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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル40巻6号

2006年06月発行

雑誌目次

特集 アスリートのための理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.413 - P.413

 いわゆるアスリートと呼ばれるレベルの高い競技者にとって, スポーツ傷害は単に個人の競技生命を奪うだけではなく,チームの戦略にもかかわる重大な問題となる.スポーツリハビリテーションといえば,以前は運動中に発生する外傷への直接的な治療介入であったが,次第に慢性的に惹起されるスポーツ傷害の予防へと拡大し,さらには競技への復帰という明確な目的を持つアスリートに対して,リコンディショニングを含む包括的なアプローチが求められるようになった.その変遷の中で理学療法士の役割がいかに変化し,現在は何が求められているかをわかりやすく解説していただいた.

スポーツ現場に求められるアスレティックトレーナー

著者: 松田直樹

ページ範囲:P.415 - P.422

はじめに

 近年,トリノ五輪を始めJリーグやプロ野球など,様々なスポーツの現場でメディカルスタッフとして活躍する理学療法士を見かける機会が増えている.それにともない,医学部や理学療法士養成校でも,スポーツ分野への進路を希望する学生の割合が非常に多くなっているという1,2).スポーツ現場での活動を希望する学生に,どんな活動をしたいのかと尋ねると「トレーナーとして働きたい」と答える学生が多い.「トレーナーってどんな仕事?」と少し抽象的な質問をすると,トレーナーとしてのイメージをはっきり表現できないことが多い.これは学生に問題があるのではなく,様々な守備範囲を持つトレーナーが入り交じって活動しているためである.「スポーツ分野での理学療法士」と「アスレティックトレーナー」の2つの役割は近いものでもあり,逆に遠いものでもあると筆者は感じている.

 本稿では,スポーツ現場で幅広いメディカルサポートを担う「アスレティックトレーナー」として「理学療法士」が活動していくにあたり,どのようなアドバンテージを有しているのか,“理学療法・リハビリテーションの専門家として”以外にもどのような活動をしていく必要があるのかを総論的に述べたい.

スポーツクリニックにおけるトップアスリートのための理学療法

著者: 門田正久 ,   寛田司

ページ範囲:P.423 - P.429

はじめに

 医療法人社団飛翔会は,設立理念の1つにスポーツ選手への医療サポート活動があり,平成7年に寛田クリニックが開設した当初からスポーツ選手の利用が多い.現在はジュニアスポーツから実業団・プロ選手など利用者は多岐にわたる.

 また,地域への展開として,現在は整形外科クリニック4施設(うち疾病予防施設併設3施設・フィットネスクラブ併設1施設)と,平成17年には医療機関ではないトレーニングジム・鍼灸接骨院・デイサービスの複合型施設を開設し,地域のスポーツ活動への関与にも力を入れている(図1).

Jリーグ・プロチーム組織における理学療法的介入

著者: 安藤貴之

ページ範囲:P.431 - P.438

Jリーグとは

 Jリーグ発足から14年が経過し,プロスポーツとしてのサッカーが日本のスポーツ界に定着してきた.現在,1シーズンの中で日本サッカー協会が規定する3大会(Jリーグ,ナビスコカップ,天皇杯)が主として開催されている.シーズン中は週1~2回試合が行われ,勝敗や前年度の成績により多少異なるが,年間40~50試合の公式戦が行われる.1チームは30~35名程度の選手により構成され,試合には18名がエントリーされる(うち11名が先発,3名が交代枠:2006年現在).

 チームに所属するメディカルスタッフは,シーズンを通じて選手に生じる疲労や障害に対して可及的早期に対応し,コンディションを維持・調整していくことが責務となる.また,選手個々のコンディションを把握し,監督の要望,戦術,シーズン時期といった諸要素を考慮した上で,テクニカルスタッフ(監督,コーチ)へ的確な情報提供を行わなければならない.このようなスポーツ現場では理学療法士(以下,PT)が積極的に介入し,専門性を生かしていくことが必要であると考える.

