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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル41巻7号

2007年07月発行

雑誌目次

特集 脳性麻痺児の理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.529 - P.529

 脳性麻痺の理学療法に関する最新の知識と技術の進歩について,評価法,アプローチ,効果判定など多角的に示していただくことを企画目的とした.脳性麻痺児に直接頻繁に関わる場合はもちろんのこと,まれにしかケースを担当しない場合でも,理解できるように基本的概念から実践に至るわかりやすい症例提示とともに理論的背景について解説いただいた.

脳性麻痺の評価とアプローチ

著者: 新田收

ページ範囲:P.531 - P.536

脳性麻痺理学療法に関する近年の報告

 まず,脳性麻痺に対するアプローチについて,最近の報告をいくつか紹介する.柴田ら1)は,脳性麻痺児に対する入院・多職種治療の効果について次のように報告している.入院時平均年齢は4歳(0~11歳),入院期間は平均4か月(2~7か月)であった.評価は日本語版粗大運動尺度(GMFM)を用い,入院時と退院時の2回行った.この結果,GMFM総合得点は平均7.9%増加し,個々の粗大運動発達曲線に比べて急激に向上していた.この報告において,理学療法の関わりは,週5日の個別療法と週1回の集団療法が行われていた.同様の報告を朝貝ら2)も行っている.報告では0~8歳の脳性麻痺児を対象とした平均2か月の入院集中トレーニングを行った結果,GMFM総合得点が平均3.7%増加したとしている.ただし退院後,通院期間中に減少するケースがあり,効果を維持するためには,適切な時期に間欠的な入院を繰り返す,運動レベルを日常で行えるレベルまで高めるなどが必要としている.

 これらの報告は,脳性麻痺児に対するアプローチの効果について述べている.ただし,一定期限内で多職種が集中してアプローチした場合の限定的な結果をまとめたものである.こうした報告は尊重されるべきだが,今なお効果に関する研究が続けられている状況は,一般的に受け入れられる明快な回答が得られていない結果とも考えられる.脳性麻痺児に対するアプローチ効果については,これまでに長い議論の歴史があった.いくつかわが国の報告を紹介する.

脳性まひ児の24時間姿勢ケア

著者: 今川忠男

ページ範囲:P.537 - P.546

はじめに

 新生児医療の現場において,専門知識や技術が向上しているにもかかわらず,幼児期を越えても重度の神経学的障害が残存するこどもたちや,小児期に重度の外傷を受けて後遺症をもつこどもたちの数は期待したほどの減少をみせていない.また近年,重篤な神経学的障害をもっていても,こどもたちや家族の人生の質を高めるべきであるという文化的な機運も高まっている.

 最近の英国における調査では,脳性まひをもつこどもの股関節脱臼と側彎をはじめとする構築的変形の発生率は,日本にも紹介されているボバース法をはじめとする各種治療法の台頭以前の値とあまり差がないという,次のような報告12)がなされている.

 「股関節脱臼と脊柱側彎は,脳性まひをもつこどもにみられるもっとも一般的な2つの変形である.両まひをもつこどもの35~40%に股関節脱臼が認められる.痙直型四肢まひをもつこどもの約65%に側彎が認められる.つまり,英国においては毎年,約2人に1人の脳性まひをもつこどもに股関節脱臼および脊柱側彎の進行が認められることになる.このデータは各種治療法が流行しだした1960年代から大きく変化していない.しかし,ここ10年で実施された『24時間姿勢ケア』を受けるこどもたちの変形発生率は,地域限定ではあるが23%まで減少してきている」

脳性麻痺児の筋骨格系障害の評価とアプローチ

著者: 大畑光司 ,   市橋則明

ページ範囲:P.547 - P.555

はじめに

 脳性麻痺は,「発達初期に生じた脳損傷もしくは異常により二次的に生じる非進行性であるが変化しうる運動障害症候群の包括的用語」1)と定義されている.換言すると,発達期に生じた脳損傷・異常に基づく運動障害の総称(進行性の疾患は除外される)であるということができる.脳損傷により生じる上位運動ニューロン障害は,異常(過剰)な反応による陽性徴候と,機能の欠損や低下を意味する陰性徴候に大別される(表1)2).陽性徴候は下位運動ニューロンへの抑制の欠如,陰性徴候は下位運動ニューロンへの出力の低下により生じる.痙性麻痺や反射の亢進,クローヌスなどは陽性徴候の代表であり,筋力低下,選択的運動制御障害などは陰性徴候の代表である.脳性麻痺児の運動障害における陽性徴候,陰性徴候についての認識は,この10年の間に劇的に変化してきた.

 本稿では,脳性麻痺児の筋骨格系に生じる問題点を概観し,その中で筆者らが行っている研究を紹介する.また,現時点での脳性麻痺児の筋骨格系に対するアプローチの医学的根拠を示し,同時に症例を提示する.

