icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル42巻5号

2008年05月発行

雑誌目次

特集 アジアの理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.362 - P.362

 2008年8月に第10回ACPT学会が日本で開催される.世界のグローバル化やボーダレス化が進む中で,アジア諸国の特徴とその国の理学療法をよく理解し,どのような援助や協力が可能なのか,また,理学療法士数最多のアジアのリーダーとして,どのようにアジア圏内に理学療法を広め,世界全体の健康増進に益することができるのかなどを再考するために,アジアの理学療法の特徴や問題点,ACPTの設立経緯や歴史的発展,さらにACPT加盟国の理学療法の現状と課題,現在のトピックスなどについて解説いただいた.

アジアの理学療法とアジア理学療法連盟(ACPT)―ACPT設立当時を振り返って

著者: 森永敏博

ページ範囲:P.365 - P.369

はじめに

 世界理学療法連盟(World Confederation for Physical Therapy:以下,WCPT.1951年創立)1)では,万国に共通する教育水準や倫理規定(Code of Ethics)を定め,理学療法という共通基盤による均質なサービスを提供するように規定している.しかし,それぞれの国には歴史があり文化がある.その集大成として習慣,さらに制度や規則が制定されている.理学療法という領域だけをみても,教育制度,社会的役割,そして法律で定められた責任や権能は国によって異なっている.アジア諸国での理学療法の歴史や,国際団体としてのアジア理学療法連盟(Asian Confederation for Physical Therapy:以下,ACPT.図1)について考える時,植民地統治国などという立場で理学療法の発展に大きな影響を与えた国々のことを抜きにして考えることはできない.なかでもイギリスやアメリカは大きな足跡を残している.イギリスでは,1894年に理学療法士協会の前身ともいえる団体が組織され,1944年に今日のCSP(Chartered Society of Physiotherapy)が設立され,発展してきた.アメリカではAPTA(American Physical Therapy Association)が1921年に結成された(その前身団体まで遡るとさらに古くなるが,公式ホームページにはその記載がないため,本稿では省略する).

ACPT加盟国の理学療法

1.大韓民国の理学療法

著者: 李相潤

ページ範囲:P.371 - P.374

はじめに

 隣国である大韓民国(以下,韓国)では,日本の「理学療法(士)」に相当するものとして「物理治療(士)」という言葉が用いられている.韓国の法律による物理治療士の定義をみてみると「物理治療士は,温熱治療,電気治療,光線治療,水治療,機械および器具治療,マッサージ,機能練習,身体矯正運動および再活練習を行い,これらに必要な機器,薬品の使用,管理,その他の物理療法的な治療業務に従事する」と定められている1).定義の中の「再活」という用語は「リハビリテーション」を意味しており,韓国における「物理治療」とは日本における「理学療法」と同義である.ただし,日本でいう物理療法は,韓国においては「電気治療」,「水治療」,「光線治療」などの独立した治療方法として捉えられ,学問として細分化して研究が進められている.本稿では日本の理学療法(士)の意味に準じて,韓国の実情を紹介する.

2.台湾の理学療法

著者: ,   ,   ,   村木孝行

ページ範囲:P.375 - P.381

台湾における理学療法の歴史

 台湾における理学療法は1950年代に始まり,今日に至るまで発展を続けている.この歴史は啓発期,創立期,発展期,成熟期の4期に分けることができる.

3.タイの理学療法

著者: 大澤諭樹彦

ページ範囲:P.383 - P.386

タイの医療事情,社会保障の概要

 タイの医療事情は,表1に示すとおりである.医療体制は,区(tambon)レベルのプライマリケアユニット(primary care unit:以下,PCU)による一次医療,郡レベルの地域病院による二次医療,県レベルの総合中央病院による三次医療に区分される1)

 医療保険制度は,国民皆保険としての特徴を持つ「30バーツ医療制度」注1)が2002年に施行された.しかし,一次・二次医療の公立医療機関への受診が推奨される30バーツ医療制度下では2),理学療法科が設置されている三次医療機関の利用に制約が生じている.加えて,三次医療機関のベッド数不足や地理的に病院へのアクセスが困難などの問題も絡み,多くの地域住民にとって理学療法科の利用は制限されている.

