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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル41巻4号

2007年04月発行

雑誌目次

特集 慢性期脳卒中者の理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.259 - P.259

 脳卒中による片麻痺症例に対する理学療法の効果を検討する場合,自然回復の影響が少ない回復期以降の慢性期症例でのアプローチが重要である.最近の診療報酬改定では発症からの日数が限定されており,医療機関以外の受け皿が得られない慢性期症例にとっては,深刻な影響があるとされている.慢性期であっても一定の治療効果が得られるアプローチを呈示することは,この意味でも意義があろう.本特集では,最近注目を集めているいくつかのアプローチを解説していただき,慢性期症例の治療に寄与することを目的としている.

慢性期・維持期脳卒中者に対する理学療法介入効果について

著者: 奥田裕

ページ範囲:P.261 - P.267

はじめに

 「脳卒中治療ガイドライン 2004」1)では「回復期リハビリテーション(以下,リハ)終了後の慢性期脳卒中患者に対して,筋力,体力,歩行能力などを維持・向上させるための訪問または外来リハを行うことが勧められる(1-8-1)」とされている.また,維持期(慢性期)リハは「獲得した機能をできるだけ長期に維持するために実施するもの」として位置づけ,グレードBとして推奨している.維持期におけるリハのあり方に関する検討委員会では「維持期リハは在宅か施設かを問わず,機能や能力の低下を防ぎ,身体的,精神的かつ社会的に最も適した生活を獲得するために行われるリハ医療サービスであり,高齢者などの体力や機能の向上を図るだけではなく,生活環境の整備,社会参加の促進,介護負担の軽減などに努め,その自立生活を支援することを目的としている.」としている2)

 しかしその一方で,平成18(2006)年度の診療報酬改定では算定日数制限が設定され,介護保険制度では通所リハなどで短期集中リハ実施加算などを徹底し,実施期間の制限がない訪問看護ステーションからの理学療法士などの訪問を制限するなど,理学療法実施期間に対しての規制が強化された.

 この背景としては,厚生労働省がこれまでのリハの問題点として(1)目標もなく漫然とリハが行われていないか,(2)利用者の生活機能や日常生活に着目したリハが行われているか,(3)リハについて利用者や家族に対し十分な説明がなされているか,(4)リハの場がリハ室に限られていないか,(5)他職種によるアプローチが不足していないか,(6)ケアマネジメント全体と協調がとれているか,などを指摘している3)ことが影響していると考えられる.これに対し理学療法士として十分な科学的根拠の基に異を唱えたいところであるが,リハ医学ではEBM(evidence-based medicine)の確立が遅れており,里宇はその理由として(1)リハに関する質の高い証拠が限られていること,(2)患者の背景因子や治療条件が複雑で,実験室的条件で得られた証拠を直ちに適用しにくいこと,(3)リハ的介入の内容が複雑で単一要素の効果の抽出がしにくいこと,(4)研究デザインの黄金律とされる無作為化比較試験が実施しにくいこと,(5)多施設が共同で使える標準化された尺度が限られていること,などの問題点を挙げている4)

 本稿では慢性期脳卒中者に対する理学療法効果の先行研究を調査し,実際に筆者らが行った縦断研究を紹介するとともに,慢性期理学療法に対する今後の課題を検証した.

慢性期脳卒中者の認知症に対するアプローチ

著者: 大谷道明 ,   岡村仁 ,   和久美恵 ,   大橋恭彦 ,   真明将

ページ範囲:P.269 - P.275

はじめに

 高齢化が進む中,わが国の認知症高齢者は130万人とも言われている1).その大部分が,脳卒中後に起こる脳血管性認知症(vascular dementia;VD)と,アルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)とに分けられる.欧米では圧倒的に後者が多く,近年わが国でも増加の傾向にある2)

 一方,VDはADと異なり,病因,病態,自然経過,臨床徴候,予後などの面で不均一であり,その診断・病態・治療面などで多くの問題点を有している.VDの定義3)は従来からあいまいなところがあり,脳血管障害があって認知症を示せば安易にVDと呼ばれてきていた.VDはADを合併していることも多く,欧米では,老年期認知症の過半数がADであることから,VDに対する関心が低く,多発梗塞性認知症と呼ばれていた4).しかし,VDは身体機能の低下も併せ持つことが多く,二次的障害の予防や人的・物的環境調整を行うなど支援が必要である5)

