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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル41巻12号

2007年12月発行

雑誌目次

特集 大腿骨―整形外科的治療と理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.961 - P.961

 整形外科術後の理学療法は,いわゆる後遺障害対策から,術者と理学療法士が情報交換・意見交換を行い,共同作業として対象者の身体機能を良好に回復させる,という発想へ変化した.短期間に治療効果を上げるには,理学療法士として対象者が受けた整形外科的治療法を理解し,手術侵襲による機能低下やリスクを予測し,理論的基盤に沿った理学療法計画を構築する必要がある.また,運動器疾患の理学療法対象者であっても,主たる疾患・障害だけでなく,合併症や重複障害をも念頭においた広い視野での病態理解が重要となる.

大腿骨疾患に対する理学療法―運動器リハビリテーションとの関連で

著者: 磯崎弘司

ページ範囲:P.963 - P.966

はじめに

 運動器は筋肉,腱,靱帯,骨,関節,神経(運動・感覚),脈管系などの身体運動に関わるいろいろな組織・器官によって構成されており,その機能的連合・総称を指す.

 2000年からの10年間は「Bone and Joint Decade」として,世界保健機関(WHO)と国連の承認を得て,90か国以上の国々が参加し,世界的規模で運動が推進されている.日本では「運動器の10年」と訳され,その主な目的は「運動器の障害を持つ人々やその家族が自ら健康管理に参加し,健やかさを保つようにできることを支援する」「運動器の障害に対して真に有効な予防と治療を推進する」などが掲げられている.日本委員会においては,「運動器」という言葉の定着,運動器が健全であることの重要性の啓発,運動器疾患・傷害の早期発見と予防体制の確立を目標としている.

 本稿では,運動器の中で大腿骨疾患に焦点を当て,大腿骨疾患に対する最近の整形外科的治療(大腿骨頸部骨折・変形性股関節症)についてのエビデンスを中心に述べ,運動器リハビリテーションを理学療法士が担う意義について述べる.

人工股関節全置換術の整形外科的治療法と理学療法

著者: 亘理克治

ページ範囲:P.967 - P.973

はじめに

 近年,人工股関節全置換術(total hip arthroplasty;以下,THA)においては,小切開法(minimally invasive surgery;MIS)を用いた報告が多数行われている.一言で小切開法といっても,いくつかの方法があり,それぞれに利点がある.また,術後早い時期から荷重を許可されることが多くなり,在院日数も短縮化されているため,理学療法士の役割も変化し,下肢機能の向上以外の場面でも対応を求められている.特に,脱臼などの術後合併症を防ぐための患者指導はとても重要で,短期間に効果的に行うことで安全な自宅生活につなげることができる.

 本稿では,当院整形外科で行われているMIS-THAを紹介し,術後の理学療法に関してクリティカルパスの導入を紹介しながら述べる.

大腿骨転子部骨折・転子下骨折の整形外科的治療法と理学療法

著者: 大谷真琴

ページ範囲:P.975 - P.981

はじめに

 わが国ではこれまで,高齢者の大腿骨近位部の骨折は,大腿骨頸部内側骨折(関節包内骨折)と大腿骨頸部外側骨折(関節包外骨折)に分類し,両者を含めて大腿骨頸部骨折と呼称してきた.これに対して,最近の多くの欧米文献では,大腿骨頸部内側骨折をfemoral neck fracture(大腿骨頸部骨折),大腿骨頸部外側骨折をtrochanteric fracture(転子部骨折)・intertrochanteric fracture(転子間骨折)・subtrochanteric fracture(転子下骨折)と呼称している1).実際には,転子部骨折と転子間骨折は同義語として扱われ,2つを合わせて大腿骨転子部骨折と呼ぶことが多いようである.

 大腿骨近位部骨折の中でも,大腿骨転子部骨折・転子下骨折は骨粗鬆症をもつ高齢者に多く,整形外科を標榜する病院ではしばしばみかける疾患である.近年,医療保険ではリハビリテーション算定日数上限が設けられ,われわれ理学療法士には,術後の限られた日数の中で治療効果を上げることが求められている.

 本稿では,大腿骨転子部骨折・転子下骨折に対する代表的な手術療法と理学療法について解説する.また,当院における大腿骨転子部骨折・転子下骨折後の調査結果と,高齢者の筋力と動作能力の維持・獲得に対する具体的取り組みについて述べる.

