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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル42巻7号

2008年07月発行

雑誌目次

特集 ヘルスプロモーションと理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.549 - P.549

 理学療法では,健康寿命の延伸に資する障害予防が本質的な課題となる.このうち,わが国の理学療法では疾病・障害の治療と再発予防に力を注いできたが,近年では,健康増進,自立支援・介護予防を含めた1次予防に対する理学療法の効果が期待されている.

 本特集では,理学療法ジャーナルとしては初めて「ヘルスプロモーション」をテーマに企画し,理学療法士の具体的な関わりについてまとめた.

ヘルスプロモーションにおける理学療法士の役割と可能性

著者: 川口浩太郎

ページ範囲:P.551 - P.560

はじめに

 あるエクササイズプログラムが150万セット以上の売り上げを記録したり,各種健康関連器具や健康関連食品が流行するなど,近年,「健康」というキーワードはもはやブームではなく,「当たり前」になった感がある.これらは「健康は自分自身で何とかするもの」という考え方の現れではないだろうか.一方,2008年から「特定健康審査(以下,特定健診)・特定保健指導」1,2)が実施され,「平成27(2015)年度には平成20(2008)年と比較して糖尿病等の生活習慣病有病者・予備群を25%減少させる」という明確な到達目標が掲げられている.この背景には「医療費の削減」という政治的背景があることは言うまでもないが,政策として対応しなければならないほど,「健康ではない」人が多く存在することを物語っている.

 「健康」を維持するためには,本人の努力もさることながら,それを取り巻く環境や人,社会や政策の整備も必要であろう.これは「ヘルスプロモーション」の概念に通じるものである.本稿では「ヘルスプロモーション」の概略を説明するとともに,その中で理学療法に関連する項目や理学療法士の役割,今後の可能性について述べる.

特定健診・特定保健指導と理学療法士の関わり

著者: 隈元庸夫 ,   伊藤俊一

ページ範囲:P.561 - P.569

はじめに

 2008年4月から,生活習慣病予防を目的とした特定健康診査(以下,特定健診)と特定保健指導が開始された.それに先立ち,「特定健康診査及び特定保健指導の実施に関する基準」[厚生労働省令第157号,平成19(2007)年12月28日.いわゆる実施基準]が定められ,実施基準の第7条第1項第2号と第8条第1項第2号に「運動指導に関する専門的知識及び技術を有すると認められる者」が特定保健指導の一部を行うことができると規定された.その実施者の基準に関して「実践的指導実施者基準」[厚生労働省告示第10号,平成20(2008)年1月17日]の第2の1において,「看護師,栄養士等であって,内容が別表第2に定めるもの以上である運動指導担当者研修を受講した者」と定められた.ここでいう「別表第2」は14項目,147時間以上の講習と実技で構成された内容となっている(表1)1).そして,(社)日本理学療法士協会(以下,協会)などの尽力もあり,この「看護師,栄養士等」とあるのは,「理学療法士」を含む趣旨であることが,厚生労働省からの特定健診・特定保健指導に関する通知[特定健康診査及び特定保健指導の実施について,平成20(2008)年3月10日,都道府県知事宛て:健発第0310007号,保発第0310001号,地方厚生(支)局長宛て:健発第0310008号,保発第0310002号]において明記され,特定健診・特定健康指導における理学療法士の参入が実現したのである.

 本稿では,特定健診および特定保健指導について,厚生労働省から発表されている資料「標準的な健診・保健指導プログラム(確定版)」(http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/info02a.html)を中心にその概要を解説し,今後,理学療法士がこれに関わるための条件(個々の学習や教育と組織としての取り組み)を提言する.

 なお,「標準的な健診・保健指導プログラム(確定版)」に整理されている標準的な実施内容には,医療保険者(あるいは委託先となる健診・保健指導機関)として必ず遵守すべき点と,できれば実施することが望ましい点が混在していることに留意する必要がある.

