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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル43巻5号

2009年05月発行

雑誌目次

特集 小児の地域理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.381 - P.381

 脳性麻痺をはじめとする障害児の療育に関わる医療機関は,従前の肢体不自由児施設中心の体制から,地域の一般病院や保健福祉施設などに移行しており,このため理学療法(士)には,ICFの概念を踏まえ,児の成育を見通しながら地域に根差した多面的なアプローチを行うことが求められている.本特集では一般病院,肢体不自由児施設,地域療育施設における児の理学療法の取り組みや課題,地域連携のあり方,さらに特別支援教育や地域生活支援について解説していただいた.

地域生活支援を目的とした小児理学療法

著者: 米津亮 ,   鶴見隆正

ページ範囲:P.383 - P.390

はじめに

 2001年,世界保健機関(以下,WHO)総会において国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health:以下,ICF)が採択され1),理学療法による支援のあり方も大きな転換期を迎えた.ICFの特徴は,対象児・者の生活を支援することに主眼を置いた点である.従来の国際障害分類(International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps:以下,ICIDH)は,対象児・者の機能障害や能力障害の改善に重点を置く障害構造モデルであった(図1a).この障害構造モデルは,あたかも対象児・者のもつ障害を“問題点”として捉え,社会参加が制限されるといった負の側面に注目した印象が否めない.それに対してICFでは,同じレベルの機能障害であっても,バリアフリーの整備などが進んだ環境であれば,活動や参加のレベルが向上するといった前向きな側面に焦点が当てられた.つまり,対象児・者の生活機能は,環境因子や個人因子などの背景因子と,心身機能・活動および参加が相互に作用を及ぼすといった障害構造モデル(図1b)へと変換した点が特徴である.このことは,われわれ理学療法士は,対象児・者がもつ“障害”にのみ目を向けるのではなく,障害児・者が生活を送る環境でその能力を十分に発揮できるよう働きかける必要があることを示唆している.

 そこで本稿では,まず対象児・者がもつ「障害特性」と「環境」との関係性を多角的に捉え,地域生活を支援する小児理学療法のあり方を再認識する機会としたい.そのうえで,支援の現状についてまとめ,今後の課題について提言する.

一般病院における小児の理学療法

著者: 藤本智久 ,   久呉真章 ,   皮居達彦 ,   田中正道

ページ範囲:P.391 - P.397

はじめに

 近年,NICU(neonatal intensive care unit)におけるリハビリテーション(以下,リハビリ)の必要性が認識され,地域の病院のNICUや新生児病棟でも理学療法士が介入する機会が増えており,早期からの小児理学療法が注目されている1).また,一般病院では,NICUだけでなくICUや小児科病棟においても,急性期の小児理学療法を実施する機会が増えており,病院から療育施設へとつなげることも重要な役割である.本稿では,地域の基幹周産期センターでもあり,急性期を担う姫路赤十字病院(以下,当院)におけるNICUからの早期理学療法システムと,一般病院としての急性期の小児理学療法の取り組みについて述べる.

肢体不自由児施設における小児の理学療法―当園におけるリハビリテーションの現状と今後の課題

著者: 中嶋信太郎

ページ範囲:P.399 - P.405

はじめに

 わが国の肢体不自由児施設は,東京大学医学部整形外科名誉教授であった高木憲次先生がドイツのクリュッペルハイムという身体障害者の施設を見聞され,日本にも社会医学的視点や教育から社会参加に至る総合リハビリテーションにつながる施設が必要であるとして,1942年に「東京整肢療護園」を開設されたことに始まる.その後,1970年代前半にかけて,肢体不自由児施設は全国の都道府県に配置され,肢体不自由児の機能改善医療が発達してきた.

 当園は,1967年に大阪赤十字病院分院の跡地である大阪市法円坂に,大阪府が日本赤十字社に経営委託する形態の肢体不自由児施設として開設された.当時は,「大阪府立大手前整肢学園」という名称であった.その後,2004年に現在の大阪赤十字病院東館1~3階に移転し,肢体不自由児施設に加えて,重症心身障害児施設を併設する形態となった.2007年には大阪府から大阪赤十字病院に移管され,名称も「大阪赤十字病院附属大手前整肢学園」と変更されて現在に至っている.

