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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル40巻13号

2006年12月発行

雑誌目次

特集 理学療法の展望2006

巻頭座談会:これまでの10年,これからの10年

著者: 網本和 ,   今川忠男 ,   金谷さとみ ,   山口光國 ,   吉尾雅春

ページ範囲:P.1079 - P.1088

吉尾 本日は「理学療法ジャーナル」増刊号の巻頭座談会「理学療法の展望―これまでの10年,これからの10年」と題して,各領域を代表する方々にお集まりいただきました.この10年間で,日本の理学療法界,あるいはそれを取り巻く社会は,大きく変化しました.それぞれの領域において,特筆すべき出来事を簡単にご説明いただき,それが現在にどう影響し, そしてこれから先の10年間にどう反映されていくのかということをお話しいただきたいと考えています.

第Ⅰ部 理学療法,この10年の変遷と将来展望

理学療法40年の歴史―10年の変遷と将来展望

著者: 日下隆一

ページ範囲:P.1089 - P.1093

はじめに

 1966年(昭和41年)に理学療法士が誕生して40 年を迎える.この間の理学療法士数の増加をみると1980年代前半までの「緩増加期」,続く1995 年までの「増加期」,以後の「急増加期」に区分することができる.したがって,この10年は理学療法士が急速に増加した,まさに激動の時期であるといえるが,この10年はかつての高度経済成長の終焉に続く経済成長率の低迷期であり,国内総生産からみても日本経済が新たな時代を迎えた時期でもある(図1).また,この10年は最も高齢化率が高く推移した時期であり(図2),高齢化社会への対応から2000年には介護保険制度が施行されている.加えて,1980年代に入ると高騰する医療費問題に対する旧厚生省の危機感から1),医療費抑制が叫ばれるようになり,この10 年は医療費抑制を反映して診療報酬改定率も明らかな低下傾向を示している(図3).このような状況にありながらも理学療法士が急増した最大の要因は,リハビリテーション(以下,リハビリ)に対する社会的ニーズの高まりであり,医療においてはリハビリ医学の発達やそれに対する国民意識の向上とそれを基盤とした高齢化社会に対応すべく創設された介護保険の導入等にあると思われる. したがって,ここ10年のキーワードは,それぞれに関連する「医学の発達」「少子高齢化社会」「社会保障費」「診療報酬」「介護報酬」「国民意識変化」「低調経済」「リハビリニーズ」「理学療法士急増」等であろう.

 この10年に限らず,リハビリ関連学会や団体は国民の期待に応えるべく努めてきた.社団法人日本理学療法士協会(以下,協会)においても,理学療法理論や技術の進歩を主とした学術活動に限らず,職能系に関する活動,さらには公益事業活動や国際貢献と多岐にわたる方面に積極的な足跡を残してきた.これらの詳細については,本誌の各項で述べられるものと思われるが,ここでは近年の社会情勢を鑑みながら,この10年の理学療法士(数)と理学療法士が勤務する施設数の変遷を中心に,関連する協会活動にも触れながら今後の展望について述べてみたい.

理学療法診療報酬―10年の変遷と将来展望

著者: 両角昌実

ページ範囲:P.1095 - P.1099

はじめに

 2006年4月,医療保険制度ならびに介護保険制度が同時改定された.これらの詳細は後に触れるが,理学療法士にとってこれまでにない厳しい内容であることは間違いない.1965年に理学療法士及び作業療法士法が施行され,理学療法士が誕生して40年を迎える中で,これまでの診療報酬の変遷を振り返りながら,今後の展望について私見を述べたい.

理学療法士の職域―10年の変遷と将来展望

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.1101 - P.1107

はじめに

 1965年に公布された「理学療法士及び作業療法士法」(法律137号)の目的である第1条には,「この法律は,理学療法士及び作業療法士の資格を定めるとともに,その業務が,適正に運用されるように規律し,もって医療の普及及び向上に寄与することを目的とする」とある.つまり,この法律で理学療法士は,医療職として位置づけられている.その条文を受けて,第2条の定義では「理学療法とは,身体に障害のある者に対して, 主としてその基本動作能力の回復を図るため,治療体操,その他の運動を行なわせ,及び電気刺激,マッサージ,温熱,その他の物理的手段を加えることをいう」とある.これらの法律上の条文は,理学療法士の業務と職域とを定める基本的枠組みと指針になるため,理学療法士の職域について考える際,避けて通れない事項である.

 このような点から,理学療法士が誕生して以来,理学療法士の職域は,法律上の枠と業務内容(定義),そして,理学療法士の数が不足していたこともあり,狭義の医療に限定されてきたことは事実である.しかし,後述するが,高齢社会の到来で社会構造が変革してきたことに鑑み,国は国民の社会生活上のニーズに応えるべく,総合的に対応する基本姿勢を呈示し,過去10数年の間に種々の政策を掲げて善処してきた.その過程で理学療法士の職域も必然的に変遷してきた.

理学療法士の需要―10年の変遷と将来展望

著者: 今井公一 ,   西村敦

ページ範囲:P.1109 - P.1113

はじめに

 1996年黒川は,理学療法士の需給・職域について21世紀初頭までの展望をしている1).筆者らの責務は,この1996年より2006年までの10年間に,理学療法士の周辺環境はどのように推移し,理学療法士の活動はどのように変化してきたのか,活躍の場や,身分,待遇などについても振り返ることにある.また,今後の活動についても展望することになっているが,国の制度をはじめとして,需要,供給に関わる環境が急速に変貌しつつある時期の執筆であることを前提とし,筆者らの意見を元に読者自身が発展的な明るい将来をおのおのに展望いただければと願っている.

