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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル44巻2号

2010年02月発行

雑誌目次

特集 脳卒中のゴール設定

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.89 - P.89

 脳卒中におけるリハビリテーションのゴールは,種々の専門職による各領域のゴールと対象者本人を含む周囲の条件とを統合し,チームで統一したものである.臨床で設定するゴールには治療開始時・定期的見直し・慢性期治療方針などがあり,その時点での様々な予測的要因を含む.チームのゴール設定は単純な足し算や最大公約数ではなく,理学療法士の設定したものが決定的であることも,一情報に過ぎないこともある.

 本特集では,専門領域ごとに,脳卒中のゴール設定をどのように予測し行うのか,その視点と考え方,課題について論じていただいた.

脳卒中診断学と治療に基づく脳卒中専門医のゴール設定

著者: 岩永健

ページ範囲:P.91 - P.99

はじめに

 脳卒中診療は,画像診断の進歩に伴い詳細な診断が早期に可能となった.また,近年,遺伝子組み換え組織プラスミノーゲンアクティベータ(recombinant tissue plasminogen activator:以下,rt-PA)静注療法が本邦でも超急性期脳梗塞に対して保険適応となり,これまで以上に短時間での診断および治療開始が求められるようになった.本稿では,われわれが行っている病院前における試み,急性期における検査・診断・治療に加え,慢性期における治療目標について概説する.

脳卒中の障害学に基づくリハビリテーション科専門医のゴール設定

著者: 伊勢眞樹 ,   秋山仁美 ,   鳴海浩 ,   中崎喜英 ,   公文範行 ,   白方淳

ページ範囲:P.101 - P.113

はじめに

 リハビリテーション(以下,リハ)医療では,「患者は治療後に生活者として,再び地域に帰り生活機能(住み慣れた場所で,健康に家庭・社会生活が自立している)を継続してゆく」という視点1,2)が重要であり,脳卒中のリハゴールは「生活機能を継続してゆく」ことに尽きる.そのためには,脳卒中の治療として,入院後可能な限り早く自動運動を促し,治療効果を向上させ,不用意な安静を排除して合併症の発症を徹底的に予防することが必要である.脳卒中治療ガイドラインで強く勧められている「急性期からの積極的なリハを行う」3)とはこのことである.

 本稿は,岡山県西部医療圏の急性期先進医療基幹病院における急性期のリハ科・リハセンターの機能を前提としたゴール設定の考え方であることをご理解いただきたい.ゴール設定に必要な脳卒中の活動制限の診かた,脳卒中の予後予測,高齢者の機能障害とその対応,リハ治療を解説して,最後にゴール設定について述べる.

脳卒中の病態評価と解釈による理学療法士のゴール設定―急性期から回復期

著者: 内山靖

ページ範囲:P.115 - P.121

はじめに

 未来を正確に予測することは困難であるが,専門職には先を見通したうえで現在の課題に適切に対応する問題解決能力が求められる.医療専門職において,機能・能力を詳細に予測する能力は,最も高度な臨床推論(clinical reasoning)である.さらに,ゴール設定には,現在の状態を正確に判断し,それがどのように変化していくのか,また,変化させられるのかを総体的かつ主体的に判断する必要がある.

 理学療法モデルの1つでもある脊髄損傷では,若年者の完全頸髄損傷を中心に髄節レベルごとに獲得可能な動作が一覧され,車いすの操作や移乗の方法などが詳細に区分されている.ここで示される動作の到達レベルは,概ね上限が記載されており,関節可動域の制限や痙縮などによって目標は下方修正される.理学療法士は,動作の到達レベルを1つの目安として,心理・社会的状況を勘案した対象者のニーズを踏まえて個別のゴール設定と必要なプログラムを立案・実施する.

 脳卒中では,疾病そのものの病態と症状が多彩であることに加えて,脳の可塑性を含めた運動学習能力によって到達レベルは大きく変わり得る.また,加齢変化や高次脳機能障害の影響から,自立度を細分化したゴールを設定することが不可欠となる.未来を論理的に予測する際には,一般的に,長く安定した観察期間から少し先のことを予測することに比較して,観察期間が短い状況で遠い先のことを予測することは難しい.この点から,病態の変化が大きく観察期間が限られる急性期では,正確な変化を予測したゴールを設定することは容易ではない.

