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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル42巻2号

2008年02月発行

雑誌目次

特集 痛みの病態生理と理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.85 - P.85

 対象者のニーズに沿った理学療法を展開する上で,疾患や病態を問わず痛みの理解は重要な位置を占める.様々な痛みに適切に対応するためには,生理学的な機構を理解したうえで,その評価と介入を個別に進める必要がある.本特集では,痛みの病態生理と理学療法に焦点を当て,感覚と情動としての痛みに理学療法士がどのように対処するかを示した.

「慢性痛症」のメカニズム

著者: 熊澤孝朗

ページ範囲:P.87 - P.94

痛み概念の変革

 「侵害受容器(nociceptor)」という言葉がある.ノーベル賞生理学者のSherringtonが,組織を損傷するに至る(noxious)刺激(つまり,痛み刺激)に応ずる感覚受容器という意味で,もの言わぬ動物で行う痛みの実験において用いることを提唱した言葉である.この語が示す意味は,「痛み」はヒトにおいて言葉で訴える感覚であるということを改めて強調し,さらに,言葉を発しない動物においても,傷害部からの感覚入力に対する「痛み」反応が生理的に存在することを表している.

 身体の傷害,場合によっては一命にも関わるような警告信号は,生物の最も基本的な情報であり,昔から人は痛みについて大きな関心をもち続けている.痛みの研究には長い歴史があり,その歴史は,痛みというものをどう捉えるべきかという根源的な問題について,繰り返し揺れ動いてきたことを示している.

痛み・しびれの病態生理と臨床評価

著者: 植村研一

ページ範囲:P.95 - P.104

はじめに

 患者を最も苦しめる痛み・しびれに適切に対処するには,痛み・しびれの病態生理を理解し,的確な診察・臨床評価によって患者の訴えと病態を理解した上で,機能的脳神経外科手術を含めた適切な治療法とケアを選択することが重要である.本稿では,筆者の40年以上にわたる臨床経験に基づいた痛み・しびれの病態生理と各種の治療法をわかりやすく解説する.さらに詳細な解説は成書1)を参照していただきたい.


●感覚,知覚,認知の定義

 末梢の感覚受容器が刺激された結果として,神経信号が中枢神経内を上行する過程を感覚(sensation)と呼び,それが大脳皮質の一次感覚領野に到達して意識された時に知覚(perception)と呼び,さらにその意味を理解した時に認知(cognition)と呼ぶ.日本語を知らない外国人が日本字を見たら,「知覚」はできても「認知」はできない.

痛みに対する理学療法における臨床推論

著者: 斉藤昭彦

ページ範囲:P.105 - P.112

はじめに

 臨床において患者は様々な痛みを訴える.痛みは患者が経験するものであるため,まったく同じ痛みは存在しない.病態生理学的要因に加え,心理社会的要因など,多くの要因が痛みに影響を与える.同一の患者でも環境や時間帯により痛みが異なる.また,必ずしも組織損傷を伴うものではない.

 患者の訴える痛みのすべてを解明してから,適切な理学療法を行うことが理想であるが,現実的には,初日から患者のすべてを把握することは難しい.しかし,その日から何らかのマネジメントを行わなければならない.

 痛みを伴う患者の問題は,ブラックボックス(中が見えない黒い箱)に例えることができる.外見上から,箱の中に入っているものの大きさなどをある程度類推することができるが,観察しただけでは,実際に何が入っているかはわからない.しかし,その箱に触れ,ゆり動かすことにより,重さや性質(固形物か流体かなど)などに関する情報を得ることができる.痛みの問題も当初から実体をつかむことはできないが,適切な入力を加え,その反応から実体に迫ることができる.

 痛みに対する理学療法では,臨床における諸現象を論理的に解釈し,未知の事柄を判断し,決定していくプロセスである臨床推論が重要となる.本稿では,このような痛みに対する臨床推論の実際について述べる.

