文献詳細
文献概要
特集 膝関節疾患の理学療法
人工膝関節全置換術の認知運動療法と運動機能回復
著者: 前田真依子1
所属機関: 1兵庫県立総合リハビリテーションセンターリハビリ療法部
ページ範囲:P.789 - P.798
文献購入ページに移動はじめに
膝関節疾患に対する主な運動療法は,膝関節を構成する筋や関節の機能低下を,適切な運動を実施することで克服する,という考え方が中心となっている.なぜなら,これらを含む骨関節疾患は,筋や関節そのものが変化しているという構造的な異常として捉えられることが多いためである.例えば,疼痛や手術によって生じた膝関節の退行変化に対する直接的な治療,つまり萎縮した筋の筋力増強や,拘縮を起こした関節の関節可動域(以下,ROM)の拡大といった個別的な治療を実施し,それを起立・歩行などの移動能力の獲得に結びつけていくというような考え方である.骨関節疾患に対するこのような治療の枠組みは,わが国においてかなり以前から定着していたと考えられる1).しかし,運動器の障害によって生じた動作の異常性を,筋力やROMなどの問題と結びつけて考える治療が常に有効であるとは限らないことも事実である2~4).
臨床現場では,変形性膝関節症(以下,膝OA)による人工膝関節全置換術(以下,TKA)後に膝周囲の筋力やROMが改善されたにもかかわらず,歩容が術前と変わらない症例を経験することもあれば,練習中は目的の動作が可能であってもリハビリテーション室から1歩出るとその動作を行えなくなる症例を担当することもある.「きれいに歩きたい」という訴えやパフォーマンスの向上に対して,われわれは今後も量的な練習のみを機械的に続けていてよいのだろうか.
この点に対して,認知運動療法は運動学習における介入手段として大変興味深いものである.近年,脳に器質的変化がないとされる骨関節疾患患者についても,認知機能やイメージをはじめとする高次脳機能への介入効果が注目されはじめている5).本稿では,症例を提示しながらTKA患者に対する認知運動療法の実際と,膝OAをはじめとする骨関節疾患における病態の解釈と臨床展開について紹介する.
膝関節疾患に対する主な運動療法は,膝関節を構成する筋や関節の機能低下を,適切な運動を実施することで克服する,という考え方が中心となっている.なぜなら,これらを含む骨関節疾患は,筋や関節そのものが変化しているという構造的な異常として捉えられることが多いためである.例えば,疼痛や手術によって生じた膝関節の退行変化に対する直接的な治療,つまり萎縮した筋の筋力増強や,拘縮を起こした関節の関節可動域(以下,ROM)の拡大といった個別的な治療を実施し,それを起立・歩行などの移動能力の獲得に結びつけていくというような考え方である.骨関節疾患に対するこのような治療の枠組みは,わが国においてかなり以前から定着していたと考えられる1).しかし,運動器の障害によって生じた動作の異常性を,筋力やROMなどの問題と結びつけて考える治療が常に有効であるとは限らないことも事実である2~4).
臨床現場では,変形性膝関節症(以下,膝OA)による人工膝関節全置換術(以下,TKA)後に膝周囲の筋力やROMが改善されたにもかかわらず,歩容が術前と変わらない症例を経験することもあれば,練習中は目的の動作が可能であってもリハビリテーション室から1歩出るとその動作を行えなくなる症例を担当することもある.「きれいに歩きたい」という訴えやパフォーマンスの向上に対して,われわれは今後も量的な練習のみを機械的に続けていてよいのだろうか.
この点に対して,認知運動療法は運動学習における介入手段として大変興味深いものである.近年,脳に器質的変化がないとされる骨関節疾患患者についても,認知機能やイメージをはじめとする高次脳機能への介入効果が注目されはじめている5).本稿では,症例を提示しながらTKA患者に対する認知運動療法の実際と,膝OAをはじめとする骨関節疾患における病態の解釈と臨床展開について紹介する.
参考文献
1)Hohmann G,Jegel Stumpf L(著),水野祥太郎(監訳),大阪大学医学部整形外科リハビリテーション部(訳):体操療法;整形外科を中心として,医歯薬出版,1965
2)高橋昭彦,他:変形性膝関節症の理学療法効果検証への取り組み.理学療法 17:661-670,2000
3)Harstmann H, et al:Isokinetic force-verocity curves in patients following implantation of an individual total hip prosthesis. Int J Sports Med 15:S64-S69, 1994
4)Becker HP, et al:Gait asymmetry following successful surgical treatment of ankle fracture in young adults. Clin Orthop Rel Res 311:262-269, 1995
5)Perfetti C,他:脳のリハビリテーション[2]整形外科的疾患,協同医書出版社,2007
6)Perfetti C,他:認知運動療法,協同医書出版社,1998
7)千鳥司浩:骨関節疾患に対する認知運動療法の臨床アプローチと効果.PTジャーナル 42:277-284,2008
8)高橋昭彦:特集にあたって―歩行とリハビリテーションの諸問題―.認知運動療法研究 8:15-18,2008
9)高橋昭彦:脳卒中片麻痺に対する認知運動療法の臨床アプローチと効果.PTジャーナル 42:259-269,2008
10)Jeannerod M:The representing brain;neural correlates of motor intention and imagery. Brain Behav Sci 17:187-245, 1994
11)Perfetti C,Rizzello C:患者と話す,第6回日本認知運動療法研究会マスターコース資料,2009
12)Kaneko F, et al:Decreased cortial extability during motor imagery after disuse of an upper limb in humans. Clin Neurophysiol 144:2397-2403, 2003
13)金子文成,他:ヒトの下肢関節固定による皮質脊髄路の入力出力関係変化.臨床神経生理学 32:12-20,2004
14)Gazzaniga MS, et al:Development and plasticity. Cognitive neuroscience, The biology of the mind, 2nd edition, pp611-653, WWNorton & Company, New York, 2002
15)Mogilner A, et al:Somatosensory cortical plasticity in adult humans revealed by magnetoencephalo-graphy. Proc Natl Acad Sci USA 90:3593-3597, 1993
16)山藤真依子,他:臨床における運動イメージの統御可能性テストの試み.認知運動療法研究 3:112-120,2003
17)Tsukimoto H, et al:Rule discovery from fMRI brain images by logical regression analysis. Progress in discovery science, pp232-245, Spring-Verlag, 2002
18)月本 洋,上原 泉:想像 心と身体の接点,ナカニシヤ出版,2003
19)岡本夏木,他(訳):認識能力の成長(上・下),明治図書,1968
20)Richardson JTE:Imagery, Psychology Press Ltd., a member of the Taylor & Francis group, 1999
21)前田真依子,沖田一彦:SD法を用いた健常者の身体系言語の分析.認知運動療法研究 8:115-124,2008
22)前田真依子:変形性関節症患者の身体認識について;SD法を用いた身体系言語の分析.県立広島大学大学院総合学術研究科修士論文:1-60,2008
23)前田真依子,他:SD法を用いた身体系言語の分析―変形性関節症患者の身体認識とは―.第10回日本認知運動療法研究会学術集会,2009
24)前田真依子,他:変形性関節症患者の身体認識―身体部位とその印象の違いから―.第10回日本認知運動療法研究会学術集会,2009
掲載誌情報