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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル44巻11号

2010年11月発行

雑誌目次

特集 症例検討―脳血管障害患者を多側面から診る

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.945 - P.945

 近年,理学療法の対象疾患は多岐にわたり,対象の高齢化により障害構造も複雑化している.そのため理学療法士は,限られた治療期間の中で臓器別の専門理学療法に加えて,病期ごとに神経系,骨関節系,内部障害系などの異なる側面から多面的に評価・治療する「ハイブリッド理学療法」を実践する必要がある.本特集では,臨床でよく遭遇する脳血管障害患者を多側面から診て行う実際の理学療法について解説をお願いした.

脳血管障害患者に対する急性期理学療法

著者: 高尾敏文 ,   田中直樹 ,   斉藤秀之

ページ範囲:P.947 - P.953

はじめに

 脳血管障害患者における急性期リハビリテーション(以下,リハ)は,その名の通り脳血管障害発症直後の急性期の疾病管理下で行われるリハのことである.発症後のベッドサイド期から,概ね車いす乗車,リハ室での練習が可能になるまでの期間を指し,日常生活動作の早期獲得にむけて,廃用症候群(関節拘縮,褥瘡,起立性低血圧,肺炎など)の予防が大きな目的となる1,2).さらに高齢患者は脳血管障害以外の疾患を併せ持っている可能性が高くなり,老化に伴う機能低下も考慮する必要があるため3),安全に離床プログラムを進めていくために必要な知識は多岐にわたる.

 われわれ理学療法士は,急性期リハにおいて重要な役割を担っている.脳血管障害の発症後可能な限り早期に理学療法を開始し,集中的に実施することは,脳卒中治療ガイドラインでも推奨されており4),現在の理学療法に関する考えの主流といってよいだろう.しかし現実には,脳血管障害患者は高血圧や糖尿病など,種々の併存疾患を有することが多く,また高齢者の場合はその身体機能の特徴も加味したうえで3),理学療法を展開する必要がある.当然,脳血管障害患者の急性期においては併存疾患に対する治療が同時進行で行われることも多く,脳血管障害のみに関する知識だけでは,急性期理学療法を進めることが困難となる場合がある.また,重篤な合併症がなく,脳血管障害に伴う後遺障害も軽度か皆無であれば,急性期治療を終えると同時に日常生活に復帰することが可能となる.しかしながら,急性期の治療後も機能障害や廃用症候群のため日常生活動作に難渋し,日常生活に復帰するためのさらなるリハが必要となることもあり,このような患者に対し,集中的にリハを実施できるように作られた制度のひとつが回復期リハ病棟といえる.

 急性期理学療法を展開するうえでもう1つ重要なのは,予後予測・治療目標の設定を行い,適切に離床を進めていくことである.その重要性は理解に難くない反面,困難さも実感するところである5).ことに目標設定に関しては,急性期の段階では活動制限があるため,基本動作や歩行,日常生活動作などを実際の動作からは評価できないこともある.したがって,得てして急性期では「寝返り動作を見てから自立までの期間を考え,歩行を見てから自立までの期間を考える」というような目標設定ばかりしてしまいがちである.これらは一概に間違いであるとは言えないが,急性期医療にかかわる入院期間短縮の動きの中では適切とも言い難い.

 脳血管障害の急性期は,投薬などの治療による症状の劇的な改善や,逆に状態の悪化など,非常に短期間で患者の様相が変わる.患者の変化に合わせて理学療法プログラムを変更する後追いの治療ではなく,多角的な視点から予測を行い,時期を先読みしてプログラムを展開する「先読みの理学療法」を展開する意識を強く持つ必要がある.脳血管障害患者の予後予測において,1982年に発表された二木6)による報告は有名であり,約30年経った現在においても十分有用であると考える.一方で,医療技術の進歩に伴い,その頃は考えられなかったような疾患を併せ持つ患者が増えていることも忘れてはならない.

