icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル42巻12号

2008年12月発行

雑誌目次

特集 ニューロリハビリテーションと理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.1003 - P.1003

 近年ニューロイメージングの方法論的発展によって,脳を中心とした神経機能回復が注目され,ニューロリハビリテーションという領域を形成しつつある.障害された神経系の可塑性に理学療法がどのように関わることができるかは,エビデンスを求められる昨今の状況において大変重要なことである.そこで本特集では,ニューロリハビリテーションの展望と課題,理学療法との関連,臨床応用のトピックスなどに焦点をあてて論及していただいた.

ニューロリハビリテーションの現状と課題

著者: 渡邉修 ,   来間弘展 ,   松田雅弘 ,   村上仁之 ,   渡邊塁 ,   妹尾淳史

ページ範囲:P.1005 - P.1015

はじめに

 脳の病態を視覚的に捉えようとするニューロイメージングの技術は,1973年のHounsfield1)によるX線CT(computed tomography)の開発から本格的に始まった.1980年代には,15O標識水とポジトロン放射断層撮影法(positron emission tomography:以下,PET)を用いた脳血流量測定法が確立した.一方,1973年にLauterbur2)が核磁気共鳴現象による物体の空間的構造の2次元画像化に成功したことでMRI(magnetic resonance imaging)の基礎が確立し,その後,機能的MRI(functional-MRI:以下,fMRI)による臨床報告が初めて行われたのは1991年であった3).さらに,1993年以降,近赤外線による生体の酸素化状態の計測原理によって,脳の活動状態をも捉える機能的近赤外分光法(functional near-infrared spectroscopy:以下,fNIRS)を用いた報告が相次いでみられるようになった4).以後,ニューロイメージング技術の発展とともに,中枢の神経機構,病態,診断,治療効果,神経の可塑性などに関する膨大な臨床報告がなされ,特にこの10年の知見によって,脳科学の機能解剖学的な基盤は飛躍的に進歩している.

 本稿では,ニューロイメージングを理解する際に必要な脳循環代謝の知識について簡単に整理し,現在までに理学療法学の分野で広く応用されているPET,fMRI,fNIRSの原理および特徴に触れ,最後に,fMRI,fNIRSを用いた自験例および先行研究を紹介する.

ニューロリハビリテーションと理学療法

1.運動以外の治療的介入による脳の可塑性と今後の可能性

著者: 金子文成

ページ範囲:P.1017 - P.1025

はじめに

 脳卒中後の運動機能回復には,ニューロンの回復あるいは近隣領域が損傷した領域の機能を再獲得する再組織化が関係していると考えられている1,2).このような運動機能回復の背景にある脳の可塑的変化をどのように引き出すかという試みは,運動以外にも様々な介入手段によって行われている.本稿では,今後脳卒中症例に対して,「Neuroscience-based Rehabilitation」として臨床応用していく手段を考える資料とするため,経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation:以下,TMS)や電気刺激などの神経生理学的研究で用いられる手法を治療に適用した研究を紹介する.さらに,健康な被験者で脳の可塑的変化が認められ,今後治療的介入手段となっていくことが期待される方法に関する研究を紹介する.

2.脳卒中患者の歩行障害に対するアプローチを中心に

著者: 斉藤秀之 ,   高尾敏文 ,   田中直樹 ,   矢野博明 ,   小関迪

ページ範囲:P.1027 - P.1034

はじめに

 1987年に理学療法士となった筆者は,新規開院する脳神経外科を中心とした105床の民間病院にリハビリテーション部門の開設者として新卒で就職し(一人職場),今日までの21年間,脳卒中,高齢患者を主な対象に理学療法を行ってきた.母校である金沢大学医療技術短期大学での講義において,「神経症候学」1),ブルンストロームによる「片麻痺の運動療法」2)を基に脳卒中の病態と障害および理学療法の因果について説かれた奈良 勲先生(現・神戸学院大学)の教えが,脳卒中の理学療法に対する筆者の思想の原点の1つとなっている.その後,筆者は1995年に脳の病態・可塑性に関する臨床研究を発表した3).2000年には,頭部が動いている状態でも脳活動を捉えうる近赤外分光法を用いたスペクトロスコピー(near-infrared spectroscopy:以下,NIRS)によって,脳卒中後片麻痺患者のリハビリテーションで用いる様々な手技が脳内血液循環動態に与える影響について世界で最初に報告し4,5),さらに研究を発展させる機会を今日得ている6,7).このようにニューロリハビリテーションの観点は,筆者の今日までの臨床活動において中核をなしている.

