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文献概要
講座 「認知」の最前線・4
認知障害に対する作業療法の最前線
著者: 能登真一1
所属機関: 1新潟医療福祉大学医療技術学部作業療法学科
ページ範囲:P.1067 - P.1071
文献購入ページに移動はじめに
認知障害(cognitive dysfunction)という用語は,最近,特に頻繁に使用されるようになってきた.しかしながらこの用語については,それが示す範疇や,高次脳機能障害との違いなどという点で,解釈に依然として混乱が残っている.岩田1)は,日本語における認知という用語と英語におけるcognitionという用語にニュアンスの違いがあることを挙げながらも,日本で高次脳機能障害としているものは英語圏ではcognitive dysfunctionという用語であると述べている.つまり,認知障害と高次脳機能障害は同義語であり,その範疇も同じであると説明している.
作業療法は,作業活動を用いて対象者の日常生活活動(ADL)能力を改善し,社会的自立と参加を促す治療技術である.認知障害を有する対象者にもこれまでに様々な試みがなされてきたが,残念ながら質の高いエビデンスの発見や系統的なアプローチ方法の構築には至っていない.本講座の第1回で,辻下2)は,認知障害に対するリハビリテーションを直接的治療介入(賦活・刺激化),代償的治療介入,補塡的治療介入(補助手段・環境調整),行動的治療介入の4つに分類しているが,作業療法でもこれらを組み合わせて用いている.特に治療手段としてわれわれが得意とすることは,活動を通して評価を行ったり,介入を行ったりすることである3).しかもここでいう活動とは,ADLのほか,社会生活を営むうえでの様々な手段的な活動(IADL)までをも含むことにその特徴がある.
本稿では,今回取り上げるべき認知障害の症状を広く高次脳機能障害全般としたうえで,それらに対する作業療法のトピックを概観する.なお,認知障害に対する介入研究は作業療法分野だけで行われているものではない.特に近年は,理学療法士などによるアプローチも増えている4,5).
認知障害(cognitive dysfunction)という用語は,最近,特に頻繁に使用されるようになってきた.しかしながらこの用語については,それが示す範疇や,高次脳機能障害との違いなどという点で,解釈に依然として混乱が残っている.岩田1)は,日本語における認知という用語と英語におけるcognitionという用語にニュアンスの違いがあることを挙げながらも,日本で高次脳機能障害としているものは英語圏ではcognitive dysfunctionという用語であると述べている.つまり,認知障害と高次脳機能障害は同義語であり,その範疇も同じであると説明している.
作業療法は,作業活動を用いて対象者の日常生活活動(ADL)能力を改善し,社会的自立と参加を促す治療技術である.認知障害を有する対象者にもこれまでに様々な試みがなされてきたが,残念ながら質の高いエビデンスの発見や系統的なアプローチ方法の構築には至っていない.本講座の第1回で,辻下2)は,認知障害に対するリハビリテーションを直接的治療介入(賦活・刺激化),代償的治療介入,補塡的治療介入(補助手段・環境調整),行動的治療介入の4つに分類しているが,作業療法でもこれらを組み合わせて用いている.特に治療手段としてわれわれが得意とすることは,活動を通して評価を行ったり,介入を行ったりすることである3).しかもここでいう活動とは,ADLのほか,社会生活を営むうえでの様々な手段的な活動(IADL)までをも含むことにその特徴がある.
本稿では,今回取り上げるべき認知障害の症状を広く高次脳機能障害全般としたうえで,それらに対する作業療法のトピックを概観する.なお,認知障害に対する介入研究は作業療法分野だけで行われているものではない.特に近年は,理学療法士などによるアプローチも増えている4,5).
参考文献
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