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特集 緩和ケアとしての理学療法
スピリチュアルケアの一手段としての理学療法
著者: 内山郁代1 岸川倫子1 森下一幸1
所属機関: 1聖隷三方原病院リハビリテーション部
ページ範囲:P.917 - P.923
文献購入ページに移動がん患者,特に終末期がん患者と日常的に関わっているリハビリテーションの専門家は必ずしも多くない1).リハビリテーションは一般的に「社会復帰」を目標としているため,終末期がん患者がその対象になることはわが国では十分に受け入れられていない.しかし,欧米では,緩和医学の代表的教科書であるOxford Textbook of Palliative Medicineにおいても,「Rehabilitation in Palliative Medicine」として1章が割り当てられているように,緩和ケアにおける必須の1領域としてリハビリテーションが位置づけられている2).
緩和ケアとは,「延命を目的とした治療とともに早期に適用され,quality of life(QOL)を向上させるのみならず,疾患の経過そのものにもよい影響を与えうるケア」(世界保健機関3))であり,「生命を脅かす疾患と直面する患者とその家族のQOLの改善を目的とし,さまざまな専門職とボランティアがチームとして提供するケア」(全国ホスピス・緩和ケア病棟連絡協議会)である.したがって,QOLを向上させることを目的としている点において,リハビリテーションと緩和医学の目的は変わらない.一般的にリハビリテーションでは,ADLレベルの向上を通じてQOLを改善しようとし,緩和ケアでは症状緩和と精神的支援を通じてQOLを向上させようとする.すなわち,化学療法に伴う運動能力の低下に対する理学療法や,外科治療後の機能喪失に伴うリハビリテーション(いわゆるcancer rehabilitation)では,ADLの向上とQOLの改善とが一致しやすいため,リハビリテーション医学においても積極的な関与の有用性を示す報告が多い4).一方,ADLの向上が見込めない終末期がん患者においては,「ADLの向上を介しないQOLの向上を目的としたリハビリテーションとは何か?」が問われる.
終末期がん患者のQOL概念は,これまで症状や身体機能が中心概念として用いられていたが,近年,患者・家族の視点から問い直そうとする機運が高まっている5~8).米国のVeteran Groupによって行われたGood death studyでは,質的研究をもとに患者・遺族・医師・看護師など1,462名を対象とした質問紙調査が行われた.終末期のQOLにおいては,身体機能の維持と少なくとも同じ程度に,精神的要因,特に実存的要因(「自分の人生が意味があると感じられること」,「希望を持つことができること」など)が重要であることが示された5~7).わが国の多施設研究でも,終末期がん患者にとってのQOLは,身体機能にとどまらず,「人生が意味があると感じられること」,「希望を持つことができること」,「他者の負担になっていると感じないこと」などが重要であることが示されている8).すなわち,ADLの改善が見込みにくい終末期がん患者に対するリハビリテーションでは,まず,①ADLの改善を目的として,患者の身体機能を向上させることによってQOLの改善を図ろうとするが,それが期待できなかったとしても,②患者が「人生が意味があると感じられること」や「希望を持つことができること」を目標としたリハビリテーションはチームの一員として役割を果たすことができると考えられる.
本稿では,特に患者のADLを向上させることができない場合に,患者の生きる意味を支える手段としてのリハビリテーションについて述べる.
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