4.インドネシアの理学療法

著者: 小林義文

ページ範囲:P.387 - P.391

はじめに

 インドネシアは,16世紀以降,オランダ領東インド時代から日本による統治を経て1945年に独立したが,再度オランダとの独立戦争に突入,戦争終結までに約80万人にも及ぶ犠牲者を出した.そして,1950年8月,オランダから主権を委譲されたインドネシア連邦共和国の解散に伴い,単一のインドネシア共和国が発足した.この頃,戦争で負傷し,障害を負った若者のためにリハビリテーションが開始され,ソロ(正式名称:スラカルタ)市にあるソハルソ社会リハビリテーションセンターがその拠点となった.筆者は,1984年にこのセンターを訪れて以来,細々とではあるがインドネシアとの交流を続けている.本稿では,今日までの関わりを通して,インドネシアの理学療法についてまとめる.

5.マレーシアの理学療法

著者: 久野研二

ページ範囲:P.393 - P.396

はじめに

 マレーシアは東南アジア諸国連合の中でも発展している国の1つである.国策として,日本や韓国を発展のモデルとする「東方政策」をとっており,日本とも友好的な関係を築いている.日本からも国際協力機構の青年海外協力隊として理学療法士が30名,作業療法士は33名が派遣されてきた(2008年1月時点:理学療法士が最初に派遣されたのは1980年である).

 1人あたりの国民総所得は4,960米ドルであり,インドネシアやフィリピンの約4倍である.5歳未満時死亡率(対千人)も12人と,これもインドネシアやフィリピンの約3分の1の値であり,経済発展と共に,保健・医療をめぐる状況も整備されつつある1)

 理学療法をめぐっては,1990年代後半から養成機関の新設が進み,質・量ともに発展しつつある.

6.フィリピンの理学療法

著者: 古西勇

ページ範囲:P.397 - P.401

理学療法の歴史と協会組織

 フィリピンにおける理学療法の歴史は古く,1949年,Philippine General Hospital放射線部の下に理学療法科が開かれた時にさかのぼる.リハビリテーション医学部門の歴史は1971年に始まり,そのレジデンシー・プログラム(インターン修了後,フルタイムで医師が臨床研修を受ける制度)は1974年に開始されている.したがって,フィリピンにおいては理学療法士のほうがリハビリテーション専門医(Physiatrist)よりも長い歴史をもち,リハビリテーションの礎を築いてきたといえる.

 フィリピン理学療法協会(以下,PPTA)は,1970年に世界理学療法連盟(以下,WCPT)に加盟している1).WCPTは,加盟国のニュースを発信する電子出版物において,PPTAで2006年に新しい会長に選出されたCarmelo Cunanan氏の紹介とともに,彼らがフィリピンの理学療法・作業療法法(PT・OT法)の改定を求めるロビー活動(議員に働きかけること)を重要視していることに触れている2).その中でCunanan氏はPT・OT法の「改定法案を通すことのみがフィリピンの理学療法の実践を改善できる」と述べている.

特集に寄せて:アジア諸国からのメッセージ

1.バングラデシュの理学療法

著者:

ページ範囲:P.402 - P.403

バングラデシュの理学療法について

 In the year of 1972, after the liberation war of Bangladesh, formal physical therapy Education(under graduate level under faculty of medicine, university of Dhaka)was started. In the year of 1978 two batches of physical therapists were graduated. But lack of enough facility and teachers the program was stopped and again started at 1994. Since 1972 to 2007 there are 479 numbers physical therapy practitioner in Bangladesh. Now a day, there are 6 under graduate level Institute here whose are providing physical therapy education to 698 students. All of the courses are of 5 years(4 years academic+1 year internship). In the year of 1983 and 1985 some class 1 government job for physical therapists were created. But longtime unavailability of physiotherapy practitioners, the posts was freeze.