 今回,筆者に与えられたテーマは「肢体不自由児施設における小児の理学療法」であるが,言うまでもなくリハビリテーションに関しては多くの専門スタッフの関わり合いが必要不可欠である.そこで今回は理学療法に限局することなく,当施設のリハビリテーション全体の特徴と今後の課題を中心に紹介していきたい.

地域療育施設における小児の理学療法―当園における相談から通園,その後の関わり

著者: 本澤由美子 ,   村田英二 ,   眞保実 ,   要武志 ,   渡辺智興 ,   横山美佐子

ページ範囲:P.407 - P.415

はじめに

 2003年4月に障害福祉サービスに支援費制度が導入され,行政がサービスの受け手を特定する措置制度から,障害者自らが事業者との対等な契約関係に基づいてサービスを選択する利用契約制度へと変化した.また,2006年4月からは障害者自立支援法が施行され,身体障害,知的障害,精神障害のサービスの一元化などが行われた.さらに,2006年10月の児童福祉法改正を機に,障害児施設についても利用契約制度に移行し,今後の障害福祉サービスの質や量の向上が期待されているところである.

 このような社会情勢の中で,相模原市においては,市立療育センター陽光園(以下,当園)が運動発達や知的発達に心配や問題のある対象児(者)および家族に対する療育の中核施設としての機能を担っている.本稿では,社会情勢や相模原市のもつ機能の変化を踏まえ,当園での小児理学療法の流れを中心に,その具体的な関わりや課題について報告する.

特別支援教育における理学療法士の役割―子どもたちの学校生活を支える

著者: 多田智美

ページ範囲:P.417 - P.425

 自分が行っている治療は,子どもたちの生活にどのくらい役に立っているのだろうか? そんな自問自答を繰り返しながら小児医療施設で働いていた頃,特別支援学校(旧・養護学校)で働くという機会を得て10年が過ぎた.この間,支援費制度を経て自立支援法の施行など福祉制度の変化,医療的ケア導入による医療と教育との連携,そして特別支援教育の完全実施など,子どもたちを取り巻く情勢は大きく変わった.従来,障がい児教育は「特殊教育」と呼ばれ,日本では教員のみによって自己完結的に機能するように取り組まれてきたが,特別支援教育が実施される中で,特別支援学校では専門性が求められると共に,医療職との連携がクローズアップされるようになった.

 本稿では,理学療法士は学校の中でどのような役割を担い,専門性を活かすことができるのか,そしてスクールセラピストとして学校に位置づけられるためには何が必要かについて,筆者の10年の取り組みから事例の紹介も交えて述べる.

とびら

療育の本質

著者: 工藤俊輔

ページ範囲:P.379 - P.379

 私が重症児の療育に携わって,今年で36年になります.学生時代に臨床実習で担当した「太郎君」という重症児の療育に関わったことをきっかけに,「でく工房」から始まった本邦の「障害児のいす」づくりの伴走者として活動してきました.1988年に日本リハビリテーション工学協会で第1回の「姿勢保持」論文集が発行され,姿勢保持具についてテクノエイドの立場からの研究が進められるようになり,さらに,1990年4月より,身体障害者福祉法が改正され,座位保持装置(シーテングシステム)として,小児のみではなく,成人の障害者も含めた形で「障害児(者)のいす」として公的給付がなされるようになりました.私自身もクッション材で作製した重症児のための姿勢保持具「プロンキーパー」,「バードチェア」を考案しました.おひさま工房・ゆう工房を通じて,両者を合わせると,これまで1,500台近く製作しご利用いただいています.

 36年前は超早期療育が叫ばれ,どれだけ療育を早く始めるかがキーポイントでした.しかし,理学療法士として数多くの重症児の療育に関わり,早期療育のみでなく長期療育の大切さを実感するようになりました.この長期療育という言葉は,鳥取県立総合療育センター長の北原佶先生の受け売りですが,医療技術が進歩し,重度な障害のある子どもたちも社会の一員として成長し,大人になっていきます.3年ほど前,肢体不自由養護学校時代に自立活動の担当教員として関わった嵩宏君のお母さまからこんなお手紙をいただきました.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

Yahrの重症度分類

著者: 伊藤健一

ページ範囲:P.427 - P.427

 パーキンソン病の重症度分類として用いられているYahrの重症度分類の正式名称は,「Hoehn-Yahrの重症度分類」であり,1967年にHoehn MMとYahr MDが医学雑誌「Neurology」内の論文でパーキンソニズムの重症度分類として用いたのが最初である(表)1).この分類は,主に日常生活動作の障害により5つのstageから構成されている.分類のポイントは,stage Ⅰは症状が一側性であること,stage Ⅱは症状が両側性で,バランス障害が伴わないこと,stage Ⅲはバランス障害はあるが自立した生活が行えること,stage Ⅳは日常生活に介助を要すること,stage Ⅴは介助なしでは立つこともできないことである.

