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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル40巻10号

2006年10月発行

雑誌目次

特集 理学療法における運動療法と装具療法の融合

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.807 - P.807

 理学療法の対象者では,種々の目的で義肢・装具が用いられています.理学療法介入において運動療法と装具療法は別々に行われるものではなく,総体としての効果が最大となるような理学療法プログラムを構築する必要があります.本特集では,理学療法における運動療法と装具療法との融合を図るために,単体としての義肢・装具機能の知識や技術にとどまらず,その適用と理学療法プログラムの総体について整理し臨床実践に資することを狙いとしました.

理学療法士に求められる義肢・装具の知識と技術・1―装具療法

著者: 賀好宏明 ,   大峯三郎 ,   舌間秀雄 ,   木村美子 ,   中元洋子 ,   吉本奈美 ,   蜂須賀研二

ページ範囲:P.809 - P.813

はじめに

 様々な障害を持つ人々を対象とする理学療法において,義肢・装具は,有効な治療手段の1つとして,あるいは機能や能力障害を補完するための重要なツールとして位置づけられている.これは,早期からの運動療法に併せて義肢・装具を用いることで,理学療法治療の重要な課題である「歩行能力の獲得」を達成する可能性が拡がることを期待しているためであろう.

 昨今のリハビリテーション(以下,リハビリ)医療現場において,対象となる障害者の高齢化,重度化などの医学的問題に加えて,平均在院日数の短縮やリハビリ実施期間の限定にみられる診療報酬上の制約などを背景として,急性期医療への特化,加速的かつ多面的アプローチの必要性,早期リハビリの実施などが益々強調されている.このような視点からも,理学療法の根幹をなす運動療法において,義肢・装具を積極的に取り入れて行くことは極めて重要であり,理学療法士(以下,PT)としていかに効果的,効率的にこれらを導入し,活用していくべきかを考慮することが必要となってくる.

 リハビリ医療におけるPTは,その専門性を活かした治療プログラムの提供と実践を主体とする専門職であり,義肢・装具の領域もPTの守備範囲である.臨床で義肢・装具の専門的な知識・技術を駆使して運動療法との融合を図り,目的とする治療効果を得るためには,他職種とのコラボレーションによるチーム・アプローチも当然求められる.

 本稿では,装具を導入して運動療法を進めていく上で,PTに必要となる知識や技術について私見を交えて論じる.なお,論文構成にあたり,装具と義肢の2部に分けて分担執筆の形式を採った.本稿では装具療法について述べる.義肢については本誌p815~821を参照いただきたい.

理学療法士に求められる義肢・装具の知識と技術・2―義肢

著者: 大峯三郎 ,   賀好宏明 ,   舌間秀雄 ,   木村美子 ,   中元洋子 ,   吉本奈美 ,   蜂須賀研二

ページ範囲:P.815 - P.821

はじめに

 本稿では,運動療法を効果的に行う上で必要な義肢の知識と技術について述べる.なお,装具療法については本誌p809~813を参照いただきたい.

脳卒中片麻痺の治療を目的とした装具使用の実際

著者: 宮嶋武

ページ範囲:P.823 - P.830

はじめに

 「脳卒中治療ガイドライン2004」は,急性期の廃用症候群防止や,早期から起座・起立・歩行を含む積極的なリハビリテーションの施行が重要であることを提示し,特に歩行に関しては早期から装具を用いて行うことも推奨した1).脳血管障害(以下,脳卒中)患者の早期リハビリテーションが普及することによって,装具の使用法や使用時期,あるいは考え方も図1に示すように徐々に変容している.急性期の脳損傷患者に対して早期起立・歩行を行う概念がなかった時代は,歩行獲得が円滑に進行しない患者に対し,最終段階で個人用の装具を作成して用いる傾向が強かった.しかし,早期起立・歩行の適応が可能であることが判明してからは,起立・歩行などの動作の早期獲得の手段として,急性期からも装具が用いられるようになった.特に重度意識障害や重度麻痺を伴う患者は,早期起立・歩行練習時において装具は必需品となっている.その一方で,廃用症候群に関する知識不足や装具使用に関する誤った概念,あるいは早期からの起立・歩行の経験不足などが原因で,治療手段として装具を用いる早期起立・歩行練習の実施をためらう傾向も生じている.当院においては,15年以上前から練習用装具を用いた早期起立・歩行に取り組み,急性期からの治療を目的とした装具の検討を行っている2,3)

 本稿では,脳卒中患者の装具適用に関して,装具に関する誤った概念を是正するとともに,当院で使用している長下肢装具(以下,KAFO)や短下肢装具(以下,AFO)の使用方法・時期について,また廃用症候群予防の重要性についても述べる.

