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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル39巻7号

2005年07月発行

雑誌目次

特集 介護予防動向―理学療法士はどうかかわるのか

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.569 - P.569

 以前から予想されてきたことではあるが,介護保険改正に当たり,いよいよ障害予防が中心的テーマに躍りでた.介護予防の充実が国家的に差し迫った課題として表舞台に登場したのである.障害予防の効果を上げる方法論が確立されたゆえというよりも,その高い必要性が先行していることは否めない.関係者にとってはまさに今からが正念場である.幅広いデータの集積と意見の交流により着実にその成果を高めていかなければならない.そのような状況を鑑み,本特集では地域性や特殊性にこだわった理学療法士のかかわりについておまとめいただいた.

高齢者の介護予防・リハビリテーションの動向―理学療法士に期待される役割

著者: 久富ひろみ

ページ範囲:P.571 - P.579

はじめに

 2000年に介護保険制度がスタートし5年が経過する中で,近年,「介護予防」や「2015年」「新予防給付」といった言葉をよく耳にするようになった.超高齢社会の到来(図1)は免れられない事実であり,介護の社会化はなされたものの4人に1人が高齢者となる時代にこの制度を継続していくためには,効率的な運用が必須である.

 特に介護予防は,大きなテーマとして取り上げられることが多くなっている.しかし,この介護予防の考え方は最近になって言われ始めたのではない.本稿では,介護予防の考え方がどのような経過の中で今に至っているのか,また,どのような動向があり,そこで理学療法士はどのような役割を果たせるのかを検討していきたい.

ヘルスプロモーションと介護予防―積雪寒冷地における転倒予防の推進を中心に

著者: 盛雅彦 ,   鈴木英樹

ページ範囲:P.581 - P.586

ヘルスプロモーションと介護予防事業について

 ヘルスプロモーションとは,一言でいうと「健康づくり」となるのであろうが,その定義は1986年,WHOのオタワ憲章において「人々が自らの健康(健康の決定因子)をコントロールし,改善できるようにするプロセスである」とされ,そのための活動方法として,公共政策に健康の視点を追加することなどが挙げられている.

 これを受けた健康日本21では,かつての成人病の早期発見,早期治療を重視した二次予防中心の政策から,それ以前の生活習慣を見直して,環境改善などによって発生そのものを予防するという一次予防に重点を置くこととなり,その中心は健常者や若年層へと移った.

都市部での介護予防事業の取り組み

著者: 粟津原昇 ,   新井久美子 ,   永井みどり ,   中山初代 ,   平川夏澄

ページ範囲:P.587 - P.594

はじめに

 厚生労働省の2003年度介護保険事業報告によると,要介護高齢者の8割が後期高齢者であり,要支援,要介護1の軽度者はおおよそ50%を占めるといわれている1).このような状況の中で,2004年7月の社会保障審議会介護保険部会では,介護保険制度の見直しにあたって,給付の効率化,重点化を図るための「総合的な介護予防システムの確立」を検討課題として提示した.具体的には軽度者に対する地域支援事業(仮称,以下同じ)の導入や新予防給付の創設である.この介護予防の考え方は,介護保険創設時に謳われていたものであり,介護保険サービスの提供にあたって自立支援やリハビリテーションを重視するなど基本的な考え方としてあげられていたものである.2006年施行予定の介護保険制度改革では,この予防重視型システムへの転換が予定され,現在,介護保険法の見直し,介護予防やリハビリテーションの観点から実施されている「老人保健事業」や「介護予防・地域支え合い事業」の整理検討が行われている.

 筆者の勤務する自治体(以下,当区)は,人口約50万人,高齢化率約17%(全国平均とほぼ同じ)の都市部に該当する.保険者として介護保険事業計画の立案に向けて,総合的な介護予防システムの確立を検討中である.本稿では当区での取り組みを通して都市部での介護予防事業の実際と,理学療法士の関わりについて述べる.

地域での介護予防に向けて

著者: 備酒伸彦

ページ範囲:P.595 - P.600

はじめに

 「介護予防」.何か耳に心地よく響く言葉だが,一方でその意味はあやふやである.ましてや,介護保険という仕組みを拠り所にして「介護推進」を図ってきた私は,未だに介護予防という言葉に馴染めないでいるというのが正直なところである.