 Yahrの重症度分類の特徴は,評価自体が非常に簡便なことである.そのため臨床,研究いずれの場面においても,最も利用頻度が高く,国内外に広く認知されている.また,チーム医療の現場では,この分類がパーキンソン病患者の重症度を把握するための共通言語となっている.リハビリテーションではこの重症度分類(病期)によって以下のようにプログラムの方向性を決めることが多い.Stage Ⅰ~Ⅱの時期では関節可動域制限や心肺系機能の低下を予防するためのホームプログラムが理学療法の中心となる.Stage Ⅲの時期では関節可動域に制限が生じてくるため,各関節の可動域運動が必須となる.また,基本動作や歩行の練習,バランスの練習も加わる.Stage Ⅳの時期になると,これまでのプログラムに加え,呼吸練習が必要となる.場合によっては車いすや歩行器,自助具などの導入や家屋改造が必要となる.Stage Ⅴでは寝たきり状態となるため,関節拘縮や褥瘡予防のため関節可動域運動や体位変換が必要となる2)

理学療法関連認定資格紹介

心臓リハビリテーション指導士について

著者: 牧田茂

ページ範囲:P.430 - P.430

●認定制度成立の経緯と認定趣旨について

 心臓リハビリテーション(以下,心臓リハビリ)は,かつては急性心筋梗塞後の離床とデコンディショニング予防が主たる目的であった.しかし,近年では再灌流療法やCCUの普及,心臓手術の進歩により早期離床・早期退院が可能となったため,冠危険因子是正による二次予防(再発予防)のための心臓リハビリへと目的が変わってきている.つまり,心臓リハビリは単に運動療法のみを行っていれば事足りるものではなく,食事療法や禁煙指導を含めた包括的リハビリを目指すべきであり,そのためには,医療専門職間の連携や協同作業が必要となる.また,チームが円滑に機能するためには,心臓リハビリに関する共通認識と知識や用語の共有化,定期的なカンファレンスやミーティングなども行う必要がある.このような状況の中,日本心臓リハビリテーション学会は,心臓リハビリテーション指導士(以下,心臓リハビリ指導士)の認定制度を2000年に発足させた.

新人理学療法士へのメッセージ

Think global, act local

著者: 朴文華

ページ範囲:P.428 - P.429

 私は,今春,理学療法士になって4年目を迎えました.今回,「新人理学療法士へのメッセージ」を書く機会をいただきましたので,自分のことを振り返りながら,新人の皆様に何か伝われば,と思います.

 私が現在の病院に入職した時期に,同じ施設内に県立リハビリテーションセンターが開設されました.それに伴うシステムの改変により,リハビリテーション科にとっても慌ただしい時期でした.スタッフも一気に増員したため,当時は組織としての体制整備に多くの労力が割かれていたように思います.そのような中で,他の病院で働いている同期はどんどん患者さんを任されているという近況を聞き,自分はこれでよいのかと焦っていました.そして,自分のやるべきことは自分の担当患者さんに対して理学療法を行うことであり,そのために文献や資料を読んだり,治療方法について考えたり,早く一人前にならなければいけないということだけを考えていました.

入門講座 画像のみかた・2

肩関節画像のみかた

著者: 千葉慎一 ,   尾崎尚代 ,   嘉陽拓 ,   筒井廣明

ページ範囲:P.431 - P.440

はじめに

 近年,様々な画像診断方法が肩関節の診断に用いられるようになっている.画像診断から得られる情報は,治療方法を決定するうえで,理学療法士にとって有用な情報となる.

 本稿では,X線,関節鏡およびMRIから得られる肩関節の画像の読影に対する基本的なポイントについて述べる.

