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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル40巻3号

2006年03月発行

雑誌目次

特集 腰部・下肢関節疾患の理学療法―姿勢・動作の臨床的視点

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.161 - P.161

 腰部・下肢関節疾患に対する理学療法では,障害局所の評価や治療に加えて,アライメントもしくは姿勢と動作など,患者の全体像にまで視点を広げて評価を行い,治療戦略を組み立てることが重要である.その治療戦略の組み立てには,高度にデジタル化されたハイテク動作解析装置以上に,臨床家の「眼力」が鍵を握ることになる.本特集では,経験豊富な理学療法士諸氏に,腰部・下肢関節疾患の理学療法における姿勢と動作の臨床的視点の重要性から実際の治療まで,具体例を交えながら解説いただいた.

腰部・下肢関節疾患に対する姿勢・動作の臨床的視点と理学療法

著者: 加賀谷善教 ,   藤井康成

ページ範囲:P.163 - P.170

はじめに

 地球上のあらゆるものは,常に重力という負荷を受けている.無負荷の状態であっても,一瞬たりとも休まない重力という強大なエネルギーに逆らって姿勢を保持し,自分の身体を移動させることが求められる.われわれ人間は,経験的に一関節に特定の負荷が加わらないよう効率的に動作を遂行しているが,一方で筋活動を抑制し,骨・靱帯性支持を用いることで,無意識的に楽な姿勢をとろうとしている(図1).これらの一時的な姿勢や崩れたバランスは立て直すことが可能だが,その状態が恒常的に継続すると,重力に抗する力学的作用でそれを補う力が生じ,身体のバランスをとるようになる.やがてその非効率で誤った動作や代償的動作が学習され,他の近接関節にまで影響を及ぼす.

 腰部・下肢関節疾患の理学療法をデザインする上で重要なのは,この不良姿勢や誤った身体操作によって生じる負荷を推定し,その負荷を減弱させるための効果的な理学療法モデルを立案することである.そのためには,身体に生じる負荷の特性を知り,実際の動作中にどのような負荷が生じているかを評価できる視点が必要である.本稿では,姿勢・動作からみた理学療法モデルの考え方を,骨関節疾患の理学療法例に触れながら,アライメント評価の観点から解説する.

腰部疾患に対する姿勢・動作の臨床的視点と理学療法―腰部脊柱管狭窄症に対する理学療法アプローチ

著者: 石井美和子

ページ範囲:P.171 - P.177

はじめに

 社会の超高齢化が進み,慢性腰痛や下肢症状に悩み整形外科を受診する中高年者はますます増加している.それらの症状を訴える中高年者は,その大部分が実は腰部脊柱管狭窄症(以下,本症)であるといわれる.将来的に症状が進行する恐れさえあるにもかかわらず,日常生活にそれほど支障がなければ「加齢変化による症状」として認識され,具体的な解決策が明確に提示されていないのが現状である.

 本症の病因は先天性と後天性に大別され,さらに原因疾患によって分類されるが,そのうち最も頻度が高いのが退行変性による変形性脊椎症,変性すべり症である.これらの疾患は,腰椎周辺組織の生理的加齢変化に加え,変性を惹起させるストレスが繰り返し加わった結果であると捉えられている.したがって,他の関節における退行変性疾患同様,日常の姿勢や動作に病態をつくりだした原因の多くが隠されている.理学療法分野においてはそれらに対してアプローチを展開することで,進行予防も含めた対応ができると考える.本稿では,退行変性による本症に特徴的な姿勢・動作を含めた障害構造と,それに対する理学療法アプローチについて述べたい.