 (訳)バングラデシュにおける正式な理学療法学教育(ダッカ大学医学部の学士レベル)は,バングラデシュ独立戦争後の1972年に始まった.1978年には2名の理学療法士が卒業した.しかし,このプログラムは設備と教員の不足により中断され,再開したのは1994年であった.国内の理学療法士の有資格者数は,1972~2007年までで累計479名である.現在,学部レベルの6つの教育機関で,698名の学生を対象に理学療法学教育が行われている.いずれも5年コースである(4年間の講義と1年間の実習).1983年および1985年に,理学療法士のための1級公務員職が創設された.しかし,長期にわたって理学療法の有資格者が得られなかったために,この職は凍結された.

2.カンボジアの理学療法

著者:

ページ範囲:P.404 - P.405

カンボジアの理学療法について

 Cambodian Physical Therapy Association(CPTA)was established by a team of Cambodian physical therapist(PT)in 1994 and was recognized by Ministry of Interior of the Royal Government of Cambodia on August 18, 1997. The association is comprised of national qualified physical therapists graduated from Technical School for Medical Care, which is under supervision of University of Health Science, Ministry of Health. In 1987 as there was so many war victim survivors, Handicap International Organization(HI)entered to Cambodia as an emergency organization to support to those victims. Amputees due to war is considered first, they may need mobility aid. To support on this we may need human resource so that PT and P & O was considered to be trained. Government at that decade called Republic people of KAMPUCHEA there is no PT and P & O human resource not just that period but since long time ago.

 Handicap International Organization negotiated to nursing school in order to establish a session pf physical therapy. The government agreed so the process of PT training was started by inviting government staff from hospital and department of social affair. 18 of them were invited to start a special course for 2 years, the instructors mostly HI foreigner staff and the training was in French. Since 1989 as we has this human resource training curriculum was Khmer and French the training was three years to get national diploma of physiotherapy. Up to 2007, there are 235 physical therapist 74 female(31.5%). Only one school called Technical School for Medical Care. 3 years training course to get national diploma degree.

 (訳)カンボジア理学療法協会(CPTA)はカンボジアの理学療法士たちによって1994年に設立され,1997年8月18日,カンボジア内務省によって承認された.同協会は,保健省医科大学の管理下にある医療専門学校を卒業し,公認資格を有する理学療法士から成る.1987年,戦争の被害者が数多くいたため,国際団体のハンディキャップ・インターナショナル(HI)が被害者支援を行う緊急援助機関としてカンボジアに入った.まず,戦争により手足を失った人たちに対する支援が検討され,移動能力に対する援助が必要なのではないかと考えられた.そのためには人材が必要であり,理学療法士および義肢装具士の養成が検討された.カンプチア人民共和国と呼ばれた当時の政府には理学療法士や義肢装具士の人材は皆無だったが,その当時だけでなく,そもそもカンボジアにはそのような人材がいなかった.

 ハンディキャップ・インターナショナルは,理学療法の講座を設置するよう看護学校に働きかけた.それに政府が同意し,病院および社会福祉局の政府職員を招いて理学療法士の養成が始まった.18人の職員が招聘されて2年間の特別コースが始まったが,講師の大半はハンディキャップ・インターナショナルの外国人スタッフであり,講習はフランス語で行われた.1989年以降,この人材養成カリキュラムはクメール語とフランス語で行われ,国が認定する理学療法の卒業資格(diploma)を得るための3年コースとなった.理学療法士の数は,2007年までで235名,うち女性は74名(31.5%)である.学校は「医療専門学校」1校のみで,diplomaを得るための3年コースがある.

とびら

自分に足りないもの

著者: 横倉益弘

ページ範囲:P.359 - P.359

 プロスポーツ選手の多くは,その主とするスポーツだけでなく,トレーニングの要素を他のスポーツや日本古来の武道などから取り入れ,「自分に足りないもの」を常に追求している.

