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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル41巻8号

2007年08月発行

雑誌目次

特集 病棟理学療法の視点と実践

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.613 - P.613

 医療施設の機能分類は一段と進み,急性期から回復期,そして在宅生活支援へと連続性のある質の高い理学療法が求められ,特にクリティカルパスや早期リハビリテーションの導入によって病棟理学療法のあり方が問われている.病棟理学療法では,急性期の機能障害の評価,治療アプローチのみでなく,看護師ら他職種スタッフとの連携のもとに,病棟内での生活リズムや生活の場の再構築,実践的ADLなどを適切に指導することが重要となる.本特集では,救命救急センターから回復期病棟,介護老人保健施設における病棟理学療法の役割と取り組み,課題などを解説していただいた.

救命救急センター・ICUにおける病棟理学療法

著者: 渡辺敏

ページ範囲:P.615 - P.621

救命救急センターとは

 救命救急とは,入院の必要ない軽症患者を受け入れる「初期救急」,入院や手術が必要な患者を受け入れる「二次救急」,生命の危機が切迫している重篤患者を受け入れる「三次救急」に分類される.例えば骨折でも外固定だけなら「初期救急」処置で外来通院,手術および内固定が必要なら「二次救急」に入院,失血・感染などを伴えば「三次救急」入院といった具合である.したがって「救命救急センター・ICU」とは,原疾患の治療に先行または並行して全身状態の治療をする病棟である.そのことを念頭に置き,本稿では救命救急センター・ICU病棟で実施される病棟理学療法について解説する.全身状態が安定し,原疾患に対する病棟理学療法を展開する頃には,一般病棟へ転棟することが多いため,原疾患に対する病棟理学療法は省略する.

一般病院における骨関節系疾患の病棟理学療法

著者: 齋藤里美 ,   齋藤幸広 ,   濱野俊明 ,   高関じゅん ,   畠中佳代子 ,   加藤理恵 ,   内田賢一

ページ範囲:P.623 - P.630

 骨関節系疾患に対する理学療法は,早期からの関節運動や離床に向けた動作の獲得による安静期間の短縮が推進されている.当院においても,術式の進歩や内固定材の改良に合わせた早期理学療法の取り組みを,クリニカルパスの利用と共に行ってきた1).理学療法の早期化に伴い,術前術後に病棟で実施する理学療法(以下,病棟理学療法)期間の短縮と,リスク管理を含めたリハビリテーション(以下,リハ)室への円滑な移行が求められている.

 一方,早期理学療法に伴う早期退院は,患者側,医療者側の双方にとって利益があるはずである.しかし実際には,患者を取り巻く環境はあまりにも早く進み,ADLの獲得や退院に向けた調整も困難な状況となり,患者にとって必ずしも満足な状態とはいえない.この乖離に対して,リハ室での移動能力の改善と並行して,理学療法士が病棟訪問を行うことが実生活に即したADLの早期獲得に重要な役割を果たす.いわゆる「しているADL」「するADL」あるいはASL(activities of social life)の拡大によるQOLの向上に対するアプローチである2)

一般病院における急性期脳卒中患者の病棟理学療法

著者: 廣澤隆行 ,   鶴見隆正

ページ範囲:P.631 - P.638

はじめに

 近年,脳卒中患者の理学療法は,多くの医療機関で発症・入院後2~3日以内,早ければ発症当日から集中治療室(以下,ICU)で治療と並行して開始されている.

 「脳卒中治療ガイドライン2004」では「廃用症候群を予防し,早期の日常生活動作(ADL)向上と社会復帰を図るために,十分なリスク管理のもとに急性期からの積極的なリハビリテーション(以下,リハ)を行うことが強く勧められる(推奨グレードA).その内容には,早期座位・立位,装具を用いた早期歩行練習,摂食・嚥下練習,セルフケア練習などが含まれる1)」と記述されている.また,脳卒中患者の大半が高齢者であるため,多くのリハの成書2~5)にも,廃用症候群および合併症の予防を目的とした急性期リハが重要であると記述されている.これらのことから,脳卒中患者の急性期理学療法は,廃用症候群の予防に重点をおき,可能な限り早期に開始されることに異論はない.

