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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル40巻9号

2006年09月発行

雑誌目次

特集 理学療法と連携

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.713 - P.713

 医療制度や介護保険制度がめまぐるしく変化するなか,効果的なリハビリテーションを完遂するには,保健・医療・福祉分野の様々な職種が,共有する目標と理念に照らした連携アプローチをいかに展開するかがポイントとなる.急性期病院,回復期リハ病棟といった病院の機能分化が進行するほど円滑な連携が重要となり,さらに介護保険制度下の諸サービスを利用者主体の在宅支援に直結するには,理学療法士が積極的に連携の橋渡しを担う必要がある.そこで本号では医療機関,介護老人保健施設,在宅理学療法における連携のあり方について論じていただいた.

リハビリテーション領域における連携の現状と課題

著者: 飯島節

ページ範囲:P.715 - P.720

はじめに

 リハビリテーションは極めて学際性の高い活動であり,多くの専門職者が同時にあるいは連続的に関わらなくてはならない.そのためリハビリテーション医療の分野では,チームとしての活動や専門職者間の連携のあり方が常に重要な課題となってきた.また,昨今の医療制度改革においては,リハビリテーションに関わる機関や施設の機能分化が進められており,その結果新たに機関や施設間の連携という課題も生じている.

 一方,わが国ではリハビリテーションといえば専ら病院で行う身体機能訓練のことだという誤解が未だに根強く,医学的リハビリテーション以外の,社会,教育,職業などのリハビリテーション分野や,地域リハビリテーションへの一般の理解は極めて乏しい1,2).実際,医療以外のリハビリテーション分野は発展途上であり,医療機関と地域リハビリテーション活動との連携体制の構築も遅れている.

 本稿では,リハビリテーション医療と地域リハビリテーション活動における連携の現状と課題,および今後の方向性について概説する.

急性期病院からみたリハビリテーション連携の現状と課題

著者: 内田奈々 ,   河波恭弘

ページ範囲:P.721 - P.726

はじめに

 医療制度が刻々と変化する中,その方向性は地域の医療機能の分化・連携の推進に向けられ,それに伴い地域医療連携の強化がより一層重要視されるようになっている1).当院が所在する熊本県においては,専門高度化した各医療機関が連携し,地域で医療を完結する「地域完結型医療体制」が整備されている(図1).①かかりつけ医,②急性期病院,③リハビリテーション専門病院,④維持期のリハビリテーション・ケアを行う療養型病院や老人保健施設などの機能分化された医療機関2)のうち,当院は②急性期病院の役割を果たしている.本稿では,当院が現在取り組んでいるリハビリテーション連携の実際を紹介し,今後の方向性も併せて述べる.

回復期病棟からみたリハビリテーション連携の現状と課題

著者: 島村耕介 ,   御代川英己 ,   木下牧子

ページ範囲:P.727 - P.736

はじめに

 医療・介護保険制度の急速な整備がなされる昨今,リハビリテーション(以下,リハ)サービスも急性期,回復期,維持期の流れが整備され,図1に示されたような地域連携パスのイメージは普及しつつある.

 今回の診療報酬・介護報酬のダブル改定で,医療保険については,算定日数制限が設けられ,長期にわたる入院リハサービスの提供は困難となった.その反面,患者1日あたりの実施単位数の上限が緩和,リハ従事者1人・1日あたりの実施単位上限もややフレキシブルとなり,急性期・回復期とも人員を配置すれば発症早期に集中的なリハを行うことも可能となった.また,維持期の介護報酬においては,退院・退所後早期の頻回訪問への評価,リハ・マネジメント料の新設などの居宅リハサービスの整備が推進される形となった.

 これは,回復期リハ,居宅リハサービスなど受け皿の基盤整備とともに,より早期に集中的なリハサービスを行うことが加速的に求められるものと解釈できる.その中で回復期リハ病棟への早期入院,退院の早期化への対応は必須条件である.同時に質の担保,コスト,アウトカムがより厳しく求められているとも言える.そのためには,急性期病院と回復期リハ病棟との病病連携,回復期リハ病棟からは病診連携や居宅支援サービスとの連携が重要となる.また,急性期から維持期までの時間軸で,各時期に求められる理学療法サービスはそれぞれの特徴に応じたさらなる機能分化や専門化が必要であるが,対象者側に立った連続性をもつサービス提供がなされているかについては疑問の残るところである.

