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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル41巻6号

2007年06月発行

雑誌目次

特集 NST(nutrition support team)と理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.445 - P.445

 NST(nutrition support team:栄養サポートチーム)の目的は,栄養状態や栄養管理の評価,栄養管理の必要な合併症の予防や早期治療などによって,早期退院や社会復帰を促すことである.そして,栄養管理方法の相談業務や指導を行って組織員の知識の習得を図り,啓発することにある.すべての治療の基盤である栄養管理に対する理学療法士の知識と積極的関与が求められている.運動負荷をかける理学療法士は栄養についてどのように考えるべきか迫った.

栄養と栄養管理

著者: 合田文則 ,   河野武章

ページ範囲:P.447 - P.457

はじめに

 栄養は生命を維持する根幹であり,適切な栄養管理はリハビリテーションに限らず,すべての医療の基盤である.不適切な栄養管理は,体内のあらゆる機能を低下させ,治療の効果を発揮できないばかりでなく,栄養障害に伴う合併症を併発することになる.リハビリテーションを必要とする多くの高齢患者はハンディキャップを持ちつつも質の高い生活を送ること(quality of good life)を目標にリハビリテーションに取り組んでいる.リハビリテーションの効果を最大限発揮するためには,栄養と運動のバランスが必要である.本稿では,栄養と運動の関係および基本的な栄養管理について概説する.

低栄養状態患者と運動療法

著者: 伊藤彰博 ,   東口髙志 ,   児玉佳之 ,   二村昭彦

ページ範囲:P.459 - P.464

はじめに

 わが国にNST(nutrition support team:栄養サポートチーム)が普及するとともに,身体機能の回復を必要とするいわゆる脳卒中患者に対する栄養管理も,大きな変革期を迎えようとしている.栄養管理は,すべての医療の根幹をなす最も基本的な患者ケアの1つであり,一般に栄養管理をおろそかにすると,いかなる治療法,特に身体機能の回復を目的とする脳卒中患者に対するリハビリテーション(以下,リハビリ)においては,著しくその効力を失ってしまう.この栄養管理に対する基本的概念が浸透し,NSTを稼動している急性期病院においては,嚥下障害を伴う脳卒中患者に対しても早期経腸栄養の重要性が認識されるようになり,低栄養状態に陥らないために,初期治療と並行して栄養療法が実践されるようになってきた.さらに,脳卒中患者は,医療の高度化,細分化に伴い,リハビリ医をはじめ理学療法士(PT),作業療法士(OT)や言語聴覚士(ST)などのリハビリスタッフが充実した回復期リハビリ専門病院へと転院し,全身の身体機能を回復するために,集中的なトレーニングを行っている.

 そこで本稿では,脳卒中患者を中心に,急性期治療を行う急性期病院,回復期リハビリを行うリハビリ専門病院に分け,低栄養状態患者に対するNST活動の果たすべき役割について概説する.

経腸栄養および胃瘻患者の生活と理学療法

著者: 平賀よしみ ,   福島由美 ,   福田倫也

ページ範囲:P.465 - P.470

はじめに

 理学療法において,急性疾患および慢性疾患患者の栄養状態を改善することは,合併症の発生を予防し,種々の介入を円滑に進め効果をあげるために必要不可欠である.回復期リハビリテーション病棟や,慢性疾患をもつ長期療養者の介護を目的とした療養型病床群においては,嚥下障害や低栄養状態の方が多くみられる.また病院や施設から在宅復帰するにあたり,栄養状態が安定していることは不可欠な要件である.嚥下障害は脱水や低栄養状態を引き起こし,それによりさらに嚥下障害が増悪するという悪循環に陥る危険性がある.そこで,経口摂取が可能か否か,摂取量が十分かどうかを見極めた上で,適切な代替栄養法で不足分を補う必要がある1).代替栄養法には大きく分けて経静脈栄養法(点滴:中心静脈栄養管理),経腸栄養法がある(図1).長期間にわたる経静脈栄養法管理は,腸粘膜の萎縮やバクテリアルトランスロケーション注1)の問題が指摘され,近年ではより生理的な経腸栄養法が見直されている2).経腸栄養法の投与ルートとしては,経鼻,胃瘻,空腸瘻がある.本稿では,理学療法の対象者に多い経鼻経管栄養法,胃瘻について述べたい.