 本稿では,尾道市公立みつぎ総合病院(以下,当院)における急性期(発症~約1か月)脳卒中患者の病棟理学療法の取り組みについて概説する.

回復期リハビリテーション病棟における病棟理学療法

著者: 辛嶋美佳 ,   佐藤浩二 ,   衛藤宏

ページ範囲:P.639 - P.645

はじめに

 2000年4月の診療報酬の改定により,回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期リハ病棟)が新設された.周知の通り,この病棟の目的は寝たきり予防と家庭復帰である.そしてこの目的達成に向けた手段は,リハの中心を訓練室から病棟に転換し,実用的な日常生活における諸活動の実現に向け看護師をはじめ他職種と協業を図ることである1,2).当院では制度新設の翌月に1病棟60床を開設して以来,この目的達成に向け職員一丸となって取り組んできた.この取り組みの中で,われわれ理学療法士の役割とはなにか,またどう関わることで患者の益となり,さらには関係職種との連携が円滑となるかを考え続けている.

 本稿では,これまでの取り組みを振り返り,回復期リハ病棟における病棟理学療法について考えてみたい.

介護老人保健施設における居室理学療法

著者: 山本貴一

ページ範囲:P.647 - P.653

はじめに

 介護老人保健施設(以下,老健)は,「総合的・包括的ケアサービス施設」,「リハビリテーション施設」,「在宅復帰施設」,「在宅ケア支援施設」,「地域に根ざした施設」の5つの役割・機能を有しており1,2),維持期リハビリテーションを中心とした生活の自立促進と在宅での生活支援の場といえる.しかし,現状では軽度の要介護者であっても在宅での生活は難しく,施設を転々とし,在宅復帰できないことがある2).現在の老健では,事実上,入所期間の制限がないため,入所が長期化していることもその一因であろう.そのような状況ではあるが,われわれ理学療法士が老健での関わりとして生活の自立支援をしていくことには変わりない.

 2003(平成15)年度の介護報酬の改定により,「リハビリテーションは,患者の生活機能の改善等を目的とする理学療法,作業療法,言語聴覚療法等により構成され,いずれも実用的な日常生活における諸活動の自立性の向上を目的として行われるものである(平成12年老企第58号)」3)と規定され,生活機能を実生活(自宅・居室などの)の中で「実用的」に行うことが示された.在宅での生活でも,施設入所での生活でも,生活環境の違いがあっても,その「人」が生活していくことには変わらず,生活機能向上を目指すことの意義は同じである.

 本稿では,老健でのリハビリテーションの実際について述べていく.

とびら

自分に合った「責任」とは?

著者: 酒井さおり

ページ範囲:P.611 - P.611

 先日,新聞やテレビで各国の高校生の意識調査の結果が話題になった.内容は「将来えらい人になりたいか」という質問に対して,「なりたい」と答えた割合が,中国や米国に比べて日本が最も低かったということだ.中国,米国の高校生は「えらくなるとモテる」「裕福になる」など,プラスの考え方だが,日本の場合は「えらくなると責任が重くなる」というマイナスの考え方らしい.ちなみに「えらい」を漢字で書くと「偉い」であり,意味は①優れている,②仕事の上で役目が上・地位が高い,③甚だしい・大変だ,である.今回の場合は②の役職や地位が上という意味であろう.

 つまり,日本の高校生は「偉い人」=「責任者」と捉えているのであり,「自分で責任を取るようなことはしたくない」ということらしい.しかし,元来「責任」とは①自分の任務,②自分の行動から発生した損失や制裁を自分で引き受ける,という意味がある.つまり何かをすれば(当然生活しているだけでも)必然的に「責任」はついてくるものであり,逃れることはできない.まして自分の目標が高くなればなるほど,「責任」も重くなるのである.

ひろば

セラピストに診断学は無用か?

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.658 - P.658

 標記の題名は,小野啓郎氏(大阪リハビリテーション専門学校長,整形外科医,大阪大学名誉教授)が勤務されている専門学校の紀要に掲載予定の小論のテーマである.筆者は小野氏からその小論に対するコメントを求められたので,直接回答したが,ここに小野氏と筆者の見解を述べてみたい.