健康増進・内部障害に対する理学療法学教育―現状と課題

著者: 松尾善美 ,  

ページ範囲:P.571 - P.577

はじめに

 わが国では近年,メタボリック症候群や内部障害者が増加している.今後,患者数,医療費のさらなる急激な増大が予測されており,健康増進・内部障害に対する理学療法は,社会的ニーズに合致した重要な分野である.すでに,疾病に起因する内部障害で多数を占める呼吸器疾患・呼吸障害,心疾患や末梢血管疾患に対する運動療法は,国際的な各種の診療ガイドライン1~3)において重要なエビデンスとして位置付けられており,関連する国内学会においてもステートメントや診療ガイドラインを作成している4,5).また,これらに対応し,診療報酬も改定されつつある.しかし,現状では理学療法学教育はまだ社会のニーズに十分対応しているとは言えず,またオン・ザ・ジョブトレーニング(on the job training)が不足したまま養成校の教員になっているというリハビリテーション専門医からの指摘もある6).そこで,本稿ではヘルスプロモーション,健康増進・内部障害に対する理学療法学教育について,その位置付け,世界での取り組みと教育課程,日米の理学療法学教育の比較研究を紹介し,これらを通じてわが国における理学療法学教育の現状と課題を提示する.

[座談会]理学療法士によるヘルスプロモーションの実践

著者: 半田一登 ,   横地正裕 ,   高橋哲也 ,   内山靖

ページ範囲:P.579 - P.587

内山 「理学療法ジャーナル」では,過去に産業理学療法,障害予防の特集を組んだことはありますが,ヘルスプロモーションを前面に取り上げた特集は,今回が初めてです.わが国に理学療法士の制度が確立して40年以上が経ちますが,今ほどヘルスプロモーション,障害予防に重きが置かれている時代はないと思います.

 本日ご出席の先生方は,それぞれの領域でヘルスプロモーションを実践されている方々です.まず,自己紹介を含めまして,特に理学療法の職域や障害予防の重要性についてお感じのことがありましたらお話しください.

とびら

患者さんから学ぶことの大切さ

著者: 高村浩司

ページ範囲:P.547 - P.547

 日常業務の中で,患者さんの診療に携わっていると様々な疑問を持つ.その多くは患者さんの個別性についてである.臨床家として20年余り,中枢神経疾患を有する患者さんに接していると,性別,年齢とも同様で,脳のほぼ同一部位かつ損傷範囲も類似している患者さんに出会う機会も少なくない.しかし,その患者さんたちの回復過程はそれぞれに異なり,1人として同じ経過をたどる人はいないということである.

 患者さんは時として,セラピストの想像を大きく超えて驚くほどの潜在能力を発揮する場合もあれば,「このぐらいはできそうだ」と思っていた些細な動作に四苦八苦してしまうこともある.その違いは,杖や装具のあるなしで立位,歩行が獲得できるようになるなどの,具体的な機能の差として表れることもあれば,麻痺側の手や足の向き,指の曲がり具合というように,用心深く観察しなければわからないものまで様々である.

全国勉強会紹介

ニューロリハビリテーション研究会

著者: 河村章史

ページ範囲:P.589 - P.589

活動について
①目的

 脳神経科学の知見をリハビリテーションに応用するための情報交換,意見交換などを目的として設立しました.
②勉強・研修内容

 現在,年間に勉強会を5回,外来講師を招聘した研修会を1回行っています.勉強会は毎回大枠のテーマを設定し(頭頂葉,運動学習など),発表者のうち3,4名がその枠内でまとめて発表し,発表中も随時質問・意見交換をして参加者全員が何らかの形で議論に加わる形式を採用しています.研修会は脳とリハビリテーションの研究に関して高名な先生をお招きして講演形式で行っています.過去の勉強会・研修会の詳細は研究会ホームページに掲載しています.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

老年症候群

著者: 古名丈人

ページ範囲:P.595 - P.595

●定義と意義

 「老年症候群(geriatric syndrome)」とは,高齢者に多い,あるいは特有な治療が必要な症状所見の総称とされ1),1957年のJournal of the American Geriatrics Societyに初めて“geriatric syndrome”をタイトルに記した論文が認められ,以来,老年医学・医療の領域で使われてきた.老年医学では,老年症候群は,症状が顕在化する時期(前期高齢者・後期高齢者・時期によらない)により3階層に分類でき,総数は50種を超えるとされているが,その定義は未確立である.Inouyeら2)も,老年症候群は明確な病気と分類するには馴染みにくい虚弱,転倒,尿失禁,譫妄,目眩,失神などを共通の要素とする高齢者の状態であると述べながら,定義は未だ完全ではないことを記している.

