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特集 地域の高齢者に対する理学療法士の視点
在宅生活で離床を促す理学療法士の視点
著者: 島田裕之1 橋立博幸2
所属機関: 1東京都老人総合研究所自立促進と介護予防研究チーム 2やまなしケアアカデミー
ページ範囲:P.959 - P.965
文献購入ページに移動身体活動の向上は心身の健康を保持,向上させるために重要な役割を果たし,活動量向上のための取り組みは全世代を通して必要である.とりわけ高齢期においては活動強度や頻度が低下し,活動量の減少から日常生活動作(activities of daily living:以下,ADL)能力の低下を招く危険性があり,積極的な身体活動量向上へ向けた取り組みが必要となる.例えば,65歳以上の高齢者が要介護状態に陥った主要な原因の1つに高齢による衰弱があり,高齢者では要介護状態に至らぬための予防的対策として,日常生活の活動量を高い状態で維持することが必要であると考えられる.Friedら1)が示した高齢者が虚弱に陥るサイクルをみると,身体活動の低下によって総エネルギー消費量が減少し,食欲減少から低栄養状態に陥り,その状態が筋量の減少を招き,筋力や有酸素能力の低下から歩行能力(歩行速度)が低下し,さらに活動を制限させる結果となる.また,筋量の減少は基礎代謝量を低下させ,総エネルギー消費量の減少に影響を及ぼす1)(図1).この負のサイクルを断ち切るためには,食事と運動による低栄養状態の改善と,運動機能の向上から身体活動の向上を図る必要がある.
しかし,重度の運動障害を有する高齢者においては,運動の実施が困難であり,身体活動を向上させる手段が限られる.また,そのような高齢者では,主たる疾病のほかに心疾患や関節障害など複数の疾病を有することも多く,安全性の側面から負荷の高い身体活動を実行することができない場合もあり,廃用症候群が急速に進展する危険性が高い.ベッド上安静による生理学的変化に関する研究によると,筋萎縮や筋力低下はどの筋にも一定して生じるのではなく2~6),上肢と比較して下肢に強く症状が現れる6).そのため,離床時間の減少は,立ち上がりや歩行などの基本的な動作能力の低下,ADLの低下を招く可能性が高い7,8).このような廃用症候群を予防するために,障害を有する高齢者における離床の重要性が指摘され,1980年代から積極的に離床が推進されてきた.
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