 こうした状況の下,認知症高齢者に対するリハビリテーションは未だ試行錯誤の段階であり,その確立が急務である6).しかし,理学療法は身体能力に対する運動療法を主体としているため,精神症状を有する認知症高齢者に対して特化したアプローチは皆無といえる7).しかしながら,最近の報告から,身体障害と精神機能障害は密接に関連することが指摘されており8),身体活動が精神活動を刺激しうることは大半の人が認めるものである.以上のことからも,身体機能障害を有する脳卒中者の認知症において,理学療法が精神症状や認知機能障害を予防,改善する可能性が期待される.

 本稿では,VDの概要を述べるとともに,生活機能向上の観点から,認知症における運動の意義を提示し,筆者らが構築した運動療法システムの概要を紹介したい.

慢性期脳卒中者の痙縮に対するアプローチ

著者: 竹内伸行

ページ範囲:P.277 - P.285

はじめに

 慢性期脳卒中者において,痙縮は様々な日常生活動作(activity of daily living:以下,ADL)に支障を来す要因となる.重度になると関節拘縮や疼痛を生じ,容姿に悪影響を及ぼすことも多い.また介護者の負担増も招く.このため対象者や家族の痙縮治療に対する期待や要望は大きい.一方で立位や歩行の立脚期の安定に痙縮が作用していることもあり,必ずしも不都合なものとは限らない.

 痙縮の病態は対象者ごとに異なる.同一の対象者でも身体活動状態の変化や,時間帯や精神状態などの変動による内部環境の変化,天候などの外部環境の変化,その他様々な要因の影響を受ける.痙縮の状態が変化することは臨床上よく経験するが,その詳細は明確ではない.また痙縮は中枢神経系の病変に起因するが,慢性期では後述する非反射性要素の影響が大きくなり,その病態はより複雑となる.

 痙縮治療に関する様々な報告があるが,科学的根拠に基づいた一定の見解はなく,薬物療法や外科的治療を含めて根治的な治療法は未確立である.本稿では,慢性期脳卒中者の痙縮の病態と評価,さらに様々なアプローチについて近年の報告に筆者らの自験例を交えて文献的考察を行った.

慢性期脳卒中者の移動能力に対するアプローチ

著者: 野村卓生 ,   西上智彦 ,   伊藤健一 ,   林義孝

ページ範囲:P.287 - P.299

はじめに

 脳卒中により神経障害を来し,麻痺や後遺症のある患者の医療保険下でのリハビリテーションについては,「治療を継続することにより状態の改善が期待できると医学的に判断される場合であれば,リハビリテーション算定日数上限の適用除外の対象となる(厚生労働省)」1)とされている.脳血管疾患が原因となり,介護が必要と認定された場合には,65歳未満であっても40歳以上であれば,第2号被保険者として介護保険下で訪問・通所リハビリテーション(および訪問看護7での訪問看護ステーションからの療法士の訪問)を受けることが可能である2).本邦の慢性期脳卒中者においては,上記のいずれかに該当しなければ保険下でのリハビリテーションを病院あるいは在宅で受けることが難しい(2007年3月現在).

 ある地域で行われた訪問リハビリテーションの実態調査では3),療法士が行うアプローチは座位や立位に加え,歩行や移乗などの移動能力に関する割合が高い(図1).日本理学療法士協会が実施した在宅および施設の要介護高齢者を対象とした横断的調査4)では,基本的動作能力や移動能力を向上させることで,要介護度が非該当となる可能性の高いことが報告されている.身体機能を改善させるプログラムとして,筋力増強運動やバランス練習が示されているが,運動負荷強度・量・頻度を踏まえた具体的なアプローチは確立されていない.トレーニングの目的は移動能力の改善に限定されることではないが,これまでの研究成果に基づき,「医療機関で行う」および「地域(在宅)でも行える」という2つの視点から効果のあるアプローチを体系化することが,慢性期患者においては特に必要と考えられる.

