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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル42巻9号

2008年09月発行

雑誌目次

特集 褥瘡の予防と治療―理学療法の役割

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.723 - P.723

 リハビリテーションでは,拘縮と褥瘡を防ぐことの重要性が強調され,近年では,医療機関において体位変換が行われないために発生する褥瘡は減少してきた.一方,高齢社会を迎えて長期間にわたる介護における廃用症候群や,重度な障害や病態に起因する積極的な治療対象としての褥瘡は重要なテーマである.本特集では,褥瘡の予防と治療を含めたケアに対して理学療法にどのような効果が期待できるのかとともに,チーム医療としての褥瘡対策の実際を明らかにする.

褥瘡の予防と治療における理学療法の役割

著者: 廣瀬秀行

ページ範囲:P.725 - P.731

はじめに

 褥瘡は,廃用症候群の1つであり,リハビリテーションの対象となる病態であるが,皮膚や創部を評価する必要があること,そして運動負荷によって悪化の危険性があることなどから,理学療法の中では十分な取り組みが行われてこなかった経緯がある.褥瘡の治癒する過程をみていくと,人間の再生能力の素晴らしさとともに,理学療法士による対応の成否によって経過が異なることがわかる.本特集をきっかけに,多くの理学療法士が皮膚の状態や褥瘡に関心をもち,褥瘡治療や予防に対する取り組みが増えることを期待している.

褥瘡に対する物理療法と運動療法

著者: 日髙正巳

ページ範囲:P.733 - P.738

はじめに

 褥瘡は,外力(圧力・せん断力)が持続的に加わることで組織が虚血状態に陥って発生し,一旦形成されると褥瘡治療が優先されるため,活動性の向上を図るうえで大きな阻害要因となる1).褥瘡は,生活機能向上を目的とした理学療法においては,プログラムの進行を遅延させる阻害要因として捉えられることが多いが,治療医学としての理学療法においては治療対象として捉える必要がある.すなわち,褥瘡を阻害要因としてのみ捉えるのか,治療対象として捉え,積極的に関わっていくのかによって,その取り組みに大きな差が生じる.既に,海外では理学療法士が褥瘡の予防ならびに治療に関わり,種々のエビデンスを示すに至っており2,3),本邦においても,理学療法としての積極的な介入が期待されるところである.理学療法士が褥瘡対策委員会の一員としてのみではなく,理学療法介入として褥瘡予防ならびに治療に関わる枠組みを図1に示す.本稿では,褥瘡に対する理学療法介入の実際と,認定理学療法士の養成課程の私案を示す.

脊髄損傷者に対する褥瘡の予防と治療

著者: 篠山潤一

ページ範囲:P.739 - P.746

はじめに

 脊髄損傷者にとって褥瘡の発生は,活動性を著しく低下させるだけでなく,社会復帰後においては長期の休養・休職を余儀なくする要因となるため,社会生活に大きな影響を及ぼす.褥瘡は,看護師だけが予防やケアに関わるのではなく,医療チームが準備と計画性を持って共通認識の下に対応することが必要であり,その医療チームの一員として,理学療法士は褥瘡の予防・治癒促進に貢献できる.本稿では,脊髄損傷者の褥瘡に対する当院での取り組みを中心に,理学療法士の関わりについて述べる.

褥瘡対策委員会における理学療法士の役割と効果

著者: 當房加奈子 ,   日野智絵美 ,   辻義輝 ,   藤田貴士 ,   中村一平

ページ範囲:P.747 - P.752

はじめに

 わが国は未曾有の「超高齢社会」を迎えようとしている.国立社会保障・人口問題研究所の報告によると,わが国の65歳以上の高齢者の割合は, 2005年の時点で全人口の20.2%に達しており,さらに2025年には30%を超え,2050年以降は40%をも超えるという予測を立てている.高齢化の進展に伴い,脳卒中や骨折,認知症などの有病者が増加することが予想され,これらの疾病による治療上の安静臥床は筋力低下や関節拘縮を招き,歩行や起き上がり,寝返りさえも困難となり,結果として寝たきり状態になることも多い.そして,寝たきりの状態になれば,褥瘡発生のリスクが高まる.ひとたび褥瘡ができると,褥瘡の治療や処置のために入院期間が延長され,処置費用・入院費用の増大につながり,社会経済的にも大きな不利益が生じる.また,決められた時間ごとの体位変換にも多くの人員が必要であり,その管理にも労力と時間を費やしてしまう.もちろん,リハビリテーションを行う上でも大きな阻害因子になる.そして何よりも,患者本人の身体的・精神的苦痛が最も深刻である.現在,わが国の寝たきり率は欧米諸国よりも高く,高齢化の進展により今後も褥瘡有症者の増加が危惧される.