理学療法学教育―10年の変遷と将来展望

著者: 内山靖

ページ範囲:P.1115 - P.1120

はじめに

 専門職(profession)には,その領域に対する深い知識と技術,高い倫理観,生涯にわたる自己研鑽に加えて,高い自律性(autonomy)が求められる.そのためには,自己の行為を省察(reflection)し,よりよい方向を模索する過程で自己・集団を規制することも必要である.

 本増大号では,主として,過去30年の経過を確認し,ここ10年間(1996~2005年)の進歩と課題を検証しながら,今後10年間の将来を展望する.

理学療法士の卒後教育・生涯学習―10年の変遷と将来展望

著者: 居村茂幸

ページ範囲:P.1121 - P.1126

はじめに

 日本における理学療法士の養成は,1963年5月より3年制各種学校(養成定員数20名)で始まった.2006年5月現在,理学療法士養成校は208校(現在募集校196校,養成定員10,267名)に及んでおり,質の底辺だけを定めた国家試験の在り方でも変わらない限り,ここ3年から4年後には毎年1万人以上の理学療法士が誕生することになる.われわれ理学療法士は,過去には免許取得者であるというだけの希少価値で自己の「在り方」は世の中からそれほど問われることもなく過ごすことができたし,日本の現情勢をみると,地域によってはこれからもこの傾向が続く可能性も大いにあるものの,期待される専門職として自ら強い問いかけを行わなければならない時代に突入していることを真剣に認識する必要がある.そのための重要なキーポイントとして,考えなくてはならない要因は散在するが,ここでは卒後の教育(生涯学習)について考えてみる.

理学療法学研究―10年の変遷と将来展望

著者: 木村貞治

ページ範囲:P.1127 - P.1134

はじめに

 わが国における理学療法の歴史は40年を越えた.この間,わが国の理学療法は,日本理学療法士協会の組織化の推進,生涯学習体制の整備,各種治療法の体系化や治療技術の進歩,基礎研究・臨床研究など研究活動の推進,多様な社会のニーズに応じた職域の拡大,国際協力活動や国際学会における研究発表などの国際化の推進等様々な活動を通じて,1 つの医療技術専門職として社会貢献を果たしてきた.

 一方,この10年間においては,理学療法を取り巻く社会の構造と仕組みが大きく変化してきた.少子高齢化などの人口構成の変化,疾病構造の変化,市町村合併,2000年からの介護保険制度のスタートと2006年からの制度改革,そして,2006年からの診療報酬改定など,どれをとってもわが国の理学療法においては非常に重要な課題となっている.

 さらに,IT化の推進によって,健康や医療に関心をもった国民自身が,医療情報をインターネットを通じて主体的に収集する傾向が高まってきたことにより,医療消費者側が医療に求める内容についても変化してきているのが実状であろう.

 このような多様な社会の構造や仕組みの変化,ニーズの多様化や複雑化に伴って,保健・医療・福祉領域における理学療法に,そして理学療法士に対する社会の期待や要求は質的にも量的にも高まってきている.

 特に医療分野においては,「何のためにそのような評価を行うのか?」,「なぜそのような治療法を選択するのか? 」,「その治療法を実施した場合どの程度の効果が期待できるのか?」というような患者やその家族側の基本的な疑問点に関して十分に説明を行い,納得していただいたうえで理学療法を遂行していくという患者中心医療1)を実践することが重要な課題となっている.

 しかし,従来このような臨床場面における理学療法士の意思決定や治療理論に関しては,理学療法士の経験や慣習に基づいて行われてきた傾向が強く,質の高い臨床研究の結果を含めた科学的根拠に基づいて行われることは,まだ,決して多くはないのが実状ではないかと思われる.

 このような理学療法における評価,治療,指導に関する意思決定を対象者の障害特性や社会的背景,そして,科学的な根拠に基づいて実践していくためには,質の高い基礎的・臨床的研究活動を幅広い分野で展開し,その成果を蓄積・公表していくことが重要な課題となる.

 本稿では,このような状況を鑑み,理学療法分野の研究活動に関する過去10年間の変遷を振り返るとともに,理学療法研究に関する今後の将来展望について述べてみたい.

世界の理学療法―10年の変遷と将来展望

著者: 高橋哲也

ページ範囲:P.1135 - P.1140

世界理学療法連盟(WCPT)について

 1951年に11か国で設立された世界理学療法連盟(WCPT)は今世紀に入り設立50周年を迎えた.現在,WCPTは世界保健機関(WHO)との公的な関係を有し,国連の諮問機関となっていることからも国際的に認められる非政府組織である.WCPTの最大の目的は全世界の健康に寄与することであり,詳細な目的はWCPTの定款1)にまとめられている(表1).

 現在,WCPTは全世界92か国からなる連合で,2007年にはバーレーン,バハマ,バングラデシュの加盟も検討されている.1991年にWCPTはヨーロッパ地域,アジア西太平洋地区,北アメリカ-カリビアン地区,アフリカ地区,南アメリカ地区の5つの地区にブロック化され,その地区ごとの委員会が組織された.WCPTは4年に1度世界規模で学術大会を開催しているがその中間年にその地区ごとの学会を開催している.

