icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル42巻4号

2008年04月発行

雑誌目次

特集 認知運動療法の臨床アプローチと効果

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.257 - P.257

 運動の認知過程(知覚,注意,記憶,判断,言語)を活性化させ,円滑な身体運動を運動学習的に捉えようとする認知運動療法は,中枢神経系疾患,骨関節系疾患に対する新しい理学療法アプローチ法の1つとして関心を集めている.認知運動療法が広く臨床に適応されるには,今後,脳科学からの理論的な構築と長期的な臨床効果の検証を重ねることが重要である.そこで本特集では,日々,認知運動療法に取り組まれている方々から,事例を通した具体的な治療プログラムの立案根拠とその効果,課題を明らかにしていただくことを目的とした.

脳卒中片麻痺に対する認知運動療法の臨床アプローチと効果

著者: 高橋昭彦

ページ範囲:P.259 - P.269

はじめに

 「目で見ながらマヒの右手に触れると,わずかに触れられている感触があったので,目を閉じてもたぶんそれに似た感触はあるだろうと思っていた.ところが目を閉じると手首や肘などの関節がどこにあるのかがわからないどころか,ほとんど感覚はないに等しかった.目に見えない感覚の世界においては私の右手は存在していなかった…」(脳卒中右片麻痺,発症後5年経過)1)

 脳卒中片麻痺患者に対する平行棒や手すりを用いた立ち上がり練習は,どこの病院や施設でも行われる一般的な運動療法である.その運動療法を設定し,実施しているセラピストは,患者の体幹が前屈し重心が前方に移動しているか,健側の上肢で体を引きつけていないか,患側の下肢にも荷重できているかなどのバイオメカニカルな視点をもって観察を行う.立位になった後のセラピストの関心は,姿勢の直立性や対称性に向けられる.しかし,これから立ち上がりを行おうとする患者に対して,目を閉じた際に患側下肢をどこに感じているか,足底のどこに荷重を感じているのかとセラピストが尋ねることはあまりない.患者は自己の身体や運動をどう感じているのか,踵や膝や股関節,あるいは肩関節の位置関係をどのように認識しているのか,どの部位に対してどのような注意を払っているのか,どのような運動イメージを描いているのか,そしてどのように思考しているのかなど,動作に関する患者の内的側面に関心を向けるセラピストは少数である.このような患者の内的な側面は,運動療法を遂行する上で必要とされない情報なのだろうか.

 冒頭に示した記述から,脳における身体表象(body representation)において,視覚に基づいた視覚表象と体性感覚に基づいた運動表象に解離がみられており,複数の身体が患者の中に存在していることがうかがえる.脳卒中片麻痺患者における表在感覚や深部感覚の異常は,頭頂葉での異種感覚情報の統合を阻害する可能性がある.身体は自己同一化されることではじめて,自己の存在,自覚,状態などに関わる「身体の知」を創造し,身体が自分のものであるという身体の所有感覚を生みだし,ひいては運動を起こしているのが自分であるという運動の主体感覚を生みだす.しかしながら,身体の所有感覚も主体感覚も喪失している患者に対して,動作練習と称して立ち上がり動作や歩行動作の反復を求める運動療法が何十年にもわたって臨床場面で繰り返されている.これは脳卒中片麻痺に対する現在の運動療法が抱える重大な問題点である2).脳卒中によって失われたものが「脳のシステム」である以上,運動療法は脳システムの治療を目指すものでなければならない.骨,関節,筋,反射など神経運動学に基づいて単純化された運動療法では,複雑なシステムの破綻に対応することはできない.なぜなら,随意運動は原因に対して結果が定められているような因果律的な関係性を持たないためである.複雑なシステムを治療するためには,複雑な手続きを内在したシステムアプローチが不可欠である.近年,脳をシステムとして捉え,認知過程の再組織化によって,麻痺からの回復に挑戦する運動療法が,わが国でも注目され始めている.それがイタリアで誕生した認知運動療法である.認知運動療法の実践には,患者の内的側面を含めた詳細な観察と綿密な治療計画がセラピストに求められる.本稿では,セラピストの思考の展開を中心に,サントルソ認知神経リハビリテーションセンター(Santorso Neuro-Cognitive Rehabilitation Center:以下,SNCRC)での研修中に治療経験を得た症例を提示しながら,脳卒中片麻痺に対する認知運動療法の臨床アプローチと効果について概説する.