疼痛を有する対象者の包括的理学療法

著者: 辻下守弘 ,   永田昌美 ,   甲田宗嗣 ,   鶴見隆正 ,   川村博文

ページ範囲:P.113 - P.121

はじめに

 理学療法士は,リハビリテーション医療全般にわたる臨床場面において,様々な疼痛を抱える人々のケアに関与している.疼痛は,症状の時間経過により急性痛(acute pain)と慢性痛(chronic pain)に分類され,急性痛は,6か月以内に消えるのが一般的であるのに対して,慢性痛は,6か月以上経過しても治らない痛みとされている1).急性痛は,疼痛の発生源である組織傷害部が明確であり,それに対する積極的な医学的アプローチを施せば治癒する可能性が高い.一方,慢性痛は,疼痛の症状が長期化するため,身体だけでなく不安や苦悩など精神面に対しても影響を及ぼし,対象者のQOL(生活の質)を著しく低下させることが多い.わが国の理学療法士は,これまで主に急性痛に対する物理療法や徒手療法などの医学的アプローチを発展させて来たが,慢性痛に対する包括的理学療法の導入に関しては,欧米に比べてかなり遅れをとっているというのが実感である.教育的アプローチである腰痛教室は国内でも歴史があり,標準化の域に達しているといえるが,それ以外では学際的疼痛アプローチを導入したごく一部の施設で実践されているに過ぎない2)

 そこで本稿では,慢性痛に対する包括的理学療法に焦点を絞り,その鍵となる概念である「パーソナル・コントロール」と「行動随伴性」について解説した上で,包括的理学療法の方法論とその具体的な事例を紹介する.さらに,欧米で行われている慢性腰痛症に対する包括的理学療法として,「行動理論に基づいた段階的活動プログラム」を紹介する.

高齢者の痛みが活動・参加に及ぼす影響と理学療法

著者: 大渕修一 ,   杉本諭

ページ範囲:P.123 - P.129

はじめに

 2004年の国民生活基礎調査によると,高齢者が問題と感じている症状(有訴率)のうち,最も多いものは男女とも「腰痛」で,男性では16%,女性では21%である.また,これに続く症状も「手足の関節の痛み」であり,男性では10%,女性では18%を占めている1)(図1,2).したがって,客観的な障害はともあれ,高齢者が自覚している生活上の問題として,痛みの影響は大きいと考えられる.しかし従来,痛みは加齢に伴う変化であり不可逆的なものとして捉えられ,変形性膝関節症などの治療を必要とする状態になるまで,積極的な対策がとられてこなかった.その結果,関節の痛みや身体の虚弱化,転倒骨折など加齢に伴う身体機能の低下が,要介護状態の原因の多くを占めている1)(図3).特に,軽度要介護者ではこの傾向が顕著である(図4).一方,高齢者に対する筋力増強運動などの効果が示すように,痛みも含めた加齢に伴う身体機能の低下の多くは,使わないことによって起こる廃用症候群を背景としており,理学療法士などが介入し,適切なトレーニングを行うことによって,不可逆的なものではなく可逆的であることが明らかになってきた.

 現在,高齢社会への対応として,生活習慣病を予防するためのメタボリック症候群対策が幅広く行われようとしている.しかし,前述の要介護高齢者の実態からすると,生活習慣病の予防,すなわち疾病予防に加えて,高齢者の活動・参加を阻む要因(痛みなどに代表される加齢に伴う身体機能の低下)への対策が必要と考えられ,また健康寿命を延伸させる観点に立てば,その優先順位は生活習慣病予防に比べて高いと思われる.

 このような状況にあるにもかかわらず,本邦においては高齢者を対象とした痛みに関する調査研究は少なく,存在するものでも横断的な研究に限られ,高齢者を長期的に追跡する縦断研究はほとんど行われていない.したがって,臨床的判断に必要な基本情報が十分にあるとはいえない状況である.たとえば,一度生じた痛みは永続的に続くのか(自然経過),痛みが高齢期の日常生活,ここで言う活動・参加に影響を与えるのか(痛みによる活動制限)など,不明な点が多い.そこで,本稿では,筆者らの関与している東京都老人総合研究所の65歳以上を対象とした「中年からの長期縦断研究」の一部である,農村部から得られたデータを分析しながら,高齢期の痛みとその生活への影響について考察する.さらに,痛みのマネジメントに関する海外のガイドラインも紹介し,理学療法士が関わるべき高齢者の痛みについても述べる.ただし,悪性新生物や神経疾患,その他特定の精神疾患においても痛みが主訴となることがあるが,これらについては治療法との関連が深いため,本稿では言及しない.