脳性麻痺児の座位姿勢の評価とアプローチ

著者: 岩﨑洋

ページ範囲:P.557 - P.566

はじめに

 脳性麻痺児に限らず,ほとんどの障害者は日常生活において座位姿勢を長時間保持している.また,理学療法においても座位姿勢は基本的な姿勢であり,生活でも重要な姿勢であるといえる.つまり,座位姿勢は日常生活における安静の姿勢だけでなく,食事・入浴・排泄・休息の「人間生理動作」,学習・就労・創作といった「作業」,乗り物(車いす,自動車,飛行機など)を利用する場合の「移動」,娯楽(映画,音楽,テレビ鑑賞)・家族団らんといった「リラクゼーション」などの目的を遂行するための姿勢でもある.脳性麻痺児の日常生活においても,座位姿勢は目的遂行の重要な手段の1つとなる.

 本稿は2つの観点から構成する.まず座位姿勢の評価法について概説し,次に座位姿勢への主要なアプローチである座位保持装置を処方する際の原則と問題に対する対応法,そして原則に基づいて装置を作製した症例を報告する.

脳性麻痺児に対する下肢装具療法

著者: 堀場寿実 ,   野々垣聡 ,   岡川敏郎

ページ範囲:P.567 - P.572

はじめに

 脳性麻痺児の短下肢装具(以下,AFO)は,体重の支持,変形の予防や矯正,足関節背屈機能の代行を目的に処方される.近年では,材質の改良に伴って強度も高められたため,プラスチック装具の処方が増えている.当センターでも,足関節部が固定されているAFO(以下,SAFO),足継ぎ手付AFO(以下,HAFO),靴型装具(以下,FO)などの処方が多く,最近では後方がリーフスプリングになったAFO(以下,PLS)もみられる.本稿では,下肢装具(以下,装具)の効果についての先行研究を紹介するとともに,AFOと脳性麻痺児の歩行について筆者らが得た知見を報告する.

とびら

「言葉」と向き合い,「自分」と向き合う

著者: 藤井保貴

ページ範囲:P.527 - P.527

 今年も新人を迎え,当院のリハビリテーション科のスタッフは41人となった.私が27歳の時にリハビリテーション科を開設して8年が経った現在,大人数の部署となり,臨床・教育・研究・運営・管理など様々な仕事と向き合い,日々悪戦苦闘している.そんな中,管理者として求められることは多く,「どうすればいい? これでいいのか?」と不安になることもある.相談者はいても指導者はいない状況であり,決断しなければいけない時には自分が過去に受けた「言葉」を頼りに判断している.理学療法士になって14年が過ぎ,先輩や友人,家族に言われた数々の「言葉」と共に自分を振り返ってみたい.

 私が理学療法士になろうと決めたのは高校時代の友人が言った「医者は足を治してくれるが,リハビリの先生は俺の心まで治してくれる」という言葉であった.あれから17年が経ち,自分が目指した理学療法士に近づいているだろうかと自分に問いかける.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

牽引療法

著者: 中俣修

ページ範囲:P.575 - P.575

 牽引療法は,物理療法の1つで,関節面を引き離す,周囲の軟部組織を伸張するという,機械的刺激を加える力学的治療法に分類される.牽引療法の歴史は古く,ヒポクラテスの時代から骨折や脱臼の整復,脊柱彎曲変形の治療などに用いられてきた.牽引は,機器,セラピスト(徒手),患者自身の体重などにより四肢および脊柱関節に加えることができる.本稿では主に牽引機器を使用した介達牽引による脊椎牽引療法について述べる.

学校探検隊

空港・交流・希望―創造都市成田より

著者: 内山田悟朗 ,   金田麻里

ページ範囲:P.576 - P.577

本校紹介

 本学院は,千葉県で2番目の養成校として1992年4月に開校し,1998年4月には3年制から4年制課程へと移行した.医療法人という特性から,総合病院・老健・特養施設などの関連施設が隣接され,プレ実習という形で第1学年の早い時期から医療・介護分野に携わることが可能である.現在,卒業生が300人を超え,主に千葉県を中心に臨床・教育の現場で奮闘している.

 本学院は,近年,急速な発展を遂げる千葉県成田市に所在し,学院周辺の田園風景も土地開発が進んでいる.成田といえば「成田空港」のイメージが強く,都内からとても遠いというイメージをもたれている.しかし,実際は上野から特急で50分ほどの距離で,慣れた者から言えば東京から近い場所なのである.

入門講座 検査測定/評価・1【新連載】

触診

著者: 進藤伸一

ページ範囲:P.579 - P.584

はじめに

 触診(palpation)とは,検者が手で患者の身体各部を触り,その状態を知るために行う身体的検査法の1つである.理学療法士は,これまで運動器系の構造上の変化に焦点を当てた静的触診(static palpation)を行うことが多かったが,最近では徒手療法の普及に伴い,関節の遊びなどの可動性に焦点を当てた動的触診(motion palpation)を行うことも多くなってきている.触診は,呼吸理学療法の分野でも重要であり,理学療法士が行う検査法として重要性を増している.

