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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル43巻11号

2009年11月発行

雑誌目次

特集 地域の高齢者に対する理学療法士の視点

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.951 - P.951

 高齢者に対する理学療法は,日常生活動作などの能力を改善するだけでなく,生活そのものを変え,長期的にみて生活機能が低下しないよう,健康を維持する視点と予防の知識が必要となる.また,必ずしも改善や向上を望めない高齢者に対しては,一般の高齢者の生活機能の経年変化を知り,心身機能ばかりでなく,個人を取り巻く家庭や地域全体を幅広く捉えて理学療法を提供しなければならない.そこで本特集では,理学療法を展開する上で,高齢者と長期的に関わる際に役立つよう,それぞれの場面での具体的な実践と視点について解説していただいた.

地域高齢者の生活機能と早期死亡への影響

著者: 古谷野亘

ページ範囲:P.953 - P.958

はじめに

 老化や高齢者の問題に関する研究は,心身の障害や貧困などの困難に直面している高齢者の研究から始められ,その後徐々に対象を拡大して今日に至っている.障害や生活困難をかかえる高齢者が最初に取り上げられたのは,研究の動機がそれらの高齢者の支援や問題解決にあったからであり,また「すべての高齢者は心身の障害や生活困難をかかえている」という今日からみれば誤った前提に立っていたからでもある.しかし,研究の進展に伴って,心身の障害や生活困難が加齢の不可避的な帰結ではないことが知られるようになり,問題の発生を含む加齢のプロセスを観察することの重要性が理解されるようになった.こうして,一般の地域高齢者(そのほとんどは現時点では問題に直面していないが,問題に直面する可能性をもってはいる)を対象とする研究が行われるようになったのである.

 自立した生活を営む能力(生活機能:functional capacity)についての研究も,まったく同じ経過をたどった.すなわち,最初に入院患者や施設入所者,次いで何らかの原因により生活機能の低下した地域高齢者,そして一般の地域高齢者へと研究の対象が拡げられてきた.

 入院・入所者や障害をもった高齢者が対象である時には,その人々がもつ基本的な日常生活動作(activities of daily living:以下,ADL)能力がもっぱら関心の的であり,また差しあたりそれで十分であった.しかし,研究対象が一般の地域高齢者へと拡大した時,ADLのみでは不十分なことが明らかになった.それは,第一に地域高齢者の大多数がADLの障害をもっていないからであり,第二に地域で自立した生活を維持していくためにはADLだけでは不十分だからである.そこで,社会環境に適応して,地域で自立した生活を営むために必要な生活機能である手段的日常生活動作(instrumental activities of daily living:以下,IADL)能力があわせて検討されるようになった.

 本稿においては,ADLとIADL,そしてしばしば総合的なADLの指標とされる移動能力(mobility)を取り上げ,日本の地域高齢者における障害の頻度と経年変化,早期死亡との関連について概観する.

在宅生活で離床を促す理学療法士の視点

著者: 島田裕之 ,   橋立博幸

ページ範囲:P.959 - P.965

高齢者の身体活動

 身体活動の向上は心身の健康を保持,向上させるために重要な役割を果たし,活動量向上のための取り組みは全世代を通して必要である.とりわけ高齢期においては活動強度や頻度が低下し,活動量の減少から日常生活動作(activities of daily living:以下,ADL)能力の低下を招く危険性があり,積極的な身体活動量向上へ向けた取り組みが必要となる.例えば,65歳以上の高齢者が要介護状態に陥った主要な原因の1つに高齢による衰弱があり,高齢者では要介護状態に至らぬための予防的対策として,日常生活の活動量を高い状態で維持することが必要であると考えられる.Friedら1)が示した高齢者が虚弱に陥るサイクルをみると,身体活動の低下によって総エネルギー消費量が減少し,食欲減少から低栄養状態に陥り,その状態が筋量の減少を招き,筋力や有酸素能力の低下から歩行能力(歩行速度)が低下し,さらに活動を制限させる結果となる.また,筋量の減少は基礎代謝量を低下させ,総エネルギー消費量の減少に影響を及ぼす1)(図1).この負のサイクルを断ち切るためには,食事と運動による低栄養状態の改善と,運動機能の向上から身体活動の向上を図る必要がある.