とびら

「訪問リハ」雑感

著者: 金子功一

ページ範囲:P.83 - P.83

 10人以上の理学療法士が勤務しているリハビリテーション(以下,リハ)専門病院から,地域リハを志して無床診療所に移り,リハ科の開設に関わってから約6年が経過した.この間,診療報酬・介護報酬の改定など,様々な紆余曲折があったものの,午前中は介護保険通所リハ,午後は同訪問リハという形に落ち着き,現在に至っている.

 最近,地域医療における医師不足の問題がメディアを賑わしているが,理学療法士においても同様のことが言える.筆者は,しばしば理学療法士養成校や県士会企画の新人教育研修会などで「訪問リハ」について講義をする機会がある.受講する学生・新卒者の多くは,筆者のつたない講義内容にもかかわらず,目を輝かせて聴講し,積極的に質問する方もいる.講義後には「訪問リハに興味を持った」,「今後は訪問リハをやってみたい」という本当にありがたい意見も聞く.しかし,実際多くの理学療法士は医療機関に勤務しており,地域のフィールドで出会うのはまだ少数である.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

シーティング

著者: 工藤俊輔

ページ範囲:P.131 - P.131

 シーティングとは,特に座位保持に焦点をあてた姿勢保持の取り組みを指す1).シーティングの技術は,発達障害児や障害者,高齢者が,椅子・車いす,または座位保持装置(シーティングシステム)を活用し,自立的生活を築くための支援や,介護者の負担を軽減するために応用されている.座位保持装置とは,普通の椅子や車いすでは姿勢を保つことが難しい重度身体障害児(者)を対象に,安定した座位姿勢を確保し,また,上肢機能に配慮した適切な作業姿勢や活動姿勢を提供する用具で,車いすとともに福祉用具として規定されている.座位保持装置は1990年に身体障害者福祉法の補装具交付基準の対象品目になっている.シーティングの基本は,座位を安定させることにある.

学校探検隊

実践教育を重視して

著者: 佐藤淳一 ,   中川雄樹

ページ範囲:P.132 - P.133

名古屋の下町

 今や日本経済を牽引するほどの勢いを持つ名古屋,その玄関口である名古屋駅から西に向かって歩くこと約15分.すると,母体である医療法人珪山会鵜飼リハビリテーション病院の真正面にある,中部リハビリテーション専門学校に到着します.最近,玄関部分を一新しましたので,卒業生などは昔の玄関を頼りに来校すると,戸惑うようです.学校周辺は緑豊かな土地柄ではありませんが,ところどころ昭和初期の古い建物が立ち並び,下町の風情が漂っています.

全国勉強会紹介

西多摩リハビリテーション研修会

著者: 北村智之

ページ範囲:P.134 - P.134

活動について
①目的

 東京都西部(市郡部)でリハビリテーション(以下,リハ)活動に従事する専門職に,研鑽と親睦の場を提供することを目的としています.
②勉強・研修内容

 青梅市立総合病院で平日夕方から研修会と症例検討会を開催するほか,ホテルを会場として,休日1日の特別講演を行っています.転倒予防,コミュニケーション,嚥下,スポーツリハ,テーピング,福祉用具,呼吸療法,ADL,住宅改修,尿失禁,介護予防など,活躍中の第一人者を招聘して,看護師,介護士など他の多くの職種も興味をもてるよう,間口の広い講演をお願いしています.症例検討は,各施設の新人にお願いしています.「上手くいかなかった」という報告を歓迎し,経験者が施設の壁を越えて多くの視点や考え方を出し合う場となっています.

入門講座 運動療法の基本中の基本・2

筋力トレーニングの基本

著者: 木藤伸宏 ,   岡西奈津子 ,   山崎貴博 ,   加藤浩

ページ範囲:P.135 - P.146

はじめに

 われわれ理学療法士は,身体運動をオイラーモデルで表現し,肢節や体節の運動を起こす要因として,筋の機能的一側面である「筋力」を重要視してきた.近年,その枠組みがオイラーモデルから運動制御モデルに置き換えられ,筋力より運動制御における筋機能の協調性が重要視される傾向になっている1).筋機能の協調性とは,力の要素,空間的要素,時間的要素からなる2)

 筋力維持と強化のための治療法は,関節可動域運動とともに身体機能障害に対する理学療法の2大治療手技として臨床で用いられている.近年,筋に関する優れた基礎研究や臨床研究が数多く発表され,新たな知見も得られている.しかしながら,最新の知見も重要であるが,過去に報告されている理論や技術を振り返ることで,新たな発見を得ることもできよう.本稿では,筋力トレーニングおよび筋持久力増強に関する基礎理論をQ & A方式で解説する.