 そのような中で,回復期リハの使命は,急性期病院からの迅速な受け入れ(亜急性期の十分な医学的管理),必要かつ十分な集中的リハ医療サービスの提供(病棟を基盤としたチームアプローチにより短期的にADLを改善すること),可能な限り家庭復帰を推進すること(在宅ケアへのソフトランディング)と述べられている1)

 回復期リハ病棟の役割は,岡持らも述べているように急性期から在宅への橋渡しであり2),そこでは,上記の目的に沿ったサービスの提供が望まれる.その中で展開される理学療法も同様の視点が求められる.回復期リハを担う当院においても,サービス提供を行う中で急性期,維持期との連携の課題がわずかながら見えてきた.本稿では,回復期リハ病棟の現状を踏まえ,当院での取り組みを例にとって,連携のあり方について述べる.

介護老人保健施設からみたリハビリテーション連携の現状と課題

著者: 小笠原正

ページ範囲:P.737 - P.741

はじめに

 介護老人保健施設は,昭和61年の老人保健法の改正により在宅と医療機関とを結ぶ中間施設として,「疾病,負傷等により寝たきりの状態にある老人又はこれに準じる状態にある老人に対し,看護,医療的管理の下における介護および機能訓練その他の必要な医療を行うとともに,その日常生活上の世話を行う」ことを目的に創設された.またその役割として,急性期や回復期のステージと連携し,自立支援,在宅復帰の促進が求められているが,期待される役割を十分に果たしているとはいいがたい現状もある.

 本稿ではこれらの内容も含め,介護老人保健施設の役割,リハビリテーション(以下,リハ)の流れにおける連携の現状,課題について述べるとともに,今後の介護老人保健施設のあり方について考察する.

地域在宅におけるリハビリテーション連携の現状と課題

著者: 隆島研吾 ,   井上早苗 ,   岩田直美

ページ範囲:P.743 - P.750

はじめに

 2000年4月に介護保険制度が導入され,従来の社会福祉制度方式から社会保険方式への大幅な転換が行われた.また,2006年度から導入された障害者自立支援法は,それまで別々であった3つの障害(身体障害,知的障害,精神障害)を1つにしてサービスを一元化することとなった.

 障害者自立支援法のポイントとして厚生労働省は以下の項目を挙げている1)

 ①障害の種別(身体障害・知的障害・精神障害)にかかわらず,障害のある人々が必要とするサービスを利用できるよう,サービスを利用するための仕組みを一元化し,施設・事業を再編.

 ②障害のある人々に,身近な市町村が責任をもって一元的にサービスを提供.

 ③サービスを利用する人々もサービスの利用量と所得に応じた負担を行うとともに,国と地方自治体が責任をもって費用負担を行うことをルール化して財源を確保し,必要なサービスを計画的に充実.

 ④就労支援を抜本的に強化.

 ⑤支給決定の仕組みを透明化,明確化.

 また,本制度の介護給付については,介護保険制度と同様に,市町村による認定審査会を経て6段階に区分した上で,サービス支給を調整することとなっている1)(図1,2).

 一方,リハビリテーション(以下,リハ)は本来急性期から回復期を経て在宅生活の定着,社会参加に至るまで,連続的・計画的なものである.図3はリハの流れや目的に沿って,現在整備されつつあるサービス提供機関をまとめたものである.このように整理してみると,リハの流れや各制度,チーム編成などが時間経過とともに変化し,特に地域をベースとした場合の医療・保健・福祉の連携は複雑になってくることがわかる.また,サービス提供を行う各事業所は,多くの場合経営する法人などが別々であり,情報の共有化,ゴールの共有化,医療情報の伝達などの連続性も不十分になりがちである.