 介護保険にはもとより「本人の自立を第一に考える」という理念がある.しかも,褥瘡対策などという「生物モデルのケア」の時代を卒業して,個々人の多様性を尊重する「人モデルのケア」に対応できるように,制度として一定の枠を与えながら,その中で,自己決定と自己責任の仕組みをもっているのが介護保険である.

 このように考える私は,「介護予防」という言葉のうわべに踊ることなく,冷静にケアの在り様を考えて個々の自立を支えることが重要であるという立場をとっている.さりとて介護予防の取り組みに反対しているわけではない.繰り返しになるが,介護予防という言葉が独り歩きすることによって高齢者ケアの姿が歪んでしまうことに危惧を感じているわけである.

 そこでこの小論では,介護予防という語を念頭に置いて,次の3点から高齢者ケアについて考えていくことにする.

 ①「悲惨な家族介護の時代」

 介護保険は,家庭の中に閉じこめられた過酷な家族介護への反省に立った,壮大な介護の社会化政策であるといえる.ところが皮肉なもので,介護保険によって急激に広がったケアの現場では,そのような時代を知らない関係者,すなわち悲惨な時代を知らないスタッフが圧倒的多数を占めている.このことは介護予防と一見無関係のようであるが,「これからの介護」を考える際に「過去の介護」を知っておくことは極めて重要なことなので,あえてはじめに触れておくことにする.

 ②「生活機能を支える」

 生活機能は身体機能のみによって決まるものではない.また,「北風と太陽」の話を引くまでもなく「人は動きたいと思うから動く」わけで,この点を忘れたケアは成り立たない.そこでこの項では,介護予防というものが単に身体機能への対策にとどまるものではないということについて述べることにする.

 ③「個々の仕事が大切」

 理学療法士の関わる仕事が介護予防の分野も含めて広がっていくことは,ケアを推進する上で望ましいことである.同時にわれわれに課せられた使命の重さも知らなければならない.この項では,まずは身近な仕事を確実に行うことの大切さについて触れることにする.

筋力増強運動による介護予防・リハビリテーション効果

著者: 島田裕之

ページ範囲:P.601 - P.607

はじめに

 介護保険制度の導入から5年が経過し,この間に要介護認定者数は上昇を続け,2000年4月末に218万人であった認定者が2004年8月末には400万人となり,わずか4年4か月間で約83%の上昇が認められる.この中でも,比較的障害が軽度な要支援,要介護1の認定者数の上昇が著しく,要支援が119%,要介護1では135%の増加が認められる(図1).これは,介護保険制度が広く認知された結果であり,介護を必要とする高齢者に対するサービス供給の体制が整ったことを示唆する一方で,このまま要介護認定者数が上昇し続ければ,財政的に介護保険制度の存続が困難になると懸念されている.

 このような背景から,要介護状態に陥ることを予防する,あるいは要介護度を軽減するための介護予防事業の重要性が認知されるようになってきた.介護予防とは高齢者が要介護状態に陥ることなく生き生きとした生活を送れるように援助することであり,現状においては対象や方法についての見解は一致しておらず,各自治体が独自の判断で実施している状況にある.

 介護予防のターゲットを考えるために,高齢者が要介護状態に陥った原因をみると,高齢による衰弱,転倒・骨折,痴呆,関節疾患が過半数を占め,生活習慣病のような重大な疾病以外の原因によるところが大きい1)(図2).これらは高齢期において徐々に顕在化する諸症状であり,老年症候群と呼ばれる.介護予防あるいは高齢者リハビリテーションを効果的にするためには,老年症候群の予防に焦点をあてた取り組みをする必要があると考えられる.

 要介護状態の大きな原因である高齢による衰弱や転倒は下肢筋力低下の影響を受けるために,介護予防事業において筋力増強運動が高齢者に対して広く実施されるようになってきている.本稿では,高齢者に対する筋力増強運動によるトレーニング効果をまとめ,理学療法士が果たすべき役割について提案する.

とびら

プーから学ぶ人間学―理学療法士にとって大切なものは?

