icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル44巻10号

2010年10月発行

雑誌目次

特集 身体障害者スポーツと理学療法の関わり

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.845 - P.846

 身体障害者スポーツは,用具の開発や環境の整備,あるいは競技種目の多様化や人的サポートの拡大などによって急速に発展し,その驚異的なパフォーマンスが映像で流されることにより社会的認知も格段に高まっている.その影響もあって,生活の中で気軽にスポーツを楽しむ障害者の数も確実に増加している.当然ながら,身体障害者の運動や動作を専門に診る理学療法士ゆえに貢献できることは多い.理学療法士の新たな活躍の場が広がることを期待し,各種障害者スポーツの競技内容,歴史と現状,理学療法の役割,さらには先達の思いと取り組みについて解説していただいた.

身体障害者スポーツと理学療法の関わり

著者: 髙橋寛 ,   指宿立 ,   池部純政

ページ範囲:P.848 - P.854

はじめに

 身体障害者スポーツのわが国における本格的なスタートは,1964年のパラリンピック東京大会からと言える.その後1984年の国際障害者年から「完全参加と平等」の10年を経て,1998年長野の冬季パラリンピック開催が国民にスポーツとしての感動を与え,パラリンピックがオリンピックと同様の競技スポーツ大会として捉えられるようになってきたことは大きな進歩である.

 スポーツには,ピラミッドの頂点に立つ「限界に挑戦するスポーツ」と健康維持・増進のための「楽しむスポーツ」があり,頂点の向上は底辺の広がりを誘発する.多くの障害者や高齢者が楽しめるスポーツを持つことが,職業的・社会的活動の底支えとして不可欠なことは衆知の通りである.

 本稿では身体障害者スポーツの歴史,全国障害者スポーツ大会(以下,全国大会)やパラリンピックなどの競技会と理学療法士の関わりに,クラス分けなどを含めて触れてみたい.

種目別競技と理学療法

1.車いすマラソンにおける理学療法士の関わり

著者: 大川裕行 ,   指宿立

ページ範囲:P.855 - P.860

はじめに

 リハビリテーションの一手段として導入された障害者スポーツは,競技スポーツとして,また市民スポーツとして発展し現在に至る.中でも車いすマラソンは象徴的で代表的な競技である.「車いすだけのマラソンの国際大会」として,1981年の国際障害者年を記念して始まった大分国際車いすマラソン大会は,選手はもちろん,運営スタッフ,ボランティア,沿道で声援を送る市民に支えられ,30年の歴史を刻んでいる.本稿ではこの大会を中心に車いすマラソンの概説を行い,理学療法士(以下,PT)が果たしてきた役割の一端を紹介する.

2.義足装着者の陸上競技における理学療法の関わり

著者: 駒場佳世子

ページ範囲:P.861 - P.865

はじめに

 近年,パラリンピックをはじめ,義足装着者(以下,切断者)の活躍は多くのメディアに取り上げられ,「義足で走る」ことは一般にも知られている.大腿切断者の走行の獲得は下腿切断者に比べ難易度が高く,リハビリテーションにおいては歩行がゴールとなり走行までのサポートを行うことは難しい.一方で,陸上競技をはじめ,スポーツへの参加のためには走行は必要不可欠な動作である.筆者は下肢切断者の陸上サークル「ヘルスエンジェルス(http://www.healthangels.jp/index.html)」にスタッフとして参加し,走行の基礎である「ジョギング」の練習に関わっている.

 今回は,切断者の陸上競技,大腿切断者への走行の指導方法,理学療法士の関わりについて紹介する.