症例報告:高次脳機能障害を伴う片麻痺に対する認知運動療法

著者: 岩崎正子

ページ範囲:P.271 - P.276

はじめに

 認知運動療法では,外部から観察される運動の異常は生物学的な病理による認知過程の異常が引き起こした“結果”と考え,高次脳機能障害も通常の身体運動も,認知過程を経て出現する脳の活動の結果であると捉えている.同じ病態であっても,どのような理論に立脚するのか,どの視点から分析するのかによって,病態に対する解釈の仕方は異なってくる.本稿では,高次脳機能障害のうち失行症を取り上げ,認知運動療法理論に基づき,セラピストが機能の再獲得に向けた学習の仲介者として患者とどのように向き合い臨床を展開していくのかについて述べる.

骨関節疾患に対する認知運動療法の臨床アプローチと効果

著者: 千鳥司浩

ページ範囲:P.277 - P.284

はじめに

 骨関節疾患は関節や効果器そのものの損傷であるため,リハビリテーションで取り扱う諸問題においても,末梢の筋や関節などの器官の構造的な機能異常を重要視することが多い.障害を受けた諸器官を直接的に治療対象とする従来の治療戦略により,関節拘縮や筋力低下などの機能障害に関する問題は解決しやすいが,それらが改善しても歩行などの動作にうまく結びつかないことがある.具体的には,中殿筋の筋力が十分回復してもトレンデンブルグ現象が出現している症例や,膝関節の可動域が十分獲得されていても歩行時にはいわゆる棒足歩行を呈する症例などが挙げられる.これらのことより,損傷部位そのものを治療していくだけでは不十分であり,パフォーマンスを構築し制御している脳においても,何らかの変質があることについて注目する必要性に気づく.

 この点について,イタリアの神経科医Calro Perfettiが提唱する認知運動療法(esercizio terapeutico conoscitivo:ETC)1)と呼ばれる治療システムは極めて興味深い.認知運動療法とは,運動を身体が外部環境と相互作用を行うための手段として捉え,それを実現しているのは脳における認知過程であるとする理論に立脚して,運動療法の介入手段を構築したものである.その理論は,中枢神経疾患や骨関節疾患をはじめとして幅広く適用されている.本稿では,まず認知運動療法の基本概念,骨関節疾患における病態解釈について述べ,関節拘縮や跛行に対する治療展開について解説する.

症例報告:両下肢切断患者が抱える幻肢痛に対する認知運動療法

著者: 小林弘基 ,   大原裕子 ,   久保卓文 ,   坂井由香 ,   山崎優希

ページ範囲:P.285 - P.289

はじめに

 外傷や糖尿病による末梢循環障害など,様々な原因によって切断術を受けた患者において,幻肢・幻肢痛が発生することがある.これらの症状はいずれも切断術後の身体が存在していない部位に出現するため,原因の特定が難しく,治療アプローチについても明確な解答が得られていないのが現状である.

 本稿では,2003年に右大腿切断術,2005年に左下腿切断術を施行され,数年が経過してもなお両側ともに幻肢痛を抱えている患者に対して,脳科学を中心とした知見から病態を解釈し,治療アプローチ(認知運動療法)を行った経過を報告する.

脳性麻痺児に対する認知運動療法の臨床アプローチと効果

著者: 人見眞理

ページ範囲:P.291 - P.296

はじめに

 「脳性麻痺」という障害像について旧来の方法論にとらわれずに考えてみると,そもそも彼らが積み重ねている日々の経験が,「健常」と言われている子どもたちのそれとは質が違うということに思い至る.経験の質が違うというのは,単に量的にあるいはバリエーションとして不足しているというだけでなく,そこから創発される,自分自身や他者,外界,あるいはそれらの関係性についての彼ら自身の了解の作られ方が違うということである.したがって,彼らの障害を改善する方向性を目指すためには,彼らの経験の質を知ることから始めなければならない.本稿では,その手がかりを得て,アプローチを組み立て,実施するという,セラピスト側の一連の思考プロセスを中心に述べる.