第Ⅱ部 理学療法の発展と課題

徒手療法の発展と課題

著者: 砂川勇

ページ範囲:P.1148 - P.1149

1.徒手療法とは

 徒手療法(manual therapy)とは,機械器具を用いず用手的に行う治療手技の総称であり,手を用いて行う運動療法であればすべて徒手療法に含まれるといえる.しかし,一般的には座位・歩行練習のような運動学習を伴わない内容で,筋力増強運動や関節可動域増大運動などの運動療法の目的をもたない治療手技が徒手療法と理解されている.比較的よく知られている手技には,以下のようなものがある.関節モビライゼーション,神経系モビライゼーション,軟部組織モビライゼーション,マニピュレーション,結合組織マッサージ,マイオセラピー,オステオパシー,カイロプラクティック,筋膜リリース,マッスルエナジーテクニック,頭蓋仙骨療法などである.

生態学的アプローチの発展と課題

著者: 冨田昌夫

ページ範囲:P.1150 - P.1151

1.概略

 生態学的アプローチ(ecological approach)とはギブソンが唱えた生態学的心理学のことである.本稿では,この概念を運動療法に応用した私の体験に関して述べる.

 私たちは物の操作や移動など行為をするとき,対象や自分の身体を,自分の力で自分がやりたいように操作でき,何度でも繰り返して同じ動作をすることができると考えてはいないだろうか.だから視覚的,機械的に動作を分析し,運動の軌道を事前に学習,記憶できればその動作を現実的に繰り返し,何度でも実現できると信じている.ところが,生きて,呼吸をし,循環をしている動物が,まったく同じ身体状態で環境に働きかけ,動作を繰り返すことは不可能である.同じ運動の軌道はその都度,微妙に違う身体で,違う筋を調節的に働かし,わずかだが違うやり方で環境と相互関係を築くことで調整し,実現している.本来このような筋緊張や知覚システムを協調させる知覚循環は自律的に行われ,意識にのぼることなく動作の準備状態が整えられ,合目的な運動が遂行されるので,自分の力でやりたいようにやっていると思い込んでいるだけである.健常であれば自律的に整えられる動作の準備状態が,理学療法対象者では整えられなかったり,不都合がある場合, どうすればよいのか戸惑ってしまったり,余分な力を入れて運動の自由度を制限し,環境に適応できるバリエーションを制限してしまうことが少なくない.“分析的なやり方の指導”や“動作の実行機関である身体の力や可動域を拡大して正常化する”ことを目的とした身体内部へのアプローチから一歩抜けだし,生態学的心理学の概念に基づいて,知覚することと働きかけることを繰り返し,環境に適応した動作を学習するための運動療法の展開を考えてみたい.

行動療法アプローチの発展と課題

著者: 小林和彦

ページ範囲:P.1152 - P.1153

 行動療法(behavior therapy)は,一般的には「ある個人の不適応状態に対して,その具体的行動を重視し,基礎研究で実証された学習(行動) 理論に基づいて,主として生活を取り巻く環境変数を操作することにより行動を適応的方向に変容させる諸技法の総称である」とされている.ここでいう“ 学習”とは, 学習心理学で定義されている「練習や経験に基づく比較的永続的な行動の変容過程」のことを指す.したがって,行動療法が扱う行動(行動変容)とは単発的な“ 遂行行動”ではなく永続性を伴う“ 習慣行動”ということになる.同様に,理学療法が対象としている,運動や動作パターン,日常生活活動なども狭義の“ 行動”であるが,現実的には“ 行動変容”という概念が欠如していた点は否めず,このことが理学療法の効果とその維持に関する問題と密接に関係している.

 また,行動療法は他の心理療法と異なり,その基礎に健康な生活体の行動を研究する学問としての実験心理学を持っており,そのことも大きな特徴となっている.そこでは実験検証を経ていない仮説はあくまでも単なる仮説にとどめられ,検証を経た仮説のみが理論を構成し,その理論が演繹されて技法を形成する.科学的アプローチの基本的条件はその理論を構成する仮説が実験的に検証され,予測的有用性を有していることであることから,このことは行動療法を説明する上で重要なポイントである.

 行動療法が実践され始めてから50 年以上を経た現在,人間を含む生活体の行動を説明する様々な仮説に対し実験検証が行われた膨大な量の証拠が存在し,その多くは心理学関係の専門学術誌に蓄積されている.また,一部の体系は臨床心理学のみならず,教育工学,行動生理学,行動薬理学,行動経営学など,多様な領域に取り入れられ発展し続けている.理学療法領域においては,その高い有用性にもかかわらず,応用例はまだ少なく,最近やっと関心が示されるようになったばかりのようである.

メタボリックシンドロームと理学療法

著者: 石黒友康

ページ範囲:P.1154 - P.1155

1.メタボリックシンドロームとは

 2005年4月,日本内科学会総会において日本肥満学会,日本動脈硬化学会,日本糖尿病学会など8学会より「メタボリックシンドローム診断基準」が発表されて以来,メタボリックシンドローム―内臓脂肪症候群―(以下MetSと略す)という言葉が話題に上らない日はない.特に2006年5月8日「平成16年国民健康・栄養調査の概要」が報道発表されてから,新聞紙上で数回にわたって特集が組まれるなど,現在最もホットな話題といえる.この調査によると現在40~74歳におけるMetSの有病者は約940万人,予備軍者数は約1,020万人,併せて約1,960万人がMetSの有病者と推定されている.日本人は欧米人と異なり,高度な肥満の割合が低いため,海外に比べ少なめに評価される可能性を指摘されているが,男性の2人に1人が,女性では5人に1人がMetSを強く疑われ,とりわけ40歳代の男性では40%以上がMetSの有病者と考えられている.日本人糖尿病患者で今回のMetS基準に合致する人数は,全体の30%程度と考えられている.

