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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル42巻10号

2008年10月発行

雑誌目次

特集 骨関節疾患の理学療法とバイオメカニクス

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.819 - P.819

 骨関節疾患の理学療法を効果的に実施するには,発症機序や受傷機転をバイオメカニクスの視点で分析し,随伴する関節症状,運動障害との関連性を見極めることが必要である.臨床においてバイオメカニクスを活用することは,疼痛を誘発しない運動パターンの指導,効率的な筋力増強や関節可動域拡大の手技,スムーズな身体運動を再獲得する根拠となるだけに重要である.本号では,臨床現場で担当することの多い骨関節疾患を対象に,バイオメカニクスの視点での治療課題の抽出,運動療法と効果の捉え方に焦点を当てた.

骨関節疾患の理学療法とバイオメカニクス―日常生活動作,応用動作を中心に

著者: 甲田宗嗣 ,   辻下守弘 ,   川村博文 ,   鶴見隆正 ,   新小田幸一 ,   山田直樹

ページ範囲:P.821 - P.827

はじめに

 バイオメカニクスとは,「生体の動きを固体力学,流体力学,熱力学,材料力学の立場から解析する学問分野である」(『人間工学の百科事典』1)より一部抜粋)と定義され,理学療法の分野では固体力学,特に運動学と運動力学により解析されることが多い.バイオメカニクスは解析学であるため,理学療法の臨床に応用するには,種々の知見を理解するための運動学,運動力学の知識と,診療に反映させるための介入スキルが必要になる.

 また,WHO(世界保健機関)の「Bone and Joint Decade2)」運動が提言するように,骨関節疾患はQOLに重大な影響を与え,医療費の増大などの経済的損失,就労や社会参加を妨げるなどの社会的損失を招くことから注目されており,わが国でも「運動器の10年」として取り組みがなされている3).骨関節疾患で多くみられる関節の変形や,それに伴う疼痛,二次的に生じる筋力低下などから生じる活動の阻害は,患者が求める日常生活動作や応用動作の内容に大きく影響される,極めて個別性の高い問題である.したがって,患者が求める動作内容のバイオメカニクスを理解することは,個別性を重視した質の高い理学療法の提供につながると思われる.

 バイオメカニクスの知見を臨床応用するための介入手段は多岐にわたるが,本稿では動作指導という観点から,バイオメカニクスの基本的な理論を提示し,実践するためのポイントを紹介する.

変形性股関節症に対する理学療法とバイオメカニクス

著者: 南角学 ,   神先秀人 ,   西村純 ,   秋山治彦 ,   中村孝志 ,   柿木良介

ページ範囲:P.829 - P.836

はじめに

 臨床場面において,人工股関節置換術(total hip arthroplasty:以下,THA)によって術前の痛みがなくなった患者が次に期待することは,「きれいに歩くこと」や「杖なしで歩くこと」である.しかし,THA術後や変形性股関節症(以下,股OA)の三次元歩行解析を行った多くの報告では,体幹・骨盤による代償運動や立脚期での股関節モーメントの減少など,股関節機能の低下に起因する歩行上の問題点が指摘されている1~4)

 筆者らは,股OAやTHA術後で股関節に問題を抱えた患者に対する治療課題は,局所の股関節機能の改善を基盤として,荷重位で股関節機能を十分に発揮させることにより,歩行を中心とした動作の改善を図ることであると考えている.そのためには,股関節機能のみに限局した評価だけでは不十分であり,全身的な視点から股関節疾患の障害像を捉えた上で,効果的で根拠のある理学療法を展開していくことが重要である.

 本稿では,股OAやTHA術後患者の立位姿勢および歩行動作の問題点,当院でのTHA術後の理学療法プログラムの一部とその有用性についてバイオメカニクスの視点から紹介する.

