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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル42巻8号

2008年08月発行

雑誌目次

特集 介護保険下の理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.637 - P.637

 医療と介護の枠組みが大きく変わってきた.理学療法においても医療から介護へのシフトが進められている.社会制度そのものが多くの課題を持っており,介護保険が未熟なままでの医療からの移行に現場の不安も強い.一方で,不安定な時期こそビジネスチャンスでもあり,介護保険下での理学療法を積極的に展開して職域を拡大している人たちもみられる.介護予防における理学療法士の活動内容も問われているが,特に客観的な運動器の評価と機能向上については確かな専門性が問われる.医療から介護への移行における課題と展望を示し,実際に介護保険下で積極的に活動している理学療法士たちから,その取り組みと心構えなどを紹介していただいた.

医療から介護への移行と課題

著者: 浜村明徳

ページ範囲:P.639 - P.647

はじめに

 2006年度の診療報酬と介護報酬の同時改定で,医療保険においては急性期・回復期,介護保険では維持期のリハビリテーション(以下,リハ)を担うという役割分担が行われた.しかし,地域間や保険制度間のリハ提供量の格差などの問題から,継続したリハが提供されにくいという意見を考慮して,2007年度には,維持期におけるリハ診療報酬の改定が行われた.2008年度の診療報酬改定では,2010年までに限って,疾病別に13単位/月とする維持期のリハ料が認められた.これは,2009年度の介護報酬改定を見込んだ設定であると考えられる.

 医療から介護への移行(つなぎ)では,まず,どのようなリハ的対応が期待され,実施されるべきなのかが問われ,次に,それを実践する仕組み・制度が課題となる.現状は,実践と仕組みの双方に課題があり,移行がうまくいっていないケースが多くみられる.

 現在,老人保健健康増進等事業による研究事業が行われ,それらの結果を踏まえた提案も整理されつつある.本稿では,研究事業の結果などから,医療から介護への移行に関する課題について私見を述べる.

介護保険による理学療法の展開

著者: 塩中雅博

ページ範囲:P.649 - P.656

はじめに

 わが国における理学療法士の勤務先の内訳をみると,その70%以上は医療機関に勤めている(2008年3月時点).診療報酬改定のたびにリハビリテーション領域に対する評価が厳しさを増す中,理学療法士の将来に対する閉塞感は,着実に広がりつつある.さらに,2008年4月時点において,理学療法士の有資格者数は65,571名,全国の養成校の入学者定員総数は12,524名,卒業生は年間8,162名を数えており,まもなく理学療法士が毎年1万人誕生する時代を迎えようとしている.社団法人日本理学療法士協会は,理学療法士10万人時代,30万人時代に備えて,公的医療・介護保険領域における役割の拡大や報酬の向上,さらにはヘルスプロモーションや介護予防の領域など,新たな枠組みにおける理学療法士の職域の拡大に向けた様々な取り組みを進めている.

 筆者は,理学療法士になって今年で25年目である.養成校を卒業した後,急性期の医療機関に8年間勤務し,その後は専門学校や大学で専任教員を務めてきた.大きなターニングポイントとなったのは,2000年から開始された介護保険制度であった.

 介護保険制度の導入が決まった当時,有資格者を送り出す側の教員として勤務していた筆者は,次世代の理学療法士にどのような環境を作れるか,理学療法士界全体にとって大きなチャンスだと感じていた.従来の医師を中心とした医療リハビリテーションだけでは,本来の意味における「リハビリテーション」のすべてを完結することは不可能である.今後,さらなる高齢化が予想されるわが国においては,生活自立を力強く支援することができる地域リハビリテーションシステムが必要であり,その実現に向けては理学療法士の知識や技術が大いに活用できると考えたのである.

 まず,地域で理学療法士に何ができるのかを,しっかりと位置付けた地道な実践が必要と考え,医師会や各かかりつけ医,地域で働く看護師やホームヘルパーと共に,どのような取り組みが可能なのかディスカッションを重ねた.

介護予防と運動器の機能向上

著者: 大渕修一

ページ範囲:P.657 - P.663

はじめに

 介護予防とは,高齢者が要介護状態に陥ることなく健康でいきいきとした生活を送れるように支援することである.また,既に要介護状態である場合に,重度化を予防することも介護予防である.介護予防は,2000年の介護保険法施行と同時に制度化され,実施されてきたが,2006年の介護保険法改正により,介護保険制度は予防重視型システムへと転換し,介護予防のさらなる推進が図られることとなった.