 さて,MetSは①内臓脂肪蓄積,②脂質代謝異常(高TG血症,低HD血症),③高血圧,④糖代謝異常の複合状態を指すが,この概念の源流は,1987年松沢らにより提唱された「内臓脂肪症候群」にある.それ以降1988年Reaven による「シンドロームX」,1989年Kaplaの「死の四重奏」が発表された.さらにDeFronzo はインスリン抵抗性を加えた病態を「インスリン抵抗性症候群」と呼び,内臓肥満を共通の基盤とし代謝異常が集積した病態を「マルティプルリスクファクター症候群」と総称するようになった.したがって肥満や糖尿病といった代謝領域においては,MetSたる考え方はかつてから存在し,決して新しい概念というわけではない.しかしながらこれまでMetSは,糖代謝異常⇔インスリン抵抗性⇔高インスリン血症(糖毒性)といった図式で,もっぱら2型糖尿病の発症の危険因子として論じられることが多かった.では今なぜMetSが注目されているかというと,MetSを構成する各因子はそれぞれ動脈硬化症の原因となるが,これらが集積することにより,血管障害リスクがいっそう増大することが明らかになったことにある.Haffneら1)は,2型糖尿病の心血管障害の死亡率は対照群に比べ40%高くなることを示している.

嚥下障害の理学療法

著者: 吉田剛

ページ範囲:P.1156 - P.1157

1.嚥下障害研究の近年の発展と現状

 嚥下障害は,小児から高齢者までの脳障害や神経・筋疾患,舌がん術後など広い範囲で,生命維持に直接関わる問題として注目されてきた.近年は,栄養サポートチーム(NST)の登場で,理学療法士も関与することが増えている.脳卒中患者の約半数は,初期に嚥下障害を併発し,唾液処理の不良による誤嚥性肺炎は生命予後を左右することが多い.胃瘻栄養へシフトして食物誤嚥は減少しても,唾液処理についての根本的解決策は見当たらない.

 嚥下についての研究は,メカニズムの解明から,代償的嚥下法の開発など様々な報告がある.評価手段として,ビデオ嚥下造影検査(VF)やビデオ内視鏡検査(VE)が用いられるようになってからの進歩は著しい.近年Palmerらは,プロセスモデルを用いて咀嚼を伴う嚥下の動態を説明し,VF時に咀嚼負荷条件を追加する必要性について示唆を与えた1).また,Shakerらが1997年に提唱した喉頭挙上不全による食道入口部開大不全に対し,頭部挙上練習で舌骨上筋を強化する方法2)は,本邦でも取り入れられている.2005年にBurnettらは,嚥下に合わせて自分でスイッチを入れる練習後に針電極による喉頭挙上筋への電気刺激療法を行い,その効果を報告した3).その際,表面電極法では逆に喉頭が下制したという報告もしており,われわれにとって注意すべき示唆が含まれている.2003年のStambolisらの報告4)は,VFで頸部固定によっても嚥下運動が影響を受けることを示唆しており,後述した筆者らの嚥下運動阻害因子に関する仮説を裏付けた.

ICFに基づく理学療法評価と介入

著者: 砂川尚也

ページ範囲:P.1166 - P.1167

 国際障害分類(ICIDH)が,2001年には国際生活機能分類(ICF)と改定された.内容については既に周知の通りである.すべての人が対象であること,背景因子(個人因子・環境因子)が加わったことで個人の生活機能を重視したことが特徴である.理学療法士にとっても,評価や治療効果を「より生活機能へ」,「より参加へ」向けていくことが必要となった.

 当院では,2003年に奈良による「ICFに準じた脳卒中患者の簡易総合評価システム」(以下,評価システム)の原案をもとに簡易総合評価チャートを作成した.その後,評価項目・内容の妥当性,ICF の3側面の傾向について検証・報告してきた.

 これまでの経過を踏まえ,若干の私見を加えながらICFに基づく理学療法評価について述べる.

呼吸理学療法の発展と課題

著者: 神津玲 ,   千住秀明 ,   北川知佳

ページ範囲:P.1168 - P.1169

1.近年の発展と現状

 わが国における呼吸理学療法は1950年代,肺結核の外科治療に伴う術後の呼吸機能温存を目的に,肺機能訓練(術前後の呼吸練習)として初めて登場した1).しかし,呼吸理学療法そのものの認知度と診療報酬の低さ,卒前・卒後教育の不備などから,理学療法士の関心は低く,それに取り組む者も少なかった.その後,1985年の在宅酸素療法の社会保険適用や,1990年代以降の急性期呼吸管理への関心の高まりを契機として呼吸理学療法は発展した.そのような時代背景とともに,欧米で呼吸理学療法や呼吸管理のトレーニングを受けた先達理学療法士,さらには本法に対して多大な指導と支援を惜しまなかった医師らによって,その普及と定着に向けた臨床活動,研究報告,さらには草の根的な講習会の開催などが行われてきた.このような多くの地道な取り組みは,呼吸ケアの質の改善に少なからず寄与し,対象者のQOの向上にも大きく貢献するとともに,その推進の原動力となった.さらにリスクマネジメント,EBM(evidence based medicine),診療ガイドラインといった時代の潮流に後押しされる形で,呼吸理学療法は発展を続けている.

 現在では,全国各地で講習会が開催されるとともに,教科書なども数多く出版され,呼吸理学療法を学ぶ機会に恵まれている.特に各種セミナーや講習会では,どの会場も盛況で絶えず受講者であふれている.それに伴うかのように,日本理学療法学術大会での呼吸理学療法関連演題数は,1990年代前半には1,2セクションであったものが,現在では10セクション以上にまで急増しており,その関心の高さが現れている.