 本稿では,心疾患を併せ持った脳血管障害患者に対する急性期理学療法について,複数の疾患別診療班および複数の理学療法士の視点をもって介入した当院での事例を紹介する.

脳血管障害患者に対する回復期理学療法

著者: 池田裕

ページ範囲:P.955 - P.962

はじめに

 近年,対象患者や医療環境の変化はめまぐるしく,多側面からの評価・治療の必要性が増している.そのために一番有効なのは国際生活機能分類(ICF)の概念に基づいた評価・治療である.ICFでは心身機能や活動をバラバラに捉えるのではなく,生活機能(参加,活動,心身機能)を構造的に捉え,それに影響を与える健康状態や背景因子(環境因子,個人因子)も階層的に捉えることで複雑な構造をもつ患者を体系化していく.理学療法場面でもICFモデルにより対象者を構造化することで,神経系,骨関節系,内部障害系など各専門分野の評価も効果的に活用でき,より具体的で多面的な治療が可能となる.

 脳血管障害患者の理学療法でも神経系を中心とした評価・治療だけでなく,骨関節系や内部障害系へ配慮した対応の必要性は増している.特に回復期は安静状態を脱し活動が許可され始める時期であり,リスクコントロールのもと機能改善を図りながら基本動作や歩行能力,セルフケア,家事動作,その他趣味活動,仕事などの可能性を見極め,その後の生活を一緒に考えながらリハビリテーション(以下,リハ)を行う重要な時期である.この時期にQOLを効率よく向上させるためには,多側面から患者を捉え,能力向上と機能改善をどれだけ具体的に結びつけられるかがポイントである.

脳血管障害患者に対する維持期理学療法

著者: 大久保智明 ,   三宮克彦 ,   野尻晋一 ,   中島雪彦 ,   坂本佳 ,   井上理恵子 ,   徳永誠 ,   渡邊進 ,   中西亮二 ,   山永裕明

ページ範囲:P.965 - P.972

はじめに

 当法人では,脳血管障害患者のリハビリテーション(以下,リハビリ)を経験主義でなく神経科学に基づき実施している.また神経機能回復の促進を目的とし,脳の可塑性に裏付けられたリハビリを提供している1~3).具体的には次の3つの視点を重視している.①正常運動をモデルとし,運動の再教育を実施する.運動の獲得が困難な場合,最適な代償的方法を選択する.②科学的基盤に基づき,姿勢を生活場面すべてにおいて制御する.③QOLを高めるため,個別性の高い運動や活動も積極的に行う.この視点でクリニカルパスを用い急性期,回復期,維持期につなげ在宅復帰を目指している4,5).また,脳血管障害患者はその原因となる基礎疾患を有していることが多く,リハビリを実施する際に考慮する必要がある.

 そこで今回,糖尿病,肝硬変を伴う被殻出血患者の症例を神経系,骨関節系,内部障害系の視点で評価し,脳血管障害患者に対する維持期のリハビリについて多側面から検討したので報告する.

変形性膝関節症を合併した脳血管障害患者に対する理学療法

著者: 國分実伸 ,   谷野元一 ,   中根純一 ,   鈴木享 ,   園田茂

ページ範囲:P.973 - P.979

はじめに

 脳血管障害患者はさまざまな機能障害を有することにより,日常生活活動(activities of daily living:ADL)障害を来す.また変形性関節症(osteoarthritis:OA)は,荷重時の関節痛を主な症状とする関節軟骨を中心とした退行性変性疾患であり,X線写真では関節裂隙の狭小化や骨硬化,骨棘形成を特徴とする.変形性膝関節症(膝OA)では膝関節で変性が生じた結果,関節症状を呈するものである.膝OAは,単独でも歩行障害やADL障害を起こす.膝OAの有病率は40歳以上で男性42.6%,女性62.4%と推定されており1),頻繁に遭遇する疾患である.

 膝OAを呈している患者が脳血管障害を発症する場合,通常の脳血管障害に対するリハビリテーションで片麻痺などの機能障害が改善しても膝OAが阻害因子となり,獲得できる能力が低くなることがある.