 しかし,重度の運動障害を有する高齢者においては,運動の実施が困難であり,身体活動を向上させる手段が限られる.また,そのような高齢者では,主たる疾病のほかに心疾患や関節障害など複数の疾病を有することも多く,安全性の側面から負荷の高い身体活動を実行することができない場合もあり,廃用症候群が急速に進展する危険性が高い.ベッド上安静による生理学的変化に関する研究によると,筋萎縮や筋力低下はどの筋にも一定して生じるのではなく2~6),上肢と比較して下肢に強く症状が現れる6).そのため,離床時間の減少は,立ち上がりや歩行などの基本的な動作能力の低下,ADLの低下を招く可能性が高い7,8).このような廃用症候群を予防するために,障害を有する高齢者における離床の重要性が指摘され,1980年代から積極的に離床が推進されてきた.

通所による要介護高齢者との長期的関わりと理学療法士の視点

著者: 野尻晋一 ,   山永裕明 ,   今田吉彦

ページ範囲:P.967 - P.973

通所リハビリテーションの現状と理学療法士の課題

 老人保健法の下で,病院・診療所,老人保健施設において「デイケア」として実施されていたサービスは,2000年の介護保険制度施行に伴って「通所リハビリテーション(以下,通所リハ)」に変わり,老人福祉法で実施されていた「デイサービス」は「通所介護」へと移行した.今日までの10年近い経過のなかで,「通所リハと通所介護の違い」は常に議論され,通所リハには,より個別的で専門的なリハが求められるようになった.2006年度にはリハマネジメント加算が導入され,いわゆるPDCA(plan・do・check・action)サイクルによるリハサービスの品質管理システムが取り入れられた.また退院・退所後のシームレスなリハの実施を目的に,短期集中リハの仕組みも導入された.さらに,予防給付と介護給付が明確に区分されたほか,要介護認定されなかった対象者にも介護予防の観点から様々な事業が実施されるようになった.そして,今回の2009年度の改定では,個別リハに特化した短時間通所リハや認知症短期集中リハの仕組みが導入された.さらに,一時的な状態悪化で通所リハの利用が困難となった対象者には,通所リハの医師の指示で1か月間は訪問リハの実施も可能となった.

 制度に振り回され続けた10年であったが,地域に関わる理学療法士の数は増加し,特に特定高齢者や要支援者に対する運動機能の向上を中心とした介護予防に関しては大きく貢献してきた.一方で,一時的に運動機能の向上がみられても,予防プログラム終了後には効果が継続しない,行動変容まで至らない,改善した対象者の受け皿がないなど様々な問題が指摘されている.

訪問による要介護高齢者との長期的関わりと理学療法士の視点

著者: 赤羽根誠

ページ範囲:P.975 - P.982

はじめに

 現在,日本は世界でも有数の長寿国であり,寿命中位数(出生者のうちちょうど半数が生存すると期待される年数)は,2008年時点において男性82.21年,女性88.83年と報告されている.さらに,100歳以上の人口も4万人を超えている(2009年9月時点).このように寿命が延びている一方で,加齢に伴い徐々に介護を必要とする高齢者の割合も増加している.在宅生活を送る要介護高齢者は,様々な問題や課題を抱えており,訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)の必要性が増している.しかし,全国的にみると,訪問リハの需要に対して供給が追いついていない現状がある.