 広井8)は,医療は長い間,まったくの推量と,最も粗野な経験主義によって行われており,今までの医療行為は,科学的基盤も弱く,「標準化」や「客観的評価」にはなじまない,個々の医師の属人的な技能・技芸によるものとみなされ,あたかも伝統工芸品のごとくであると述べている.そして,これからは少しでも客観的・科学的な基盤に立脚するものとして,それを通じて患者の利益を図っていかなければならず,近代的工業製品化しなければならないと提言している8).これは,リハビリテーション,理学療法においても同様であり,宮井9)は,従来のリハビリテーションは,経験則を神経生理学的知見に当てはめるのみで,臨床と基礎医学に距離があったが,近年は神経科学的な知見からリハビリテーションの方法論を考えるという逆の潮流が現実になりつつあると述べている.すなわち,機能的再編成に代表される脳の仕組みに着目して,人の機能回復を促進しようとする考え方・立場であり,従来のリハビリテーションに神経という意味の「ニューロ」をつけて「ニューロリハビリテーション(神経リハビリテーション)」と呼ばれている.これらは神経可塑性の原理に基づいており,今後10年の間に理学療法士は今までのように単に経験のみに頼った治療から,脳の可塑性の原理に裏付けられた新しい治療体系への発展が求められる10)

 本稿では,脳卒中の歩行障害に対する治療的アプローチについて,ニューロリハビリテーションに至るまでの流れを概観し,筆者らが取り組んでいるニューロリハビリテーションを基盤とした新しい歩行リハビリテーション技術の成果と現状について概説する.

3.上肢機能へのアプローチ

著者: 森岡周

ページ範囲:P.1035 - P.1041

はじめに

 上肢の運動は,手を対象(object)に到達させ,それを操作するという行為をつくりだす.人類の祖先であるホモ・エレクトスは「直立するヒト」,ホモ・サピエンスは「考えるヒト」を意味するが,猿人と原人の中間に位置するホモ・ハビリス(Homo habilis)は「器用なヒト」を意味し,手を使って石器(道具)をつくり,それを用いて生活を営んでいたという記述がある.ハビリスとは人間にふさわしいという意味でも用いられ,それは適応,有能,役立つ,生きるなどの意味も包含し,リハビリテーション(Re-habilitation)の語源となっている.すなわち,手の運動によって道具を操作するという行為そのものが,人間らしさをつくるものであり,リハビリテーションとは再び(Re)その状態(手で道具を操作する)へ回復(本来あるべき姿への回復)することを指すことになる.ホモ・ハビリスの当時の脳骨格モデルから,道具の使用に伴い脳の容積が増え,前頭部に膨らみが生じていることが確認されている.このように,人類の祖先は環境に適応するために手を使い,道具を創造し,そしてそれを操作しながら,身体運動の巧緻性を「脳―身体―環境」の相互作用の視点から磨いてきた.

 手の運動に関連する神経活動は,古くから研究の対象になってきた.なぜなら,手の運動は意図に基づいたものであるからである.本稿では,サルを対象にした神経生理学的手法を用いた研究から明らかになった手の運動制御と学習に関連する科学的根拠と,近年のヒトを対象にした脳イメージング研究で明らかになった上肢の機能回復に関連する研究成果の両者から,手の運動制御とその学習機構について神経科学的観点から述べるとともに,それらの科学を利用したニューロリハビリテーションについて考えてみたい.