 定義が確立されていない原因は,平均寿命の延伸のため,高齢期の問題が単に医学・医療的問題にとどまらず,認知・心理学領域や社会学領域を含めて学際的に拡がったこと,またICFの理念にも後押しされてそれらの諸問題を科学的かつ今日的に理解・解決しようとした結果でもある.つまり,従来,医学的に指摘されてきた項目に加え,市井で生活している高齢者にもその日常生活を阻害する症候や不具合があり,それを含め再構成したものを老年症候群と捉える必要があることによる3).具体的には,虚弱,転倒・骨折,尿失禁,低栄養,認知機能低下,口腔機能低下,閉じこもり,足部のトラブル,などの生活に支障を来す(自然)老化を背景として,心身の機能が低下している状態である.その特徴は,①明確な疾病ではない,②症状が致命的でない,③日常生活への障害が初期には小さいことなどが挙げられる.また,寝たきりとなる原因の上位を占めることから,介護予防の直接的なターゲットとなっている.近接概念として廃用症候群(disuse syndrome)があるが,老年症候群とは概念的に一線を画すべきである.“若年者は廃用症候群にはなるが,老年症候群にはならない”,つまり老年症候群は,背景に必ず(自然)老化が存在し,単にdisuseのみによる機能不全や生活の不具合に帰結できない.一方,使わないこと,重力刺激を受けないことによる器官,機能の低下は,若年者と高齢者の両者に起こりうるのである.

なぜ学ぶのか・4

英語―専門領域の「ことば」を学ぶ

著者: 飯田恭子

ページ範囲:P.596 - P.598

「英語」ではなく,専門領域の「ことば」を学ぶという視点

 Logos(logos)/ロゴスとはThe Word(of God)のことで,「ことば」,「神のことば」,さらにreason,reasoningつまり「理法」,「理(ことわり)」,またprincipleつまり「原理」や宇宙秩序の根本原理などを意味します.“-logue”という連結形はmonologue/モノローグ,dialogue/ダイアローグ,prologue/プロローグ,epilogue/エピローグにあるように,talkやspeechのことで,口上,談話,論話辞を表します.また,logic/ロジックは「論理」,logistics/ロジステックスは「論理学」であり,“-logy”という連結形はbiology/生物学,psychology/心理学,ecology/生態学,pathology/病理学などにあるように「学問」を意味します.

 このような例から示されるように,「ことば」は表現のためのツールにとどまらず,思考や論理,原理,学問の基盤,そして学問そのものとも言えます.ですから理学療法という専門領域の「ことば」は,その領域のコミュニケーション手段にとどまらず,領域の概念や理論の重要なコンポーネントであり,理学療法学そのものであるのです.理学療法学は欧米で学問体系化されていますから,その「ことば」,概念・用語はもともと英語表記です.つまり理学療法学という学問を理解し,その理論に基づき臨床を実践し,適切なコミュニケーションを行うためには,英語表記された理学療法学の「ことば」の習得が必須であり,こうした視点が学ぶうえで必要であると考えています.