 このような状況の中,厚生労働省(以下,厚労省)は2002年4月の診療報酬改定において,入院基本料・特定入院料の算定にあたり「褥瘡対策につき十分な体制が整備されていること」という基準を設けた.次いで,褥瘡の発生予防,発症後早期からの適切な処置を含めた対策が必要であるという観点から,同年10月には「褥瘡対策未実施減算」が新設された.これは病院内に褥瘡対策チームを設置し,入院患者に対して評価を行い,褥瘡発生リスクのある患者には適切な対策をとらなければ,入院料の一部を減算するというものである.褥瘡に関する診療計画は,これまでも療養病棟などの一部において高齢者の入院診療計画書の中にその内容が盛り込まれていた.しかし,褥瘡の発生リスクのある患者は維持期に限らず,急性期,回復期にも存在することから,病棟で区別するのではなく,すべての医療機関の入院患者を対象とした褥瘡管理体制の整備が義務付けられた.

 こうした背景を踏まえ,本稿では褥瘡管理体制の中心となる褥瘡対策委員会(以下,委員会)の設置意義と活動紹介,ならびに委員会における理学療法士の役割について,筆者らの3年間の経験に基づいて報告する.

高齢者に対する褥瘡の予防と治療―遠隔地シーティングサポートシステムの実践

著者: 福田聡史

ページ範囲:P.753 - P.761

はじめに

 厚生労働省の平成18年度社会福祉施設等調査結果によると,現在,国内には5,789の介護老人福祉施設が存在している.入所者の要介護度の内訳をみると,要介護4,5の入所者が全体の6割を占めており(図1),重度高齢障害者の褥瘡発生リスクへの対応が求められている.介護老人福祉施設において,専任の機能訓練指導員は常勤換算で73%に配置されているが,そのうち理学療法士,作業療法士といった専門職を機能訓練指導員として配置しているのは,わずか8.4%に過ぎない.そのため,褥瘡対策は医師,看護師,栄養士,介護職といった職種でチームアプローチが行われることが多く,理学療法士が直接的に関わる機会は少ないのが現状である.また,褥瘡予防・治療にあたり専門的な知識をもつスタッフも不足している.

 当施設では,地理的に離れたリハビリテーション専門病院の褥瘡再発・予防対策を施行しているシーティングスタッフと連携し,電話やメールなどを利用して具体的な対応方法を一緒に検討する「遠隔地シーティングサポートシステム」を構築し,実際に運用している.本稿では,システム構築の経過と導入による効果を紹介し,今後の展望について述べる.

とびら

Identity

著者: 山田英司

ページ範囲:P.721 - P.721

 今年の1月,尊敬する先生のお誘いでオーストラリアに研修に行った.私にとって,初めて外国の理学療法に生で触れる機会だった.まず,大学の教員による腰痛に関する研修を受けたが,予想通り徒手療法の色が前面に出た評価方法,治療方針であった.また,町を歩くと至る所に“Physio”という看板があり,開業している理学療法士にも話を聞くことができた.そこで出会った理学療法士からは,病院とは何か違う,自信と厳しさを感じた.そして,施設内にピラティスのスタジオがあり,そこのインストラクターが「私はコア担当よ」と言っていたのが印象的であった.

 先日,外国のボディワーカーの研修を受けた.彼らは,理学療法士とはまったく違う視点から身体の動きを観察していた.そして,自ら動くことで自分の体を感じることと,運動イメージの重要性を学んだ.講師の話の中で,「例えば車の役割はみんな知っているし,その構造が分かっているから使用説明書があって,それを見ることにより車を効率的に使ったり,壊れないようにメンテナンスをしたり,壊れた時には修理することができる.でも,人間の関節や内臓には生まれた時に説明書がついていないので,その構造と役割を自ら理解しなければ障害の予防や治療はできない」という言葉が頭に残った.最近,世の中の人々がピラティスやヨガなどの様々なエクササイズメソッドに興味を持ち,積極的に参加している理由が少し分かったような気がした.

