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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル44巻12号

2010年12月発行

雑誌目次

特集 股関節疾患の理学療法―update

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.1039 - P.1039

 高齢社会の今日,体幹と下肢との連鎖運動の要となる股関節が,加齢に伴う関節変形,転倒による骨折などで股関節機能不全に陥り,円滑な歩行や起居動作に支障を来す高齢者が増加している.股関節機能不全に対する整形外科治療は,股関節のバイオメカニズムを考慮したインプラントの開発,低侵襲術式など,進歩が目覚ましい.そこで本号では,股関節に関わる最新の整形外科治療に連動した効果的な理学療法,生活指導などについて整理し,臨床に直結する特集企画とした.

低侵襲人工股関節置換術後の理学療法効果

著者: 高木三憲 ,   池田崇 ,   鈴木浩次 ,   正保哲 ,   高木峰子

ページ範囲:P.1041 - P.1048

はじめに

 近年,日本は世界でも類をみない超高齢社会に突入しつつあり,国民医療費の増加による社会保障費財政の破綻が懸念されている.今日の国政の中でも優先課題とされ,医療費削減の一環として早期退院が求められている.また,昨今の医療進歩は著しく,これらを背景に日本でも早期退院・在院日数の短縮が進んでいる.ほんの数年前まで2~3か月も必要であった人工股関節全置換術(THA)の入院期間は,現在では1か月程度となった.術式によっては1~2週間程度で自宅退院となるものもみられる.

 この在院日数の短縮の中で,われわれ理学療法士はどこまで患者満足度やquality of life(QOL)を高められるだろうか.在院日数短縮については各施設や各セラピストにより是非もあろうが,当院では低侵襲人工股関節置換術(MIS-THA)を行っており,現在の術後在院日数は5~7日程度である.在院日数が短縮されたとしてもそこで理学療法が終了するわけではなく,患者の自己管理,理学療法士による定期的,継続的な評価・指導が重要であり,長期予後の改善につながると考えている.

 この短い在院日数での早期退院を実現している当院での取り組みや,その中での理学療法士の役割を本稿では1例として挙げさせていただく.当院での診療,手術,術後のスケジュールおよび全体の流れを図1に示す.

人工股関節再置換術後の理学療法効果

著者: 小澤明人 ,   松島哲弥 ,   佐野久実 ,   餅越竜也 ,   大西啓靖 ,   大西宏之

ページ範囲:P.1049 - P.1055

はじめに

 「もう一度痛みなくきれいに歩けるようになりたい」.股関節疾患を有する方々の共通する願いである.そのような加齢に伴う股関節疾患に対しては,人工股関節全置換術(total hip arthroplasty:THA)を施行される症例数が増加し,在宅や職業への復帰に向けた様々な取り組みがなされている.

 THA後,多くの症例は長年悩まされ続けた疼痛から解放され,充実した日常生活を送ることができるようになるが,様々な原因により,人工股関節再置換術(以下,再置換術)を余儀なくされる症例も存在する.その症例数は決して多くはないが,再置換術に伴う障害特性を考慮した,詳細な評価と日常生活動作(activities of daily living:ADL)指導を含む理学療法が必要となる.また,症例個々の生活環境や生活背景を考慮した指導や援助に加え,心理的な支援なども重要であり,生活の質(quality of life:QOL)を高めることができる個別性の高い対応が求められる.

 そこで本稿では,再置換術後のプログラムのあり方について再考することを目的として,まず本疾患の障害特性を整理する.そして,障害特性それぞれに対応する理学療法やADL指導などについて記述し,最後にその効果および今後の課題などについて紹介する.なお,クリニカルパスに準じた理学療法を展開できる,二次的な問題点の少ないケースについては簡略な紹介にとどめる.