4.理学療法領域における神経画像情報の活用

著者: 阿部浩明 ,   近藤健男 ,   出江紳一

ページ範囲:P.1043 - P.1051

はじめに

 われわれ理学療法士は,中枢神経疾患による機能低下や能力障害を呈した症例に対し,日常的に理学療法を施行している.しかし,これまで,その理学療法介入によって生じる変化について議論する際,脳の損傷に起因する障害に対してアプローチしているのにもかかわらず,脳をブラックボックスとして捉えることが多く,脳内での変化に言及することは少なかった感がある.近年,各種神経画像技術の発展により,脳の可塑性や神経ネットワークの再構築が起こりえることを視覚的に捉えることが可能になり1),理学療法士が各種神経画像情報を入手できる施設も増え,日本理学療法学術大会においてもそれらを活用した発表が散見されるようになった.理学療法士がよく目にする神経画像としては,magnetic resonance imaging(以下,MRI),computed tomography(以下,CT)をはじめとして,脳血流シンチグラフィであるsingle photon emission computed tomography(以下,SPECT),あるいは脳神経外科術前評価として使用されることが多い拡散テンソル撮像法(diffusion tensor imaging:以下,DTI)やmagnetoencephalography(以下,MEG)などが挙げられる.MRIやCTなどの神経画像をみる時,最も注目すべきポイントの1つに「どの程度の麻痺を呈していて,回復がどの程度望めるか」という点がある.なかでも,皮質脊髄路は解剖学的に走行が明確であり,多くの理学療法士が運動機能を把握するために着目する部位である.

 一方で,現状では神経画像によってすべての運動機能障害を説明できるとは限らず,実際に画像からは解釈できない現象も存在する.しかし,それぞれの特性や限界を理解して活用することで,理学療法上有効な情報を得ることができるのではないだろうか.本稿では,MRI,CT,DTI,MEG,SPECT画像の理学療法領域での活用について,自験例を交えて概説する.

とびら

理学療法評価とEBM

著者: 星文彦

ページ範囲:P.1001 - P.1001

 診療報酬制度が改定されるたびに,根拠に基づいた医療(EBM),根拠に基づいた理学療法(EBPT)の提示を求める声が強まっている.しかしながら,いくつかのsystematic reviewを読むと,理学療法の「根拠」を示すことの難しさを痛感する.

 理学療法がチームで行うリハビリテーション医療の一員である現状において,自然科学の論法で理学療法効果の証拠を示せるかは疑問である.特に,脳卒中のような慢性神経疾患の理学療法効果について,自然科学の論法で証拠を示すことは非常に難しい.自然科学の論法には,記述レベルの同一性と因果律が求められる.記述レベルでは,「素粒子→原子→…→有機体→社会→宇宙」という階層構造が想定される.それぞれのレベルでの事象は,そのレベルにおける単位や法則により論理付けられる.因果律とは,一切のものには原因があり,原因なしには何も起こらないという原理であるが,「真の原因」をつきとめることは時に困難である.記述レベルという構成概念に障害構造を,因果律を治療と評価に当てはめると,理学療法効果を示すことの難しさをイメージしやすい.

全国勉強会紹介

PTB(=PTバカ)

著者: 福島努

ページ範囲:P.1052 - P.1052

活動について
①目的

 講師を招いて知識,技術をインプットすることを中心に運営するのではなく,自分たちが主体となってアウトプットしていくことで,より臨床や自分達の問題点を広くディスカッションし,自主的に研鑽していける場を目指しています.
(2)勉強・研修内容

 関東在住の学生や1~7年目の理学療法士が中心となって,各自が演題を持ち寄り,発表,ディスカッションを行っています.2~3か月に1度のペースでこれまでに10回の勉強会を開き,1度に60~80名ほどの参加者が集まっています.みんな理学療法が大好きで,それ以上に患者さんをよくしたい,結果を出していきたい,最前線で活躍されている先輩たちのようになりたいという気持ち(PTバカ=勉強会名の由来)を胸に,毎回熱く議論しています.