 本稿では,日進月歩の内科・外科的な診断と治療を含めた病態とその変化を理解したうえで,動作を基軸とした症候障害学に基づく解釈,運動学習能力,対象者のニーズを尊重した生活機能(functioning)を考慮した可能性(potentiality)を現実化するための構造的な戦略的手段の表記としてゴール設定を位置づける.そのうえで,急性期から回復期における病態の特徴と理学療法士の役割を踏まえて,脳卒中における病態評価と解釈による理学療法士のゴール設定についての話題を提供したい.

脳卒中の病態評価と解釈による理学療法士のゴール設定―慢性期

著者: 石倉隆

ページ範囲:P.123 - P.130

慢性期脳卒中のゴールの考え方

 慢性期脳卒中のゴールを考える際,発症からの期間や対象者のモチベーション,精神機能障害を何の根拠もなく取り上げ,それらと経験則を組み合わせて,「これ以上の回復は困難」,「機能維持が限界」などと設定していないだろうか.結果的に運動機能,動作能力,日常生活動作(activities of daily living:以下,ADL)能力の低下を来してしまったら,それを何の根拠もなく,加齢や廃用症候群と関連づけていないだろうか.一方,脳科学の視点から,どう考えても一定以上の回復が困難な対象者に対して,経験を根拠にあたかも障害が改善するかのごとくゴール設定をしていないだろうか.ADLにまったく結びつかない,ほんのわずかな改善(誤差範囲かもしれないような)を取り出して,理学療法効果としてゴール設定の根拠にしていないだろうか.個人的にはこれらの問いかけを全否定するつもりはない.なぜなら多くの場合,慢性期脳卒中の理学療法の後に控えているのは個人的価値観や主観的要素を多分に含む生活であり,対象者の生活を見据えたゴール設定を行うには,理学療法士としての経験や人生経験も不可欠な要素であると考えるからである.

 しかし,EBPT(科学的根拠に基づく理学療法;evidence-based physical therapy)の実践を強く求められている現在,慢性期脳卒中のゴール設定にも科学性が求められるべきであろう.ただし,対象者個人の主観的な生活に無理に客観性,科学性を取り込もうとすると,自由であるはずの生活を他人(理学療法士)が制約することにもなりかねない.そうならないためにも,理学療法士自らが,生活に対する科学性の介入の限界を知り,どこまで科学的,客観的なゴールを設定し,どこから,どの程度まで主観的要素をゴールに取り込むのかを考えていかなければならない.

理学療法臨床実習生に対する脳卒中のゴール設定指導

著者: 丹羽義明

ページ範囲:P.131 - P.136

はじめに

 2009年における全国の理学療法士養成校は237校を数え,1学年の学生定員は約13,000人にのぼる.学生全員が2~3施設で臨床実習を行うと想定すると,臨床実習指導が可能となる臨床経験3年以上の理学療法士であれば,臨床実習指導者(以下,実習指導者)となることは一般的である.臨床実習は,教育課程のなかで重要な科目の1つとして位置づけられると同時に,理学療法士を育成するうえでも臨床実習施設における指導は重要なものとなる.

 2009年に九州労災病院(以下,当院)で臨床実習を行った12名の実習生にアンケート調査を実施した結果,脳卒中と運動器疾患との比較において,12名中11名が脳卒中の病態把握から治療計画の立案までの思考過程について,やや困難および非常に困難と回答し,その要因としてゴール設定(予後予測)と動作分析の困難性が示された.脳卒中片麻痺は一側の半身の運動麻痺という単純なものではなく,脳の可塑性に由来する機能変化や代償機能の出現,さらには高次脳機能障害を含めた複雑な病態を呈し,障害構造を捉えてゴール設定を行うには,多くの要素を包括的に捉えて思考する過程が必要となる.

とびら

強く生きて道を開く

著者: 中嶋奈津子

ページ範囲:P.87 - P.87

 先日,親しい方の奥様が亡くなられ,葬儀に参列した.まだ若く美しい,聡明な生前の御姿が偲ばれた.そして高校に入学されたばかりの,それは可愛らしいお嬢さんの姿をみつけ,胸が締め付けられた.その瞬間,私の脳裏にもう忘れかけていた記憶が蘇った.