短報

変形性膝関節症の後足部回内外に対する足底板療法の検討

著者: 清水新悟 ,   徳田康彦 ,   横地正裕 ,   前田健博 ,   花村浩克 ,   岩堀裕介

ページ範囲:P.763 - P.768

要旨:変形性膝関節症内側型に対し,歩行時の立脚中期の後足部の回内外に着目し,タイプ別に足底装具を製作し,歩行時痛の改善が得られるか評価を行った.その結果,足底装具装着直後に10m歩行時間,10m歩数,VASの有意な改善を認め,1週間後に全項目がさらに改善した.また,足底装具装着前と装着1週間後に日本整形外科学会OA膝治療成績判定基準(JOAスコア)を用いて比較した結果,足底装具装着後に有意な改善が認められた.本結果から,変形性膝関節症内側型に対する足底板療法は,外側楔状板を用いる以外にも臨床的に有用な方法があることが示唆された.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

CBR

著者: 小林義文

ページ範囲:P.769 - P.769

●CBRの定義

 CBR(community based rehabilitation)とは,「地域に根ざしたリハビリテーション(以下,リハ)」のことで,その定義については,1994年に発表されたWHO(世界保健機関),UNESCO(国連教育科学文化機関),ILO(国際労働機関)の合同指針において,「CBRはすべての障害者のリハ,機会均等,社会参加のための全般的な地域社会開発の中での戦略である.CBRは障害のある人に力をつけて,自分自身の生活を向上させると共に,利用可能な限られた資源を役立たせ社会全体の利益に寄与することを促進する力をつけることである」とされている.2004年の同方針書では,さらに貧困と人権に対する行動の呼びかけが強調された.

学会印象記

―第43回日本理学療法学術大会―理学療法士のあり方を問う

著者: 堀信宏 ,   槇林優 ,   橘田正人 ,   北村良彦

ページ範囲:P.770 - P.772

はじめに

 2008年5月15~17日までの3日間,「理学療法のTotal Quality Management~時代が理学療法士に求めるものは何か~」というテーマで第43回日本理学療法学術大会が福岡県にて開催されました.近年,養成校の急増とともに,年間1万人を超える理学療法士のタマゴが育成されています.その一方で,医療費削減の流れの中で,診療報酬点数上は理学療法という言葉が消滅し,点数も削減されるという厳しい状況にあります.そのような中で,今,必要なのは大会テーマが示すとおり,理学療法士という職種を改めて見つめ直し,変化(=進化)することだと思います.福岡大会はそれを考える貴重な機会でありました.

入門講座 実践―基本統計学のQ&A・3

例題から考える統計の基本―検定・推定における理解のポイント

著者: 関屋曻 ,   高橋正明

ページ範囲:P.773 - P.780

 統計学には記述統計学のほかに推測統計学という領域があり,この中には検定と推定が含まれます.記述統計学が集団のすべてのデータからその集団の特性を明らかにしようとするのに対し,推測統計学は集団の一部のデータを用いて集団全体の特性を明らかにしようとする方法です.推測統計は,一部の対象を調べるだけで集団全体の特性を把握できるため,たいへん便利な方法で,社会学,心理学,農学,薬学,医学,工学など,様々な分野で用いられています.しかし,独特な論理と数学で構成されているため,高等数学を修めていない人にとってはわかりにくいものになっています.また,コンピュータとソフトの発達で,計算そのものは簡単に誰にでも行えるようになってきましたので,たいへん便利ではありますが,適用を間違えると有害な結論を導く可能性もあります.本稿では,検定や推定を行ったり,研究報告を読み聞きしたりする時に持つことが多い疑問について,できる限りわかりやすい解説を試みます.

講座 補装具の開発変遷・4

車いすの開発変遷

著者: 佐藤史子

ページ範囲:P.781 - P.787

はじめに

 車いすは脊髄損傷者の「脚」として発達してきた.脊髄損傷者にとって車いすは「脚」の役割として明確な意義があり,疾患特性からも車いすの処方がしやすい条件がそろっていたためであろう.その後,高齢者や他の疾患をもつ人にも利用されるようになり,「いす」としての役割も求められるようになった.

 車いす処方において,私たち理学療法士の果たすべき役割は大きく,車いす開発の変遷をたどることによって,目の前にいるクライアントにどう対応するべきかを考えるヒントを得られるかもしれない.本稿では,車いす開発に関わった人たちの思いを,その時代背景も交えて報告する.

「認知」の最前線・1【新連載】

理学療法を取り巻く「認知」の最前線

著者: 辻下守弘

ページ範囲:P.791 - P.798

はじめに

 これまで,認知(cognition)といえば高次脳機能障害のことが頭に浮かび,失行症や視空間失認なら作業療法士,失語症なら言語聴覚士の仕事だと考え,理学療法士にとっては治療対象としての認識が薄かったように思われる.しかし,この状況を一変させたのは,高知医療学院の宮本がイタリアから日本へ紹介した「認知運動療法」の登場であろう.本誌第26巻第1号(1992年)に掲載された特別寄稿論文1)は,それまで運動器の解剖生理と低次な運動制御理論を治療の根拠にしてきた理学療法士にとって,拠り所を揺るがされるほどインパクトのある内容であった.さらに,その少し前の1989年には,いまや「バカの壁」のミリオンセラーで有名となった解剖学者の養老が「唯脳論」2)を発表し,この頃から日本では脳に対する関心が急速に高まり,現在の国民的脳ブームへと発展した.こうした社会背景も後押しして,脳神経科学の知見に基づいて開発されたとする認知運動療法は,旧態依然とした理学療法に閉塞感を感じていた数多くの理学療法士達から好意的に受け入れられたと考えられる.

