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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル41巻10号

2007年10月発行

雑誌目次

特集 外来・通所理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.791 - P.791

 地域完結型医療を実践するためには,急性期の速やかな機能回復から生活機能維持・改善,介護・障害予防を目的とした過程で外来・通所理学療法の位置づけが重要となる.本誌では,1995年に「外来理学療法の再検討」を企画し,外来理学療法の役割について示した.その後,医療・介護保険制度の変革に伴い,外来・通所理学療法のあり方が改めて問われている.本特集では外来・通所理学療法の変遷と展望を踏まえ,具体的な実践例を通してその役割と可能性を検証した.

外来・通所理学療法の現状と展望

著者: 谷内幸喜

ページ範囲:P.793 - P.800

はじめに

 2006(平成18)年度の医療・介護保険制度における報酬同時改定は,どちらもマイナス改定となった.現行制度を維持すれば,医療・介護給付費の高騰により財源が枯渇し,保険制度が破綻すると国が判断したからである.この制度改革の根幹は,2008年度から開始される「医療費適正化計画」であり,報酬の引き下げや患者(利用者)負担増などを含んだ医療(介護)給付費の伸びを抑制する計画である.この計画には「生活習慣病の予防」と「平均在院日数の短縮」の2大スローガンが掲げられたが,予防で成果を出すには長期間を要することから,短期的には平均在院日数の短縮が最重要課題となっている.この最重要課題(平均在院日数の短縮政策)は,入院中におけるリハビリテーション(理学療法)期間が減るといった単純なものではなく,効果実証において比較的長期間を要する「リハビリテーション医療」というものを根底から揺るがすものと考えられる.今後,公的な医療・介護給付費の抑制が今まで以上に厳しくなることは必至であり1~3),臨床現場にいる理学療法士は,理学療法効果に対して,現時点で具体化できるものを1つでも短期間でかつ客観的に実証していかなければならない時代に来ていると考える.

 本稿では,「外来理学療法」と「通所理学療法」について解説するが,2006年の診療報酬改定において,理学療法料はリハビリテーション料と記載されている.2006年度改定の概要(2007年度の疾患別リハビリテーション料点数改定も含む)とその影響を示しながら,両者の具体的課題と展望に関して若干の私見を述べる.

整形外科診療所における外来理学療法の現状と展望

著者: 杉浦武 ,   小堀かおり

ページ範囲:P.801 - P.808

はじめに

 診療所とは,19床以下の入院施設を有する,あるいは入院施設を有さない医療機関であるが,その診療体制やサービス内容などは診療科目や病床の有無などにより多彩である.近年,地域完結型医療が推進される中で,診療所は各地域における急性期治療後の患者の健康状態や身体機能などの維持,改善を医療保険下で支える立場にある.また地域密着という点では,長期的に患者の経過を把握する必要性とともに,障害予防を推進する役割も担っている.現在の目まぐるしく変化する医療状況においては,診療所に対する患者のニーズは多彩であり,臨機応変に対応できるサービス体制が必要である.理学療法も各診療所の診療体制によって対象となる患者層が異なるが,患者の様々な要望に応じたサービス提供(時に医療施設以上の)が求められることにかわりはない.

 本稿では,整形外科を標榜する無床診療所に勤務する理学療法士の立場から,当クリニックにおける外来理学療法の現状について報告するとともに,診療所におけるその役割と今後の展望について考察する.

リハビリテーション病院における外来理学療法の現状と展望

著者: 草苅尚志 ,   大田健太郎 ,   福田之紘 ,   高橋芳徳 ,   下斗米貴子

ページ範囲:P.809 - P.814

はじめに

 2006年度の医療保険,介護保険における報酬制度の改定により,発症直後からの早期のリハビリテーションの重要性が見直され,急性期から回復期における集中的なリハビリテーションの効果が評価された.その中で,心身機能,諸活動の早期改善を目指すために,リハビリテーション料を疾患別に再編成するとともに,適用除外対象患者を設定した上で,算定日数に上限が設けられた.さらに2007年度には,診療報酬改定結果検証部会におけるリハビリテーション料の検証結果を踏まえ,2006年度改定の趣旨に則り,よりきめの細かい対応を行うためとして,①算定日数上限の除外対象患者の範囲拡大,②リハビリテーション医学管理料の新設,③疾患別リハビリテーション料への逓減制導入などの見直しが行われ,医療保険と介護保険の役割が明確にすみわけされた.