介護予防と理学療法

著者: 島田裕之

ページ範囲:P.1170 - P.1171

1.介護保険制度下における介護予防の位置づけ

 要介護認定者数は増加の一途をたどり,2000年4月末~2004年8月末の間に,218.2万人から400.3万人へと83%の増加を示している.この中でも,要支援や要介護1といった比較的障害度の軽度な高齢者の増加率が著しく,新制度下ではこれらを要支援1と要支援2(新予防給付対象者)と改め,要介護状態の予防や状態の改善に焦点をあてた介護保険サービスが提供されることとなった.また,要支援や要介護状態となる危険性が高い高齢者を対象とした介護予防・地域支えあい事業は,介護保険により事業化されることとなり,一般高齢者施策と特定高齢者施策として各自治体において取り組みがなされている.

 これらの制度改革の背景には,高齢者の自立支援を最大の目標とする介護保険制度において,介護状態の予防が,実際には十分な効果をあげてきたとは言いがたい状況にあることや,この間の研究事業やモデル事業を通じて,介護予防サービスの有効性が明らかにされてきたことによる.現在の介護予防の課題として,厚生労働省「総合的介護予防システムについての研究班(主任研究者:辻一郎)」の報告によると,①これまでの介護予防サービスの中には介護予防効果が十分に検証されていないものもあった,②事業評価の取り組みが不十分であった,③介護予防を必要とする人たち(その効果が最も期待される人たち)が介護予防サービスを十分に利用していたとは言いがたい,④集団を対象として画一的なプログラムの提供が多かった,⑤事業が自己目的化する傾向があった,という問題点が挙げられている.

認知運動療法の発展と課題

著者: 沖田一彦 ,   宮本省三

ページ範囲:P.1172 - P.1173

 わが国における認知運動療法(esercizio terapeutico conoscitivo:ETC)の展開は,1992年の本誌にイタリアのリハビリテーション専門医Caro Perfett氏による翻訳論文1)が掲載されたことに始まる.その後,1998年の基本テキストの出版2),2000年の研究会の設立3),2004年のコースの整備4)を経て,現在は理学療法士(以下,PT)や作業療法士(以下,OT)に徐々に浸透し,臨床における実践が試みられている.本誌38巻11号(2004年)で特集が組まれたのは記憶に新しいが,ここでは理学療法の領域においてETがもつジレンマと今後の課題について述べたい.

褥瘡の理学療法の発展と課題

著者: 日髙正巳

ページ範囲:P.1174 - P.1175

1.褥瘡に対する理学療法士の関わりの現状

 理学療法士にとって褥瘡との関わりは,古くて新しい領域といえる.理学療法を実施していくうえで,褥瘡は活動性向上に対する大きな阻害要因とされ,褥瘡予防ならびにハバードタンクを用いた水治療法等の褥瘡治療にも,以前は関わっていた.しかしながら,運動療法を主体とするようになり,物理療法での取り組みは減少した.また, 理学療法士養成教育においても,脊髄損傷者に対する褥瘡予防ということで簡単に触れられる程度となり,褥瘡対応は他職種に委ねてしまうことが多くなった.そのような状況の中,社会情勢の変化等によって,改めて褥瘡に対して理学療法士が関わることが求められるに至ったといえよう.

スポーツ理学療法の発展と課題

著者: 小柳磨毅

ページ範囲:P.1184 - P.1185

スポーツ傷害に対する理学療法の現状と近年の発展,今後の課題について,社会的および医学的側面から述べる.

1.社会的側面

 1980年代からわが国の医療機関にスポーツ傷害を治療対象とする「スポーツ整形外科」が開設された.以後,スポーツ整形外科医と専門医療機関数とともに,理学療法士がmedical rehabilita-tioの段階からスポーツ傷害を治療する機会も増加した1,2).さらに理学療法士の活動の場は医療機関にとどまらず,スポーツ医科学の専門施設,プロスポーツや実業団,大学や地域におけるスポーツ選手の健康管理へと広がっている3~5).また日常業務とは別に,理学療法士が様々なスポーツ大会で医務班の一員として活動する機会も増え,スポーツ医療における理学療法士の認知度が高まってきた6).最終目標である傷害予防の実現には,日常的に選手の健康管理を支援する活動が必要不可欠である.近年,理学療法士がクラブ活動をはじめとするスポーツ現場を定期的に訪問し,体力測定やトレーニング指導,傷害予防のための講習会などが行われるようになった(図1).活動に伴う経費などの問題7)をクリアする必要があるが,傷害予防の客観的な成果を示す報告8)もみられ,その価値が認識されて“スポーツ選手に対する地域リハビリテーション”として定着することが望まれる.今後,こうした学校保健やクラブスポーツへの継続的な介入とその成果の蓄積が,理学療法士にとって最も重要な課題のひとつになると考えられる.

在宅理学療法の発展と課題

著者: 金指巌

ページ範囲:P.1186 - P.1187

 「在宅理学療法」とは,「在宅リハビリテーション(以下,リハ)」や「訪問リハ」等の,家庭で生活する障害者や高齢者等に対して理学療法士(以下,PT)によって行われる活動を総称した用語である.しかし,これは「地域リハ」という広義の活動の中に包含されるものであるため,在宅の理学療法に限定したことがこの場で論じられるのかという疑問はあるが,あえて在宅の生活者に対するPTの活動について,将来展望も含めて述べていきたい.