変形性股関節症に対する姿勢・動作の臨床的視点と理学療法

著者: 加藤浩 ,   大平高正 ,   今田健 ,   奥村晃司 ,   木藤伸宏

ページ範囲:P.179 - P.191

はじめに

 ここ数年,変形性股関節症(以下,変股症)の理学療法に関する学会発表を聞くと,10年前と比較して明らかに研究内容が変化してきたように思う.それは,障害構造のとらえ方が従来の股関節に限局した局所的視点から,本特集のテーマでもある「姿勢」や「動作」といった全身的視点へシフトしてきたことである1~3).これらの研究は福井ら4)の力学的平衡理論にそのヒント得たものが多く,若い読者には是非,この成書を一読し,思考をブラッシュアップすることを勧める.

 さて,この理論に関連して木藤ら5)は,下肢関節の運動連鎖(kinetic-chain:以下,KC)の機能に着目し,変形性膝関節症を「合理的な関節運動連鎖と筋活動が障害されることにより,膝関節が有する機能解剖と運動の合理性から逸脱し,膝関節内に異常な圧縮・回旋ストレスが作用した結果生じる,膝を主症状とする運動連鎖機能不全症候群(kinetic-chain-dysfunction syndrome:以下,KCDS)」と定義し,患者の姿勢や動作の異常を多角的に分析し,新たなる視点から運動療法戦略を提案している.筆者はこのKCを考える場合,以下の3つの機能的(システム)要素に集約することができると考えている.すなわち,①骨格構造機能(skeletal system),②筋出力機能(muscular system),③神経機能(nervous system)である(図1).本稿では,上記の3つの機能的要素をキーワードに,主に矢状面上からみた変股症の立位姿勢の特異的評価とその具体的運動療法プログラムについて紹介する.

変形性膝関節症に対する姿勢・動作の臨床的視点と理学療法

著者: 木藤伸宏 ,   阿南雅也 ,   城内若菜 ,   辛島良介 ,   石井慎一郎 ,   金村尚彦 ,   新小田幸一

ページ範囲:P.193 - P.203

はじめに

 運動器疾患は,高齢者が要介護状態となる主要な原因疾患の1つとなっている.高齢化の進んだ現在の日本社会において,運動器疾患対策は,高齢期におけるQOLの面のみならず,財政的にも社会保障上の大きな課題となっている.

 近年本邦における平均寿命の延長は,運動器について考えるうえで欠くことができない骨・関節の問題を急増させている.しかしながら,その需要に答えるための加齢による骨・関節疾患の理学療法治療技術の進歩は十分とは言えず,保存的治療については関心が薄いのが実情である.

 特に変形性膝関節症(以下,膝OA)は,古くから理学療法の対象疾患でありながら,多くの施設で筋力や関節可動域の改善のみを理学療法のターゲットとしていることは否めない.これまでの膝OAの理学療法とは,膝を中心とした組織のみに焦点を当てた運動療法であり,下肢伸展挙上運動を中心とした大腿四頭筋の筋力改善が主流を占めてきた.しかし,大腿四頭筋筋力改善が膝OAの進行防止に有効であるのか,その頻度や期間についても決定的なエビデンスは提示されていない.

 膝OA患者の多くは薬物療法,足底挿板,物理療法などの保存的治療を受けている.理学療法士による,本格的な膝OA治療を目的とした理学療法を受けている患者数は,上記の治療のみを受けている患者数に比較して圧倒的に少ないと推測している.その理由としては,膝OA患者の多くは地域の医院を受診しており,そこに勤務する理学療法士が少ないこともある.筆者は臨床を行う中で,膝OAの理学療法は,疾患の進行を遅らせる,または停止することができる根治的治療法の1つであると確信している.

 本稿では,膝OA発症と進行の成因を生体力学的観点から述べ,その観点から理学療法を展開する上で欠くことのできない姿勢・動作様式の評価方法,さらに症例提示を通して理学療法戦略を論じていく.