変形性膝関節症に対する理学療法とバイオメカニクス

著者: 西上智彦 ,   奥埜博之 ,   中尾聡志 ,   芥川知彰 ,   榎勇人

ページ範囲:P.837 - P.846

はじめに

 変形性膝関節症(knee osteoarthritis:以下,膝OA)は,本邦において年間約90万人が新たに発症し,国内の総患者数は1,000万人と推計されている.また,膝OAに対する手術は年間4万件も実施されており,理学療法の対象となる機会が多い疾患である.膝OA発症のリスクファクターとしては,機械的因子,生化学的因子,遺伝的因子などが挙げられている.大森ら1,2)は縦断的研究を行い,膝OAの発症・進行に関わる因子として大腿四頭筋筋力の低下,膝関節内反変形と歩行時のlateral thrust(外側方向への動揺)を挙げている.Prodromosら3)は膝関節内側への荷重が痛みや症状の進行を誘発する重要な因子であるとしている.このように,膝OAの発症・進行を惹起する機械的因子をバイオメカニクスの観点から抽出することは極めて重要である.

 本稿では,バイオメカニクスの視点から治療対象を明らかにし,それに対する病態仮説を立案し,認知神経科学や運動学習のメカニズムについての知見を考慮した理学療法プログラムを紹介する.

肩腱板損傷に対する理学療法とバイオメカニクス

著者: 唐澤達典 ,   畑幸彦

ページ範囲:P.847 - P.852

はじめに

 肩腱板損傷(以下,腱板断裂)に対する治療方法には,保存療法と手術療法があるが,当院では長期的な機能の回復と維持を図る目的で,重症の基礎疾患がある患者や手術を望まない高齢者を除いて,積極的に手術療法が行われている.手術療法にはopen法と鏡視下法があるが,当院では安定した術後成績と術式の簡便さからopen法が選択されている.したがって,本稿では,術後理学療法にポイントを絞って報告し,バイオメカニクスとの関連性についても言及する.

腰痛症に対する理学療法とバイオメカニクス―前屈型腰痛症に対する評価と運動療法

著者: 鈴木貞興 ,   大野範夫 ,   筒井廣明

ページ範囲:P.853 - P.861

はじめに

 本稿に与えられた課題は,非特異的腰痛(腰痛症:構造上の破綻や明確な病態の存在を限定しない)の治療課題や理学療法メカニズム,効果などについて,バイオメカニクスの視点で運動療法の根拠を説明することである.

 腰痛症には,前屈型の他に後屈型,回旋型,混合型など様々なタイプが存在する.体幹前屈運動は,起き上がり,立ち上がり,前方へのリーチなど日常生活動作に多く含まれる運動要素であり,お辞儀位から体幹を再度起き上がらせる際に腰痛を呈するケースをよくみかける.このタイプでは体幹を最大前屈位から引き起こす際の伸展運動にのみ問題があるのではなく,運動初期に体幹を前屈するプロセスにおいて,すでに問題を内在していることが少なくない.そのため,腰痛症に対する理学療法を展開する上で,前屈運動について分析を行い,腰痛発生に関わっているであろう運動機能的な問題を推察することは非常に重要である.

 本稿では,不適切な身体運動のために,機械的ストレスが腰部へ加わることで発生するタイプのうち,特に前屈型腰痛症にフォーカスをあて,立位体幹前屈運動のバイオメカニクス,適切な前屈運動に必要な因子と評価のポイント,運動療法のアウトラインについて述べる.

とびら

今こそ原点に戻って

著者: 酒井桂太

ページ範囲:P.817 - P.817

 様々な分野で規制緩和が進められる中で,そのあり方についての検証が行われつつある.理学療法界においても,規制緩和の影響で,現在では養成人員が年間1万人を超える時代となっている.しかし,その人数に見合う養成体制は整備されているのだろうか.教員の不足,実習指導者の低年齢化,学生の能力レベルの格差拡大など,現実は厳しい状況である.

 近年,臨床実習の際に,実習指導者の先生から叱られた学生が必要以上に落ち込んでしまい,最終的には実習放棄にまで至ってしまうケースが生じているようである.小中高校の教育現場では体罰が問題になった時代から先生方が叱れなくなり,学級崩壊が社会問題化している.加えて,現代の学生たちは「褒めて伸ばす」をテーマに育てられてきている.しかし,これだけが理由であろうか.