下肢切断と理学療法―現状と発展そして今後の課題

著者: 畠中泰司

ページ範囲:P.1188 - P.1189

1.はじめに

 従来,下肢切断の原因は外傷によるものが多く,骨の悪性腫瘍や循環障害などの疾病による切断は少ないといわれてきていた.しかし,最近の報告では,糖尿病による足部壊死や末梢循環障害による疾病で切断を余儀なくされる高齢者の増加が指摘されている.このような高齢切断者は,残存機能の低下に加え,他の疾病を併発しており,多くの問題を抱えていることから,義足歩行の獲得を断念せざるを得ない場合がある.そのため高齢者の下肢切断者では,義足歩行が獲得できない場合の移動方法なども視野に入れて対応をしなければならない.しかし一方では,一側下肢切断者の機能は,義足の開発が進んできたことに相まって義足装着で高い能力を発揮する切断者がみられようになり,若年の大腿切断者の中には義足装着で交互走行を獲得できるまでになっている.

 本稿では,これまでに開発され処方されるようになっている義足のソケットや継手および部品について概説し,その対応についての私見を述べる.

疼痛と物理療法

著者: 川村博文

ページ範囲:P.1190 - P.1191

1.疼痛の把握と物理療法の評価および治療技術の現状

 国際疼痛学会は「痛み(疼痛)とは,生体の実在上あるいは潜在的な組織傷害に伴って起こる知覚的,情動的な不快体験である」と定め,実在上の組織損傷に伴って起こる知覚的な不快体験としての疼痛が存在する一方で,潜在的な組織損傷に伴って起こる情動的な不快体験としての疼痛は心理的要因が関係するとされている.

 日本理学療法白書の中では,物理療法の定義を「物理的なエネルギー(熱・水・光・電気・徒手) を外部から人体に応用し,疼痛の緩和,循環の改善,リラクセーションの目的で使用する治療法である.温熱療法,水治療法,光線療法,電気治療,マッサージに分類される」1)と述べている. このように物理療法の対象者の多くは痛みをもつ患者にもかかわらず,前述の痛みの定義でわかるように,痛みは極めて主観的で刻々と変動することもあり,痛みを把握することは困難で,物理療法の各疼痛治療に関する評価および治療技術の確立をも阻んできた.したがって,その治療技術, 評価技術には多くの創意と工夫を行い,効果的な運動療法との併用も重要で,さらに情動的なタイプの疼痛には心理学的・社会科学的な学際的アプローチを用いることが不可欠となる.

NICUにおける理学療法の発展と課題

著者: 細田里南

ページ範囲:P.1192 - P.1193

 わが国の新生児医療の進歩として,新生児死亡率の低下・周産期医療への波及・超低出生体重児生存率の向上・後遺症発生率の減少などが挙げられる1).これに伴い,理学療法士のNICU への進出が増加している.対象としては,障害児に限らず,早産や低体重で出生された児への介入も少なくない.本稿では,NICUにおける理学療法領域の現状と発展に加え,今後期待される課題について述べる.

肩関節疾患の理学療法

著者: 立花孝

ページ範囲:P.1202 - P.1203

この四半世紀の肩関節に関するトピックスといえる事柄についてその変遷と現状を振り返る.

1.肩甲上腕リズム

 随分古い時代の話になるが,Codman(1934)が肩はある一定のリズムでよどみなく動くと指摘し,Inman(1944) がその「ある一定のリズム」を具体的な数値で示した.それは,現在もなお通説として受け入れられている「2:1説」の元になるものであった.以後,リズムが存在することは認めつつ,一律に2:1であることは否定する報告が多く出されているが,どういう訳かInmanの説が通説となっている.

 遅ればせながらも理学療法関連学会においても多くの報告がみられ,肩のバイオメカニクスの入り口的存在になっている.まとめると下垂位に近いほど肩甲上腕関節の割合が高く,挙上位になるほど肩甲骨の割合が高くなるが全体的にみるとやはり2:1というところだろう.

 使い古された感がある言葉だが,概念だけが先走りし,臨床的に十分活用されているかどうかは疑問である.肩甲骨が本来とは逆の方向に動いていないか,肩甲骨の上方回旋の角度は十分か,最大挙上位ではゼロポジションになっているかなどがポイントである.

産業理学療法の発展と課題

著者: 藤村昌彦 ,   奈良勲

ページ範囲:P.1204 - P.1205

 タイトルの「産業理学療法」という用語が,わが国のジャーナルで最初に紹介されたのは,筆者らが調べたかぎりでは,1998年の本誌(理学療法ジャーナル32巻)の特集(産業理学療法)が企画されたときである.当時奈良は,特集の中でアメリカ理学療法協会の専門領域の1つである“occupational health”を紹介し,わが国でも「産業理学療法」を発展させることの必要性を提唱している1).それより,5年前の1993年には日本理学療法士学会(現在の日本理学療法学術大会)の演題分類の1つに「産業・労務管理」が加わり5演題が発表されている経緯からして,この頃にわが国の「産業理学療法」が芽生えたと推察される.

 わが国において,産業と医療の関係が法的に整備されたのは,今から30数年前の労働安全衛生法(1972年)である.法整備以前にも,明治初期から産業保健活動は行われており,当時,繊維業に多発した肺結核の予防に寄与している2).その後,産業保健の対象疾病は,(1)致死性疾病から非致死的疾病,(2)急性疾病から慢性疾病,(3)多発疾病から散発疾病,(4)職業性疾病から作業関連疾病・一般疾病へとその関心は推移してきた3).さらに予防医学の進歩とともに,有害環境に対する衛生工学的な対策が進展し,事業所における有害環境への対策が整備された.最近では,産業保健の関心は,作業関連疾患,特に労働作業に由来する筋骨格系の疾患や健康増進・メンタルヘルスにも注目されるようになってきた.

