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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル44巻3号

2010年03月発行

雑誌目次

特集 病期別理学療法モデル

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.179 - P.179

 理学療法を実践するうえでは,全身状態,疾患の経過,心理的な変化などに大きな影響を及ぼす「病期」を考慮することが重要である.

 本特集では,病期の捉え方を整理したうえで,急性期,回復期,維持期における理学療法士の役割を明確にした理学療法モデルを提示していただいた.

病期からみた理学療法の展開

著者: 松永篤彦

ページ範囲:P.181 - P.188

「病期」の定義

 「病期」とは,疾患がたどる経過をある特徴によって区分した時期を意味する.もう少し具体的にいうと,対象とする疾患の症状が時間の経過のなかで大きく変化するという特徴をもつ場合に,症状の経過から疾患をうまく区分することができる.例えば,症状が増悪している状態を増悪期あるいは急性期,回復している状態を回復期,そして,回復後の症状が維持され安定している状態を維持期もしくは安定期と区分する場合がある.このように疾患を病期で区分する意義は,対象とする患者の現状を端的に示すと同時に,対象とする患者が同じ疾患を有する患者がたどる経過のどの時期に在るのかを識別することにある.

急性期理学療法モデル

著者: 横田一彦 ,   雲野康紀 ,   芳賀信彦

ページ範囲:P.189 - P.195

はじめに

 わが国の医療体制は,DPC(diagnosis procedure combination:診断群分類)包括評価制度の導入,医療機関の病期別機能分化など,大きな変革の途上にある.DPC対象病院は年々増加しており,2009年度中には一般病床の約半分がDPC対象病床となる見通しである.

 リハビリテーション(以下,リハ)医療においても,2000年4月の診療報酬改定における特定入院料「回復期リハ病棟入院料」の新設と介護保険制度の開始,2006年からは「疾患別リハ料」が導入された.これらの導入目的は,「医療保険においては急性期・回復期の状態に対応し,身体機能の早期改善を目指したリハを,介護保険においては維持期の状態に対応し,生活機能の維持・向上を目指したリハを行うものとし,医療保険と介護保険の役割分担の明確化を行ったもので,切れ目のないリハの推進,医療と介護のリハの連携強化推進のためである」とされている1).このような背景から,医療機関の機能分化や入院日数の短縮,算定日数上限の設定など,医療機関においては病期や期間といった時間軸をより意識した診療への取り組みが必要とされるようになってきている.

 以上のような情勢のなか,疾患ごと,障害ごとの理学療法の進め方という捉え方のみでなく,各々の属する病院・施設などが対象とする病期ごとに,対象者の治癒・改善過程に沿った理学療法の進め方を考えていくことも重要となってきている.本稿では,回復期リハ病床をもたない急性期病院である当院の理学療法士の状況を交えながら,急性期における理学療法モデルのあり方について考えていきたい.

回復期理学療法モデル

著者: 小泉幸毅

ページ範囲:P.197 - P.204

はじめに

 本稿では,回復期の病態にある患者への理学療法において重要となる観点を整理し,その具体例として当院での実践を紹介する.つまり急性期や維持期における理学療法との相違に主眼を置き,「回復期ならでは」という点をクローズアップしてみたい.

維持期理学療法モデル

著者: 金谷さとみ

ページ範囲:P.205 - P.212

はじめに

 理学療法が病期別に分類されてきた背景には,超高齢社会の到来に伴う将来の医療・介護給付費の高騰,そこから生じる財源枯渇への危機感から始まった「医療制度改革」がある.医療制度改革では,急性期病院の平均在院日数を短縮することで高額な医療の提供期間を減らし,回復期や維持期へ早期に移行することで,総体的な費用を削減することを目的の1つとしている.そのため,急性期医療から速やかに移行できる「次の機能」を明確にし,移行をスムーズに行うための仕組み(連携)に力を入れる必然性が生まれた.リハビリテーションにおいても,理学療法においても,急性期,回復期,維持期という機能分化を明確にした理由はここにある.

 医療機能の分化は,若年者が受傷した場合は効率のよいシステムであろう.しかし,医療費の多くを占める高齢者に視点を向けた場合,この機能分化には若干違和感がある.脳卒中や骨折のように,明らかな疾患により理学療法を開始した場合ならこの機能分化の流れにフィットするが,実はそうでない問題をもつ高齢者はたくさん存在する.多くの慢性疾患をもち,徐々に機能が低下する高齢者,急性期と同様の医療ニーズをもつ高齢者などが存在し,実は維持期といっても幅広い知識と経験が必要となる場面が多いのである.