 小野氏の小論の主旨を筆者なりに解釈すると,理学療法士・作業療法士養成校のカリキュラムのなかに,「評価学」が含まれている.しかし,医学を基盤として,適切な診断と適応(治療介入)のもとに医療サービスを長年提供してきた医師の立場からみると,セラピスト(とくに,学生の臨床実習において)は単に検査・測定によって個々のデータを収集することに終始し,対象者を疲労困憊させているのではないか?たとえば,「障害診断学」としての概念と方法論とを確立し,より適切な障害の診断と治療指針のもとに介入する必要性があるのではないか,と指摘されている.

コツの教育論

著者: 川村浩

ページ範囲:P.662 - P.662

●はじめに

 みなさんは山本周五郎という作家をご存知だろうか.彼は作品『雨上がる』の中で主人公の文武に対する考え方を「石中に火あり.打たずんば出でず.問題はどう出すかである」と述べている.この言葉には物事を会得するときの本質が表れており,筆者は「コツのつかみ方」というように理解している.本稿では教育の基本的理論を「いかに『コツをつかむ』か」という視点で捉え,理学療法学教育における重要性について私見を述べていきたいと思う.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

インソール

著者: 永井聡

ページ範囲:P.659 - P.659

 靴の歴史を紐解くと,紀元前2000年ごろのエジプトでは貴族はサンダルを履き,紀元前1000年には靴を履いていたと言われている.一方,日本では靴の歴史は浅く,弥生時代に農作業用の田下駄が履かれたとされたが,平安時代でも庶民は裸足だったと言われている.足を寒さや地面の凹凸から守り,歩きやすくするために靴は必要とされたが,日本で西洋スタイルの靴の生産体制ができたのは明治3年(1870年)のことである.人類が直立二足歩行を始めた進化の過程の中で,日本人に靴を履く習慣ができたのは,百数十年前のつい最近といえる.そのような中,靴と足の関係は注目されはじめ,近年では整形外科医,義肢装具士がインソール・足底板を用いて足のトラブルに対処するようになった.

 現在インターネットでキーワードを「インソール」として検索すると,約893,000件がヒットし,「足底板」だと28,300件,「足底挿板」では550件が検索結果として表示される.その内容は主に商品の説明や病院,診療施設での治療効果の報告である.インソールという言葉は,商品名として使用されていることが多く,医学・治療的要素と商品の名前が混同して使われている.実際に医学の分野で使用される治療的な意味合いが強い言葉としては,インソールではなく足底板や足底挿板が用いられる.辞書にてインソールを引くと「靴の敷皮,足の汗を吸い取ったり,足裏を刺激して疲れを取ったりすることなどを目的として靴の中に敷く中底」と解説されている.足底板(インソール・shoe insole)のようにインソールと足底板が同義語で用いられている場合も多い.さらに専門書には,足底板の治療目的は,足部アーチの保持のため,また足部変形の予防・矯正,そして免荷のために用いられるとされている.現在の臨床の医学会では,インソール・足底板・足底挿板の明確な使い分け,線引きはなされていない.

学会印象記

―第42回日本理学療法学術大会―リバーサイドから飛躍への挑戦

著者: 古川順光 ,   竹井仁

ページ範囲:P.660 - P.661

 2007年5月24~26日までの3日間,「飛躍への挑戦―アウトカムの検証―」というテーマで,黒川幸雄大会長のもと第42回日本理学療法学術大会が開催されました.近年,科学的な根拠に基づく医療(EBM),すなわち定量的,組織的かつ系統的に治療根拠の提示が求められるようになってきています.しかしわれわれの理学療法分野では,基礎的な研究と臨床研究のデータの蓄積や臨床応用の実践はまだまだ不十分であり,さらに検証を進めていかなければならない,それがさらなる飛躍へとつながっていくのだと,改めて実感させられる学術大会でした.本大会に参加した印象などについて,第44回大会準備委員長の竹井と委員の古川より報告させていただきます.