 私は25年前,専門学校を卒業して250床の民間病院に就職した.当時,その病院のリハビリテーション部門では,あん摩マッサージ指圧師が物理療法を主とした治療を行っていたため,院内においてリハビリテーションや理学療法の認識が乏しく,「がむしゃら」に業務を行って10年が過ぎた.その間,徐々に職員,患者様やそのご家族からの理学療法に対する認識は高まり,また,各診療科からの理学療法の指示も多くなっていった.

全国勉強会紹介

岡山脊髄損傷理学療法研究会

著者: 武田正則

ページ範囲:P.406 - P.406

活動について
①目的

 脊髄損傷において主に理学療法に関する事項を岡山県の理学療法士の中で研修・連絡・研究することを目的としています.

(2)勉強・研修内容

 研修会は年3回,原則として実技中心の1日コースを2回,平日夜2時間コースを1回行っています.最近では「車いす駆動を考える」,「座る」というテーマで行いました.本会の特徴は動作と結びつけて治療を考えるテーマが多いことです.また,岡山県以外からも講師を招いています.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

インターバルトレーニング

著者: 浦辺幸夫

ページ範囲:P.407 - P.407

 持久性トレーニングを大別すると,一定負荷作業を継続する持続的トレーニング(CT)と,強弱または緩急の負荷作業を交互に繰り返す断続的(間欠的)トレーニング(IT)とがある1).インターバルトレーニングはITの代表的なものであり,スポーツ選手の競技能力を向上させる目的で行われてきたが,理学療法でも応用が試みられている.

あんてな

第10回アジア理学療法学会の企画と開催案内

著者: 丸山仁司

ページ範囲:P.408 - P.410

はじめに

 第10回アジア理学療法学会(以下,ACPT学会)は,「Moving Physical Therapy in Asia 交流と協力」をテーマに,2008年8月30(土),31日(日)の2日間にわたって開催されます.

 会場は千葉県にある幕張メッセの国際会議場(図)であり,海外からの参加者にとって成田空港からのアクセスがよいこと,設備が整っていることなどが利点です.また,東京や横浜からも便利で,近くにはディズニーランドもあります.

 開催にあたって,アジア諸国の経済状況を鑑み,参加費を通常の国際学会および国内の学会より低く設定しました(5,000円).国内外の多くの理学療法士に参加していただくことで,アジアの理学療法の世界を知り,国際交流のひろばとなるよう準備を進めています.

入門講座 運動療法の基本中の基本・5

動作練習の基本

著者: 竹中弘行

ページ範囲:P.411 - P.420

はじめに

 診療報酬においてリハビリテーション料の算定上限が設けられ,病棟における日常生活動作へのセラピストの関与が増加している.われわれセラピストには,機能的治療場面のみならず,日常生活動作の指導場面において動作の特徴を分析し,残存能力を引き出しうる環境設定や課題を選択すること,そして,患者の環境の一部として介入し,患者が行為の質的多様性を獲得していけるよう援助ができる治療技術が求められている1)

 これらを実現するために,われわれセラピストは患者の動作の特徴を知ると同時に,自分自身の知覚システム2,3)の精度を高め,患者の傾向に合わせて探索的に動ける運動の多様性を獲得することが必要である.

 本稿では,動作練習の基本として,セラピストが行う治療的誘導に視点を置き,設問に対して解説する4~6)

講座 補装具の開発変遷・1【新連載】

大腿義足のソケットの開発変遷

著者: 長倉裕二 ,   大沼雅之

ページ範囲:P.421 - P.428

はじめに

 義足ソケットはman-machine-interfaceとして重要な役割があり,高機能な義足部品を使用していても,ソケットの適合(fitting)の状態が義足の良し悪しを決定することになる.ソケット開発の変遷をみると,使用材料や材質の開発が進み,形状も大きく変化してきており,そこには製作者の考え方が様々に反映されている.本稿では,大腿義足ソケットの開発変遷とその特徴について述べ,理学療法を行う上での留意点について解説する.