3.脳性麻痺者の陸上競技における理学療法の関わり

著者: 石塚和重

ページ範囲:P.867 - P.870

はじめに

 筆者が脳性麻痺者の陸上競技に携わって25年が過ぎた.大学の教員になる前は肢体不自由児施設に15年勤務し,脳性麻痺児の運動療法としてスポーツを取り入れ,全国肢体不自由児療育研究大会で「脳性麻痺のスポーツ療法」として発表してきた.全国身体障害者スポーツ大会(後の全国障害者スポーツ大会)のコーチと監督も経験し,脳性麻痺者にとってスポーツは身体面のみならず精神面,社会面からも重要で意義のある活動と考えている.2001年からは日本身体障害者陸上競技連盟のクラス分け委員として活動しながら,スポーツコーチとして国際的に通用する脳性麻痺の陸上競技選手の育成を目指し指導している.2010年には全国から選手を集めて脳性麻痺者の陸上クラブを立ち上げ,新たな出発を試みている.

4.車いすバスケットボールにおける理学療法の関わり

著者: 橘香織 ,   和久井鉄城 ,   涌井俊裕

ページ範囲:P.871 - P.874

はじめに

 第二次世界大戦後の1940年代後半にアメリカとイギリスでそれぞれ始められた車いすバスケットボール1)は1960年にわが国に紹介されたが,国内に広く普及する契機となったのは1964年の東京パラリンピックであった.以降,リハビリテーションの一環として行われてきた車いすバスケットボールと理学療法は,さまざまな関わりをもちながら発展してきた.

 現在,車いすバスケットボールはリハビリテーションの枠をはるかに超えた競技性の高い種目の1つとして人気を集めている.近年ではトレーナーやマネジャーとしてチームに関わる理学療法士も多く見受けられるようになった.本稿では,車いすバスケットボールに関する身体面の諸問題を概説したうえで,筆者のこれまでの実践を踏まえて,理学療法がどのように本競技の発展に貢献しうるかを考えてみたい.

5.車いすテニスにおける理学療法の関わり

著者: 蛯江共生

ページ範囲:P.875 - P.879

はじめに

 2010年3月に開催されたバンクーバーパラリンピックでの日本選手の活躍がメディアでも大きく報道されたのは記憶に新しい.日本では1996年のアトランタ,1998年の長野パラリンピックを契機にメディアを通じて「障害者のスポーツ」が競技スポーツとして取り上げられる機会が増えたと言われている.車いすテニス競技においても,テニスのデビスカップ,フェドカップにあたるINVACARE WORLD TEAM CUP(以下,国別対抗戦)において,日本は2001年女子・クワァド準優勝,2002・2007年男子優勝,パラリンピックでは2004年アテネ大会男子ダブルスでアジア初となる金メダルを獲得後,2008年北京大会でも男子シングルス金メダル,男子ダブルス銅メダルを獲得しており,近年は世界の強豪国の一角を成している.世界的にも,競技技術の向上やそれに伴う競技用車いすの改良などにより,競技レベルは目覚ましい勢いで向上している.一方,車いすテニス競技に特有のスポーツ障害も発生している現状もある.本稿では,車いすテニスの紹介と理学療法の関わりについて,筆者の経験を交えて報告する.

6.ボッチャ競技における理学療法の関わり

著者: 奥田邦晴

ページ範囲:P.881 - P.886

はじめに

 障がい者が余暇を楽しみつつ,健康でより活動的に人生を充実させる1つの手段にスポーツがある.近年では身体機能の維持や改善を目的としたいわゆるリハビリテーション(以下,リハ)の一手段というより,むしろ競技やレクリエーションといった本来のスポーツが有する意味合いが大きくなってきている.重度の障がい者も,種目数の増加などで積極的に参加できる機会が増えており,その代表的なものにボッチャがある.ボッチャは,主に重度脳性麻痺(以下,CP)者や同程度の重度障害がある身体障がい者を対象としたスポーツで,皮革製のボールを投球して,ジャックボール(目標球)に近づける競技である.パラリンピックの公式種目にもなっており,2008年の北京大会では初めて日本チームが出場資格を得,4名の選手が参加した.現在,日本ボッチャ協会の登録選手数は380余名であり,年々増加してきている.

 本稿では,ボッチャ競技について解説するとともに,クラス分けや傷害予防の観点から理学療法との関わりについて報告する.

