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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル43巻9号

2009年09月発行

雑誌目次

特集 膝関節疾患の理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.757 - P.757

 膝関節の機能には,滑らかな運動性と高い支持性が要求されるが,激しいスポーツ活動によって十字靱帯や半月板などの軟部組織を損傷したり,加齢による関節軟骨・骨の変性によって,その機能が破綻し,歩行やADLに大きな支障を来すことが多い.それだけに膝疾患に対する最適な評価と効果的な理学療法が求められている.そこで本特集では,関節鏡視下手術とその理学療法,前十字靱帯再建術後や人工膝関節全置換術後の理学療法,変形性膝関節症の保存療法などについて,最新情報をおりまぜて解説していただいた.

膝関節疾患の関節鏡視下手術と理学療法

著者: 日野和典 ,   高橋敏明

ページ範囲:P.759 - P.764

膝関節鏡視下手術の進歩と位置づけ

1.関節鏡とは

 関節鏡とは,関節内を観察するための光学機器であり,膝関節の場合は,皮膚切開部(約1cmの小切開部)から関節鏡(径4.0mmのカメラ)を挿入し,生理食塩水で満たした関節内を観察する.別の小切開部より様々な手術器具を挿入することにより,切除や縫合といった治療手技を組み合わせることが可能である(図1).このように,膝関節鏡は検査手技と治療手技の両方の役割を担っているといえる.

 関節鏡の発達は膝関節外科に飛躍的な進歩をもたらし,手術手技の進歩と新しい関節鏡器具の開発によって,その適応は今なお広がっている.

前十字靱帯再建術の理学療法と運動機能回復

著者: 羽田晋也 ,   岡野勝正

ページ範囲:P.765 - P.774

はじめに

 膝前十字靱帯損傷は,下肢の代表的なスポーツ傷害の1つとして知られ,バスケットボールやバレーボールなどで踏み切り,着地,急な停止や方向転換時などに受傷する非接触型損傷が多いとされている.接触型損傷の例としては,サッカーやラグビーなどのタックルに伴う膝外反強制力による受傷などが挙げられる.一方,自転車やバイクによる交通事故での受傷,さらには骨折に伴った合併損傷なども存在し,受傷機転は多岐にわたる.治療にあたっては,医学的所見と自覚症状,患者の目標から保存療法か手術療法が選択される.

 スポーツ復帰を目指す場合は,手術と術前後の理学療法による膝関節の機能再建だけでなく,不安なく動ける身体づくりが再受傷予防を含めて重要である.当院では,術後6か月以降でのスポーツ復帰を目標としており,1つの目安としてその趣旨を十分に説明し,承諾を得た上で術前後の等速性筋力測定を行っている.本稿では,主に前十字靱帯再建術後の理学療法のポイントと等速性筋力測定の結果について紹介する.

人工膝関節全置換術の理学療法と運動機能回復

著者: 木賀洋

ページ範囲:P.775 - P.781

はじめに

 人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty:以下,TKA)は国内でも年間5万例が行われ,決して特別な手術ではなくなっている.また,在院日数の短縮化(早期退院),診療報酬の算定日数制限など医療・介護保険制度の変革,高齢化社会の進展に伴う膝機能の改善に関するニーズの変化などにより,評価や後療法も変化している.

 これらのことから,手術やリハビリテーション(以下,リハビリ)を含めた治療効果について客観的に捉えること,そして,退院後も含めたADL(activities of daily living)・QOL(quality of life)の維持,向上に対し,どのようなアプローチを行うかが重要な課題となっている.術後評価については,ルーズニング(骨とインプラントの間の弛み)などの人工関節とその支持性に関する報告,手術の目的である疼痛や関節可動域の改善に関する報告,それらに深く関わる軟部組織の評価に関する報告も増えてきている.そこで,本稿では,当院におけるTKA患者の周術期の評価や後療法,術後ADL・QOLの向上に対する取り組みについて述べる.

変形性膝関節症の外来理学療法と運動機能回復

著者: 田中彩乃 ,   八木麻衣子

ページ範囲:P.783 - P.788

はじめに

 変形性膝関節症(以下,膝OA)は,健康寿命を短縮させる重大な生活習慣病である.東京大学22世紀医療センターによるResearch on Osteoarthritis Against Disability(ROAD)プロジェクトにおけるコホート研究では,本邦の膝OA推定有病者は,無症候性で2,400万人,症状を有する者に限定しても約800万人と推計され,高齢者において非常に高い有病率であることが明らかとなっている1)

 これら膝OAの初期治療は,運動療法を中心とした保存療法が主体であり,多くは外来理学療法の対象であると考えられる.本稿では,膝OAに対する運動療法の効果を確認したうえで,外来理学療法の評価や指導のポイントを述べる.