入門講座 実践―基本統計学のQ&A・1【新連載】

例題から考える統計の基本―研究計画における統計理解のポイント

著者: 関屋曻 ,   高橋正明

ページ範囲:P.599 - P.605

序論

 統計処理用のコンピュータソフトが使いやすくなり,誰でもが簡単に統計処理を行える時代になりました.少し前までは,方眼紙に1つひとつのデータをプロットして散布図を作ったり,統計学テキストの数式を確認しながら電卓を片手に統計量を計算し,数表を見て判断したりすることが一般的なやり方でした.最近になってパソコンとアプリケーションソフトの普及で状況は一変しました.煩わしい計算もコンピュータを使うと瞬時に遂行でき,計算ミスをすることも少なく,たいへん効率的になりました(ソフトに誤りがなく,正しくプログラムを選択していればという条件付きですが).しかし,どんなに良いソフトウェアがあっても,変数間のどのような関係を示せば目的を果たせるのか,どの検定手法をどのように用いるかは各自が判断しなければなりません.この判断をするためには,ソフトウェアのマニュアルを読むだけでは不十分であり,数学的な理解が必要と思われます.しかし,数学的背景を十分に理解していることは望ましいに違いありませんが,完全に理解しようとすると膨大な労力と時間を要してしまいます.

 本入門講座では研究報告を読み聞きしたり,研究のデザインを考えたり,あるいは実施された実験や調査を整理する時に必要になる統計処理について,多くの人がよく抱く疑問点を取り上げ,必要最低限の数学的理解と,手法の正しい選択について,できるだけわかりやすい解説を試みます.

講座 補装具の開発変遷・2

下腿義足のソケットの開発変遷

著者: 大峯三郎 ,   舌間秀雄 ,   賀好宏明 ,   蜂須賀研二

ページ範囲:P.607 - P.615

はじめに

 臨床でもっとも多く処方されている下腿義足としてはPTB(patellar tendon bearing)下腿義足ソケットが一般的であるが,昨今ではこのPTBソケットに代わり,断端に密着して懸垂作用のあるシリコーン内ソケットを組み合わせて断端全面で荷重を行い,局所圧分散に優れた全表面荷重式ソケット(total surface bearing:以下,TSB)の製作が行われ,臨床でも使用されている.下肢切断のなかでも下腿切断者は膝関節が温存されており,原則的に日常生活において実用的義足歩行の獲得が可能であるとされている.さらに高機能を有する足継手の開発により,下腿切断者の身体的機能の改善もさることながら,趣味やスポーツ活動などQOLを含めた活動や参加において,重要な役割を果たしているのも事実である.また,新しい製作材料の応用により,ソケットを含めた軽量で丈夫な下腿義足の製作が可能となり,切断者の義足に対するニーズを今まで以上に具現化することが可能となってきている.

 一方,近年の下肢切断者の切断原因の疫学的傾向をみると,圧倒的に高齢者の割合が増加しており,その原因も閉塞性動脈硬化症や糖尿病に起因する血管原性によるものが大部分を占めている.一般的には,外傷性の切断者と比較して,身体的能力の低下や易疲労性,さらに糖尿病や高血圧症などの合併症による様々な身体的な制限をより多く有しているため,これらの身体的状況に応じた下腿義足の処方が必要になってくる.加えて,ソケットの適合性や装着性を考慮しながら,既成のソケット概念にとらわれずに様々な創意工夫のもとで,義足ソケットを提供していく必要性がある.また,実用的歩行にこだわらずに積極的な歩行補助具の導入を図ることで,社会参加あるいは活動性を高めていくなどの配慮も重要となってくる.

 義足あるいはソケットの開発変遷の歴史的背景として,戦争が1つの契機となり,技術的革新がもたらされることで発展してきた経緯がある1,2).特に,PTB下腿義足の開発は画期的であり(第二次世界大戦終了までは大腿コルセット付きの在来式下腿義足が用いられていた),現在の下腿義足ソケットの発展における重要なターニングポイントとして位置づけられている.このイベントを契機として,臨床的応用の過程のなかで種々の改良が加えられ,PTS(Prothèse Tibiale à Emboitage Supracondylien)ソケットあるいはKBM(Kondylen Bettung Münster)ソケットの開発へとつながり,さらにこれらの延長線上としてTSBソケットの概念が存在すると考えられる(図1).