講座 ガイドライン・2

大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン

著者: 萩野浩 ,   渡部欣忍 ,   中野哲雄 ,   澤口毅 ,   松下隆

ページ範囲:P.441 - P.446

はじめに

 診療ガイドラインとは,特定の臨床状況において,医師をはじめとした医療スタッフおよび患者が適切な決断を下せるよう支援する目的で体系的に作成された文書である.現在では数多くの疾患を対象としたガイドラインが作成・出版されているが,わが国で診療ガイドラインが広く作成されるようになったのは,1999年度から厚生労働省が班研究によって20疾患のガイドライン作成を進めてからである.整形外科疾患については,大腿骨頚部/転子部骨折と腰椎椎間板ヘルニアがこの20疾患に含まれた.日本整形外科学会ではこれらの2疾患に加えて,頚椎症性脊髄症,頚椎後縦靱帯骨化症,上腕骨外側上顆炎,アキレス腱断裂,外反母趾,前十字靱帯損傷,変形性股関節症の診療ガイドライン,骨・関節術後感染予防ガイドライン,軟骨腫瘍診断ガイドラインを作成・出版している.

 大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン(以下,本ガイドライン)は2002年より作成が開始された.その時点で諸外国のガイドラインを検索したところ,参考にすることができたのはScottish Intercollegiate Guidelines Networkのもののみであった.そこで本ガイドラインはevidence based medicine(EBM)の手法に従い,臨床研究の結果から得られたエビデンスに基づいて作成を進め,2005年6月に完成・出版された1)

 本稿では本ガイドラインの作成過程を紹介し,その利用方法と作成経過中あるいは普及後に明らかとなった問題点を概説する.

臨床実習サブノート 知っておきたい理学療法評価のポイント・11

前十字靱帯損傷患者を担当した時

著者: 山口正貴 ,   赤羽秀徳

ページ範囲:P.447 - P.456

はじめに

 前十字靱帯(anterior cruciate ligament:ACL)損傷者の理学療法評価のポイントとは何か? ACL損傷に限ったことではないが,それはまず,患者が理学療法士に何を求めているのかを考えることであろう.ACL損傷者の多くはスポーツ愛好家であり,スポーツ復帰を望んでいる.そのため,スポーツ活動の継続を目標に,ACL損傷に至った原因を追究し,再受傷予防につなげていくことが必要である.また,ACL損傷の多くは非接触性の損傷であるとされていることから,スポーツ活動時の運動制御に問題があると言える.運動制御とは,筋肉と関節運動によって,状況に応じ,運動を安全かつ効率的に行うことである1)

 本稿では,運動制御を中心として,ACL損傷後の再受傷予防に向けた理学療法評価のポイントや注意点について,事前に知っておくべきこと(STEP Ⅰ~Ⅲ),実際に行うこと(STEP Ⅳ)の2つに分けて述べてみたい.

報告

間質性肺炎患者における運動誘発性低酸素血症の予測指標

著者: 横山有里 ,   横山仁志 ,   大森圭貢 ,   笠原酉介 ,   下田志摩 ,   駒瀬裕子 ,   笹益雄

ページ範囲:P.457 - P.461

要旨:間質性肺炎(以下,IP)患者は運動誘発性低酸素血症(以下,EIH)を生じやすく,身体活動を伴う理学療法を施行する際には低酸素血症に対するリスク管理が重要である.本研究は,IP患者における快適歩行速度時のEIHの予測指標とその閾値を明らかにすることを目的に検討を行った.安定期のIP患者57例(男性36例,女性21例,平均年齢71.1±9.9歳)を対象とし,快適歩行速度下のEIHの有無と基本属性,下肢筋力,呼吸機能の関係を調査した.その結果,EIHあり群となし群の2群間では%VC,FEV1.0%,DLCO,%DLCOの呼吸機能で有意差が認められた(p<0.05).次に,これらの項目について,ROC曲線を用いてEIHの有無を判別するカットオフ値を求めた.その結果,%DLCO,DLCO,%VCの曲線下面積は,順に0.963,0.825,0.794と有意に高値を示し(p<0.05),そのカットオフ値は,61.1%,10.8mL/min/mmHg,72.5%であった.これらの指標の把握は,IP患者のリハビリテーションを施行する際に,適切な方法選択やリスク管理が可能となる点で有用である.

学会印象記

―第24回日本義肢装具学会学術大会―義肢装具への関心をさらに高めよう!