 27年前,高校生であった私は母をがんで亡くした.いつも笑顔を絶やさず,太陽のような人だった.料理や編み物が得意で,毎日のお弁当が私の自慢であった.病院など縁のない人だったのに,ある朝突然に脳梗塞を発症して病院に運ばれ,それと同時に手遅れのがんがみつかった.深刻な病状に加えて,言葉が話せず片手が使えなくなっていて,母はもちろん,家族にとってもそれまで経験したことのない辛さが波のように押し寄せた.

症例報告

上腕骨外科頸骨折8年後に全人工肩関節置換術を受けた症例:挙上動作に対する集中的アプローチ

著者: 賀好宏明 ,   舌間秀雄 ,   佐伯覚 ,   蜂須賀研二

ページ範囲:P.137 - P.141

要旨:転落による上腕骨外科頸骨折後に骨頭壊死を来し,受傷8年後に全人工肩関節置換術を受けた症例を担当した.手術前の状態では三角筋の重度委縮を認め,自動での肩挙上が90°と不良であった.手術時に小結節の骨接合術を受けたため,当初は患部外トレーニングを主体に運動療法を行った.小結節の仮骨が確認されてからは,肩挙上に対する集中的な運動療法を開始した.方法は,筋力強化時の姿勢を筋力回復に合わせ除重力位から抗重力位へ漸増させ,かつスリングを用いた自己介助下で行った.1日の運動時間は4~5時間を確保した.ハンドヘルドダイナモメーターによる筋力測定では肩周囲筋の改善を認め,特に屈曲筋力は6週間の経過で17.6Nから79.2Nへと著明に回復し,挙上角度は120°まで可能となった.重度の筋力低下を有する全人工肩関節置換術後の肩挙上動作の回復には,少量頻回の運動が有効であることが示唆された.

下腿三頭筋の遠心性運動が奏効した慢性アキレス腱炎の1症例:競技レベルの高い柔道選手の1症例

著者: 渡邉晃久 ,   西上智彦 ,   町田博久

ページ範囲:P.163 - P.166

要旨:重度の慢性アキレス腱炎により歩行困難となった症例に対して,下腿三頭筋の遠心性運動を行った.症例は20歳代男性,柔道選手である.診断名は左アキレス腱炎で,2年前から痛みが認められた.当院へ入院する1か月前から痛みのため歩行困難となり,柔道競技の中止を余儀なくされ,就業にも支障を来したため当院を受診し,入院となった.痛みの程度はNRS(numerical rating scale)にて8であった.本症例に対して左下腿三頭筋の遠心性運動を行った結果,入院から5週でNRSは3に,18週でNRSは0に改善した.柔道競技への復帰は29週で可能となり,その後,痛みの再発も認めていない.遠心性運動は腱の修復に好影響を及ぼす可能性が報告されていることから,本症例でも,遠心性運動により腱の修復強度が増加し,痛みが軽減したと考えられた.以上のように,歩行が困難な重度の慢性アキレス腱炎例に対して下腿三頭筋の遠心性運動は有効であると思われる.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

記憶

著者: 池田由美

ページ範囲:P.143 - P.143

 例えば,「いい国(1192)つくろう鎌倉幕府」などのように,歴史的出来事の年代を語呂合わせで覚えた経験がある人は多いだろう.こうやって覚えたことは案外忘れないものである.また,「今朝の朝食は何を食べたか」と聞かれた時に,前述の例とは異なり,朝食をとった時にはあえて覚えておこうとしたわけではないにもかかわらず,大方の人は答えられる.あるいは,学生時代の楽しかったことや感動したこと,悲しい出来事など,印象に残っている出来事についてはその内容だけではなく,その時に体験した感情とともに思い出すことができる.どうやら私たちは,意識的にも無意識的にも毎日の生活のなかで様々な情報を取り込み蓄え,必要な時に引き出しているようである.このようなプロセスを記憶という.つまり,記憶とは「新しい経験が保存され,その経験が意識や行為のなかに再生されること」である1)

 記憶には,新しい情報の「登録(記銘)」(符号化),取り込んだ情報の「保持」(貯蔵),保存された情報を思い出す「再生」(検索)という3段階のプロセスが含まれる.記憶のプロセスのうち,直接観察して評価できるのは登録と再生の段階のみである.