人工膝関節全置換術の認知運動療法と運動機能回復

著者: 前田真依子

ページ範囲:P.789 - P.798

はじめに

 膝関節疾患に対する主な運動療法は,膝関節を構成する筋や関節の機能低下を,適切な運動を実施することで克服する,という考え方が中心となっている.なぜなら,これらを含む骨関節疾患は,筋や関節そのものが変化しているという構造的な異常として捉えられることが多いためである.例えば,疼痛や手術によって生じた膝関節の退行変化に対する直接的な治療,つまり萎縮した筋の筋力増強や,拘縮を起こした関節の関節可動域(以下,ROM)の拡大といった個別的な治療を実施し,それを起立・歩行などの移動能力の獲得に結びつけていくというような考え方である.骨関節疾患に対するこのような治療の枠組みは,わが国においてかなり以前から定着していたと考えられる1).しかし,運動器の障害によって生じた動作の異常性を,筋力やROMなどの問題と結びつけて考える治療が常に有効であるとは限らないことも事実である2~4)

 臨床現場では,変形性膝関節症(以下,膝OA)による人工膝関節全置換術(以下,TKA)後に膝周囲の筋力やROMが改善されたにもかかわらず,歩容が術前と変わらない症例を経験することもあれば,練習中は目的の動作が可能であってもリハビリテーション室から1歩出るとその動作を行えなくなる症例を担当することもある.「きれいに歩きたい」という訴えやパフォーマンスの向上に対して,われわれは今後も量的な練習のみを機械的に続けていてよいのだろうか.

 この点に対して,認知運動療法は運動学習における介入手段として大変興味深いものである.近年,脳に器質的変化がないとされる骨関節疾患患者についても,認知機能やイメージをはじめとする高次脳機能への介入効果が注目されはじめている5).本稿では,症例を提示しながらTKA患者に対する認知運動療法の実際と,膝OAをはじめとする骨関節疾患における病態の解釈と臨床展開について紹介する.

とびら

最近の情勢から考えさせられたこと

著者: 大場みゆき

ページ範囲:P.755 - P.755

 世の中では100年に一度の不況といわれ,リストラや給料カットなど暗い話題が多いが,私たち医療職にとって景気による直接的な影響は少ない.医療は利益を上げることを目的とするわけではなく,あくまでもよりよい医療を提供することが何よりのポリシーである.理学療法士の労働対価は診療報酬として評価され,これまで,数年に一度の診療報酬改定のたびに一喜一憂させられ,ある時は踊らされた.いつの間にかなくなったADL加算については,理学療法を実施する場所を理学療法室から病棟へとシフトさせ,病棟で行う理学療法の意義や内容について討議し,改めてADLへの介入の重要性を認識させられたのと同時に,他職種との協業や役割の違いなどを継続して議論していくことが必要となった.

 また,算定日数制限が設けられたことにより,限られた日数の中で濃厚なリハビリテーションを提供するだけでなく,クリティカルパスに沿って計画的・段階的に進めることが重要となった.患者や家族にとっては,まだ障害受容がなされていない時期から,将来の生活の場について考えなければならなくなった.しかし,このような制度上の流れのスピードに,患者の心はそう簡単にはついてこられないものである.

あんてな

JICA―国際協力の現場から・1 JICAの位置付けとこれまでの歩み

著者: 田和美代子

ページ範囲:P.799 - P.801

 本連載では,リハビリテーション・理学療法分野における国際協力の現状と展望について,JICAの活動の実際,具体的なプロジェクトの事例,青年海外協力隊との関わりなどを通して解説していただきます.

フィジー国理学療法士臨床研修の紹介

著者: 貞松徹 ,   池城正浩 ,   岡本慎哉 ,   溝田康司

ページ範囲:P.844 - P.851

はじめに

 社団法人沖縄県理学療法士会(以下,当士会)では,2008~2009年度の2年間,独立行政法人国際協力機構(Japan International Cooperation Agency:JICA)と連携して行う,草の根技術協力事業により,フィジー諸島共和国(以下,フィジー国)から理学療法士の研修員を受け入れています.各年度ともに研修期間は1か月で,2008年11月に1年目の研修を無事終了し,この内容が本誌を通して皆さんに紹介される頃には,ちょうど2年目の研修員が沖縄県内の病院,施設で研修を行っている予定です.本稿では,当士会が実施している「JICA草の根技術協力事業」によるフィジー国理学療法士臨床研修について紹介します.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