 制度の改定に至った背景には,2004年1月に高齢者リハビリテーション研究会1)より現状と課題として提示された,①最も重点的に行われるべき急性期リハビリテーション医療が不十分である,②長期間にわたる効果が明らかでないリハビリテーション医療が行われている,③医療から介護への連続するシステムが機能していない,④リハビリテーションとケアとの境界が明確に区別されておらず,リハビリテーションとケアが混同して提供されている,⑤在宅リハビリテーションが不十分である,との報告があり,それに医療費の適正化を盛り込んだことが改定の主旨に大きく影響している.

 これらの度重なる改定を受けて,維持期のリハビリテーションにおける在宅リハビリテーションの一形態としての役割を担ってきた外来理学療法の在り方は大きく変貌してきている.外来リハビリテーションとは,早期に主目標を達成し,高いレベルに到達するために,入院に引き続いて行うリハビリテーションで,漠然と維持を目的として行うものではない2)とされており,適正な期間および目的を設定して提供されるサービスとして位置づけられている.そのような中,当院における外来理学療法の患者数は年々増加の一途を辿っていったのが現状であったが,制度の改定に伴い患者数や頻度,また他のサービスの利用状況などに変化がみられてきている.

 そこで,本稿では筆者らのこれまでの関わり方を振り返り,当院に求められる外来理学療法の在り方を再考したので報告する.

一般病院における外来理学療法の変遷と展望

著者: 川島達宏 ,   川島敏生

ページ範囲:P.815 - P.822

はじめに

 当院の外来理学療法に関して,本誌にて1995年に報告し1),その後約10年が経過した.その間の少子高齢化,疾病構造の変化,医療費の高騰,経済低成長などは,保健・医療・福祉に大きな影響を及ぼし,社会保障制度にも変革がみられた.

 急速に進む少子高齢化などに対応するため,診療報酬制度の度重なる改定が行われ,介護保険制度も導入された.それらに伴い,外来理学療法の対応にも大きな変化がみられる.

 本稿では,当院の外来理学療法の変遷を報告するとともに,ニーズの変化や対応,今後の展望に関して私見を述べる.

通所リハビリテーションにおける理学療法の現状と展望

著者: 前野由香

ページ範囲:P.823 - P.828

はじめに

 2006年4月の介護保険制度改定により,リハビリテーションマネジメント加算(以下,リハマネジメント),短期集中リハビリテーション実施加算(以下,短期集中リハ)が導入され,多職種協働でのケアプロセスと,退院・退所直後に集中的に関わるリハのあり方が提案された1).また,今回の改定で重要課題として挙げられているのが,予防重視型システムへの転換である.「新予防給付」の新設により,当施設の通所リハビリテーション(以下,通所リハ)でも,介護予防通所リハを開始した.通所リハでは積極的な自立支援と介護予防を目的として,リハ専門職による直接的・間接的リハと多職種によるリハマネジメントが求められるようになった.

 本稿では,当施設における通所リハの現状を整理し,制度改定に伴う変化や今後の展望について述べる.

とびら

四苦八苦

著者: 須藤恵理子

ページ範囲:P.789 - P.789

 高校生の頃,仏教では「生・老・病・死」を四苦といい,人生の苦しみを表現していると習った記憶があります.また「四苦八苦」という言葉については,「今度担当した患者さんへの対応に四苦八苦している…」というような感じで使っていました.最近ある宗教関係の解説本を読んで,本来の意味や語源を知らずに使っていたということに気づきました.

 四苦八苦は「生老病死」の四苦に,「愛別離苦(あいべつりく)」「怨憎会苦(おんぞうえく)」「五蘊盛苦(ごうんじょうく)」「求不得苦(ぐふとくく)」という四つの苦しみが加わり,計八苦を指していると知りました.簡単に説明すると「愛別離苦」とは,いつかは必ず愛する者と別れなければいけないという苦しみ.「怨憎会苦」とは,絶対会いたくない嫌な人間,自分を殺そうとねらう敵のような人間に会う苦しみ.「五蘊盛苦」とは,人間に感覚があることによって起きる苦しみ.「求不得苦」とは,望みがかなえられないことによって感じる苦しみ,だそうです.前者2つは愛憎に関する内容だと字面からも想像しやすかったのですが,3番目の「五蘊盛苦」は見慣れない漢字のため,少しとまどいました.人間には肉体があり,感覚があり,想像する頭があるがゆえに苦もまた存在するというのです.おいしいものを食べる喜びがあるからこそ,食べられない時には苦しみを感じます.歩ける喜びと歩けない苦しみは表裏一体の関係にあります.日頃,病院でお会いする方々が感じている苦しみのことと考えれば,非常に理解しやすいことでした.4番目の「求不得苦」も,身近な存在ですね.いつかは完璧に回復できるのではないかという希望を持つ方々に対し,それは難しいことですよと話してきました.できうるかぎりの練習を続け,その過程を経た上で,折り合いをつけて生きていくことになるのではないでしょうかと.そうだなと納得される方と,なぜこんな病気になってしまったのか?と嘆く方.人によっては延々と繰り返されるループであり,様々な苦しみに取り巻かれ,まさに四苦八苦そのものであると言えます.