学会印象記

―第42回日本作業療法学会―医学発祥の地からの新たな生活の創建・再建へ向けた提言

著者: 井口茂

ページ範囲:P.862 - P.863

 6月20~22日の3日間,梅雨空の下,第42回日本作業療法学会(長尾哲男学会長)が長崎市内の4会場にて開催された.学会参加者の方々は,雨の中,長崎までの道中と会場間のシャトルバスでの移動に苦慮されたことと思うが,歌にも詠われた「雨の長崎」を実感していただき,印象に残ったことと思う.そんな梅雨の季節にもかかわらず,全国より3,500名を超える参加者が集まり,開会式を皮切りに,学会テーマ「生活文化の創造と伝承」に沿って,学会長基調講演,教育講演4題,教育セミナー9題,シンポジウム2題,市民公開講座の講演などとともに,口述発表288演題,ポスター発表537演題の計825演題の会員発表が行われた.私は,今回本学会に初めて参加し,3日間を通して内容的にも新鮮な印象を受けた.特に口述発表は288演題が設定されており,近年の演題数の増加によりポスター発表が主体となりつつある理学療法学術集会においても参考にしたいものである.

 また,2014年の世界作業療法士連盟(WFOT)世界会議招致に向け,WFOT会長Kit Sinclair氏,WFOT副会長Sharon Brintnell氏,2010年開催の第15回WFOT学会長Enrique Henny氏を迎え,「世界の作業療法の今を知る」と題したシンポジウムも開催され,現在の作業療法における世界的動向も垣間みることができた.このような機会を得た学会について,私が傾聴できた学会企画を中心に報告する.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

地域連携パス

著者: 舟見敬成

ページ範囲:P.865 - P.865

 地域連携パスは,患者および利用者に対して,限定された地域で包括的な支援を行うためのツールである.

 現在,急性期病院の縮小化を含め,医療・福祉施設の機能分担化を伴った大幅な医療制度改革が行われている.その機能分担化では,次施設へスムーズに転院や入所が可能であることが必要不可欠となる.そこで問題となるのが,急性期病院で立てた目標を回復期・維持期リハビリテーション施設や在宅でも継続できるのか,連携はうまく取れているのか,などといった患者・家族の不安である.さらに,各施設の不透明性がもたらす医療内容についての情報の不足も,次施設への転院の不安を煽っている.それらの問題を解決し,地域で包括的なリハビリテーションを実施するための統一した連携ツールが「地域連携パス」である.

なぜ学ぶのか・7

生化学―人体の生命現象を分子のレベルで理解する

著者: 井上順雄

ページ範囲:P.866 - P.868

はじめに

 「生化学」はその名称から推測できるように,高校で学んだ生物と化学に深い関係があります.理学療法士を養成するための教育課程において,生化学は解剖学や生理学とともに人体の構造と機能を理解するための専門基礎分野の科目として,その後に続く専門分野の学習を進めるために必要な科目に位置付けられています.

 一般的に医療系および生物系の大学などの学部・学科において,生化学は専門科目を学ぶうえで必須の科目になっています.しかし,これまでの理学療法士養成の教育課程においては,「生化学は抽象的でわかりにくい」,「高校時代に化学が嫌いだった」,さらに,「理学療法士の国家試験の範囲に生化学が含まれていない」などの理由により,生化学はあまり重要視されなかったかもしれません.しかしながら,将来の理学療法においては,生化学的な考え方の重要性が増すと考えています.

入門講座 感染・1【新連載】

理学療法士が知っておくべき感染知識―基礎編―

著者: 高野八百子

ページ範囲:P.869 - P.874

Q1.感染の有無と程度を知るために,カルテ情報のうちどこを読み取ればよいのでしょうか.検査方法と解釈のしかたについて教えてください

A.検査が実施されているのか否か,患者がどのような状態であるのかにかかわらず,スタンダードプリコーションを実施することが重要である.

講座 「認知」の最前線・2

認知リハビリテーションの最前線

著者: 竹田里江 ,   石合純夫

ページ範囲:P.875 - P.880

はじめに

 認知リハビリテーション(以下,認知リハ)とは,脳損傷に起因する認知障害を治療的介入によって回復に導こうとするものである1).認知リハでは,認知障害のタイプや重症度,障害されている機能と残存機能を把握し,介入方法を検討する.この際,患者の呈する認知障害はどのようなメカニズムに基づいて回復または代償できるのか,選択する介入方法は脳内のいかなるメカニズムを援助しようとしているのかについて検討し,神経系の回復メカニズム論や残存機能に基づいた戦略決定・方法選択を行うことが重要である1).さらに,その効果は,検査課題の成績向上と日常生活上の改善という2つのレベルで判定する2).例えば前頭葉損傷患者が,日常生活において自発性の欠如,計画性のなさ,衝動的行動などを呈していた場合,この障害の背景にある機能障害(例えば遂行機能障害,注意障害など)を精査し介入することで,機能障害の改善のみならず,日常生活上の問題を軽減することを目的とする(図).

