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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル40巻11号

2006年11月発行

雑誌目次

特集 緩和ケアとしての理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.895 - P.895

 近年,緩和ケア病棟の設置に伴い,理学療法士が緩和ケア(終末期の理学療法)に関与する機会は増えている.緩和ケア病棟でなくても,福祉施設や在宅においても緩和ケアに関与する事例は多い.周知のごとく,緩和ケアにおいては苦痛・苦悩にさいなまれる対象者のスピリチュアリティーと人格の尊厳に配慮し,対象者が人間らしい終末期を迎えられるべく対応する必要性がある.その際,われわれ専門職の生死観・死生観が緩和ケアの質に多大な影響を及ぼすといえる.

緩和ケアの課題と展望

著者: 末永和之

ページ範囲:P.897 - P.904

はじめに

 現代医療は検査・診断・治療・延命という身体的ないのちの追求がなされ,進歩・発展してきている.そのような中,世界保健機関(WHO)は1990年に,現代医療をもってしても治癒しない患者と家族に対する緩和ケアの推進を全世界に呼びかけた.

 わが国では現在,年間60万人ががんに罹患し,30万人以上ががんで死亡している.2015年には90万人ががんに罹患するとされている.1998年には,がんによる死亡の総数は罹患数の58.7%に相当している.この背景には,早期診断の困難な部位のがんの増加,高齢者人口の増加が挙げられる.今後,緩和ケアを必要とする患者数が増加することが明らかになっており,がん医療における緩和ケアの必要性がますます高まると推測される1).多くの患者が積極的治療を受けても,再発や転移などにより,いのちの終焉を迎えなければならなくなる.このように,いのちと向き合って治療やケアをうけなければならない患者や家族にとって,病名・病状・予後などを伝えることは,ただ単に身体的な命の長さの問題ではなく,この世にいただいた「いのち」を深く考え,残された時間をいかに生ききるかという大きな命題に直面することになる.そして,いかなるがんも進行すると多彩な苦しい症状が出てくるため,その1つひとつの症状を和らげ,いただいた「いのち」を精一杯生ききることを考えなければならなくなる.ここに,がんの緩和ケア,ホスピスの考え方がとても大切になってくる.

日本の文化と看取りの作法

著者: 藤腹明子

ページ範囲:P.905 - P.910

文化と看取り

 「文化」の定義は,文化人類学者の数もしくはそれ以上あるといわれる.また,文化人類学者によって位置づけられている文化と,私たちが日常生活のなかで用いる文化という語の間には少し概念の違いもあるようである.そこで,国語辞典で一般的な「文化」の概念について調べてみると,「人間の生活様式の全体.人類がみずからの手で築き上げてきた有形・無形の総体.それぞれの民族・地域・社会に固有の文化があり,学習によって伝習されるとともに,相互の交流によって発展してきた.カルチュア」とあり,また「民族や社会の風習・伝統・思考方法・価値観などの総称で,世代を通じて伝承されていくものを意味する」(『大辞泉』小学館)とある.

 このことからも,人間の暮らしのあり方そのものが文化であり,それぞれの国・民族・地域・社会に固有の文化があることがわかる.固有の文化とは,他から与えられたのではなく,もとからあるものである.例えば,日本には日本固有の文化があり,イギリスにはイギリス固有の文化があるということになる.星野一正氏は,アメリカ式のインフォームド・コンセントや他のバイオエシックスの原則を日本の社会に適用するためには,それらの基本的価値を変えずに,日本人の国民感情に馴染むように適度の改良をすることが必要であるとしている.その理由として,日本人の特異な精神構造を挙げ,特に日本人の国民感情,それに強い影響を与えてきている日本の社会の文化や習俗に影響されている日本人の感性や価値観などに配慮した,日本に馴染むインフォームド・コンセントの必要性を提言している1).つまり,日本において,インフォームド・コンセントを取り入れる場合も,日本の文化を考慮した,より日本的な,あるいは日本に馴染むインフォームド・コンセントの在り方を考える必要性があるということになる.