足部・足関節障害に対する姿勢・動作の臨床的視点と理学療法

著者: 中江徳彦 ,   小柳磨毅 ,   田中則子 ,   岡田亜美 ,   中島充子 ,   伊佐地弘基

ページ範囲:P.205 - P.210

はじめに

 足部は多数の知覚終末を有する抗重力姿勢の支持基底面であり,足関節とともに運動連鎖の起点として姿勢制御に重要な役割を果たしている.このため足部・足関節障害に対する理学療法の評価と治療は,障害部位の局所にとどまらず,下肢から体幹へと全身的なアプローチが必要となる.本稿では足部・足関節障害に対する理学療法を,姿勢と動作に関連した臨床的視点から述べる.

とびら

介護保険制度改定に思う

著者: 佐藤浩哉

ページ範囲:P.159 - P.159

 平成18年4月,介護保険制度の改定が行われます.日本理学療法士協会では制度改定に向けて活発な動きを展開していますが,岩手県理学療法士会(以下,岩手士会)でも動きを加速させています.

 介護予防元年に向け,平成17年7月,岩手士会は有限責任中間法人岩手県地域理学療法支援機構を立ち上げ,同年9月機構附属の「訪問看護ステーションいわて」を開所させました.岩手士会とは別組織となりますが,実質的には岩手士会としての事業所の開設となります.

報告

新人理学療法士が求める理学療法責任者のリーダーシップ行動について

著者: 村田伸 ,   松尾奈々 ,   溝田勝彦 ,   津田彰

ページ範囲:P.211 - P.217

緒言

 新人理学療法士(以下,新人PT)が患者のニードにあった理学療法を展開するためには,理学療法についての基本的な知識や技術を習得していることの他,良き指導者がいること,勤務している職場の環境や業務内容に満足していることなどが必要と考えられる.なかでも職場での人間関係,とりわけ理学療法責任者(以下,PT責任者)との関係のあり方は,円滑に理学療法を実施するために,特に重要と考えられる.

 そこで本研究では,PT責任者の態度や行動が,新人PTに影響を与えているという視点から,これらをリーダーシップ1~3)として捉え,研究を進めた.なお,本研究におけるPT責任者とは,理学療法の現場責任者であり,理学療法士であることを条件に調査した.組織における管理者のリーダーシップについては,すでに多くの研究が行われ,上司のリーダーシップが部下の仕事に対する意欲や生産性に影響を及ぼすことが明らかにされている1~4).医療関係職種においては,看護師を対象とした研究が散見される2,5,6).吉田ら2)は,病院における看護師長の行動が,看護スタッフの意欲や満足度に与える影響が大きいことを報告している.しかし,医療施設における理学療法士のリーダーシップ行動について検討した報告は,筆者らが知り得た範囲では見当たらない.

 本研究の目的は,新人PTが期待するPT責任者の行動を明らかにし,PT責任者に期待されるリーダーシップを行動として測定するための尺度構成を検討することである.

正常圧水頭症における運動障害の特徴―UPDRS運動能力検査を用いた検討

著者: 石井光昭 ,   伊藤清弘 ,   田代弦 ,   秋口一郎

ページ範囲:P.219 - P.222

はじめに

 正常圧水頭症(normal pressure hydrocephalus;以下,NPH)は,髄液循環障害に起因する脳室拡大を呈し,3徴候として歩行障害,尿失禁,認知障害を来す疾患であり,1965年HakimとAdamsによって報告された1).NPHの病態は,当初の拡大した脳室系から直接的に圧迫や影響を受ける白質が主座とする考え方から,現在は白質はもとより,大脳灰白質や種々の神経核とそこに存在するニューロンが独自に,または二次的に損傷を受けているとする考え方にかわっている.初期であれば髄液の排除によって改善を得る可能性があるが,見逃されていることも少なくない.NPHによる認知障害は「治療可能な認知症」として注目されているが,3徴候のうちで発生頻度が最も高いのは歩行障害であり2),理学療法の対象としても重要である.

