文献詳細
文献概要
特集 メタボリックシンドロームと理学療法
メタボリックシンドロームに対する理学療法の現状と課題
著者: 石黒友康1
所属機関: 1健康科学大学健康科学部理学療法学科
ページ範囲:P.885 - P.892
文献購入ページに移動はじめに
メタボリックシンドローム(metabolic syndrome)とは,①内臓脂肪蓄積,②脂質代謝異常〔高トリグリセリド(TG)血症,低HDLコレステロール血症〕,③高血圧,④耐糖能異常(インスリン抵抗性)などが個人に集積することにより,動脈硬化を基盤とした心血管イベントが発症しやすい状態を指す疾患概念である.社会保険健康事業財団による「平成16年度 政府管掌健康保険生活習慣病予防検診におけるメタボリックシンドロームリスク保有者について1)」では,BMI 25以上,耐糖能異常,高血圧,高脂血症をリスク項目とした場合,受診者347万人(男性228万人,女性119万人)中,男性では全体の30.2%がBMI 25以上であり,そのうち41.1%はリスクを2項目以上保有し,女性では全体の18.5%がBMI 25以上であり,そのうち21.6%はリスクを2項目以上保有していることが明らかになった.さらにリスク保有状況をみると,BMI 25以上でリスクを2項目以上保有する男性の場合,44.2%が高脂血症と高血圧を,23.7%が高血圧,高脂血症,耐糖能異常を保有し,女性では38.1%が高血圧と耐糖能異常を,37.6%が高脂血症と高血圧を保有しているという結果であった.同様に「平成16年 国民健康・栄養調査の概要2)」では,40~74歳におけるメタボリックシンドロームの有病者は約940万人,予備軍は約1,020万人,あわせて1,960万人がメタボリックシンドロームの有病者と推定されている.またこの調査から男性の2人に1人が,女性では5人に1人がメタボリックシンドロームを強く疑われ,とりわけ40歳以上の男性では40%以上がメタボリックシンドロームの有病者であると考えられている.ちなみに日本人の糖尿病患者で,メタボリックシンドロームの基準に合致する人数は,全体の30%程度と考えられている.
現在メタボリックシンドロームは,わが国の保健・医療行政における重要課題として,積極的な取り組みが行われている.とりわけ「健康日本21」で掲げられている運動への取り組みに対しては,運動療法を専門とする理学療法士として,積極的に参加する必要性がある.そこで本稿では,これまで行われた耐糖能異常や糖尿病に対する生活習慣改善の疫学研究の成績から,メタボリックシンドロームの予防・改善と身体運動の効果を類推し,さらに運動効果発現の生化学的メカニズムの概略について述べる.
メタボリックシンドローム(metabolic syndrome)とは,①内臓脂肪蓄積,②脂質代謝異常〔高トリグリセリド(TG)血症,低HDLコレステロール血症〕,③高血圧,④耐糖能異常(インスリン抵抗性)などが個人に集積することにより,動脈硬化を基盤とした心血管イベントが発症しやすい状態を指す疾患概念である.社会保険健康事業財団による「平成16年度 政府管掌健康保険生活習慣病予防検診におけるメタボリックシンドロームリスク保有者について1)」では,BMI 25以上,耐糖能異常,高血圧,高脂血症をリスク項目とした場合,受診者347万人(男性228万人,女性119万人)中,男性では全体の30.2%がBMI 25以上であり,そのうち41.1%はリスクを2項目以上保有し,女性では全体の18.5%がBMI 25以上であり,そのうち21.6%はリスクを2項目以上保有していることが明らかになった.さらにリスク保有状況をみると,BMI 25以上でリスクを2項目以上保有する男性の場合,44.2%が高脂血症と高血圧を,23.7%が高血圧,高脂血症,耐糖能異常を保有し,女性では38.1%が高血圧と耐糖能異常を,37.6%が高脂血症と高血圧を保有しているという結果であった.同様に「平成16年 国民健康・栄養調査の概要2)」では,40~74歳におけるメタボリックシンドロームの有病者は約940万人,予備軍は約1,020万人,あわせて1,960万人がメタボリックシンドロームの有病者と推定されている.またこの調査から男性の2人に1人が,女性では5人に1人がメタボリックシンドロームを強く疑われ,とりわけ40歳以上の男性では40%以上がメタボリックシンドロームの有病者であると考えられている.ちなみに日本人の糖尿病患者で,メタボリックシンドロームの基準に合致する人数は,全体の30%程度と考えられている.
