icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル41巻5号

2007年05月発行

雑誌目次

特集 実践理学療法のエビデンス

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.359 - P.359

 Evidence-based medicine(EBM)が紹介された当初は,「メディスン」のあり方が議論の中心であった.現在ではどのような「エビデンス」があるかが問われ,それに基づく各種疾患のガイドラインが公表されている.ランダム化やブラインド化が容易でない理学療法の分野でも,実践理学療法のエビデンスは看過することができない状況になっている.本特集では,比較的エビデンスの議論をしやすい5領域を選んで,実践理学療法のエビデンスを解説していただいた.本特集の5領域の間でもエビデンスの温度差は大きく,今後さらに多くの領域で吟味されるその先鞭になればと願う.

関節可動域の維持・拡大―実践理学療法のエビデンス

著者: 中徹

ページ範囲:P.361 - P.369

関節ROMの「制限」と「過剰」という2つの異常のなかで

 日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会が統一した「関節可動域表示ならびに測定法」が定めている関節可動域テストにおいては,その測定方法で測定した場合の各関節の「参考関節可動域角度」が示されている.臨床的には,関節構造に問題があるかないかを徒手的な他動運動で判断する場合の判断基準が「参考関節可動域角度」ということになる.この基準より少ない場合を関節可動域(以下,ROM)の「制限」と呼び,基準を超えた場合をROMの「過剰」と呼び,両者を併せた概念がROMの「異常」ということになる.どちらの異常も運動能力の制限につながる可能性があるが,理学療法での対応はROM制限に対するものが多いのが現状であろう.今回のレビューにあたって検索した文献においても,多くが「ROM制限をどのように改善するか?」という問題意識とその周辺事項に対する研究であり,ROM制限への理学療法は理学療法士の高い関心事であることを示している.しかし,ROMの過剰という患者様にとって,解決すべきもう一方のROM異常に対する理学療法介入に関する報告は,残念ながらほとんどみられないのが現状であり,別の機会に是非論じる必要があると考える.以上のような背景を踏まえ,本稿では,理学療法の技術体系も多様であり,実際にその技術を必要とする患者様も多いと思われる「ROM制限を改善あるいは維持させる理学療法の実践」について限定し,その臨床的エビデンスの現状と今後について報告論文をいくつか取り上げて論じたい.

高齢者と骨関節疾患患者の筋力維持・強化―実践理学療法のエビデンス

著者: 岡西哲夫

ページ範囲:P.371 - P.378

はじめに

 近年,多くの医学会において,EBM(evidence-based medicine:以下,エビデンス)に基づく治療ガイドラインが作成されている.このエビデンスに基づく治療の選択の潮流は,理学療法の分野においても遠慮なく押し寄せている.言い換えれば,これからの理学療法は,中枢神経疾患,骨関節疾患,さらに神経筋疾患など,様々な疾患においてエビデンスに基づいた実践的な理学療法が求められている.例えば,具体的には,目の前の骨関節疾患の超高齢者に対して,従来の愛護的な介入を継続して行くのか,それともいくつかのエビデンスを吟味して,最も適した介入を選択して行くのか,その判断の岐路に立っているのである.

 本稿の目的は,高齢者を含めて,骨関節疾患患者の筋力維持・強化の効果に関する最近の報告をレビューして,具体的にエビデンスに基づいた筋力強化法をまとめ,その効果の限界や,エビデンスを充実させるための新しい指針に迫ることにある.

脳性麻痺児の基本動作能力改善―実践理学療法のエビデンス

著者: 小塚直樹 ,   西部寿人 ,   横井裕一郎 ,   中村宅雄 ,   小神博

ページ範囲:P.379 - P.384

はじめに

 長年にわたり,わが国において脳性麻痺(以下,CP)に実践してきた理学療法の多くは,子どもたちをある一定期間,施設に入所させて,運動機能の改善を目標とするスタイルをとってきた.子どもたちの機能は特定の治療手技によって改善されると信じられ,その安心感により,より正常な反応を促通することが重視される反面,それらを支える理論の追求は後回しにされ,子どもの人生や家族のQOLは重視されることが少なかった.近年の療育に対する根本的な考え方の変化,子ども本人と家族の価値観の変化,社会環境の変化は,それぞれの地域で子どもを育て,その中で活用できる社会生活能力を育てるスタイルへ変化する原動力となった.