大腿骨頭壊死症に対する関節温存術後の理学療法効果

著者: 石原瞳 ,   大野範夫 ,   及川雄司 ,   渥美敬 ,   玉置聡

ページ範囲:P.1057 - P.1064

はじめに1~3)

 特発性大腿骨頭壊死症(idiopatic osteonecrosis of the femoral head:ION)は,日本で年間2,000人程度の人が新たに罹患している疾患で,発症年齢が30~40歳代と青壮年期に多く,厚生労働省で特定疾患に指定されている難病である.病因や病態,治療についての研究が活発に行われてきているが,壊死発症の予防法がいまだなく,増加傾向にある重篤な疾患である.また,10歳代や20歳代の発症も少なくなく,若年者に対する関節温存治療は重要であるといわれている.本疾患に対し当院では,関節が温存できる有効な治療法として,大腿骨頭回転骨切り術を年間約30~40例施行している.理学療法士として本疾患の術前後の理学療法(以下,PT)を担当していると,術式や疾患の特徴から,可動域制限や疼痛などに傾向を認めることがある.本手術の最大の目的は,骨頭の壊死域を臼蓋荷重部から移動させ健常域での荷重を可能にすることにあるため,術後の可動域制限や筋力低下,疼痛などは,理学療法士が配慮すべき問題点と考えている.

 本稿では,IONとそれに対する大腿骨頭回転骨切り術の特徴について述べ,術前後のPTを展開する上での注意点を踏まえ考察する.

大腿骨頸部骨折の予防装具(ヒッププロテクター)の効果と転倒予防指導

著者: 中村直人

ページ範囲:P.1067 - P.1072

はじめに

 高齢者に骨折などの外傷を生じさせる外力源として最も頻度の高いのは,言うまでもなく転倒である.転倒と骨折の頻度は加齢とともに指数関数的に上昇する.そのような背景のもとで,後期高齢者の転倒による骨折が,理学療法士の扱う頻度の最も高い外傷の1つとなる現実が生じている.この一方的な増大は今後さらに顕著となると予想されるが,それを阻止するため,転倒したときに骨に到達する転倒外力を減衰させることで転倒骨折を減らそうという技法がプロテクターである.主に大腿骨頸部/転子部においてヒッププロテクターと呼ばれて発達してきた.

 そもそも事故などで外力が加わっても体を保護する装置や装具などで外力を減衰させて生じる外傷を最小限にしようとする考えは古くから定着しており,野球の捕手・剣道・アメリカンフットボール・スノーボードなどのスポーツにおける防具や,自動車内のシートベルト・エアーバッグ・危険度の高い工事現場におけるヘルメットなどは広く普及しているだけでなく,一部法的に義務化されている.これらは,それぞれが危険な外力が事故的に生じるリスクが高い場面に限定して使用されている.それでは,転倒リスクが高い高齢者に対するヒッププロテクターの有効性はどうであろうか.

 本稿では,ヒッププロテクターの適応の現状とヒッププロテクターの有効性のエビデンスをsystematic reviewsから探究し,科学的な妥当性を概説するとともに,転倒予防指導に関わる生活環境についても解説を加える.

変形性股関節症のバイオメカニクスとADL指導

著者: 新小田幸一 ,   奥村晃司 ,   阿南雅也 ,   加藤浩 ,   木藤伸宏

ページ範囲:P.1073 - P.1081

はじめに

 総務省統計局の人口推計2010年9月報では,2010年4月での日本人人口は約1億2千579万人で,このうち65歳以上の高齢者は23.2%にのぼるという確定値が示されている1).人口の高齢化率の上昇は,多くの高齢者が加齢に伴う運動器の機能低下と器質的変化を起こし,変形性股関節(osteoarthritis of the hip joint:股OA)をはじめとする,多くの下肢関節の疾患を増加させることは想像するに難くない.また股OAの患者は,ほとんど全例といってよいほど理学療法の対象となる.現在のところわが国での股OA罹患者率は欧米諸国と比べ高くはないものの,今後は上記のような人口動態のもたらす因子と,生活様式や食生活の欧米化によって罹患率が上昇すると考えられ,理学療法サービスの対象として重要な疾患であると思われる.