アポトーシス

著者: 中野治郎

ページ範囲:P.803 - P.803

 アポトーシス(apoptosis)とは,体の形作りや新旧細胞の入れ替え,損傷または感染した細胞の除去など,生命体として調和のとれた状態・環境を保つ(ホメオスタシス)ために起きる細胞死,またはその過程をいう.この概念がKerrら1)によって初めて報告されたのは1972年であるが,当時は注目されず,広く受け入れられるようになったのは1990年代後半のことである.その背景には,がんの分子生物学的研究の進歩があり,きっかけとなったのはがん抑制遺伝子の発見である.がん抑制遺伝子は,細胞に異常があれば自ら細胞死するように仕向ける機能,すなわちアポトーシスを誘導する機能を持ち,これに異常が発生すると細胞は死なずにがん細胞となる.このことが明らかになってから,アポトーシスは生命メカニズムを解くための重要な鍵として認識されるようになり,今日までに急速に研究・解明されてきた.

理学療法関連認定資格紹介

THPにおける運動指導担当者について

著者: 細江裕行

ページ範囲:P.827 - P.827

●資格制度成立の経緯と認定趣旨について

 わが国では,1979年より「企業内における中高年労働者の健康づくりは,個々の労働者が健康的な生活習慣を確立することにより,健康の保持増進を図り,さらには労働適応能力の向上を図るものでなければならない.このことは個々の労働者の生活信条,生活様式などとも深く関連する問題であるため,個々の労働者の日常生活全般にわたる生活設計のあり方について正しい理解を通じて,自主的に生活全体のなかに健康志向を定着させること」が重要であるという考え方を基本に「中高年齢労働者の健康づくり運動(シルバー・ヘルス・プラン)」が開始された.そして,急速な職場環境の変化に対応するため,1988年にはその対象年齢が「中高年齢労働者」から「全労働者」に拡大され,心とからだの健康づくり運動(THP:トータル・ヘルスプロモーション・プラン)を積極的に推進していくことが提唱された.それに伴い,「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」が策定され,推進に必要とされる6種類のスタッフ(担当者)の1つとして「運動指導担当者」が定められた.

初めての学会発表

目標であった学会発表

著者: 長谷川由理

ページ範囲:P.804 - P.805

 2009年5月30日,AM11:00.初めて参加する学会で,初めて行うポスター発表.

 心地よい緊張感と,応援に来てくださった恩師,職場の先輩,そして大学時代の同期たち.慣れ親しんだ顔ぶれに加えて,ポスターを見に来てくださった方々….発表前は「誰も見に来なかったらどうしよう…」という不安を抱えていたので,集まってくださった方々の顔を見て,安心したのかもしれません.不思議と緊張感よりも,わくわくする気持ちでいっぱいでした.初めての発表は,想像していた以上にアドバイスをいただけて,ディスカッションすることの大切さ,そして楽しさを感じる貴重な経験となりました.

入門講座 画像のみかた・6

胸部画像のみかた

著者: 鵜澤吉宏 ,   宮越浩一 ,   金子教宏

ページ範囲:P.807 - P.818

Q1.胸部X線画像をみる時に注意することは?

 胸部X線画像をみる時には,その画像がどのような条件で撮影されているかを確認する.確認すべき項目はいくつかあるが,そのなかでも以下の点が重要である.

講座 ガイドライン・6

介護予防ガイドライン

著者: 和田泰三 ,   奥宮清人 ,   松林公蔵

ページ範囲:P.819 - P.826

はじめに

 わが国の介護保険制度は2000年に導入されたが,そのコンセプトは「地域における自立支援を行い,地域で要介護者を支える」に集約されている.当初から要支援者に対する予防給付は行われていたものの,全体としては「介護」に偏し,「予防」の比重が低いものであった.このことは,いったん要介護状態となってからは多様なケアを選択できるという点で,介護負担を軽減することに貢献した.一方で,要支援,要介護1といった本来「自立支援」を図るべき対象者が自立を志向せず,むしろ要介護認定を権利として望み,自立への努力に水を差す側面があった.具体的には,要支援者に対する家事代行,要支援者や要介護1に提供される電動ベッドや車いすが,果たして自立支援に資するのか疑問視された.このため,介護保険制度については,制度全般に対する見直しが行われ,特に要支援,要介護1といった軽度の者に対するサービス内容や提供方法について「新予防給付」を創設し,より「自立支援」に資するものとなるよう改められ,2006年4月より実施されることとなった.