 本稿では,まず,慢性期脳卒中者の移動能力に対するアプローチの中で,トレッドミルやエルゴメーターなどの大型機器を用いたアプローチについて,臨床研究段階であるが応用される可能性の高い最近の知見も含めて解説する.次いで,研究方法論の統制された研究論文を紹介し,臨床における応用と問題点について考察した.最後に,先行研究の知見を踏まえて,慢性期脳卒中者に対し,日常的かつ在宅でも実施可能な移動能力に対するアプローチについて,症例を交えて述べる.

慢性期脳卒中者に対する運動イメージの適用―メンタルプラクティスとミラーセラピー

著者: 網本和

ページ範囲:P.301 - P.306

はじめに:メンタルプラクティスとは?
 イメージトレーニングという言葉は,一般的用語として広く知られている.例えばスキーで斜面を滑降する時,まず滑り降りる前に,「どのような姿勢や速さで滑降するか」についてイメージの中でリハーサルする場合などで用いられている.

 Jacksonら1)によれば,心的イメージ(mental imagery)とは視覚,聴覚,触覚,運動覚などのさまざまなモダリティの認知的操作であり,なかでも運動イメージ(motor imagery)とはヒトの身体運動に関わるある特異的な行動を,実際の運動を起こさずに内的に再現することである.一方メンタルプラクティス(mental practice)とは,与えられた運動課題を積極的に改善しようとする企図をもって,心的あるいは象徴的なリハーサルを繰り返し行うことである.すなわちメンタルプラクティスは多様な認知的過程(運動イメージを含む)を用いることによるトレーニング方法であるとされる.したがって本稿で後述する研究報告ならびに方法は,脳損傷によって変容した運動行動を再構築するという点で,本邦で用いられているイメージトレーニングと同義であり,メンタルプラクティスの範疇としてとらえられる.

 これらのトレーニング方法には,運動課題に対して自分自身が運動するようにイメージする場合(運動覚イメージ法:kinesthetic imagery),視覚的にイメージする場合(視覚的イメージ法:visual-motor imagery),および他者の実際の運動を観察する場合(observation)などがある2,3).この方法の違いについてFery4)は,視覚的イメージ法は運動学習初期に有効であり,一方運動覚イメージ法は両手の協調性が要求されるような課題に適していると指摘している.

 本稿ではまずメンタルプラクティスに関する文献考察を行い,認知的介入方法として最近注目を集めているミラーセラピーに関して述べる.

とびら

「品」のよさ

著者: 吉井智晴

ページ範囲:P.257 - P.257

 「理学療法士の仕事をする上でいつも心がけていることは何ですか.」あなたならどう答えますか?

 当校は,その立地条件のためか(東京都中央区),地方の中学生や高校生が東京への修学旅行の際,職業選択のために社会見学の一環としてグループ単位で学校見学に来ることが多い.リハビリテーション全般や理学療法士について事前学習をし,質問が送られてくる.「なぜ理学療法士になろうと思ったか」「理学療法士になるために勉強していく上で大変なことは何か」「地域リハビリテーションとは何か」など,1グループにつき10問位で,その質問の内容は多岐にわたっている.当日は事務方が対応するため,事前に文書で回答する形をとっている.最近ちょっと考えさせられたのが最初の質問である.

あんてな

介護予防研修会の実施

著者: 金谷さとみ

ページ範囲:P.312 - P.313

介護予防研修会の概要

 2000年に始まった介護保険制度は,2006年の改正により,予防重視型のシステムへと転換された.要介護認定を経て,それまでの要支援と要介護1の一部は要支援1・2に区分され,新予防給付の対象となった.また,地域支援事業を創設し,要支援・要介護になるおそれのある高齢者を対象として,介護予防サービスを行うことが制度の中に位置づけられた.前者は重度化を予防し,後者は要支援,要介護状態にならないよう予防することを目的としている.このような流れの中で,地域高齢者の生活機能の維持・向上を支援していく専門職として,理学療法士の活躍する場が広がっている.

 日本理学療法士協会では,介護予防への取り組みの1つとして,2005年度より「介護予防研修会」を企画し,現在までに計4回開催している.この研修会は,地域の介護予防事業の計画や実践の際に求められる“即戦力”としての理学療法士を養成することを目的としており,2006年度は東京会場で8月3日(木)~5日(土),大阪会場で11月23日(木)~25日(土)の日程で行われた.

