文献詳細
文献概要
報告
正常圧水頭症における運動障害の特徴―UPDRS運動能力検査を用いた検討
著者: 石井光昭1 伊藤清弘1 田代弦2 秋口一郎3
所属機関: 1市立舞鶴市民病院リハビリテーション科 2市立舞鶴市民病院脳神経外科 3康生会武田病院神経脳血管センター
ページ範囲:P.219 - P.222
文献購入ページに移動正常圧水頭症(normal pressure hydrocephalus;以下,NPH)は,髄液循環障害に起因する脳室拡大を呈し,3徴候として歩行障害,尿失禁,認知障害を来す疾患であり,1965年HakimとAdamsによって報告された1).NPHの病態は,当初の拡大した脳室系から直接的に圧迫や影響を受ける白質が主座とする考え方から,現在は白質はもとより,大脳灰白質や種々の神経核とそこに存在するニューロンが独自に,または二次的に損傷を受けているとする考え方にかわっている.初期であれば髄液の排除によって改善を得る可能性があるが,見逃されていることも少なくない.NPHによる認知障害は「治療可能な認知症」として注目されているが,3徴候のうちで発生頻度が最も高いのは歩行障害であり2),理学療法の対象としても重要である.
NPHの歩行障害は,歩隔の拡大,すり足歩行,歩幅の減少を特徴とする3).しかし,歩行不能な症例も少なくなく,NPHの運動障害の臨床像は明確ではない.NPHの運動障害の特徴を明らかにするためには,以下の理由から短絡術(シャント術)前後の評価を比較することが必要と考えられる.NPH診療ガイドラインには,possible,probable,definiteの3段階の診断基準が示されている4).それによると,高齢者で歩行障害,認知障害および尿失禁の1つ以上の症状ならびに脳室拡大があり,髄液圧が正常範囲のものがpossible,その中で基本的に髄液排除試験に反応したものがprobable,シャント術に反応したものがdefiniteである4).したがって,シャント術前に顕著な障害を示し,かつシャント術によって改善がみられる検査項目が,NPH診断確定例における運動障害の特徴を反映しているものと考えられる.そして,術後にも残存する障害が理学療法の対象と考えられる.
Kraussら5)は,NPHでは高頻度にパーキンソン症候が出現することを報告している.このことを根拠として,当院ではUnified Parkinson's Disease Rating Scale(以下,UPDRS)の運動能力検査6)を,NPHの評価の1つとして用い,理学療法士が脳室腹腔短絡術(以下,VPシャント)前後の評価を実施してきた.本研究の目的は,UPDRSを用いてNPHの運動障害の特徴を明らかにすることである.
参考文献
掲載誌情報