慢性心不全における栄養管理と運動療法の関わり

著者: 飯田有輝 ,   山田純生

ページ範囲:P.471 - P.478

はじめに

 慢性心不全は,様々な基礎疾患による心筋損傷を契機として心機能障害が進行し,徐々に労作時の息切れや疲労感などの臨床症状を呈する進行性の症候群と考えられている.その病態は,心筋損傷による心機能低下が神経体液性因子の賦活化,炎症性サイトカインの産生,心室リモデリングなどの適応反応を引き起こし,経過と共にそれらがストレス刺激となって作用し,心機能障害をさらに進行させていくというものである1).先進国における慢性心不全の総有病率は2~6%で,その4分の1は65歳以上の高齢者であるとの報告があり2,3),今後は高齢化と共にさらにその数は増え続けると予想されている3).また慢性心不全の予後は,発症からの死亡率が1年以内で男性28%,女性24%,5年以内では男性59%,女性45%と高く4),治療は病態進行をいかに予防するかが主関心事となっている.栄養状態の維持・改善は,薬物療法,運動療法と並んで慢性心不全の管理上重要な位置づけにある.本稿では,特に心臓悪液質(cardiac cachexia)をもたらす心不全の病態を中心に,栄養管理と運動療法の関わりについて基本的考え方を概括したい.

NST活動と理学療法士

著者: 原島宏明 ,   東海三枝 ,   高橋貞倫 ,   峯岸七奈

ページ範囲:P.479 - P.484

はじめに

 当院のnutrition support team(栄養サポートチーム:以下,NST)活動は,2005(平成17)年10月のNST委員会発足により開始された.2005年10月より2006年4月までは全病棟の入院患者を対象に,2006年4月からは回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期病棟)入院患者を対象に栄養サポートを実施してきた.この活動に際し,リハビリ科(以下,当科)ではNST委員会に理学療法士が委員として参加し,栄養情報を患者の能力向上に役立てている.

 入院患者の年齢が比較的高齢である当院では,経口摂取可能な低栄養状態の高齢者に対して,栄養状態改善を目標に独自のNSTスコアを設定し,NST活動を行ってきた.経口摂取が可能でありながらも,低栄養状態にある患者は,従来のNSTスコアではフォローしきれなかった部分であった.しかし,在宅復帰に向けての治療が進む中でそれらは障害の1つとなる場合が多い.また,リハビリテーション(以下,リハビリ)の観点からも,低栄養状態の持続は筋力向上,能力獲得の妨げとなるばかりでなく,リハビリに対する意欲を削ぐことにもなりかねない.そこで,当科では患者の栄養状態に合わせたリハビリの負荷を探り,運動強度の設定に役立てている.

 基本的に低栄養状態の患者は病棟での自発的な動きが少なく,ベッド上生活であることが多い.そのような状態では,最大のエネルギー消費動作はリハビリでの運動ではないかと考える.筋力向上のためには,筋線維の破壊と再生が不可欠である.また,動作獲得のための運動でも,多量のエネルギーを必要とする.低栄養状態のベッド上生活患者に立位,歩行運動を実施しても,運動を上回る栄養の補給がなければ,能力の向上は緩慢であるか,あるいは疲労のために低下していく.リハビリでの運動と,能力向上のためには,安定した栄養状態の維持が不可欠であると考える.さらに,NSTにおける簡易的骨格筋量の評価と動作能力を加味し,低栄養状態の患者の筋力増強運動において,セラピストが狙った通りの筋肥大が起きているか否かを定期的に再評価し,運動内容の再検討を図ることが重要である.また,リハビリスタッフも栄養状態の改善を待って,より負荷の高い運動を指導するよう心がけるべきと考える.

 しかし,個々の患者の消費エネルギー量と摂取エネルギー量を正確に把握することは非常に困難であり,現在のところ,栄養状態のデータがリハビリの客観的運動効果に直結する要素にはなり得ていない.当科では,非常に重要でありながらも活用方法が難しいこの栄養情報を極力利用し,運動効果を高めるために活動している.本稿では当院のNST活動の概略と,症例について報告する.