入門講座 検査測定/評価・2

関節可動域

著者: 阿部敏彦

ページ範囲:P.663 - P.670

はじめに

 関節可動域(range of motion:ROM)については,1995年に日本リハビリテーション医学会評価基準委員会により,「関節可動域表示ならびに測定法」1)が提唱された.その中で,関節可動域測定とその表示で使用する関節運動,名称が定義されており,測定・評価にあたって部位名,運動方向,参考可動域角度,基本軸,移動軸,測定肢位および注意点を十分確認することが大切である.

 本稿では,上記の記述は誌面上省略し,自動および他動的関節可動域,関節可動域を測定する際の留意点,関節可動域評価の記録とその解釈について述べる.

講座 経頭蓋磁気刺激と理学療法・2

経頭蓋磁気刺激(TMS)を用いた運動学習の評価

著者: 菅原憲一

ページ範囲:P.671 - P.678

はじめに

 理学療法は,その多くの場面で何らかの運動が介在して行われる治療体系である.随意的または他動的な運動によって,機能的に低下した運動能力を改善させるものである.したがって,運動(手段)によって運動(目的)を修正または獲得させるものであり,与える運動の質と,結果として表出される運動との相互関係(入力―出力)を客観的に捉えることが必要となる.さらに,入力によって神経系に形成される変容のメカニズムを理解することも,理学療法の効果を検討するためには重要である.運動学習は,一般的に運動の獲得およびその改善が起こる過程である.つまり,運動学習過程に関わる入力―出力関係の変容過程を捉えることが,理学療法の客観性を高めることにつながる.

 運動学習は,その概念が心理学分野から発展してきたこともあって,運動学習を機能的な変容現象として客観的に捉えるようになったのはごく最近のことである.現在までに行われてきた運動心理学的な運動学習の捉え方に依拠して,運動学習に伴う生理学的な機能変容のメカニズムを付与することによって,運動学習の本質的なメカニズムを理解することができると考える.脳の可塑性は学習や記憶の根本的なメカニズムである1).運動学習に深く関わる中枢神経系の可塑性は,神経ネットワーク間の柔軟な結合を意味し,その特性を反映した現象である.これまでに脳の機能地図(cortical topography)の完成を目指して,様々な運動に関わる脳部位の変化に関する知見が,動物実験の結果から集積されている.特に,指の切除術後,神経切断,感覚入力遮断,触覚判別課題のトレーニング後など,感覚領域の機能再現部位には劇的な変化が起こることが知られている2~6).また,運動野に関しても運動学習後に機能的な変化が生じることが示されており7~9),ヒトの運動系にも同様の可塑的変化が起こることが広く認められている.特に,ヒトにおいては,運動野の可塑的変化を捉える有益な指標として,経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation:TMS)を用いた運動誘発電位(motor evoked potential:MEP)が広く用いられている.TMSを用いることにより,運動学習によって生じる変化を数msから数日間後のように様々な時間経過の中で捉えることが可能となる.

 そこで,近年大脳皮質運動野の興奮性を検索する有益な方法として,TMSは神経内科,神経外科,リハビリテーション医学など様々な基礎研究分野で多用されるようになっている.この方法により,運動および運動学習に伴って惹起する生理的な機能的変化,すなわち,大脳皮質運動野に生じる可塑的変化を神経生理学的に検証することができる.本稿では,TMSを理学療法において使用する際に考慮しておくべき点について,特に運動学習または可塑性の評価に関してその知見を総説する.

あんてな

第42回日本理学療法士協会全国学術研修大会in茨城のご案内

著者: 松井弘子

ページ範囲:P.679 - P.684

 2007年10月5日(金)・6日(土),第42回日本理学療法士協会全国学術研修大会が開催されます.会場は茨城県つくば市にあるつくば国際会議場(エポカルつくば)です(図1,2).筑波研究学園都市は,科学技術の振興と高等教育の充実,東京の過密対策の目的で1964年に建設が決定しました.1985年の国際科学博覧会で名を広めることとなり,現在では約2,700haの敷地に46の国の試験研究・教育機関が集まっています.また,周辺開発地域には民間研究機関・企業が進出し,日本を代表する科学技術の拠点として成長しています.