短報

超高齢入院患者のリハビリテーション効果―FIMを用いた年齢区分別の比較

著者: 根本厚志 ,   内山真由美 ,   構直子 ,   渥美磨子 ,   小泉麻子 ,   菊池友宏 ,   金原彰子 ,   石川彰子 ,   鳥羽南海子 ,   角田里紗

ページ範囲:P.1053 - P.1055

要旨:入院患者を対象として,超高齢者(85歳以上)と前・後期高齢者(65~84歳)のリハビリテーション効果について,FIMを用いて比較・検討を行った.超高齢者のFIMの改善は,前・後期高齢者に比べ有意に小さい結果となった.年齢とFIMの改善は全体的には弱い負の相関を示したが,90歳を超えると負の相関が強まる傾向がみられた.超高齢者では,前・後期高齢者に比べFIMが低下した者の割合が高かったが,その多くは全身状態や精神状態の悪化によりリハビリテーション中止を余儀なくされた者であった.超高齢者ではFIMが大幅に改善した者の割合は低かったが,それでも約25%に前・後期高齢者の平均を超える改善がみられており,超高齢者のリハビリテーション効果は個人差が大きいことが示された.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

ボルグスケール

著者: 佐竹將宏

ページ範囲:P.1057 - P.1057

 Borg scaleは,Gunnar Borgが開発した,運動強度や痛み,息切れの強さなどを主観的に評価するための数量化されたスケールである.1970年に発表されたBorg RPEscaleは,自身の運動中の感覚を主観的に評価できるように開発され,性別,年齢,生活環境などに関係なく使用できる.1981年にはカテゴリー比スケール(Borg CR10 scale)を発表した.いずれも何度か改訂されており,本稿では最終版を提示する.

PTワールドワイド

海外学会紹介―IFOMT2008

著者: 内山靖 ,   亀尾徹

ページ範囲:P.1058 - P.1060

IFOMTの概要と今学会のトピックス

名古屋大学医学部保健学科

内山 靖

1.IFOMTとは

 International Federation of Orthopaedic Manipulative Therapists(以下,IFOMT)は1974年に設立され,1978年から世界理学療法連盟(World Confederation for Physical Therapy:WCPT)のサブグループとして承認されている.各協会から推薦された整形徒手療法に関する20以上の理学療法士団体から組織されており,神経―筋・骨格系障害に対する研究と教育を実践している.この領域の教育・臨床における標準化を1つの目標に掲げて活動を続け,エビデンスに基づく対象者(患者)へのマネジメントの改善を目指している.学術大会は4年に1度行われている.

入門講座 感染・3

理学療法士が知っておくべき感染知識―応用・復習編―

著者: 吉田耕一郎 ,   小司久志 ,   二木芳人

ページ範囲:P.1061 - P.1066

Q1.原因微生物,感染経路・感染源とは?

A.リハビリテーション(以下,リハビリ)の臨床現場で感染症の原因となりやすいものには,院内感染症,および市中感染症の主要な原因微生物の多くが含まれる.なかでも重要な微生物としては,MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌),耐性緑膿菌,結核,ノロウイルス,インフルエンザウイルスなどが挙げられる.感染経路には空気(飛沫核)感染,飛沫感染,接触感染の3経路がある.空気感染では,飛沫核となった微生物が空気中を浮遊して遠くまで漂い伝染を来す.飛沫感染では,原因微生物を含んだ水分粒子が大きく,落下速度が速いため,通常1m以上には飛散しないとされる(図1).接触感染では,原因微生物が飛散することはないが,患者や患者の排泄物,衣類,医療機器,病室環境などが感染源となり,感染症を伝播する.

講座 「認知」の最前線・4

認知障害に対する作業療法の最前線

著者: 能登真一

ページ範囲:P.1067 - P.1071

はじめに

 認知障害(cognitive dysfunction)という用語は,最近,特に頻繁に使用されるようになってきた.しかしながらこの用語については,それが示す範疇や,高次脳機能障害との違いなどという点で,解釈に依然として混乱が残っている.岩田1)は,日本語における認知という用語と英語におけるcognitionという用語にニュアンスの違いがあることを挙げながらも,日本で高次脳機能障害としているものは英語圏ではcognitive dysfunctionという用語であると述べている.つまり,認知障害と高次脳機能障害は同義語であり,その範疇も同じであると説明している.

