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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル39巻9号

2005年09月発行

雑誌目次

特集 心臓外科治療の進歩と理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.749 - P.749

 近年の心臓外科手術の進歩は目を見張るものがあり,手術の低侵襲化がますます進んでいる.一方で,各種new deviceや薬剤溶出性ステントの登場により,循環器内科治療も大きく進歩してきている.はたして心臓外科手術後の理学療法はどうであろうか?理学療法も当然その時代ごと治療技術の進歩にあわせて変遷を遂げるべきものである.

 本特集では現在の心臓外科手術後の理学療法において特に重要と思われる高齢者や身体機能障害者,重症心不全症例,移植例の各問題の現状をご説明いただきながら,今後の心臓リハビリテーションのあるべき方向性をまとめていただいた.

心臓血管外科治療の進歩と心臓リハビリテーション

著者: 金子達夫 ,   高橋哲也

ページ範囲:P.751 - P.760

低侵襲化手術や新しい機器の開発により,心臓外科治療は著しい進歩を遂げている.本稿では心臓外科治療の現状を概観し,患者の高齢化や早期離床を考慮した手術後のリハビリテーション(以下,リハビリ),理学療法のあり方を考える.

冠状動脈バイパス術(CABG)

 1.CABG

 狭心症や心筋梗塞などの虚血性疾患に対するバイパス手術は,1968年から始められた.グラフト材料として当初は下肢の大伏在静脈(SVG)が多用された.しかし経年的にグラフトの劣化が観察され,10年後には約半数が閉塞を来し,壁の肥厚や狭窄が見られた.これに対して左内胸動脈(LITA)は,10年後も約80%が開存して良好な性状が報告された1).これにより動脈グラフトが多用されるようになったが,グラフト材料としては左右の内胸動脈(ITA),胃大網動脈(GEA),上肢の橈骨動脈(RA)しか利用できないため数と長さに制限がある.以前は大腿動脈およびその枝や下腹壁動脈などが用いられたこともあったが,開存性や採取などの点から現在ではほとんど用いられていない.

冠動脈インターベンション治療の進歩と包括的心臓リハビリテーション

著者: 横井宏佳

ページ範囲:P.761 - P.769

PTCAからPCIの歴史的変遷

 1977年スイスでGruntzigがヒト冠動脈(左前下行枝)のバルーンによる拡張に成功した後,経皮的バルーン冠動脈形成術(PTCA:percutaneous transluminal coronary angioplasty)は欧米で急速に広まり,1979年NHLBIに登録されたPTCA症例は約3,000例に達していた.本邦では4年後の1981年小倉,東京において初めてPTCAが施行された.初期の適応は安定狭心症,1枝疾患,近位部,求心性狭窄病変に限定していたが,冠動脈バイパス手術(CABG:coronary artery bypass graft surgery)に比し低侵襲なカテーテル治療により,重度の狭心症状が即座に改善できるという治療法としての魅力は,循環器内科医の情熱を駆り立て,器具の改良と共に著しい技術の進歩をもたらし,1980年後半には急性心筋梗塞,不安定狭心症,多枝疾患,びまん性,完全閉塞などの複雑病変にまで適応は拡大されていった.

 しかし,その一方で5%に生じる急性冠閉塞,30~40%に生じる慢性期再狭窄,50%に存在するPTCA拡張不良病変はPTCAのアキレス腱であり,その安全性を大きく阻害し,低侵襲なカテーテル治療の社会的認知を阻んでいた.1990年代に入り,これらの問題点を解決するべく方向性冠動脈粥腫切除術(DCA:directional coronary atherectomy),レーザー,ロータブレーター,ステントなどのニューデバイスが開発され,臨床評価が開始された.バルーンを対象とした様々なニューデバイスのRCT(randomized controlled trial)が全世界で行われ,有効性と安全性が検討された.DCAは分岐部病変,ロータブレーターは石灰化病変に対してニッチ的役割が証明されたが,バルーンの問題点の多くを解決したのは冠動脈ステントであった.急性冠閉塞はステントの導入により1%未満に低下し,カテーテル治療の院内予後は劇的に改善した.慢性期再狭窄は特定の病変では20%以下に低下し,ガイドワイヤさえ通過できれば,ステントを使用することでほぼ全例に十分な病変の拡張が得られるようになった.このように経皮的冠動脈形成術はPTCA以外にも多くの術式が開発され,現在では冠動脈インターベンション(PCI)と呼ばれており,虚血性心疾患治療の中心的役割を担うことになっていった.