脳卒中の理学療法の発展と課題―技術の進歩とエビデンス

著者: 潮見泰藏

ページ範囲:P.1206 - P.1207

 近年,画像診断技術の進歩に伴い,脳科学の分野における新しい研究成果が数多く報告されている.理学療法と関連した分野では,脳傷害後に運動学習によって大脳皮質に生じる可塑的変化との関係が明らかにされつつある.Nudらによって,成熟脳でもトレーニングによって皮質運動野に可塑的変化の生じることが初めて実証された研究1)は特に重要である.これ以降,この「使用頻度に依存した再構成(use-dependent reorganization)」の考え方に基づいて考案された脳卒中患者に対するconstraint induced movement therapy(CI therapy)や,トレッドミルを用いた早期(部分免荷)歩行トレーニングの有効性について数多く報告されている.わが国でもfull-time integrated training program(FIT)のように高強度・高頻度のリハビリテーションを提供することで,より大きな機能回復につながることが示されている.

 さらに,わが国でも徐々に導入されつつある脳卒中ユニット(stroke unit)における多角的なチームアプローチによるリハビリテーション環境の有効性については,無作為化比較対照試験の結果により証明され,国際的にもコンセンサスが得られている.脳卒中ユニットの有効性は,歩行能力,日常生活活動,自宅復帰率,在院日数,医療費,生存率について認められている.この脳卒中ユニットは,理学療法室におけるADLと病棟とのADLに差がないこと,家族への指導・教育が積極的に行われること,などの特徴をもっている.その根拠として,運動・練習の効果は介入量に応じてその介入した課題に特異的に認められることが示されている.このように理学療法の分野にも新しい脳科学における研究成果の一部は徐々に取り入れられつつある.しかし,脳科学の研究知見が,理学療法のような治療実践に具体的に応用され,かつそれが体系化されるまでには,さらにまだ多くの時間が必要であろう.

脊髄損傷の理学療法

著者: 小野田英也

ページ範囲:P.1208 - P.1209

 脊髄損傷者(以下,脊損者と略)のリハビリテーションの歴史は合併症治療の歴史といっても過言ではない.呼吸器合併症,尿路感染症,褥瘡は脊損者の3大合併症といわれ,昔はただ死を待つばかりであった.3大合併症の治療方法が確立され,生命予後が格段に向上するに従い,病院・療養所内で無為に過ごさざるを得ない脊損者が多く存在するようになった.彼らの能力を生かし,入院生活に潤いをもたせようとStoke Mandeville病院のDr.Guttmannによって始められたのがパラリンピックの前身である国際ストークマンデビル車いす競技会である.これをきっかけに脊損者の社会復帰が進み,リハビリテーションが発展していった.

 リハビリテーション,ノーマライゼーションの普及,社会環境の整備,福祉用具の発達等により,高位頸損者も社会復帰できるようになり,街中で車いすを使用し,移動する脊損者を見かけるようになってきた.脊損者の社会復帰が一般化した現在においても歩行は脊損者の最大の関心の1つである.いわゆる障害受容ができた脊損者でも再び歩行可能となるといわれれば,これを拒否する人はいないであろうし,脊損者にとって歩行は永遠の願いである.脊損者の歩行を考える場合,キーワードは歩行用装具と脊髄再生である.

救命救急センターにおける理学療法

著者: 木村雅彦

ページ範囲:P.1212 - P.1213

 今日の救命技術の進歩と多様化は,重症患者の救命率を飛躍的に向上させ,患者の障害像と理学療法の臨床的な可能性をも多様化させている.現在の救命救急センターは,多職種が隣接領域の知識と視点を共有しながら連携して集学的治療を行う場であり,病態生理学と分子生物学に基づいた救命技術と医用電子工学の最先端である.そして,受傷や発症後早期から理学療法士が予防的介入を開始して障害を最小化し,究極的に“後遺なき救命1)”を目指す最前線でもある.

精神疾患の理学療法―三位一体(身体・精神・環境)の取り組み

著者: 仙波浩幸

ページ範囲:P.1214 - P.1215

1.EBM(evidence based medicine)とどう向きあうか

 格差社会の報道を聞かない日はない.経済,所得,消費,資産など様々な不均衡の状況を勝ち組,負け組と二分しての議論は功罪相半ばするが,論点を明確にするには便利である.結論から先に述べると,勝ち組理学療法士とは,EBMを利用して,三位一体の情報発信ができる者を示す.EBMは,ややもすると高価な測定機器を使用し,厳格で洗練された研究デザインでなければ無価値だという雰囲気であるが,そうは思わない.日常業務を遂行したことで自慢できること,あるいは繁忙な業務の苦労を客観的に分析することなど,日々精進し経験を積み重ねなければ発見しえない多くの知見,つまり,オリジナルな視点,仮説から得られるプレミアムな情報がはるかに重要である.

 理学療法帰結(アウトカム)は,精神症状,どこの施設でどのような内容のインテンシブな治療をしたか,衣食住の状況,地域サービスの充実度やマンパワーなどの社会資源,家族支援状況が大きく影響する.ところが,精神障害や環境(治療する場所の質,社会資源,家族支援,QOLなど) が重要なパラメーターとして十分に取り扱われてきたであろうか.身体機能・障害のみならず,精神障害,環境を三位一体(図)で取り上げることができて有意義な帰結研究が成立すると考える.

 小泉内閣から安倍内閣に政権交代した.安倍総理の言葉を拝借すると,理学療法士は,三位一体(身体障害,精神障害,環境)による情報発信ができ,「美しい職業理学療法士」(美しい国日本)を確立すべく,真の価値のある情報,研究成果の獲得に「闘う理学療法士」(闘う政治家)でありたい.今回は,与えられたテーマである精神障害について持論を展開したい.