骨関節疾患の治療を目的とした装具使用の実際

著者: 髙橋雅人

ページ範囲:P.831 - P.836

はじめに

 骨関節疾患の理学療法では,下肢の骨折や術後の安静度を例にとっても,ベッド上安静から車いす移乗が可能になり,両松葉杖歩行で徐々に荷重量を増し,片松葉杖,T字杖へと歩行補助具を変化させ,独歩を許可していくように,その治癒過程に沿って最も有効な対応が求められる.装具療法においても,脳卒中片麻痺における主としてADLを向上する目的とは異なり,局所の固定・安静,治癒の促進など狭義の治療的意味合いが強い.すなわち,骨関節疾患に用いる装具は,疾病の症状や治癒過程に合わせて,最も効果的な理学療法の展開のために,目的,形状,使用環境などを,刻々と変化させていく必要があるものである.

 本稿では,整形外科疾患において比較的多く用いられる体幹装具,骨折用装具,拘縮の装具について,病態や理学療法の展開との関係について述べる.

小児領域の療育における装具使用の実際

著者: 彦田龍兵

ページ範囲:P.837 - P.843

 小児に対する理学療法の内容とともに,装具療法は,疾患や年齢層によって様々である.本稿では中枢神経疾患,特に脳性麻痺を有する子ども(以下,脳性麻痺児)を中心に,運動療法と装具療法との補完しあう関係について事例を含めて私見を述べる.

 脳性麻痺については過去に学校の授業や講習会,文献などによって知識を得た人は多いと考えるが,実際の臨床像は変化してきている印象をもつ.例えば,現在では療育現場で全身が過緊張を示す強直性の四肢麻痺をもつ子どもに接する機会はほとんどない.周産期医療が発展し,重篤な脳病変への移行を回避できる可能性が拡大したことも要因といえる.その一方で,広範囲の脳病変に起因した,重度の機能障害を有する子どもに出会う.全身が低緊張状態で活動性の低い重度の四肢麻痺で,親子関係が構築しにくいだろうと想像される子どももいる.また,アテトーゼ型脳性麻痺をもつ子どもも少なくなっている印象をもつ一方で,満期産で原因が特定できないが,アテトーゼ症状を認める事例もある.このように,以前に学んだ知識や技術だけでは,1人ひとりの状態やニーズに応じた理学療法を提供することが困難になっているのではないかと危惧している.理学療法を実施する際に,知識の基盤となる子どもの成熟過程や正常発達過程,解剖・生理・運動学などを詳細に考察し応用しているが,未だ「正常」の範疇も曖昧であり,発育発達の中で不確定な要素をかかえつつ,予後予測に時間を必要とすることもある.

傷害予防を目的とした装具使用の実際―スポーツ傷害に対する再発予防用装具と理学療法

著者: 川島敏生 ,   栗山節郎

ページ範囲:P.845 - P.851

はじめに

 近年,スポーツ傷害用装具は膝・足関節を中心に,アメリカを主体として数多く開発・販売されている.スポーツ傷害(外傷・障害)に対する理学療法においても,装具は重要な役割を担っているが,その効果や有効性について十分な客観的検証がされているとはいえない.しかし,臨床では装具の使用により安定感や安心感,疼痛の軽減など,患者の主観的改善を得られることも多い.本稿では,代表的なスポーツ傷害に対する再発予防を目的とした装具と理学療法について解説する.

とびら

海外研修

著者: 羽原史恭

ページ範囲:P.805 - P.805

 皆さんは,社会福祉法人施設の職員に対して,海外研修を支援する制度があるのをご存知だろうか? 「財団法人中央競馬馬主社会福祉財団」の助成事業もその1つで,「民間社会福祉施設等に勤務する職員が,外国の施設における実習を通じて施設サービスの専門的な知識,技能を習得し,もってわが国の社会福祉施設サービスの向上に資する者に助成金を交付する」ことを目的とし,昭和45年から海外に研修生を派遣している.今回,私は幸運にもその選考試験に合格することができ,約3か月の海外研修を受ける機会を得た.