7.障害者スキーにおける理学療法の関わり

著者: 秋田裕

ページ範囲:P.887 - P.890

はじめに

 スキーの起源は古く,スカンジナビア半島に残されている紀元前2500年ごろの壁画には,狩りをする人がスキーを履いた姿が描かれている.このようにスキーは元々,狩人が獲物を追って雪の山野を移動する手段であったが,19世紀中頃からノルウェー南部のテレマーク地方を中心に「歩く,滑る,飛ぶ」といったスキー技術がスポーツとして確立され,ノルディックスキーと呼ばれるようになった.

 一方20世紀になって,オーストリアのアルプス地方で,急峻な山々の滑降に対応したシュテムなどの技術が体系化され,アルペンスキーの起源となった.

とびら

East meets West

著者: 金尾顕郎

ページ範囲:P.843 - P.843

 「East meets West」.この言葉を聞くと,東洋医学と西洋医学の出会いを想起するのではないでしょうか.医学の歴史を遡れば,多くの場合Hippocrates(B. C. 460~355)にたどり着きます.彼は病気を超自然的な原始宗教や呪文から引き離し,その科学的な観察と正しい記録により近代医学の基盤を作ったとされています.さらに遡ると,太陽熱,火,水,温泉,マッサージなどを利用した治療法が,中国で黄帝内経,日本では古事記,日本書紀,風土記などに書かれ,エジプトやアラビアなどでも同じ紀元前3,000年ごろに同様のことが記されています.このような時代に起源をもつ医学が,科学の進歩により大きく発展し現代に引き継がれますが,いつの日か「東」と「西」に別かれ,独自の治療体系が生まれました.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

アライメント

著者: 浅香満

ページ範囲:P.891 - P.891

●アライメントとは

 アライメント(alignment)という言葉は,理学療法の日常業務の中で意識的あるいは無意識的に頻回に使われているが,概念は必ずしも明確であるとは言えない.基本的な構成要素における各部の相対的位置関係を示すものとして定義されており,それぞれのパーツの重心の位置関係といえる.したがって,同じパーツでも区切り方によって全体のアライメントになったり,部分的なアライメントになったりする.

 地球上にいる限り,物体は重力の作用を受ける.複数の物体が組み合わさったとき,その間にはそれぞれの物体の位置関係(重心の位置)によってトルク(回転モーメント)が発生する.この大小により安定化したり,動きが発生したりする.

医療に関連するトピックス

ジェネリック医薬品

著者: 緒方宏泰

ページ範囲:P.895 - P.895

●医薬品の特許制度とジェネリック医薬品の役割

 特許は,発明者に独占的な権利を与えて保護を図ることで,その利用を促進し,新しい技術を人類共通の財産とすることを目指す制度である.しかし,医薬品は通常の特許要件のほか,臨床上の有効性・安全性に関わる膨大な情報が伴っていなければ医療に提供することができない.さらに先発医薬品(新薬)では開発時に収集した情報だけでは不十分で,市販後も使用経験,副作用モニターなど,患者,企業,医療スタッフの共同作業によって蓄積される情報が必要となり,メーカはそれらを私的に占有せず,公表せねばならない.このため,医薬品の開発には莫大な費用(平均的に300~400億円)と10~20年の歳月を要し,その経費は医薬品の価格(薬価)に反映され,新薬の薬価は非常に高く設定されている.

理学療法臨床のコツ・10

基本動作練習のコツ―ADL指導のコツ②

著者: 下元佳子

ページ範囲:P.892 - P.893

 理学療法士に求められる役割は,機能・形態障害に対して身体機能や疼痛・循環などの改善を図ることから,日常生活・社会生活を送るうえでの動作の改善から福祉用具の選定や住宅改修・環境調整まで幅が広い.中でも質の高い日常生活を組み立てることは,介護保険の導入やICFの影響から,ますます,私たち理学療法士の役割として他職種から求められることが多くなっていると実感している.