医療に関連するトピックス

DPC制度

著者: 康永秀生

ページ範囲:P.156 - P.156

●DPC≠包括支払

 日本版診断群分類(DPC:diagnosis procedure combination)は,2003年に82特定機能病院に導入され,現在までに全国の1,000施設を超える急性期病院に普及している.

 DPCは診療報酬制度における「包括支払」システムとリンクされている.そのため,あたかも「DPC」と「包括支払」が同義であるかのような誤解が一般に見受けられる.

 そもそもDPCとは,各患者を「病名」と「行われた医療行為」との組み合わせで約2,500の診断群に分類する手法である.各患者には14桁で構成される診断群分類番号(DPCコード)が振られる.つまりDPCは本来,患者分類のためのツールであって,支払とは関係ない.

理学療法臨床のコツ・2

基本動作練習のコツ―車いす移乗・操作・選択のコツ①

著者: 佐藤史子

ページ範囲:P.144 - P.146

基本動作練習のコツ

 動作を練習する時は,達成感,成功感を味わえる課題を選択し,障害当事者が練習に対するモチベーションを維持できるようにする.ネガティブな思考になっている時に,プラスのパフォーマンスは生まれにくいからである.では,どうするか.練習する動作を分析し,不足している機能を抜き出して基礎練習のなかに組み込み,集中的に繰り返し練習を行うとよい(図1).このことにより,基本動作練習では各フェーズの動作の成功率が高まり,動作全体の流れをつくることに集中できる.また,練習する基本動作は最初から目標とする動作でなくてもよい.最初は環境調整(人的介助,道具の利用や配置の工夫など)により,難易度の低い状況から徐々に難易度を上げて,目標とする動作の獲得へつなげる.さらに,理学療法士が実際に動作をデモンストレーションし,ケースに動きのイメージをつくってもらうことが重要である.

入門講座 浮腫と理学療法・2

リンパ浮腫と理学療法

著者: 滝沢裕子

ページ範囲:P.147 - P.153

はじめに

 リンパ浮腫は子宮がんや乳がんのリンパ節郭清手術後や放射線照射後に発症することが多く,日本には現在,約12万人の患者がいるといわれている.これまでリンパ浮腫の予防法や治療法があまり知られていなかったため,多くの患者は十分な治療を受けることができずにいた.

 しかし,平成20(2008)年度の診療報酬改定により,リンパ浮腫指導管理料が医師・看護師・理学療法士に限り算定できることになった.理学療法士がリンパ浮腫に関する知識と治療技術を習得することによりリンパ浮腫を発症する患者数,重症化する患者数が減り,理学療法士の活躍する場が増えるであろう.

講座 理学療法(士)と倫理・2

理学療法士の臨床活動と倫理

著者: 半田一登

ページ範囲:P.157 - P.162

はじめに

 日本理学療法士協会(以下,本会)は定款第3条に「本会は,理学療法士の人格,倫理および学術技能を研鑽し,わが国の理学療法の普及向上を図るとともに国民保健の発展に寄与することを目的とする」と定めている.しかし,最近では理学療法士による事故や事件が報道されており,人を治療すべき職業人としてあってはならないことである.職業倫理に関わる問題は理学療法士のみに目立っているわけではなく,日本全体に蔓延している状況である.その背景として社会的倫理の後退がいわれている.加えて,物欲主義による価値基準や大量生産・大量消費主義による使い捨て思想の蔓延,そして個々の人間の孤立化による対人関係の崩壊なども影響していると思う.しかし,人と接する理学療法を職業として選択したこと,通常業務として身体接触を繰り返すこと,治療者であることなどを前提とした専門職の果たすべき責任について,より深く思慮しなければならない.

 また,この数年,医療崩壊が進んでいることが報告され,特に外科,産婦人科,小児科などリスクの高い診療科の状況はひっ迫している.このような荒廃した状況は,全体としての医療倫理の後退につながる危険性が高く,自戒が必要である.リハビリテーション(以下,リハビリ)分野でも,障害者自立支援法の施行,診療報酬の算定日数の設定,在院日数の短縮を重視した病院からの無理な退院などの同質な問題を抱えている.これらも専門職の倫理として考えねばならない点である.倫理とは自らの利益のみを追求するのではなく,障害者や高齢者などの利用者の立場を鑑みることから始まるものである.