体操選手の傷害と理学療法

著者: 岡田亨 ,   澤野靖之 ,   関口貴博 ,   室井聖史

ページ範囲:P.439 - P.447

はじめに

 スポーツ現場における理学療法士(以下,PT)の活動は,外傷の後療法や疼痛管理における介入が主体といえる.またこれらは現場からの期待も大きい現状がある.しかしPTの活動領域をさらに広げるためには,われわれの得意とする運動学といった分野から,傷害予防はもちろん競技力向上に対しての役割を担えるよう,積極的な働きかけを行う時期が来ている.スポーツ現場での活動において,PTは各競技の専門動作への理解を十分に深め,前向きな努力を行う必要があると考えている.

 アテネオリンピックにおいて日本の体操競技は好成績を残したものの,まだまだ情報が少なく,一般に体操の専門動作への認識度は低いのが現状である.本稿では,体操競技の特徴である上肢機能を中心に,専門動作と近年の傷害特性を紹介し,PTの取り組みについて報告する.

高校野球甲子園大会における理学療法士のメディカルサポート

著者: 小柳磨毅 ,   山野仁志 ,   中江徳彦 ,   井上悟 ,   林義孝

ページ範囲:P.449 - P.456

はじめに

 高校野球甲子園大会の理学療法士によるメディカルサポートが始まって10年以上が経過した.本稿では甲子園大会とこれに関連する活動を紹介し,スポーツ選手の健康管理について理学療法士が果たすべき役割を考察する.

とびら

小児の分野と成人の分野

著者: 後藤晴美

ページ範囲:P.411 - P.411

 小児あるいは発達障害といわれる分野(以下,小児)は,理学療法(以下,PT)の中でも特殊な分野と見られている感がある.養成校時代にも実習地が少ないため,この分野の臨床を経験せずセラピストになる人も多い.それゆえ,友人からも「小児領域のことは,よくわからない」とか,学会・研修会に「小児の人が来ているのは珍しい」などと言われたこともある.小児関連の人は,それに関連する人たちがいつも集まり,講習会も決まったものに参加しているという見方もあるが,確かにそのような傾向はあるかもしれない.

 新生児期から幼児期における生理学,解剖学的な違いや発達という身体的,精神的変化において,成人とは違う特殊性がある.「わからない」といわれる所以は,言語を介したコミュニケーションが難しい点にもあるだろう.口頭指示で行う,いろいろな検査やテストバッテリーが使いにくいために,一般的なPTを展開していこうとすると,困難が生じる.何とかコミュニケーションができたとしても,集中時間は短く,40分のセラピーの中でも次々に展開を考えていかなければならない.年齢による差異も大きいため,同じ疾患でも比較できず,エビデンスに基づいた治療展開も難しいため,取り掛かりがつかみにくいのかもしれない.

あんてな

日本リハビリテーション連携科学学会の動向

著者: 長澤弘

ページ範囲:P.457 - P.458

 「日本リハビリテーション連携科学学会」をご存知でしょうか.初代の理事長は,筑波大学名誉教授である三澤義一先生であり,障害児・障害者関係の教育福祉分野の第一人者であります.また現在の理事長が兵庫県立総合リハビリテーションセンター名誉院長であった澤村誠志先生であることからも容易に想像できると思いますが,医療・教育・社会・福祉・職業など,多岐にわたるリハビリテーション諸科学の有機的連携を図り,机上の論議でなく実践の積み重ねの中で実践家の共通する広場を提供し,学際的に実証していこうとしている学会です.多職種・多専門の人々が,「リハビリテーション」という共通概念のもとに,その目標と理念に照らし,いかにしてお互いが連携し共有すべきものを探索しようかという,積極的な態度が随所に現れています.その結果,リハビリテーション各分野の連携に基づく研究と実践を推進し,わが国におけるリハビリテーションの充実・発展に寄与するという目的を掲げた学会なのです.学会の会員数は平成18年3月現在で394名と,決して多くはありませんが,福祉・教育・医学・看護・介護・リハビリテーション・職業・心理などの多分野からの専門職が登録をしています.