がん専門医療施設における理学療法士の役割

著者: 石井健 ,   辻哲也

ページ範囲:P.911 - P.916

はじめに

 「がんセンターでリハビリテーション?」と疑問に思われる医療従事者も少なくないであろう.欧米ではリハビリテーション(以下,リハビリ)はがん治療の重要な一部分と認識されており,その必要性が認知されているにもかかわらず,わが国においては,診療科としてリハビリ科を有するがん専門病院は静岡県立静岡がんセンター(Shizuoka Cancer Center:以下SCC)1施設のみという,寂しい状況にある.

 厚生労働省の発表した,2005年人口動態統計によると,死亡総数108万4012人のうち,最も多い死因はがん(30.1%)で, 1981年以降,連続1位となっている1).そのような中で,わが国ではがんに対して,1983年の「対がん10ヵ年総合戦略」の策定以来,現在の「第3次対がん総合戦略(2003年~)」,2006年6月の「がん対策基本法」の成立など,疾病対策上の最重要課題として対策が進められている.そういった国の施策に加えて,早期診断・早期治療などの医療技術の進歩もあり,がんの死亡率は,年々減少傾向にある.国立がんセンターの統計では,5年生存率が1990年代には男性では55%,女性では65%に達し,がん患者の半数は治るようになってきた2).そして,がんそのものの影響や手術・化学療法,そして放射線治療などの治療過程において受けた身体的・心理的なダメージに対して,障害の軽減,運動機能や日常生活活動の低下予防や改善,介護予防を目的として,介入を行う機会は増えてきている.その一方で,治療が奏効せず,再発から死に至るケースも少なくなく,そういった「がんと共存する時代」の中で,患者のQOLを高めるだけでなく,維持する必要がある.

 本稿では,診療科としてリハビリ科を有する初めてのがんセンターである,SCC(2002年9月開院)における理学療法士の役割について,臨床経験を交えながら解説する.

スピリチュアルケアの一手段としての理学療法

著者: 内山郁代 ,   岸川倫子 ,   森下一幸

ページ範囲:P.917 - P.923

はじめに

 がん患者,特に終末期がん患者と日常的に関わっているリハビリテーションの専門家は必ずしも多くない1).リハビリテーションは一般的に「社会復帰」を目標としているため,終末期がん患者がその対象になることはわが国では十分に受け入れられていない.しかし,欧米では,緩和医学の代表的教科書であるOxford Textbook of Palliative Medicineにおいても,「Rehabilitation in Palliative Medicine」として1章が割り当てられているように,緩和ケアにおける必須の1領域としてリハビリテーションが位置づけられている2)

 緩和ケアとは,「延命を目的とした治療とともに早期に適用され,quality of life(QOL)を向上させるのみならず,疾患の経過そのものにもよい影響を与えうるケア」(世界保健機関3))であり,「生命を脅かす疾患と直面する患者とその家族のQOLの改善を目的とし,さまざまな専門職とボランティアがチームとして提供するケア」(全国ホスピス・緩和ケア病棟連絡協議会)である.したがって,QOLを向上させることを目的としている点において,リハビリテーションと緩和医学の目的は変わらない.一般的にリハビリテーションでは,ADLレベルの向上を通じてQOLを改善しようとし,緩和ケアでは症状緩和と精神的支援を通じてQOLを向上させようとする.すなわち,化学療法に伴う運動能力の低下に対する理学療法や,外科治療後の機能喪失に伴うリハビリテーション(いわゆるcancer rehabilitation)では,ADLの向上とQOLの改善とが一致しやすいため,リハビリテーション医学においても積極的な関与の有用性を示す報告が多い4).一方,ADLの向上が見込めない終末期がん患者においては,「ADLの向上を介しないQOLの向上を目的としたリハビリテーションとは何か?」が問われる.