 本稿では,膝OAを呈していた者が脳血管障害を発症した場合の理学療法のポイントについて症例を通して紹介する.

低心機能に脳血管障害を合併した症例に対する理学療法

著者: 藤野雄次 ,   山﨑宗隆

ページ範囲:P.981 - P.987

はじめに

 脳血管障害と心疾患は,動脈硬化性疾患という共通点をもち,虚血性心疾患例の脳血管障害発症率は健常者と比して狭心症例で1.6~2.4倍,心筋梗塞例で2.7~3.7倍,両者合併例で3.8~5.5倍に達するとされる1).また心房細動などの不整脈や心筋症,心不全は脳塞栓症発生を助長しうるものであることから,心血管系の問題を有する脳血管障害患者は少なくない.そこで,本稿では低心機能に脳血管障害を合併した症例における理学療法について紹介する.

とびら

理学療法士の役割

著者: 仲西孝之

ページ範囲:P.943 - P.943

 先日,地元の大学附属中学校から職場体験学習の依頼があり,3名の学生をお世話することになった.学生らは,将来医師を目指しているのだと言う.すぐに体験学習のプランを作成し,病院の紹介と医師やコメディカル職種の説明,病院が多くの職種によって運営されていることを理解して貰うことにした.職場体験の前日に打ち合わせがあり,学生らに理学療法士や作業療法士,言語聴覚士の存在について聞いてみたが,残念ながら全く知らないとのことであった.わが国の理学療法士は右肩上がりに増えているが,未だ広く一般に認知されていないことを感じた瞬間であった.

 当施設は回復期を中心としたリハビリテーション専門の病院であるが,高齢社会の到来と近年の診療報酬改定が追い風となり,毎年多数の理学療法士や作業療法士,言語聴覚士を採用し,現在では理学療法士数だけで60名を超え,前述の3職種を合わせると総勢120名を超える体制である.先の中学生の認識はともかく,臨床現場では確実に理学療法士が充足し,その勢力が看護師と肩を並べるまでに至っている.

1ページ講座 医療に関連するトピックス

臓器移植法

著者: 町野朔

ページ範囲:P.989 - P.989

 平成9(1997)年7月に成立した臓器の移植に関する法律(以下,臓器移植法)には「施行後3年を目途とした見直し」が要請されていたにもかかわらず,その改正は大幅に遅れ,平成21(2009)年7月にやっと改正された.以下は難産であった改正法の概要である.

理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

ニーズとホープ

著者: 田中正則

ページ範囲:P.991 - P.991

●ニーズとはチーム医療の集団的認識

 1人の患者が有する疾患と障害の構造は複雑で多面的であるため,リハビリテーション医療における多種類の専門職によるチームワークの本質とは,「多様性の統一」です.ニーズとは,1人の患者が有する重層的な構造をもつ諸問題であるため,ニーズに対しては多数の職種があらゆる面から同時に解決の努力をしなければなりません.リハビリテーションの本質(全人間的アプローチ)そのものがニーズを要求するとされます1)

理学療法臨床のコツ・11

住宅改修アドバイスのコツ―玄関

著者: 岡村英樹

ページ範囲:P.992 - P.993

 理学療法士が住宅改修のアドバイスをする際,ぜひ押さえていただきたい基本的なポイントについて述べる.

ひろば

動物の治療と動物による癒しとケア

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.994 - P.994

 人間は動物の範疇に入るが,それ以外の動物の治療および動物による癒しとケア(介助・介護・世話)については,一般人はもとより専門職の間でも,かならずしも正確に理解されていないような印象を受ける.主に家畜の病気や外傷の治療にあたるのは獣医(日本では1984年に修士課程積み上げ方式で6年制に移行)であり,近年では競走馬,ぺット,動物園や野生の動物など,治療の対象範囲は拡大している.