 「ADL指導をどのように行えばよいか? 指導のコツは?」.回復期病棟や介護保険分野で仕事をしている理学療法士なら一度ならず悩むことである.それぞれのケースが個々に異なる問題を抱えており,指導をうまく行うにはたくさんの要素を考慮することが必要で,ADLの練習方法や指導をマニュアル化することは難しい.対象者の生活場面となる環境を考慮したADLを組み立てることが必要であり,福祉用具の使用や住宅改修も必要となってくる.人に接する基本のコミュニケーション力が必要なのはもちろんであるが,今回は特に動作にこだわって考えてみたい.

ひろば

変遷する現実への適応とストレス

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.894 - P.894

 リハビリテーション医療の分野においても,その対象者の病態や予後に準じて,説明と同意が必要であることは言うまでもない.その中には障害受容と言われる心身の適応行動を期待した過程が含まれている.つまり,価値あるものを失った自己と社会への適応行動が障害受容であり,その一般的過程は,①ショック,②否定,③悲しみ,④取引,⑤受容と言われている.私自身が臨床現場で働いていた際には,対象者の障害受容がなければ真のリハビリテーションはあり得ないと考え,この点にも努力を注いでいた.

 しかし,障害受容の概念の背景には変遷する現実への適応行動が存在するものであり,それを認識していなければ,障害受容自体が独り歩きしてしまうことが危惧される.さらに,「現実への適応」は現存するすべての人間にとって必要なことである.人間は子宮より現実世界へ出生してから死ぬまでの過程において,あらゆる状況下に曝け出されるからである.当初は重力にはじまり,授乳,排泄,更衣などあらゆるセルフケアを他者に依存している.それでも環境や社会への適応行動として初歩的移動・言語学習などに始まり,次第に高度な適応行動(情意,知,運動などの学習行動と換言してもよい)を習得して,社会の中で特定の役割を担う存在へと成長する.私はこのような過程をハビリテーション(適合・適応)およびリハビリテーション(再適合・再適応)と呼ぶこともできると考えている.

米国における理学療法の状況―APTAホームページからの紹介

著者: 長谷川真人

ページ範囲:P.910 - P.911

・はじめに

 諸外国の理学療法の情報を正しく理解することは,わが国の状況を客観的に捉えるための参考となり,よりよい活動を実施していくヒントとなると考えられる.筆者は米国理学療法協会(American Physical Therapy Association:以下,APTA)会員であり,APTAのホームページに掲載されている情報をもとに,米国の理学療法の状況を報告したい.

学会印象記

―第44回日本作業療法学会―輝きを持って生きることの再考―作業療法士の専門性の再確認と新たな可能性の創造

著者: 武田涼子

ページ範囲:P.896 - P.898

 第44回日本作業療法学会(佐藤善久学会長)は,6月11日から13日の3日間,仙台市で開催された.会場は仙台国際センター,東北大学百周年記念会館,仙台市博物館の隣接する3会場で,仙台城址入り口に位置し,坂道と大学の広い敷地,数々の史跡を残す土地柄から隣接会場ではあったが会場間にはシャトルバスが準備され,多くの参加者が利用していた.天候は3日間とも梅雨の合間とは思えぬ晴天に恵まれ,杜の都仙台を感じさせる緑と木漏れ日の中,参加者が徒歩での移動を楽しんでおられる様子も垣間見えた(図1).

講座 自覚症状別フィジカルアセスメント・2

消化器系

著者: 森沢知之 ,   高橋哲也 ,   西信一

ページ範囲:P.899 - P.905

 ヒトが生きていくためには栄養の補給が必要不可欠である.食物の摂取・消化・吸収・排泄の働きを担う器官群を消化器系と呼ぶ.消化器は口・咽頭・食道・胃・小腸・大腸の消化管と,膵臓・肝臓・胆囊の消化腺で構成されており,各臓器が連携して働く.何らかの原因で各臓器が障害された場合,また加齢や不活動に伴い消化器系の働きが低下すると,身体に種々の症状が出現し,理学療法を行ううえでしばしば問題となる.