報告

回復期リハビリテーション病棟患者にみる2006年度診療報酬改定の影響―在院日数,ADL,算定単位数,転帰先の変化

著者: 岩井信彦 ,   細田佳代 ,   青柳陽一郎

ページ範囲:P.429 - P.433

要旨:2006年4月の診療報酬改定が,患者の在院日数やADL能力の回復,算定単位数,転帰先にどのような影響を及ぼしたのかを検証することは,リハビリテーション(以下,リハ)医療の立場や病棟管理の面からも必要不可欠である.今回,2005年1月から2007年3月までに赤穂中央病院回復期リハ病棟に入棟した患者403名を改定前群と改定後群に分け,①年齢,性別,②発症から入棟までの期間,③入棟期間,④発症から退棟までの期間,⑤ ADL(入棟時FIM,退棟時FIM,FIM gain,FIM efficiency),⑥リハ料1日平均算定単位数,⑦ ADL加算がリハ料総算定単位数に占める割合,⑧転帰先の8項目を後方視的に調査し,比較検討した.その結果,改定後は効率的にADL能力が改善した一方で,より早期に患者を受け入れる必要が生じたこともあり,合併症などで一般病床へ転棟する症例が増えた.患者の全身状態への十分な配慮とともに,入院早期より退院後の生活を見越した対応を行い,より効率的なリハ医療の提供に努めることが重要と思われた.

Dual-taskバランストレーニングには転倒予防効果があるのか?―地域在住高齢者における検討

著者: 山田実 ,   上原稔章 ,   浅井剛 ,   前川匡 ,   小嶋麻悠子

ページ範囲:P.439 - P.445

要旨:高齢者にとって「転倒」は「認知症」とともに大きな不安要素であり,転倒の予防は,高齢社会であるわが国が抱えた重要な課題でもある.近年,その転倒要因の1つとして,二重課題(dual-task;以下,DT)条件下でのパフォーマンス能力の低下が挙げられ注目されている.そこで,われわれはDT条件下でのパフォーマンス能力を向上させる目的で,DT条件下でのバランストレーニングを考案し,地域在住高齢者を対象に,そのトレーニングの有用性について検討を行った.対象者は要支援から要介護2までの状態にある虚弱高齢者65名(84.4歳)であり,dual-task群(DT群22名),single-task群(ST群21名),コントロール群(22名)の3群に分け,12週間の介入を行った.DT群はバランストレーニングと同時に認知課題である計算や文章の音読を行い,ST群はバランストレーニングのみとしている.バランストレーニングを施行したDT群,ST群は,それぞれ身体機能向上を認めたが(p<0.05),DT条件下10m歩行時間で有意な向上を示したのはDT群のみであった(p<0.05).さらに,DT群でのみ,介入後6か月間の転倒発生状況が顕著に減少していた(介入前40.9%→介入後4.5%).これらのことから,STトレーニングでもDTトレーニングであっても身体機能を高めることは可能であるが,DT条件下でのパフォーマンス能力を向上させ,転倒を減少させるには,DT条件下でのバランストレーニングが重要であることが示唆された.今後は,多施設で検証を行い,エビデンスを構築していく必要があると考えている.

新人理学療法士へのメッセージ

―現役PTがこっそり教える―臨床理学療法虎の巻

著者: 宮本真明

ページ範囲:P.434 - P.435

 新たに理学療法士となられた皆様,おめでとうございます.理学療法士として初めての担当患者様を悪戦苦闘しながら治療されている方も多いことと思います.仕事の後は,食事もとらずに寝てしまいたいほど疲労を感じる日もあるかと思いますが,その反面,やりがいを実感できる場面も多いと思います.本稿では,今後私自身を含め,皆様が理学療法士として成長していくために,重要と考えられることをまとめてみます.

なぜ学ぶのか・2

生物学―解決策は生物に求めよ

著者: 鈴木幸子

ページ範囲:P.446 - P.448

 近年,「バイオ」と付く言葉を日常的に耳にするようになりました.「バイオ」は「生物学」の英語である「biology」に由来しています.20世紀後半の分子レベルの研究は,生命科学に膨大な情報をもたらしました.その結果,すべての生物は同じような生命の営みをもっていることが明らかになりました.その科学知識はヒトの生活に役立てられ,衣食住のみならず医療の分野,日常生活の考え方にまで影響を及ぼしています.