 日本リハビリテーション連携科学学会第7回大会は,平成18年3月18~19日の期間で神奈川県立保健福祉大学において開催されました.阿部志郎大会長のもとで,大会テーマを「連携と統合 ―ヒューマンサービス―」として,各種の討議がなされました.過去に開催された大会のテーマは,それぞれ「リハビリテーションにおける連携を求めて」「連携の促進要因を探る」「連携促進のための工夫」「地域のニーズに合うリハビリテーションの実践から学ぶ」「ライフサイクルから見たリハビリテーションの連携」「新たな連携のかたちを求めて」であり,これらを受けてさらに一歩進めるということで,連携にとどまらず「統合」を意識すべき時代であるということから,「連携と統合―ヒューマンサービス―」というテーマが決まりました.テーマに即した大会長基調講演の内容は紙面の関係で省略いたしますが,近々発刊予定の雑誌「リハビリテーション連携科学」に掲載される予定ですので,ヒューマンサービスという言葉が意図していることを含め,是非ご覧いただければと思います(図1).

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

Functional Balance Scale

著者: 淺井仁

ページ範囲:P.459 - P.459

 Functional Balance Scaleは,一般的にはBerg Balance Scale(以下,BBS)を指す.これは,Berg Kらによって1989年に報告された14項目(表)からなる総合的なバランス能力評価バッテリーである1).その内容には座位および立位での姿勢保持,立ち上がり動作,片脚立ち,移乗動作,および方向転換などが含まれる.評価は各項目ともに0~4点の5段階であり,満点は56点となる.

 このBBSの開発には次に記すいくつかの背景があった.①日常生活活動を効果的かつ効率的に行うためには機能的なバランス能力が要求される.この能力は,様々な肢位を保つ能力,身体および体節の随意的な変化に応じて姿勢反応を自動的に行う能力,および外乱刺激に反応する能力の3つに分けられる.これらの能力が低下すると転倒の危険性が高まるに違いない.②バランス能力が低下している高齢者に対してエクササイズを行うが,これによってバランス能力がどの程度改善したか,および転倒の抑制にどの程度貢献したかを測定するための適切な尺度がない.③従来の測定法は,高齢者に用いるための条件,評価者の立場に立った条件,測定法としての条件(妥当性,信頼性,反応性)などを満たしていない.④従来の測定法は,内容の妥当性についての検討が主であり,被験者の変化に対する反応も不十分であった.また,基礎的な研究結果に基づく知見などが,評価法に包括的に組み込まれていない.⑤実験室で行われる測定項目が日常生活の中でのバランス能力を反映するとは言えない.

新人理学療法士へのメッセージ

心に残る3つの言葉

著者: 中野順子

ページ範囲:P.460 - P.461

 晴れて理学療法士として働き始めた皆さん,少しは職場に慣れたころでしょうか.私は理学療法士になって6年目を迎えました.新人の頃は「要領の悪い私でも,さすがに5年もたてば自分の仕事にある程度の自信を持てるようになっているに違いない」と思っていました.しかし理学療法の道は奥が深いもので,まだまだ未熟者の私は,今も毎日の臨床でたくさんの疑問と反省に埋もれつつ奮闘しています.今回「新人理学療法士へのメッセージ」を書く機会をいただきましたので,私が今まで先輩方にいただいたアドバイスの中で特に心に残っているもの,自分に影響を与え続けているものについて書かせていただき,皆さんに何かを感じていただけたらと思います.

「患者さんよりも偉い理学療法士にならないでください」

 これは私が医療短大を卒業するときに,ある先生がくださった言葉です.そのときは心の中で「何年経っても絶対にそんな風に思うことはないはずだ」と思っていました.当時は卒業したばかりで,理学療法士としての自信などあるはずもなく,また,基本的に医療はサービス業だと捉え,「患者さん=お客様」と認識していましたので,自分が患者さんより上の立場になるなんてありえない,と思っていました.