症例報告

一側下腿切断を含む重複障害をもった症例のリハビリテーション

著者: 宮坂由佳理 ,   藤沢美由紀 ,   松田英希 ,   山中崇

ページ範囲:P.687 - P.690

 近年,下肢切断の原因として各種の血管疾患が増加している.さらに,高齢社会の到来とともに多くの合併症をもつ下肢切断例も増えている.高齢下肢切断者の一般的な問題として,切断端を含めた残肢の問題,心肺機能の問題,筋力の問題,疾患による内部障害,中枢神経障害,末梢神経の合併症などがある.そのため義足装着や,歩行練習は難渋することが多く,実用的な歩行に至らないことも多い1)

 今回,筆者らは,閉塞性動脈硬化症(以下,ASO)による一側下腿切断に加え,両大腿骨頸部骨折による人工骨頭置換術,慢性閉塞性肺疾患(COPD)である肺気腫による在宅酸素療法など,重複した障害をもちながら,義肢に特別な工夫を加えることで,ほぼ自立した義足歩行を獲得し,さらに日常生活動作(以下,ADL)能力,精神活動が向上した症例を経験したので報告する.

ニュース

第18回「理学療法ジャーナル賞」授賞式開かれる

ページ範囲:P.691 - P.691

 第18回「理学療法ジャーナル賞」授賞式が去る4月14日,医学書院会議室で開かれました.理学療法ジャーナル賞は,医学書院発行「理学療法ジャーナル」誌に1年間に掲載された投稿論文の中から優秀論文を編集委員会が顕彰し,理学療法士の研究活動を奨励するものです.昨年(2006年)は総投稿数107本のうち16本が掲載となり,受賞論文は下記3論文となりました.

 〔準入賞〕成田寿次・他(東京都板橋ナーシングホームリハビリテーション室)「片麻痺症例の歩行自立の判定に関するfunctional reachの有用性」(第40巻9号掲載)

 〔奨励賞〕西田裕介・他(聖隷クリストファー大学リハビリテーション学部理学療法学専攻)「施設入所高齢者に対する12週間の低強度運動負荷トレーニングプログラムの効果―自律神経活動,運動機能に及ぼす影響」(7号掲載).西村由香(北海道文教大学人間科学部理学療法学科)「自覚的視性垂直位検査装置の開発とその信頼性」(8号掲載)

書評

―光野有次・吉川和徳(著)―「シーティング入門―座位姿勢評価から車いす適合調整まで」

著者: 廣瀬秀行

ページ範囲:P.646 - P.646

 介護予防は車いすを否定している.しかし,現実は車いすを長時間使用する多くの高齢者がおり,褥瘡発生や生活の困難,そして身体拘束など多くの問題が起きている.しっかりと座位姿勢を考えなければならない方がいる.それについての基本的考えとその対応方法について,日本シーティングコンサルタント協会現理事長の吉川氏と車いす姿勢保持協会(現・車いすシーティング協会)前理事長光野氏が執筆した.シーティングの論客がそろったわけである.この本の特徴は要点を明確に記述していることであり,その点ではシーティングを行う際に,そばに置いておくことを推奨する.

 第1部では,高齢者を中心に介護保険制度を念頭に,車いすおよび座位保持装置の評価および選択が解説され,ICFから始まり,介護保険制度の現状とその問題点を指摘している.この中で福祉用具の位置づけを主張し,福祉用具決定過程での現制度に基づいた各専門職の役割を明示している.次に,座位評価から車いす選択や適合評価のプロセスを解説している.特に,車いす使用者スクリーニング用紙はぜひ,ケアマネジャーに使用していただきたいものである.最後に,座位評価の内容を一般情報,変形での考慮点,そしてマット評価について簡潔に解説している.