 訪問リハでは,病院・施設からの退院・退所直後の要介護高齢者に対して,生活機能の適切な評価と予後予測を行うとともに,生活機能と居宅環境との関係性もチェックする.または,要介護高齢者が在宅生活を継続する中で,何らかの原因により生活機能の低下が起こり,その継続が困難となりつつある時に訪問リハが導入される.訪問リハに関わる専門職には,要介護高齢者が80歳,90歳,100歳になり,亡くなるまで住み慣れた地域で暮らし,本人の望みにより近い状態で在宅生活を継続できるように自立(自律・自己決定)支援を行うことが求められている.

 本稿では,理学療法士が訪問リハにより要介護高齢者との長期的関わりを行う中で必要な視点について,国際生活機能分類(ICF)に基づいて整理してみたい.

介護予防事業を通した町づくりに貢献する理学療法士の視点

著者: 滝本幸治 ,   宮本謙三 ,   宅間豊 ,   井上佳和 ,   宮本祥子 ,   竹林秀晃 ,   岡部孝生 ,   松村千賀子

ページ範囲:P.983 - P.988

はじめに

 2006年の改正により,介護保険は総合的な予防重視型システムへの転換が図られた.同時に,地域における総合的なマネジメントを担う総合機関として地域包括支援センターが創設され,地域支援事業として介護予防事業を行うことになった.この介護予防事業の対象は,一般(元気)高齢者および特定(虚弱)高齢者であり,要支援・要介護状態でないすべての高齢者が含まれる.現在,本邦の高齢化率は22.1%(2008年10月1日時点)であり,総人口が減少に転じても高齢化率が上昇を続けると推計されているが1),このような状況の中,「町づくり」においては高齢者がいかに活き活きと過ごせるかという視点が欠かせない.そのために重要なのは,「高齢者の生活圏域内で必要なサービスを提供・完結させること」2)と「高齢者を中心とした地域住民の主体的な参加」3)である.

 以上のような背景の下,われわれはこれまで高知県香南市において介護予防事業に携わってきた注).具体的には,①高齢者健康診査(以下,高齢者健診),②介護予防運動教室,③自主運動グループ支援,④リーダー育成などであり,自治体とともに社会福祉協議会や地域スポーツクラブ(NPO)なども必要に応じて役割を担ってきた.本稿では,同市の概況を踏まえた上で,取り組みの概要とともに,理学療法士が介護予防事業を通して町づくりにどのように貢献できるのか私見を述べる.

とびら

異次元動作の真似のすすめ

著者: 高濱照

ページ範囲:P.949 - P.949

 私の学生時代には,実習などで,よく患者さんの真似をするようにいわれた.真似ができると患者さんの状態がわかるという理屈で,真似ができなければ,「まだまだ君はわかってないね」といわれたものである.近頃は実習地を訪問しても,学生からそのような話は聞かないので,この「患者さんの動作を真似る」という学習法は廃れたのだろう.

 最近,昔かじっていたテニスを再開し,知人とコートで打ったり,壁打ちをしたりして,結構頻繁に練習している.年をとってからテニスを再開したのには理由があって,それはテニス競技者の真似をしてみようと思ったからである.誰の真似をするかというと世界一流のプロ,たとえばフェデラーとかナダルとかである.彼らとまったく同じ動きができれば,彼らと同じ球が打てるという理屈である.そういうと,そんなことができるはずがない,もし,いい年をした者が彼らの真似をしたら,たちまち身体が傷害されるに違いないと思われるだろう.しかし,いざやってみると,それはまったくの逆で,彼らのようにしないから身体が傷害されるのだということが,だんだんわかってきた.彼らの究極の技は傷害を防ぐための技でもあるのである.つまり,一流選手の打ち方の真似をするということは,どうすればスポーツ傷害が起きないかという秘密のベールを1枚1枚剝いでいくようなものなのである.