とびら

最終関節可動域の美

著者: 伊藤直榮

ページ範囲:P.443 - P.443

 人体の関節構造とその関節可動域を運動の美という観点から捉えてみると,その動きには唸るほどの感銘を受けるものが数多く存在する.バレーダンサーの空中でのポーズの美しさ,かの有名なフィギュアスケートでのイナバウアー,3回転4回転ジャンプ,体操の床運動,鉄棒での演技,フラメンコなど数えるといくらでもある.オリンピック選手にはわずかの身体的故障も許されない.

 一方,どちらかというとスピードにあまり左右されない日本舞踊や能を演ずる所作では,手の先端から足の先までその動きを観察していると,実に全体的に一体となっており,静の中に緊張感が張りつめている.この調和のとれた動きは平均的な関節可動域内では生まれてこない.それでは関節可動域が広ければ広いほど有利かと言えば,そうではない.広さは,反面,関節の不安定に繋がる.これを乗り越えるには動きのバランスを保持する必要があり,演者は関節周囲筋の筋力と持久力をその極限まで高めておかなければならない.所作の動と静の流れが,観ている者に感銘を与えるのは,演ずる者が動いているにもかかわらず,動きながら全身の筋肉に力をみなぎらせて,いつでもどの方向にでも動ける,いつでも動の流れに入れる準備ができているからである.この状態は,野球においてどこに打球が飛んでくるか分からない状態で球を待っているときと同じである.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

起立性低血圧

著者: 小野田英也

ページ範囲:P.491 - P.491

 起立性低血圧は起立性調節障害(orthostatic dysregulation)とも呼ばれ,一般的には様々な疾患に合併する症状として知られている.これとは別に思春期に好発する自律神経失調症の1つで,朝起きられない,頭痛,全身倦怠感などの症状を引き起こす疾患として捉えようとする考えもある.理学療法分野で接する多くは前者である.


●診断基準と発生機序

 起立性低血圧は,臥位と比較して立位での収縮期血圧が20mmHg,または拡張期血圧が10mmHg以上低下する場合とされている.血液は液体であり,立位姿勢をとると重力によって下肢に血液が貯留し,心臓への静脈還流が減少し,これに伴って心拍出量が減少する.心拍出量の減少によって大動脈弓や頸動脈洞にある圧受容体が反応し,血圧調整反射が誘発され,交感神経が刺激される.交感神経が刺激されることにより,末梢血管,特に下肢の血管収縮,心拍出力の増強,脈拍増加などが生じ,血圧,脳血流量が維持される.このメカニズムが何らかの原因で障害されることで起立性低血圧症状が現れる.

新人理学療法士へのメッセージ

出会いを大切に,あきらめの悪いセラピストになろう!

著者: 高橋尚明

ページ範囲:P.492 - P.493

 晴れて理学療法士となった皆さん,おめでとうございます.そろそろ新しい職場にも慣れてきた頃でしょうか? 学生生活が長く感じられた方,「あっ」という間に過ぎてしまったという方,様々だと思います.臨床実習の時にはレポートに追われ「早くプロになりたい!」と思っていたのもつかの間,「学生のほうが楽だったかも…」と感じている方もいらっしゃると思います.さてこのたび「新人理学療法士へのメッセージ」をお伝えする機会をいただきましたので,自分の当時を振り返りながら筆を進めてみます.

ひろば

インドネシア・ジャワ島中部地震災害緊急援助チーム参加報告

著者: 井上順一朗 ,   高田哲

ページ範囲:P.494 - P.494

 2006年5月27日,インドネシア・ジャワ島中部のジョグジャカルタ近傍においてM6.3の地震が発生した.2006年6月12日の時点で,死者5,736名,負傷者78,206名,被災家屋約60万戸の被災状況が報告されていた.

 神戸大学は災害緊急援助チームを派遣し,ガジャマダ大学医学部(UGM)医療チームを支援するとともに現地の医療ニーズの調査を実施した.

