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文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル43巻7号

2009年07月発行

文献概要

とびら

実体験が教えてくれること

著者: 小塚直樹1

所属機関: 1札幌医科大学保健医療学部理学療法学科

ページ範囲:P.563 - P.563

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 実体験により人は多くのことを学習する.われわれは阪神淡路大震災により,火山帯ではなく,地下プレートの変動でもない,活断層というものが原因となる大地震の恐ろしさを学んだ.私には仕事で知り合った中国人の友人がいるが,彼らの多くは地震を体験したことがなく,「火山のない大陸国の中国には地震は起きない」と断言していた.しかし,昨年5月,四川省で活断層性の大地震が発生した.倒壊した建物の状況から耐震上の問題点が指摘され,甚大な人的被害と共に中国国民に大きな衝撃を与えた.阪神大震災の後,日本では様々な建物の耐震性が強化された.もしこのノウハウが中国に伝わっていれば,少なくとも予防的な対応策が講じられていたはずだが,「地震は起きない」と信じられていた中では,この「もしも」を前提とした耐震戦略がとられていなかった.不幸な例ではあるが,両国ともに地震を実体験することのみが体制を動かす契機となったのである.

 理学療法学教育における臨床実習は,まさしく実体験そのものである.臨床実習中に多くの症例と出会うことは,最も効果的に学生の成長を促すと思う.私が学生だった時代の臨床実習は,時代背景的に「習うより慣れる」スタイルであり,多くの患者さんと巡り会うことができた.そして,様々な疾患,病態の患者さんの治療経験を積んでいくうちに,それなりの対応ができるようになっていった.教科書で時間をかけて機序を理解した歯車様固縮は,患者さんに日々他動運動を行うことによって,短時間で自分の中のリアルな感覚として理解することができた.時代は変わり,養成校の数が急増した現在,臨床実習の現場では習うことにも慣れることにも様々な限界があり,貴重な実体験の絶対量は減少する傾向にある.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

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