 医学は科学であり,医療は社会的承認と考えられる.医療は医学ほどの科学性がない面があり,それゆえに文化や社会的通念の影響を受け,その延長線上に医学以上の社会的承認が求められている.また,倫理も個々の文化と切り離せない存在であり,それゆえに国や地域そして宗教などによって差異がある.一方,人間は社会を作る動物である以上は社会規範が必要となり,倫理についての重要事項は法律によって規制が加えられており,なかには犯罪となることもある.犯罪に含まれるほどの倫理違反は,判例などとしてその輪郭を形作ることが可能である.しかし,犯罪には該当しないような臨床倫理については,その1つひとつの倫理のもつ社会的拘束力に対する考え方に相違があり,悩ましい問題である.

 倫理を構成する要素に患者や利用者の権利があり,ベルナルディは自然法則に立脚した5つの原則を述べている(表1).この自然法則での原理にも二重効果の原則(1つの行為から善い効果と悪い効果が生じること)があり,悪い結果が生じることを想定内と考えている.結果として生じた悪作用は原則の間違いではなく,単なる肉体的な損害として考える必要性を指摘している1).そこに臨床倫理の困難性を感じる.

 1995年に改訂された患者の権利に関するリスボン宣言では11項目の原則が列挙されているが,患者の権利という視点で整理すると8項目(表2)となる.そしてその序文のなかで「医師は,常に良心に従って,また常に患者の最善の利益に従って行動すべきであると同時に,患者の自律性と正義を保証するために努力を払わねばならない」とし,さらに「医療従事者および医療組織は,この権利を認識し,擁護していくうえで協働の責任を負っている」としている.ここにわれわれ理学療法士も医師と同等な患者の権利を守るという責任を有していることが語られている.その責任こそが「倫理」を構成しているといえる.

 日本医師会では倫理は患者の自立性(autonomy)の尊重,善行(beneficence),公正(fairness)で構成されているとしている2).理学療法士が臨床活動を行うに当たっては,ただ単に利用者の権利を尊重するのではなく,社会的に弱い立場に陥っている存在として十分に配慮することが求められている.

 本稿では,37年間にわたって臨床で理学療法士業務を行ってきた私の経験をもとに「臨床活動と倫理」について自省を含めて記述する.

あんてな

JICA―国際協力の現場から・5(最終回) 理学療法士の可能性としての国際協力

著者: 久野研二

ページ範囲:P.168 - P.169

 5回にわたった連載も,今回で最後になります.JICAの障害分野の取り組みやプロジェクト実施の概要,そして2名の理学療法士の青年海外協力隊(以下,協力隊)や専門家としての活動を紹介してきました.理学療法士の可能性の1つとして国際協力があること,またそのやりがいや苦労などが伝わったでしょうか.

 第1回で紹介したように,すでに300名を超える理学療法士がJICAのボランティアや専門家として途上国で活動しています.またNGOで活動している人や,日本国内で途上国の研修生を受け入れる形での国際協力をしている理学療法士も多いと思います.もっと知りたい!と思ったら,国際協力全般であれば,JICAのホームページ(www.jica.go.jp)もお勧めですし,ボランティア制度や経験談が聞ける説明会も各地で開催されています.障害分野の協力についてなら,JICAのナレッジサイトもお勧めです(http://gwweb.jica.go.jpで「分野課題情報」から「社会保障」を選択).理学療法士・作業療法士協会共催の国際協力セミナーも毎年開催されていて,経験者の生の話を聞くことができますし,協力隊経験者が中心になって2009年8月に設立した「JOCVリハビリテーションネットワーク」もあります(代表:石井博之さん,http://ptotjocvhomepage.blogspot.com/).

 さて連載の最終回として,今回は国際協力への関わり方と,そこで求められる“チカラ”について少し考えたいと思います.