 認知運動療法の登場は,これまでのように運動療法のテクニックが1つ増えたという量的な変化ではなく,理学療法士に認知という用語を身近なものとして意識させ,これまで逃げ腰であった高次脳機能障害や認知症までをも治療しようとする態度の変容といった質的な変化をもたらした.その結果,現在では高次脳機能障害に対する「認知リハビリテーション」や心理療法としての「認知行動療法」にも関心が及ぶようになったことは,“理学療法の認知革命”といっても過言ではない.しかし一方で,科学的根拠がない治療的介入であっても,認知にアプローチしていると主張すれば,いかにも脳神経科学に立脚した理学療法を実践しているかのような風潮があるのも事実である.これは理学療法士の間で,認知の意味を十分に理解しないまま曖昧に使われるようになったことが原因だと考えられる.

 そこで本稿では,認知とは何か,その定義や概念を再確認したうえで,理学療法に関連した「認知」がつく用語の概要を紹介し,認知への理解を深めたい.

なぜ学ぶのか・6

薬理学―なぜ理学療法士に薬の知識が必要なのか?

著者: 保坂公平

ページ範囲:P.799 - P.802

薬の歴史

 現代医学における治療手段の主役は薬物治療ですが,薬(薬物)はいつ頃から使われ始めたのでしょうか?

 氷河期の終わり頃には,人類が他の動物との戦いに勝って地球上の支配者になりました.最初の問題は食べ物を確保することでしたが,彼らは工夫して動物の家畜化や,植物を栽培することにより安定した食料の確保を可能にしました.そのうち食物にならない草や木の根も利用するようになりました.例えばタンニンを含む木の実は下痢止めになりました.一方,下痢を起こす植物は便秘を治すのに使えます.猛毒を含む植物により死に至ったこともあったでしょう.しかし犠牲を払いながらも,役に立ち,薬となる多くの植物を発見しました.同様の試行錯誤から動物や鉱物由来の薬物も手に入れたはずです1)

初めての学会発表

発表までの1年間の道のり

著者: 加藤彩奈

ページ範囲:P.804 - P.805

 2008年5月15日~17日に福岡県にて,第43回日本理学療法学術大会(以下,学会)が開催されました.理学療法士2年目の私にとっては初めての学会参加,学会発表となりました.学会発表をすると決めた日から発表を終えるまでには,初めてのことばかりで苦労も多く,とても長い道のりだったのですが,その分とても貴重な経験ができました.

全国勉強会紹介

京阪神内部障害理学療法勉強会

著者: 田原将之

ページ範囲:P.808 - P.808

活動について
①目的

 循環器疾患を中心とした内部障害全般に関して,現場の視点で「臨床能力の向上」を目指しています.
②勉強・研修内容

 勉強会では,症例検討やシナリオシミュレーショントレーニング,心肺運動負荷試験(CPX)実習,各施設の取り組みやシステムの紹介,施設基準取得や立ち上げの相談・援助などを行っています.

書評

―竹井 仁(著)―「触診機能解剖カラーアトラス」(上,下)

著者: 板場英行

ページ範囲:P.788 - P.788

 触診は医療の起源としての「手当て」の基本である.医療機器の未発達であった時代では,治療者の手による触診技術が疾病の診断と治療において大きな存在であった.近年の各種医療機器の開発・使用により,体表面からの触診による診断や治療が非科学的位置へと変革している現況を憂う.しかし,正確で高度な触診技術は,医師,看護師,セラピストを含めすべての医療従事者が具備すべき基本的技術である.理学療法においても,触診は疼痛部位の確認や筋緊張の異常状態評価,関節可動域や筋力維持・強化治療における固定,可動,抵抗部位,寝返りや立ち上がり指導時のハンドコンタクトなど,理学療法士が日常の臨床にて理学療法業務を遂行する上で,対象者の体肢に接触して行う普遍的技術である.この場合,対象部位へのファーストコンタクトの巧拙が,対象者・治療者間の信頼関係を決する.また,体表面上から的確な部位への触診を背景とした部位確定,固定,可動が評価結果や治療効果に影響を及ぼす.その意味で,理学療法士は触診技術向上のための弛まぬ学習と努力が必要となる.