第42回 日本理学療法学術大会(in新潟)の企画と開催地の紹介―海・山の恵みをいっぱいうけて感動三昧の新潟学会

著者: 相馬俊雄 ,   高井良明 ,   森山優美

ページ範囲:P.343 - P.349

 日本海側最大の都市である新潟市で,第42回日本理学療法学術大会(以下,学会)が開催されます.会期は,5月24日(木),25日(金),26日(土)の3日間です.会場となる「朱鷺メッセ」は,滔々と流れる日本一長い信濃川の河口に位置し,遥かに臨む日本海の夕日が象徴的です(図1).

 学会へ参加する目的は,参加者1人ひとり異なっていると思います.第一の目的は,学術的活動の交流の場であり,研究分野の指導や意見・情報交換として,有効な機会であることが挙げられます.また,恩師や同級生に再会する格好の場であり,自身の臨床・研究・教育に対する意識・知識の向上などがあります.そして,実は多くの参加者にとって一番関心がある目的は,開催地の観光的な魅力だと思います.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

「失行・失認」

著者: 能登真一

ページ範囲:P.321 - P.321

 「失行(apraxia)」の命名は,1900年にLiepmannが運動の可能な身体肢節を一定の目的に従って動かすことの障害と定義したことが始まりである.一方,「失認(agnosia)」の用語自体は,1891年にFreudが感覚機能自体の障害がなく,しかも対象の意味を把握することの障害として定義していたが,「失行」の登場以来,対象の認識障害には「失認」を,行為の障害には「失行」をとはっきり区別されるようになったといわれている1).現在,定義されている「失行」と「失認」の主なものを表に示す.

 「失行」は運動麻痺や感覚障害など他の原因によらない随意的な行為の障害である.随意的な行為の障害が起こる部位は,上肢をはじめ口腔や顔面にまで及ぶが,人間の発達過程における「道具の使用」という概念を重要視すると,それはほとんどの場合上肢を使って行うため,失行も上肢に限って捉えたほうが理解しやすい.実際に海外の論文などでは,limb apraxiaという用語で四肢(上肢)の失行として総称されることが多くなっている2).観念失行はその道具を使用する際の障害であり,日常生活に直接影響を及ぼす.ハサミや歯ブラシなど日用道具の使い方を誤ったり,お茶を入れるなどの系列的な動作でその順序を誤る.また,観念運動失行では道具を使用する真似(パントマイム)や,おいでおいで,バイバイなどの社会的習慣動作に障害を来す.これら各種失行の命名や定義については,Liepmannの報告以後1世紀余を経てもなお混乱している3).各臨床家におかれては,失行を述べる際に用語の用い方を明確にしておくことが重要である.

新人理学療法士へのメッセージ

心の初々しさと情熱

著者: 西上智彦

ページ範囲:P.322 - P.323

 新たに理学療法士になられ,理学療法士として情熱に満ちあふれながらも,不安でいっぱいだと思います.今回,新人理学療法士へのメッセージということで,臨床6年目を迎えた私が,最近感じていること,思うことを率直に伝えたいと思います.心のどこかに少しとどめおいてもらえたら幸いです.

入門講座 画像のみかた・4

臨床に活かす脊椎・脊髄のCT・MRIのみかた

著者: 細野昇

ページ範囲:P.325 - P.334

 疾患の診断は臨床所見と各種検査によってなされるが,なかでもCT・MRIは侵襲も少なく簡便にできる検査であり,その情報は重要かつ豊富である.医師やセラピストなどの治療者がこれら画像検査の結果を治療に活かすためには,その基本的読影知識を身につけておく必要がある.本稿では,代表的な脊椎疾患についてCT・MRIのみかたを概説する.

講座 介護予防と理学療法・1【新連載】

平成18年介護保険制度改正が与えた影響

著者: 香川幸次郎

ページ範囲:P.335 - P.340

介護保険制度

 介護保険法はわが国の急速な高齢化の進展に伴い,新たに生じてきた介護問題に対処するため,2000年4月から施行されたものである.法制定の基本的な考え方として,(1)老後の最大の不安要因である介護を社会全体で支える仕組みをつくること,(2)これまでの縦割りの制度を再編成し,保健・医療・福祉にわたる介護サービスが,総合的・効率的に提供されるサービス体系を確立すること,(3)今後増大する介護費用を安定的に賄う財源として,社会保険方式を採用することであった.そして介護保険法の目的にあるように,要介護高齢者が有する能力に応じ,自立した生活を営むことができるよう支援することである.