大腿骨骨幹部・顆部骨折の整形外科的治療法と理学療法

著者: 笘野稔

ページ範囲:P.983 - P.989

はじめに1~3)

 大腿骨骨幹部骨折および顆部骨折は,高齢者では骨粗鬆症を基盤に持つため,低エネルギー外傷として生じることが多い.一方,若年者においては,交通事故や労働災害などによる高エネルギー外傷として生じることが多いため,骨折型は粉砕骨折や開放骨折となり,軟部組織損傷,多発外傷を合併することも珍しくない.このように,高齢者と若年者では骨折時の状況や手術療法が異なるため,同様に論じることには無理がある.本稿では,特に若年者の高エネルギー外傷による骨折に対して行われる整形外科的治療法,および理学療法について述べる.

―大腿骨疾患に重複障害を合併した難渋症例の理学療法―認知症を合併した大腿骨頸部骨折患者に対する理学療法

著者: 名古屋譲 ,   水落清吾 ,   佐藤成登志 ,   名古屋千恵子

ページ範囲:P.991 - P.995

はじめに

 大腿骨頸部骨折患者の多くは高齢であるため,高血圧,心疾患,脳血管障害や認知症などを合併している場合がある.特に認知症の合併率は高く,報告により差はあるものの,合併症の上位に位置することが多い1,2)(表1).認知症を合併していると,理学療法を進める上で,協力を得られにくい,拒否がある,意思を確認しにくいなど困難を要することが多く,大腿骨頸部骨折への単独のアプローチに加えて認知症への配慮が重要となる.

 本稿では,当院における認知症を合併した大腿骨頸部骨折患者の概略と理学療法のポイントについて解説する.また,症例を提示して,具体的な経過やアプローチ方法についても述べる.

―大腿骨疾患に重複障害を合併した難渋症例の理学療法―頻回脱臼により人工股関節再置換術が必要となった1症例―アライメントと筋力の視点から

著者: 齋藤務 ,   西坂文章 ,   武田芳夫 ,   永吉理香 ,   西野仁 ,   福田寛二

ページ範囲:P.997 - P.1001

はじめに

 人工股関節全置換術(total hip arthroplasty:THA)後の脱臼は,日常生活動作(ADL)を狭小させ,生活の質(QOL)に影響する重大な合併症である.脱臼を予防するためには,良い手術内容・軟部組織の良好な回復・良い患者教育が重要であり1),医師・看護師・理学療法士・作業療法士などの医療スタッフが連携する必要がある.特に,理学療法を行うにあたり,術式や術後アライメントに筋機能が影響されやすいため,医師との情報交換は脱臼などのリスク管理につながるほか,治療プログラム立案のためにも重要である.

 本稿では,人工股関節の頻回脱臼を認めた原因として,インプラントのアライメント不良と外転筋力の低下が考えられ,人工股関節再置換術(以下,再置換術)を施行した症例の理学療法について報告する.

とびら

看取り介護の中から想うこと

著者: 水上直彦

ページ範囲:P.959 - P.959

 特別養護老人ホームの開設に関わり,現在の仕事を始めて5年余りが経ちました.施設に入居される方のほとんどは,施設の中で,または入院先の病院でその生涯を終えられます.当施設でも,そのあり方が1つの課題となってきました.

 そんな中,昨年には,「看取り介護」が制度とし明文化され,当施設でも「看取り介護」をマニュアルとして整備し,そのための計画作成やカンファレンスも頻回に行われるようになりました.また,「どう生きるのか」そして「どう死を迎えるのか」といった死生観教育にも時間を費やすようになっています.しかし,その一方で,これらの取り組みが,画一的になっていないか,そして,私たちの考えや価値観を押しつけていないかと不安に感じることもあるのです.

紹介

介護予防通所リハビリテーションにおける「ショートコース」の紹介

著者: 山岸茂則 ,   涌井恵 ,   竹節さと子

ページ範囲:P.1003 - P.1005

はじめに

 平成18(2006)年度の診療報酬改定では,これまでの施設基準が撤廃され,新たに「脳血管疾患」,「運動器疾患」,「呼吸器疾患」,「心大血管疾患」という枠組みが取り入れられるとともに,算定日数上限という厳しい制限が設けられた1).これにより,今までどおりリハビリテーションを継続できなくなるケースが問題となった.