 このような状況のなか,「介護予防ガイドライン」1)は,「痴呆・骨折臨床研究事業―寝たきりの主要因に対する縦断介入研究を基礎にした介護予防ガイドライン策定に関する研究」(代表・鳥羽研二)の報告書をわかりやすく編集し,2006年に発行された.介護予防という概念は,基本的ADL(basic activities of daily living)低下の予防,IADL(instrumental activities of daily living)依存の予防,および老年症候群の発症・悪化予防というきわめて広い概念である.本ガイドラインでは,「いったいどうやって評価し,介護予防ケアマネジメントを行い,どういう対象に,どのような介入を行ったら効果的であるのか」という問いに対して,わが国の縦断研究での成果を踏まえて答えようとしている.

学会印象記

―●ISPRM 2009―Japonya'dan geldim(日本から来ました)―ISPRM 2009に参加して

著者: 藤原孝之

ページ範囲:P.830 - P.833

 新型インフルエンザと世界同時不況の嵐をかいくぐって,2009年6月13日から17日までトルコ共和国のイスタンブールで開催された,第5回国際物理医学リハビリテーション医学会(International Society of Physical and Rehabilitation Medicine:ISPRM 2009)に参加した.この学会は,従来からあったIRMA(International Rehabilitation Medicine Association)とIFPRM(International Federation of Physical and Rehabilitation Medicine)を統合し,リハビリテーション医学における最大の国際学会として結成された組織で,今年で10年目を迎える.出発まで学内の新型インフルエンザ緊急対策本部の見解が二転三転して,演題は出したものの発表できるかどうか微妙な状態にあった.何とか出張が可能になり成田空港からトルコ航空の直行便でイスタンブールに飛んだが,その旅程でマスクをしている人間を見たのは成田空港の職員のみであった.

 イスタンブール市内ではWHOのレベル6を髣髴させる状況はその痕跡すらなく,他人の咳を気にする様子も皆無であった.紀元前8000年頃の新石器・青銅器時代からヒッタイト,ペルシア帝国,ヘレニズム・ローマ時代,ビザンティン文化,セルジューク朝時代を経て,13世紀末のオスマン朝に至る壮大な歴史ドラマが人口1,200万の近代都市に溶け込んで,まさにアジアとヨーロッパの接点を形成する世界遺産の町であった(図1,2).日本円約90円で,ボスポラス海峡を跨ぎヨーロッパ側からアジア側に船で渡ることができる.アジア最西端とヨーロッパ最東端の鉄道の駅がイスタンブール市内にあり,それぞれ趣のある町並みを形成している.当然ながら人種もトルコ人,クルド人を中心にいろいろである.ちなみに,トルコアイスはみな伸びるとは限らない.トルコで食べるアイスはすべてトルコアイスであることを現地で知った.「トルコアイス」と注文するとほとんど日本で食べる普通のアイスがきた.いろいろ説明してもやはり普通のアイスしか出てこない.滞在中に1回だけ日本で話題のトルコアイスにめぐり合ったが,実際に伸ばしてみるとそんなに伸びるものではなかった.

報告

白内障疑似体験フィルタが視機能と視覚刺激に対する反応時間に与える影響

著者: 林静香 ,   高橋真 ,   関川清一 ,   稲水惇

ページ範囲:P.837 - P.841

要旨:本研究では,白内障が視機能と視覚刺激に対する反応時間に与える影響を検討するため,若年者を対象に白内障疑似体験ゴーグル装着時と通常ゴーグル装着時の静止視力,kinetic visual acuity(KVA)動体視力,dynamic visual acuity(DVA)動体視力,コントラスト感度,深視力,瞬間視力,眼と手の協応動作,全身反応時間を比較した.その結果,静止視力,KVA動体視力,コントラスト感度,深視力および眼と手の協応動作は,疑似体験ゴーグル装着により有意に低下したが,DVA動体視力,瞬間視力および全身反応時間は2群間で有意差を認めなかった.以上の結果から,白内障は視機能や視覚刺激に対する反応時間すべてに影響するわけではなく,実際の加齢に伴う低下は神経系や筋骨格系など白内障以外の要因も関与していることが示唆された.

全国勉強会紹介

四国徒手療法研究会

著者: 市川和人

ページ範囲:P.842 - P.843

活動について
①目的

 四国徒手療法研究会は,四国4県のセラピストを対象として徒手的治療手技の理論と実際に関する研鑚,レベル向上と最新の情報提供を目的とした講習会,研修会を定期的に開催(年4回を基本)しています.具体的には,①技術講習会,研修会の開催,②学術大会の開催,③徒手的治療に関する調査,啓発活動の3事業を行っています.
②研修内容

 研修事業は各県から選任された幹事を中心に企画を検討し,運営幹事会で承認を得た上で,4県輪番制で開催しています.現在は年4回開催されており,研修内容は,特定の手技やコンセプトに固執せず,基礎的なものから最新のトピックスも交えた治療理論と実技が中心です.また,3年ごと(技術講習会,研修会の積算区切り:10回,20回など)に学術大会を開催することとし,2009年5月に第1回四国徒手療法学術大会を開催しました.