 日本リハビリテーション病院・施設協会では,「維持期リハビリテーションとは,障害のある高齢者等に対する医学的リハビリテーションサービス(リハビリテーション医療サービス)の一部を構成し,急性発症する傷病においては急性期・回復期(亜急性期)のリハビリテーションに引き続き実施されるリハビリテーション医療サービスであり,慢性進行性疾患においては,発症当初から必要に応じて実施される医療サービスである」1)と定義している.また,医療と介護の両方の場面で提供されてきた維持期理学療法は,主に介護保険で運用されるような制度に徐々に変わっている.チームアプローチが主体のリハビリテーションサービスのなかで,維持期における理学療法のニーズが高まっていることと理学療法士数が急増している現状を鑑みれば,今こそ維持期理学療法のありかたについて整理する必要がある.

保険制度からみた病期別理学療法の現状と課題

著者: 植松光俊

ページ範囲:P.213 - P.222

はじめに

 1965年に理学療法士が国家資格職として誕生してから,理学療法診療報酬は(その誕生当初だけは遅々としながらも)着実に右肩上がりに高くなっていったが,介護保険導入後の2002年を境として下がり続けてきた.そして,さらに2006年の診療報酬改定では,疾患別リハビリテーション料に体系化されるとともに算定日数上限が設けられ,大きく2つの問題が起こった.1つの問題は,理学療法料がリハビリテーション(以下,リハ)料の名の下に包含され,「理学療法」の名称が診療報酬から消え,理学療法士の専門性すら揺るがしかねない状況が起こっていること,そしてもう1つの問題は,算定日数制限からリハサービス提供を強く望む患者・介護保険利用者に「リハ難民」,「介護難民」問題が起こったことである.

 本稿では,理学療法関連保険制度・報酬に影響する要因として,①保険報酬の変遷と問題点,②病期分類とその分類要因・保険制度の捉え方,③適正なサービス提供時期・量,について理解を深めたうえで,各病期と施設・事業ごとにみた現状と課題について解説するとともに,それらの改善方策について提言する.

とびら

可能性への気づき

著者: 久家直巳

ページ範囲:P.177 - P.177

 私はこれまで,病院勤務を経て専門学校と大学に勤め,40代半ばからまた病院で勤務している.教育と臨床の現場は,異なる点が多いようにもみえるが共通する点もある.その1つは「可能性に気づき,それを伸ばしていけるよう支援すること」である.

 先日,卒業生の結婚式に出席した.在学中はいろいろと苦労した学生さんだったが,今,理学療法士として第一線で活躍しているのを知り,当時芽生えた可能性が実を結んでいることに安心感を覚えた.私自身は,最近は在宅高齢者の理学療法を担当することが多い.当然ながら,対象者は生きている環境も人生観もそれぞれ異なる.しかし,できれば悲観することなく,可能性に気づき,生きがいをもって過ごしていただきたいと思う.

1ページ講座 理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

脚長差

著者: 菅原憲一

ページ範囲:P.225 - P.225

 脚長差(leg length differenceまたはleg length discrepancy)とは,左右の下肢長の差,または,下肢の発育の差を示す.すなわち,左右の下肢長を計測し差が認められる場合,脚長差が存在すると判断される.

医療に関連するトピックス

経腸栄養剤および濃厚流動食の分類と選択

著者: 井上善文

ページ範囲:P.251 - P.251

 経腸栄養法の歴史は古いが,本邦における経腸栄養法は,1974年に小越らが成分栄養剤(elemental diet:ED)の開発に着手し,これが医薬品(エレンタール®)として発売された1981年頃にその起源を求めることができる.その後,経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)および栄養サポートチーム(NST)の普及とともに,経腸栄養法が積極的に実施されるようになっている.特に,高齢者や摂食・嚥下障害患者の増加などに伴い,経腸栄養剤の使用が増加し,種類も非常に多いため,その特徴および病態を理解して選択する必要がある.