 本稿では,地域・在宅におけるリハ連携について,ご本人の承諾を得たうえで川崎市の在宅リハサービスを利用された方を例として,その現状と課題について述べる.

とびら

GOAL!に向かって

著者: 桑野寛之

ページ範囲:P.711 - P.711

 朝,8時半.リハビリテーション(以下,リハビリ)室のドアが開くと同時に,パチンコ屋の開店,はたまたデパートのバーゲンの日と同じような光景で,開室を待ちわびた患者様が押し寄せてきます.患者様はベッドの場所取りやマッサージの順番札取りに必死なのですが,その中には,いつも「痛くて歩けない」「足に力が入らない」とおっしゃっている方達が混じっており,オリンピックの陸上100mで金メダルを取れそうな速さで目標に向かって走っている姿を見ると,「リハビリとは」と考えさせられる反面,最近何か納得できるような気持ちになっています.

 私はこの春までの3年間,病院系列のデイサービスに管理者として赴任していました.3年前に「新しいデイサービスの立ち上げをしてほしい」と病院から言われた時は安易な気持ちで了承しましたが,よくよく話を聞いてみると,開設する地域はデイサービスの激戦区であり,また病院からは距離があるため利用者様の紹介はあまり得られないという悪条件からのスタートでした.唯一の好条件としては,「リハビリ中心型のデイサービス」ということで広報がしやすかったことですが,私はなにぶん「理学療法士(以下,PT)が天職!」と思ってやってきたので,「営業」というものに縁がありませんでした.どうなることかと思っていましたが,「持ち前の明るさ(?)」と「あまりくよくよ考えないB型の性格」が功を奏してか,何とか予定より早い時期に立ち上げることができました.しかし,この3年間はほとんどPTとしてリハビリをした記憶がなく,「送迎」「営業」「担当者会議」「契約」「苦情対応」等々の業務がほとんどであり,利用者様の状態が悪くなった時は一緒に救急車に乗っていくことも何度かありました.「自分はPTじゃなかったのか」などと小さなことを考えている余裕もなく,常に「収益」という怪物が後ろから追ってきており,「より良い介護サービスの提供」「新規の利用者様の獲得」を目指す上でスタッフとの考え方の違いに葛藤があったり,大きなミスを起こしたことに対してスタッフ全員に怒鳴ったり,ケアマネ・家族からの良い評価・感謝をされた時は全員を褒め上げたりと,さすがのB型でも自分の感情の起伏に自分が追いつけないくらい,毎日がもがくように必死でした.その時期に会った友人から「何か最近生き生きしてるぞ」と言われ,その時は全然意味がわかりませんでしたが,後になって思うと「苦しくても目標を持って一生懸命やっている時」には思っている以上の力が発揮でき,一番輝いているのかなと思いました.

報告

片麻痺症例の歩行自立の判定に関するfunctional reachの有用性

著者: 成田寿次 ,   小山内隆 ,   長岡和宏

ページ範囲:P.751 - P.754

はじめに

 脳血管障害(以下,CVA)による片麻痺症例は,歩行が自立しにくい,歩行速度が遅い,長距離歩行が行えないなど,様々な能力障害を来すことが多い.これらの歩行能力を阻害する主な要因としては,麻痺の重症度および筋力,筋緊張の異常,感覚障害,立位バランス能力の低下などが挙げられる1~4).その中でも,立位での支持基底面内における随意的な前後,左右への重心移動距離と歩行能力との関連性が指摘されている1~4).この立位バランス能力を評価する方法として,臨床場面において測定機器を使わずに定量的で信頼性の高いDuncanらにより提唱されたfunctional reach(以下,FR)5,6)が適していると考える.しかし,CVA症例におけるFRを用いた報告は,散見されるがまだ少なく,臨床評価として頻繁に使用するためにも,多面的な角度から多くの報告が必要であると考える.健常高齢者においては,FRによる転倒を予測するカットオフ値が報告されている6).同様にCVA症例においても歩行自立に必要な値が定まれば,臨床場面における目標値の1つとなり,有用な判断材料になると考える.そこで,今回,われわれは,CVA症例の歩行自立とFR値に関して調査したので報告する.