高齢者や身体機能障害者に対する心臓外科手術と理学療法

著者: 渡辺敏

ページ範囲:P.771 - P.776

はじめに

 1980年代に心臓リハビリテーションにおける理学療法が開始された当初の目的の1つは,急性期の安静治療からの離脱であり,急性期プログラムを実施する上で体力予備能の低い高齢者や女性を中心に歩行障害がみられていた1).1990年代には理学療法実施において早期離床が確立し,手術後1~2日での離床を確保することで安静臥床による歩行障害を生じる症例は激減した.それに伴い,心臓外科手術後における理学療法の目的は,行動許容範囲の拡大や有酸素運動が主体となった.

 また,近年OPCAB(off-pump coronary artery bypass)やMIDCAB(minimally invasive direct coronary artery bypass)など低侵襲手術の進歩により,早期に理学療法が開始され短期間で退院すること,手術適応範囲が広がり超高齢者や低体力者も手術治療の対象になったことが大きな変化である.このような経過の中で,急性期プログラムは手術後の合併症(臥床・肺炎・非活動など)によって規定されることよりも,術前機能(年齢・嚥下機能・筋力など)や既往歴(脳血管障害・整形外科疾患など)によるlimiting factorが理学療法実施上の問題点となる症例が増えている.このような症例に対する理学療法の目的は歩行能力の改善など基本的ADL(activity of daily living)能力の獲得が主体となる.つまり高齢社会と低侵襲手術をキーワードとした心臓外科手術後理学療法の目的は,行動許容範囲の拡大や有酸素運動が主体になる症例と,基本的ADL能力の獲得が主体となる症例に2極化している.また低侵襲手術によって急性期の入院期間が短縮したことで,2極化した両者とも有酸素運動などによる運動耐容能改善や2次予防および運動の習慣づけ,QOL(quality of life)維持向上などの理学療法は,回復期の外来プログラムに依存する結果となり,その重要性も増している.

重症心不全に対する外科治療と理学療法―左室補助人工心臓(LVAS)の進歩と理学療法

著者: 櫻田弘治

ページ範囲:P.777 - P.783

左室補助人工心臓の現状

 心不全に対して,一次的に心臓のポンプ機能を補助し,心臓のポンプ失調の回復を待つ方法を循環補助という.循環補助の第一選択は薬物療法であるが,内科的治療が無効な末期重症心不全に対しては,機械的補助循環(assisted circulation)や心臓移植が必要となる(表1).

 これまで補助人工心臓(ventrisular assist system:VAS)は,主に心移植までのつなぎ(bridge to transplantation)1)として使用されることが多く,欧米においては心臓移植症例の約20~30%がこのbridge to transplant症例であったと報告されている2,3).近年これに加え,積極的な自己心機能の回復を目指した使用(bridge to recovery)や永久使用(destination therapy)を目指した左室補助人工心臓(LVAS)の臨床使用が行われるようになってきた.特に心移植の適応にならない末期重症心不全患者に対する内科的治療とLVAS治療との比較を行った結果,LVAS destination治療の有効性が示唆され,今後この永久使用を目的とした使用が増加してくることが予想される.米国心臓肺および血液研究所(NHLBI)の委員会による検討では,米国内の年間2.5~6万人が補助人工心臓を,また1~2万人が全置換型人工心臓を必要としていると報告している.日本臨床補助人工心臓研究会の調査では,2001年10月までに種々のシステムにより504例の適応例があった.

日本における心臓移植の現状と理学療法―米国における実際とアウトカムも含めて

著者: 松尾善美 ,   ,   ,   福嶌教偉

ページ範囲:P.785 - P.793

心臓移植は,不治の末期的状態にある方に脳死者からのドナー心を胸郭内に埋め込むため,一生薬物療法が必要となるが,その心臓によって救命,延命を図るのみならず社会復帰をも目指す治療法である.本稿では,日本における心臓移植手術の現状と移植後の理学療法について,移植先進国の米国における理学療法の実際とアウトカムを含めて詳述する.