 この制度改正により,高齢者人口が増加するペースを大きく上回っていた要介護認定者の増加数も,適正水準に向かっている.また,内閣府の策定した新健康フロンティア戦略の中でも,現在,高齢者の7人に1人を占める要介護者を,2014年までに10人に1人にするという具体的な数値目標を掲げており,一層の介護予防推進が国家的に図られることとなっている.理学療法士にとっては,医療の中心が病院から地域へと移行されつつあること,心身機能の低下を介入の対象とすることから,介護予防分野についても積極的な関わりが求められている.本稿では,介護予防の中でも理学療法との関わりが深い運動器の機能向上について概観する.

[座談会]介護保険下の理学療法―課題と展望

著者: 岡田しげひこ ,   吉田隆幸 ,   小山理恵子 ,   牧田光代

ページ範囲:P.665 - P.674

牧田 本日司会をさせていただきます牧田です.私は,理学療法士になってから25年ほどは一般病院,大学病院に勤め,介護保険制度が開始された平成12(2000)年には福祉施設に勤務していました.現在は大学で教員をしています.

 介護保険制度が施行された背景には,長寿化,少子高齢化,核家族化,女性の社会進出などがあり,増加する高齢者を社会全体で支援しようという理念のもとに開始されました.また,医療保険財政の安定化という側面もあり,従来の老人福祉・老人医療の制度を介護保険制度に再編成して,在宅医療・在宅ケアへの移行が推進され,われわれの業務のあり方にも大きな変革をもたらしました.その後,平成18年の介護保険法改正に伴い,介護保険制度は予防重視型システムへ転換しました.

とびら

理学療法を論ずるのは易しいが,その要を伝えるのは難しい

著者: 丸田和夫

ページ範囲:P.635 - P.635

 「ちょっこしやってみまっし,からだを動かす意味がわかるはず」

 これは,とある地域で開催された「高齢者学級」での講演テーマである.

初めての学会発表

全国デビュー!

著者: 山内真哉

ページ範囲:P.678 - P.679

 「お前もいよいよ全国デビューやな!」勤務先の先輩方にそうからかわれながら,私は福岡へと向かいました.「全国デビューって,歌手じゃないんやから…」心の中でそうつぶやきながらも,内心はデビュー前の歌手のように期待と不安でいっぱいでした.

 2008年5月15~17日にかけて,第42回日本理学療法学術大会が福岡で開催されました.私はそこで初めての学会発表に臨みました.学会の数か月前,研究デザインの作成からスタートしましたが,発表に至るまでの道のりは長く険しいものとなりました.今回は,研究の準備から実際に学会で発表するまでの悪戦苦闘の日々と,学会を終えての感想を紹介したいと思います.

全国勉強会紹介

マニュアルセラピー研究会

著者: 宮本重範

ページ範囲:P.682 - P.682

活動について
①目的

 マニュアルセラピーの技術指導を通して,筋・骨関節系障害に対する系統的な評価・診断,治療の技術力を高め,適切で効果的な理学療法を提供できるようにする.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

インピンジメント

著者: 立花孝

ページ範囲:P.683 - P.683

●インピンジメント(impingement)とは

 インピンジメントは「~に突き当たる,衝突する」という意味で,整形外科領域においてもその意味の通りに一般的な言葉としても使用されるが,殊に肩に関するある病態を表す言葉として半ば固有名詞的に認識されている.つまり,肩甲骨肩峰下と上腕骨頭との間(第2肩関節)で生じる衝突に由来する障害のことをimpingement syndrome,impingement lesions,あるいは単にimpingementと表現する.

 従来より,この肩峰下での障害に対して,肩峰切除術が諸家により提唱されてきた(Watson-Jones,Smith-Petersen,McLaughlin).切除する範囲は報告者により異なるものの,肩峰を全層的に切除(acromionectomy)したため,三角筋の起始部を失ったことによる弊害が起こった.これに対し,Neer1)は衝突が起こるのは肩峰下面の前方1/3のみであるとの見地から,三角筋起始部を温存し,衝突する部分のみを水平にそぎ落とす方法(anterior acromioplasty)を提唱した.これ以降,インピンジメントという言葉が“Neer”とセットで固有名詞化していったようである.さらにNeer(1983)は,烏口肩峰アーチ(つまり棘上筋の出口)の形状が原因のものをoutlet impingement,そして元来インピンジメントの主役であった石灰沈着や大結節の変形治癒などをnon-outlet impingementと分類した.前者を3つのステージに分け,急性の肩峰下滑液包炎(スポーツによるオーバーユースなど)をステージ1,慢性の肩峰下滑液包炎や腱板炎(五十肩など)をステージ2,腱板不全断裂,腱板完全断裂,骨棘形成をステージ3として,インピンジメントが重症化していくなかで腱板が滑液包側から断裂していくとした.これに対し,腱板不全断裂はそのほとんどが関節面側にあり滑液包側ではないことから,断裂が滑液包側から起こるという説には異論を唱え(Uhthoff,信原2)),ステージ3を否定する者もある.