 EBM(evidense-based medicine:以下,エビデンス)に基づいて開発されたいくつかの評価概念と判定方法(表1)は,CP児がたどる運動発達が十分考慮されており,理学療法の介入方法とその考え方に影響を与えている.CP児の機能障害は時間と共に変化するが,疾患の特性を熟慮した上で,彼らの人生における生活能力を伸ばすアプローチが考慮されるべきである.

 本稿では,CPに対する臨床実践に関するエビデンスの最近の考え方を総括し,臨床的なエビデンスを取り上げた実践例について論述したい.

片麻痺者の装具適用効果―実践理学療法のエビデンス

著者: 櫻井愛子

ページ範囲:P.385 - P.391

はじめに

 現在,日本における脳血管障害の総患者数は147万人1)と言われている.医療の発達により死亡率は低下しているものの2),機能障害により日常生活に介助を要する片麻痺者は多い3).理学療法では,機能改善を目的とした運動療法の一手段,日常生活における歩行の自立と動作介助量の軽減を目的として,短下肢装具(ankle foot orthoses:以下,AFO)を用いることが多い.しかし,AFO使用による効果や適用時期,適否を決定する身体機能との関係について実証されているとは言いがたく,各医療機関の医師や理学療法士,義肢装具士の判断に委ねられているのが現状である.本稿では,AFOが片麻痺者の歩行に及ぼす影響について示した研究を,evidence-based medicine(EBM)の概念に沿って紹介する.またAFOの底屈制動モーメントが片麻痺者の歩行に及ぼす影響について,最新の知見を踏まえて報告する.

物理療法による除痛効果―実践理学療法のエビデンス

著者: 篠原英記

ページ範囲:P.393 - P.401

痛みの治療とエビデンス
 痛み,特に急性痛は身体に加わる有害な刺激から身体を守るために必要な情報である.しかし,その反面,痛みは不快な感覚の総称であり,この知覚体験の持続はその人の人生に大いなる苦痛をもたらし,生命にも影響しかねない重要な問題である.そのような痛み治療の第一歩は,痛みの生じる原因と過程を生理学的に知ることであり,次に,その痛みの発生過程に対してどのように対処するかを,理論的に把握することである.理学療法士は,痛みを軽減するための技術としていくつかの物理的方略を有しているが,その応用にあたっては,生理学的根拠(エビデンス)の理解が不可欠である.物理療法の中には,ある程度具体性をもって治療の根拠が示されている場合と,そうでないものとがある.本稿では,疼痛の原因に応じてどの物理療法手段を選択し,どのようにそれを適用していくべきかを,生理学的解釈を入れながら論述する.

とびら

それでいい

著者: 田中結貴

ページ範囲:P.357 - P.357

 先日,教会の牧師でカウンセラーでもある方の講演に行き,こんな内容の話を聴いてきた.

 人には「2つの自分」がいるという.1つは「建前の自分」,もう1つは「本音の自分」である.建前の自分は,社会生活を営む上で大きな役割を果たす.例えば「学歴」や「職業」,「社会的立場」,「経済力」などがそれにあたり,そこには他者からの評価が入りやすいという特徴がある.一方,本音の自分とは自分自身の存在のことで,そこには「嬉しさ」や「楽しさ」といった正の感情と,「寂しさ」や「悲しさ」,「自信のなさ」,「不安感」といった負の感情が含まれる.この本音の自分には,自ら表出しない限り,他者からの評価が入りにくいという特徴がある.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

ペナンブラ(penumbra)

著者: 前田真治

ページ範囲:P.405 - P.405

 太陽と月によって生じる日食を例にすると,地球の影で真っ黒になる中心部分の本影(umbra,ラテン語“ombra「影」”に由来,「傘(umbrella)」と同じ語源)の周辺部にできる半影部をペナンブラ(penumbra)という(図1).脳血管が詰まるとその支配領域の血流は途絶えてしまうが,隣の血管と重なる領域があったりして,わずかに血流が確保できるところがある.