 NPHの歩行障害は,歩隔の拡大,すり足歩行,歩幅の減少を特徴とする3).しかし,歩行不能な症例も少なくなく,NPHの運動障害の臨床像は明確ではない.NPHの運動障害の特徴を明らかにするためには,以下の理由から短絡術(シャント術)前後の評価を比較することが必要と考えられる.NPH診療ガイドラインには,possible,probable,definiteの3段階の診断基準が示されている4).それによると,高齢者で歩行障害,認知障害および尿失禁の1つ以上の症状ならびに脳室拡大があり,髄液圧が正常範囲のものがpossible,その中で基本的に髄液排除試験に反応したものがprobable,シャント術に反応したものがdefiniteである4).したがって,シャント術前に顕著な障害を示し,かつシャント術によって改善がみられる検査項目が,NPH診断確定例における運動障害の特徴を反映しているものと考えられる.そして,術後にも残存する障害が理学療法の対象と考えられる.

 Kraussら5)は,NPHでは高頻度にパーキンソン症候が出現することを報告している.このことを根拠として,当院ではUnified Parkinson's Disease Rating Scale(以下,UPDRS)の運動能力検査6)を,NPHの評価の1つとして用い,理学療法士が脳室腹腔短絡術(以下,VPシャント)前後の評価を実施してきた.本研究の目的は,UPDRSを用いてNPHの運動障害の特徴を明らかにすることである.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

Central Pattern Generator

著者: 谷浩明

ページ範囲:P.223 - P.223

 CPG(central pattern generator)は中枢パターン発生器と呼ばれ,歩行をはじめとする移動(locomotion)や呼吸運動のようなリズミカルな運動を自動的に発生させる神経回路網のことを指す.図は簡単なCPGの概念図である.入力は,ニューロン1の活動を引き起こし,屈筋群を働かせる.続いて,ニューロン2,3を介して,伸筋群とニューロン4の活動を引き起こす.このループによって,屈筋群と伸筋群の交互の収縮パターンが実現できる.

 こうしたCPGのレビューとしてはGrillnerら1)の書いたものが有名だが,Shikら2)の60年代の実験はその基礎となっている.彼らは,上位中枢から切り離したネコの脊髄を刺激することで正常な歩行に似た下肢のパターンを誘発している.上位中枢からだけでなく,求心路が遮断された状態でも同じパターンが出現することから,脊髄内の神経回路だけでこの運動を実現できることが裏付けられた.しかし,これらの回路が自動的にパターンを発生させることが可能であっても,実際の歩行には,図に示したような上位中枢,求心性入力による駆動・制御が必要になる.

ひろば

関東学生交流会 頑張ろう!! 理学療法士のたまごたち2005秋を終えて

著者: 藤井伸行

ページ範囲:P.224 - P.225

◎『頑張ろう!! 理学療法士のたまごたち』とは

 2005年3月13日,北里大学において『頑張ろう! 理学療法士のたまごたち2005春』が開催されました.これは理学療法士(以下,PT)を目指す学生による,学生同士の交流と幅広い知識の獲得を目的とした会で,関東地区では初めての開催でした.企画・運営にあたっては北里大学の諸先輩方が尽力され,第1回目の交流会は盛況のうちに終えることができました.

理学療法の現場から

理学療法の正念場―ケアマネジメントの現場から見えるもの

著者: 丹野克子

ページ範囲:P.226 - P.226

 現在の私の仕事は,居宅介護支援事業所の専任専従の介護支援専門員(ケアマネジャー)である.理学療法士としての業務は行わず,ケアマネジメントだけに従事している.その意味では今回は「理学療法士が行なうケアマネジメントの現場から」である.理学療法士になって約20年,ケアマネジメントのアセスメントやプロセスにその経験を存分に生かしている.

 この仕事をしていると,在宅の高齢者には理学療法に対する潜在的ニーズが多くあることに気づく.さらに,そのニーズが認識されにくいことにも気づかされる.例えば,左片麻痺になって5年になる70代の男性が,入院治療中にはできていた「起き上がり」が,在宅生活が長くなるにつれ全介助レベルになっている.介護する妻も,定期的に訪問する医師や看護師も,動作の再学習による回復が期待できることを知らない.

