慢性期脳卒中者の認知症に対するアプローチ
著者:
大谷道明
,
岡村仁
,
和久美恵
,
大橋恭彦
,
真明将
ページ範囲:P.269 - P.275
はじめに
高齢化が進む中,わが国の認知症高齢者は130万人とも言われている1).その大部分が,脳卒中後に起こる脳血管性認知症(vascular dementia;VD)と,アルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)とに分けられる.欧米では圧倒的に後者が多く,近年わが国でも増加の傾向にある2).
一方,VDはADと異なり,病因,病態,自然経過,臨床徴候,予後などの面で不均一であり,その診断・病態・治療面などで多くの問題点を有している.VDの定義3)は従来からあいまいなところがあり,脳血管障害があって認知症を示せば安易にVDと呼ばれてきていた.VDはADを合併していることも多く,欧米では,老年期認知症の過半数がADであることから,VDに対する関心が低く,多発梗塞性認知症と呼ばれていた4).しかし,VDは身体機能の低下も併せ持つことが多く,二次的障害の予防や人的・物的環境調整を行うなど支援が必要である5).
こうした状況の下,認知症高齢者に対するリハビリテーションは未だ試行錯誤の段階であり,その確立が急務である6).しかし,理学療法は身体能力に対する運動療法を主体としているため,精神症状を有する認知症高齢者に対して特化したアプローチは皆無といえる7).しかしながら,最近の報告から,身体障害と精神機能障害は密接に関連することが指摘されており8),身体活動が精神活動を刺激しうることは大半の人が認めるものである.以上のことからも,身体機能障害を有する脳卒中者の認知症において,理学療法が精神症状や認知機能障害を予防,改善する可能性が期待される.
本稿では,VDの概要を述べるとともに,生活機能向上の観点から,認知症における運動の意義を提示し,筆者らが構築した運動療法システムの概要を紹介したい.