症例報告:脳性麻痺の新生児・乳幼児からの認知運動療法

著者: 浅野大喜

ページ範囲:P.297 - P.302

はじめに

 ヒトの新生児は,出生後早期から環境に適応するための様々な能力を持ち,能動的に外界を探索する存在として一般的にも認識されるようになってきた1,2).しかし,小児の発達リハビリテーションにおいては,児の主観的な部分ではなく外部観察を評価・治療の中心に据えたアプローチが主流となっているのが現状である.また近年では,発達をシステムとして捉えるシステム理論が主張されてはいるものの3,4),治療それ自体がシステムモデルに則っているものはほとんどない.

 一方,認知運動療法は,運動の発現・変化をシステムとしての自己組織化の創発と捉えるだけでなく,システムの下位要素として意図・知覚・注意・記憶・判断・予測といった認知的側面を重要視し,それを活性化(学習)していくことを目的とする5).つまり,目標とする運動・動作を学習させるのではなく,その運動が創発するための準備状態を作り出すことを目的とする6).また,対象児が学習していく過程において,他者(セラピスト)の役割を重要視するのも特徴の1つである7)

 本稿では,従来の出生後早期からの小児発達リハビリテーションと小児認知運動療法との相違について解説し,脳性麻痺の新生児・乳幼児期からの認知運動療法の実際を症例とともに紹介する.

とびら

感性を磨くということ

著者: 浅井友詞

ページ範囲:P.255 - P.255

 今から10年前,私は少しでも幅広い最新の知識を学生に伝えたいという思いから,米国へ視察に行きました.一番初めに訪れたのは,カリフォルニア州のランチョ・ロス・アミーゴリハビリテーションセンターで,理学療法士のJorge Orozco氏(現・CEO)の案内のもと,診療体制やシステムを見学する機会を得ました.センターは入院棟・外来棟に分かれ,外来棟では肝臓疾患・腎臓疾患などに対するリハビリテーションも行われており,患者の社会復帰を目指すという明確な方向性をもってプログラムが組まれていました.また,臨床での疑問点の検討や,評価指標を作成する研究棟が併設されており,エビデンスの確立に寄与していました.

 大学教育の場においては,例えば,ロマリンダ大学では,専門課程に入る前には教養科目と言語教育に力をいれ,社会人としての人格形成に重点が置かれています.カリキュラムの中では,芸術や文化を重んじ,美術館での芸術鑑賞や各国の文化に対する討論の場が設けられており,深く考えさせられました.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

ウォーラー変性

著者: 吉元洋一

ページ範囲:P.303 - P.303

●歴史的背景

 ウォーラー変性(Wallerian degeneration)は,Waller(1850年)がネコの舌咽神経の切断実験を行い,末梢節が退行変性を来して消滅することを見いだしたことに由来する1)

新人理学療法士へのメッセージ

今日までを振り返って

著者: 柳瀬由起子

ページ範囲:P.304 - P.305

 理学療法士として新しく仲間入りされた皆さんは,様々な期待や不安でいっぱいになりながら,毎日を過ごされていることと思います.私は理学療法士となって5年間は一般病院に勤め,その後,養成校の教員となり,今年で3年目になります.今日までのことを振り返ると,多くの方々から頂いた言葉に動かされて,ここまでやってこられたのだと思います.今回は,私の心に残っている言葉と体験をお伝えすることで,皆さんへのメッセージとさせていただきたいと思います.

全国勉強会紹介

愛知呼吸ケア・リハビリテーション研究会

著者: 辻村康彦

ページ範囲:P.306 - P.306

活動について
①目的

 愛知県内に呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)を広く啓発・普及することを目的としています.さらに,専門職としての知識・技術の向上を目指すとともに,各施設間,ならびに各職種間の交流を促進し,連携を深めることを目標に開催しています.

入門講座 運動療法の基本中の基本・4

ストレッチの基本

著者: 川口浩太郎 ,   坂口顕

ページ範囲:P.307 - P.314

はじめに

 ストレッチ(stretch)とは,一般的にはモノに対して伸張を加えることを指し,ストレッチング(stretching)とは,スポーツ現場においてウォーミングアップやクールダウンの一環としても行っているものや,治療的に拘縮した組織や短縮した筋に対して伸張を加えることをいう.理学療法の場面においては使用頻度の最も高い手技ともいえ,まさに理学療法の基本中の基本である.