入門講座 画像のみかた・6

臨床に活かす胸部のCTのみかた

著者: 須藤英一 ,   奥仲哲弥

ページ範囲:P.495 - P.504

はじめに

 近年,わが国は急速な高齢化社会を迎えており,65歳以上の高齢者が,2010年には4人に1人,2050年には3人に1人になるとの予測もある.それに伴い,理学療法士は,急性期の呼吸不全患者に対する肺理学療法(排痰,呼吸介助など)を行うだけでなく,慢性呼吸器疾患患者への対応も求められている.また,在宅医療機器の進歩もあり,療養施設や在宅など,医療機関以外で慢性呼吸器疾患患者を担当する機会も増えている.

 本稿では,呼吸器疾患患者の病態把握に必要とされる胸部CT画像を概説し,嚥下リハビリテーション,呼吸リハビリテーション(主に慢性疾患を対象とする)にも触れる.

講座 介護予防と理学療法・3

介護予防は誰がどのように行うのか

著者: 望月彬也

ページ範囲:P.505 - P.513

はじめに

 筆者は,東京都・江東区スポーツ公社が自主事業として区民向けに行っている「リハビリ教室」(江東区健康センターで実施)の運営に,1989(平成元)年の設立時から関わっている.今年で18年目になるが,リハビリ教室の内容は,医療機関での急性期・回復期リハビリテーションを終了し,地域に戻った人たちなどを対象とする維持期リハビリテーションで,身体機能や精神機能の現状維持が第一目標になる.具体的には,主にトレーニングマシンを使用して筋力強化や維持,身体バランス改善などの運動を行い,それに加えてストレッチやヨガなどによる関節可動域の改善,身体の柔軟性の維持,および参加者相互のピアカウンセリングによる精神機能の改善などを行っている.

 これまでに,高齢者から若年者まで,脳血管障害や交通事故などによって退院後も上肢や下肢に後遺症をもつ人など,区内の多くの人たちが参加してきた.リハビリ教室を終了したほとんどの人たちは,現在も地域で元気に生き生きと生活している.

 2006年4月に改正された介護保険制度では,要介護状態の予防や悪化防止を目的として,介護予防に重点が置かれている.近年,複数の福祉用具メーカーが介護予防のために色々なトレーニングマシンを開発しているが,機器を利用する筋力トレーニングも介護予防の一分野である.東京都老人総合研究所で養成している「介護予防運動指導士」の包括的高齢者運動トレーニングや,パワーリハビリテーション研究会が行っている,筋力強化プログラムでもトレーニングマシンを使用している場合が多い.

 本稿では,まず「介護予防は誰がどのように行うのか」というテーマの前提として,今なぜ介護予防なのか,介護予防とリハビリテーションとの関連性などを明らかにする.そして,私たちが行っているリハビリ教室のコンセプトや内容を紹介しつつ,介護予防に関わる専門職に必要な知識について考察したい.

PTワールドワイド

脊柱不安定性講演会とアメリカの徒手療法教育について

著者: 佐藤友紀

ページ範囲:P.514 - P.517

脊柱不安定性講演会

 2007年2月4日,首都大学東京において,アメリカより徒手療法の第一人者であるStanley V Paris氏(セントオーガスティン大学学長)をお招きし,セントオーガスティン大学大学院日本校と日本理学療法士協会の共催により,脊柱不安定性講演会が開催された.Paris氏はアメリカで徒手療法を発展させ,アメリカ理学療法協会を始め,多くの協会・学会より特別賞を受賞し,特別会員として表彰されてきた.特に,通常個々の講習会・個人を認定しないIFOMT(国際徒手療法連盟.個人・特定の講習会でIFOMTの名前を使用することを禁止している)から,徒手療法の世界では2人しかいないの個人会員の1人として,2000年に特別に認められた人物でもある(図1).70歳を迎える今日も,精力的に様々な場所で臨床の重要性を訴えるParis氏の講演を聞くため,400名を超える参加者が集まった.

 近年,脊柱不安定性または不安定性に対するアプローチの1つとして安定性運動が注目されている.徒手療法というと,関節可動域制限に対する治療としてのモビリゼーション・マニピュレーションのみが注目されがちであるが,実際の現場では不安定性・可動性増大を隣接した部位に伴っていることも多い.したがって,常に可動域制限,不安定性・可動性増大という2つの相対する問題を意識して,患者に接することが望ましいと考える.

