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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル41巻3号

2007年03月発行

雑誌目次

特集 臨床実習の具体的展開

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.181 - P.181

 近年の医療系教育においては,実践能力を高めるために,OSCE(客観的臨床能力試験),PBL(問題基盤型学習),e-learningなど学内教育における様々な工夫がなされている.他方,実践能力を高めるための中核となる臨床実習では,その効果が大きいことに異論はないものの,1960年代に行われた形態を踏襲している方法論については,学生や臨床実習指導者・受け入れ施設のみならず養成校の立場からも多くの課題が指摘されている.

 そこで本特集では,臨床実習の現状と課題を踏まえつつ,学生,臨床実習指導者,養成校,受け入れ施設にとって有意義かつストレスの少ない臨床実習の具体的な展開について検証することとした.

病院・施設からみた臨床実習―位置づけと受け入れ

著者: 渡辺京子

ページ範囲:P.183 - P.190

はじめに

 亀田メディカルセンターが位置する千葉県鴨川市は,人口37,120人で高齢化率29%(2006年度)の海沿いの街である.東京の南南東約70kmに位置し,JRでは房総半島を太平洋に沿って132km迂回するため,移動に2時間を要する.

 当院は,南房総半島一帯の地域医療を担っている総合病院(858床,31診療科),外来専用クリニック,リハビリテーション病院,老人保健施設などの施設(以下,事業所)を有し,急性期から在宅まで,時期別リハビリテーションサービスを提供している.1984年4月から臨床実習生を受け入れ,2006年3月までに470名の学生を指導し,うち入職者51名(理学療法士35名,作業療法士11名,言語聴覚士5名),就職率11%の実績がある.

臨床実習における教員と指導者の役割と連携

著者: 大橋ゆかり

ページ範囲:P.193 - P.199

はじめに

 レポートやデイリーノートが書けないために,提出日に休んでしまう学生がいる.明け方までレポートを書いていた学生が,翌日の実習中に居眠りをしてしまう.実習終了間近に実習訪問に行ってみると,学生はレポート作成のために図書室にこもっていた…養成校の教員をしていれば,多かれ少なかれこのような状況に遭遇したことがあるのではないだろうか.このような実習上のトラブル(とりあえず“レポート問題”と呼ぶ)も,元はといえば「学生が適切に評価を行えない」といったような臨床技能的問題に端を発していることが多い.あるいは「○○の病態に関する学生の知識が不足している」ことが原因かもしれない.しかし,どちらの場合であっても,問題点をレポート課題に変換して解決できることではない.

 技能の不足は練習や経験によってしか補えないものであり,知識の不足は学内教育で補うものである.こう言うと,「知識不足の学生は実習に出すな」という声が聞こえてきそうだが,臨床技能を習得しようとしている場で必要な「知識」とはどの範囲だろうか.

 “レポート問題”1つを取り上げても,突き詰めて考えれば不合理なことが多すぎる.臨床実習とは本来,学内教育と相互に補完し合う教育の一形態である.学生にとっては,初めて長期間にわたって症例に接し,運動機能が変化していく過程を感じとる機会を与えられる場でもある.しかし,昨今の法改正による医療環境の変化や養成校の急増により,臨床実習を受ける側にも多くの新たな問題が発生していることだろう.このような現状の中で,臨床実習の意義をどこに求めればよいのだろうか.本稿では,筆者の所属する茨城県立医療大学の臨床実習に関する取り組みを紹介しながら,教員と指導者の役割についても考えて行きたい.

臨床実習におけるメンタルヘルスケア―システムとしての整備を考える

著者: 椎原康史 ,   松岡治子 ,   小笠原映子 ,   永松一真

ページ範囲:P.201 - P.208

臨床実習におけるメンタルヘルスケアの問題点

 理学・作業療法の臨床実習は,ほとんどの場合学外の施設に依頼して行う形態であり,臨床実習は学生のメンタル不全への対応における問題点が,鋭敏に表現される場である.

 実習に対して学生が感じるストレスとその経過などについては,これまで教育実習,看護実習での報告が多い1,2)

―座談会―臨床実習を変えられるか?―その具体的展望は

著者: 保村譲一 ,   神先秀人 ,   佐藤房郎 ,   細江さよ子 ,   永冨史子 ,   内山靖

ページ範囲:P.209 - P.218

●臨床実習について感じていること

内山 本日は,「臨床実習を変えられるか?その具体的展望は」という,少し挑戦的なタイトルで座談会を開催致します.臨床,教育,研究の現場から5人の先生にお集まりいただきました.まず,自己紹介と,臨床実習について感じていることについてお話しいただきたいと思います.