入門講座 家屋改造のポイント 3

段差,玄関の家屋改造のポイント

著者: 金指巌

ページ範囲:P.227 - P.232

はじめに

 理学療法士として患者のリハビリテーションに携わっていく際に,ゴールとして目指すところが“日常の自立した生活”とするならば,その対極にあるものは,“閉じこもった寝たきりの生活”ということになろう.

 家の中から部屋の中,そして布団の中へと“閉じこもり”が進行して行くこと自体,それは寝たきりへと近づいていく過程であり,この“閉じこもった生活”から脱却を図っていくことは,リハビリテーションの目標である「自立」に直結する重要な課題であるといえる.

 自立した生活を営んでいくうえで移動方法の確保は不可欠である.疾病や老化によって心身の機能低下を来した人にとって,移動を妨げ,生活範囲の狭まりを生む物理的な要因として,住宅内の段差の問題が存在している.

 本稿をまとめるにあたって,自分自身が過去に訪問で関わってきた様々なケースの記録を見直してみると,その多くは住宅内の段差によって生じた移動や起居動作の問題の解決に費やされていた.すなわち段差によって生じたADLの破綻に対する具体的な解決策の提示が,私自身の訪問指導の重要なテーマであったことに改めて気づかされた.

 本稿では住宅の内外に存在する様々な段差とその対応策について,実例を紹介しながら説明していく.

講座 理学療法学教育における臨床技能試験―OSCEの適用と評価 3

理学療法学教育におけるOSCEの試み

著者: 森田正治 ,   清水和代 ,   宮﨑至恵 ,   坂口重樹 ,   中原雅美 ,   渡利一生 ,   松﨑秀隆 ,   吉本龍司 ,   村上茂雄 ,   山口寿

ページ範囲:P.233 - P.240

はじめに

 近年,医学教育を中心として,臨床技能を評価する方法として客観的臨床能力試験(objective structured clinical examination;以下,OSCE)が導入されている.OSCEは1975年にHardenらが提唱したものであり,教育目標上,精神運動領域および情意領域の学習効果を評価するのに適していると言われている1~4).わが国では,1992年に津田らが川崎医科大学で導入して以降,徐々に全国の医学部・医科大学に広がった3,5).理学療法士養成の教育課程では,卒業時の到達目標を日本理学療法士協会が示す「基本的理学療法を独立して実践できるレベル」に設定しているところが多く,医学教育に比べて在学時に一定以上の技能を習得することを求めている.しかし,理学療法士養成の教育基盤において必須の教育内容(知識・技術・態度)を基礎医学から臨床医学まで一貫してまとめたコア・カリキュラムというものは確立されておらず,多くの養成校は学内実習および臨床実習に多くの時間を割き,限られた時間内でより効率的な教育効果を上げるための教育システムを模索している.本来であればコア・カリキュラムの策定など多くの解決すべき問題はあるが,臨床技能の到達度を客観的に評価する指標を確立することと併せて,効果的な教育方略,すなわち教員側が提供した枠組みの中で学生が問題解決に携わる「自己主導型学習(self-directed learning)」の環境を整えていくことが急務である.

 当学院では平成13年4月の開校以後,これまで慣例的にカリキュラム内に位置づけていた学外実習(評価実習,地域理学療法学実習,総合臨床実習)に加えて,できるだけ早期の臨床体験を通して,学生の現状能力を客観的に認識させ,積極的に科目へ取り組むような行動変容を促すことを目的に,学内カリキュラムの見直しを重ねてきた.そして授業の一環で実施する学外実習および医療機関以外の施設における授業の一環に位置づけていた学外実習(検査・測定実習,物理療法学実習)を教育課程の中に位置づけてきた(表1).本稿では,当学院の学外実習の1つである物理療法学実習前に,基本的態度,リスク管理,物理療法の臨床技能を客観的に判定する目的で「物理療法におけるOSCE」を実施し,その結果6)を通じて理学療法学教育におけるOSCEの応用および課題について述べる.