講座 摂食・嚥下障害・2

小児症例の摂食・嚥下障害

著者: 平井孝明

ページ範囲:P.147 - P.154

はじめに

 小児症例の摂食・嚥下障害と成人症例を比較した時,最も大きな相違点は「成長と発達」への関与であろう.全身状態,解剖学的形態,呼吸状態,全身的運動機能,知的能力,意欲などによる摂食・嚥下機能への影響は小児症例も成人症例も共通する要素であり,摂食・嚥下障害によって栄養障害,呼吸機能障害,全身状態悪化を来すことも同様である.しかし,小児症例においては,摂食・嚥下機能の発達が身体成長,口腔構造の構築,言語発達,全身的運動発達,情緒・精神性の成熟,社会性の発達,呼吸機能を含めた全身状態に大きく関与し,成人に至るまで日常生活全般に大きな影響を与える.本稿では,小児症例の生命維持,成長・発達に最も重要な,摂食・嚥下機能に対するアプローチについて概説する.

報告

回復期リハビリテーション病棟における脳卒中クリティカルパスの入院1か月時点での達成目標

著者: 桑田稔丈 ,   徳永誠 ,   鳥羽優美子 ,   三宮克彦 ,   渡邊進 ,   中西亮二 ,   山永裕明

ページ範囲:P.159 - P.163

要旨:本研究の目的は,脳卒中クリティカルパスにおいて,自宅退院という退院時目標を達成するために必要な,入院1か月時点での達成目標を明らかにすることである.当院回復期リハビリテーション病棟から退院した脳卒中患者229例を対象に,入院時,入院1か月後,退院時における,障害老人の日常生活自立度判定基準(自立度),移動能力,機能的自立度評価法(functional independence measure:FIM),退院時転帰について後向き調査を行った.その結果,自宅退院を目指すには,退院時に独歩が可能であること,退院時に独歩が可能となるためには,入院1か月後の自立度において「屋内での生活は何らかの介助を要し,日中もベッド上での生活が主体であるが座位を保ち,車いすに移乗し,食事,排泄はベットから離れて行う」という基準以上であることが重要であった.また,入院1か月後にその基準以下であっても,入院から1か月間のFIM増加量が21点以上あれば,退院時に独歩を獲得できる可能性があった.今回の調査は,回復期リハビリテーション病棟におけるリハビリテーションの効果を反映した脳卒中の予後予測として,また脳卒中クリティカルパスで達成目標を設定する際の基礎資料として有用である.

紹介

SHELモデルを用いた事故要因分析―当院理学療法部門における取り組み

著者: 竹内伸行 ,   桑原岳哉 ,   木村輝美 ,   桑原沙和子 ,   岩﨑強 ,   下川龍平 ,   池田邦生 ,   伊藤裕教 ,   根岸智美 ,   松田紗耶香 ,   三澤由子 ,   酒井章弘 ,   竹迫信博 ,   塚本祥子

ページ範囲:P.167 - P.171

はじめに

 近年,医療過誤や医療事故に関する要因分析や再発防止策の検討に取り組む医療機関は珍しくなくなった.しかし,医療界の取り組みは,他の産業界に比べ非常に遅れているのが実情である.航空業界や原子力産業は,事故時の被害が莫大になることや,企業イメージの低下などによる経営的損失が大きいことから,早くから事故防止に取り組んできた.筆者は,電力会社に勤務した経験があるが,そこでは頻繁に危険予知訓練や事故例検討会を行っていた.これらは特別難しいことをするのではない.前者は,あらゆるシチュエーションを想定した事故防止の取り組みである.後者は,実際に生じた事故の発生要因や対策を検討し,再発防止を図る取り組みである.

 現在,医療界で事故要因分析に用いられている手法に「SHELモデル」がある.SHELモデルは国内で比較的多用され,報告も少なくない.しかし,それらは看護領域の報告が主である.理学療法をはじめとしたリハビリテーション領域では,SHELモデルに関する報告は散見される程度であり,こうした取り組みは遅れているといわざるを得ない.当院理学療法部門(以下,当院)では,2006年よりSHELモデルを用いてインシデント・アクシデント事例を検討し,リスクマネジメントに活用してきた.本稿ではSHELモデルについて概説し,実際に当院で検討した事例を紹介する.