 脳血流量は正常では100gの脳組織あたりで1分間に50~55mlであるが,23ml以下になると,シナプス伝導障害が生じ,麻痺が出現する(electrical failure).12~18mlになると,数時間以内に細胞膜のイオンポンプが障害され,カリウムが細胞外へ漏れ出し,神経細胞が死んでしまう(membrane failure)1).組織化学的には脳血流が23ml以下になると,組織でのアシドーシスが進み,最初にクレアチニンリン酸が,続いてATPの産生が低下する.さらに脳血流が低下すると,脳波や誘発電位の消失,シナプス伝達が障害される.5~6ml以下になるとATPの枯渇が生じ,ATP依存性のイオンポンプの機能低下から,カリウムが細胞外に,カルシウムが細胞内に入り,イオン勾配の破綻(ion pump failure)を来すことで神経細胞死に至る.急性の脳虚血では,脳血流の減少が中心部と周辺部で異なり,中心部では神経細胞死になる状態であっても,周辺部では側副血行などによって12~23mlの脳血流があれば,脳機能は可逆的であり,この状態の脳組織が虚血性ペナンブラ(ischemic penumbra)である2)(図2).

新人理学療法士へのメッセージ

理学療法士として想うこと

著者: 花崎加音

ページ範囲:P.406 - P.407

 新たに理学療法士となられた皆様,心からお喜び申し上げます.私は理学療法士として10年目を迎えました.結婚,出産,育休など2年ちょっとのブランクはありますが,2桁の大台に乗るわけです.この稿のお話をいただき,さて…と,今の自分を顧みたわけですが,「今の自分が理学療法士としてどうあるか,10年経ってもこれといった何かを持っているわけでもないし」と,新人の皆さんと同じく日々頭を悩ませている自分がいるわけです.ですから,お役に立つかどうかは分かりませんが,ここで私が感じていることなどを,ありのままにお話してみることにします.

入門講座 画像のみかた・5

臨床に活かす運動器のCT・MRIのみかた

著者: 菅原誠

ページ範囲:P.409 - P.419

運動器疾患のMRIのみかた

 MR(magnetic resonanse)は核磁気共鳴を利用し,人体の水素原子の情報を画像化したものである.とくに体の軟部組織の情報が多く得られるため,骨,関節,筋の病変を捉えるのに極めて有用な検査手段である.MRI(MR imaging)画像は,撮影装置の能力に依存し,かつまだ成熟しておらず進歩の最中である.したがって,それぞれの施設で使用しているMRI装置で得られる最善の撮像法を選択して行う.

 当施設のMRI装置は0.3T(テスラ),永久磁石であり,基本画像はT1強調像,T2強調像,プロトン密度強調像である.

講座 介護予防と理学療法・2

介護予防にかかわる日本理学療法士協会の活動

著者: 金谷さとみ

ページ範囲:P.421 - P.429

はじめに

 介護予防は,一次予防(生活機能維持向上),二次予防(生活機能低下の早期発見・対応),三次予防(要介護状態の改善・重度化予防)に分類されているが,平成18年4月に介護保険法で制度化されたものは,主として二次予防の部分である.これまで,理学療法の提供は,その発展過程と理学療法士数の問題から,医療機関における診療報酬領域を主体とし,一次予防や二次予防に関わる機会は極めて少なかった.しかし,老人保健事業などを経て徐々に活動範囲が広がり,現在は理学療法士の養成校の増加とともに,理学療法の対象範囲は年々広がりを見せている.なかでも介護予防は見逃すことのできない絶好の活動領域と重要視すべきであろう.