 作業療法は,作業活動を用いて対象者の日常生活活動(ADL)能力を改善し,社会的自立と参加を促す治療技術である.認知障害を有する対象者にもこれまでに様々な試みがなされてきたが,残念ながら質の高いエビデンスの発見や系統的なアプローチ方法の構築には至っていない.本講座の第1回で,辻下2)は,認知障害に対するリハビリテーションを直接的治療介入(賦活・刺激化),代償的治療介入,補塡的治療介入(補助手段・環境調整),行動的治療介入の4つに分類しているが,作業療法でもこれらを組み合わせて用いている.特に治療手段としてわれわれが得意とすることは,活動を通して評価を行ったり,介入を行ったりすることである3).しかもここでいう活動とは,ADLのほか,社会生活を営むうえでの様々な手段的な活動(IADL)までをも含むことにその特徴がある.

 本稿では,今回取り上げるべき認知障害の症状を広く高次脳機能障害全般としたうえで,それらに対する作業療法のトピックを概観する.なお,認知障害に対する介入研究は作業療法分野だけで行われているものではない.特に近年は,理学療法士などによるアプローチも増えている4,5)

学会印象記

―第45回日本リハビリテーション医学会学術集会―リハビリテーション医学の進歩と臨床動向を学ぶために

著者: 伊藤健一

ページ範囲:P.1072 - P.1073

はじめに

 2008年6月4~6日の会期で,第45回日本リハビリテーション医学会学術集会が横浜で開催された.会場は,1999年に第13回世界理学療法連盟学会(WCPT)が開催されたパシフィコ横浜である.会場を目の前にした筆者は,WCPT開催当時,慣れない英語でのポスター作成や英会話に四苦八苦しながら学会発表に臨んだことを懐かしく思い出した.今回,筆者が本学術集会に参加した目的は2つあった.1つは理学療法に必要不可欠なリハビリテーション医学がどこまで進歩しているのか,その現状を知ること,もう1つはチーム医療においてリーダーとなる医師が何を考えて医療を展開しているのか,近年の臨床動向を学ぶことであった.特に今回は筆者の専門である内部障害系のシンポジウムと教育講演,演題発表を中心に参加し,この分野のリハビリテーション医学の現状や動向,トピックスなどを学んだ.

なぜ学ぶのか・8

哲学―理学療法の現場は哲学である

著者: 永冨史子

ページ範囲:P.1074 - P.1076

 「哲学は人生にとって最も重要な究極のテーマを考究する学問であるとともに,事象を理性的に判断・理解する思索である(理学療法学事典1)より抜粋)」.

 哲学とは,「思索する学問」だといわれています.私は哲学を専門的に学んだことのない,臨床どっぷりの理学療法士です.しかし,あえてわかった風にまず一言書くと,「哲学」は文系暗記もの・1人で悩むもの,「理学療法学」は技術系ハウツーものと考えている学生・読者は考えを改めましょう.

臨床実習サブノート 知っておきたい理学療法評価のポイント・6

慢性呼吸器疾患患者を担当した時

著者: 内田賢一

ページ範囲:P.1077 - P.1082

はじめに

 「え?呼吸器疾患の患者を評価するんですか?」

 脳卒中片麻痺,大腿骨頸部骨折,変形性関節症など,中枢神経疾患や骨関節疾患の患者を担当するものと思い込んでいた臨床実習の現場において,呼吸器疾患の患者を担当するように指示された際の学生の心中を想像することは難しくない.

 慢性呼吸器疾患の患者では,疾患そのものは目に見えにくいが,呼吸困難により長期間にわたって活動性が低下したことによる,いわゆる廃用症候群が主な症状となっている.そのことに気がつけば,理学療法士にとって必要な評価のポイントは自ずと見えてくると思われる.

 そこで,本稿では,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:以下,COPD)の患者を例にとり,慢性呼吸器疾患患者を担当した際の理学療法評価のポイントと着眼点について,私見を交えて述べてみたい.

書評

―山口晴保(著)―「認知症予防―読めば納得!脳を守るライフスタイルの秘訣」

著者: 平山隆喜

ページ範囲:P.1026 - P.1026

 在宅では,楽しく生き生きとした生活ができ,病気にさせない関わりが求められる.病気(入院・入所)になれば,家に居られなくなるからである.筆者が在宅ケア(訪問リハビリ)に関わってから20年近くが経過しているが,ようやく,生活という視点で書かれた専門書に出会えた.