体軸回旋テストと歩幅との関係―自動体幹テストの臨床的意義

著者: 城下貴司 ,   野村紗弥可 ,   松浦武史

ページ範囲:P.783 - P.788

 ヒトの二足歩行は,安定した身体回旋中心軸(以下,体軸)が左右交互に回旋することで左右の歩幅に反映され,有効的に前方移動動作へと変換されるが,臨床では体軸が一定しておらず不安定な歩容を呈する症例をよく経験する.

 歩行における骨盤回旋動作の重要性を,Saundersら1)はコンパス歩行という理論的模型を用いて,「骨盤回旋が欠如された歩行は,重心の上下運動が大きく出現し効率的な動きが阻害される」と説明している.横山ら2)は歩行動作における肩甲帯や骨盤帯の回旋動作について,肩甲帯の回旋と骨盤帯の回旋は同時に相反するパターンとはならない位相のずれを認めたと報告している.この位相のずれについて,小川3)は「位相のずれが1歩行時の1/2周期でなく約1/4周期であることは,骨盤の前進と上肢の振りが1歩行周期の1/2周期ずれていれば,もっとも体軸の捻転バランスをとりやすいために肩甲帯部は上肢に先行して捻転を起こし,このときの位相のずれが約1/4周期である」とし,この位相のずれによる逆回旋を,大里ら4,5)はcounter-rotationと呼んでいる.その他,歩行動作において各部位での回旋運動の報告6~10)がある.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

体力

著者: 大倉三洋

ページ範囲:P.759 - P.759

 体力(physical fitness)は「人間の活動や生存の基礎となる身体的能力」あるいは「いかなる環境にも適応し,かつ作業することのできる身体的能力」などと定義されている.猪飼1)は体力を身体的要素と精神的要素に分け,それぞれを行動体力と防衛体力に分けている(図1).また石河1)は身体的要素に重点を置いて,行動体力を①行動を起こす能力(筋力,筋パワー),②行動を持続する能力(筋持久力,全身持久力),③行動を調節する能力(平衡性,敏捷性,巧緻性,柔軟性)に分類し,また防衛体力を外界からの種々のストレスに対する抵抗力と定義し,ストレッサーの種類により①物理化学的ストレス(暑熱,寒冷,気圧,振動,化学物質),②生物的ストレス(細菌,ウイルス,微生物),③生理的ストレス(運動,空腹,口渇,不眠,疲労),④精神的ストレス(不快,苦痛,恐怖,不満)に対する抵抗力に分けている.しかし,体力は多彩な側面を持っており,体力の果たす役割や意義は①時代や社会的背景,②ライフステージ,③生活環境やライフスタイル,④心身の状況,などによって大きく異なるものである.

◎健康の基盤としての体力2)

 機械化や情報化の進んだ現代社会では,快適で利便性の高い生活が実現されるようになった反面,①運動不足,②精神的なストレスの増大,③生活習慣病や新たな職業病の増加,など心身両面にわたる健康上の問題が大きな社会問題となっている.このような現代社会においては,これらを予防し,健康を維持・増進させるための体力,すなわち健康の基盤としての体力要素として,①全身持久力,②筋力・筋持久力,③身体組成,④柔軟性などが重要視される.

初めての学会発表

群馬デビュー

著者: 山下知映

ページ範囲:P.760 - P.761

 47都道府県のうち,いくつ訪れたことがありますか? 私は33でした.この数字が大きいのか小さいのかはよくわかりませんが,世界はもちろんのこと,日本の中でも行ったことのない場所がいっぱいあるなぁ,もっといろんな所に足を踏み入れてみたいなぁと思っていました.そして,私が34番目に訪れた県は…群馬県でした.

 2006年5月25日(木)~27日(土)の3日間,第41回日本理学療法学術大会が開催されました.開催地は北関東に位置する群馬県前橋市.関西に生まれ育った私にとって,群馬県は馴染みの少ない場所で,場所や県庁所在地などはなんとか覚えていたものの,正直どうやって行けばいいのか,どんな所なのか見当もつきませんでした.