これまでの心臓移植

 1997年10月16日に「臓器移植法」が施行され,1999年2月に脳死ドナーによる心臓移植第1例が実施され,日本でも脳死での臓器提供による移植が可能になった.南アフリカで世界最初の心臓移植が行われてから約30年,アメリカではすでに年間4,500件の臓器提供が行われており,他の先進国でも一般の医療として定着している1).最近ではアジア各国でも多くの心臓移植が行われるようになり,2000年9月までに台湾で354件,韓国170件,タイで158件の心臓移植が行われている2)

とびら

何を大切と考えるか

著者: 今泉寛

ページ範囲:P.747 - P.747

〈歓びの日々〉


弱視難聴ケロイドの頬


他人と違う自分を知ったのは

いくつぐらいの頃だったろうか


泪をかくしイジメの中で過ごした日々

けれど

母姉恩師の心に支えられ励まされ

自分のままで生きる勇気を授かった


さらに

不慮の事故妻子の旅立ち・・・

たび重なる試練に力を与えられ

生きる希望と歓びを授かった


そして今

師友妻多くの仲間たち

診療教育音楽詩歌・・・

かけがえのない喜びと命を戴きながら


私は生きている!生かされている!

かぁさんありがとう

皆さんありがとう

素晴らしい人生よありがとう

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

ティネル徴候

著者: 赤坂清和

ページ範囲:P.795 - P.795

ティネル徴候は世界中の整形外科医,神経内科医,神経外科医,理学療法士,作業療法士に大変広く知られており,損傷された神経の軸索再生をtingling(チクチクする痛み,またはビリビリ感)またはpins and needle(ビリビリ感)感覚により,その局在を明らかにすることができる有効な徴候である.この検査では,傷害または圧迫された神経を打診した直後に局所的なビリビリ感が生じる場合にのみ陽性と判断され,持続的にビリビリ感が存在する場合などには判定に注意を要する.一般にドイツ語圏では,ドイツ人の生理学者Paul Hoffmannとフランス人の神経外科医であるJules Tinelが第一次世界大戦中の同時期(Hoffmannが1915年3月,Tinelが1915年10月)に同様の観察を報告したことから,ホフマン・ティネル徴候と呼ばれている.ただし,神経学の領域で,TinelのほうがHoffmannよりも有名で認知されていたという説や,1972年にTinelの論文がEmanuel Kaplanにより英訳され広く認識されたという理由により,英語圏ではティネル徴候という呼称が一般的なようである.Hoffmannは,1961年にZurich大学およびBerlin大学のそれぞれより名誉博士の称号を授与され,“ドイツの現代神経生理学の創始者”として知られており,特に筋の活動電位と電気生理学的反射の研究を行い,H反射を明らかにしたことで有名である.

 ティネル徴候の原理は,末梢神経の知覚線維が再生するときに,軸索再生が髄鞘再生に先行することから,再生部では無髄の部分が形成されて再生神経が伸びる.この部分は機械的刺激に特に敏感で,軽い打診により知覚神経支配領域に放散痛を再現できることによる.打診が強過ぎる場合や広い部分を打診している場合には,この検査の精度が低下する可能性がある.このティネル徴候により,回復過程にある末梢神経の再生部位を明らかにするとともにその予後が良好なことと,神経が正しい筋に到達できないことによる過誤神経支配の可能性などを明らかにする場合がある.またティネル徴候が長期に陰性の場合は,圧迫や傷害などにより機能低下を生じた末梢神経の機能再生の可能性が低く,予後が不良であることを示している.

学会印象記

―第42回日本リハビリテーション医学会―リハビリテーション医療への期待に応えるために

著者: 松尾善美

ページ範囲:P.796 - P.797

米国ボストンで開催された米国理学療法学会(PT2005)にて発表し,ボストン近郊の病院における心不全運動療法プログラムと,クリントン前大統領が手術を受けたニューヨーク・コロンビア大学医療センター胸部外科の理学療法部門を見学して帰国した翌日,私は金沢駅前に立っていた.日本リハビリテーション医学会員として,初めての学会参加である.米国理学療法学会では,Genomics in PT:Clinical Application, Future Promises and Ethical Considerationsといった3時間のフォーラムが開催され,遺伝子も視野に入れた次の時代における基礎科学に基づいた理学療法の進歩を予感させた.日本リハビリテーション医学会学術集会で,日本のリハビリテーション医学関係者がどのような先進的課題を有しているのかに私の興味は注がれた.