 終末期がん患者のQOL概念は,これまで症状や身体機能が中心概念として用いられていたが,近年,患者・家族の視点から問い直そうとする機運が高まっている5~8).米国のVeteran Groupによって行われたGood death studyでは,質的研究をもとに患者・遺族・医師・看護師など1,462名を対象とした質問紙調査が行われた.終末期のQOLにおいては,身体機能の維持と少なくとも同じ程度に,精神的要因,特に実存的要因(「自分の人生が意味があると感じられること」,「希望を持つことができること」など)が重要であることが示された5~7).わが国の多施設研究でも,終末期がん患者にとってのQOLは,身体機能にとどまらず,「人生が意味があると感じられること」,「希望を持つことができること」,「他者の負担になっていると感じないこと」などが重要であることが示されている8).すなわち,ADLの改善が見込みにくい終末期がん患者に対するリハビリテーションでは,まず,①ADLの改善を目的として,患者の身体機能を向上させることによってQOLの改善を図ろうとするが,それが期待できなかったとしても,②患者が「人生が意味があると感じられること」や「希望を持つことができること」を目標としたリハビリテーションはチームの一員として役割を果たすことができると考えられる.

 本稿では,特に患者のADLを向上させることができない場合に,患者の生きる意味を支える手段としてのリハビリテーションについて述べる.

脳血管障害患者の終末期における実態と理学療法

著者: 瀬戸口佳史 ,   中島洋明

ページ範囲:P.925 - P.929

はじめに

 終末期リハビリテーションについてはこれまで進行性疾患である悪性新生物(がん)やエイズ,筋萎縮性側索硬化症などに対する緩和ケア領域での関わりを示した報告1~5)が主であり,脳血管障害などの長期療養が必要な疾患に対しては今後開拓しなければならない重要な課題であると思われる.

 医療の現場,特に療養型病床などでは,重篤な脳血管障害を発症して遷延性の意識障害を来す者,再発を繰り返したり,誤嚥性肺炎や関節拘縮,廃用障害のため,徐々に機能低下が生じ,結果的に寝たきりや,意思疎通も困難となった者が多く存在している.それら脳血管障害の終末期ともいえる患者へのリハビリテーションをどのように実施し,またその個人の尊厳ある終末にわれわれ理学療法士がどのように貢献できるかという具体的な手法を示した報告は少ない.

 本稿では,脳血管障害終末期の判断条件として日本脳神経外科学会が1976年に提唱したPVS(persistent vegetative state)6)の定義に基づき,当院での脳血管障害終末期間に関する調査・結果を踏まえ,今後理学療法士が脳血管障害患者の終末期リハビリテーションにどのように関わっていくべきかを述べる.

とびら

たくましく生きる

著者: 西山知佐

ページ範囲:P.893 - P.893

 マレーシアにあるセピロックリハビリテーションセンターへ行く機会を得た.ここは人間ではなくオランウータンのための施設で,乱獲にあったオランウータンたちを森へ帰すのだという.食事の時間が一番良く観察できると聞き,初めて見るオランウータンにワクワクしながら指定の場所へ向かった.

 決まった時間になるとオランウータンはロープ伝いに木の上に設置された“食堂”へやってくる.飼育員が現れるとえさをもらい,おいしそうに食べる.彼らの仕草の一部始終を見ているとお茶目だ.特に母親が子供にえさを食べさせる様子は人間と同様に微笑ましい.ホッとしたのもつかの間,ふと下を見ると,多くのサルが身を潜めているではないか.飼育員がいなくなるとサルは一気に駆け上がって,オランウータンを追い出し,残ったえさを食べはじめる.その凄まじさに驚いたが,おそらくサルは試行錯誤の上,ここで生活するための知恵を編み出したのだろう.一方のオランウータンに対しては哀れに思ったが,自然の法則に私たちはどうすることもできない.これも生きていくためには必要なのだと改めて感じた.

報告

変形性股関節症患者はdual-task下での歩行時に体幹動揺が増大する

著者: 山田実 ,   平田総一郎 ,   小野玲

ページ範囲:P.933 - P.937

緒言

 ヒトは膨大な量の情報の中で,様々なことを考え,または行いながら歩く.このような行動は,平素より当然のように無意識下で行われている.しかしながらこの行動には非常に複雑な機構が含まれており,中枢神経系,筋骨格系のあらゆる機能が関わっている.