 理学療法の分野では,運動器や中枢神経系,また呼吸・循環に対する理学療法が重要視され,消化器系は軽視されがちである.しかし,理学療法を行ううえで消化器系の働きも大変重要であり,消化器系を含めた全身管理をしたうえでの理学療法が望まれる.

入門講座 薬と理学療法・4

鎮痛薬・抗リウマチ薬・筋弛緩薬と理学療法

著者: 吉岡充弘

ページ範囲:P.913 - P.920

はじめに

 痛みの管理は医学・医療における最も大きな問題の1つである.痛み,なかでも疼痛には不快の情動が付加され,様々な二次的な影響を身体に及ぼす.疼痛は,末梢および中枢神経系における複雑な過程により生じ,それが主観的であるがゆえ,個々の患者自身の痛みの説明に耳を傾けなければならない.鎮痛薬はこのような痛みという一般的症状を緩和させるために用いられるが,適応は急性・慢性を問わず多疾患にわたるため,使用法や副作用に精通していなくてはならない.臨床の場面においても,理学療法の中核をなす運動療法,物理療法,動作練習における鎮痛薬や筋弛緩薬の使用にはよく遭遇する.

 本稿では,鎮痛薬として最も高い頻度で使用される非ステロイド性抗炎症薬を中心に取り上げた(表1)1).また,抗炎症作用はないが鎮痛作用を有するアセトアミノフェンや比較的使用しやすい非麻薬性鎮痛薬に触れ,さらに,理学療法領域で遭遇する「痛み」の対策として不可欠の抗リウマチ薬についても概説を加えた.抗リウマチ薬は炎症兆候を抑えるのみならず,結果的には症状(痛みを含む)を抑制することにつながる.

臨床実習サブノート 臨床実習に不可欠な基本的技能・7

運動療法の組み立て方(5)大腿骨頸部・転子部骨折―高齢者の転倒が受傷機転の場合

著者: 内昌之

ページ範囲:P.921 - P.926

はじめに

 大腿骨頸部・転子部骨折は高齢者の屋内での転倒による受傷が多く,いわゆる寝たきりの原因として上位に位置する深刻な社会的問題でもある1).受傷原因は,加齢に伴う脊柱の変形による重心の前方移動,股関節・膝関節屈曲位による歩行,立ち直り反応の低下と防御的な筋収縮の不足,骨密度の低下など,多くの危険因子が関わっている2).離床が遅延すると,歩行能力低下のみならず起居動作や呼吸循環器系の不均衡を生じ,生命予後にも影響するため,早期離床を念頭に治療が進められる.本外傷後の理学療法を行う際には,医学的治療経過はもとより,転倒に至った経緯と要因を理解し,退院後の住環境・家庭環境を考慮したゴール設定を検討する必要がある.本稿では,高齢者の転倒に起因する典型的な大腿骨頸部・転子部骨折に対する内固定術後の症例をモデルに,対象者の理解と運動療法の組み立て方について概説する.

報告

脳卒中片麻痺患者の運動イメージ鮮明性に影響を及ぼす因子の検討

著者: 田中貴士 ,   坂本勝哉 ,   松尾恵利香 ,   山田実

ページ範囲:P.927 - P.932

要旨:〔目的〕運動イメージは運動学習を促すとされるが,脳卒中片麻痺患者における運動イメージの実態は明らかではない.本研究の目的は,脳卒中片麻痺患者の運動イメージ鮮明性に影響を及ぼす因子を検討することである.〔対象〕対象は回復期病棟入院中の脳卒中片麻痺患者41名(平均年齢66.7±10.2歳)と,地域在宅健常者30名(平均年齢65.4±9.3歳)である.〔方法〕対象者の身体各関節に対して,筋感覚的に運動イメージを想起させ,そのイメージの鮮明性を評価した.〔結果〕脳卒中片麻痺患者における運動イメージ鮮明性は,運動や感覚,注意障害の程度やFIMとの相関を認め,特に運動障害や注意障害の影響が強いことが示された.〔結語〕脳卒中片麻痺患者の運動イメージを用いた治療介入には,運動障害や注意障害を考慮する必要性が示唆された.

