講座 補装具の開発変遷・2
下腿義足のソケットの開発変遷
著者:
大峯三郎
,
舌間秀雄
,
賀好宏明
,
蜂須賀研二
ページ範囲:P.607 - P.615
はじめに
臨床でもっとも多く処方されている下腿義足としてはPTB(patellar tendon bearing)下腿義足ソケットが一般的であるが,昨今ではこのPTBソケットに代わり,断端に密着して懸垂作用のあるシリコーン内ソケットを組み合わせて断端全面で荷重を行い,局所圧分散に優れた全表面荷重式ソケット(total surface bearing:以下,TSB)の製作が行われ,臨床でも使用されている.下肢切断のなかでも下腿切断者は膝関節が温存されており,原則的に日常生活において実用的義足歩行の獲得が可能であるとされている.さらに高機能を有する足継手の開発により,下腿切断者の身体的機能の改善もさることながら,趣味やスポーツ活動などQOLを含めた活動や参加において,重要な役割を果たしているのも事実である.また,新しい製作材料の応用により,ソケットを含めた軽量で丈夫な下腿義足の製作が可能となり,切断者の義足に対するニーズを今まで以上に具現化することが可能となってきている.
一方,近年の下肢切断者の切断原因の疫学的傾向をみると,圧倒的に高齢者の割合が増加しており,その原因も閉塞性動脈硬化症や糖尿病に起因する血管原性によるものが大部分を占めている.一般的には,外傷性の切断者と比較して,身体的能力の低下や易疲労性,さらに糖尿病や高血圧症などの合併症による様々な身体的な制限をより多く有しているため,これらの身体的状況に応じた下腿義足の処方が必要になってくる.加えて,ソケットの適合性や装着性を考慮しながら,既成のソケット概念にとらわれずに様々な創意工夫のもとで,義足ソケットを提供していく必要性がある.また,実用的歩行にこだわらずに積極的な歩行補助具の導入を図ることで,社会参加あるいは活動性を高めていくなどの配慮も重要となってくる.
義足あるいはソケットの開発変遷の歴史的背景として,戦争が1つの契機となり,技術的革新がもたらされることで発展してきた経緯がある1,2).特に,PTB下腿義足の開発は画期的であり(第二次世界大戦終了までは大腿コルセット付きの在来式下腿義足が用いられていた),現在の下腿義足ソケットの発展における重要なターニングポイントとして位置づけられている.このイベントを契機として,臨床的応用の過程のなかで種々の改良が加えられ,PTS(Prothèse Tibiale à Emboitage Supracondylien)ソケットあるいはKBM(Kondylen Bettung Münster)ソケットの開発へとつながり,さらにこれらの延長線上としてTSBソケットの概念が存在すると考えられる(図1).
武智2)は,今日の義肢・装具の技術や人権思想は非常に長い歴史的変遷を経て形作られたものであり,それらを知ったうえで未来のテクノロジー,社会制度を考える必要性を説いている.このような歴史的変遷を背景として,義肢の開発や進歩については,利用者の絶え間ない義肢に対するニーズと,リハビリテーション専門職からなるチームワークとのコラボレーションによって加速されてきた.
本稿では,在来式,PTB,PTS,KBMやTSBなどの下腿義足ソケットの開発経緯について概説し,さらにこれらの特性,理学療法との関連性や課題などについて述べる.