著者: 比嘉早苗

ページ範囲:P.567 - P.567

読者の皆様,突然ですが『クマのプーさんの哲学』という本をご存知でしょうか? あの愛くるしい,くまのぬいぐるみのプーです.プーとプーの仲間たちが取った行動がソクラテス,プラトン,ポパーの思想と結び付けられ,話は展開されます.学生のときに聞いた名前が次々に登場し,いつの間にか話に引き込まれていきます.日常起こる道徳的なことをプーとその仲間たちから教えられるのです.他にもプーに関するビジネス本も出版されていますので,是非一読をお勧めします.この本には,目標を達成するにはどうすべきか,問題を解決するにはどうあるべきかということが書かれています.ビジネス本でありながら,われわれの行うリハビリテーション(以下,リハ)に照らし合わせてみると,リハの評価をどのようにするか? ということと根本的に同じことだと気づかされるのです.リハ評価はリハ業界にとって特殊なことではなく,その考え方は社会の中の基本的思考である,と再確認できる本なのです.

 私は先日,母校である高校から総合学習の一環として社会人講話を依頼されました.理学療法士としての経験や仕事内容,そして社会との関わりを,将来性のある多感な高校生に話してほしいということでした.はて,何を話そうか? 理学療法士として? 社会人として? どんなことを話せばいいのか.挨拶ができる,目上の人に対してきちんと接することができる,その場の空気を読む,自分が今どの立場にいるのか等々,親父の教訓のようなことが題材として頭に浮かんでくるのです.それは実はとても当たり前のことで日常の道徳的な部分なのです.今までリハの学生に対して社会人としてや理学療法士としてということは話してきましたが,今回はその学生よりも若い高校生に,社会人として何が必要なのかを話すことになります.それで,前述したプーの本を題材として,いわゆる“リハビリ”ではなく「リハビリテーション」について,理学療法士までの険しい(私自身ができの悪い学生でしたので)道のりなどを話しました.総合学習の目的である,職業に対する関心,社会性,また,一番重要と考える当たり前のことができること,日常の道徳についてを,プーを話題にすることで理解しやすく話をしました.当たり前のことができないということが,今私の周りでも,そして現社会において常に話題に上ります.理学療法士として適性があるのかないのかということは,いつも議論されるところですが,最終的には社会に適応できるだけの能力があるのか,ということにまで話は発展していきました.

あんてな

第40回日本理学療法士協会全国研修会のご案内

著者: 坂口勇人

ページ範囲:P.609 - P.612

あつい愛知!

 今年2月17日に中部国際空港「セントレア」が開港,3月25日から「愛・地球博」が開催しました.連日数万から十数万人の人々が訪れ,愛知県は熱い日々を送っています.

 世界中の人々の流れが愛知に向かい,その熱も冷めやらぬ,10月7日・8日の2日間にわたり「名古屋国際会議場」にて第40回日本理学療法士協会全国研修会の開催を予定しています.「愛・地球博」が閉会して11日後ですが,理学療法士の流れは愛知に向かい続け,全国からご参集いただけることを願っています.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

ローランド溝

著者: 森岡周

ページ範囲:P.615 - P.615

大脳皮質(cerebral cortex)は大きく前頭葉(frontal lobe),頭頂葉(parietal lobe),側頭葉(temporal lobe),後頭葉(occipital lobe)の4つの大脳葉(cerebral lobe)に分けられるが,前頭葉と頭頂葉を分けている明瞭な溝が中心溝(central sulcus)である.この溝はイタリア・トリノの解剖学者Luigi Rolando(1773-1831)によって発見された.当初Rolandoは師であるMalacarneと共にこの溝を腸管様隆起と記述している.後にローランド溝(Rolandic fissure)として記述されたのは1831年になってからである.ローランド溝は大脳半球上縁から外側溝に向かって下前方に走っている(図).ちなみに側頭葉と前頭葉および頭頂葉との境界には外側溝(lateral sulcus:シルビウス溝),頭頂葉と後頭葉の境界には頭頂後頭溝(parieto-occipital sulcus)が走っている.