文献抄録

リハビリテーション病棟における高齢者の活動量について:観察法による研究

著者: 上村さと美

ページ範囲:P.244 - P.244

 目的:急性期リハビリテーション病棟(リハ病棟)におけるリハ目標は,患者の身体機能の改善と再入院の予防,入院期間の短縮を図ることである.そして,患者の活動量や精神状態および周囲の人々との交流を十分に回復することを目指している.リハ病棟の患者は活動量が低下している場合が多いため,本研究では患者の活動量の分析を行い,活動量を向上させるための治療ガイドラインを明らかにすることを目的とする.

 対象:リハ病棟に入院している高齢患者6名(平均年齢80歳)で,日常生活においてコミュニケーションに問題がなく,歩行が自立している者を対象とした.

脳卒中患者における垂直性の認識と姿勢制御

著者: 武井圭一

ページ範囲:P.244 - P.244

 目的:脳卒中の理学療法では,姿勢調節障害の改善を目的とすることが少なくない.姿勢調節障害は空間認識の低下が主要因といわれており,垂直性の内部表出が重要となる.本研究の目的は,脳卒中患者における主観的視覚垂直性(subjective visual vertical:SVV)の傾きと体幹アライメントの関係を明らかにすることである.

 方法:対象は,12名の脳卒中患者(平均年齢71±11歳,罹患日数10~180日)であり,脳卒中や斜視,めまいの既往,バランス能力が顕著に低下している者は除外した.また,9名の病院職員および患者関係者(平均年齢62±6歳)を対照群とした.帰結評価として,SVV,体幹アライメント,およびpusher現象の有無の3項目を測定した.SVVの測定方法は,対象者に座位をとらせ,2.5m離れた前方に2cm幅の直線を引いた直径50cmの円型画面を用意し,注視させた.その直線を検者が回転させ,対象者が垂直と感じる位置で止め,その時の傾斜角度を測定した.10回測定し,その中央値を代表値とした.体幹アライメントは,対象者の座位姿勢を垂直,右傾斜,左傾斜に分類した.また,立位保持が可能な者は,立位についても同様に評価した.統計解析には,Mann-WhitneyのU検定を用いてSVVの群間比較を行い,続いてSVVと体幹アライメントの相関を分析した.

高齢者の股関節伸展の低下は歩行による変化か,姿勢による変化か

著者: 及川澄枝

ページ範囲:P.245 - P.245

 背景:これまでの健康な高齢者の歩行の研究では,加齢に伴う至適歩行速度の低下,股関節の最大伸展角度の減少,骨盤の前傾角度の増大が証明されている.それらの変化は,股関節屈曲拘縮のような姿勢の変化によるものなのかどうかは明らかにされていない.われわれは股関節最大伸展角度の減少,骨盤前傾角度の増大が歩行時に起こるのではないかと仮説を立て,それらの歩行時と立位時での変化を検討した.

 対象:被験者は65歳以上(以下,高齢群),18~40歳(以下,若年群)の健常者各25人とした.

高齢者の歩行に関するアイアンガーヨガプログラムの効果

著者: 山谷一善

ページ範囲:P.245 - P.245

 目的:ヨガは関節可動域,筋力,バランス面を向上させる手段として高齢者や障害者にも学びやすく,特別な設備を必要とせず行うことができる.しかし,高齢者の歩行に関するヨガの効果はこれまで発表されていない.そこでヨガが歩行時の股関節伸展を拡大させ骨盤の前傾を減少させることで,ストライドが大きくなると仮説を立て検証した.