学会印象記

15th International WCPT congress―World Physical Therapy 2007

著者: 西上智彦 ,   来間弘展

ページ範囲:P.830 - P.833

 編集室より:今回は学会印象記拡大版として,15th International WCPT congressについて,学会全体の印象を西上智彦氏より,参加したセッションを中心に来間弘展氏より寄稿していただきました.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

支持性

著者: 柴喜崇

ページ範囲:P.837 - P.837

 「支持性」(support)という用語は,理学療法士が関わる臨床で頻用されている.支持性が高い,あるいは低いといった使われ方である.しかし,理学療法学1)および医学2)を網羅する辞典において「支持性」なる項目を探しあてることはできないし,近年の理学療法士国家試験の問題に「支持性」という用語をみつけることもできない.要するに定義が明確に示されないまま「支持性」という用語が濫用されているのが現状といえる.

 ところで,臨床において違和感なく用いられている「支持性」は,一般にどのような使われ方をしているのであろうか.日本理学療法学術集会の抄録から「支持性」という用語を探すと,部位としては上肢の支持性,下肢の支持性,体幹の支持性という表現がみられた.最も頻用されているのが“下肢”の支持性,続いて“上肢”,“体幹”が続いている.

学校探検隊

文化の薫り高い倉敷でのびのび育つ学生達

著者: 渡邉進 ,   中尾友美

ページ範囲:P.838 - P.839

充実した教育環境

 岡山駅から山陽本線の下り列車に乗り,大原美術館や倉敷チボリ公園など観光で有名な倉敷駅手前の中庄駅が近づくと,右手に大きな建物群が見えてきます.それらが川崎医科大学,同附属病院,川崎医療短期大学,川崎リハビリテーション学院などの川崎学園関連施設です.本学はその川崎学園の一部に属し,県道162号線を挟んで位置しています.したがって,本学は川崎学園の「人間をつくる,体をつくる,学問を究める」という共通理念のもと,西日本随一といわれる川崎学園ネットワークの充実した教育環境の中にあります.本学は,時代に先駆けて世界で最初に「医療福祉」の理念を掲げ,1991年に開学された総合大学です.医療,福祉,保健分野の専門職を養成するために,現在は3学部12学科を擁しています.リハビリテーション学科は,理学療法士・作業療法士の養成を目的として1995年に開設され,医療技術学部に属しています.以上のような特徴的な環境の中にあるため,本学科の学生は,「医療福祉」およびリハビリテーションの理念と理論と実践を深く学べるとともに,川崎学園ネットワークのもと,豊富な人材,施設の提供を受けることができます.特に,医科大学附属病院での実践的で豊富な臨床見学,臨床実習は極めて重要な教育の機会となっています.

入門講座 検査測定/評価・4

歩行

著者: 嶋田誠一郎 ,   亀井健太

ページ範囲:P.841 - P.850

はじめに

 歩行はヒトが最も日常的に行う移動動作であり,当然その評価は理学療法評価の中でも重要な部分を占める.歩行評価は,理学療法を行う上での問題を探るための評価でもあり,効果判定を行うためのものでもある.また,臓器的には筋骨格系および神経系,心肺血管系を含めた総合評価であり,筋力や平衡機能,柔軟性,持久性といった理学療法の基本的要綱のすべてに関連してくるものである.

 その方法は主観的な方法(観察による歩行解析)と定量的・定性的な方法があり,通常,前者は問題を探る時に用いられる場合が多く,理学療法士として経験を通して必ず習得して行くべきものである.後者は問題の客観的な検証や効果判定に用いられる場合が多い.本稿では,新人理学療法士が臨床において歩行評価を行う上で,簡易に取り組みやすい客観的方法を中心に述べ,機器を用いた歩行解析のデータの見方についても触れたい.

講座 「複雑系」と理学療法・1【新連載】

複雑系科学と理学療法の関わり

著者: 久保雅義

ページ範囲:P.853 - P.859

はじめに

 今回のテーマである「複雑系の科学と理学療法」は,おそらく「月とスッポン」(別に理学療法がスッポンという意図ではありません)と同じ程度か,あるいはそれ以上に共通点のないもののように思えます.一方が散逸構造理論1)とかカタストロフィー理論2)というようなまったく生活感のないものであるのに対し,理学療法では片麻痺患者のいすからの立ち上がり練習というように,まさに生活感あふれる日常を対象としており,その間にとても関係があるようには思えません.しかし,17世紀生まれのニュートン力学がバイオメカニクスの基礎となり,現在の理学療法が大いにその恩恵を受けていることを考えると,21世紀の科学ともいえる複雑系の科学がいつの日か理学療法に寄与する可能性がないとはいえません.本稿では複雑系の科学のトピックスのうちいくつかに触れ,それらの考え方が遠い将来にではなく,既に現在の理学療法を支える概念において影響をみせはじめているという視点から進めていきたいと思います.