 ローランド溝が前頭葉と頭頂葉の境界であるならば,運動野と感覚野を区分していることにもなる.中心溝前壁に接する隆起は中心前回と呼ばれ,ここには随意運動に関係する一次運動野(primary motor cortex,4野)が存在しており,いわゆる錐体路の起始となる.一方,中心溝後壁に接する隆起は中心後回と呼ばれ,ここには一次体性感覚野(primary somatosensorycortex,3-1-2野)が存在し,体性感覚情報を受け取っている.このうち3野はローランド溝に埋没している.

学校探検隊

「学生一人ひとりのもつ能力を最大限に引き出し引き伸ばす」理学療法教育を求めて

著者: 齋藤圭介 ,   日高正巳 ,   平上二九三 ,   頓所幹子 ,   古江匡季子

ページ範囲:P.616 - P.617

大学の紹介

 吉備国際大学は,岡山市より電車で50分ほどの距離の松山城で有名な城下町・高梁市にあります.1990年に社会学部の単科大学として開学して以来,現在4学部13学科体制の総合大学へと発展を遂げています.“国際大学”の名の通り,今年3月時点で39か所の海外提携校を有し,各種留学制度を設け大学在籍中に海外の大学での学習の機会を提供すると共に,学部・大学院共に多くの留学生を受け入れています.またサークルやスポーツ活動も盛んで,特にサッカー部は天皇杯に参加するなどの活躍を見せています.歴史は浅いものの,短期間のうちに急速に発展を遂げてきた大学といえます.

 わが保健科学部理学療法学科は,1995年に開設されました.その後2000年には大学院修士課程が開設,そして今年度には博士課程が開設され,創立10周年目を経ていよいよ高度専門職を養成するための教育研究体制が整いました.同時に,「学生一人ひとりのもつ能力を最大限に引き出し引き伸ばし,社会に有為な人材を養成する」という大学の建学理念の下,これを理学療法教育において実践すべく16名の学科教員が日々奮闘しているところです.

理学療法の現場から

Patient Educationできますか?

著者: 菅原慶勇

ページ範囲:P.618 - P.618

まだ理学療法士(以下,PT)になって間もない頃,先輩PTから「外来理学療法は,PTとしての実力が率直に試される場なので,患者の像を単に疾患云々の重症度で判断せずに,症状を注意深く観察し,評価したうえで忠実に治療を行わなければならない.外来理学療法は入院理学療法より即時効果が求められるので,評価と治療でみせる患者の反応を軽視してはならず,常に注意を払うべきである」と言われたことがある.今から思えば,おそらく私の行っていた理学療法が先輩PTの目には外来・入院の別はまったく関係なく,いずれの患者に対する場合でも疾患名の先入観にとらわれすぎた評価と治療に映り,見兼ねたうえでの教育的指導であったのであろう.つまり,疾患名が同じであれば評価から治療プログラムに至る流れが常に画一的であり,治療に至っては個々の患者の像はなく,教科書に載っているマニュアルに終始していたことに対する戒めであったのだろうと解釈している.

 患者は,外来であれ入院であれ当然のように痛みの除去などの治療効果と不自由な日常動作の解消を期待する.患者には,PTに対する信頼や行われようとしている理学療法に期待する心理作用が伺え,われわれPTはそれに答えるべく研鑚を積み,理学療法を実践する.臨床実習の場面では,「疾患名は見えても患者自身の顔(特徴)が見えない」と実習指導者に指摘されている学生によく出会う.そもそも,われわれが対象としているのは生身の人間であり,同じ疾患名といえども症状に与える要因は,性別,年齢,障害の程度,経過期間,生活環境など非常に多く,個々の患者の顔を見ずして十分な治療効果を期待することはできない.これは当たり前のことであり,改めて説明するまでもない.若い頃の私と重なり,妙に同情してしまう.

入門講座 訪問リハビリテーション・3

訪問リハビリテーションにおけるリスクマネジメントのポイント

著者: 廣澤隆行 ,   村上重紀 ,   鶴見隆正

ページ範囲:P.619 - P.624

リハビリテーション(以下,リハ)医療は時期によって急性期,回復期,維持期に分類される.そのシームレスな流れの中で訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)は維持期リハに位置する.しかし,急性期病床における在院日数の短縮化,回復期リハ病棟の不足のため,医療機関で行うべきリハを行わないまま,急性期リハや回復期リハの途中にある患者が自宅退院を余儀なくされ,訪問リハを利用することもある.また,訪問リハの利用者は維持期とはいえ,要介護4,5や筋萎縮性側索硬化症(以下,ALS),筋ジストロフィー症などの難病で重度の障害を呈する者も少なくない.