大会テーマと主要プログラム

 第42回日本リハビリテーション医学会学術集会は,石川県金沢市にて2005年6月16日~18日に開催され,そのメインテーマは「リハビリテーション医学の専門性の追及と連携」であり,会長は,立野勝彦先生(金沢大学大学院医学系研究科リハビリテーション科学領域)であった.一般演題の応募数は820であり,盛会であることが窺われた.主会員であるリハビリテーション医学専門医を中心に活発な討論が各会場でなされていた.もちろん理学療法士の姿も散見された.会長講演「リハビリテーション医学の専門性―変遷と障害評価および研究課題―」では,金沢大学医学部附属病院において,20年間で3倍に患者数が増加し,その中で内部疾患の増加が顕著であることを報告された.特に,周術期の呼吸障害,糖尿病,廃用症候群,摂食・嚥下に対するリハビリテーション(以下,リハ)依頼の増加傾向が見られ,疾病構造の変化に対応すべきリハ医療の変化が見られると同時に,リハ治療の専門性およびその効果が問われてきていると述べられた.さらに,リハ治療におけるエビデンスについては,非特異的効果を除いたリハ治療の特異的効果を示すべきであると力説された.この講演は,理学療法士にとっても重要な提言であった.

入門講座 ICFに基づく評価と記録・1

ICFの背景と特性,その意義―「障害」の共通理解のために

著者: 長野聖

ページ範囲:P.799 - P.805

はじめに

 2001年5月に世界保健機関(WHO)が,国際生活機能分類(ICF:International Classification of Functioning, Disability and Health)を発表して4年余りが経過した.この間,様々な機関の働きかけにより,理学療法士をはじめとするリハビリテーションに携わる専門職のみならず,保健・医療・福祉に寄与する多くの専門職の間にもICFの考え方は確実に広まっているものと思われる.

 言うまでもなくICFは,1980年から続いた障害の分類法である国際障害分類(ICIDH:International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps)と異なり,「生活機能(functioning)」という新たな視点で対象者を捉えるという画期的な考え方である.しかし,ICFは副題で「国際障害分類改訂版」とされているように,生活機能という視点だけではなく,機能障害,活動制限,参加制約に表される「障害」の分類法でもある.そういった意味で,障害の構造を理解するうえでICFはICIDHから続く連続性のあるモデルであると言えるが,専門職の間で障害の共通理解はどの程度得られているのであろうか.保健・医療・福祉をめぐる今後の様々な制度改革の中で,「障害」は重要なキーワードの1つであり,障害を再考し,専門職種間で共通の概念を持つことが不可欠であると思われる.

 本稿ではICFがどのように用いられ,その結果いかなる課題があるのかについて述べることにより,リハビリテーションに携わる理学療法士が正しくICFを理解し,ICFの考え方を他職種に伝え,これからのチームケアの構築に資するものとする.

講座 病態運動学―変形・拘縮とADL・6

小児疾患における変形・拘縮と歩行

著者: 中林美代子 ,   佐藤理美

ページ範囲:P.809 - P.816

小児の理学療法分野においては,近年対象となる疾患が多岐にわたり,その障害程度が重度・重複化する一方で,骨関節系疾患や神経系疾患といわれる肢体不自由児も決して少なくはない.これらの発達障害児は,先天的にあるいはその成長過程において,変形・拘縮を伴うことが多い.理学療法を展開していく際には,疾患の特性をふまえたうえでの療育・介入が必要となる.そこで本稿では,症例を通してそれぞれの疾患に伴う変形・拘縮の歩行への影響とその対策についても述べる.なお,側彎については第4回の講座で述べられており,ここでは割愛させていただく.

骨系統疾患

 骨系統疾患は全身の複数の骨関節に先天的または後天的に顕著な病変を示す疾患群で,多様性を有している.成長に応じて障害形態が変化することも多い.ここでは,代表的な疾患として骨形成不全症と,先天性多発性関節拘縮症について述べる.