入門講座 診療記録の書き方・3

教育研究に役立つ診療記録の工夫

著者: 石倉隆

ページ範囲:P.463 - P.473

はじめに

 かつて診療記録は,「医療者のためのもの」というニュアンスが強く,われわれは診療記録を自らがわかりやすいように記録してきたように思う.過去の文献を紐解いても,診療記録の意義に,データ蓄積・保存,治療計画立案,治療効果判定,知識・技術体系構築,診療行為事実確認,研究データ,疫学資料,教育媒体などを掲げるものは多いが1,2),多職種相互理解や患者・家族説明を加えているものは見当たらない.しかし昨今のチーム医療の推進や情報開示,個人情報保護の観点から,統一された,わかりやすい記録方法が推奨されるようになった.当然,現在でも診療記録の意義自体は従来と何ら変化したわけではなく,統一した治療方針を実践するための多職種相互理解や患者・家族への説明材料,情報開示に伴う患者・家族への公開という要素が加わったに過ぎない.ただ,この新たに加わった意義に耐え得る診療記録の作成には種々の配慮が必要であり,一面ではこれが逆に診療記録を自由に利用する妨げとなっているような気がする.

 このような診療記録作成方法の変革の中で,記録そのものを教育研究に役立てるように工夫して利用していくのは至難の業である.診療記録は診療記録として作成し,教育研究には個人情報保護法を遵守した上で,別冊として記録していくのが通常であろう.筆者自身,診療記録を直接教育研究に役立てていることは少ないように思えるが,これまでの数少ない実践経験を踏まえ,解説していく.

講座 運動学の定説を問う・3

仙腸関節はどれだけ可動するのか

著者: 竹井仁

ページ範囲:P.477 - P.486

はじめに

 仙腸関節は骨盤の中央に位置し,体幹と下肢をつなぐ重要な関節である.それゆえに,脚長差や腰椎椎間関節・腰仙関節・寛骨・恥骨結合などのアライメント異常などによって,仙腸関節にストレスを生じて機能異常を起こす可能性は否定できない.実際に,仙腸関節の機能異常を評価する方法や治療方法も各種提唱されてはいるが,腰痛の原因の多くが仙腸関節由来のものだというには解剖学的・運動学的に根拠が乏しいと思われる.

 本稿では,仙腸関節を中心に現在支持されている解剖学的・運動学的な資料を提供する.仙腸関節の動きが関与する運動における運動学的分析や治療方法に関して,科学的・多角的に考察する一助にしていただきたい.

報告

整形外科疾患における日本語版Rivermead Mobility Indexの信頼性と妥当性について

著者: 小山淳司 ,   森安真 ,   前島伸一郎

ページ範囲:P.487 - P.490

はじめに

 移乗や移動動作を行うために必要な能力は,疾患により多少の差はあるものの,Mobility(移乗・移動能力)として客観的に共通の指標で評価することは患者に対して必要な介助量を決める上でも大切である.Mobilityは,これまで報告されてきた数多くの日常生活活動(ADL)スケールに含まれるが,それらの多くは歩行や移乗について2,3の項目を捉えているに過ぎない.Rivermead Mobility Index(以下,RMI)は,1991年にCollen FMら1)によって,移乗や移動に焦点を当てた評価法として開発され,イギリスをはじめドイツ2),イタリア3)など欧米諸国で報告されている.本評価はベッド上での「寝返り」から「走る」までの15項目(14項目の質問と1項目の行動観察)によって構成されている.この際,人的介助がなく自立していることが大切であり,「できること」ではなく「していること」を評価する.これまで脳血管障害をはじめとする神経疾患患者に対してしばしば用いられており,その妥当性や信頼性については先行研究により報告されている1~5)

 筆者らは日本語版RMIを作成し,脳血管障害患者でその有用性を検討した6).一方,移乗や移動に焦点を当てた本評価法は整形外科疾患に対しても有用と思われるが,その信頼性と妥当性については明らかにされていない.そこで本研究では整形外科疾患患者に対する日本語版RMIの有用性を明らかにするために信頼性と妥当性について検証することを目的とした.

