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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル43巻11号

2009年11月発行

文献概要

特集 地域の高齢者に対する理学療法士の視点

在宅生活で離床を促す理学療法士の視点

著者: 島田裕之1 橋立博幸2

所属機関: 1東京都老人総合研究所自立促進と介護予防研究チーム 2やまなしケアアカデミー

ページ範囲:P.959 - P.965

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高齢者の身体活動

 身体活動の向上は心身の健康を保持,向上させるために重要な役割を果たし,活動量向上のための取り組みは全世代を通して必要である.とりわけ高齢期においては活動強度や頻度が低下し,活動量の減少から日常生活動作(activities of daily living:以下,ADL)能力の低下を招く危険性があり,積極的な身体活動量向上へ向けた取り組みが必要となる.例えば,65歳以上の高齢者が要介護状態に陥った主要な原因の1つに高齢による衰弱があり,高齢者では要介護状態に至らぬための予防的対策として,日常生活の活動量を高い状態で維持することが必要であると考えられる.Friedら1)が示した高齢者が虚弱に陥るサイクルをみると,身体活動の低下によって総エネルギー消費量が減少し,食欲減少から低栄養状態に陥り,その状態が筋量の減少を招き,筋力や有酸素能力の低下から歩行能力(歩行速度)が低下し,さらに活動を制限させる結果となる.また,筋量の減少は基礎代謝量を低下させ,総エネルギー消費量の減少に影響を及ぼす1)(図1).この負のサイクルを断ち切るためには,食事と運動による低栄養状態の改善と,運動機能の向上から身体活動の向上を図る必要がある.

 しかし,重度の運動障害を有する高齢者においては,運動の実施が困難であり,身体活動を向上させる手段が限られる.また,そのような高齢者では,主たる疾病のほかに心疾患や関節障害など複数の疾病を有することも多く,安全性の側面から負荷の高い身体活動を実行することができない場合もあり,廃用症候群が急速に進展する危険性が高い.ベッド上安静による生理学的変化に関する研究によると,筋萎縮や筋力低下はどの筋にも一定して生じるのではなく2~6),上肢と比較して下肢に強く症状が現れる6).そのため,離床時間の減少は,立ち上がりや歩行などの基本的な動作能力の低下,ADLの低下を招く可能性が高い7,8).このような廃用症候群を予防するために,障害を有する高齢者における離床の重要性が指摘され,1980年代から積極的に離床が推進されてきた.

参考文献

1)Fried LP, et al:Frailty in older adults:evidence for a phenotype. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 56:M146-156, 2001
2)Akima H, et al:Effects of 20 days of bed rest on physiological cross-sectional area of human thigh and leg muscles evaluated by magnetic resonance imaging. J Gravit Physiol 4:S15-21, 1997
3)Akima H, et al:Inactivity and muscle:effect of resistance training during bed rest on muscle size in the lower limb. Acta Physiol Scand 172:269-278, 2001
4)Bamman MM, et al:Impact of resistance exercise during bed rest on skeletal muscle sarcopenia and myosin isoform distribution. J Appl Physiol 84:157-163, 1998
5)Desplanches D, et al:Effects of bedrest on deltoideus muscle morphology and enzymes. Acta Physiol Scand 162:135-140, 1998
6)LeBlanc AD, et al:Regional changes in muscle mass following 17 weeks of bed rest. J Appl Physiol 73:2172-2178, 1992
7)進藤伸一:要介護老人の日常生活自立度と離床時間の関係.秋田大学医短紀要 5:85-89,1997
8)進藤伸一:重度障害老人の全身持久力に及ぼす離床の影響.理・作・療法 22:827-830,1988
9)上田 敏:リハビリテーション医学の世界,三輪書店,1992
10)Hirschberg GG, et al:Rehabilitation:a manual for the care of the disabled and elderly, Lippincott, Philadelphia, 1976
11)上田 敏:廃用症候群(disuse syndrome).日本臨牀 45:302,1987
12)進藤伸一:特別養護老人ホームの離床を規定する要因.東北理学療法学 8:61-64,1996
13)江口 清,他:在宅要介護老人の地域に根ざしたリハビリテーションのための基礎調査 茨城県古河市における包括的実態調査.日本公衛誌 39:743-757,1992
14)佐藤和佳子,他:House-boundにある在宅要介護高齢者の自立支援に関する検討(第1報)ADLと離床時間との関連.日本看護科学会誌 17:66-74,1997
15)日本理学療法士協会国庫補助事業委員会:要介護高齢者における離床時間と日常生活動作能力との関係.理学療法学(印刷中)

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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