 本書は,自らも解剖学医学博士である著者の竹井 仁氏(首都大学東京准教授)が解剖学者の監修のもと,解剖学と運動学的知識を背景とした「機能解剖」をベースに,理学療法士が臨床場面で熟知しておく「触診技術」のエッセンスを集積した待望の書籍である.本書は総論,骨・関節・靱帯の関節構成体の触診技術(方法)を記した上巻と,筋・血管・神経の関節周辺組織の触診技術(方法)による下巻の2巻から構成されている.各組織(部位)の機能構造学的な説明に続き,実際の解剖写真を元に作成された多くの図と写真を用いた触診方法がわかりやすく解説されている.また,各触診組織・部位の臨床的意義について記載された「クリニカルビューポイント」は,臨床に直結した重要知識の確認となる.触診は「理学療法評価と治療」の根幹であり,その技術を高めることは「理学療法士の最大武器」として,長年,徒手的治療の臨床,研究,教育指導に従事されてきた竹井氏の強い学問的熱意を感じる.

―丸山仁司(編著)―「PT,OTなら知っておきたいからだのこと」

著者: 黒川幸雄

ページ範囲:P.802 - P.802

 本書の特徴は,第一に理学療法業務の中核にあたる部分の知識を改めて確認し,そこにすべての紙数を費やした点である.では理学療法業務の中核とは何か,それは運動(動作含む)である.運動を評価し,運動の問題点を抽出し,課題解決型で治療・指導にあたり,その時に主に運動を治療手段とする,すなわち運動療法を手段とすることである.

 人間の運動を司る器官は,筋肉,骨,腱,関節,運動を調節する感覚器,筋肉に運動のエネルギーを送るエネルギー源,酸素・栄養・代謝などに関わる呼吸器・循環器などである.もちろん,運動を考える場合に神経系の働きを除外するわけにはゆかないのであるが,ここでは敢えて「効果器官」に焦点をあてて知識の整理に徹していることがユニークである.すなわち,理学療法にとっての中核以外をできる限り削ぎ落し,非常にコンパクトにして提示し,主要な必要条件に限定し,解りやすくしている.

―市橋則明(編)―「運動療法学―障害別アプローチの理論と実際」

著者: 伊橋光二

ページ範囲:P.806 - P.806

 運動療法は理学療法の柱であり,多くの養成施設において力を入れて教育している科目の1つである.運動療法をどのように教育するかは養成施設によって異なるが,運動療法の原理を十分に教育することが大事であると考えられる.運動療法の基本がしっかり身についていれば,どのような疾患を前にしても,その病態に応じて運動療法を適用していけばよいからである.つまり,学生が臨床実習で遭遇する可能性のあるすべての疾患について,その疾患別運動療法を教えようと思っても無理であり,重要なことは,運動療法を目の前の患者にどう応用するかということである.この視点が欠けると「この疾患の運動療法は教わっていません」といった学生の発言につながってしまうのではないだろうか.

 そこで重要なことは,身体運動のメカニズムと,運動が身体に与える影響を運動療法の視点から,より深く理解することと考えられる.この観点から,市橋則明氏の編集による『運動療法学』は待望の1冊と言うことができる.本書は大きく2部に分かれており,前半の「運動療法の基礎知識」では,運動学を中心に,運動と呼吸,循環,代謝との関連,さらに運動と学習,発達,老化との関連が詳述されており,運動療法原理の科学的理解に好適な書である.特に,編者による「運動学の基礎知識」の項では,“凹凸の法則に従った関節可動域運動とその間違い”や“筋の作用は覚えるな”といった見出しが目を引き,興味深く読み進めることができる.

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文献抄録

ページ範囲:P.810 - P.811

編集後記

著者: 内山靖

ページ範囲:P.816 - P.816

 北京オリンピック,第90回全国高校野球選手権大会の開催は,日ごろはスポーツ観戦を趣味としないものでも心躍る今年の夏であった.スポーツにおいて顕著であるが,政治や経済においても時の流れ,風向き,勢いなど,必ずしも客観的に表現し得ない“場”が物事の結果を左右することがある.もちろん,その“場”は日ごろの備えによって形成され,偶然だけで女神が微笑んでいるわけではない.

 わが国に理学療法が誕生して40年が過ぎ,また,めまぐるしい世の中の変遷の中で,先人達の知恵と歴史を振り返ることの重要性をひしひしと感じる.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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