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臨床実習サブノート 臨床実習に不可欠な基本的技能・8
運動療法の組み立て方(6)不全脊髄損傷―歩行が可能な場合
著者: 長谷川隆史12 原田康隆1 江口雅之1 田中宏太佳1 内山靖2
所属機関: 1中部労災病院リハビリテーション科 2名古屋大学大学院医学系研究科
ページ範囲:P.1011 - P.1018
文献購入ページに移動「脊髄損傷」と聞くと,車いすを使用する完全損傷を連想することが多いと思うが,近年は不全損傷が増加傾向にある1).この理由として,日本人は欧米人に比べて脊柱管径が小さく,頸椎症や頸椎後縦靱帯骨化症などの退行性変化によって脊柱管が狭窄し,転倒などの軽微な外力でも脊髄が損傷されやすい状態となっているためである.
完全損傷のリハビリテーション(以下,リハビリ)の到達レベルは残存レベルごとにおおむね獲得可能な動作の上限が確立している.一方で不全損傷は,病態と症状が多彩であるため,到達レベルは大きく変わり得るが,損傷部以下に運動機能が残存している場合では歩行が可能となる割合が高い2).
歩行は日常生活行為の基盤をなしており,環境適応性の高い効率的な移動手段であるのみならず,体力の維持,精神機能賦活などにとっても有効な手段である.歩行障害は生活の自立を妨げ,社会的にも大きな不利益をもたらす可能性が予想されるため,不全損傷者の歩行獲得への期待は大きい.
しかし,歩行が可能といっても,不全脊髄損傷者の歩行は一般的に,健常人に比べて歩行速度が低下し,エネルギー消費量も大きく,非効率的である3).この要因としては,損傷を受けた神経髄節以下に,運動麻痺による筋力低下や感覚障害,筋緊張異常が生じることによって,動かしやすい麻痺の軽い筋を主体に働かせて動作を行おうとしてしまうなど,体幹と四肢の協調性が低下していることが考えられる.
このため,動作観察・分析から改善が予測できる機能障害に対しては適切なアプローチを行い,改善が困難であるが必要とされる機能障害に対しては適切な歩行補助具や下肢装具などを選択し,環境を調整することが重要となる.介入によって,不全脊髄損傷者が活動範囲を拡大することができ,さらには活動参加も促進され,健康寿命を延伸できるようになることが最終目標となる.
本稿では,不全脊髄損傷者を担当した際に行う評価から運動療法までの流れについて,脊髄損傷に特化した評価尺度や既知の予後などを紹介しながら解説する.
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