なぜ学ぶのか・5

心理学―「心」を科学的に理解するために

著者: 長田久雄

ページ範囲:P.684 - P.686

 心理学とは,どのような特色をもつ分野であろうか.心理学を学ぶことは,実生活や他の専門分野の学習,あるいは臨床などの場面でどのように役に立つであろうか.この問いに簡潔かつ明快に答えることは容易ではない.なぜなら,筆者が心理学のすべての領域を十分に把握しているわけでもなく,個人的に心理学が役に立つと実感できた経験にも限りがあるからである.ともあれ,以下の内容から少しでも心理学を学ぶ意義や役立つ情報を汲み取っていただければ幸いである.

入門講座 実践―基本統計学のQ&A・2

例題から考える統計の基本―記述統計における理解のポイント

著者: 関屋曻 ,   高橋正明

ページ範囲:P.687 - P.693

 実験や調査を行って得られた測定値を生データ(raw data)と呼びますが,生データのままでは実験や調査の結果を理解したり他者に伝えたりすることが困難なことがほとんどです.得られたデータを整理・集約して,客観的かつ正確に,わかりやすく記述するための方法論を記述統計学と呼んでいます.記述統計学は“観察された集団”の統計的性質を記述することを主な目的とし,観察される集団は現実的で具体的な集団(例えば何年何月時点の日本の人口など)です.その特性の把握には主として大量観察が行われますが,もちろん少数データにも適用されます.統計学には記述統計のほかに推測統計があり,統計学というと推測統計学が中心であるかのように語られることがありますが,推測統計を行う場合でも,その前段階として記述統計学の方法を用いて生データを整理・集約することが必須です.これを軽視すると正しい理解が損なわれることがありますし,正確に情報を伝達することが困難となります.本稿では,記述統計学の方法論の中から,理学療法に関連の深い内容を取り上げて,できるだけわかりやすい解説を試みます.

講座 補装具の開発変遷・3

プラスチックAFOの開発変遷

著者: 島津尚子 ,   畠中泰司

ページ範囲:P.695 - P.703

はじめに

 短下肢装具(以下,AFO)の材料として,従来は金属や皮革が使用されていたが,1967年にSimonsら1)によりプラスチックが取り入れられて以降,プラスチックはAFOの主材料として多く利用されている.わが国では,1975年の有薗2)によるオルソレンを使用したAFOの報告が最も古く,その後,プラスチックの素材やAFOの種類の多様化に伴い多くの報告がなされてきた.

 本稿では,AFOの機能の説明と代表的なプラスチックAFOの紹介,臨床場面で最も使用頻度の高い脳卒中片麻痺者における使用方法について述べる.

あんてな

平成20年度診療報酬改定の概要

著者: 泉清徳

ページ範囲:P.707 - P.713

はじめに

 2008年4月に診療報酬の改定が行われた.高齢社会,少子化問題,メタボリック対策,医師不足,後期高齢者制度問題など,医療を取り巻く問題は後を絶たないが,増大する医療費の削減,抑制は国としても急務であろう.そのようななか,診療報酬改定率(本体)は0.38%とわずかではあるがプラス改定となっている.しかし,薬価改定率においてはマイナス1.2%であり,全体改定率としてみればマイナス0.82%の改定となった.改定は病院勤務医の負担軽減,医療費の適正化・見直し,後期高齢者にふさわしい医療体制の整備などを柱に行われ,リハビリテーションにおいても“患者から見てわかりやすい医療を実現する”という基本方針に基づいて見直された.

 今回の改定は,単なる診療点数や制度などの変更だけではなく,リハビリテーション医療に携わる者にとって非常に大きな意味をもつ改定ではないかと考えている.その点を踏まえ,本稿では今回の診療報酬改定の概要について解説する.

書評

―嶋田智明・大峯三郎(編)―「実践MOOK・理学療法プラクティスこれだけは知っておきたい脳卒中の障害・病態とその理学療法アプローチ」

著者: 小野武也

ページ範囲:P.676 - P.676

 理学療法の対象で最も多いのは脳卒中患者である.当然のことながら,多くの新人理学療法士は脳卒中患者を受け持つことになる.新人理学療法士が患者の持つ多様な障害像を理解するためには多くの書籍にあたる必要がある.そこで,本書は「新人の理学療法士が臨床現場に臨むために土台となる知識・技術はなにか?」について徹底して内容を吟味・厳選し,まとめあげられていることが最大の特徴である.そのため,新人理学療法士は,本書を通して効率的に短時間のうちに重要なポイントを学習できる.また,理学療法を実施していくには,経験を踏まえた先輩からのアドバイスが不可欠である.本書は,この点も含めて企画された良書である.