 介護保険制度では1人ひとりのニーズに応じたサービスを提供するため,ケアマネジメント方式が採用された.ケアマネジメントは評価(アセスメント),介護計画の立案(プランニング),計画の実施,再評価(フォローアップ)のサイクルで構成されている.こうした方式が介護の領域に取り入れられた意図は,利用者のニーズに応じたサービスを提供することであり,高齢者ならびに家族の自立と生活の質(Quality of Life)を向上させることにある.

追悼

五味重春先生のおしえ

著者: 高橋正明

ページ範囲:P.351 - P.351

 そのお人柄ゆえに多くの人たちから敬愛されていた五味重春先生は,夏前からの闘病生活の末,昨年の12月19日,ついにその生涯を閉じられた.享年90歳であった.

 わが国のリハビリテーション草創期を牽引された偉大な先生の1人で,そのご功績を数えたら枚挙にいとまがない.特に肢体不自由児のリハビリテーションと理学療法士・作業療法士の養成教育に力を注がれ,口癖だった「生涯現役」を貫いて多くの人々に多大な影響を残された.実は私も,五味先生が学院長をされていた都立府中リハビリテーション学院(その後専門学校)に3期生として入学して以来,人生の節目には必ず五味先生に助けていただいた,“多大な”ではすまされないほどのご恩と影響を受けた1人である.

書評

―二瓶隆一・木村哲彦・牛山武久・陶山哲夫・飛松好子(編著)―「頸髄損傷のリハビリテーション 改訂第2版」

著者: 黒川幸雄

ページ範囲:P.308 - P.308

●頸髄損傷者の生の声,共に歩むすべての関係者の必見の書

 本書は,頸髄損傷者と共に歩む関係者にとっての座右の書であり,またリハビリテーションや保健福祉分野を学んでいる学生にとっても必見の書であり,経験が乏しい方々に是非お薦めしたい.

 その理由は本書の特色に関係して,4点あります.

―柳澤 健(編)―「DVDで学ぶ理学療法特殊テクニック―215の動画でよくわかる―」

著者: 丸山仁司

ページ範囲:P.310 - P.310

 理学療法には,知識と技術が非常に重要視されているが,知識に関しては書籍などにより机上で勉学が可能である.しかし,技術に関しては書籍ではなかなか理解できず,講習会などの参加により技術を習得していた.理学療法技術には,ファシリテーションテクニックなどが従来より研修会などで行われていたが,最近は,新しい概念に基づく新しいテクニックが多く見られるようになってきた.講習会などへの参加は,時間的,費用的な面から困難な場合があり,また,講習会の参加者は非常に限定され,少ない人数での講習会が行われている.そのため参加が困難であるが,DVDでの学習はいつでも,どこでも,だれでも勉強が可能である.

 本書の内容は,軟部組織モビライゼーション,関節モビライゼーション,関節ファシリテーション,マイオチューニングアプローチ,触圧覚刺激法,PNF,ボバース概念による治療,認知運動療法,テーピングの9章よりなっている.各章の内容は,概念・治療原理,適応と禁忌,評価と治療プログラム立案,基本手技,疾患別手技の要点が簡潔に掲載されている.各章の執筆者は各領域の専門家であり,わかりやすく説明されている.

―奈良 勲(著)―「奈良勲回顧録―わが半生,日本の理学療法と共に歩んで」

著者: 日下隆一

ページ範囲:P.314 - P.314

 本書は,著者の生い立ちに始まり,アメリカ留学,帰国後の臨床・研究および大学教員としての教育,日本理学療法士協会長を主とした長年の役員就任時期における出来事と自身の「生きざま」を,科学者,哲学者,詩人そして何よりも「ひたすら理学療法を愛する者」の思いとして書き綴られているだけではなく,これからの理学療法(士)のあり方をも示唆した内容となっている.加えて,40年の歴史をもつわが国の理学療法に関する資料,1968~1997年に至る20編余の詩,著者を知る9人もの方々が著者の「人となり」などについて寄稿されており,読み応えのある308ページとなっている.