―奈良 勲・内山 靖(編)―「理学療法のとらえかたPART4―Clinical Reasoning」

著者: 大橋ゆかり

ページ範囲:P.654 - P.654

 『理学療法のとらえかた―Clinical Reasoning』シリーズは2001年に初巻が刊行されて以来,2年おきに“PART2”,“PART3”が刊行され,今回“PART4”の刊行となった.本シリーズは,1巻につき29~30の独立したテーマを取り上げた完全オムニバス形式の本である.“PART4”も同様の形式で書かれており,昼休みに「今日のテーマとしてこの1章」というスタイルでも読み進んでいける.

 本シリーズは副題にもなっている「Clinical Reasoning(臨床的推論)」を触発し,エビデンスの高い治療を提供できる理学療法士を育てようという生涯学習の理念のもとに編集されてきた.これまでに取り上げられたテーマは118章に及び,テーマは巻を重ねるに伴い広く・新しく,あるいは深くなってきている.“PART4”では,終末期医療や臓器移植への理学療法士の関わりといった新しい分野に関するテーマが取り上げられる一方,膝の臨床運動学や腰痛症のメカニズムなどの基本的なテーマが掘り下げられている.その他にも,生活習慣病や介護保険などの今日的なテーマ,バーチャルリアリティやアフォーダンスなどの広範なテーマが理学療法士の視点から論じられる.また,様々な臨床的なテーマと並列に,OSCE(客観的臨床能力試験),PBL(問題解決型学習),シングルケースデザインといった教育・研究領域のテーマが取り上られていることも特徴である.

―鈴木重行(編)―「アクティブIDストレッチング」

著者: 伊藤俊一

ページ範囲:P.656 - P.656

 近年,特に軟部組織に由来する痛みに対して,解剖学・生理学・運動学的理論を根拠とした臨床での治療手技として,実践的ストレッチング法が数多く報告されている.

 このような中で,「IDストレッチング(Individual Muscle Stretching:個別的筋伸張法)」は,従来までのストレッチング法とは一線を画し,神経生理学的知識を基盤として,関節の運動方向だけでなく筋の走行や特徴を理解して筋緊張を緩和するための方法として1999年に初版が発刊された.2005年には,IDストレッチングを用いて関節可動域拡大や疼痛軽減効果をより高めるために不可欠な評価精度を向上させるための方法として「ID触診術」が発刊された.また,2006年にはさらにその科学的根拠を掘り下げた「IDストレッチング第2版」となって,単に軟部組織を伸張すればよいという考えを払拭して医療界のみならずスポーツ界などでも幅広く用いられる秀逸の技術書となった.

―坂井建雄,松村讓兒(監訳)―「プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系」

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.686 - P.686

●臨床解剖学や運動学的解説がちりばめられた系統解剖学書

 『プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系』,まさに理学療法士をはじめとする運動機能に関わる職種のために誕生した解剖学書だと思います.なぜか?それは本書を開いてみればわかります.とにかく開いてみてください.近くに書店がなければ,医学書院のホームページ(http://www.igaku-shoin.co.jp/prometheus/index.html)をご覧ください.とりあえず,イメージは伝わります.

 まず何よりも,図がとてもきれいで見やすいのが特長です.画家の技量もさることながら,コンピュータを駆使した図は,私たちの目を間違いなく引きつけます.また,何層かに分けて三次元的に描画されているため,構造の奥行きを理解することを容易にしています.さすがドイツ生まれの解剖学書,という出来映えです.原書が発刊年に「ドイツの最も美しい本」として認定されたのも頷けます.

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文献抄録

ページ範囲:P.692 - P.693

編集後記

著者: 鶴見隆正

ページ範囲:P.700 - P.700

 編集後記を書いている今夜は,九州から四国にかけて,7月の台風としては過去最大級の台風4号の暴風雨が吹き荒れていますが,甚大な被害が生じないことを願っています.これも地球温暖化の影響なのでしょうか.

 さて,今月号の特集は「病棟理学療法」です.ともすれば病棟理学療法は術直後の短期間のものだとか,体力がないときにやむを得ず行うものだと思いがちですが,その考えは見直すべきです.病棟は,患者の「生命と身体機能」を治療する場,「生活」の場でもあり,理学療法士はこの両方に留意したうえで,地域生活までを視野に入れた一貫性のある理学療法アプローチを行うことが求められています.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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