現在メタボリックシンドロームは,わが国の保健・医療行政における重要課題として,積極的な取り組みが行われている.とりわけ「健康日本21」で掲げられている運動への取り組みに対しては,運動療法を専門とする理学療法士として,積極的に参加する必要性がある.そこで本稿では,これまで行われた耐糖能異常や糖尿病に対する生活習慣改善の疫学研究の成績から,メタボリックシンドロームの予防・改善と身体運動の効果を類推し,さらに運動効果発現の生化学的メカニズムの概略について述べる.
参考文献
1)社会保険健康事業財団:平成16年度政府管掌健康保険生活習慣病予防検診におけるメタボリックシンドロームリスク保有者について http://www.peare.or.jp/peare/e/dis/bo.pdf
2)厚生労働省健康局:平成16年国民健康・栄養調査の概要 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/05/h0508-1a.html
3)Fujioka S, et al:Contribution of intra-abdominal fat accumulation to glucose and lipid Metabolism in human obesity. Metabolism 36:54-59, 1987
4)Reaven GM:Role of insulin resistance in human disease. Deabetes 37:1595-1607, 1988
5)Kaplan NM:The deadly quartet:Upper-body obesity, glucose intolerance, hypertriglyceridemia, and hypertension. Arch Intern Med 149:1514-1520, 1989
6)DeFronzo RA, et al:Insulin resistance. A multifaceted syndrome responsible for NIDDM, obesity, hypertension, dyslipidemia, and atherosclerotic cardiovascular disease. Diabetes Care 14:173-194, 1991
7)佐藤祐造(編):運動療法と運動処方,pp126-131,文光堂,2005
8)伊藤 裕:メタボリックドミノとは―生活習慣病の新しいとらえ方.日本臨牀 61:1837-1843,2003
9)Eriksson KF, et al:Prevention of type 2(non-insulin-dependent)diabetes mellitus by diet and physical exercise. The 6-year Malmö feasibility study. Diabetologia 34:891-898, 1991
10)Hu FB, et al:Walking compared with vigorous physical activity and risk of type 2 diabetes in woman:a prospective study. JAMA 282:1433-1439, 1999
11)Pan XR, et al:Effect of diet and exercise in preventing NIDDM in people with impaired glucose tolerance. The Da Qing IGT and Diabetes Study. Dibetes Care 20:537-544, 1997
12)Knowler WC, et al:Reduction in the incidence of type 2 diabetes with lifestyle intervention of metoformin. N Engl J Med 346:393-403, 2002
13)浅野知一郎,他:糖輸送担体,グルコキナーゼと糖尿病,門脇 孝(編):糖尿病の分子医学,pp118-125,羊土社,1992
14)高木偉碩,他:運動とインスリン抵抗性.糖尿病 48:622-625,2004
15)糖尿病治療研究会(編):糖尿病運動療法の手引き,pp1-6,医歯薬出版,2001
16)Nesher R, et al:Dissociation of effects of insulin and contraction on glucose transport in rat epitrochlearis muscle. Am J Physiol 249:C226-C232, 1985
17)Hayashi T, et al:Exercise regulation of glucose transport in skeletal muscle. Am J Physiol 273:E1039-E1051, 1997
18)Goodyear LJ, et al:Effect of contractial activity on tyrosine phosphoproteins and PI3-kinase activity in rat skeletal muscle. Am J Physiol 268:E987-E995, 1995
19)Yeh JI, et al:The effects of wortmannin on rat skeletal muscle. J Biol Chem 270:2107-2111, 1995
20)Youn JH, et al:Calcium stimulates glucose transport in skeletal muscle by a pathway Independent of contraction. Am J Physiol 260:C555-C561, 1991
21)Hayashi T, et al:Evidence for 5'AMP-activated protein kinase mediation of The effect of muscle contraction on glucose transport. Diabetes 47:1369-1373, 1998
22)河村剛史:インスリンの作用がなくても,筋肉内へのブドウ糖の取り込みは可能である. http://www.hyogohsc.or.jp
23)Kawanaka K, et al:Changes in insulin-stimulated glucose transport and GLUT4 protein in rat skeletal muscle after training. J Appl Physiol 83:2043-2047, 1997
24)川中健太郎:運動の慢性効果,津田謹輔(編):糖尿病の食事・運動療法,pp126-130,文光堂,2007
25)石黒友康:代謝疾患に効する評価の進め方,細田多穂,柳沢 健(編):代謝疾患に対する評価の進め方,pp879-907,協同医書,2000
26)石黒友康:メタボリックシンドロームと理学療法.PTジャーナル 40:1154-1155,2006
掲載誌情報