 ところが人類は,21世紀を生きるために解決しなければならない新たな危機にも直面しています.それは,ヒトも自然の一部であることを忘れた20世紀の私たちの生き方が原因ではないかと考えられています.生物学とは,他の動植物がどのように生きているかを知り,彼らにヒトの今後の生き方を学ぶものです.

臨床実習サブノート 知っておきたい理学療法評価のポイント・2

回復期の脳血管障害患者を担当した時

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.449 - P.455

はじめに

 脳血管障害によって起こる運動系や感覚系などの問題や可能性をどのように評価するか,表出される高次脳機能障害をどのように理解するか,これらは理学療法士にとって難しい課題である.まして,ほとんど臨床経験を持たない学生や新人理学療法士には,中枢神経障害患者の評価は五里霧中の手続き行為になっている.客観的評価を行う上で必要なことは,基準や評価尺度の活用であり,用いることばにも明確な定義が存在しなければならない.それらが極めて曖昧な中枢神経系領域の中で,果たして客観的に評価することは可能なのだろうか.運動療法やADL練習は,評価や動作分析の結果として提供されることが原則であり,理学療法評価システムの確立が求められる.

 また,脳血管障害を対象とした回復期リハビリテーション病棟の存在意義は「生活」の仕方を学ぶ場であり,単に機能障害や能力障害を評価し,アプローチするだけではその解決は難しい.人間としての個人に,また,それを取り巻く環境にも注目し,チームとして多角的に評価を行うことが大切である.

 以上のような観点から,本稿では,回復期の脳血管障害患者の評価を行う時のポイントや注意点を述べる.なお,急性期脳血管障害患者の評価について解説された前号との重複は避けるので,見落としのないように配意いただきたい.

書評

―石川 斉(著)―「筋・骨格系の機能解剖アトラス」

著者: 嶋田智明

ページ範囲:P.436 - P.436

 リハビリテーション医療では,運動器疾患に起因する様々な運動機能障害や姿勢・運動異常を扱うが,それを解決する知識・理論体系を構成する最も基本となるものが解剖学や生理学である.しかし,個々の臓器・器官の持つ独自の機能をぬきにした解剖学や生理学の知識だけでは,患者の求める質の高い医療を臨床の場で提供することは決してできない.

 機能解剖学は,解剖学が人体構造を主として扱うのに対して,それと不可分の機能との関連性およびその破錠のメカニズムや病態像を扱い研究するものである.そして,理学療法や作業療法で行われる評価・治療の理論背景をなし,「準拠の枠組み」となる重要な学問領域の1つであり,運動学の一分野でもある.本書は,医学的リハビリテーションで対象となる筋骨格系の正常構造・機能や病態を学び,その知識をもとに理学療法・作業療法の専門性の向上に積極的にフィードバックできるよう企画されたものである.

--------------------

文献抄録

ページ範囲:P.456 - P.457

編集後記

著者: 高橋哲也

ページ範囲:P.462 - P.462

 「ACPTって何?WCPTのブロックの1つじゃないの?」そんな疑問を持って,本号を手に取られた方も多いのではないでしょうか?私も日本理学療法士協会国際部の一員として活動する以前は,まったくその違いがわかりませんでした.協会本部にも十分な情報がなく,今回総論をおまとめいただいた森永氏には大変ご苦労をいただきました.貴重な資料としておまとめいただき,この場を借りてお礼申し上げます.

 さて,本年8月30日31日に,第10回アジア理学療法連盟(ACPT)学会(丸山仁司学会長)が千葉の幕張メッセで開催されます.今回の特集はこのACPT学会を迎えるにあたって,各国の理学療法事情を多くの理学療法士のみなさんで共有し,相互理解を深めるきっかけにしてもらうことを目的に組まれました.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?