 内容は,パート1「脳卒中患者を受け持ったらどうするか」では,「PTが知っておくべき神経画像のみかた~症状と画像は関連している」,「多様な病態をどう評価するか」,「治療目標と理学療法プログラムの立て方」,「患者との接し方」について,パート2「ICFから見た理学療法介入のポイント」では,「機能障害に対して」,「活動制限・参加制約に対して」,「わたしはこうしている」についてまとめられている.これらは,シンプルで基本的事項を網羅し,さらに全体を通して実践的マニュアル本ともいえるものである.

―玉木 彰(編)―「DVDで学ぶ呼吸理学療法テクニック―呼吸と手技のタイミングがわかる動画91」

著者: 居村茂幸

ページ範囲:P.680 - P.680

 日本の理学療法士が対象としている疾患は,その誕生の歴史を反映して現在も脳卒中や骨関節系の疾患が上位を占めてはいる.ただ,内臓障害に起因する疾患,なかでも呼吸機能の障害に対する理学療法件数が,全体の割合は高くはないものの,新たな疾患別健康保険制度に追い風を受けたためか急速に増加していることが近年の特徴である.この呼吸障害に対する理学療法学教育を振り返ると,臨床としては古い歴史を持つものの,実際にどの程度熱心に教育されていたかはいささか心許ない.どれほどの需要,すなわち医師からの指示がどの程度あったかも考えなくてはならないが,この障害に対する理学療法が,理学療法学の辺境として一部の理学療法士によって細々と行われてきたと言っても過言ではない現実もあった.

―林 義孝(編)―「DVDで学ぶ運動器疾患の理学療法テクニック―臨床的感性をみがく動画106」

著者: 鶴見隆正

ページ範囲:P.704 - P.704

 骨関節系疾患の理学療法アプローチ過程と治療テクニックを自学自習できる実践書が出版された.それを端的に表しているのが本書の帯に記された「プロの理学療法をテキスト・動画・ナレーションで徹底理解」の文言であり,本書の内容を知りたいという衝動に駆り立てられた.

 臨床現場では,効果的な理学療法が求められており,いかに治療テクニックを適応するかがポイントとなるが,卒前教育では各疾患に対する基本的な講義,実技指導にとどまっているのが現状である.それゆえに臨床の最前線に立った際の理学療法士のとまどいは大きく,視聴覚機能を有した治療テクニック中心の書籍の出版が待ち望まれていた.それだけに今回のDVD付の本書の出版は実にタイムリーであると言える.

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文献抄録

ページ範囲:P.714 - P.715

編集後記

著者: 吉尾雅春

ページ範囲:P.720 - P.720

 7月7~9日にかけて北海道洞爺湖サミットが開催されましたが,北海道では春からサミット終了まで,いたる所で厳重な警備態勢がしかれました.各国の政府専用機がずらりと並んだ千歳空港周辺や洞爺湖畔だけではなく,田舎の国道でも検問を行っていましたし,山菜採りに行った山中でパトカーを見かけたこともあります.わが家のすぐ近くにはG8某国の領事館がありますが,4月からサミット終了まで,アリが入り込む隙間もないくらいの厳戒態勢で,おかげさまでその期間は非常に安全な街になっていました.とりあえず,大きな事件・事故もなく終了し,各方面の関係者は安堵されたことでしょう.

 サミットに先立って,札幌では登山家の野口健氏による環境フォーラムが開かれました.地球温暖化を主題とした講演とシンポジウムで構成されていましたが,野口氏の実体験に基づくヒマラヤの氷河の現状報告には説得力がありました.会場には,地球温暖化によって海中に消えゆくであろうと言われる南洋の国ツバルを写真で報告し続けている遠藤秀一氏の姿もあり,自身の生活のあり方を改めて問い直すよい機会になりました.しかし,環境サミットとさえ言われた北海道洞爺湖サミットの総括を聞いた時,サミット期間中,洞爺湖一帯がほとんど晴れ間を見せなかったことと重ねて受け止めたのは,私だけではなかったかもしれません.「世界は地球環境と食料問題などを中心にparadigm shiftしていくべきである」とその道の専門家たちは声を揃えて述べていましたが,地球よりもそれぞれの国益が優先されるという展望のない結論に私は落胆してしまいました.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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