 本稿では,日常臨床で触診することの多い10の事例を取り上げ,その要点を述べる.総論的な内容は,紙幅の関係で触れられないので,他の成書を参考にされたい1~5)

講座 経頭蓋磁気刺激と理学療法・1【新連載】

経頭蓋磁気刺激(TMS)のリハビリテーションにおける活用

著者: 笠井達哉

ページ範囲:P.585 - P.593

はじめに

 大脳皮質運動野の経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation:TMS)によって,筋電図として記録される電位を運動誘発電位(motor evoked potential:MEP)と呼ぶ.運動野に磁気刺激を行い,MEPとして記録された筋電図の潜時,閾値,振幅,そして筋放電休止期の違いから,中枢性運動機能を評価することが可能である.この方法は,現在の理学療法の臨床では,未だ十分な認知を得るに至っていないが,将来的には随意運動機能障害の有力な診断方法として,その有用性が注目され,活発に活用されるようになるであろう.そこで本講座では,理学療法の基礎科学である運動神経生理学的観点から,TMSのメカニズムと有用性,そしてその臨床応用において,適切な結果の解釈と診断に資する最新の知見について解説する.連載第1回の本稿では,特にTMSの神経生理学的基礎理論とそのメカニズムについて概説する.

症例報告

高齢血液透析患者における身体能力推移の経時的記録利用の試み―単一症例による15か月の理学療法経験

著者: 池田耕二 ,   玉木彰 ,   中塚奈々 ,   山本秀美 ,   宮﨑昌之

ページ範囲:P.597 - P.602

はじめに

 血液透析(hemodialysis:以下,HD)を受ける高齢患者の身体能力低下は,原疾患や合併症,加齢現象だけでなく,透析や社会生活の変化による心理的負担などからも生じる1,2,3).そのため,HD者の理学療法は長期化することが多く4),その経過の中で徐々に身体能力が低下していくことも少なくない.

 またHD者では,HD後に生じる全身状態の変動1,5)や,心理的原因で一時的に身体能力が変化することもあるため,長期経過の中では身体能力の一時的な状態の比較だけではなく,経時的な変化の中でそれらを評価していく必要性があると考える.しかし,臨床において施行日の身体能力の状態が,どのような意味(身体的・心理的)をもつのかを適切に評価することは容易ではない.

 そこで,症例の観察から身体能力の評価表を作成し,身体能力推移の経時的記録の理学療法評価や介入における有用性を,糖尿病性腎症の高齢HD者1症例の理学療法経験(15か月間)を通して検討したので,考察を加え報告する.

書評

―長澤 弘(編)―「脳卒中・片麻痺理学療法マニュアル」

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.594 - P.594

 「脳卒中・片麻痺理学療法マニュアル」,正にタイトルにふさわしい内容と手法を擁した書籍である.臨床で用いる可能性の高い検査法を具体的に紹介し,多くのフローチャートを用い,また,理学療法を進めていく上で重要なことを箇条書などにまとめたことで,読者を理解へと導いてくれる.

 本書は,第Ⅰ章「脳卒中・片麻痺のとらえ方」,第Ⅱ章「脳卒中・片麻痺の疫学,診断学,内科・外科的治療」,第Ⅲ章「脳卒中・片麻痺の理学療法評価と治療介入」,「付録」によって構成されている.その大半は「脳卒中・片麻痺の理学療法評価と治療介入」に割かれ,その内容は理学療法評価,課題志向的治療介入,長期療養に向けて,という項目でまとめられている.

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文献抄録

ページ範囲:P.604 - P.605

編集後記

著者: 網本和

ページ範囲:P.610 - P.610

 2007年6月にカナダのバンクーバーで開催された世界理学療法連盟学会WCPTでは,約1,700題の学術発表がなされた.本邦での学術集会に比較して,小児関係,脳性麻痺の理学療法に関する報告がかなり多く,この領域への関心の高さを示すものであった.本邦では養成校の急増を背景として,小児領域での臨床実習を経験しないまま卒業し,就職先の臨床場面ではじめて脳性麻痺児を担当することも稀ではない.今号の特集では,そのような場合も考慮して,基本的な概念から実践的アプローチを含んだ「多方面」からの解説をしていただいた.「多方面」のもつ意味は今号の各論文をお読みいただければすぐに了解いただけると思う.

 新田論文では,脳性麻痺の評価とアプローチに関するアップデートな概説が論じられ,機能障害へのアプローチだけでなく,日常生活のスキルに留意すべきであると指摘している.今川論文では,最近注目されている「24時間姿勢ケア」についての基本的理解とその内容についてわかりやすく解説されている.「風に吹かれた股関節」の評価指標としてのGoldsmith指数の紹介など興味深い記述がなされている.大畑・他論文では,脳性麻痺児の筋骨格系の問題点と,それらに対するアプローチが詳細な実践的データに基づいて示され,筋力トレーニングの効果に関する論考がなされている.岩﨑論文では,座位保持に焦点を当て,評価と計測の具体的基準が呈示されている.またこれらの座位保持装置の適用例を症例の呈示によって考察している.堀場論文では,下肢装具の処方と適用に関して論じており,目的に応じた装具の選択が重要であると指摘している.これらの論文は同じ峰をめざして異なったルートで登るように,脳性麻痺を主題としつつ,様々な側面から治療的接近を志向している.それぞれのルートにはそれぞれの特性と限界があることを読者は理解するであろう.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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