 本稿では,股関節に求められる機能をバイオメカニクスの観点から解説するほか,最近の股関節機能に関わる新しい知見のいくつかと,変形性膝関節症でみられる脚長差に対し,臨床でよく行われる補高の考え方と注意点,歩行パターンとエネルギー消費について,日常生活活動(activities of daily living:ADL)の指導を含めて記述する.

とびら

野宿者を支援する

著者: 牧野新一

ページ範囲:P.1037 - P.1037

 月曜日午後9時半,いつものように京都三条河原町のカトリック教会から野宿者の支援組織である「京都夜まわりの会」のメンバーが,数グループに分かれて出発する.参加するメンバーは10代から60代まで,学生,留学生,会社員,公務員,自営業,僧侶,主婦そして定年退職者など,年齢も職業も多種多様である.

 今夜,私は河原町通りを中心としたグループと一緒に歩くことにする.京都有数の繁華街である河原町通りは,夜になっても人通りが絶えない.付近には,龍馬が殺された近江屋跡をはじめ幕末維新の旧跡が数多くあり,観光客も多い.

1ページ講座 医療に関連するトピックス

サプリメント

著者: 堀美智子

ページ範囲:P.1084 - P.1084

●サプリメントの位置付け

 もともと「補足」「補充」といった意味をもつサプリメントという言葉.日本では,健康食品,栄養補助食品などと呼ばれることもあるが,法令では定義されていない.分類上はあくまで「食品」であり,医薬品のような効能・効果を謳うことはできない.食品はさらに保健機能食品(栄養機能食品と特定保健用食品)と,「一般食品」とに分類される(図).

理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

学士力

著者: 平山朋子

ページ範囲:P.1085 - P.1085

 学士力とは「日本の大学が授与する学士が保証する能力」,「学士課程共通の学習成果」のことである.これは,2008年12月の中央教育審議会答申『学士課程教育の構築に向けて』において提案された.この中で,各分野を通じて培う「学士力」(学士課程共通の「学習成果」に関する参考指針)には,次の4項目が挙げられている.

理学療法臨床のコツ・12

住宅改修アドバイスのコツ―廊下

著者: 松葉貴司

ページ範囲:P.1086 - P.1088

はじめに

 廊下は部屋と部屋を結ぶ空間である.伝統的な尺貫法に基づいて建築された廊下は,つたい歩きには適度な狭さであるとともに,車いすを利用するには手狭な広さである.

 廊下の改修ポイントは,まず移動様式と通行経路を明らかにすることである.歩行の場合は体格や身体機能,疾患特性を考慮した手すりの設置や段差の解消などを検討する.車いすの場合は車いすの挙動を考慮して通過可能な移動経路を検討し,段差解消や間口の拡大など必要となる改修を計画することが重要である.

入門講座 薬と理学療法・6

在宅障害者の薬と理学療法

著者: 川手信行

ページ範囲:P.1089 - P.1095

はじめに

 理学療法士が対象としている障害者は病院に入院している患者のみとは限らない.特に近年においては,退院した後の在宅生活をも含めた維持期リハビリテーション(以下,リハ)の重要性が各方面から報告されている1,2).平成18(2006)年の「身体障害児・者実態調査」(厚生労働省)の報告によれば,障害者数(身体障害,知的障害,精神障害を含む)は約723.8万人であり,そのうち理学療法士の関わりが多いと思われる身体障害児・者数は約366.3万人,在宅での身体障害児・者は357.6万人に及ぶ(表1).