報告

高齢者の転倒を予測するためのステッピングテストの有効性

著者: 池添冬芽 ,   市橋則明 ,   島浩人 ,   浅川康吉

ページ範囲:P.989 - P.995

要旨:本研究の目的は,スポーツ選手の敏捷性テストとして考案されたステッピングテストに着目し,高齢者を対象に測定した場合の信頼性,ステッピングテストと運動機能や転倒との関連性について分析し,高齢者の転倒リスクを予測するためのステッピングテストの有効性について明らかにすることである.高齢者42名(平均年齢81.3±6.1歳),および若年者40名(平均年齢20.0±1.8歳)を対象とした.ステッピングテストは,椅子座位・立位の2条件で,足踏みをできるだけ速く5秒間行わせた時の回数を測定した.級内相関係数は高齢者の座位ステッピングが0.90,立位ステッピング0.96,若年者では座位ステッピング0.86,立位ステッピング0.86であり,高齢者において高い信頼性が得られた.高齢者における座位・立位ステッピング値(回数)は,膝伸展トルク,立ち座りテスト,片脚立位保持時間,FR,TUGのすべての運動機能項目との間に有意な相関が認められた.さらに,高齢者の転倒との関連については,座位ステッピングでは転倒群,非転倒群とで有意差は認められなかったが,立位ステッピングでは2群間に有意差が認められ,立位ステッピング値が17回を下回ると,転倒の危険性が約7倍に増加することが示唆された.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

ミオパチー

著者: 市橋則明

ページ範囲:P.997 - P.997

 神経筋疾患とは,脊髄前角細胞の運動神経細胞,軸索と筋細胞,神経筋接合部が構成する運動単位の障害が原因で筋力低下や筋萎縮が起こる疾患群であり,筋萎縮症とミオパチーに大別される.神経原性筋萎縮を来す疾患群は筋萎縮症と呼ばれ,筋萎縮性側索硬化症や脊髄性筋萎縮症が含まれる.

 ミオパチーとは,神経原性ではない筋肉の病気を総称する名称である.ミオパチーには多くの疾患が含まれており,最も患者数の多い筋ジストロフィーは,遺伝性で進行性筋力低下を来す疾患群である.ミオパチーには内分泌性ミオパチーのように筋肉が一義的に侵されていない疾患も含まれる.代表的疾患としては,筋ジストロフィー,炎症性ミオパチー,脂肪蓄積性ミオパチー,グリコーゲン蓄積性ミオパチー,内分泌性・代謝性ミオパチー,ミトコンドリア脳筋症,先天性ミオパチーなどが挙げられる.

ひろば

対人サービス業としての「おくりびと」

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.998 - P.999

 映画『おくりびと』(2008年作)は,青木新門の著作である『納棺夫日記』が契機となり,その内容を大幅に編集して脚本化されたものらしい.そして,映画としての芸術性が高く評価され,第81回米国アカデミー賞外国語映画賞および第32回モントリオール世界映画祭グランプリ賞を受賞している.その後,国内でも評判になり,映画館に足を運ぶ客が増えているとのことである.

 映画の内容は,タイトルのごとく,「おくりびと」として故人の容姿を整え,お棺に納める一連の仕事を行う納棺師の職業を描いたものである.この映画には,主人公のラブストーリーも含まれていることや,納棺業を細々と(?)営む社長の人間味あるキャラクターも映画の深みを倍増している.

入門講座 理学療法に必要な臨床動作分析・2

中枢神経系領域における臨床動作分析

著者: 上條史子 ,   望月久

ページ範囲:P.1001 - P.1007

はじめに

 理学療法の評価の中に,「動作分析」という項目があります.皆さんも臨床で直面していると思われますが,これは非常に難しい評価項目の1つです.臨床では,理学療法士と対象者は1対1であり,対象者が違えば分析しようとする「動作」も違ってきます.また,同じ対象者を異なる理学療法士がみた場合,みている「動作」が違っていたり,抽出された問題点が違ったりした経験がないでしょうか.このように,動作分析から得られる情報は多様であり,多くの情報の中から必要な部分をピックアップすることの大変さが,動作分析を「難しい」,「苦手」と感じさせてしまう原因であると思われます.今回は,中枢神経系領域における動作分析の方法や解釈を,いくつかの設問を通して考えます.