 このような利用者に対して訪問リハで関わる場合,リスクマネジメントが不可欠であるが,訪問リハでは,サービス提供者が散在しているため,利用者に関する情報を収集することが容易ではないうえに,訪問リハ利用者の様子を毎日見ることができないことから変化に気づきにくい.また,事故が医療機関内で起こった場合のように,すぐに検査や処置ができるわけではない.

講座 病態運動学―変形・拘縮とADL・4

脊柱変形とADL

著者: 金子操

ページ範囲:P.625 - P.632

人間の脊柱は,7個の頸椎・12個の胸椎・5個の腰椎・1個の仙骨・1個の尾骨より成り立っている.胎生期,新生児の脊柱は一時弯曲のみでC字型の弯曲をしている(矢状面).発達,すなわち首が据わり,座位保持から直立姿勢へ,そして歩行獲得の時期へと姿勢や動作が変化してくると,脊柱の形状も変化し,二次弯曲と呼ばれる頸椎部,腰椎部の前弯が出現する.そして,10歳頃には,逆S状の脊柱カーブが完成する.また,前額面で見た脊柱構造は,骨盤(仙骨)の上に長方形の積み木を重ねたような構造をしている(図1).人の立位姿勢は,物理的に不安定な姿勢であるが,筋・靱帯・椎間板などの巧みな働きによって,重い頭部を支えながら種々の作業が遂行可能となっている.さらに,小さなエネルギー消費で円滑な直立二足歩行ができるのは,頸部や体幹の分節的な巧緻運動,前後左右の微妙なバランス調整によるものである.

 脊柱の基本は,頸椎・胸椎・腰椎・仙骨・尾骨から成る逆S状カーブであり,その形状は,椎骨の椎体部分,椎間板の状態,椎間関節の可動性,筋の緊張度・伸縮性などによって決まる.また脊柱が十分な機能・役割を果たすためにも椎間板,靱帯,筋など脊柱周囲組織が関与している.脊柱カーブは,これら脊柱構成体・関連組織に何らかの先天異常や交通事故,転落事故などによる脊椎の外傷,加齢による脊柱の退行変性など様々な原因により異常が発生する.これは,単に脊柱が外観上異常な変形を認めるだけではなく,脊柱およびその周囲に存在する脊髄,末梢神経・筋組織・靱帯・心・肺・消化管など全身に少なからず影響する.さらに患者の日常生活活動においても,精神心理面,起居動作・移動動作など基本的動作に影響を及ぼすことが知られている.

資料 第40回理学療法士・作業療法士国家試験問題(2005年3月6日実施)

模範解答と解説・Ⅰ 理学療法(1)

著者: 伊藤俊一 ,   柏木学 ,   久保田健太 ,   隈元庸夫 ,   佐藤公博 ,   信太雅洋 ,   高倉千春 ,   高橋尚明 ,   田中昌史 ,   田邉芳恵 ,   富永尋美 ,   蛭間基夫 ,   福田修 ,   村上亨

ページ範囲:P.636 - P.647

文献抄録

膝関節症を有する症例に対するTENSの最適な刺激周波数

著者: 大澤諭樹彦

ページ範囲:P.648 - P.648

背景:TENSに関する先行研究では,周波数が高頻度(100Hz)と低頻度(2Hz)で異なる鎮痛効果があるとする報告や,両者に差異がないとする報告,そして近年では代替法としての100Hzと2Hz交互刺激によって鎮痛効果があったとする報告がある.

 目的:膝関節症の疼痛緩和に使用されるTENSの最適な刺激周波数を明らかにすることである.

脳性麻痺児の胃腸機能特性

著者: 工藤俊輔

ページ範囲:P.648 - P.648

目的と対象:本研究では,脳性小児麻痺児(6か月~12歳)58人の胃腸機能を評価し,関連する胃腸(GI)の機能的および構造上の異常を調査した.さらに,患児のコンピュータ断層撮影(CT)結果とGI機能障害のタイプや脳の磁気共鳴映像(MRI)結果との相互関係を検討した.