ひろば

はじめまして.八軒家 良法師と申します

著者: 中谷知生

ページ範囲:P.226 - P.227

 当院のリハビリテーション(以下,リハビリ)室は病棟中央,食堂の横に位置しています.普段は,午後0時30分には多くの患者さんが昼食を済ませて,部屋に戻ります.そして午後のトレーニング開始までリハビリ室に静かな時間が訪れます.しかし,今日は違います.

 急いで食事を済ませた私は白衣を脱いで着物に着替え,各部屋の患者さんに声をかけます.午後1時まで,私は理学療法士ではなく落語家となって,リハビリ室で患者さんと笑いの真剣勝負を繰り広げるのです.

入門講座 浮腫と理学療法・3

血管神経性浮腫と理学療法

著者: 中川司

ページ範囲:P.229 - P.238

はじめに

 CRPS(complex regional pain syndrome;複合性局所疼痛症候群)は神経因性疼痛の代表的疾患であり,交感神経の過剰活動に起因する慢性痛,allodynia,hyperpathia,浮腫などを主徴とする疾患である.Mitchellが南北戦争時(1867年),causalgiaと報告して以来,Sudeck(1900年)はbone atrophy(骨萎縮),Evans(1946年)はRSD(reflex sympathetic dystrophy:反射性交感神経ジストロフィー)と命名するなど,本疾患には統一された定義,分類がなく,疾患概念に混乱がみられた.そのため,国際疼痛学会(IASP:International Association for the Study of Pain)は,1994年にCRPSという用語とともに改めて本疾患の定義,分類を提唱した1)

 本稿では,CRPS type Ⅰ(旧症候名:RSD)を取り上げ,主要な症状である痛みと腫れを中心にその発生機序を紹介し,上肢・下肢の痛み―腫れ―関節可動域制限の理学療法を紹介する.

講座 理学療法(士)と倫理・3

理学療法の教育と倫理

著者: 富樫誠二

ページ範囲:P.239 - P.243

はじめに―教育の現場から倫理を考える

 小学校から道徳教育が行われてきたにもかかわらず,真正面から正眼に構えて「倫理とは何か」と問われれば,大学生でなくても難解な禅問答を仕掛けられたようで戸惑うことでしょう.「倫理」というととっつきにくいというイメージをもつのは筆者も同じです.「倫理」をより身近な「道徳」という言葉に置き換えたとしても同じでしょう.

 倫理的に生きるということは,人間としてあたりまえのこと(倫理的価値)を,あたりまえに行うこと(倫理的行為)ですが,前述の「戸惑い」はその「あたりまえのこと」がわからなくなっていることに起因しているのではないでしょうか.それは,倫理的行為の根拠となる倫理的価値が時代によって変化して多様化してきたためであると考えます.現代社会においては,複雑な状況のなかで生じる倫理的問題を,根本となる倫理原則に則って論理的思考(演繹的・帰納的思考)によって解決しなければならないと言えます.私たちは,着地点のわからない迷走する不確実性の時代に生きているからこそ,根本的な人間としての倫理を大切にしなければならないのです.

 端的に言えば,倫理は「人間のあるべき関係の道筋」です.私たちが社会のなかで何らかの行為をする時に,「これは善いことか,正しいことか」と判断する際の根拠となるものです.このなかには当然,人間関係から生じる問題が含まれることになります.

 倫理的問題をいくら論理的に考えたとしても,必ずディレンマが生じます.ディレンマとは,例えば1つの原則や権利などを守ろうとした時,それに反する他の原則や権利が生じ,どちらをとっても当事者に満足や納得のいく結果をもたらさない状況です.倫理的ディレンマは,信念をもって正しい人間関係を考えようとする人々が悩まざるを得ない状況のことであり,人間の宿命とも言えます.

 ダン・アリエリー1)が「予想通りに不合理」という著書のなかで述べていますが,私たちは,社会的規範(倫理・道徳)と市場の規範(お金)の両方の世界に生きています.この両者のせめぎあいが常に社会のなかで生じています.市場の規範が優先されることなく,倫理・道徳という社会的規範が大きな役割を果たす社会であってほしいと思います.そのためには倫理教育が大切です.また倫理は,「最大多数の最大幸福」を考える功利主義や個人の尊厳を大切にする個人主義から影響を受けます.個人と多数の人のせめぎあいが倫理的問題を生じさせます.