 中枢神経系では,前頭連合野(特に前頭前野)を中心としたワーキングメモリと呼ばれる機能がこれに関与している.ワーキングメモリとは課題遂行に必要な情報を必要な期間,能動的に保持する機構であり1,2),加齢や脳障害によりその機能が低下することが判明している3).さらにワーキングメモリが姿勢制御に果たす役割が示唆されており,姿勢とは無関係の課題(task)に注意を向けた際(dual-task:二重課題)の姿勢の動揺は,若年者よりも高齢者で大きく,さらに転倒未経験者よりも転倒経験者のほうが大きい4).一方,このワーキングメモリの容量には限界があるため,加齢や脳障害の影響を受けた者以外であっても,dual-taskを行わせた際にパフォーマンス能力が低下する可能性が高い.これには筋骨格系の機能低下が影響を及ぼすと考えられる.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

障害受容

著者: 富樫誠二

ページ範囲:P.941 - P.941

 障害受容という言葉は,臨床の場で治療者がしばしば使っている言葉であるが,臨床的に何をもって,「受容」とするのかが依然あいまいである.さらに治療者側が,その概念を明確に捉えて使用していないため,障害を有する側とのずれが生じてきた.近年,その概念や受容過程について,活発に論議されている.そういったことを踏まえ,「障害を受容する」ということについて言説する.

◎障害受容の概念について

 まずGrayson1)は,障害受容を身体・心理・社会的側面から捉えることが重要であると指摘した.次にWright2)は価値転換説を唱え,障害受容において4つの価値転換を重視した.すなわち①価値の範囲を拡張すること,②身体的価値を従属させること,③障害に起因する様々な波及効果を抑制すること,④比較価値において自己を評価しないことである.上田3)は,障害の受容とはあきらめでも居直りでもなく,障害に対する価値観の転換であり,障害をもつことが自己の全体としての人間的価値を低下させるものではないことの認識と体得を通じて,恥の意識や劣等感を克服し,積極的な生活態度に転ずることであるとした.本田4)は,障害受容の概念には,①障害の認知,②回復の断念,③適応的な行動,④社会的な自覚,⑤価値観の変化を含んでいるとしている.そして身体的自覚と社会的自覚の2つの心理的変化が重要であると述べている.南雲5)は,自己受容(障害のために変化した身体的条件をこころから受け入れること)に偏った,あるいは陥った障害受容の概念を自己受容と社会受容(社会が障害者を受け入れること)にわけて捉え直す考え方の重要性を指摘している.相互作用論からみた社会受容という概念は,障害受容(自己受容)を援助する方向づけを示唆する.

学会印象記

―第43回日本リハビリテーション医学会―2006年,諸制度転換期のリハ医学会へ行ってきました

著者: 仲貴子

ページ範囲:P.942 - P.944

はじめに

 第43回日本リハビリテーション医学会学術集会(会長:東京慈恵医科大学リハビリテーション医学講座宮野佐年教授)が開催されたのは,前橋市での第41回日本理学療法学術集会の興奮もさめやらぬ6月1日(木)~3日(土)のことでした.

 メインテーマは「リハビリテーション医学の進歩と実践」です.会長講演の中では,今年は診療報酬改定と介護保険制度改正という大きな制度の変革を受け,これまでの進歩の過程を振り返りながら,さらなる進歩の萌芽とその実践をアピールしていくことが求められる節目の年にあたることが語られました.

 私は現在,介護予防の研究に従事していますので,特に介護保険制度改正については緊密な立場でこの節目を実感していますが,診療報酬改定でリハビリテーション算定日数の上限が定められたことは,様々なメディアで取り上げられ,社会問題化しています.

 そういう年の日本リハビリテーション医学会学術集会ですから,きっと「熱い」討論が展開されているに違いない!と,ランチョンセミナーで供される二段重ねの少々豪華なお弁当に舌鼓を打ちつつ,旬の話題満載の講演・シンポジウムを興味津々で聴講してきました.そこで,今回のレポートは,理学療法学術集会以外の学会を訪れたことがないというような,若手・中堅の理学療法士の方々に向けて,「他の学会会場にも出かけてみませんか?」というメッセージをお伝えすることを主旨としてご報告したいと思います.