初めての学会発表

一生忘れられない2005年5月

著者: 手塚純一

ページ範囲:P.818 - P.819

「おめでと~!!」学会発表を1週間後に控えた土曜の昼下がり,周りのみんなの歓声に包まれて私は横浜の船の上にいました.純白のドレスに身を包んだ新婦の隣に.

 2005年5月26日(木)~28日(土)の3日間に渡り,第40回日本理学療法学術大会が大阪国際会議場(グランキューブ大阪)で開催されました.記念すべき第40回大会であり,1週間前に結婚式を挙げ,大忙しで準備をして臨床4年目で初めて学会発表をした私にとって,一生の想い出に残る5月となりました.

雑誌レビュー

“Physiotherapy”(2004年度版)まとめ

著者: 猪股高志 ,   西田裕介 ,   解良武士 ,   中山智宏 ,   上村さと美 ,   武井圭一 ,   平野隆司 ,   春日井敦久 ,   増渕和宏

ページ範囲:P.820 - P.826

Physiotherapyは英国の学術雑誌であるが,2004年度で90巻という歴史のある雑誌で,日本でも比較的多く読まれている.この第90巻から年4回の発行となった.90巻には論文29件,論説5件,ブックレビュー14件,ビデオレビュー1件,抄録4件,雑記4件などとなっており,発刊回数の減少に伴い論文,論説,レビューともに大幅に減少しているが,その分論文のさらなる質的向上に期待したい.論文の分野を日本理学療法士協会の専門領域に従い基礎系,神経系,骨・関節系,内部障害系,生活環境支援系,物理療法,教育管理系に分類し,分類困難なものはその他とした.研究デザインについては明記されているもの以外はその内容から判断した1).それぞれの分野から,日本ではあまり見られないという観点から筆者らの興味を引いた論文を紹介したい.

基礎系

 ○ハムストリングスの柔軟性に対するPNFパターンの要素を用いた自己ストレッチとセラピストが行うPNFテクニックの比較

 Schuback B, et al:A comparison of a self-stretch incorporating proprioceptive neuromuscular facilitation components and a therapist-applied PNF-technique on hamstring flexibility.(3):151-157

( )内の数字は号数

 研究デザイン:群ランダム化比較試験

 ハムストリングスの柔軟性はスポーツ分野において,障害の予防や筋・姿勢の不均衡改善,関節可動域の維持,パフォーマンスの向上に大きく関与する.本研究では,ハムストリングスの柔軟性に対する効果をPNFパターンの要素を用いた自己ストレッチと,セラピストが行うPNFテクニックで比較した.対象は20~55歳の健常成人40名で,コントロール群14名,自己ストレッチ群(Ⅰ群)12名,PNF施行群(Ⅱ群)14名の3群に無作為に分けた.自己ストレッチは,下肢伸展挙上テスト(SLR)の最終域で保持し大腿後面で両手を組み,足関節底屈,伸展―外転―内旋パターンに抵抗を加え筋収縮を行わせた.15秒間筋収縮,15秒間リラクゼーションのプログラムを4回実施した.Ⅱ群は,伸展―外転―内旋パターンとその拮抗パターンである屈曲―内転―外旋パターンを用いてSlow Reversal,Hold-Relax手技を実施した.適用方法はⅠ群と同様で,いずれも右股関節で実施した.主な測定項目は,実施前後の股関節SLRの角度である.その結果,実施前後において,Ⅰ群では9.6°の改善が認められ,Ⅱ群では12.6°の改善が認められた.Ⅰ群,Ⅱ群ともにコントロール群と比較し有意な改善があったものの,Ⅰ群とⅡ群との間には有意差は認められず,いずれの手技も臨床的に有効な関節可動域の増大が確認された.これらより,PNF要素を含んだストレッチ方法を対象者に指導することで,自己ストレッチでもセラピストのPNFテクニックと同様の効果を得られる,と述べている.

資料 第40回理学療法士・作業療法士国家試験問題(2005年3月6日実施)

模範解答と解説・Ⅲ 理学療法(3)

著者: 伊藤俊一 ,   柏木学 ,   久保田健太 ,   隈元庸夫 ,   佐藤公博 ,   信太雅洋 ,   高倉千春 ,   高橋尚明 ,   田中昌史 ,   田邉芳恵 ,   富永尋美 ,   蛭間基夫 ,   福田修 ,   村上亨

ページ範囲:P.827 - P.833

文献抄録

肺移植後患者における人生の質と運動能力

著者: 佐々木誠

ページ範囲:P.834 - P.834

背景:肺移植後患者の人生の質(以下,QOL)は,一般の人と同様であると報告されている.しかし,先行研究では運動能力が正常値の30~40%に減少していることが明らかにされている.本研究の目的は,肺移植後患者においてQOLがよいとする自己報告と運動能力の減少との解離について検討し,説明し得る関連を明らかにし,その結果を対照群と比較することである.