 「介護予防」という言葉自体は,まだ国民に十分浸透しているとは言えないが,昨年度の介護保険制度改正以降,高齢者の中では「予防」の認識が確実に高くなっている.そのような意味で,この介護予防の制度は評価されるべきものと考える.しかし,本当の評価は介護予防の取り組みが明確な「効果」として表現できる時であり,そのための介護予防の「効果判定」は重要な意味を持つ.理学療法士は「効果を検証」する点においては,他のどの職種にも勝る技量を持っている.このことは,介護予防とは別の職場で活躍することが多かった理学療法士自身が,改めて認識すべきことかもしれない.このような背景から,日本理学療法士協会(以下,協会)は,平成16年から制度の動向を見ながら介護予防に関する取り組みに力を注いできた.本稿ではその詳細と今後の展望について述べていく.

症例報告

人工股関節再置換術後に坐骨神経由来の歩行時痛を呈した症例に対する理学療法経験

著者: 赤羽根良和 ,   林典雄 ,   林優 ,   細居雅敏

ページ範囲:P.433 - P.437

はじめに

 近年,人工関節の普及,改良,手術手技の向上により変形性関節症における人工関節の除痛効果は非常に有効とされ,術後に歩行時痛が発症し,支障を来す割合は極めて少ない.しかし近年,人工関節置換術の適応が拡大し,術後,新たに坐骨神経障害の発症とともに歩行障害を認めたとする報告が散見されるようになった.その原因としては,脚の延長に伴う坐骨神経の過緊張を原因とする脚延長説1~3)と,術中の操作に併発し坐骨神経障害が発生する術中操作説の2つに分類されている4~6)

 今回,人工股関節再置換術後の脚延長によって発生した坐骨神経障害により,著明な歩行時痛を呈した症例を経験したので,その経過とともに神経症状発現機序ならびにわれわれが実施した理学療法について,文献的考察を加えて報告する.なお,患者本人には投稿に関する同意を得た.

書評

―野村 歡・橋本美芽(著)―「OT・PTのための住環境整備論」

著者: 中屋久長

ページ範囲:P.402 - P.402

 近年,国の大きな改革路線に医療制度構造改革がある.増え続ける医療費の伸びを高齢者の自己負担増や生活習慣病の予防で抑制することが骨格となっている.そのことは,先般の診療報酬改定,介護保険制度改正に反映されている.

 さらにリハビリテーション(リハ)領域での改革は,その背景に平成16年1月「高齢者リハ研究会報告」が大きく影響している.「最も重点的に行われるべき急性期のリハ医療が不十分」「長期にわたって効果の明らかでないリハ医療が行われている」「医療から介護への連続するシステムが機能していない」「リハとケアとの境界が明確に区分されておらずリハとケアが混在している」「在宅におけるリハが不十分」等々の指摘がなされている.

--------------------

文献抄録

ページ範囲:P.438 - P.439

編集後記

著者: 高橋正明

ページ範囲:P.442 - P.442

 「暖かな冬が終わり,いよいよ寒い春が訪れました」と,まるで季語が逆転してしまいそうな春の訪れである.温暖化,エルニーニョ現象など,地球規模の説明がなされればなされるほど,「だから我慢しなさい」と聞こえてならない.ずっと以前,どなたかの講演で,社会科学は自然科学を乗り越えられないのかというテーマのお話を聞いた.

 これまで,人類は社会で生じる様々な問題を物の発明で解決してきた.

 例えば,中世では暖をとるために壁の中に通気穴をはりめぐらし,そこにもぐり込める子ども達が掃除をしていた.掃除中であることが気づかれず,暖炉に火が入れられて多くの子ども達が事故死した.それを解決したのはストーブの発明であったという.いまだに印象に残っている話である.暖をとる発明に連動して,暑いときに涼をとる器具が作られた.これはそれ以上の暖気を周囲にまき散らす.産業の発展に伴い,気がつけば地球全体が暖房の中に入ってしまった.温暖化という民族や人種,宗教を超えた,そして自然科学分野の人智ではもはや抑え込むことができない問題へと発展してしまったのである.社会科学の人智にしか救いは見いだせそうもないが,過去の歴史が繰り返されるならば,温暖化がとてもお寒い話となってしまう.しゃれや冗談では済まされないことがさらに辛い.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?