入門講座 ベッドサイドでの患者評価 3

脳血管障害・脳外傷

著者: 大塚功 ,   熊崎博司 ,   奥田真央 ,   鵜飼正二

ページ範囲:P.763 - P.773

はじめに

 脳血管障害や脳外傷(以下,脳卒中)患者に対する理学療法(以下,PT)は,急性期から回復期,そして在宅リハビリテーション(以下,リハビリ)にいたる幅広いステージで,多くの理学療法士が経験する代表的なリハビリの1つといえる.近年,脳卒中に限らず,PT介入のタイミングは急性期の中でもより早期集中型へとシフトし,入院または発症当日のベッドサイドからの介入も珍しくない.そこで実施される評価は,障害や残存能力の把握によるリハビリプログラム作成のためという側面のほかに,目的として次のような項目が挙げられる.①運動負荷を伴う評価がどこまで実施可能かを予測するための評価,②実際の運動(負荷)や動作を行い,現状の障害や残存能力を把握するための評価,③上記に基づき,経時的変化や改善を把握するために用いる,④さらに帰結予測に用いる,⑤最終評価から実施したリハビリの効果判定に用いる,⑥また,園田1)は評価法と内容に信頼性・妥当性・内的整合性があればリハビリのエビデンスを作ることにも活用できる,としている.

 本稿では,理学療法士が脳卒中患者のリハビリを始めるにあたり,事前の情報収集から急性期におけるベッドサイド評価の視点,そして運動療法を行いながらその反応を注意深く評価して行くプロセスについて述べる.なお急性期のリスク管理下における評価のプロセスは,その後の全身状態が安定した回復期前期以降のリハビリや訪問リハビリにおいても,十分活用できるものと考える.

講座 福祉工学の最前線 3

地域生活領域における福祉工学の現状と課題―アシスティブ・テクノロジーの展開と福祉用具の選定・適合の課題

著者: 木之瀬隆

ページ範囲:P.775 - P.780

はじめに

 近年の医用・福祉工学の進歩は目覚ましく,介護用ロボットの実用化に関する研究も進みつつある.欧米ではリハビリテーション工学の障害者支援技術として,アシスティブ・テクノロジー(Assistive Technology:以下,AT)を活用した生活支援が一般的に行われている1,2).特に国際生活機能分類(ICF)に基づいた支援が提供されており,障害のある人が自由に教育を受け,一般の人と一緒に競争社会の中で働く状況がある.

 国内のリハビリテーションの現場においても,アセスメントにICFが使用される施設が増えつつある3).それ以前の国際機能分類(ICIDH)では,身体機能の回復に主眼をおいたアプローチであったが,現在は,急性期を扱う医療機関であっても,クライエントが退院後,どこで,どのような生活を営むのかを考慮してリハビリテーションを行う必要がある.臨床現場の理学療法士・作業療法士は,そのような時代の変革に合わせた対応が必要である.本稿では,ICFの環境因子の「生産品と用具」を解説し,国内で行われているATの取り組みの一部について紹介する.また,介護保険法における福祉用具の選定・適合技術の課題について言及する.

資料

第41回理学療法士・作業療法士国家試験問題 模範解答と解説・Ⅲ 理学療法(3)

著者: 金村尚彦 ,   川口浩太郎 ,   黒瀬智之 ,   関川清一 ,   藤村昌彦 ,   宮下浩二

ページ範囲:P.789 - P.796

文献抄録

慢性腰痛症患者の睡眠障害

著者: 大嶽昇弘

ページ範囲:P.798 - P.798

 目的:この研究の目的は,睡眠障害と慢性的な腰痛との関係を実証することである.

 方法:慢性的な(6か月を超える)腰痛を主訴とする患者に対し,クリニックの待合室で診察を待つ間に匿名でアンケートに記入してもらい,回収箱に入れる形式で行った.アンケート調査の内容はShort-Form McGill Pain Questionnaire(SF-MPQ),Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI),a pain visual analog scale(VAS),ベッドタイプ,睡眠姿勢,睡眠状態の記載など,43項目から成る.