書評

―栗山節郎・川島敏生(著)―「DVDでみるテーピングの実際」

著者: 伊藤俊一

ページ範囲:P.156 - P.156

 近年,映像技術の進歩と価格の低下によって,多くの医療関連書籍にDVDが添付されるようになった.本書も,1984年に発行されてテーピングの基礎的教科書となった「テーピングの実際」に,1996年に伸縮性テープの手技をふんだんに掲載してより臨床およびスポーツ場面での実践に配慮した「新・テーピングの実際」の内容をさらに発展させ,基本技術を映像として収録し,すぐにテーピングが実践できるようにDVDを活用して新たに発刊された.

 本書は,一般的な教科書と同様にテーピングの原理や基本,部位別手技の実際を概説するのみならず,当初からの一貫した執筆の目的でもある機能解剖や生理学を基盤としてのテーピングによる基本的治療法が,多くの図表や写真を用いながらもコンパクトに分かりやすく網羅されている.何より,部位別治療法ではテーピング前評価とその適応判断のポイントが明記され,リハビリテーションプログラムが病期別で段階を追って解説されることで,治療法を選択する際のクリニカルリーズニング(臨床的推論)を機能解剖や病態生理などの根拠に基づいて行うことが可能となっている.また,映像として実際に収録されている手技と解説は非常に分かりやすく,日頃から執筆者が臨床を重視して,多くの知識と経験に裏打ちされたテーピングを用いていることを伺うことができる.さらに,治療前の病態とテーピング治療後を比較した画像やチェックポイントの解説は,単にテーピング手技だけを羅列した本と比べて極めて秀逸である.このような映像の活用法は,今後もDVDを用いた臨床技術系の書籍が数多く販売されることになると考えられるが,是非とも見習うべきものである.

―岡村英樹(著)―「OT・PT・ケアマネにおくる建築知識なんかなくても住宅改修を成功させる本」

著者: 備酒伸彦

ページ範囲:P.164 - P.164

●ノウハウ本ではない本

 4章19節96項目それぞれに見出しのついた読みやすい本書を,著者は「ノウハウ本」ではないと冒頭で宣言している.読み進むうちにその意味がはっきりと伝わってくる.例えば,大きな病を患ったとき,医師でもない私が治療のノウハウを聞きかじっても意味がない.何よりもほしい示唆は「誰に,どのように頼ればよいか」というもので,本書は住環境整備についてその期待に見事に応えている.

 著者は数多の「住宅建築・改修」,というよりも実は「ケア」に深く関わるうちに,様々な専門家の凄さを感じ,同時に各々の限界を知ったのだろう.そして,互いがうまく頼り合うことではじめて良い仕事となることを悟ったのだと思う.その意味で「ノウハウ本ではない」という言葉には,著者の“チーム”への期待と,何よりもチームを構成する人たちへの尊敬を感じる.このような著者の態度に貫かれた本書には,たしかにノウハウは書かれていないが,それでいてたくさんのことを教えてくれている.

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文献抄録

ページ範囲:P.172 - P.173

編集後記

著者: 内山靖

ページ範囲:P.178 - P.178

 区切りというものは,人間の気持ちや行動を変容する意味で大きなエネルギーをもっている.クリスマス,新年,卒業,様々な記念日や毎週末など枚挙に暇がない.人間は,ある時点を境に急に変わるものではないと思う反面,区切りをつけて新たに誓いを立て歩んでいくことを求めている.大人びた小学6年生がある日を境に初々しい中学生になり,すべてを知った大学4年生が不安と希望に満ちた新入職員となる.脱皮後の不安定性とその後の新たな成長の摂理は,人間にも十分に当てはまるようである.その意味から,理学療法は,対象者の行動変容のきっかけになるためにどうしたらよいのだろうか,また,変容した行動を維持することに貢献しているのだろうか.

 人間の営みや行動には,狭義の自然科学では十分に解明されていない部分や割り切れないものがある.他方,10数年前のわずかな痕跡は,その遺伝子を通して明確に個人を特定できることも事実である.ヒトの痛みとは,感覚であるのか情動であるのか,長い論争の後に,現在の痛みの病態生理はこの双方を含めることで科学として対象者を捉える立場を明確にした.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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