 対象と方法:8週間のヨガプログラムに参加できる62歳以上の健康で肥満でない者(BMI30kg/m2以上はマーカー配置と運動測定の信頼性に欠くので除外)を広告で募集した.参加した23人には毎週2つの90分のヨガプログラムと1日おきに自宅で最低20分,週5つのプログラムの実施を依頼した.ヨガプログラムはin cross-legged positionなど10種類のposeとpranayamaという呼吸法で構成されている.参加した23人中,ヨガプログラムを完了した者は男性6人と女性13人で平均年齢は70.7±6.1歳(62~82歳)であった.自宅でのヨガプログラムを実施した平均日数は34.4±1.5日(13~40日),1日のヨガプログラム時間は平均31.2±2.5分(12.3~60分)であった.歩行分析は三次元動作解析装置(vicon624systm)を用い,反射マーカーを両側の骨盤や下肢に16個貼付した.検定はspssを用い,歩行時の股関節伸展と骨盤傾斜とストライドを分析した.

書評

―嶋田智明編―「ケースで学ぶ理学療法臨床思考―臨床推論能力スキルアップ」

著者: 吉元洋一

ページ範囲:P.242 - P.242

 本書の第一印象は,「非常にユニークな症例報告集である」と言うことである.通常の症例報告集は,患者紹介,評価,問題点,ゴール,治療プログラム,結果紹介で終わっているものが多く,全部読み終わってからでないと解説を理解しにくいものが多かったが,本書は問題解決能力の育成を目的に,problem based learning(PBL:問題基盤型学習)を導入した構成になっているため,個々のレベルに応じた使い方が可能である.

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編集後記

著者: 高橋哲也

ページ範囲:P.248 - P.248

 新潟では4メートルを超える記録的な大雪であるとのニュースが伝わる中,2006年度の診療報酬改定の情報が巷を騒がせています.脳死後の心臓移植や肺移植などに公的医療保険を適用するという朗報も聞こえてくる一方,理学療法については極めて厳しい大きな変化が予測されています.「理学療法の現場から」で理学療法士であり介護支援専門員の丹野氏が「理学療法は正念場に立っている」と指摘しているように,まさに理学療法システムそのものを根本から変える大きなうねりがすぐそこに見えてきました.

 さて,本号の特集は「腰部・下肢関節疾患の理学療法」を“姿勢・動作の臨床的視点”より解説いただきました.「木をみて森をみず」という表現に代表されるように,腰部・下肢関節疾患に対しては,ともすると,「膝伸展筋力が低下しているので大腿四頭筋強化」,「股関節の屈曲制限があるからROMエクササイズ」といった局所の障害に注意を奪われて,姿勢や動作に視点が及ばないこともしばしばです.どの論文もじっくりと熟読することで明日からの臨床での理学療法アプローチが大きく変わってくるものと思います.加賀谷論文では,腰部・下肢関節疾患に対する理学療法について,局所に限定したアプローチに警鐘を促し,姿勢動作からみた理学療法モデルの考え方をアライメントの観点から論じています.また,アライメントを単に正常化させるだけでなく,さらに一歩踏み込んで,不良姿勢や誤った身体操作による負荷の軽減についてもアプローチの必要性を説いています.加藤論文は,運動連鎖の考え方から,骨格構造機能,筋出力機能,神経機能の3つの機能的要素をキーワードに,変形性股関節症に対する具体的な理学療法アプローチを多数紹介していただいており,より実践的な論文に仕上げられています.石井論文や木藤論文,中江論文でも,実践的なアプローチを紹介していただきながら,腰部・下肢関節疾患に対する全身的なアプローチの重要性を解説いただきました.後世に残る保存版になったことと思われます.投稿論文の村田論文では,新人理学療法士が求める理学療法責任者のリーダーシップ行動が詳しく分析されています.先輩理学療法士は新人理学療法士が求めるリーダーシップをいくつクリアできるでしょうか?私はといえば….

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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