著者: 新妻晶

ページ範囲:P.462 - P.464

はじめに

 2008年11月29~30日の2日間,東京の日本工学院・蒲田キャンパスにおいて,第24回日本義肢装具学会・学術大会が開催された.今回は,私の上司である水間正澄教授(昭和大学)が大会長を務めることになり,準備の都合上,当院からほど近く,比較的リーズナブルな会場を探すということと,全国から参加される方々の交通の利便性を考えて,羽田空港や品川駅にも近い東京都大田区の蒲田が選ばれた.

 当初は区内の公共施設も候補に挙がったが,学術大会に必要なホールや会議室の使用権は各々に抽選会があり,使用希望日の6か月~1年前にあたる抽選日までは使用者が決定せず,しかもすべての部屋が当選する確率は極めて低いので,1,2年前から開催場所を広報しなければならない大規模な学会には不向きだった.かといって,民間施設となると都内の場合は施設使用料が高く,会場の選択に難渋したが,幸いにも「日本工学院・蒲田キャンパス」を借用することができた.この学校はJRの車窓からもみえ,蒲田駅より徒歩1分と大変便利な場所にあり,元々クリエイター系の専門コースなどがあるので,AV環境が整ったホールや教室を有しており,キャンパス全体が洒落たデザインだった(今回はバリアフリー化されていない校舎をお借りしたため,車いすや義足で参加された方々には特にご不便をお掛けしたことを,この誌面を借りてお詫びしたい).

 ところで,蒲田といえば,その昔は「キネマの天地」や「蒲田行進曲」で有名な松竹キネマ蒲田撮影所がある華やかな町だったが,その後,大森区と蒲田区が合併して大田区となり,近年は世界に誇れる“もの作り”で有名な中小の町工場が集結した地域となっている.このような創造力が培われてきた土地で「“くらし”と義肢装具」というテーマを掲げ,本学術大会を開催できたのも何か通じるものがあるのかもしれない.

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文献抄録

ページ範囲:P.466 - P.468

編集後記

著者: 鶴見隆正

ページ範囲:P.472 - P.472

 わが国の少子高齢化に伴う問題は近年深刻化しており,2042年には65歳以上の人口が3,860万人に達する一方で,総人口は1億人に減少し, 現役世代1.4人で高齢者1人を支える超高齢社会が迫っていると推計されています.そのような中で,社会保障制度を維持充実するための税制などのあり方や人口政策などが論じられていますが,高齢者に焦点を当てた介護システムや財政の確保だけでは,健やかな高齢社会を構築することは困難であり,むしろ,これからの高齢社会を支える子どもたちの生活環境や教育環境を重視したサポートが大切だと思います.例えば,一向になくならない児童虐待への対応,4万人以上いる保育園待機児童の解消,共働きの親に代わって放課後や夏休みに宿題や生活指導をする学童保育の充実など,子どもの生活・教育環境を改善することが,ひいては高齢社会を支えることにつながるという視点をもってほしいものです.同様に,小中学校の給食費滞納者や高校の授業料滞納者が急増していることに対して,支払わない親を一方的に非難するのではなく,子どもたちが気兼ねなく級友と共に給食を摂ったり,勉強できるような支援システムを創るべきだと思います.すなわち子どもたちを安心して育むことのできる優しいコミュニティなくして,どうして健やかな高齢社会を築くことができるのでしょうか.

 さて,今月号の特集は「小児の地域理学療法」です.脳性麻痺児らに対する理学療法においては,長いライフスパンで身体機能を捉えた保育・就学支援から学業支援,生活支援,就労支援など日々の生活に密着した地域理学療法が求められています.米津・他論文では,児の運動発達と地域生活の場における多面的な生活支援活動の実際と課題について論述しています.藤本・他論文では,一般病院におけるNICUからの早期理学療法システムを,また中嶋論文では,肢体不自由児施設における児・者の一貫した療育システムについて論述し,両論文ともに地域支援センターなどとの連携の必要性を説いています.本澤・他論文では,通園部門を含む地域療育施設での就学支援から巡回リハビリテーションの関わりなど,地域に根差した活動について,また,多田論文では,特別支援教育におけるスクールセラピストとしての活動と役割について解説していただきました.

 入門講座では,「肩関節画像のみかた」について,講座では,「大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン」について,わかりやすく解説していただきました.いずれも臨床ではよく担当する疾患ですので参考になると思います.

 本誌がお手許に届くころには,第44回日本理学療法学術大会が開催されます.発表された演題を論文にまとめて,ぜひ投稿くださるようお願いします.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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