 海外研修プログラムは10日間の合同研修から始まり,その後は各個人の目標に沿った個別研修を行うことができる.個別研修では,Chailey Heritage Clinical Services(以下,Chailey)をはじめとして,イギリス国内で考案されている様々な「姿勢ケア」プログラムについて学ぶことにした.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

回復期リハビリテーション病棟

著者: 小泉幸毅

ページ範囲:P.853 - P.853

回復期リハビリテーション病棟の定義

 回復期リハビリテーション病棟は,2000年の診療報酬改定において特定入院料の中で「回復期リハビリテーション病棟入院料」として新設された.そして,2006年の改定では,「回復期リハビリテーション病棟は,脳血管疾患又は大腿骨頸部骨折などの患者に対して,ADL能力の向上による寝たきりの防止と家庭復帰を目的としたリハビリテーションプログラムを医師,看護師,理学療法士,言語聴覚士,社会福祉士等が共同して作成し,これに基づくリハビリテーション(以下,リハ)を集中的に行なうための病棟であり,回復期リハを要する状態の患者が常時8割以上入院している病棟をいう」1)と規定されている.

回復期リハ病棟が制度化された経緯2)

 1995年に日本リハ病院・施設協会の「リハ医療のあり方(その1)」の中で,回復期のリハを目的とした新たな病棟(リハケアユニット)構想が提案された.それには,療養環境の改善,チームアプローチの充実,病棟規模(病床数),スタッフの専従配置などが示されており,回復期リハ病棟の原形とも言えよう.1996年の「リハ医療のあり方(その2)」では,リハケアユニット構想を進展させたリハ専門病床群構想が示された.1997年に日本リハ病院・施設協会によって,その構想を診療報酬の特定入院料の中に組み入れるよう厚生省(当時)に要望されたが,1998年の診療報酬改定では認められなかった.1999年には,日本リハ病院・施設協会と介護療養型医療施設連絡協議会(現:日本療養病床協会)が協同して,回復期リハ治療病棟として再び要望された.第4次医療法改正によって,急性期と慢性期の病床を区分する方向性が示されたことで,回復期のリハ医療の位置づけが検討課題になっていたことや,介護保険制度施行を控え回復期のリハ医療の充実が急務になった時期と重なり,2000年に「回復期リハ病棟入院料」として新設されるに至った.

学校探検隊

みかんの里にある学校

著者: 井上佳和 ,   今久保梨佳

ページ範囲:P.854 - P.855

学校紹介

 土佐リハビリテーションカレッジは高知龍馬空港から車で20分,全国的にブランド展開されている“山北みかん”の栽培が盛んな,高知県香南市香我美町山北にあります.学校周辺にはコンビニエンスストアなどといった気の利いた施設もなく,学生たちはみかんの木々に囲まれ,のんびりとした環境の中で4年間を過ごすことになります.高知県観光事業のキャッチフレーズの1つに“国民休暇県”というものがありますが,本校も山・川・海が近く,アウトドア・レジャーにもってこいの立地となっています.

 本校は4年制の理学療法士・作業療法士養成校として平成5年に第1期生が入学し,両学科合わせて現在までに10期・約600名の卒業生を送り出しています.開設当初,土佐リハビリテーション大学校であった校名は,平成8年より現在の土佐リハビリテーションカレッジに変更され,現在に至っています.運営主体である土佐リハ学院は,地元香南市の協力により設立された学校法人であり,学校運営は地域振興の一助にもなっています.

入門講座 ベッドサイドでの患者評価 4

整形外科疾患

著者: 永井聡

ページ範囲:P.857 - P.866

はじめに

 医療界ではEBMの重要性が連呼されている昨今,医療保険制度の改革や手術手技の進歩により,入院期間が短縮され,術後の経過にも大きな影響を与えている.理学療法の分野でも大きな変革期を迎えており,入院期間の短縮に伴い,術後理学療法プログラムは整形外科領域のどの疾患においても早期化,短期化されてきている.

 本連載は「ベッドサイドでの評価」がテーマであるが,現在,大学病院など手術例の比較的多い病院では,整形外科疾患の理学療法はベッドサイドで開始するのではなく,術後早期から理学療法室で運動療法を行っている施設が多く,入院期間も1か月未満となってきている.特に,本稿で紹介する変形性疾患に対する人工関節置換術は,まさにその象徴といえる疾患である.現在,全国的な傾向として,人工関節手術を施行する施設では,術後は数日後から1週間で歩行を開始し,従来の部分荷重歩行練習は行われなくなってきている.またそれに伴って水治療法の適応となるケースは減っており,ハバードタンク内運動やプール内歩行も行われなくなってきている.創部の回復より先に歩行が獲得されていることも珍しくはない.本稿では整形外科疾患に対し,ベッドサイドに限らず理学療法開始時の評価について新人向けにまとめる.