 一方,同時に行われた介護保険法改正においては,要支援・要介護状態の防止と介護度の重度化防止の目的で,新予防給付と地域支援事業が創設された.この新予防給付では,介護予防通所リハビリテーションが新たに設けられた.これは月単位の定額報酬の中で,個々の機能やニーズに合わせて,利用時間や頻度を自由に設定できるものである.

 当院は回復期リハビリテーション病棟60床を有する300床の地域中核病院であり,リハビリテーション部門は脳血管・運動器・呼吸器ともに施設基準1を取得している.また訪問看護ステーションからの訪問リハビリテーションを以前より積極的に行っていた.また平成15(2003)年より通所リハビリテーションサービスを開始しており,平成18(2006)年6月より,さらに介護予防通所リハビリテーションの認可を受け,そこに2つのコースを作成した.1つめのコースは,6時間滞在する従来の通所リハビリテーションサービスと同等の長時間滞在型(以下,ロングコース)であり,20分の個別リハビリテーションを全利用者に提供している.もう1つは個別リハビリテーションを重視した短時間個別型の新たなサービス(以下,ショートコース)である.本稿では,ショートコースの目的・特徴について紹介する.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

肺高血圧症

著者: 熊丸めぐみ

ページ範囲:P.1007 - P.1007

●肺高血圧症とは

 肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)とは,肺動脈圧の上昇を認める病態の総称で,その原因は多岐にわたる.WHOでは安静臥位平均肺動脈圧が25mmHgを超えた場合にPHと診断できるとしているが,慢性閉塞性肺疾患など換気障害を主体とする疾患の場合には,25mmHgを超えることは多くはなく,わが国では一般的に20mmHg以上を示せばPHが存在するものと理解されている.

 PHは病変部位により5つのカテゴリーに分類される(表).一般にPHは稀な疾患であり,原発性肺高血圧症の発症率は100万人に2人程度であるが,膠原病など一部の基礎疾患を持つと,その発症率は極めて高くなる(混合性結合組織病では5~16%程度).成人では女性の発症率が高い.多くは難治性で,放置すると進行性に肺血管抵抗が上昇し,右心不全から死に至る極めて予後不良な疾患群であり,2007年現在,原発性肺高血圧症や特発性慢性肺血栓塞栓症などの10疾患が,PHに関連する主な厚労省特定疾患として挙げられている.一般的に,症状の増悪因子となりうる過度の運動や旅行,妊娠,出産は制限され,禁煙,減塩,休養と感染防止に努めることが求められる.

学校探検隊

草創期から成熟期に向けて

著者: 吉原好人 ,   野間口郷志 ,   田平陽子 ,   松尾奈々 ,   甲斐義浩 ,   竹井和人 ,   植高誠一郎 ,   白石陽子 ,   白石大地 ,   今井風太 ,   本山浩司

ページ範囲:P.1008 - P.1009

本校の紹介と歴史

 不世出の漫才師,元B & B,島田洋七の自叙伝「佐賀のがばいばあちゃん」や歌手(?)はなわの「S・A・G・A・サガ」で一躍有名になった佐賀県.その佐賀県の東部に位置し,九州の高速交通網の要衝にあたる鳥栖市に校舎を構える医療福祉専門学校緑生館は,1991(平成3)年4月に看護学科を開校,次いで平成7年4月に九州初の4年制,ならびに佐賀県初の理学療法士および作業療法士養成施設として開校しました.理学療法学科・作業療法学科・看護学科の3学科共通のテーマとして,「ハートフルな医療人を育成しよう」を合い言葉に,全教員が日々,奮闘しています.学生も日々,勉強に,サークル活動に,アルバイトに切磋琢磨していますが,近くに競馬場があるため,週末は特に,一獲千金の誘惑に負けないように我慢強く闘い続けているようです.早いもので理学療法学科も開設から13年の月日が経ち,現在,300人を超える卒業生が,日本にとどまらず世界各地で活躍しています.また,来春には第10期生が卒業します.このことは本校の教育施設としての過程において,1つの節目であり,今後さらなる成長,成熟に向けて進化していかなければという思いを新たにしているところです.