 結果:今回対象となった脳性小児麻痺児の92%が異常な胃腸症状を持っていることが明らかとなった.

新開発された油圧ダンパー付き短下肢装具における歩行の運動学的効果:片麻痺者2名の検討

著者: 阿部成浩

ページ範囲:P.649 - P.649

背景:短下肢装具の足関節継手は,遊脚相の足関節底屈を制限しなければならないが,過度な底屈制限は立脚相に膝関節の過度な屈曲の原因となる.底屈を制動する力は,片麻痺者の歩行能力に合わせ適切に調整されるべきであるが,正確な調整は困難である.そこで油圧ダンパー付き短下肢装具(以下,油圧AFO)を開発した.油圧ダンパーは油圧を利用した小さな衝撃緩衝器で,初期接地時の足関節底屈を制動するモーメントを発生する.これは本体の調整ネジを回すだけで簡単に調整できる.

 対象と方法:片麻痺者2名を対象とした.対象Aは40歳代後半の男性の右片麻痺者で,下肢Brunnstrom StageⅢ,発症後19か月経過.日常では金属支柱付きAFO(クレンザック継手0°固定)を使用している.対象Bは40歳代の男性の右片麻痺者,下肢Brunnstrom StageⅣ,発症後17か月経過.日常では継手付きプラスチックAFO(ジレット)を使用している.油圧AFOと日常使用している底屈を制限したAFOを装着した際の歩行分析を行い,両者を比較した.測定には,3次元動作解析装置(VICON512)を使用し,歩行速度,歩行率,歩幅,重複歩距離,立脚相の割合,などの時間―距離因子と股・膝・足関節角度などの運動学的評価を行った.分析にはt検定(p<0.05)を用いた.また主観的評価を質問用紙により行った.

PCBSテストの結果の信頼性と得点分布の経時的変化

著者: 熊谷香緒

ページ範囲:P.649 - P.649

背景と目的:新しいPCBS(Postural Control and Balance for Storoke)テストの検者間・検者内の信頼性と,その得点分布の経時的変化を検討することを目的とした.PCBSテストは姿勢変換に関する7項目を介助量で評価し,座位バランス5項目,静的立位バランス4項目,動的立位バランス7項目をどのような姿勢制御戦略で姿勢を保持できたかを評価する.

 対象と方法:50人の片麻痺患者(年齢42~89歳)に対し,発症より7日後,120日後,360日後にPCBSテストを施行し,得点分布の経時的変化について検討した.また19人の片麻痺患者(年齢55~85歳)に対して発症より7日後と60日後にテストを施行しVTRを撮影した.検者間信頼性は5人それぞれの評価結果を比較し,検者内信頼性は5人の検者がそれぞれVTRを見て繰り返し評価を行った.

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編集後記

著者: 高橋正明

ページ範囲:P.654 - P.654

 参考になるかと過去に書いた編集後記を探していたら,たまたま1998年6月付けの一文が目にとまった.書き出しはフランスでサッカーワールドカップが始まったことである.日本のサッカーが初めて世界の檜舞台に立った大会で,国全体が期待と興奮で沸き返っていた.ハッと思い2002年付けの編集後記を探したら,予想通り日韓共催のワールドカップまっただ中に書いたのがあった.日韓ともにワールドカップ一色で,対ロシア戦だったか,テレビ視聴率が60%以上に跳ね上がったと記憶しているが,どちらの時も,日本を覆う慢性的不景気を吹き飛ばして欲しいという庶民の強い願いが込められた興奮である,というようなことを書いた.そして今回,バンコクでの無観客試合に勝ち,世界に先駆けて明年のドイツ本戦行きを決定した興奮の中でこれを書いている.長かった不景気もようやく堅調な回復が感じられるようになり,社会全体の行け行けどんどんに後押しされて,来年は予想以上に勝ち進むようなそんな予感がする.

 ドーハの悲劇,ジョホーバルの歓喜,日韓共催,そして無観客試合.これからも機会あるごとに放映されて記憶が強化されることは間違いない.時を経て,この歴史とダブって思い出されるのが日本の社会的基盤をドラスティックに変革した公的介護保険の誕生であろう.両者はそれほどまでに時期が重なっているのである.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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