 方法:両側肺移植後208±67日経過した患者(以下,LTX群)27名(男性16名,女性11名;年齢46±10歳,BMI 24±3kg/m2,FEV1%75±27%)と対照群30名(男性17名,女性13名;年齢47±15歳,BMI 26±4kg/m2,FEV1%103±15%)を対象に,心肺運動負荷試験を実施した.また,ドイツの標準化された「慢性疾患のためのQOLプロフィール」自己段階づけ質問票を聴取した.

リハビリテーション病棟の高齢者の活動水準に関する観察調査

著者: 進藤伸一

ページ範囲:P.834 - P.834

目的:リハビリテーション病棟に入院している高齢者の活動水準を明らかにするために,本調査を実施した.

 対象:本調査に協力したのは6名の入院患者で,①認知症(痴呆)がなくインフォームドコンセントが取れ,②PT,OTのいずれかの治療を受けており,③自立して移動が可能(歩行補助具の使用は問わない)な患者である.平均年齢は80歳であった.

車いす操作の技能:片麻痺者と模擬片麻痺者間での比較

著者: 石間伏彩

ページ範囲:P.835 - P.835

目的:本研究の目的は模擬片麻痺者と片麻痺者では,車いす操作の技能において困難さは同様であるという仮説をたて検証することである.

 対象:リハビリテーション病院内の運動科学研究所にて,片麻痺者20名(平均年齢68歳)と模擬片麻痺者20名(平均年齢67歳)を対象に行った.

脳卒中慢性期患者の歩行に関する運動機能および関節位置感覚について

著者: 堤美恵

ページ範囲:P.835 - P.835

目的:運動・感覚障害によって起こる歩行能力の低下は脳卒中患者の日常生活に大きく影響する.経験的に,感覚障害を有する患者は歩行能力の改善が遅く,十分に運動機能を発揮できない傾向がある.本研究の目的は脳卒中慢性期患者の歩行における下肢の運動機能,関節位置覚の影響について検討することである.

 対象:歩行を主として在宅生活をしている発症から6か月以上経過した21人の脳卒中慢性期患者(右片麻痺8名左片麻痺13名,平均65.2±9.1歳)で,歩行補助用具の有無に関係なく少なくとも10m以上歩行可能で,他の合併疾患がないものとした.

書評

―中村惠子監修・山本康稔,佐々木 良 著―「もっと! らくらく動作介助マニュアル 寝返りからトランスファーまで[DVD付]」

著者: 中俣修

ページ範囲:P.770 - P.770

 不適切な動作介助の方法は,腰痛の原因の1つとされる.そのため医療従事者は,よりよい介助方法を行い自身の身を守ることが必要である.本書は,介助者の腰痛を予防し被介助者にも安全でやさしい動作介助の方法を紹介した『腰痛を防ぐらくらく動作介助マニュアル』(2002年,医学書院)に,その後の実践と工夫の成果が加えられ全面的にリニューアルされたものである.その内容は,「動作介助の意義と原則」「トランスファーの分類」「トランスファーの基礎」「下肢の支持性があるタイプへのトランスファー」「下肢の支持性がないタイプへのトランスファー」「寝返り」「起き上がり」「立ち上がり」「エビデンスへの取り組み」「まとめ」の10章で構成されている.

 前書と比較した本書の特徴としては,①介助者の腰痛の原因の1つとされるトランスファーの介助技術がより重視され,汎用性の高い介助方法が厳選され紹介されている,②付録DVDの映像および説明が充実し,介助技術の実際がより分かりやすくなっている,③本介助技術における介助者および被介助者の動きの特性を科学的に検証している,以上の3点が挙げられる.