 しかしながら,これらは一括りにストレッチングと呼ばれているが,ウォーミングアップの際に行っているストレッチングと,拘縮に対して行っているそれとは明らかに行う目的が異なる.

 本稿では,まず拘縮や筋の短縮の原因や評価を述べた後,ストレッチングに関係する神経生理学的知識の整理とストレッチングの実際について紹介する.

 なお,「筋の短縮」という言葉は,「短縮性収縮」との混同を招くおそれがあるため,本稿では「筋が短くなった異常な状態」つまりmuscle short lengthを指す言葉として用いると定義する.

講座 摂食・嚥下障害・4

呼吸器疾患症例の摂食・嚥下障害

著者: 朝井政治 ,   俵祐一 ,   夏井一生 ,   伊藤恭兵

ページ範囲:P.315 - P.322

はじめに

 食塊が咽頭から食道に向かって移送される際には,喉頭,鼻咽頭,声門は完全に閉鎖し,気道への異物の侵入を防御する.このため,嚥下時には呼吸が一時的に停止する(嚥下性無呼吸).呼吸器疾患の患者は呼吸数の増加,息切れなどにより,十分な息こらえが困難となるため,嚥下のタイミングがずれ,誤嚥を生じやすい1)

 誤嚥性肺炎は,口腔内常在菌を含む唾液,食物残渣,逆流による胃内容物が気道内に流入することで引き起こされる肺炎の総称である2).その原因は大きく分けて,食事中の誤嚥,胃や食道からの嘔吐物の誤嚥,不顕性誤嚥が挙げられ,高齢者の誤嚥性肺炎の原因としては圧倒的に不顕性誤嚥がその多くを占める2).呼吸器疾患において誤嚥性肺炎の占める割合は高く,65歳以上の高齢者に生じる肺炎の約1/3を占める3)との報告がある.誤嚥性肺炎の危険因子として,表1に示すようなものが挙げられ,脳血管障害の合併のほか,栄養状態の悪化,意識レベルの低下,呼吸パターンの悪化も嚥下機能を低下させる原因となる4)

 さらに,呼吸器疾患の患者は高齢者が多く,呼吸機能の低下のみでなく,筋力低下,耐久性低下といったdeconditioningの状態を来している場合が多い.一般に加齢に伴い,筋力,持久力といった身体機能とともに,摂食・嚥下機能も低下を認めるが,呼吸器疾患の患者はより誤嚥性肺炎を発症しやすい状態といえる.

 本稿では,当院における誤嚥性肺炎の発生頻度とその臨床的特徴,呼吸管理を要した症例における摂食・嚥下障害の発症について述べるとともに,肺炎で入院後,重度の嚥下障害にて肺炎を繰り返した症例を通じて介入のポイントを解説する.

臨床実習サブノート 知っておきたい理学療法評価のポイント・1【新連載】

急性期の脳血管障害患者を担当した時

著者: 尾谷寛隆

ページ範囲:P.323 - P.327

はじめに

 理学療法評価を行う際は,活動や動作を観察することにより機能障害を予測し,その検証のために検査,測定を実施する.しかし,急性期においては,疾患そのものの治療が最優先され,ベッド上安静臥床状態であるので,実際に動作を観察することはできず,臥床状態のままで機能を把握することが主な評価となる.様々な機能評価を行い,それらを総合的に判断し,担当症例の動作面を予測する作業が行われるため,一種異型の統合と解釈が現実には実施されている.

 筆者の勤務する施設では,対象症例の約8割が脳血管疾患で,そのうち8割強が急性期である.本稿では,年間600例余りの急性期脳血管疾患患者の理学療法に携わる理学療法士として,臨床で重要視している評価のポイントについて,マラソンのスタート,4つの給水ポイント,折り返しポイントにみたてて説明する.

なぜ学ぶのか・1【新連載】

解剖学―自分の体を教材に,生きている人体のシステムを理解しよう

著者: 内藤延子

ページ範囲:P.331 - P.334

 運動時の怪我でリハビリテーションを受けた経験から,将来の自分の職業として理学療法士を選択した学生は少なくない.しかし,理学療法士が医療職であることは知っていても,医療系の教育がどのようなものかはほとんど知らない.そうして始まる新学期の早々に「解剖学」が出現する.骨や筋の耳慣れない名称が山のように出てきて,パニック状態になる.名称の羅列に翻弄されて,本来の目的を見失ってしまい,頭の整理がつかないままに前期の定期試験….では,解剖学の勉強はどのようにすればよいのだろうか?