 武智2)は,今日の義肢・装具の技術や人権思想は非常に長い歴史的変遷を経て形作られたものであり,それらを知ったうえで未来のテクノロジー,社会制度を考える必要性を説いている.このような歴史的変遷を背景として,義肢の開発や進歩については,利用者の絶え間ない義肢に対するニーズと,リハビリテーション専門職からなるチームワークとのコラボレーションによって加速されてきた.

 本稿では,在来式,PTB,PTS,KBMやTSBなどの下腿義足ソケットの開発経緯について概説し,さらにこれらの特性,理学療法との関連性や課題などについて述べる.

臨床実習サブノート 知っておきたい理学療法評価のポイント・4

パーキンソン病患者を担当した時

著者: 吉田久雄

ページ範囲:P.617 - P.623

はじめに

 パーキンソン病は,多彩な症状を示しながら進行(増悪)する疾患であるため,その症状,状態,経過は患者によって異なる.残念ながら,現時点では完治のための治療法が確立されておらず,症状などによりいくつかの治療法を組み合わせて対応しており,理学療法もその1つである.

 筆者がパーキンソン病患者を担当する時には,問題解決型の理学療法プログラムではなく,目標指向型の理学療法プログラムを立案することを心がけている.また,パーキンソン病患者が「今」示す「状態」には,現在の治療法,今までの治療法,合併症などの影響と,また患者自身の病気に対する認識(受容),患者を取り巻く様々な環境要因が影響を与えているため,ICF(International Classification of Functioning,Disability and Health. 図1)の考え方は,患者の評価と分析,そして治療プログラム立案には欠かせないものである.

 パーキンソン病に対する理学療法の有効性については,議論のあるところでもあるが,理学療法が患者のQOLの向上に役立つことが多いのも事実である.本稿では,筆者の実践を中心に,パーキンソン病患者に対する理学療法評価のポイントについて述べる.

報告

脳梗塞急性期の起立運動における収縮期血圧の変動に関する検討

著者: 高石真二郎 ,   秦和文 ,   小峰美仁 ,   間嶋満

ページ範囲:P.625 - P.629

要旨:近年,脳梗塞急性期の理学療法において,起立運動が積極的に施行されている.脳梗塞を発症し,離床後,初回の起立運動を施行した患者138名を対象に,安静臥位から起立運動後に至るまでの臥位時,座位時,立位時と起立運動直後の収縮期血圧を測定し,起立運動が血圧変動にどのような影響を与えるかを検討した.臥位時の収縮期血圧を基準として起立運動後の収縮期血圧の増減を求め,増加,または低下しなかった群(Ⅰ群),1~20mmHg低下した群(Ⅱa群),20mmHg以上低下した著明な低下群(Ⅱb群)の3群に分けた.起立運動後,Ⅰ群は86名,Ⅱa群は43名,Ⅱb群は9名であった.3群間において,起立運動施行前の臥位時の血圧に有意な差が認められたが,年齢,臥床期間,座位時血圧,立位時血圧,麻痺(下肢)の重症度には差がなかった.脳梗塞急性期に起立運動を施行する時は,運動前後の血圧のみでなく,起立運動施行前の安静臥位時の血圧が起立時の血圧を予測するうえで重要である.

書評

―嶋田智明,他(編)―「課題別・理学療法技術ガイド」

著者: 有馬慶美

ページ範囲:P.590 - P.590

 「課題別」.なんとも心惹かれる切り口である.なぜならば,理学療法士の使命は,患者が抱える問題(課題)を解決することにあるからである.たとえば,片麻痺患者は脳卒中という疾患自体に困っているわけではない.脳卒中により起こった「歩行障害」などに困っているのである.つまり,これらの「課題」を解決してはじめて理学療法士の役割が完遂する.したがって理学療法士として知りたいのは,患者が抱える「課題をどうとらえ,いかに実践するか(本書副題)」なのである.この切望していた知識や技術そして実践例が本書にある.ここに他書にない優れた切り口を見出すことができる.