講座 理学療法と医療安全 1

医療安全対策活動と理学療法士の役割

著者: 佐藤志穂

ページ範囲:P.869 - P.874

はじめに

 “部門の壁を乗り越えて 意見かわせる 職場環境”は,「安全な医療を提供するための10の要点」のうちの1つである.これは,医療安全対策検討会議ヒューマンエラー部会が患者を含めた「人間中心の医療の推進」のために標語化したもので,医療機関における安全文化の確立,患者との協力関係,組織の取り組み,職員間の協力,人・もの・環境の関係のあり方について述べられている.厚生労働省では,2000年の特定機能病院や医療関係団体に対する厚生労働大臣のメッセージ発信に始まり,様々な検討部会の報告を通して全国の医療機関に医療安全を啓発してきた.それから2年後の2002年の診療報酬改定では,医療安全管理体制を整備していない医療機関には減算が定められ,各施設において医療安全活動の実効性を高めることが義務化された.

 本稿では,講座「理学療法と医療安全」の第1回として,厚生労働省が示してきた指針の変遷と,臨床医療現場にいる私たち理学療法士に期待される役割について考察する.

症例報告

発症後20年以上経過した脳卒中片麻痺に対し理学療法を実施して効果が得られた1症例―治療的電気刺激と自転車エルゴメーターを用いた痙縮減弱の効果

著者: 泉川幸恵 ,   三村聡男 ,   小川真司 ,   小塚和豊 ,   𠮷田真一 ,   原行弘

ページ範囲:P.875 - P.879

はじめに

 一般的に,中枢神経疾患にみられる運動麻痺では,上位中枢の障害によって随意運動が不能になるだけでなく,上位中枢の抑制から解放された下位中枢の自動的な型にはまった姿勢や運動が出現する1)

 運動麻痺に対する理学療法は,通常,脳そのものの回復が6か月以内にほぼプラトーになると考えられていることから,慢性期では回復期に獲得した能力の維持を目的とすることが多い1)

 われわれは,脳梗塞発症後20年以上経過し,踵足歩行と内反・尖足歩行の2つのパターンを認める症例を経験した.今回,痙縮の減弱を目的として,治療的電気刺激(therapeutic electrical stimulation:以下,TES)と自転車エルゴメーター(以下,エルゴ)を用いた理学療法を実施し,有効であったので報告する.

資料

第41回理学療法士・作業療法士国家試験問題 模範解答と解説・Ⅳ 理学療法・作業療法共通問題(1)

著者: 金村尚彦 ,   川口浩太郎 ,   黒瀬智之 ,   関川清一 ,   藤村昌彦 ,   宮下浩二

ページ範囲:P.880 - P.885

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文献抄録

ページ範囲:P.886 - P.887

編集後記

著者: 内山靖

ページ範囲:P.892 - P.892

 現代社会にあっては種々の領域で専門分化が進み,システム全体の統合に対する取り組みと管理の重要性が指摘されています.保健・医療・福祉における多職種による様々な介入は,固有の対象者に独立的かつ総体としての帰結が問われます.たとえ,個々の介入が効果的であったと判定できても,全体としての効果が打ち消されてしまうようでは適切な方法とはいえません.

 医療・福祉領域における理学療法は,対象者中心・参加型のチーム医療のなかで展開・実践され,理学療法士が行う介入が総体として最大の効果が得られるように構築していく必要があります.同時に,専門職に求められる固有の知識・技術の重要性は益々高まり,専門分化された独自性を明確にすることも大切です.これらの概念は,システムに対しても,個々の対象者に対する全人的ならびに局所的な症状についても当てはまります.対象者全体からみれば,生活機能を中核とした連続性と地域完結型医療を実現するための“連携”や連続性を重視し,局所症状に対しては種々の処置や治療の融合と相乗効果を検証することが求められます.例えば,痙縮の強い麻痺筋に対して,薬剤による筋緊張の調整,装具による持続伸張とアライメントの改善,物理療法による筋緊張亢進の軽減などが実施されます.その局所所見の評価法には,H波の計測,modified Ashworth Scale,振り子試験などがあり,それぞれの効果判定を行うことが可能です.しかし,その対象者にとって痙縮が高いことが生活機能にどのような支障を来しているのかを相対的に位置づけた上で,適切な介入を行うことが重要となります.また,歩行の獲得にあたり,どのような戦略で痙性歩行を実用的な歩行能力に適応していくのかを明らかにして,運動療法を組み立てていく必要があります.その際,例えば杖を使うことを想定したバランスと歩容を念頭においた運動療法を行うのであれば,全体の文脈の中で装具の適応と処方時期が決定されることになります.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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