脳卒中患者におけるpushing現象の座位と立位の違い

著者: 西村由香

ページ範囲:P.933 - P.937

要旨:本研究の目的は,脳卒中後比較的多くみられるpushing現象の座位と立位での違いについてclinical assessment scale for contraversive pushing(SCP)を用いて調べることである.対象は,入院中の脳卒中患者でKarnathらの作成したSCPを用いて,pushing現象があると判断された16名であった.SCPは同一理学療法士が行い,SCPの項目であるPosture,Extension,Resistanceの座位姿勢,立位姿勢での違いを比較した.結果,各項目において,立位では座位よりもscoreが低くなることはなく,変わらない場合もあるが,多くは高くなっており有意な差がみられた(Posture:p<0.001,Extension:p<0.01,Resistance:p<0.001).Pushing現象は,座位より立位で著明となることがわかった.

書評

―細田多穂,柳澤 健(編)―「理学療法ハンドブック[改訂第4版]全4巻セット」

著者: 山元総勝

ページ範囲:P.906 - P.906

 本書は,理学療法の基礎から評価・治療アプローチ・疾患別プログラムならびにシングルケーススタディまでを一望することができる,理学療法士必携の実践マニュアル版である.1986年に初版が刊行された後,2000年に「理学療法の基礎と評価」「治療アプローチ」「疾患別・理学療法プログラム」に分割され,改訂第3版全3巻セットとなった.そして今回,新たに第4巻として「疾患別・理学療法の臨床思考」が追加され,さらに内容が充実した臨床現場で即活用できる実践書となった.

 第1巻は,解剖学・生理学・運動学を統合して,理学療法士として知っておくべき基礎知識・考え方から,触診法・動作分析・運動機能解析などの実際が網羅されている.また,対象疾患の病態を理学療法士の観点からまとめてあり,代表的疾患の評価の進め方についても具体的に解説されている.

―新田 收,八木麻衣子,大谷 健(編)―「理学療法スタートライン はじめての臨床 脳血管障害」

著者: 髙久徳子

ページ範囲:P.908 - P.908

 1998年に理学療法士養成校が全国で100校を超えたのを皮切りに,養成校・卒業生ともに増え続け,今年度の理学療法士有資格者は8万人を超えています.2008年度からは年1万人に近いペースで新人理学療法士が誕生しています.新人理学療法士の皆さんは,臨床現場に出てどのような本を参考にされているでしょうか.

 本書は,学生時代には決して優秀とはいえなかった新人理学療法士「三四郎」が登場し,就職前夜から激闘の3か月の物語形式で第1章が始まります.そこには,新人の皆さんが感じた不安や戸惑いなどがそのままに描かれています.そして,三四郎が次々と問題にぶつかりながらも成長していく姿は,皆さん自身と重ね合わせることができるのではないでしょうか.

--------------------

文献抄録

ページ範囲:P.938 - P.939

編集後記

著者: 高橋正明

ページ範囲:P.942 - P.942

 暑い夏であった.わが国では最高気温が25℃以上の日を夏日,30℃以上を真夏日,35℃以上を猛暑日と定めている.夏日には,夏休みの楽しい思いを連想させる響きがある.一方真夏日は,文字通り真の夏日で暑さの象徴である.しかし,これらも猛暑日が続いてすっかり影が薄らいでしまった.今年の暑さを際立たせる特徴は,夜も30℃以下にならない日が多く,熱中症による死亡記事も相次ぎ,2007年には年間で904名の死亡報告があるがそれをはるかに上回るペースで増えていることであろう.犠牲者は高齢者に多く,しかもほとんどが屋内で発見される.原因として猛暑,年齢ゆえに低下した感受性,冷房の風は良くないとの思いこみが挙げられているが,私には昭和の前半に生まれ育った人々の我慢強さが裏目に出たと感じられてならない.戦後すぐの焼け跡から忍耐強く新しい時代を作ってきた人たちが,その我慢強さゆえに犠牲になったと思うと,痛ましく辛い.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?