 認知リハの対象は,失語・失行・失認といった古典的高次脳機能障害に加え,注意障害,記憶障害,遂行機能障害,視空間障害,情動機能障害,社会的行動障害などへ適応の幅を広げている3,4).これらの障害は,脳血管障害に併発することも少なくなく,認知リハの観点から援助方法を学ぶことは,理学療法の円滑な進行と効果の向上に寄与する可能性が高いと考えられる.

全国勉強会紹介

金沢西臨床研究会

著者: 小川鶯修

ページ範囲:P.884 - P.884

活動について
①目的

 理学療法士養成校の急増に伴い,新卒者の割合が増加しているなかで,卒後教育を充実させ,若い力を盛り上げることで,業界全体を活性化させることを目的としています.

報告

環境の差異による姿勢動揺の変化―地域在住高齢者における検討,および転倒との関係

著者: 山田実 ,   上原稔章

ページ範囲:P.885 - P.891

要旨:本研究では,環境の差異によって姿勢動揺が変化するのか,さらに,この姿勢動揺の変化が転倒とどのような関係にあるのかを検討した.対象は要支援から要介護2までの虚弱高齢者40名であった.加速度計を用いて,支持物のない立位と平行棒内(ただし触れない)との2条件で姿勢動揺を測定した.各条件とも30秒間の計測を行い,得られた加速度信号よりRMSを求め,姿勢動揺の指標とした.平行棒内のRMSから支持物なしのRMSへの変化量(ΔRMS)を求めた.また,それぞれの条件において情動面でどのように感じたのかを,内省報告として聞き取りを行った.測定日より前向きに6か月間の転倒調査を行い,転倒群と非転倒群に分類した.

 測定の結果,支持物なしでは,平行棒内と比較して,有意にRMSが大きくなっていた(p<0.05).内省報告として,支持物なしでは「怖い」,「不安」などネガティブな報告が目立ったのに対し,平行棒内では「安心」,「落ち着く」などポジティブな報告が目立った.転倒群では非転倒群と比較して,支持物なしで有意にRMSが増大していたが,平行棒内では差を認めなかった.ΔRMSは転倒群で有意に大きくなっていた(p<0.05).転倒を予測した判別分析の結果,ΔRMSが1.133%でカットオフ値となり,正答率は72.5%であった.なお,ROC曲線の曲線下面積は0.801であった.物理的な変化がなく,環境の変化に伴う姿勢動揺の変化が転倒に関与していたことは非常に興味深く,今後の転倒予防に重要な情報である.

症例報告

遠位上腕二頭筋腱断裂術後の早期理学療法の経験

著者: 岡徹 ,   黒木裕士 ,   古川泰三 ,   水野泰行

ページ範囲:P.895 - P.898

要旨:遠位上腕二頭筋腱断裂は比較的まれな疾患であるため,これまでに術後の理学療法についての詳細な報告はない.本症例は手術による固定が良好であったので,早期より理学療法を開始した.その結果,術後12週で肘屈曲筋力は健側比100%まで回復し,スポーツ復帰が可能となった.遠位上腕二頭筋腱断裂術後の理学療法は,手術での固定性などに注意して早期より開始することで,機能回復を促すことができると考える.

あんてな

第43回日本理学療法士協会全国学術研修大会in北海道のご案内

著者: 信太雅洋

ページ範囲:P.899 - P.903

行ってみよう 北海道!

 北海道は,世界自然遺産の知床(2005年7月17日付登録,日本で3番目)をはじめ,豊かな自然環境に恵まれた景勝地を数多く有しています.また,自然とともに生きるアイヌ文化をはじめ,地域それぞれの風土や歴史が育んだ様々な文化が存在し,地域それぞれが多様な個性を輝かせています.海の幸,山の幸も豊富で,毎年多くの観光客が道内各地を訪れています.

