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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル42巻9号

2008年09月発行

文献概要

講座 「認知」の最前線・1【新連載】

理学療法を取り巻く「認知」の最前線

著者: 辻下守弘1

所属機関: 1甲南女子大学看護リハビリテーション学部理学療法学科

ページ範囲:P.791 - P.798

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はじめに

 これまで,認知(cognition)といえば高次脳機能障害のことが頭に浮かび,失行症や視空間失認なら作業療法士,失語症なら言語聴覚士の仕事だと考え,理学療法士にとっては治療対象としての認識が薄かったように思われる.しかし,この状況を一変させたのは,高知医療学院の宮本がイタリアから日本へ紹介した「認知運動療法」の登場であろう.本誌第26巻第1号(1992年)に掲載された特別寄稿論文1)は,それまで運動器の解剖生理と低次な運動制御理論を治療の根拠にしてきた理学療法士にとって,拠り所を揺るがされるほどインパクトのある内容であった.さらに,その少し前の1989年には,いまや「バカの壁」のミリオンセラーで有名となった解剖学者の養老が「唯脳論」2)を発表し,この頃から日本では脳に対する関心が急速に高まり,現在の国民的脳ブームへと発展した.こうした社会背景も後押しして,脳神経科学の知見に基づいて開発されたとする認知運動療法は,旧態依然とした理学療法に閉塞感を感じていた数多くの理学療法士達から好意的に受け入れられたと考えられる.

 認知運動療法の登場は,これまでのように運動療法のテクニックが1つ増えたという量的な変化ではなく,理学療法士に認知という用語を身近なものとして意識させ,これまで逃げ腰であった高次脳機能障害や認知症までをも治療しようとする態度の変容といった質的な変化をもたらした.その結果,現在では高次脳機能障害に対する「認知リハビリテーション」や心理療法としての「認知行動療法」にも関心が及ぶようになったことは,“理学療法の認知革命”といっても過言ではない.しかし一方で,科学的根拠がない治療的介入であっても,認知にアプローチしていると主張すれば,いかにも脳神経科学に立脚した理学療法を実践しているかのような風潮があるのも事実である.これは理学療法士の間で,認知の意味を十分に理解しないまま曖昧に使われるようになったことが原因だと考えられる.

 そこで本稿では,認知とは何か,その定義や概念を再確認したうえで,理学療法に関連した「認知」がつく用語の概要を紹介し,認知への理解を深めたい.

参考文献

1)Perfetti C:脳卒中片麻痺に対する認知運動療法;学習過程としてのリハビリテーション.PTジャーナル 26:50-54,1992
2)養老孟司:唯脳論,青土社,1989
3)平凡社(編):心理学事典,平凡社,1981
4)森 敏昭:認知心理学の成立,森 敏昭,中條和光(編):認知心理学キーワード,p2,有斐閣,2005
5)http://www.jcss.gr.jp/information.html
6)河合伊六(監),辻下守弘,小林和彦(編):リハビリテーションのための行動分析学入門,医歯薬出版,2006
7)松田隆夫:知覚心理学の基礎,培風館,2000
8)酒井吉仁:認知領域の教育方法,日本理学療法士協会(編):臨床実習教育の手引き第5版,pp29-41,日本理学療法士協会,2007
9)網本 和:認知障害に対する理学療法.PTジャーナル 34:305-311,2000
10)古川勝敏,他:認知症のリハビリテーション―診断.総合リハ 34:219-224,2006
11)坂爪一幸:認知リハビリテーション,渡辺俊之,本田哲三(編):リハビリテーション患者の心理とケア,pp236-249,医学書院,2000
12)井上和臣:認知療法の世界へようこそ;うつ・不安をめぐるドクトルKの冒険,岩波書店,2007
13)岩本隆茂,他(編):認知行動療法の理論と実際,培風館,1997
14)宮本省三:脳のなかの身体;認知運動療法の挑戦,講談社現代新書,2008
15)山﨑裕司,山本淳一(編):リハビリテーション効果を最大限に引き出すコツ;応用行動分析で運動療法とADL訓練は変わる,三輪書店,2008

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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