急性期の足関節捻挫と機能的不安定性に対するエクササイズセラピーおよび徒手的モビライゼーションの効果:系統的再調査

著者: 安藤正志

ページ範囲:P.798 - P.798

 目的:急性期の足関節捻挫と機能的不安定性に対するエクササイズセラピーと徒手的モビライゼーションの効果研究の再検討を行うことを目的とする.

 方法:1966年から2005年3月までの文献を,機械的あるいは手動的に検索した.足関節のエクササイズセラピーと徒手的モビライゼーションに関する臨床的意義のある結果が最低1つ取り上げられた研究論文を評価した.2名の調査者が個々の研究論文の主観的妥当性を査読した.計算可能な場合は,リレーティブリスク(RR)あるいは標準化平均差(SMD)を計算した.

慢性腰痛患者における脊柱固定術および集中的リハビリテーションプログラムの無作為化比較対照試験

著者: 長牛実樹

ページ範囲:P.799 - P.799

 目的:本研究の目的は慢性腰痛患者に対する脊柱固定術および認知・行動療法を基礎とした集中的なリハビリテーション(以下,リハ)による臨床的効果の比較を行うことである.

 対象:12か月以上持続する慢性腰痛を有する者のうち,脊柱固定術の適応とされた349名(18~55歳)を対象とし,脊柱固定術の既往のある者は除外した.

慢性腰痛者はどのようにスピードを上げ,速度を落とすか?:歩行中の体幹-骨盤の協調運動および腰部脊柱起立筋活動

著者: 関公輔

ページ範囲:P.799 - P.799

目的:健常歩行において,脊柱起立筋(ES)の活動と,体幹-骨盤間の回旋のタイミングは,歩行速度に応じて組織的に変化する.しかし腰痛(LBP)者においては,速度依存性の体幹-骨盤間の協調性がしばしば減弱する.体幹-骨盤の協調運動が全身的な歩行の安定につながるという仮説に基づいて,慢性のLBP者の歩行は加速時に体幹-骨盤協調運動が減弱すると考えられる.この予想を検証することを目的とした.

 方法:被験者は,慢性LBP者12名(36.8±10.9歳)とし,対照群は健常者12名(30±8.0歳)が参加した.課題は,トレッドミル上にて自由歩行後,異なる6つの速度(6.2,1.4,3.8,5.4,2.2,4.6km/h)で歩行した.体幹部分の回旋角度の計測は,3Dアクティブ・マーカーoptotrak 3020を使用し,マーカーは,第3胸椎(T3),第2腰椎(L2)と仙骨の高さ,踵と第5中足指節関節に貼付した.ES活動は,表面筋電図を使用し記録した.歩行速度の動揺後の体幹-骨盤協調運動と腰部脊柱起立筋(LES)活動パターンの不変量と変化特性は主成分分析を使用し群間で比較検討された.

書評

―奈良 勲(監修)・鶴見隆正(編)―「《標準理学療法学 専門分野》日常生活活動学・生活環境学第2版」

著者: 小林量作

ページ範囲:P.726 - P.726

 日常生活活動(ADL)学の講義を担当していて最初に悩むのは,テキストの選択である.基本的事項がわかりやすくまとめられ,臨床実習にも活用できる内容のテキストを欲張ると選択がなかなか難しいが,本書はこの要望を満たしており,推薦できる一書である.

 本書は本来ならそれぞれで1冊となるべきADL学と生活環境学の2つの領域を1冊にまとめたものである.ADLと生活環境は相互関係にあることから2部構成にしたものであろう.内容は基本と具体的なことを簡明にまとめてある.ADL学は「第1章総論」,「第2章各論―ADL指導の実際」(疾患別にⅠ-Ⅸまで),生活環境学は第1章から第7章まで構成されている.今回の第2版改訂に当たっては,内容を国際生活機能分類(ICF)の考え方に統一してある.

―内山 靖(著)―「症候障害学序説―理学療法の臨床思考過程モデル」

著者: 冨田昌夫

ページ範囲:P.756 - P.756

 症候障害学? 少しいぶかる気持ちで読み始めたが,すぐに気が付いた.今私たち理学療法士に求められている最も重要な概念であると.