 したがって,本書は理学療法士を志す学生さんは言うに及ばず,新人,中堅そして経験豊富な理学療法士など,それぞれの存在を意識して書かれている感を受ける.自身や理学療法に関連して,その本質,協会の変遷,過去と現代の出来事の様相にとどまらず,組織運営や今後の理学療法のあり方などを明快に述べることによって,おのずと多様な読者に対する個別的な有用性が高められているように思える.また,自身とその周辺に結び付けて随所に哲学者,詩人,心理学者などの偉人の言葉や「聖書」からの引用がなされているが,効果的に配置されているだけに著者の思考の奥行きを感じさせるものとなっている.

―小柳磨毅(編)―「実践PTノート」

著者: 福井勉

ページ範囲:P.316 - P.316

 本書は,小柳磨毅教授を中心にスポーツ傷害の理学療法を専門としたグループが著した力作である.原型は学生資料だったとされているが,その中身は学生のみならず,若い理学療法士にも好評のようである.「総論」「運動療法の基礎」の章の後は,「肩関節と肩甲帯」「肘関節・前腕」「手関節・手指」「股関節」「膝関節」「足関節」「脊柱・骨盤」「運動連鎖」の関節別構成をとっている.そのため,どの章から始めても基礎学習に有益であるだけでなく,学習した内容を鳥瞰図的にチェックできる構成は,他書にはあまり見られない手法である.階段を1つひとつ昇って,進歩の度合いが明示されるような構成は,若い理学療法士が自己信頼をつかむ場面に適していると考えられる.

 各関節ごとに「mobilityの評価・治療」「stabilityの評価・治療」という内容が記されている.これは著者らの長年の臨床経験から抽出されたものと考えられるが,各々の技術供覧に至るプロセスには多くの時間が費やされたことは想像に難くない.これらの技術蓄積は,感性の賜物ともいえるであろうが,疾患の特徴だけでなく対象者の個別性が考慮されていることを随所にうかがい知ることができる.

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文献抄録

ページ範囲:P.352 - P.353

編集後記

著者: 網本和

ページ範囲:P.356 - P.356

 EOI冒頭に触れたように,2006年4月の診療報酬改定の影響は計り知れず,180日を限度として「打ち切り」となってしまった患者が,「リハビリ難民」と化して大きな問題が提起されています.2006年の東京都理学療法士会の調査(社団法人東京都理学療法士会ニュースNo. 153)では,外来診療体制が58%縮小し,閉鎖を余儀なくされた施設も2%に認められ,これに伴い患者からの苦情が急増している,との指摘がありました.このような厳しい医療情勢のなか,脳卒中慢性期における理学療法の効果を示すことは医療サービスを供給する理学療法士にとっても,サービスを利用・活用する患者にとってもきわめて重要な課題です.

 そこで本特集は「慢性期脳卒中者の理学療法」としたわけです.まず奥田論文では,慢性期症例に対するリハ効果について,たとえ発症後180日以降でも,良好な効果を示す報告があることを示され,さらに縦断的研究から理学療法効果があることを示唆しています.大谷論文では「脳血管性認知症」に関する運動療法の意義を論じ,さまざまな臨床的アプローチが紹介されています.特に注意・意識を集中した運動トレーニングが認知機能の向上,介護予防に寄与すると述べています.竹内論文では,痙縮に対する評価と代表的なアプローチについて概説し,慢性期症例であっても,その症状は固定化したものではなく経過とともに変化を示すため,長期的にフォローアップすべきであると指摘しています.野村論文では,移動能力向上のための方法として,機器を用いた最近のアプローチと在宅でも可能な運動療法が紹介され,発症後8年経過した慢性期症例の具体的な展開を示し,歩行困難な状態から監視レベルまで改善した例を報告しています.筆者(網本)は,脳損傷例を対象としたメンタルプラクティス研究の内容について,歴史的展開と方法論的課題,および介入効果に関して文献的考察を行い,さらにミラーセラピーに関するこれまでの研究を概観し,慢性期の脳損傷例麻痺側下肢機能に着目した報告を紹介しました.本特集で取り上げられた論文は,いずれも180日以降であっても適切な理学療法が必要で,効果があると強く示唆されていることが理解できると思います.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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