保村 私は,星城大学リハビリテーション学院で学院長をしております.理学療法士になりまして30年,理学療法士教育に携わって22年になります.いま,臨床実習について感じていることを端的に言いますと,21世紀の臨床実習形態は,もう新たな方法・体制に変えざるを得ない状況に来ていると強く感じております.

とびら

登山と臨床実習

著者: 山野薫

ページ範囲:P.179 - P.179

 毎年,初夏のくじゅう連山にはミヤマキリシマが咲き誇り,ピンク色に染まる一面の山肌は,言葉では言い表せない美しさです.私は家族や同僚らと鑑賞登山に出かけますが,近年は,その時期の実習学生も課外活動と称して連れて行きます.特に,県外出身の学生には,実習期間中の思い出にもなると思っています.登山は中学校以来だという学生も多く,登山行程の詳細が分からず,不安も大きいため,事前に私の娘(小学1年生)も参加する旨(小学1年生でも参加できる山登りであること)を伝えておくと,不安や緊張感も解けているようです.しかしながら,多くの学生は小学1年生よりもばててしまいます.その理由は,水分補給や血糖値安定化の失敗などです.もちろん,装備や靴,食料や飲料水について事前に連絡してありました.下山の途中,元気な小学1年生に行動食(キャラメルやビスケットなど)を分けてもらっている疲弊した表情の学生の姿に思わず苦笑しつつ,良い経験をしているなと感じてしまうのです.

 さて,小学1年生が極端な疲労もなく下山できた一方,小学生に比べると何倍もの体力や知識を持っている学生は,大層な疲労で下山してきました.同じ山に登り,同じ行程を移動したのですが,この差は何が原因なのでしょう.1つめは,小学1年生は装備などが準備万端であったこと,2つめに登山の指導者(親である私)の,こまめな水分補給や栄養補給の指示に従っていたことが挙げられます.つまり,学生は未知の領域に対する準備不足,さらに指導に対する受け入れが不十分であったため致命的な失敗をしてしまったのです.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

経管栄養

著者: 倉恒ひろみ

ページ範囲:P.227 - P.227

 経管栄養とは,口から食べ物,水分などを摂取できない,あるいは摂取が不十分な方において,鼻腔や胃瘻・腸瘻から消化管に挿入したチューブを通して,流動物を胃・十二指腸・小腸に送り栄養を摂取させることである.様々な原因で低栄養状態や消化・吸収機能に問題がある場合に,栄養チューブを通して人工的に調整された経腸栄養剤を注入し,栄養管理を行う.患者の栄養状態を改善し,免疫力や基礎となっている疾患に対する治癒力を高めるために行われている.

 栄養ルートとしては必要栄養量が口から補給できるようになればこれを選択し,不足分がわずかであれば末梢静脈栄養(peripheral parenteral nutrition:PPN)で補う.しかし,経口で十分な補給ができない場合には,静脈栄養か経腸栄養(enteral nutrition:EN)を選択する.消化管が機能している場合は経腸栄養剤を経管投与し,機能していない場合は鎖骨下静脈や内頸静脈などから中心静脈にカテーテルを挿入して高カロリー輸液を投与する.また経静脈的に高カロリー輸液を投与することをintravenous hyperalimentation(IVH)といい,経腸栄養(EN)に対してIVHのみで栄養補給を行うことを完全経静脈栄養(total parenteral nutrition:TPN)という.

学校探検隊

26年目の『明日への歓喜』

著者: 小川克巳 ,   津田晃代

ページ範囲:P.228 - P.229

桑畑が…

 熊本市郊外,まだ土壁が残るどこか懐かしい思いを抱かせる家並みの一画に,それほどの広さを感じさせない桑畑.こんな所に? といささか不安な思いで眺めたのは1980(昭和55)年9月.それから瞬く間に白と濃茶を基調とした,コンパクトだけれどなかなかにモダンな建物がデンッ!と出現.1981年4月,希望にキラキラと目を輝かせた第1期生を無事に迎え入れ,九州における2番目の養成校としての本学院の歴史が始まった.