インタビュー

理学療法の未来と日本理学療法士協会の役割

著者: 半田一登

ページ範囲:P.338 - P.340

会長に就任して

 ―日本理学療法士協会(以下,協会)会長への立候補を決断された理由は何でしょうか?

 理由はいくつもありますが,一番大きな理由は,診療報酬の切り下げをこれ以上認められない,ということです.私は,昭和46年から38年間臨床で仕事をしてきましたが,この10年ほど,診療報酬の切り下げが続いています.これは,臨床の理学療法士にとって大きな負担となっています.たとえば,私が1日に診た患者さんの人数は最高で35人です.米国や欧州の理学療法士は,1日の担当数は多くても10人,平均して6,7人で,報酬単価を30分に換算して比較すると,日本より約9千円も高い設定になっています.つまり,日本は,報酬単価を安くして,非常に多くの患者さんを診ることで,一定の収益を確保するという方向にもって行かれてしまいました.現在の状況をどう打開し,切り返すのかは,自分たちで本気で考えて,動いて,克服しないといけないんです.昭和40年代はリハビリテーションを発展させるために理学療法士,作業療法士を増やそうという気運がありましたが,5万人以上の理学療法士がいる今,外部からの援護は期待できません.そのほかにも,養成制度のあり方,新人教育,職域の問題など,それぞれがリンクしあう喫緊の課題がたくさんあります.

あんてな

第43回日本理学療法学術大会(in福岡)の企画と開催地の紹介―お祭り好きで,情熱派,純粋で義理人情の博多っ子が燃えに燃えている福岡大会

著者: 明日徹 ,   辻和明

ページ範囲:P.341 - P.347

一度は福岡(博多)にこんね~!!

 「山笠があるけん博多たい!!」のフレーズで有名な福岡市で,第43回日本理学療法学術大会が開催されます.会期は,博多どんたく港まつりが終わったばかりで,まだ熱気冷めやらぬ5月15日(木)~17日(土)の3日間です.

 会場は,博多湾を一望できる福岡サンパレスホテル&ホール・福岡国際会議場・福岡国際センターの横ならびの3会場(図1)のため,移動も楽に行えます.これらの会場は,JR博多駅博多口から大博通りを直進すれば見えてくるので,すぐおわかりかと思います.福岡サンパレスホテル&ホールはコンサート会場として,福岡国際会議場は様々な学会会場として,福岡国際センターは大相撲九州場所をはじめ多くの催事が開催されている非常に立派な会場です.

短報

姿勢反射による頸部伸展抑制を目的とした誤嚥防止ヘッドレストの試作

著者: 柴田卓

ページ範囲:P.349 - P.353

 要旨:反復性に誤嚥性肺炎を発症している脳性麻痺者に対し,その予防を図る目的で誤嚥防止ヘッドレストを作成した.対象者は,脳性麻痺による四肢麻痺者で,食事時に姿勢反射により頸部が伸展するために誤嚥を引き起こし,それにより誤嚥性肺炎が誘発されると考えられた.そこで,誤嚥防止ヘッドレストを使用し,頸部の伸展を抑制させ,誤嚥性肺炎の予防を図った結果,むせ回数,姿勢反射出現回数,大きいむせを有意に抑制する効果があり,誤嚥を減少させる効果があると考えられた.また,誤嚥防止ヘッドレストを使用する以前の12か月と,使用後12か月の肺炎による入院回数と日数を比較検討したところ,回数,日数とも有意に減少していた.