 認知症は,これまで治療法がない病気といわれ,場当たり的な対応に終始することが少なくなかった.本書は,最新の研究や実験データに基づき,認知症の原因は脳の老化であり,脳の老化のスピードを遅くすることで認知症予防が可能であることを明らかにした.また,「生活の一工夫」や「脳活性化リハビリテーション」の項では,在宅ケアの基本となる生活を検証し,重要な項目(食事・運動・睡眠など)を1つひとつエビデンス(科学的根拠)とともに解説してあり,認知症の予防法とケアの方法が学べる.科学的介護書といえる1冊である.

―石川悠加(編)―「NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)のすべて―これからの人工呼吸」

著者: 千住秀明

ページ範囲:P.1056 - P.1056

 本書のタイトルは,「NPPVのすべて―これからの人工呼吸」である.そして,これからの医療従事者を対象とした医学書のあるべき方向性を示した書でもある.私も数多くのNPPVテキストと接してきたが,これほど明快にNPPVを解説した書に出会ったことはない.すべての章が,看護師,理学療法士,臨床工学士の目線で丁寧に解説されている.

 本テキストは,Ⅰ~Ⅴ章で構成され,Ⅰ章ではNPPVが今なぜ必要なのか,その基礎知識を解説し,初めて人工呼吸に取り組む若い医療関係者でも容易に理解できるよう,難解な人工呼吸の構造やモードなどを丁寧に解説している.

--------------------

文献抄録

ページ範囲:P.1084 - P.1085

編集後記

著者: 網本和

ページ範囲:P.1088 - P.1088

 著名な神経学者であるRizzolattiらの近著「Mirrors in the Brain」の序文に,興味深い一節がある.少し長いが和訳して引用すると「……劇場監督のPeter Brookはミラーニューロンの発見について,『神経科学はついに,劇場での常識-俳優の努力は文化的・言語的障壁を乗り越えてその身体の動きを観客に分かつこと(share)ができなければ,むなしいものになるということ-を理解しようとし始めた』と述べた.ミラーニューロンに関するBrookの言葉は,神経生理学以外の領域でその予想外の価値に対する多くの興味をかきたてた.芸術家をはじめ多くの者たちがミラーニューロンの虜となったが,その発見と実験的研究に関する物語についてはわずかな者が知るに過ぎない.ましてこの発見が,いかにわれわれが脳の構造と機能について理解するよすがとなるかについて,知る者は少ないのである.……」この一文の示そうとするところは,最近のニューロリハビリテーションへの関心の高まりと,さらに連続する新しい謎の深まりである.脳機能に関わる診断技術の飛躍的進歩は,神経学領域を超えてリハビリテーションへと研究の軸足を移しつつあるように見える.今号はその意味では,誠に時宜を得たものであるといってよいのではないだろうか.

 本特集「ニューロリハビリテーションと理学療法」では,第一線で活躍されている5名の執筆者にそれぞれの立場から解説をお願いした.渡邉論文では,脳画像診断の基礎から臨床応用について解説し,その適応と限界について,例えばfMRIでは運動が制限されること,fNIRSでは空間分解能が低いことなどが指摘され,研究目的に合わせた使い分けが必要であることが述べられている.金子論文では,「運動以外の介入」の中からTMS,tDCS,自己運動錯覚の応用について基礎的生理学的研究から論じている.斉藤論文では,脳卒中患者の歩行に焦点を当て,これまでの浩瀚な研究史を基に,BWSTTとロコモーションインターフェースを用いた歩行練習の成果について紹介している.森岡論文では上肢・手指の機能回復に関して知覚運動学習モデルを提示し,ミラーニューロンシステムについても論じている.阿部論文では神経画像情報の具体的な臨床例への応用が,pusher例,thalamic astasia例など実際の症例を提示しつつ述べられている.これらの論文はいずれも多くの情報が盛り込まれており,読み応えのあるものとなっている.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?