 このような現状のもと,訪問リハなどの在宅を中心としたリハの拡充が進んできており,理学療法士が在宅身体障害者に関わる機会も増えてきている.在宅では,病院や施設で行うリハとは違って理学療法士のみで赴くことが多く,そばに医師や看護師などの医療職がいないことが多い.病院や施設でリハを行う場合には,患者の身体状況や服薬内容,治療内容などに疑問のある場合にはすぐに医師や看護師に相談ができ,必要な時には助言や指導を受けることができるが,在宅においてはそれが不可能であることも多い.

 また,在宅身体障害者が障害を来すに至った原因疾患・外傷は多種多様であり,年齢も小児から高齢者まで多岐に及んでいる.そのため,服用している薬の種類も多様であり,複数の薬を服用している場合も多い.それらの薬の情報を把握し,患者の身体的状況やリスクを的確にとらえることは,病院・施設入所中の患者に比べると困難を要する場合が多いと思われる.しかし,理学療法士が在宅身体障害者に対してリハを行う場合,患者の服用する薬の情報から身体的状況やリスクを把握し,それに応じて在宅での練習内容を考えることは非常に重要であり,業務上必要なことである.

 今回は,在宅障害者の内服薬を中心に,在宅障害者において特に注意しなくてはならない薬を取り上げ,理学療法士が薬と関わる際の注意点などを含めて解説したい.

講座 自覚症状別フィジカルアセスメント・4

呼吸循環器系

著者: 野村卓生 ,   浅田史成 ,   習田龍 ,   久保田昌詞

ページ範囲:P.1097 - P.1106

「動悸がする」

1.重要性の認識

 動悸(心悸亢進とも言う)とは,「心臓の拍動を自覚する」ことであり,多くは心拍動に一致して胸部の不快感を伴うのが特徴である.健常者でも,運動後や左側臥位で動悸が認められることがあるが,日常生活のなかで自己の心拍を自覚することはほとんどない.動悸は疾病の重症度と相関するものではなく個人の感受性の問題が大きいため,不整脈など特定の疾患を意味するものとは限らない.すなわち,患者の訴えの程度は基礎疾患の重篤さを必ずしも反映するものではない.

 問題のない動悸と緊急的な対応を要する動悸を鑑別することが,理学療法のリスク管理として重要である.

臨床実習サブノート 臨床実習に不可欠な基本的技能・9

物理療法の臨床実践

著者: 村永信吾 ,   伊能幸雄 ,   間島和志

ページ範囲:P.1107 - P.1112

はじめに

 物理療法とは,温熱,寒冷,水,圧力,音波,電磁波,電流などの物理的作用を患者に適用する治療法である.代表的な物理療法の分類と主な治療アプローチを示す(表1).

 世界理学療法連盟(WCPT,1982年)によれば,「理学療法は,身体的治療の技術および科学であり,運動療法,教育指導,温熱,寒冷,光線,水,マッサージおよび電気を治療手段とする.治療目的の中に痛みの緩和,循環の改善,障害(disability)の予防と改善,力,可動性および協調性の最大回復がある.」と記されている.物理療法は,生体に加える力やエネルギーが,出力・刺激波形・治療時間などにより規定しやすく,これらの治療パラメータを設定したプロトコールが確立すれば,運動療法とともに理学療法の有効な治療のひとつとなる.物理的刺激に対する生体反応とその効果に関しての研究は古くから行われており,昨今の科学的根拠に基づく医療(evidence based medicine:EBM)を重視する流れの中で,われわれはそれら最新の知見をふまえた上で,適切に臨床へ応用していかなければならない.