―嶋田智明,平田総一郎 監訳―「筋骨格系のキネシオロジー」

著者: 石川斉

ページ範囲:P.806 - P.806

 Neumann D. A. のKinesiology of the Musculoskeletal Systemがこのたび医歯薬出版社から「筋骨格系のキネシオロジー」として訳著が出された.この種の教科書はリハビリテーションに関わる医師,理学療法士・作業療法士にとって長年の夢であったが,なかなか適切な教科書が世に出なかった.2002年にMosbyから出版された本著は筋骨格系解剖学,神経筋生理学,バイオメカニクスの3つの観点から書かれている.また,運動学的概念を理解するために650以上にのぼるイラストを挿入しており読者にとっては大変ありがたいことである.しかもこれらのイラストはD. NeumannとE. Rowanのオリジナルであり運動学を理解するのに極めて有意義なものと高く評価される.この著を和訳し日本での医学教育やリハビリテーションに関係する人々に少しでも貢献しようと考えられた監訳者の嶋田教授および平田助教授に敬意を表したい.和訳は原本に忠実になされている.各章の訳者は異なっているが訳者のほとんどが神戸大学における理学療法専攻の教員であるためか文章はそのトーンや訳しかたが一致していて読みやすい.

 第1章では運動学とは何かについて,「転がり,滑り,軸回旋」の基本関節運動や,運動力学ではニュートンやトルクの意義を述べている.第3章における筋の生理学の解説では図が理解を深めさせてくれる.第4章の生体力学の記述は過去の類書よりもはるかに理解しやすいように記述されている.そして何よりも本書の特徴は第5章以降の記載である.すなわち,各筋の機能はもとより関節との相互作用を分かりやすく記載するとともに,筋の代償作用を詳述しているところにある.始めにも述べたが,本書は図がわかりやすく描かれているので理解しやすい.私は今まで大学の講義でトリックモーションや代償作用について学生に熱心に教えてきたが,このような作用を詳述した適当な教科書がなかったのを残念に思っていた1人である.この書を利用することによって運動学の知識が広まりリハビリテーションに関係する医療従事者さらには整形外科医や医学生が恩恵を受けることは間違いない.和訳していただいた諸氏に敬意を表すると共に,この書が多くの人々に愛読されることを希望している.

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編集後記

著者: 高橋哲也

ページ範囲:P.838 - P.838

 日本では年間5万人以上の方が心臓外科手術を受け,その数は右肩上がりに増え続けています.また,早期リハビリテーション加算の対象が,開胸手術後の患者にも拡大されたこともあり,理学療法士が心臓外科手術後に理学療法を行えるチャンスが増えました.「心臓」というと,ひるんでしまう理学療法士も多いことと思いますが,社会が後押しをし理学療法士に期待しています.

 まず金子論文では,心臓外科手術の進歩について詳細に説明していただきました.各手術の歴史的な変遷から最新の手術まで,図を多く取り入れながら概説いただき,大変わかりやすい論文となりました.金子氏が普段から実践している流行に左右されない患者のQOLを考えた丁寧な手術が垣間みえます.横井論文では,米国では心臓外科医が少なくなったとまでいわしめる冠動脈インターベンション治療の進歩について大規模研究を踏まえて詳しく説明していただきました.また,冠動脈インターベンションにおいて日本のリーディングホスピタルである小倉記念病院での心臓リハビリテーション導入プロセスについても紹介いただき,いわゆる「カテ屋」と揶揄される循環器内科医師とともに働く理学療法士にとっては強い支えになる必読の論文です.渡辺論文では,現在臨床でもっとも問題となっている高齢者や身体機能障害者に対する心臓外科手術後の理学療法について紹介いただきました.理学療法を行ううえでの実施上の注意点について,各種検査結果の値が意味することや早期離床の効果のメカニズムも紹介いただき,実に臨床的な力作と感じています.また,櫻田論文では重症心不全に対する左室補助人工心臓(LVAS)について,松尾論文では心臓移植について,具体的な症例を取り上げたり,症例の特徴を詳細にお示しいただきました.日本ではドナー不足の問題があり,今すぐ移植患者が増えることはないと思いますが,その現状について知っておくことは今後の理学療法にとって重要だと思われます.また,その一方で積極的な自己心機能の回復を目指したLVASの使用が増加していることから,櫻田氏の12症例の経験から導かれた論文は大変実践的な内容になっています.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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