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文献概要
特集 歩行練習
Pusher現象を呈する片麻痺患者の歩行練習
著者: 藤田直人1 三木屋良輔2 中川司2
所属機関: 1なかじま整形外科 2ベルランド総合病院リハビリテーション科
ページ範囲:P.605 - P.611
文献購入ページに移動脳卒中後遺症の1つに,すべての姿勢で非麻痺側に力を入れて麻痺側のほうに強く押し,その姿勢を他動的に矯正しようとすると強く抵抗し,また麻痺側方向への転倒には無関心であるpusher現象と呼ばれるものがある1).この現象は,Pedersenら2)によるコホート研究では,理学療法対象例のうち10.4%に発生したと報告されており,本邦においても網本3)による患者対照研究では,本格的な理学療法対象例のうち25.5%に発生したと報告されている.さらにPedersenは,pusher現象が機能回復を遅らせる要因であることを示唆し,青木ら4)は低いADL自立度に到達する要因となることを示唆している.このようにpusher現象の発生率は決して低いものではなく,ADLに関係する要因であることを考慮すると,われわれ理学療法士が介入するべき問題点であると考える.
Pusher現象の発生機序に関して諸説はあるが,Karnathら5)の報告を取り上げると,pusher現象は知覚認知機能障害であると捉えることができる.その報告では,pusher現象を呈する左片麻痺患者を,両側に十分な壁がある座面に足底を接地しない状態で座らせ,その座位装置を前額面上で回転させ,患者が認知した垂直と実際の垂直との差を記録するという実験を行っており,患者の視覚を保障した条件(視覚的垂直認知と定義)と遮断した条件(身体的垂直認知と定義)とを比較検討している.その結果,患者の視覚的垂直認知は実際の垂直と差はないが,身体的垂直認知は非麻痺側に約18°傾いていることを示した(図1).よって,非麻痺側方向に傾いている身体的垂直と,真の垂直として成立する視覚的垂直との間に生じた認知的な差を修正しようとするため,結果的に押す行為を生じている可能性があるとしている.
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