短報

ラットヒラメ筋の廃用性萎縮予防に及ぼす短時間荷重の効果

著者: 山崎俊明 ,   中平洋二 ,   立野勝彦

ページ範囲:P.491 - P.493

はじめに

 理学療法では,臥床による悪影響を最小限にするため,可能な範囲での早期離床を促す.特に,下肢筋の体重を支える機能は,非荷重により急激に低下する1)ことから,立位保持や歩行練習は有用な対策と考えられ実施されている.その効果を考えると,荷重しないことによる廃用性の筋萎縮には,より長時間の下肢荷重が有効である2)が,実際の臨床では適応困難な場面が多い.そこで,筆者らは臨床応用が可能な1日1時間の荷重を採用し,動物実験で筋萎縮抑制効果を検証してきた3,4).その結果,完全な萎縮予防はできないが,進行抑制が可能であり,荷重頻度や開始時期などが重要な規定因子であった.

 本研究では,1日1時間以内の荷重(短時間荷重)の効果を調べた.具体的には,ラットヒラメ筋の廃用性萎縮に対し,1日20分,40分および60分の荷重を実施し,筋萎縮予防に及ぼす効果を筋形態および機能の両面から検討した.

プラクティカル・メモ

角度調節が簡単で足部の状態に合わせやすい夜間装具の試作

著者: 松本正知 ,   松田理 ,   赤尾和則 ,   加藤明 ,   山本文徳

ページ範囲:P.494 - P.494

1.はじめに

 疾患の種類にかかわらず,足関節の尖足を予防する目的で夜間装具を使用することは度々ある.特に整形外科領域においては,炎症・修復過程において,適時な対応としての装具が必要となる.

 今回,ギプス処置用の素材を用い,対象者のニーズに応じて必要と思われる足部の状態に合ったフレキシブルな夜間装具(図1)を試作したので紹介したい.

文献抄録

片麻痺患者に対する足ペダル踏み式車いすの速度と生理的コスト指数

著者: 大嶽昇弘

ページ範囲:P.496 - P.496

 目的:一般に,脳卒中片麻痺患者は,通常の車いすを使用するにあたって,非麻痺側の手でハンド・リムを回し,非麻痺側の足で地面を後方に押すことによって駆動する.しかし,その速度は遅く,長距離や斜面駆動,方向変換の操作は難しい.また,これまでの研究から最大作業負荷は上肢の運動より下肢の運動のほうが大きいことが報告されており,同じ負荷に対して上肢の運動による呼吸循環反応は下肢による運動より高くなる.したがって,両下肢で交互にペダルを踏む足ペダル踏み式車いすを駆動することができれば,快適であろうと考えられる.本研究の目的は,片麻痺患者が足ペダル踏み式車いすを駆動することができるかどうか,そして,両下肢を使用する足ペダル踏み式車いすが通常の非麻痺側の上下肢を用いて駆動するより容易で,より速いかどうかを評価することである.

 対象:被験者は,脳卒中による重度あるいは中等度の歩行障害を有する平均年齢63.7歳(SD 12.7歳)の入院患者10人(男性8名,女性2名)であった.

立位可能な時間の測定:大腿骨頸部骨折後の立位時間の測定および地域在住高齢者との比較

著者: 武井圭一

ページ範囲:P.496 - P.496

 目的:大腿骨頸部骨折者は長時間の立位保持が困難になるという多くの報告があり,その中で立位時間の測定には質問紙法や観察的手法が用いられてきた.本研究の目的は,立位時間測定装置を用いて大腿骨頸部骨折者と地域在住高齢者の立位時間を比較すること,および退院後の立位時間の変化を検討することである.

 方法:対象は大腿骨頸部骨折者13名,対照群は地域在住高齢者13名を設定した.測定項目は立位時間(Uptimer:Gorman ProMed Pty Ltd., Victoria, Australia),活動量(the human activity profile),精神状態(the Philadelphia Geriatric Center positive and negative affect scale),移動能力(functional ambulation classification),10m歩行速度,耐久性,疼痛(VAS),ADL(FIM)とし,退院1週間前(T1),退院前日(T2),退院1週間後(T3)の3回測定した.なお,対照群はT3と同時期に疼痛を除いた項目を測定した.分析には,Mann-Whitney検定を用いて2群間の比較を行い,フリードマン検定を用いて各測定期間における立位時間を比較した.有意水準は1%とした.

健康な高齢女性の下肢伸展パワーの不均衡と活動制限

著者: 小林智子

ページ範囲:P.497 - P.497

 目的:健康な高齢の女性で下肢伸展パワーの不均衡の程度を測定すること,およびその2脚間の強さの相違と歩行能力や立位バランスの関係を調査すること.