入門講座 ベッドサイドでの患者評価 5

関節リウマチ

著者: 阿部敏彦

ページ範囲:P.945 - P.951

はじめに

 関節リウマチ(以下,RA)患者に対する理学療法評価1)の内容は,①理学療法における最善の方法を決定するための情報,②今後の治療を行うための基本となるデータ,③患者のケアをするチームの他のメンバーの手助けとなる情報でなければならない.しかしRAの臨床症状は多様であり,その入院目的も様々で,理学療法の重み付けもそれらによって変化する.また,在院日数の短期化,薬剤の長期投与,外来リハビリテーションの期間的制約などにより,在宅医療への転換期であるため,RAにおける理学療法評価の目的や内容が明確であるとは言いがたい.

 本稿では,RAの理学療法評価内容を患者だけでなく家族にも認識してもらえるよう,急性期のベッドサイドでの評価だけではなく,介護保険サービスの訪問リハビリテーションにおけるベッド上での評価も含めて述べる.

講座 理学療法と医療安全 2

医療機関における転倒・転落と具体策―事故を予防するのは環境やシステムではなく,人である

著者: 川崎瑠美

ページ範囲:P.953 - P.959

はじめに―転倒・転落事故予防の重要性と難しさ

 “転ぶ”ということは,老若男女を問わず,何らかの要因が重なると日常的に遭遇し得るものであり,結果として重大な問題を引き起こす可能性を秘めている.何らかの疾患や障害をもつ方を対象にした時,このような日常的な事象をどう予防していくか,考えて実践していくことは非常に難しい.

 近年,医療安全が重要視され,表1のように転倒・転落事故予防についても医療従事者の役割と責任が明確化されている.また,リハビリテーションの視点では,転倒・転落後の骨折をはじめ,その経験が不安感や恐怖心を生み,活動性低下を引き起こす転倒後症候群へ移行する可能性も含んでいることからも,重要なリスク管理項目の1つであると言える.

 転倒・転落が他の医療事故と比べて特異な点は,そのきっかけが医療スタッフによって引き起こされるというよりも,患者様自身による場合がはるかに多いことである1).しかし,マンパワーを充足させて,常に監視をしておけば転倒・転落がすべて防げるわけではなく,行動抑制にもつながってしまう.過度の外的な転倒防止措置(身体抑制,行動抑制)は廃用を招き2),心身ともに自立した生活を取り戻すという入院目的から逸脱するため,本末転倒となる.

 本稿では,主に脳血管障害の患者様を対象とし,筆者の所属する北原脳神経外科病院・北原リハビリテーション病院における現状を紹介しながら,転倒・転落事故予防について改めて考えていきたい.

短報

脳卒中片麻痺患者の咬合機能に関する研究

著者: 藤澤祐基 ,   富樫誠二 ,   笹原妃佐子 ,   後藤力 ,   藤村昌彦 ,   奈良勲

ページ範囲:P.963 - P.966

緒言

 咬合機能は嚥下前段階として重要であるとされ,その機能低下による嚥下不全を呈する脳卒中片麻痺患者(以下,片麻痺患者)は臨床的に散見される.脳卒中片麻痺患者の咬合機能についてCruccuら1)は詳細な筋電図学的検査の結果,咀嚼筋群では対側の大脳半球からの支配が優位であると報告している.しかし,Kemppainenら2)は片麻痺患者の左右の第一大臼歯で咬合力を測定し,麻痺側,非麻痺側間で最大咬合力に差はなかったとしている.このように片麻痺患者の咬合機能に関する先行研究の結果は一致していない1~5).そこで本研究では,歯科領域において広く用いられている咬合感圧シート(デンタルプレスケール)を用いて,片麻痺患者の咬合力について健常者との比較を行い,片麻痺患者の口腔周辺機能の特性を探ることを目的とした.

資料

第41回理学療法士・作業療法士国家試験問題 模範解答と解説・Ⅴ 理学療法・作業療法共通問題(2)

著者: 金村尚彦 ,   川口浩太郎 ,   黒瀬智之 ,   関川清一 ,   藤村昌彦 ,   宮下浩二

ページ範囲:P.967 - P.973

書評

―柳澤 健(編)―「運動療法学」

著者: 中屋久長

ページ範囲:P.930 - P.930

 理学療法に関する図書が溢れるばかり出版されている昨今である.一昔には臨床現場の理学療法士や養成校では,関係図書を探索選定するのに苦労し,結局は医師向けの医学書を参考にしてきた経緯がある.理学療法士の養成が大学,大学院教育で行われるようになり,理学療法士自体の学術的なレベルアップがなされたこと,さらに養成教育機関の急増がその需要を高め,出版社にとって市場に耐えうる存在となってきたことが多くの専門書が出版されている要因であろう.