 アメリカ理学療法協会の専門領域には動物の理学療法も含まれており,獣医との協働のもと各種動物の治療に関与している理学療法士もいる.そのことが最初に日本で紹介されたのは私が大会長を務めた1999年のWCPT学術大会(横浜)で,この時「Physical Therapy for Animals」というテーマでアメリカの理学療法士に講演を依頼したが,最近,この領域の発展が目覚ましいと聞く.日本にも,動物の治療に関与している理学療法士は数名いると聞いている.本誌44巻5号にも「わが国における動物理学療法の現状と今後の課題」と題した紹介論文が掲載されている.内容は動物の治療(理学療法)についてであり,著者自身の実践に基づいて紹介されている.

入門講座 薬と理学療法・5

回復期脳卒中患者の薬と理学療法

著者: 伊豆藏英明 ,   水谷一裕 ,   坂井泰 ,   貫井勇介 ,   岩渕聡

ページ範囲:P.995 - P.1002

はじめに

 病床の機能分化に伴い,回復期リハビリテーション(以下,リハ)病棟が創設された.能動的で多彩なリハの提供により,患者の機能回復,日常生活動作(ADL)向上,在宅復帰に大いに貢献している.

 この回復期リハ病棟において,脳卒中は重要な疾患のひとつである.近年,整形外科疾患の比率が増加しているが,脳卒中は入院原因の49.6%を占め1),依然として回復期リハに対するニーズは高い.

 また,早期からのリハ介入による機能予後の改善,急性期病院の入院期間短縮化に伴い,発症から回復期病棟への転院期間も短縮する傾向にある(2002年:40.0日→2009年:31.2日)1).これにより,脳卒中発症から間がなく,全身状態の不安定な患者の適切な管理が回復期リハ病棟にも求められる.バイタルサインチェック,身体所見の観察などはもとより,基礎疾患をもつ患者に対しては適切な薬剤による治療が必要となる.さらに,リハの阻害因子除去のために薬剤が用いられることもある.

 回復期リハ病棟はチームアプローチが最も求められる病棟であり,薬剤に関する情報は医師,看護師,薬剤師のみならず,療法士を含めた全職種が共有する必要がある.脳卒中の再発,リハにかかわる危険因子を把握し,全身状態の管理を行い,より安全で円滑な治療方針を立てるためには,脳卒中の病態・治療に関する十分な理解が不可欠である.

 脳卒中患者の病棟管理に必要な薬剤は,主に,①再発予防,併存疾患の治療と全身管理のために用いる薬剤,②リハを安全,円滑に進めるために用いる薬剤に大きく分けられる.

 本稿では,回復期病棟で脳卒中患者によく用いられるこれらの薬剤について概説する.

講座 自覚症状別フィジカルアセスメント・3

痛み

著者: 榎本雪絵

ページ範囲:P.1003 - P.1009

はじめに

 理学療法士が臨床で会う対象者の多くは痛みを訴える.痛みは,様々な動作障害の原因やQOLを低下させる要因であるとともに,生命に関与する警告信号としての重要な役割を持っている.痛みを訴える患者に対峙した場合,まずは緊急に対応すべき症状であるか否かの判断が重要であり,「なぜ痛みを訴えているのか」をできるだけ早急に把握することが必要となる.

 痛みの領域・部位,強さ,性質などの問診から,その原因を推定し,次いで原因の同定につながる視診,触診などのフィジカルアセスメントを選択し(優先順位をつける),実践することで,痛みの原因をいち早く把握することができるようになる.本稿では,「痛みの訴え」に対する問診,原因推定,フィジカルアセスメントについて,症状別に例を示す.