 方法:63~75歳の研究に同意した419名の女性を対象とした.すべての参加者が医師によって検査を受け,急性疾患や慢性疾患および薬物処方中ではないことが確認された.

CRPS患者における機械刺激性痛覚増強時の脳の反応:functional MRIによる検討

著者: 諸橋勇

ページ範囲:P.497 - P.497

 目的:複合性局所疼痛症候群(以下,CRPS)のメカニズムはまだ解明されておらず,感覚,運動,自律神経の3つの機能障害があり,痛みと機械刺激性の痛覚過敏はCRPSの特徴的症状である.今回の研究では,CRPS患者の感覚過敏部位を刺激した際の脳皮質の反応について検討した.

 対象:大学病院でCRPSと診断された12名の患者(男性4名,女性8名,平均年齢45.3歳)を対象とした.診断はCRPSⅠが10名,CRPSⅡが2名で,上肢の障害が9名,下肢の障害が3名で,平均罹患期間は47.2週であった.

書評

―奈良 勲・内山 靖編集―「図解 理学療法検査・測定ガイド」

著者: 富樫誠二

ページ範囲:P.474 - P.474

 理学療法は「評価に始まって評価に終わる」と言われる.これは理学療法にとって評価がいかに大切であるかを表現しているフレーズである.理学療法において,より的確な評価をするためには,まずその基礎となる検査・測定に習熟することが重要である.そして検査・測定を実施するには基本的知識だけでなく基本的臨床技能が求められる.常々,理学療法を実施する上で,検査・測定に関する臨床的視点からの知識と技能をエッセンスにしてまとめたコンパクトな書物が欲しいと思っていた.そのような折,奈良 勲教授,内山 靖教授の編集によって待望の「図解理学療法検査・測定ガイド」が刊行されたことは喜ばしい.

 本書の内容をみると,理学療法検査・測定に必要な項目が実に広く網羅されていることに驚く.まず冒頭の第Ⅰ部では,検査・測定の基本的考え,検査・測定の進め方が提示されている.それを読むと編者らが本書を企画した意図や編集の流れが,なるほどと理解できる.検査・測定項目の一覧表が頁の最初に掲載してあるので必要な項目をすぐ紐解くことができるようになっている.

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編集後記

著者: 高橋正明

ページ範囲:P.502 - P.502

 今年2月,トリノオリンピックの女子フィギュアスケートシングルのフリーで荒川静香選手が見事に舞った.今大会で日本が獲得した唯一のメダルが,冬季の花形種目の金だったということもあるが,たったの4分間がわが国をこれほどまで興奮させ,国民に勇気と感動を与えたことは驚きであった.そして3月,アメリカで行われたWBC(ワールドベースボールクラシック)では,王ジャパンが薄氷を踏みながらも最後にはキューバを破って見事栄冠を勝ち得た.その一喜一憂は普段野球を見ない人までをも巻き込み,最後には国を挙げて喝采し,喜びに酔った.そして6月,いよいよサッカーのワールドカップが始まる.国の期待と国民の胸の高まりは日ごとに増すばかりである.日の丸を背負って戦えるのは一部のアスリートのみであるが,国と国民に与えるプラスの影響力は計り知れない.国を背負わないまでも,トップアスリートは大きな影響力を持つ何かを背負って戦う.

 本号は,そんなアスリートを医学的,身体的に裏で支える理学療法に焦点を当て特集を組んだ.スポーツ傷害一般に関する書物は過去にもあったが,これほどまでにいわゆるアスリートに的を絞った特集は類をみない.多種多様な競技があって,それぞれに特化した動きの分析評価がなされ,それに基づく創造的で最良の理学療法アプローチがなされていると思うと,理学療法士であれば誰もが知りたいと考えるはずである.また,トレーナー的な仕事がしたくて理学療法士を目指す多くの高校生や,スポーツ傷害を専門にしたいと考えている若い理学療法士にとっては,自分の進路を決める必要不可欠な情報となるはずである.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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