書評

―林 光俊・岩崎由純(編)―『ナショナルチームドクター・トレーナーが書いた 種目別スポーツ障害の診療』

著者: 松田直樹

ページ範囲:P.488 - P.488

 スポーツ診療を専門とするクリニックや,アスレティックリハビリテーションにも対応できる医療機関が需要とともに増加し,理学療法士もスポーツ現場で非常に多くの方々がサポートスタッフとして活動している.競技スポーツに対応する場合,いくら医学的知識があってもその競技の種目特異性に対応できなければ,選手の復帰に対する必要条件はクリアできても,十分条件のクリアはできない.ケガが治っても良いパフォーマンスで競技ができない.スポーツの競技種目はアテネ五輪とトリノ五輪の競技だけでも46競技に及ぶ.自分の経験したことのある競技の理解・指導は容易でも,経験したことのない競技については運動学的,生理学的・医学的特徴について競技を分析して選手に理学療法士としてパフォーマンスの回復について指導することは簡単ではない.

 今回南江堂より「ナショナルチームドクター・トレーナーが書いた種目別スポーツ障害の診療」が発刊された.本書は日本を代表する各競技種目のチームドクターやトレーナーの方々が貴重な各競技の代表活動経験より,競技現場でよく起こるスポーツ障害の治療や応急処置,復帰に向けたリハビリテーションとリスク管理など細かく競技別に記載されている.今までも同様の書籍は存在したが,本書は各競技において代表チーム活動経験のある「ドクター」と「トレーナー」がペアとなって執筆しているという大きな特徴を持っている.スポーツ現場で医学的管理をするメディカルスタッフとしては「トレーナー」は「ドクター」の診断と治療方針のジャッジを理解する必要がある.また逆に「ドクター」は「トレーナー」の行うアスレティックリハビリテーションやコンディショニングの目的と方法について理解する必要がある.スポーツ医学の両輪としての「ドクター」と「トレーナー」の両者がそれぞれの立場で同じ競技のスポーツ医学を語ることは,お互いの立場の理解という点においても知識の共有という点でも非常に役立つものである.

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文献抄録

ページ範囲:P.518 - P.519

編集後記

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.526 - P.526

 最近,世の中は狭いなあ,と感じることが多い.思いがけない地で知人の知人に遭遇することが多くなった.私は12人兄弟の12番目,末っ子であるが,一番上の姉は二回り,24歳も年の差がある.大阪で大学に入学したとき,「昔,吉尾孝子さんという同級生がいたが,あなたはどこの出身か?」と高齢の紳士が声を掛けてきた.その紳士は私の同級生として大学に入学された方であるが,なんと,私の長姉と小学校時代の同級生だったのである.海外で,3組の知り合いと遭遇したこともある.交通機関の発達が世界を狭くしているわけであるが,マスメディア,インターネットの充実なども世の中を狭くしている背景にあるだろう.情報が瞬時に世界を駆けめぐる時代でもある.しかし,環境の変化だけで世の中が狭くなったわけではない.私の知人は職業を通じての縁であることが多いので,理学療法士やその他の医療従事者が必然的に多くなる.年間に1万人を養成する時代になって,理学療法士の社会浸透がこの数年でかなり進んだような印象を受けている.この数の急増は私の知人の知人が多くなることでもあり,社会に大きな影響を与えていくことにもなる.私自身と,私の知人,そしてその知人の知人たちの活動が旺盛になればなるほど,社会へのメッセージは多くなり,世の中はますます狭くなっていくことになる.社会的責任も重くなる.責任を全うすべく,足腰を強くしなければならないし,栄養もつけなければならない.足腰が弱いのに踏ん張ることはできない.栄養が不足していれば粘ることはできず,簡単に潰れてしまう.40年近くも神経生理学的アプローチに影響を受けて展開してきた日本の理学療法界は,基礎がまだ貧弱であるように思う.流行に左右されるのではなく,地に足をしっかりと着けて踏ん張るだけの力をつけないと,社会の要請にきちんと応えることはできない.狭くなった世の中故に,理学療法士の姿は社会に見えやすくなっている.栄養を十分とって,足腰を強くする努力を日々怠ってはならないと考えてはいるのだが.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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