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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル42巻4号

2008年04月発行

文献概要

講座 摂食・嚥下障害・4

呼吸器疾患症例の摂食・嚥下障害

著者: 朝井政治1 俵祐一1 夏井一生1 伊藤恭兵1

所属機関: 1聖隷三方原病院リハビリテーション部

ページ範囲:P.315 - P.322

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はじめに

 食塊が咽頭から食道に向かって移送される際には,喉頭,鼻咽頭,声門は完全に閉鎖し,気道への異物の侵入を防御する.このため,嚥下時には呼吸が一時的に停止する(嚥下性無呼吸).呼吸器疾患の患者は呼吸数の増加,息切れなどにより,十分な息こらえが困難となるため,嚥下のタイミングがずれ,誤嚥を生じやすい1)

 誤嚥性肺炎は,口腔内常在菌を含む唾液,食物残渣,逆流による胃内容物が気道内に流入することで引き起こされる肺炎の総称である2).その原因は大きく分けて,食事中の誤嚥,胃や食道からの嘔吐物の誤嚥,不顕性誤嚥が挙げられ,高齢者の誤嚥性肺炎の原因としては圧倒的に不顕性誤嚥がその多くを占める2).呼吸器疾患において誤嚥性肺炎の占める割合は高く,65歳以上の高齢者に生じる肺炎の約1/3を占める3)との報告がある.誤嚥性肺炎の危険因子として,表1に示すようなものが挙げられ,脳血管障害の合併のほか,栄養状態の悪化,意識レベルの低下,呼吸パターンの悪化も嚥下機能を低下させる原因となる4)

 さらに,呼吸器疾患の患者は高齢者が多く,呼吸機能の低下のみでなく,筋力低下,耐久性低下といったdeconditioningの状態を来している場合が多い.一般に加齢に伴い,筋力,持久力といった身体機能とともに,摂食・嚥下機能も低下を認めるが,呼吸器疾患の患者はより誤嚥性肺炎を発症しやすい状態といえる.

 本稿では,当院における誤嚥性肺炎の発生頻度とその臨床的特徴,呼吸管理を要した症例における摂食・嚥下障害の発症について述べるとともに,肺炎で入院後,重度の嚥下障害にて肺炎を繰り返した症例を通じて介入のポイントを解説する.

参考文献

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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