入門講座 画像のみかた・3

臨床に活かす脳のCT・MRIのみかた

著者: 生野雄二 ,   豊田一則 ,   山口武典

ページ範囲:P.231 - P.239

はじめに

 脳の画像診断は,かつては脳血管造影が唯一の手段であったが,1970年代のCT(computerized tomography),1980年代のMRI(magnetic resonance imaging)の登場によって,より詳細な形態学的診断が可能となった.画像診断技術の進歩に加えて,脳梗塞に対する血栓溶解療法をはじめとする治療の進歩や,救急救命部門の充実により,近年脳血管障害や脳外傷患者の救命率が上がってきている.しかしながら,その一方で重度の障害を持つ患者は増加しており,それに対していかに機能回復や日常生活動作(ADL)の改善を図るかが今後の課題であり,急性期~回復期および維持期におけるリハビリテーション(以下,リハビリ)が重要な役割を担っている.本稿では脳の画像診断における代表的なものとしてCT,MRI,MRA MR(angiography)について,その基本的なメカニズムや,脳血管障害を中心に頭部外傷,脳腫瘍など実際の疾患の画像のみかた,また脳の機能局在について概説し,リハビリにおける画像の活用について述べる.

講座 理学療法士の卒前教育・3

卒前教育における問題基盤型学習(PBL)導入の試み

著者: 河西理恵

ページ範囲:P.241 - P.247

はじめに

 近年,医療を取り巻く環境の急速な変化により,理学療法の対象領域が広がり,対象者のニーズも多様化している.その結果,理学療法士にはより高度で幅広い専門能力が求められており,こうした状況に対応すべく,理学療法学教育の現場でも学生の臨床能力を高める様々な教育方法の模索が続いている.

 その一例として,1960年代にカナダのMcMaster大学医学部のBarrowsら1)により開発された問題基盤型学習(problem-based learning:以下,PBL)がある.その後,1980年代後半,同大学理学療法学部で導入され,それを機に欧米を中心に多くの理学療法士養成施設で広まった.また,昨今わが国でもPBLに関する報告が聞かれるようになっている.

 本稿では,PBLの概要について述べ,さらに筆者らが実践しているPBLの実施状況や,PBLの最近の動向ならびにエビデンスについて紹介し,今後のわが国の理学療法学教育におけるPBL導入に向けた課題や展望について検討したい.

ひろば

現代の若者気質

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.248 - P.248

 現代とは,過去,現在,そして未来という時空の流れの過程で,現在を表わすことばとして用いられることが多く,それはどの時代にも存在し,同時に歴史的経過とともに過去になっていく.

 若者の年齢層には幅があるが,ここでは便宜上,専門学校生や大学生に限定したい.現代の若者気質を語る場合,どの年齢層から観たものかによって,おのずとそのとらえ方には格差が生じる.ここでは,その幅を広げて理学療法士養成校の教員の年齢層(資格取得後5年以上となっているので,最低でも25歳から最高65歳)としておく.なお,教員の誰もが,かつては現代の若者であったときのことを想起した上でこのテーマについて考える必要があろう.

書評

―岩﨑 洋(編)―「脊髄損傷理学療法マニュアル」

著者: 中屋久長

ページ範囲:P.220 - P.220

 近年,理学療法に関する図書が多く出版されている.ごく最近までは,リハビリテーション医療関係図書の一部に理学療法領域が掲載されることが多かった.理学療法士(PT)が誕生して40年,その歴史の中で協会の学術活動や個々のPTが営々として積み上げてきた結果と,PT養成が大学や多くの専門学校教育で行われるようになりPTの学術的なレベルアップがなされてきたこと,さらに養成校急増によるPT供給が需要を生み,出版社にとって市場に耐えうる存在となってきたことが理学療法専門書が出版されてきた要因であろう.

 この度PTが遭遇する障害の1つである「脊髄損傷(脊損)」の理学療法について,臨床現場で活躍する「脊損研究会」の中堅PTの方々が臨床実践を通じて幅広い視点から解説,網羅した実践本が発刊されたことは,関係者にとって待望のことと思われる.