 また,観光資源に頼るだけではなく,食料自給率200%,全面積の7割を森林が占めるこの北の大地は,無限大の底力と可能性を秘めています.近年では,こうした本道の潜在力を活かし,道州制特区構想の実現に向けて,経済構造改革の推進,地域主権の確立などに取り組み,未来に向けて夢のある北海道づくりを進めています.

読者の声

「座談会 理学療法士によるヘルスプロモーションの実践」を読んで

著者: 小林右介

ページ範囲:P.906 - P.907

ヘルスプロモーションの実践は喫緊の課題である

 「座談会 理学療法士によるヘルスプロモーションの実践」(42巻7月号掲載)を非常に興味深く読みました.まさに,私にとって「これだ!!」と思える内容で,何度も読み返しています.われわれ理学療法士は障害に対するプロフェッションでありますが,障害予防に対してもプロフェッションであると思います.それは,人の身体を解剖学や運動学,生理学といった観点から個々に適切な評価と治療ができる唯一の職種だからです.しかし,「特定健診」への参入が当初は認められておらず,他職種に後れを取った感があります.これまで,われわれ理学療法士は,その専門性を社会に理解してもらうための努力をどれだけしてきたでしょうか.養成校の急増と年間の輩出人口の増加に伴い,社会における理学療法士という職業の正しい認識と,職域の拡大は必須です.また,わが国においては,2025年には高齢者人口がピークを迎え,ほぼ同時期に労働人口が現在と比べて1千万人以上も減少すると予測されています.労働人口のマンパワーが不足していく中では,ワンパワーの維持(労働障害の予防)が重要になってきます.これは協会を挙げて早急に進める必要がある事項だと確信しています.

書評

―嶋田智明・大峯三郎(編)―「実践MOOK・理学療法プラクティス これだけは知っておきたい腰痛の病態とその理学療法アプローチ」

著者: 百瀬公人

ページ範囲:P.882 - P.882

 臨床実習中の学生が混乱した場面について聞く中で教育現場と臨床現場の違いを感じることがよくあります.日本の多くの教育施設では,解剖学や生理学などの基礎医学を学んだ後に,運動学や理学療法評価学などの理学療法の基礎を学びます.それと前後して臨床医学を学び,最後に理学療法の治療を学びます.このようにして基礎から臨床までをすべて学んでから,学生は臨床実習へと向かいます.しかし,多くの学生は学校で学んだ知識の相互関係が把握できず,臨床の具体的問題の壁にぶつかる経験をします.

 このような,学生がつまずきやすい臨床の具体的問題を中心に教育を行う方法があります.マクマスター大学でのproblem-based learningをご存知の方は多いでしょう.問題に基づいた学習を,小グループ学習を通して行い,グループごとに方向づけをするためのチューターとともに学生が主体的に学習するという学習方法です.このような教育方法も有効ですが,カリキュラム全体の編成を考えなければならず,現実的には困難であると思っている教育関係者は多いと思います.

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文献抄録

ページ範囲:P.904 - P.905

編集後記

著者: 鶴見隆正

ページ範囲:P.910 - P.910

 編集後記を書いている今日,史上最多の145の国・地域の参加を得た障害者スポーツの祭典「第13回北京パラリンピック」の開会式が盛大に挙行されています.明日からはじまる競技報道に多くの方が注目することでしょうが,私自身も今大会には特段の思い入れがあります.というのも,15年前に交通事故で脊髄損傷となり,急性期理学療法から高校への復学交渉,その後の就労支援にも関わった方から手紙をいただいたからです.そのなかには,車いすバスケットの選手に選抜され,その壮行会での自信に満ちた笑顔の新聞記事と共に,受傷後悩み迷っていた頃に支え励ましてくれたおかげで,このような機会を得ることができたという旨のことが記されていました.理学療法士は人の人生にも大きく関わる職業だと実感し,それだけに患者本位の理学療法を日々実践することの大切さを再認識した次第です.

 わが国における障害者スポーツへの関心の高まりは,義足や用具の開発,進歩を促し,アスリートとしての活躍の場を確保しつつありますが,真の意味でのスポーツとなるためには,組織的,財政的な支援の確保とノーマライゼーションのさらなる浸透が必要だと思います.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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