原著

Magnetic Resonance Imaging(MRI)の特性を用いた単一運動課題における内閉鎖筋,外閉鎖筋の筋活動の差異についての検討

著者: 木下一雄 ,   平野和宏 ,   千田真大 ,   河合良訓 ,   安保雅博

ページ範囲:P.1113 - P.1117

要旨:本研究の目的は,MRI,T2強調画像を用いて,単一運動課題における内閉鎖筋,外閉鎖筋の筋活動の差異を検証することである.対象は健常者11名で,運動課題は股関節中間位からの外旋運動と股関節屈曲30°の内転運動とした.方法はMRI,T2強調画像を用いて運動課題前後の筋活動評価を行った.結果,外閉鎖筋は安静時に対する外旋運動後のT2値増加率は10.6±8.1%,内転運動後は6.6±3.8%,内閉鎖筋は外旋運動後6.2±4.8%,内転運動後2.3±2.4%であった.各運動課題で内閉鎖筋より外閉鎖筋のT2値増加率が有意に高値を示し,外閉鎖筋では内転運動より外旋運動で有意にT2値の増加を認めた.よって腹臥位の外旋運動は,より外閉鎖筋の筋活動を賦活できることが示唆された.

ひろば

米国カイザー病院での卒後PNF研修と海外生活

著者: 志村圭太

ページ範囲:P.1118 - P.1118

・はじめに

 「いつか海外で勉強してみたい!」,そんな漠然とした思いを抱きながら理学療法士(以下,PT)として臨床に出て3年.念願叶って2008年7月から2009年4月までの9か月間,米国カリフォルニア州バレーホ市にあるカイザー財団リハビリテーションセンターでProprioceptive Neuromuscular Facilitation(以下,PNF)卒後教育プログラムに参加することができた.

報告

若年健常者を対象とした肩甲骨位置測定方法,基準値の検討―デジタル傾斜計,テープメジャーによる測定

著者: 上田泰之 ,   浦辺幸夫 ,   山中悠紀 ,   宮里幸 ,   野村真嗣

ページ範囲:P.1119 - P.1123

要旨:本研究は,肩甲骨位置の簡便な測定方法の信頼性を検討すること,健常者における肩甲骨位置の基準値を提示すること,健常者にどのような肩甲骨位置の左右差があるかを明らかにすることを目的とした.対象は肩関節に疾患のない健康成人92名であった.肩甲骨位置の測定にはデジタル傾斜計とテープメジャーを用いた.分析項目は肩甲骨外転距離,肩甲骨外転比,肩甲骨下制距離,肩甲骨下制比率,肩甲骨上方回旋角度,肩甲骨前傾角度であった.各測定方法の信頼性を級内相関係数ICC(1,1),ICC(2,1)および標準誤差(SEM)より求めた.ICC(1,1)は0.87~0.98,ICC(2,1)は0.84~0.91と優れた信頼性を示した.利き手側が非利き手側に比べ,肩甲骨下制距離および肩甲骨下制比率において有意に大きかった(p<0.05).本研究で用いた肩甲骨位置の測定方法は簡便であり,優れた信頼性を示したため,臨床でも用いることが可能である.また臨床で肩甲骨位置を評価する際には,元来,利き手側の肩甲骨が下制していることを留意すべきである.

紹介

コミュニケーションノートを用いたスキルアップ支援法

著者: 角田利彦 ,   櫻井宏明 ,   木村洋介 ,   安田公 ,   辻村享

ページ範囲:P.1124 - P.1125

はじめに

 リハビリテーション(以下,リハ)を取り巻く環境において,組織が急激に肥大化し,組織の全体から臨床現場に至るまで,患者サービス低下を伴ういくつかの課題が挙がってきた1~4).日本理学療法士協会の資料では,2008年の理学療法士免許登録者は35歳未満が69.7%,経験年数10年未満が67.5%を占め,若い集団であると言える.一方,理学療法士養成校の入学定員は急増し5),教員と実習施設の不足が指摘されている.卒後のリハ教育を現場で提供せざるを得ない状況のなかで,主体的な個人教育は十分とは言えない.

 地域の拠点病院においても同様の状況にあり,われわれは若い職員の教育を充実させるために,経験伝達を中心とした「コミュニケーションノートを用いたスキルアップ支援法」を導入した.これは,養成教育の課題を補う臨床現場教育のサポートツールとして,先輩職員のサポートによる若手職員サービスの質向上を目的としている.