報告

変形性膝関節症内側型に対する靴指導の有用性

著者: 清水新悟 ,   徳田康彦 ,   横地正裕 ,   前田健博 ,   良田洋昇

ページ範囲:P.861 - P.865

 要旨:変形性膝関節症内側型22例34膝に対し,靴指導を行い,歩行時痛の改善が得られるか評価を行った.その結果,10m歩行時間,10m歩数,VASの改善を認めた.また日本整形外科学会OA膝治療成績判定基準(JOA score)を用いて,靴指導前と靴指導1週間後を評価して比較した結果,有意に靴指導後に改善がみられた.よって適した靴を装着することは歩行時痛の改善に有効であると思われた.さらに指導前と指導後の靴の重さを比較した結果,指導後の靴が有意に重いにもかかわらず,歩行時間の短縮などがみられ,対象者自身においても指導後の靴のほうを軽く感じるという結果が得られた.靴は必ずしも軽量化することが最善策ではないことが示唆された.

書評

―中川法一(編)―「セラピスト教育のためのクリニカル・クラークシップのすすめ」

著者: 木村貞治

ページ範囲:P.834 - P.834

 理学療法士,作業療法士の卒前教育においては,養成校における学内教育と臨床現場における臨床実習との一貫した教育体制によって,学生の情意領域,認知領域,そして,精神運動領域の能力を高めていくことが重要となる.しかし,現在,理学療法,作業療法の臨床実習は,量と質の両面において様々な問題に直面している.量的な問題としては,養成校の急増に対してそれに対応できる臨床実習施設や臨床実習指導者が不足していることや,診療報酬制度の改定に伴い学生指導に割ける時間が減少していることなどが挙げられる.また,質的な問題としては,コアカリキュラムが未整備であることにより臨床実習開始前までの教育内容に関する養成校間格差があること,臨床実習における標準的な教育モデルの構築が不十分であるため,臨床実習施設や臨床実習指導者による教育能力の差が大きいこと,そして,従来行われてきた患者担当制では,臨床体験頻度が限られるとともに,積み上げ式教育によって,評価が終了しないと治療的介入に進めないという状況に陥る場合があることなどが挙げられる.

 理学療法・作業療法における臨床実習が直面しているこのような状況に対するブレークスルーとして,診療参加型の臨床実習方法である「クリニカル・クラークシップ」が注目されている.しかし,実際の臨床実習においてクリニカル・クラークシップをどのように導入し,どのように進めていけば良いのかという点については十分に理解されていないのが現状ではないかと思われる.

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文献抄録

ページ範囲:P.866 - P.867

編集後記

著者: 内山靖

ページ範囲:P.872 - P.872

 今日では,行政をはじめ教育・医療を含めたすべての領域で“説明責任”の重要性が強調されている.これに関連して,同意書,セカンド・オピニオン,倫理審査,個人情報保護など,対象者の利益となる方法が実行されている.当事者にとって,わかりやすい説明による理解と安心を得る目的で実施された諸制度は時代の要請でもある.かつて聖域といわれた医療と教育も国民の信頼を得るには至らず,むしろ密室での非合理な行為や独善的な判断が白日にさらされる事件も少なくない.専門職は国民が求めていることが形式的な資料や説明の羅列ではないことに真摯に応えなくてはならない.理学療法士もその数が増えて,魅力的で質の高い人が増える一方で,残念ながら不適切な行為をする者がいる.これを確率論で済ませるのではなく,教育や生涯学習の中で組織として対応する努力を怠ってはならないであろう.

 専門職は,良心と法律ならびに専門の知識と技術を十分に理解したうえで,対象者の立場に立った判断と適用には一定の裁量が与えられている.越権や独善は厳に慎まなければならないが,裁量権を放棄したマニュアルの遂行のみでは専門職の存在意義はない.最近ではエビデンスに基づく医療の展開が求められているが,これはガイドラインを遵守することではない.あくまでも,最善のエビデンスを目の前の対象者に思慮深く適用する過程であり,その臨床判断能力こそが専門職に期待されているものである.かつて,“私がルールブックだ”といった審判がいたが,1つの判断をすることに責任をもち併せて判断を避けることがあってはならないと感じる.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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