学会印象記

―第25回義肢装具学会―理学療法への提言

著者: 香川真二

ページ範囲:P.170 - P.171

 秋晴れという言葉にふさわしい好天に恵まれた2009年10月31日(土),11月1日(日)に,第25回日本義肢装具学会学術大会(以下,本学会)が神戸市のポートアイランドで開催された.会場となった国際展示場は,三宮駅と神戸空港を結ぶポートライナーの最寄駅から徒歩1分と大変便利であり,参加者も予想を大きく超える1,500名と盛況であった.

 神戸と義肢装具学会との関係は古く,1968年に日本義肢装具研究同好会(現・日本義肢装具学会)が神戸の地で発足し,1989年には澤村誠志先生(兵庫県立総合リハビリテーションセンター)のもと,第6回ISPO(国際義肢装具協会)世界学会も神戸で開催された.本学会の大会長である陳 隆明先生(兵庫県立総合リハビリテーションセンター)は,澤村先生と20年来にわたり切断者の臨床現場に携わってきた方である.そのため,今回の学会は義肢装具士の学会という印象ではなく,どちらかというと医師,セラピスト,看護師向けの内容が多く盛り込まれていた.

 大会テーマは「ハードウェアとソフトウェアの融合」で,これまで培われてきた義肢装具に関するハードウェアに加えて,科学的根拠に基づく臨床評価とリハビリテーション(以下,リハビリ)をいかに融合するかに焦点をあて,会長講演,ワークショップ,シンポジウムが組まれていた.

書評

―嶋田智明(編集主幹)天満和人・奥村チカ子(編)―「セラピストのための概説リハビリテーション」

著者: 小川恵一

ページ範囲:P.154 - P.154

 リハビリテーションという用語がわが国で使われだすようになって50年以上が経過している.これは理念や思想であり,当初から現在に至るまで変わることなく,普遍的である.その一方で,リハビリテーションの理念をもとに,それに関わる各専門職の独自性や専門性は大きく発展し,社会の変化にあわせて実践方法も変化してきている.そこで,これからリハビリテーションに関わるセラピストを目指す学生の学習に,ふさわしい教科書の必要性をあらためて感じている.

 理学療法士養成課程で専門分野として早期に学習する科目がリハビリテーション概論である.理学療法士に限らず,作業療法士,言語聴覚士,看護師,社会福祉士などリハビリテーションに関わる専門職養成課程においても同様である.これまでのこの科目の教科書は,初めてリハビリテーションを学ぶ学生にとっては専門用語の量が多く,その内容も濃密なためにポイントをつかむことは難しかった.学習段階を考慮すれば,リハビリテーションを理解する最低限度の知識,すなわちコア(核)とは何か,また,リハビリテーションの全体像とは何かをわかりやすく整理し,教えるべきではないかと考える.

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文献抄録

ページ範囲:P.172 - P.173

編集後記

著者: 永冨史子

ページ範囲:P.176 - P.176

 一年の計どころか,日常がばたばたと過ぎ去って,気がつけば,もう2月です.今月の特集は,理学療法士にとって昔も今もどっしりと難しい課題である「脳卒中のゴール設定」です.壮大なテーマに,医師の立場と理学療法士の立場で,冷静にかつ熱く,その考え方と想いをご執筆いただきました.

 脳卒中患者が到達するゴールは,診断・治療技術の進歩により変化し,今も進化しています.岩永論文では,脳卒中専門医が「いま」行っている治療戦略と考え方を,画像とともに解説いただき,一般市民の啓発や再発予防など,脳卒中患者のゴールを長期的に変えようとの意図に基づいた視点も紹介いただきました.伊勢論文では膨大なデータに基づくシェーマでゴール設定の要因を段階的に解説いただき,そのうえでリハの視点として「患者個人の症状を多面的に捉え,治療者として援助してゆく」ことをお示しいただきました.内山論文・石倉論文では,理学療法士はプロとして,いかなる病期の対象者にも,情報収集し病態を解釈して,解決すべき(解決しうる)問題を整理し,「理学療法士が行えることは何か」を考察することが不可欠,と論じていただきました.丹羽論文は,誰もが悩む臨床実習指導について,ICFに基づく臨床思考モデルの利用,根拠に乏しい主観的ゴールを実習生自身の気づきにより修正する工夫例を紹介いただきました.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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