講座 アンチエイジング・2

アンチエイジングと栄養

著者: 吉川敏一 ,   青井渉

ページ範囲:P.1011 - P.1016

はじめに

 従来の医療が病気の治療を目的としていたのに対し,アンチエイジング医学の目標は,疾病を予防し,生理機能の衰えを防いで健康長寿に導くところにある.アンチエイジングの実践では,食事療法,運動療法さらには精神療法を取り入れて,生活習慣を改善することが基本となる(表1).また場合によっては,科学的根拠の確立されているサプリメントや一部の薬物(ホルモン補充,免疫強化など)を利用したり,鍼灸や音楽,アロマなどの代替療法を取り入れたりすることも有効であると考えられている.

 このようななかで,日常の食生活における適切な栄養摂取は,健康を維持し,老化を防止する目的において最前線に位置しており,アンチエイジングを実践するうえで欠かすことはできない(図1).食生活の乱れは生活習慣病の発症や進展に関わるとともに,加齢に伴う様々な生理機能の衰えを加速させてしまう.近年,老化研究,予防医学,栄養学,食品学の発展とともに,どのような栄養条件がアンチエイジングを実践するうえで有効であるのか明らかになってきた.

 本稿では,アンチエイジング医療を実践するにあたっての食事,栄養条件について概説する.

短報

軽度脳血管性認知症患者の歩行距離の増加を目的とした応用行動分析学的介入

著者: 明﨑禎輝 ,   山﨑裕司 ,   松田司直 ,   浜岡克伺 ,   吉本好延 ,   吉村晋 ,   野村卓生 ,   佐藤厚

ページ範囲:P.1017 - P.1021

要旨:本研究では,軽度脳血管性認知症症例に応用行動分析学的介入を行い,連続歩行距離の増加に対する有効性について検討した.研究デザインはシングルケースデザインのABA法を用いた.ベースライン期(phase A)では,歩行前に「できるだけ頑張って長く歩いて下さい」と声かけのみ行った.介入期(phase B)では,自宅復帰した際に必要となる歩行距離の教示,1日ごとの目標歩行距離の教示と,達成した際の注目・賞賛を行った.その後,ベースライン期と同様の消去期(phase A)を設けた.その結果,介入期において連続歩行距離と運動強度が増加し,消去期にはそれらの低下を認めた.これらのことから,今回行った応用行動分析学的介入は,本症例の連続歩行距離を増加させるうえで有効に機能したものと考えられた.

書評

―奈良 勲(シリーズ監修)/鶴見隆正(編)―《標準理学療法学 専門分野》「日常生活活動学・生活環境学(第3版)」

著者: 臼田滋

ページ範囲:P.996 - P.996

●社会情勢や諸制度の変化に対応する改訂

 『日常生活活動学・生活環境学 第3版』は,理学療法を学ぶ学生や臨床で活躍する理学療法士を対象に,最新の学術的情報と諸制度を提供し,生活環境を踏まえた日常生活活動学の知識と技能の習得を目標に執筆された教科書である.2001年に初版が発行され,2005年に改訂第2版が発行,今回は4年ぶりの改訂となる.

 本書の構成は,「日常生活活動学」と「生活環境学」の二部構成であり,前者においては理学療法における日常生活活動の位置付け,日常生活活動の運動学的分析,評価の実際と疾患別の日常生活活動指導が解説され,後者では,人の生活行動を支援する上で必要不可欠な社会保障制度,バリアフリーの概念と実際,住宅改修の要点,生活を支える福祉機器などが詳細に述べられている.