書評

―嶋田智明・大峯三郎・杉原敏道(編)―「実践MOOK 理学療法プラクティス 膝・足関節障害 全身から評価・治療することの意義と実際」

著者: 上島正光

ページ範囲:P.1082 - P.1082

 実践MOOK理学療法プラクティスシリーズから,このたび待望の“膝・足関節障害”編が発刊された.待望のというと少々大げさな感じもするが,これまで膝関節・足関節において,解剖学や運動学といった基礎知識から臨床における具体的評価や治療戦略,さらにバイオメカニクスに至るまでを1冊にまとめた書籍がなかっただけに,やっと待ち望んでいたものが世に出てきたと非常に嬉しく思った.

 “全身から評価・治療することの意義と実際”のサブタイトルが示すとおり,骨・関節疾患の治療においては,障害局所に対する知識・治療技術を持つことは当然のこと,さらに対象者を全身的に診る力が必要と言われる.というのも対象者が抱える問題は,対象者の身体の使い方に問題があることが多く,障害局所に改善がみられたとしても根本的な身体の使い方に変化がなければ,障害は再発することになるからである.

『スポーツ科学・医学大事典(全3巻) ―ギャレット,スピーア,カーケンダル(編),福林 徹,渡邊好博(監訳)―「①スポーツ整形外科学 ―理論と実践―」/―ギャレット,カーケンダル(編),宮永 豊(総監訳),阿江通良,河野一郎,髙松 薫,徳山薫平(監訳)―「②スポーツ運動科学 ―バイオメカニクスと生理学―」/―ギャレット,カーケンダル,スクワィアー(編),宮永 豊(総監訳),赤間高雄,宮川俊平,向井直樹(監訳)―「③スポーツ医学プライマリケア ―理論と実践―」』

著者: 守屋秀繁

ページ範囲:P.1096 - P.1096

 この大事典は今回出版された「スポーツ整形外科学」,「スポーツ運動科学」,「スポーツ医学プライマリケア」の厚い3冊から構成されており,以前私が監訳した「スポーツリハビリテーション」(西村書店・刊,本体7,600円+税)を加えると4部作とも言えるかもしれません.どれも現在,流行の絵や図の多い本と違って,字が非常に多く,勉強嫌いなスポーツ愛好者には絶対に好かれない本だろうというのが私の第一印象でした.私も今回,書評を依頼されたので仕方なく目を通していたら,いつの間にか引き込まれるように読み続けていました.そうです.これらの本はスポーツを題材に生業をなしている人達,特にスポーツの講義や講演をしなければならない人達が一部はスポーツ雑学として知っていたほうが良いような内容があちこちに記載されているのです.

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文献抄録

ページ範囲:P.1126 - P.1127

編集後記

著者: 鶴見隆正

ページ範囲:P.1130 - P.1130

 バンクーバー冬季五輪大会で幕開けした2010年も残すところわずかとなり,時間の経つのが実に早く感じます.これも歳によるものでしょうか.

 さて,今年最後の特集は「股関節疾患の理学療法―update」です.高木先生には,術後在院日数が5~7日間と短い低侵襲THA術の理学療法と患者指導について,臨床経験に基づいて解説いただきました.小澤先生には,人工関節の再置換術を余儀なくされた原因と理学療法を実施する際の留意点などについて解説いただき,心理的支援と生活環境を考慮したADL指導の重要性を強調されています.石原先生には,大腿骨頭壊死症に対する関節温存術の術前からの評価,理学療法のポイントとその根拠について論じていただきました.中村先生には,ヒッププロテクターの効果についてシステマティックレビューに基づいて詳述していただき,新小田先生には,変形性股関節症の臨床所見とADL指導をバイオメカニクスの視点で詳細に解説していただきました.いずれの論文も最新の整形外科治療と一体となった効果的な理学療法を追求する,日々の臨床現場の熱意が行間から伝わってきます.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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