 飛びつきやすいハウツウ,ノウハウ本が目立つが,このたび理学療法の中核をなす運動療法を幅広い視点から解説,網羅した「運動療法学」が発刊されたことは,関係者にとって待望のことと思われる.編者の序文にあるように,厚労省が7年前に改正した「国家試験出題基準」に沿った内容で構成されていることが特徴であるとともに,保健・福祉領域に関する理学療法(運動療法)についても取り上げられている.養成校での教育は,国家試験対策や臨床現場のニーズから,ともすると医療に偏ってしまう傾向にあるが,保健・福祉分野は今後の理学療法業務,職域の拡大から必要な領域である.

―奈良 勲(監修)・内山 靖(編)―「理学療法学事典」

著者: 瀧野勝昭

ページ範囲:P.960 - P.960

 今すぐに知りたい,ある言葉や用語が理解できない,理解が曖昧なときなどに遭遇すると辞書や事典は限りなく頼りがいのある書物である.この度発刊された「理学療法学事典」は,理学療法士にとっては極めて頼もしい事典であり,他の関連職種にとっても利用価値の高い事典となろう.

 リハビリテーションと理学療法領域を専門職とする理学療法士が誕生して40年を経た今日,理学療法の発展は目を見張るものがある.毎年,開催されている(社)日本理学療法士協会主催の日本理学療法学術大会の演題数は1,200を超え,参加者も4,500名を数えるに至った.また,全国研修会をはじめとした各種の研修会や講習会,医学会および介護福祉の団体などが主催している学会や研修会,さらには海外で開催される学会などへの参加者も年々増加の一途を辿っている.このように多くの理学療法士が最新の知識や技術を習得するため,各地で熱心に勉学に励んでいる.また,理学療法の雑誌や関連する学術雑誌などに,日頃から研究している課題を論文として発表する研究者も増加してきた.

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文献抄録

ページ範囲:P.974 - P.975

編集後記

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.978 - P.978

 本号の特集は,「緩和ケアとしての理学療法」である.緩和ケアとは,単に身体症状のコントロールだけでなく,心のケアも並行して行い,対象者のQOLを総合的に高めることを目的とするものである.palliative careとhospice careとは, 同義であるが,前者はイギリス,アメリカなどで,後者はフランス語圏で使用されているようである.わが国では,緩和ケア診療報酬料(1990年)が設けられたこともあり,「ホスピス・緩和ケア」と称されるようになっている.いずれにせよ,“ゆりかごから墓場まで”といった人間の生涯にわたるケアあるいは福祉国家を構築するためにも,理学療法士は緩和ケアに対して前向きに取り組む必要性があることはいうまでもない.

 末永氏には,「緩和ケアの課題と展望」と題して,長年医師として緩和ケアに関与してこられた経歴に基づいて,わが国の緩和ケアの課題に触れ,それに関与する各専門職のあり方や今後の展望を述べていただいた.藤腹氏には,「日本の文化と看取りの作法」と題して,仏教思想の影響が強い日本の文化を概観していただき,死生観ではなく生死観(生き死に)を育むことが,各専門職に期待される看取りの作法,姿勢として大切であることの示唆をいただいた.石井氏他には,「がん専門医療施設における理学療法士の役割」と題して,緩和ケアの対象となる疾患別データを供覧いただき,その概要と特性に触れ,理学療法士の役割について述べていただいた.内山氏他には,「スピリチュアルケアの一手段としての理学療法」と題して,緩和ケアのプロセスにおけるスピリチュアルケアの実践について,症例を呈示して具体的に述べていただいた.瀬戸口氏他には,「脳血管障害患者の終末期における実態と理学療法」と題して,脳血管障害終末期の判断条件にpersistent vegetative stateを用いて調査されたデータを供覧いただき,それに考察を加えて理学療法のあり方を述べていただいた.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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