―嶋田智明,大峯三郎(常任編集)/加藤 浩(ゲスト編集)―「実践MOOK 理学療法プラクティス 大腿骨頸部骨折 何を考え,どう対処するか」

著者: 新小田幸一

ページ範囲:P.1008 - P.1008

 医学系の専門書には,他を圧倒し近寄れないほどの知見を基に読者を惹きつけ,納得させようとするものと,身近な経験を基にこつこつと実例を示しながら,「あー,それでこのような治療法になるのか」と,いつの間にか読者の心を引き込んでしまうものとがある.本書は紛れもなく後者に属するものと考える.加えて,ワンポイントレッスン的な「ミニレクチャー」が実に適切な箇所に配置されており,初学者でも迷わないように配慮されている.同じように「Further Reading」では,知識の幅が広がるように,多過ぎない程度の文献が,程よく手短な説明とともに提示されており,まさに至れり尽くせりの感がある.

 パート1では,まず患者と接触する前に行うべき治療に必要な情報収集に触れ,その後に行う直接的な患者との会話から得られる情報の取り方(「コツ」にあたる部分を含め)が詳細に述べられている.各術式と禁忌とされる肢位,理学療法評価法とアプローチは急性期,回復期,維持期に分けられ詳細に網羅されている.「回復期における理学療法評価」にもあるように,術後の状態・経過が良好か否かは,骨折の条件と手術結果にかかっていると言っても言い過ぎではない.この点について,治療が理学療法士の独りよがりにならないように手術記録に必ず目を通し,術者と綿密な連絡をとりながら治療を進める大切さも怠りなく諭している.

―黒川幸雄,他(シリーズ編集)/宮川哲夫(責任編集)―「理学療法MOOK 4 呼吸理学療法 第2版」

著者: 福井次矢

ページ範囲:P.1022 - P.1022

 今般,三輪書店の理学療法MOOKシリーズ4『呼吸理学療法』が10年ぶりに改訂され,第2版が上梓された.本書の最大の特徴は,EBM(Evidence-based Medicine:根拠に基づく医療)の実践に役立つ情報が提供されていることである.

 医療におけるどのような教科書も,それなりの根拠に基づいて,読者に特定の診断検査や治療を行うよう薦めるのであるが,EBMの実践に役立つ情報とは,次のような①~③の手順を踏んだ情報を意味する.何らかの医療的介入(診断検査や治療,理学療法など)の臨床的有効性(あるいは無効性)を評価するにあたって,①電子的媒体などを用いて幅広い(悉皆性のある)文献検索を行い,②それらの中から最も信憑性の高い研究の結果(エビデンス)を確認し,③必要に応じて,国や社会,医療制度,医療機関,患者の個別性に配慮して,当該医療介入を推奨する(あるいは推奨しない)度合い(グレード)を決める.

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文献抄録

ページ範囲:P.1024 - P.1025

編集後記

著者: 金谷さとみ

ページ範囲:P.1028 - P.1028

 政権交代から間もないが,これからの医療・介護に関する制度は,また変わるのであろうか.介護保険制度の施行以後,リハビリテーションに関するものだけでも目まぐるしく変化し,そのたびに現場は振り回された感があり,机上で生まれた政策転換はほどほどにしてほしいと思うことがある.

 先日,近所の中華料理店に昼食を食べに行くと,50人ほどの席のほとんどを高齢者が占めていた.どうやら近所の老人会の方々らしい.隅の空いた席につき,高齢者の表情を見ながら昼食をとることにした.見た限りでは後期高齢者のようで,食事中はずっと同席の人と会話し,時には大きな笑い声,店は今までになくにぎやかだった.こちらに食事が届く頃には,皆一斉に店を出て,またいつもの静けさが戻った.自分の両親もそうであるが,高齢者はこのような「人との交流」を通し,そこにささやかな楽しみを見出して日々を送っている.また,いずれ近い時期に死を迎えることをよく知っており,家族に恵まれていても,一人暮らしであっても,誰もが孤独を感じているはずである.30年後の自分は,地域の人とあのように明るく付き合うことができるのであろうか….若干不安になって中華料理店をあとにした.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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