書評

―丸山仁司(編集)―「理学療法リスク管理・ビューポイント」

著者: 網本和

ページ範囲:P.328 - P.328

 もし,あなたの家族が脳卒中に倒れ,集中治療室に入っていて,幸い意識が徐々に回復し,これから車いす移乗練習を始めようとする時,あなたならどのようなことを考えるだろうか.医学的知識に乏しい一般の人でも,電動ギャッチベッドのスイッチを押してベッドアップすることは容易である(たまにはベッドそのものにはさまれるというリスクがある).そして渾身の力を振り絞って車いすへと「投げ込む」こともできるかもしれない(点滴のルートや人工呼吸器のチューブはどこにいった?).ここまで読み進んであおざめない理学療法士がいるとすれば,よほど想像力に欠けるか大胆不敵かのどちらかであろう.素人とプロの最も大きな違いの1つは,このようなリスクを管理しつつ,最適な医療サービスを提供できる点であるといっても過言ではない.「リスクをとる」という言い方は主に経済活動で用いられるが,医療現場では「リスクに配慮・管理」して「自立・社会復帰」という果実を得るというようにも考えられる.

 このように日々リスクと向き合って活動している理学療法士の臨床において,適切な「リスク管理」のテキストはこれまでそう多くはなかった.丸山仁司教授編集の「理学療法リスク管理・ビューポイント」は,このような現場の切実なニーズに応えるべく登場した好著である.本書はⅠ. 総論,Ⅱ. PT実施場所におけるリスク管理,Ⅲ. 理学療法治療におけるリスク管理,Ⅳ. 疾患における理学療法リスク管理,という4章から成り,読者が必要であると思った領域から入っていけるような極めて実用的・実践的構成になっている.Ⅱ章以降の各論では,項目ごとに見開き2ページにわかりやすくまとめられ,リスク管理のビューポイントが示されている.特に「エピソード」の項では実際の失敗例(!)が記され,さらに禁忌注意事項のレッドカード,イエローカードが呈示されている.冒頭の状況に関連した一例を挙げれば,「脳血管障害―急性期(pp124-125)」では,車いす移乗の際に起きた意識消失例が例示され,その具体的対応(リーズニング)が説明されている(急変時の対応は?,コミュニケーション困難例への対処は?…).そしてこの項のレッドカードとは? (是非本書をお読みください)

―沖田 実(編)―「関節可動域制限―病態の理解と治療の考え方」

著者: 古澤正道

ページ範囲:P.336 - P.336

 関節可動域制限は理学療法の対象となる障害の13~21%を占める病態である.本書では,この病態の解明や治療への示唆について8名が執筆している.

 本書では拘縮の定義を,皮膚や皮下組織,骨格筋,腱,靱帯,関節包などといった関節周囲に存在する軟部組織が器質的に変化したことによる関節可動域制限としている.関節可動域制限の発生要因には,年齢,罹患期間,日常生活活動能力,痙縮,痛み,浮腫などの影響がある.拘縮を動物の四肢に内外からの固定法を用いた実験でつくり,その発生機序を結果から説明している.実験に利用した動物とヒトとの比較は,蛋白質の代謝回転などのように,種を超えて共通した要素がある.この部分に着目して研究した多くの成果が書かれている.

--------------------

文献抄録

ページ範囲:P.354 - P.355

編集後記

著者: 鶴見隆正

ページ範囲:P.358 - P.358

 42巻4月号が皆様の御手元に届く頃には,全国各地から満開の花の便りが聞かれるようになっていると思います.

 しかし75歳以上の高齢者にとって,今年の4月は,春爛漫とは喜べない「後期高齢者医療制度」が新たに始まります.この新制度の創設にあたって,国は,高齢化の進展によって有病率も高くなり,医療費の増大が見込まれるため,若い現役世代と高齢者との医療負担の公平化と医療財政の安定化を図り,より良い医療体制を目指そうとしています.このため,75歳以上の方は新医療制度と介護保険制度の両方の保険料を負担することになりますが,果たして狙い通りの医療サービスを保障できるのでしょうか.臨床現場では,「もっと理学療法を受けたい」という患者の願いも診療報酬上の日数上限によって困難になったり,また介護保険下の諸施設に入所したくても待機の方が多く,家族・本人が必死になって入所施設を探している場面に遭遇します.まさに現実の医療環境では,「リハビリ難民」,「介護難民」さらには「救急難民」,「出産難民」,「小児難民」などの現象が社会問題化しています.憲法第25条では「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と同時に「国の生存権保障の義務」を謳っていることを,国は忘れてはいけません.医療費亡国論にそった医療費抑制政策を見直し,国民の健やかな生活を保つための政策に転換することこそが,第25条の理念を具現化することにつながるのではないかと考えます.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?