全国勉強会紹介

福井県アスレティックリハビリテーション研究会

著者: 山崎孝

ページ範囲:P.1010 - P.1010

活動について
①目的

 スポーツ外傷・障害に関するアスレティックリハビリテーション(以下,アスリハ)の知識の向上を目的に勉強会を開催し,アスリハの実践と研究活動を行うと同時に,情報交換が行える場を提供しています.
②勉強・研修内容

 毎月の勉強会では,アスリハに関するテーマを決めて会員が勉強して講師を務めています.また,講習会や研修会に参加した会員が伝達講習を行っています.テーマとして一般的な評価・治療からテーピングや救急時の対応などを実施してきました.そして,勉強会で得た知識をスポーツ現場で実践する場として,2006年から県士会事業である中学ボーイズリーグ大会のメディカルサポートを行っています.

入門講座 検査測定/評価・6

ADL

著者: 小林武

ページ範囲:P.1011 - P.1019

はじめに

 日常生活活動(activities of daily living:ADL)とは,個人が毎日の生活を送る上で基本的に必要な動作(活動)をいう1).リハビリテーション医療の目標は,対象者のADLをそれぞれの生活環境に再適応させることであり,国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health:ICF)の構成要素でいえば「活動と参加」を推進することに他ならない.

 ICFの「活動と参加」は健康状態に関するある領域の構成概念であり,それらの適応状態は直接測定して数量化できるものではない.しかし,対象者の「活動と参加」の推進をリハビリテーション医療の目標とするならば,それらの状態を比較することで介入効果の検証を行わなくてはならない.よって,何らかの手続きや基準を設けることで,直接測れないものをある数量や順序として表すこと,すなわち操作的定義が必要となる.ADLの諸動作・活動の実行状況を観察し,自立度によって重み付けした点数で採点・集計する手法は,種々のADL評価尺度が採用している方法である.リハビリテーション医療では,それらによって点数化されたものをADLの実行状況として,「活動と参加」の多くの部分を表す指標であると操作的に定義し,使用してきた.

 本稿では,理学療法士の行うADL評価のポイントとADL評価尺度の説明,そしてそれらの具体例について概説する.

講座 「複雑系」と理学療法・3

複雑系からみた歩行

著者: 横井孝志

ページ範囲:P.1023 - P.1030

はじめに

 歩行や走行に代表される移動運動は,われわれにとって基本的な身体運動であると同時に,日常生活の中の重要な移動手段でもある.リハビリテーションや理学療法の分野において,これらの移動運動を解析・評価するねらいは,欠損あるいは低下した運動機能を補完・改善し,適正な自立を実現することにより,日々の生活の質を高めることにある.本稿では,この移動運動を複雑系の視点から捉えた研究を概観する.

 われわれは,日頃ほとんど意識せずに歩行や走行を遂行し,様々な条件に適応しながらそれらを使い分けている.例えば,筋や関節の痛みなどによって特定の身体部位の運動状態が制約を受けると,その制約に応じて他の身体部位の動きも変化し,拙いながらも歩行や走行を継続・遂行できるように全体として動きが調整される.これとは逆に,例えば,速く歩く,悪路や坂道を歩くなどによって,歩行そのものの状態が変わると,それに応じて個々の身体部位の動きも変化し,場合によっては歩行から走行や跳躍へと運動様式を変えることもある.この変化や調整には明確なパターンや戦略があるわけではなく,身体や環境の状態にあわせて比較的適した様式が無意識的に選択される.このような現象を眺めると,多種多様な要素(例えば末梢の筋や神経)の活動状態や要素間の関係性が系全体のふるまい(歩行様態)に影響し,同時に系全体のふるまいが個々の要素の活動状態や要素間の関係性に影響しながら,全体としてそれなりの秩序が保たれていることがわかる.これは複雑系現象そのものでもある1)

 1980年前後から様々な分野で自己組織化,ゆらぎ,カオス,フラクタルなどが脚光を浴び始めた.それに伴い,複雑系の特徴である自己組織化やカオス,フラクタル的な性質が生体現象においても見出されたとの報告が相次いだ2~5).これら一連の研究から,生体現象におけるカオスやフラクタル的性質は,外界への適応能力を高め,学習を強化するのに役立つのではないか,加齢によってこの性質が弱まり,結果として,適応能力や学習能力が減少するのではないか,との仮説が提唱された.このような研究に触発され,非常に高い自由度を持つ身体をどのように制御することで身体運動が成立しているのかといった疑問に答えるため,身体運動を複雑系として捉え,理解しようとする様々なアプローチが試みられ始めた6~9).しかし,科学的興味を別にすると,身体運動を複雑系の観点から捉えることが,リハビリテーションや理学療法の分野にどのように貢献するかについては,現在のところそれほど明確ではない.

