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特集 理学療法の展望2006 第Ⅱ部 理学療法の発展と課題
生態学的アプローチの発展と課題
著者: 冨田昌夫1
所属機関: 1藤田保健衛生大学衛生学部
ページ範囲:P.1150 - P.1151
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生態学的アプローチ(ecological approach)とはギブソンが唱えた生態学的心理学のことである.本稿では,この概念を運動療法に応用した私の体験に関して述べる.
私たちは物の操作や移動など行為をするとき,対象や自分の身体を,自分の力で自分がやりたいように操作でき,何度でも繰り返して同じ動作をすることができると考えてはいないだろうか.だから視覚的,機械的に動作を分析し,運動の軌道を事前に学習,記憶できればその動作を現実的に繰り返し,何度でも実現できると信じている.ところが,生きて,呼吸をし,循環をしている動物が,まったく同じ身体状態で環境に働きかけ,動作を繰り返すことは不可能である.同じ運動の軌道はその都度,微妙に違う身体で,違う筋を調節的に働かし,わずかだが違うやり方で環境と相互関係を築くことで調整し,実現している.本来このような筋緊張や知覚システムを協調させる知覚循環は自律的に行われ,意識にのぼることなく動作の準備状態が整えられ,合目的な運動が遂行されるので,自分の力でやりたいようにやっていると思い込んでいるだけである.健常であれば自律的に整えられる動作の準備状態が,理学療法対象者では整えられなかったり,不都合がある場合, どうすればよいのか戸惑ってしまったり,余分な力を入れて運動の自由度を制限し,環境に適応できるバリエーションを制限してしまうことが少なくない.“分析的なやり方の指導”や“動作の実行機関である身体の力や可動域を拡大して正常化する”ことを目的とした身体内部へのアプローチから一歩抜けだし,生態学的心理学の概念に基づいて,知覚することと働きかけることを繰り返し,環境に適応した動作を学習するための運動療法の展開を考えてみたい.
生態学的アプローチ(ecological approach)とはギブソンが唱えた生態学的心理学のことである.本稿では,この概念を運動療法に応用した私の体験に関して述べる.
私たちは物の操作や移動など行為をするとき,対象や自分の身体を,自分の力で自分がやりたいように操作でき,何度でも繰り返して同じ動作をすることができると考えてはいないだろうか.だから視覚的,機械的に動作を分析し,運動の軌道を事前に学習,記憶できればその動作を現実的に繰り返し,何度でも実現できると信じている.ところが,生きて,呼吸をし,循環をしている動物が,まったく同じ身体状態で環境に働きかけ,動作を繰り返すことは不可能である.同じ運動の軌道はその都度,微妙に違う身体で,違う筋を調節的に働かし,わずかだが違うやり方で環境と相互関係を築くことで調整し,実現している.本来このような筋緊張や知覚システムを協調させる知覚循環は自律的に行われ,意識にのぼることなく動作の準備状態が整えられ,合目的な運動が遂行されるので,自分の力でやりたいようにやっていると思い込んでいるだけである.健常であれば自律的に整えられる動作の準備状態が,理学療法対象者では整えられなかったり,不都合がある場合, どうすればよいのか戸惑ってしまったり,余分な力を入れて運動の自由度を制限し,環境に適応できるバリエーションを制限してしまうことが少なくない.“分析的なやり方の指導”や“動作の実行機関である身体の力や可動域を拡大して正常化する”ことを目的とした身体内部へのアプローチから一歩抜けだし,生態学的心理学の概念に基づいて,知覚することと働きかけることを繰り返し,環境に適応した動作を学習するための運動療法の展開を考えてみたい.
参考文献
1) Thomas J. Lombardo(古崎敬,境敦史,河野哲也監訳):ギブソンの生態学的心理学その哲学的・科学的背景,勁草書房,pp27-28,2000
2) 佐々木正人:アフォーダンス新しい認知の理論,岩波書店,1994
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