―酒田英夫,山鳥 重,河村 満,田邉敬貴(著)―「《神経心理学コレクション》頭頂葉」

著者: 入來篤史

ページ範囲:P.226 - P.226

 酒田英夫先生の研究の足跡は,世界の頭頂葉の研究の歴史そのものである.そして,その集大成を象徴するのが,本書最終章に掲げられた,セザンヌの『サン・ヴィクトワール山』に見る線遠近法の妙技であり,フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』に込められた陰影の魔術なのである.つまり,「頭頂葉を通してみた世界の風景」はかくあり,ということなのだと思う.どのようにしてこの境地に辿りつかれたのか,その歩みの一歩一歩に込められた想いを,希望を,信念を,本書の聞き手の山鳥 重,河村 満,田邊敬貴の三先生が巧みな質問で聞き出してゆき,酒田先生ははるか遠くに視線を投げながら,そのときどきの世界の研究現場の人間模様を回想しつつ物語ってゆく.

 ここには酒田英夫先生の,自然に対する畏敬の念が満ちている.真の研究者かくあるべし,という真摯な態度である.そんな中で,私の心に残ることばがある.本書にも出てくる『ニューロンに聞く』という,脳に対する謙虚な研究姿勢である.まずは仮説を立てて,神経活動を検証するための手段として用い,精密に定式化されたモデルを構築してゆく,という現在一般的になった神経生理学の手法とは,明確に一線を画するこの態度は,いまや「酒田学派」のスローガンといってもよいだろう.

―矢谷令子(シリーズ監修)/福田恵美子(編)―「《標準作業療法学 専門分野》発達過程作業療法学」

著者: 太田篤志

ページ範囲:P.252 - P.252

 本書は,作業療法専門科目を学習するための《標準作業療法学専門分野》シリーズの1冊であり,いわゆる「発達障害作業療法学」の教科書である.編者である福田恵美子先生は,長きにわたり発達障害に対する作業療法の実践および教育に携わっている第一人者である.福田先生の作業療法士として偏りのない実践スタイル,臨床実践プロセスを明確に示す態度は,このテキストにも反映されており,教育に携わる私たちが安心して使用できる教科書に仕上がっている.

 “発達過程作業療法学”という本書のタイトルに戸惑ったのは,評者だけではないであろう.従来,この領域のテキストは,「発達障害作業療法学」と呼ばれているが,本書ではあえて「発達過程作業療法学」としている.編者の「序章」によれば,障害とは機能を果たさないという意味を持ち,子どもの場合,機能を果たしていく要素を目覚めさせていくことが可能との立場から,あえて「発達過程作業療法」という言葉を用いたとのことである.本書は,この福田先生の“子ども観”と,子どもの無限の可能性に挑んでいく作業療法士を育成したいという思いが随所に込められている教科書である.

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文献抄録

ページ範囲:P.250 - P.251

編集後記

著者: 内山靖

ページ範囲:P.256 - P.256

 最近の社会問題の多くに共通していることは,起こってしまった物事の重大さに加えて,“偽装”“説明責任の不履行”“隠蔽”など,むしろ事後の対応や体質が議論の中心になっているように感じる.細心の注意をはらっても過失をゼロにすることは難しく,偶発的な事故となればその発生を予見することは困難な場合もある.重要なことは,事態への真摯な取り組みによる原因究明と再発防止の具体的内容を明確にすることであろう.その際,調査・解決の過程において外部者の意見を傾聴することは大切であるが,根本には自己点検・省察の姿勢が不可欠である.

 専門職教育において,もっとも習得しなくてならない能力はまさに上述した点にある.卒前教育においては,最低限の知識や技術を保証することが必要であるが,それ以上に,自らの力量を知り,高い倫理観と生涯学習への意欲を高めるための取り組みが求められる.臨床実習の目的は,対象者(症例)を通した専門職としての振る舞いと思考過程を習得するとともに,臨床体験としての経験知を養うことにあるが,その本質とmetaphysicsは適正な自己省察と問題解決能力の涵養にある.現在の理学療法臨床実習は,1960年代に構築されたものである.時代とともに制度を変更することは大切であるが,制度や手続きに傾注するあまり,その本質を失うようなことがあってはならない.これまでに先達が脈々と積み上げてきた姿勢と誇りを継承していく責務がある.なお,臨床実習のみに過重な負担と過大な期待をすることは,学生,臨床実習指導者のストレスを増大させることになる.また,student abuseやハラスメントからの回避やメンタルヘルスに対する支援が一層求められる.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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