臨床実習サブノート 臨床実習に不可欠な基本的技能・8

運動療法の組み立て方(6)不全脊髄損傷―歩行が可能な場合

著者: 長谷川隆史 ,   原田康隆 ,   江口雅之 ,   田中宏太佳 ,   内山靖

ページ範囲:P.1011 - P.1018

はじめに

 「脊髄損傷」と聞くと,車いすを使用する完全損傷を連想することが多いと思うが,近年は不全損傷が増加傾向にある1).この理由として,日本人は欧米人に比べて脊柱管径が小さく,頸椎症や頸椎後縦靱帯骨化症などの退行性変化によって脊柱管が狭窄し,転倒などの軽微な外力でも脊髄が損傷されやすい状態となっているためである.

 完全損傷のリハビリテーション(以下,リハビリ)の到達レベルは残存レベルごとにおおむね獲得可能な動作の上限が確立している.一方で不全損傷は,病態と症状が多彩であるため,到達レベルは大きく変わり得るが,損傷部以下に運動機能が残存している場合では歩行が可能となる割合が高い2)

 歩行は日常生活行為の基盤をなしており,環境適応性の高い効率的な移動手段であるのみならず,体力の維持,精神機能賦活などにとっても有効な手段である.歩行障害は生活の自立を妨げ,社会的にも大きな不利益をもたらす可能性が予想されるため,不全損傷者の歩行獲得への期待は大きい.

 しかし,歩行が可能といっても,不全脊髄損傷者の歩行は一般的に,健常人に比べて歩行速度が低下し,エネルギー消費量も大きく,非効率的である3).この要因としては,損傷を受けた神経髄節以下に,運動麻痺による筋力低下や感覚障害,筋緊張異常が生じることによって,動かしやすい麻痺の軽い筋を主体に働かせて動作を行おうとしてしまうなど,体幹と四肢の協調性が低下していることが考えられる.

 このため,動作観察・分析から改善が予測できる機能障害に対しては適切なアプローチを行い,改善が困難であるが必要とされる機能障害に対しては適切な歩行補助具や下肢装具などを選択し,環境を調整することが重要となる.介入によって,不全脊髄損傷者が活動範囲を拡大することができ,さらには活動参加も促進され,健康寿命を延伸できるようになることが最終目標となる.

 本稿では,不全脊髄損傷者を担当した際に行う評価から運動療法までの流れについて,脊髄損傷に特化した評価尺度や既知の予後などを紹介しながら解説する.

報告

通所介護事業所における運動機能向上に係るサービスの現状

著者: 内藤貞子 ,   太田進 ,   上村晃寛 ,   後藤健一 ,   清水和彦

ページ範囲:P.1019 - P.1025

要旨:〔目的〕居宅系サービスのなかで最も利用者数の多い通所介護事業所(以下,通所介護)は,維持期リハビリテーション(以下,リハビリ)の中心的な役割を果たす施設と言える.筆者らは,通所介護のリハビリサービスの現状や問題点などを把握するため,調査を実施した.〔方法〕豊橋市内全通所介護事業所(64施設)に対し,2007年5~7月にアンケート調査を実施した.〔結果〕55施設から回答があり,具体的な運動機能の評価方法や各自にあった運動方法などに対して,問題点およびニーズが抽出された.問題解決のためには運動プログラムやマニュアル,ガイドラインの作成など,理学療法士による具体的働きかけが必要であること,また,通所介護の現場は,理学療法士が維持期リハビリの質向上に貢献できる分野であることが示唆された.

変形性膝関節症患者の日常生活動作に対する2種類のサポーターの効果比較

著者: 槻浩司 ,   戸田佳孝 ,   月村規子

ページ範囲:P.1027 - P.1031

要旨:膝OA患者においてACLとMCLをパッドと蝶番付きの支柱によって補強する機能を有する比較的長いサポーターと,ネオプレーンゴム製のベルトに側方動揺性を防ぐコイルを縫いこんだ比較的短いサポーターを装着した場合での日常生活動作における疼痛の改善度を比較し,各装具の適応を考察した.