書評

―嶋田智明,大峯三郎(常任編集)/立花 孝(ゲスト編集)―「実践MOOK理学療法プラクティス 肩関節運動機能障害 何を考え,どう対処するか」

著者: 神先秀人

ページ範囲:P.828 - P.828

 肩の痛みや可動域制限は理学療法士が臨床場面でしばしば直面する.それにもかかわらず,肩の障害に対してあまり深く関わった気にならないのは,その病態の複雑さゆえに,理解することをあきらめて,関節拘縮には関節可動域運動,痛みには温熱療法と言った短絡した治療パターン,もしくは疾患または手術に伴う定型的プログラムの実行にとどまっていたからではないか.そして,十分な改善が認められない場合には,「治療の限界」とあきらめ,制限された機能の中でのADLの指導に終始していたのではないか.自らの過去を振り返ってそんな反省をさせられた.

 複雑な身体運動の解明にこだわる姿勢,機能改善にこだわる姿勢がなければ,理学療法は発展しない.それ以上に重要なことは,われわれが「限界」とさじを投げ出すことで,患者の改善の可能性を閉ざしてしまいかねないことである.

―栗山節郎(監訳)・川島敏生(訳)―「ブラッド・ウォーカー ストレッチングと筋の解剖」

著者: 野村嶬

ページ範囲:P.834 - P.834

 本書は,4つの特筆すべき優れた特徴を持っている.まずその第1はストレッチングと柔軟性を,骨格筋の基本単位である筋節まで遡って解剖学的,生理学的に解説している点である.長期の定期的なストレッチングによる関節可動域の拡大は,筋節の新たな増加によって筋全体が長くなるためであるとの説明は説得力がある.

 第2は,ストレッチングの主なメリットとして関節可動域の改善のほかに,スポーツ傷害の予防,パワーの向上,運動後の筋肉痛の軽減,および疲労の軽減を挙げている.その中で運動後の筋肉痛(遅発性筋肉痛)は筋線維内の微細損傷,筋内の血液停滞および乳酸などの老廃物の蓄積によるものであることを指摘し,クールダウンの一環として効果的なストレッチングを行うことにより筋肉痛を軽減できることを科学的に解説している.運動前にストレッチングを行う人はかなり多いが,自分も含め運動後のストレッチングを行っている人はどれほどいるであろうか.本書は運動後のストレッチングの重要性にも目を向けさせてくれる.

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文献抄録

ページ範囲:P.852 - P.853

編集後記

著者: 鶴見隆正

ページ範囲:P.856 - P.856

 今年の夏の天候は,全国的に梅雨が長引くなど不順なうえに,中国地方から九州北部にかけての集中豪雨では,土石流や河川の氾濫により各地に甚大な被害をもたらしています.また,日照不足による稲作や野菜などの農作物への影響が心配で,農家の人にとっても,夏休みの子どもたちにとっても,夏のスカッとした日差しが待ち遠しいことと思います.

 今月の特集は「膝関節疾患の理学療法」です.日野・他論文では,現在も刻々と進化している関節鏡機器の開発の歩みから鏡視下手術の基本手技について紹介し,半月板損傷の手術適応については鏡視像を提示しながらわかりやすく解説しています.関節鏡視下手術は日本で開発された画期的な治療法として多くの医療機関で実施されていますが,その効果をより高めるためにも術式に合致した術後理学療法のあり方が重要となります.羽田・他論文では,ACL再建術の理学療法評価のポイントと術後5か月間の運動療法プログラムを詳述しています.自験例44名の等速性膝伸展・屈曲筋力とROMの回復推移データは,紹介された運動療法プログラムの有効性を裏付けており参考となります.木賀論文では,有床診療所におけるセメントレスTKA後の早期荷重を主体としたクリニカルパスの適応,退院後の生活活動とQOLを重視した実践的な取り組みが紹介されています.患者同士が支え合い,QOLを高め合う「人工関節友の会」の組織化には感心します.田中・他論文では,生活スタイルや心理的状態などを考慮した変形性膝関節症の外来理学療法を,また前田論文では,疼痛や関節運動などの感覚モダリティを重視したTKAの認知運動療法の評価と運動指導,その効果を具体的に解説しています.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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