている.特に運動麻痺を示さない高次神経機能障害例は,従来の身体障害者に対する法的支援から漏れてしまうことが多く問題視されており,課題としてクローズアップされているのである.
しかし一方,理学療法士のかかわる症例は,従来から“感覚―運動障害”を合併している場合がほとんどであり,重複障害として現実的・臨床的な困難をきたしているのも事実であろう.筆者が平成14年9月に行った,理学療法士協会会員の在籍する1,872施設(有効回答率53.3%)を対象とした全国調査では,理学療法士がかかわっている高次神経機能障害の内容は表1に示すとおりであり,また表2に示した「苦慮している症状」の内訳をみると,認知症(痴呆症),半側空間無視などが中心的課題となっていることがうかがえる.またこれらの症状を呈する症例がどのようなADL項目で困難をきたしているかを図1に示した.例えば,失語症では意思疎通困難が最も頻度が高いなど,各症状に応じた項目が挙げられているが,移動動作,排泄なども共通して困難な項目となっている.これらのことは,理学療法士がかかわる高次神経機能障害はその特異的な症状だけでなく基本的な動作が障害されており,高次神経機能障害の中核症状そのものへの対応と同時にADLに関連付けたアプローチが必要であることを示唆している.
しかし一方,理学療法士のかかわる症例は,従来から“感覚―運動障害”を合併している場合がほとんどであり,重複障害として現実的・臨床的な困難をきたしているのも事実であろう.筆者が平成14年9月に行った,理学療法士協会会員の在籍する1,872施設(有効回答率53.3%)を対象とした全国調査では,理学療法士がかかわっている高次神経機能障害の内容は表1に示すとおりであり,また表2に示した「苦慮している症状」の内訳をみると,認知症(痴呆症),半側空間無視などが中心的課題となっていることがうかがえる.またこれらの症状を呈する症例がどのようなADL項目で困難をきたしているかを図1に示した.例えば,失語症では意思疎通困難が最も頻度が高いなど,各症状に応じた項目が挙げられているが,移動動作,排泄なども共通して困難な項目となっている.これらのことは,理学療法士がかかわる高次神経機能障害はその特異的な症状だけでなく基本的な動作が障害されており,高次神経機能障害の中核症状そのものへの対応と同時にADLに関連付けたアプローチが必要であることを示唆している.
参考文献
1)石合純夫:高次脳機能障害学,pp121-158,医歯薬出版,2003
2)前島伸一郎,他:半側空間無視―責任病巣―.総合リハ29:15-21,2001
3)Karnath HO, et al:Spatial awareness is a function of the temporal not the posterior parietal lobe. Natue 411:950-953, 2001
4)Maeshima S, et al:Is unilateral spatial neglect a single phenomenon?A comparative study between exploratory-motor and visual-counting tests. J Neurol 244:412-417, 1997
5)網本 和,他:半側空間無視の生起過程に関する検討―知覚型と遂行型の分析.総合リハ19:631-635,1991
6)網本 和:半側空間無視の評価と治療アプローチ―最近の動向―.理学療法科学19:13-18,2004
7)Rossetti Y, et al:Reducing spatial neglect by visual and other sensory manipulations:noncognitive(psychological)routes to the rehabilitation of a cognitive disorder. in Karnath, et al(eds):The cognitive and neural bases of spatial neglect, pp375-396, Oxford Medical Publications, 2002
8)Rossetti Y, et al:Prism adaptation to a rightward optical deviation rehabilitates left hemispatial neglect. Nature 395:166-169, 1998
9)網本 和:Pusher現象例の基礎と臨床.理学療法学29:75-78,2002
10)Pedersen, et al:Ipsilateral pushing in stroke:incidence, relation to neuropsychological symptoms, and impact on rehabilitation. Arch Phys Med Rehabil 77:25-28, 1996
11)Reding M, et al:Neuroimaging study of pusher syndrome post stroke. J Neurol Sci 150:S129, 1997
12)Perennou DA, et al:Understanding the pusher behavior of some stroke patients with spatial deficits:a pilot study. Arch Phys Med Rehabil 83:570-575, 2002
13)Karnath HO, et al:The neural representation of postural control in humans. Proc Natl Acad Sci USA 97:13931-13936, 2000b
14)Davies PM:Steps to follow, Springer-Verlag, 1985
15)網本 和,他:左半側無視例における『Pusher現象』の重症度分析.理学療法学21:29-33,1994
16)Karnath HO, et al:The origin of contraversive pushing:evidence for a second graviceptive system in humans. Neurology 55:1298-1304, 2000a
17)Karnath HO, et al:Understanding and treating“pusher syndrome”. Phys Ther 83:1119-1125, 2003
18)鈴木 誠,他:Pusher現象における視覚的手がかりの有効性.作業療法22:334-341,2003
19)Bohannon RW:Letters to the editor. Phys Ther 84:580-581, 2004
掲載誌情報