 62例の膝OA患者を長いサポーター装着群(31例)と,短いサポーター装着群(31例)に無作為に振り分け,装着2週間前後での10項目の日常生活動作における疼痛の改善度を比較した.その結果,でこぼこ道での歩行における膝疼痛に関しては短いサポーター群のほうが有意に優れていた(P=0.014).その他の9項目に両群間の有意差はなかった.その理由として,ACLを補強するパッドが付随していると,でこぼこ道歩行時などの不安定な状態では重心動揺性がかえって増加するため疼痛が引き起こされると考察した.このことから,膝OAに対する軟性装具療法ではシンプルな装具でもスポーツ外傷で用いるような強固な固定力を有する装具と同等の効果(一部ではより高い効果)が得られると結論した.

書評

―田中宏太佳・園田 茂(編)―「動画で学ぶ脊髄損傷のリハビリテーション[DVD-ROM付]」

著者: 半田一登

ページ範囲:P.963 - P.963

●理学療法士に修得してほしい有機的かつ臨床的な動画本

 本書の帯に,『リハビリテーションは「動き」の医療,だから「動き」を見て理解する』と書かれています.これを読んで瞬間的に2つのことを思い出しました.1つはリハビリテーション(以下,リハビリ)の草創期に筆者が所属していた九州労災病院のリハビリ科は医師,作業療法士とMSWで構成されて,理学療法士は整形外科所属の時期があったことです.それは当時のリハビリ科部長の考えで,マッサージを中心とした理学療法士の行為はリハビリとは一線を画すというものであったからです.言い換えれば「動き」の医療が理学療法士に強く求められていました.もう1つ思い出したことは筆者の学生時代に「動きを観察し,それを模倣する」ことが教育の段階でしきりに行われていたことです.例えば,頸髄損傷者のプッシュアップ時における肘の固定法などをつぶさに観察し,それを模倣し,その上で新たな患者を指導するという手法が採られていました.これが本書でいう動きの医療であるリハビリの重要な教育方法であると確信します.

 今日の理学療法教育の場ではさまざまな疾患による特異的な動きを観察できる機会は減少しています.臨床実習前の教育段階で患者の動きを観察する機会がほとんどなく,臨床実習においても臨床実習時間の短縮やリハビリ料での単位制の導入などによって困難性は高まる一方です.その中にあって脊髄損傷はリハビリ医療にとって重要な対象疾患でありながら,多くの理学療法士が経験できない疾患になりつつあります.しかし,理学療法士が専門職であるのならば常識として知っておかなければなりません.

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文献抄録

ページ範囲:P.1032 - P.1033

編集後記

著者: 高橋哲也

ページ範囲:P.1036 - P.1036

 秋になり,学生の“就活“が本格化してきました.理学療法士の需給バランスが問題になっていますが,求人数自体は学生定員をはるかに超え,特に訪問リハビリテーションを視野に入れた求人が増加しています.一方で,学生自身の就職したい職場のイメージとしては,いまだに「総合病院」「大きくて勉強のできるところ」という声が少なくなく,10年以上前より代わり映えはしません.

 医学の進歩とともに,救命救急医療や高度専門医療が発達しました.その一方で,がんや難病などの根治不可能な病気の存在や,肥満や糖尿病,高齢者特有の慢性疾患や重複障害者の存在が目立つようになり,病院での医学モデルの限界を象徴しています.医療を受ける患者側の意識も変化してきています.急性期の病院には長く置いてもらえない,病院や施設よりも住み慣れた自宅で療養したい,などという生活の質を重視した生活モデルが医療を受ける側の意識の中に広がってきています.医療費高騰の背景もあって,国は今後さらに平均在院期間を短縮化させ,医療依存度の高い患者さんの在宅医療を後押ししていくことでしょう.学生の就職したい職場のイメージは代わり映えしませんが,理学療法士の働く環境は大きく変化してきています.日本は先進諸外国に比べて病床数が多く,在院日数も桁違いに多いのが現状です.また,高齢社会による医療費の高騰も大きな社会問題です.そのため,今後は慢性疾患や在宅医療がキーワードとなって,理学療法士の活躍の場を広げていくことと思います.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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