 2001年,WHOで採択されたICFは対象者(家族を含む)と保健・医療・福祉の専門職との共通言語として提示され,医療の共通枠組みとして優れた社会貢献型モデルであるが,各専門職が具体的な介入を実施するためにはそれぞれの領域に応じた独自の基盤モデルが必要である.ICFは障害学的視点から医学モデルの限界を示しているが,理学療法の基盤モデルでは医学モデルを削除してはならない.理学療法は,医学モデルにおける医療行為の一翼を担うとともに,障害モデルにおけるリハビリテーションの理念や思想に基づいて実施されるものである.症候学的な視点からの医学モデルを加え,理学療法の臨床思考過程モデルとして内山氏が独自に提案された概念が,この本で示された“症候障害学”であると私は理解させていただいた.

―今川忠男(監訳)―「脳性まひ児の24時間姿勢ケア」

著者: 福井勉

ページ範囲:P.781 - P.781

 本著は訳者,今川氏の所属する旭川児童院とChailey Heritage Clinical Serviceが長年協力して築きあげた療育概念を体系化したものである.重度な神経学的障害を有する脳性まひの子どもに対する評価・治療・サポート体制を著している.

 背臥位,腹臥位,床上座位,椅子座位,立位に分けたレベルを明確化している姿勢能力発達レベルは,客観的評価のため正常運動発達で用いるモデルを使用している.これは神経学的な機能障害の徴候ではなく到達した発達段階に重点が置かれているようであり,ICFの流れを汲んでいるように見える.なかでも姿勢能力の評価と発達レベルを具体的に記述し,さらに評価方法を明確化していることが特筆すべき点である.臨床的知見を基に具体化した評価方法を明文化するまでのプロセスは,時間的にも経済的にも膨大なものであったであろうことが容易に予想される.具体的基準を著作にすることは,臨床家としての責任や誇りを持たずにはできない仕事であろうと感じさせられた.運動器疾患で仕事をしてきた私のような者には,意外にもバイオメカニカルな視点が大きいことに親近感を覚え,その運動の質向上と,さまざまなサポートシステムの記述には分野によらず参考になることが多かった.姿勢ケアは24時間行うものであることを前提に,遊ぶための姿勢,寝るための姿勢,支持器具,膝ブロック,装具,歩行器,三輪車などに対する工夫は,実際に生活している子どもが想像しやすく,必要なことから標準化された印象を持った.子どもにとって本当に必要なミニマムスタンダードが何気なく書かれているところに,この著書へ投入されたエネルギーの奥深さと,長い年月の苦闘のようなものを感じた.脳性まひの子どもに長年携わっている人達にも,自分の辿ってきた道のりを確かめる良い機会になるのではないだろうか.

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編集後記

著者: 鶴見隆正

ページ範囲:P.804 - P.804

 7月下旬に埼玉県内で発生した痛ましいプール死亡事故は,プールの安全管理を再考するきっかけとなった.安全管理すべき市役所はプール管理を委託下請けに,監視員はアルバイトで安全研修も実施していない,所轄省庁は定型的な安全管理の通達を送付するのみで,その安全実施の確認は行っていなかった,との報道に愕然とした.「誰かが安全を確認しているだろう」という思い込みの連鎖が事故に繋がったと思う.まさにプールサイドから行政機関までの領域において安全第一とした連携は存在していなかったといえる.

 さて本特集は「理学療法と連携」である.本来,医学的リハビリテーションは,リハビリテーションの理念をもとに,各専門家が継続性のあるチームアプローチを重ねてきた領域であるが,昨今の医療制度,介護保険制度の改正で,医療から在宅生活支援までを包括した連携構築が一段と強く求められている.しかしながら,在宅生活に向けた連携となれば地域支援スタッフは多様であるだけに,その調整力がポイントとなる.ややもすれば医療側からの一方向のアプローチに陥ったり,受け手側である地域支援スタッフが求めるものと乖離していたりして,まだ理想的な双方向性の地域・医療連携の形は完成しているとは言いがたい.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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