理学療法部門のマネジメント

著者: 渡辺京子 ,   西潟央

ページ範囲:P.1210 - P.1211

 処方,評価,リハビリテーション(以下,リハ)目標設定,理学療法(以下,PT)プログラム立案,治療という流れは従来と変わらないが,社会全体に患者中心の医療サービス提供や医療の質が求められ,病院においては在院日数の短縮,患者・家族および医療チームと策定したリハ総合実施計画書の作成,説明と同意が必須となった.2006年4月の改定では単位数は緩和されたが,疾患別の治療期間の上限や診療報酬の差別化などにより,リハ部門の収益が病院経営に影響を及ぼすようになった.さらにIT 導入による電子情報の躍進の一方で個人情報保護法制定など,PT を取り巻く医療環境は厳しくなっている.また養成校の増数に伴い療法士不足は緩和されたが,臨床実習受け入れ学生数の増加,職場においては経験年数の少ない職員が大半を占めるようになり,新人やキャリアアップの教育,後継者の育成などの人材教育を含めた部門管理が重要になってきている.

インタビュー 先輩理学療法士からのメッセージ

首藤茂香氏に聴く

著者: 首藤茂香 ,   奈良勲

ページ範囲:P.1141 - P.1146

奈良 今回の対談は,「先輩理学療法士からのメッセージ」ということで,日本の理学療法の草創期からご活躍いただいております理学療法士の足跡をたどりつつ,若手へのメッセージをいただきたいという趣旨です.

 今日は,首藤さんにご参加いただき,3つの点についてお話をうかがいたいと思っています.1つは,理学療法士として臨床現場でどのようなお仕事をされてきたか,2番目に,日本理学療法士協会の役員のご経験,そして最後に,2003年(平成15年)に設立されました,日本理学療法士連盟についてお話しいただきたいと思います.最初に,首藤さんが理学療法士になられたきっかけや,その当時の思いについてお聞かせください.

髙橋てる雄氏に聴く

著者: 髙橋てる雄 ,   高橋正明

ページ範囲:P.1159 - P.1165

高橋(正) 本日は,「理学療法の発展と課題」という大きな企画の下,髙橋てる雄先生にお話をうかがいます.先生の臨床家として,また教育者として,また協会等でのお仕事の長いご経験,ご経歴から,若い方たちへのメッセージをいただきたく思います.

田口順子氏に聴く

著者: 田口順子 ,   永冨史子

ページ範囲:P.1177 - P.1183

永冨 本日は,「先輩理学療法士からのメッセージ」ということで,日本の理学療法の草そう期から,世界の理学療法と日本の理学療法の接点をみてこられた田口順子先生に,国際活動・リーダーとしてのご経験,そして女性理学療法士としての視点について,お話を伺いたいと思います.どうぞよろしくお願いいたします.

田口 よろしくお願いします.

 まず,理学療法ジャーナル創刊40周年おめでとうございます.

 当初の「理学療法と作業療法」と理学療法協会の設立の歩みは同じ年に出発いたしました.協会はわずか110名で1966年7月にスタート致しましたから協会誌など出版する力はなく,翌8月に協会の準機関誌として協力いただけるよう医学書院に伺いました.そして翌年の1967年1月に医学書院から「理学療法と作業療法」が発刊されたのです.創刊号に掲載された砂原茂一先生の玉稿は今も記憶に残っております.

武富由雄氏に聴く

著者: 武富由雄 ,   鶴見隆正

ページ範囲:P.1195 - P.1201

鶴見 『理学療法ジャーナル』の40周年を記念して,「理学療法の展望」という特集号を出すことになりました. 理学療法の草そう期からその発展にご尽力をいただいた先輩から, 若い理学療法士たちへのメッセージをいただく企画コーナーです. 本日は武富先生にご出席いただきました.私は,先生の臨床,臨床研究,教育活動, そして社会貢献をずっと拝見してきました.先生は理学療法士が法制化されるときから, 現在の5万人体制になるまでに発展したわが国の理学療法界の「生き証人」だと思っています. 常にひたむきに, 前 向きに活動されてこられた先生を見ていて, そのエネルギーの源はどこにあるのかということを常々思っておりましたので, これからの対談を楽しみにしています.

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編集後記

著者: 理学療法ジャーナル編集室

ページ範囲:P.1216 - P.1216

●増刊号編集後記

 本誌「理学療法ジャーナル」の前身である「理学療法と作業療法」が創刊されたのは,1967年1月です.第1回の国家試験実施から約1年後の創刊で,当時の編集委員は砂原茂一先生,上田 敏先生,高橋 勇先生,渡辺昭二先生,山崎 勉先生,駒沢治夫先生,鈴木明子先生,松本妙子先生でした.1988年12月号をもって「理学療法ジャーナル」(医学書院刊)と「作業療法ジャーナル」(三輪書店刊)として発展的に分離独立し,2006年の今年,創刊40周年を迎えました.これもひとえに,歴代の編集委員,数多くの執筆者,そして読者の皆さまのご支援の賜物と深く感謝申し上げます.

 本増刊号は「理学療法の展望2006」と題してお届けいたしました.まず,巻頭座談会にて,理学療法の歴史の中でも特に変化が大きかったこの10年を概観し,今後の展望について論じていただきました.続いて,第1部,第2部にて各領域別の現状と課題を示していただきました.また,日本の理学療法の草創期から活躍されてきた先生方の足跡をたどりながら,後輩セラピストへの様々なメッセージをいただきました.様々な角度から言及していただいている将来展望について,10年後にどのような感慨を持って読み返すことになるのでしょうか.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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