 本稿では,これらの点を踏まえながら,歩行や走行を複雑系として捉えたこれまでの主な研究を紹介し,このような捉え方によってリハビリテーションや理学療法の立場からどのようなことを期待できるかについて,若干の考察を加える.

 複雑系領域の研究はいまだ未成熟であり,研究の方法自体も十分には整備されていない.しかし,複雑系には自己組織化やカオス,フラクタル的な性質が内在していることから,歩行や走行の複雑系としての側面は,しばしばこれらの質によって捉えられてきた.また,非線形力学系の手法などに基づいてモデル化し,シミュレートすることによって,これらの性質を再現する方法も用いられる.一方,これまで歩行や走行を複雑系として理解しようと試みた研究は,全体的な挙動としての運動リズムに関するもの,このリズムに従う身体部位の動き,部位間の運動協調に関するもの,全体の運動リズム生成と個々の身体部位の動きや運動協調との関係に関するものに分類できる.以下,この分類に沿って,これまでの主な研究を概説する.

症例報告

要介護高齢者2例に対する運動学習を考慮したバランス練習の試み―シングルケースデザインによる検討

著者: 高井逸史 ,   白井学 ,   西野政史 ,   山口武彦

ページ範囲:P.1031 - P.1036

 要旨:運動学習に基づいたバランス練習の試みが要介護高齢者の姿勢バランス機能を改善するかどうか,シングルケースデザイン(A-B-A'型)を用いて検討した.対象は慢性腰痛をもつ要介護高齢者2症例で,症例1は84歳女性,要支援2,症例2は83歳女性,要介護1であった.独立変数はバランス練習の実施の有無であり,従属変数はfunctional reach test(FRT)とtimed up & go test(TUG)による姿勢バランス能力とした.課題は作成したバランスボードを前後・左右各方向で水平に保つこととし,難易度は不安が出現する程度にボードの傾きを設定した.その結果,2症例における難易度の指標や内部観察の内容が異なり,本研究結果から運動学習によるバランス練習の効果を論ずるのは困難であった.今後,症例数を増やし,難易度の設定と内部観察を用いた運動学習によるバランス練習の効果を検証することが求められる.

書評

―木村貞治(編)―「理学療法士のための物理療法臨床判断ガイドブック」

著者: 内山靖

ページ範囲:P.1020 - P.1020

 物理療法(physical agents)の歴史は古く,運動療法とともに理学療法を行ううえで重要なものです.世界における理学療法を眺めてみても,温熱電気機器と古典的な徒手的方法による刺激が理学療法士の主たる業務となっているところも少なくありません.また,物理療法は,その原理が物理学を中心とした科学的根拠に裏打ちされて,刺激の種類や強度を定量的に表示できることも大きな魅力です.さらに,治療者ならびに対象者への2重マスク法が実施しやすいために,無作為化比較対照試験を含めて生理的な影響を明確に検証しやすい特徴があります.

 このように考えると,物理療法はエビデンスに基づいた理学療法を実行している領域であると思われるかもしれません.しかし,実際には各物理療法をどのような臨床症状に,いかに適用するのかを明らかにすることが,最も重要な課題となります.これは,理学療法の臨床思考過程(Gedankengang)であり,対象者の所見から臨床推論(clinical reasoning)を重ねて適切な臨床判断を行うものです.

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文献抄録

ページ範囲:P.1038 - P.1039

編集後記

著者: 永冨史子

ページ範囲:P.1044 - P.1044

 今年ももう最後の月,12月になりました.今年の計画は達成できましたでしょうか? 来年以降のために,様々な準備をなさっている最中でしょうか? ただ単に時が経ち,日々が過ぎていくだけなのに,季節とカレンダーの進み具合をみるだけで,私たちのこころには様々な想いが浮かび,物事を整理しようとし,未来を考えてしまいます.

 本号の特集は「大腿骨」です.運動器疾患は神経疾患と並び,古くから理学療法の対象とされてきました.われわれの先輩方が悩み,工夫し,学んだ延長線上に今の私たちがいます.本特集は,「理学療法士が大腿骨疾患にできることは何か,介入に際し考えていることは何か」の現代版を整理しよう,と企画いたしました.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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