 これまでに出版された理学療法関連書籍を分類すると,その内容から2つの軸が存在する.1つは理学療法技術別の軸であり,もう1つは疾患別の軸である.本書の先行シリーズである「図解理学療法技術ガイド」では技術軸と疾患軸から理学療法をガイドしている.続編である「アドバンス版」は技術軸を掘り下げた内容である.実際の理学療法はというと,症例に応じて疾患軸と技術軸の交点を見出して実践される.そこに一石を投じるのが本書である.患者が抱える解決すべき課題を遭遇頻度の高いものから明確に提示し,その解決方法を明快に,かつ実践的にガイドしている.そういった意味から,本書は疾患軸と技術軸の交点を明示し,それを掘り下げた第3の軸(課題軸)の書籍といえる.本書は理学療法書籍に新たな課題軸を授けたという意味でも一読に値し,またそれを読む者に新たな理学療法の捉え方を与えてくれるであろう.

―網本 和(編著)―「理学療法ケーススタディ良好/難渋例の臨床」

著者: 森岡周

ページ範囲:P.592 - P.592

 対象となる疾患のみを診るのではなく,個々人として診て,それに応じたオーダーメードな治療を計画し,実施する.そのようなことは,理学療法の臨床において当たり前であると思っていても,なかなか実践するのは難しい.

 本書は編者の長年の臨床経験と臨床研究に基づき,理学療法において,常日頃,ケーススタディを行うことの重要性を説いている.特に,序章となる「ケーススタディのすすめ」においては,福沢諭吉の『学問のすすめ』を例に,ケースから学ぶことの大切さを強調している.理学療法士の経験が知恵として実るためには,机上の知識に加えて,やはり毎日の臨床において思考し,体感したことを統合することが重要である.臨床研究におけるシングルケースパラダイムへの転換を切に願っている編者の文章には,理学療法士として無意識に共感してしまう.

―渡邉英夫(著)―「脳卒中の下肢装具―病態に対応した装具の選択法」

著者: 川村次郎

ページ範囲:P.606 - P.606

 渡邉英夫先生がこれまで長年にわたり装具についての紹介や解説を,学会誌『リハビリテーション医学』や『日本義肢装具学会誌』,臨床雑誌『総合リハビリテーション』などに,またリハビリテーションや装具に関する単行本に数多く執筆されていることは周知の通りである.また独自に創案された「すぐ装着できる下肢装具」もよく知られている.本書はその渡邉先生が脳卒中の下肢装具についてまとめられたハンディーな実用書である.

 脳卒中の下肢装具の種類は実に多種多様で,脳卒中リハビリテーションや装具の専門家でさえも,各装具がどのような構造の装具で,その機能や特徴が何なのかを直ちにイメージするのは容易ではないのが現実であろう.かつて筆者は脳卒中の下肢装具の構造や特徴をまとめた一覧表はないものかと数多くの単行書を参照したが見つけることができず,自ら作成しようと内外の数百のオリジナル論文の収拾と整理に随分苦労した経験がある.数多くの下肢装具の中から目の前の脳卒中片麻痺患者に最適の装具を選択するのは,脳卒中リハビリテーションに従事する医師にとっても容易ではないのである.

―茨木 保(著)―「まんが 医学の歴史」

著者: 山田貴敏

ページ範囲:P.624 - P.624

 天は二物を与えずとはよく言いますが,この『まんが医学の歴史』の著者茨木保という人,その範疇にはないようです.

 そもそも医者になる人間は,私が考えるにそれだけで選ばれた人間だと思うのですが,この人,漫画まで描いちゃう.

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文献抄録

ページ範囲:P.630 - P.631

編集後記

著者: 内山靖

ページ範囲:P.634 - P.634

 What is physical therapist?

 この問いに対する世界標準を明確にして啓発することが,世界理学療法連盟(WCPT)の本質的な目標である.世界各地において医師や看護師の名称は広く知られており,また,その業務内容も概ね共通の理解がなされている.理学療法士は,英語標記の不統一さや類似職種の存在もあって,名称そのものの認知は十分とはいえない.また,業務範囲や権能は各国の保健制度によっても異なっている.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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