 「倫理は誰のためにあるのか」というと,良心に基づいて行動している人のためにあると言ってよいと思います.人は,法によって規制されなくても良心をよりどころに社会生活を営んでいます.人間は社会的存在でかつ自覚的存在であるからこそ,社会的規範としての倫理がその道を照らす一灯となるのです.

短報

理学療法研究課題における予備的調査

著者: 細井匠 ,   相馬正之 ,   八重田淳

ページ範囲:P.247 - P.249

要旨:一定の質をもった理学療法研究を行うためには,理学療法における重要度の高い研究課題(research question:RQ)を明らかにする必要がある.今回,デルファイ法を用いて,現時点で重要度が高いと考えられるRQの抽出とそのランキングを試みた.ラウンド1~3を実施した結果,最終的に16個のRQが残り,それらの順位付けを行うことができた.今後も定期的に,理学療法領域における重要度の高いRQを明らかにしていくことが望まれる.

理学療法臨床のコツ・3

基本動作練習のコツ―車いす移乗,操作,選択のコツ②

著者: 杉優子 ,   冨田昌夫

ページ範囲:P.252 - P.255

はじめに

 移乗動作の難しさは,様々な要因によって患者の体重以上の重さを支えなければならない点にある.本稿では,理学療法士が患者に密着することで,患者に正しい動きを誘導し,動作に能動的に参加することを促す方法を紹介する1)

あんてな

医療法第42条施設における理学療法の関わり

著者: 末武聡子

ページ範囲:P.256 - P.258

はじめに

 社会医療法人博愛会菅間記念病院では,2008年4月に医療法第42条施設「健康増進センター・ウェルネスNASPA(ナスパ)」(以下,当施設)を開設しました.私は現在週に1度,理学療法士として当施設で活動しています.本稿では当施設の概要と,私が担当しているスタジオプログラムについて紹介します.

書評

―黒川幸雄,他(シリーズ編集)福井 勉・小柳磨毅(責任編集)―「理学療法 MOOK9 スポーツ傷害の理学療法(第2版)」

著者: 市橋則明

ページ範囲:P.244 - P.244

 「スポーツ傷害の理学療法」は2001年に第1版が発行され,今回8年ぶりに改訂された.日常生活への復帰に比べ,かなりハードルが高いスポーツ復帰をゴールにするスポーツ傷害の理学療法に20年以上にわたり関わってこられた福井勉,小柳磨毅の両先生が責任編集をされている.医師,理学療法士,トレーナー,柔道整復師,鍼灸師など多職種が関わるスポーツ現場において,障害の発生機序を動作分析に基づいた運動力学的な視点で捉える技術は,理学療法の固有技術であり,理学療法士の王道であると思われる.関節運動や身体重心,運動連鎖などを踏まえた運動力学的分析に基づき,障害局所を把握するだけでなく,身体全体のメカニカルストレスについて考慮して全身的なアプローチを行うことが重要であることは,本書で一貫して述べられている.これらのことは,「理学療法士のアドバンテージであり,アイデンティティーである」と編者も強調しており,まったくの同感である.

 本書の内容は機能解剖や運動力学的分析に基づいた評価,代表的なスポーツ傷害のメディカルリハビリテーションやアスレチックリハビリテーションのプロトコール,そしてコンディショニングまで網羅されており,さらにスポーツ傷害の予防やパフォーマンス向上に対して理学療法技術が応用できることにも言及している.「スポーツ傷害とコンディショニング」および第2版で新たに追加された「スポーツ傷害への地域支援」の章では,スポーツ現場において第一線で活躍する理学療法士の取り組みが紹介されている.スポーツ傷害の予防には他職種との連携があってはじめて可能となること,そして理学療法士としてこの分野で貢献しうる多くの秘めた可能性があることを認識させられる章である.また,選手と真剣に向き合い,信頼関係を築き上げてきた著者の熱い想いが感じられる.

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文献抄録

ページ範囲:P.260 - P.261

編集後記

著者: 内山靖

ページ範囲:P.264 - P.264

 年度末を迎えています.

 厚生労働省,文部科学省の集計によると,昨年の3月に卒業した大学生の就職率は95.7%で,前年同期を9年ぶりに下回ったことが報告されています.今年度は,昨年12月に就職が内定している大学生は73.1%と前年同期を7.4ポイントも下回り,2000年度前後の就職氷河期と言われた時代よりもさらに冷え込んでいます.地球温暖化のなかで,温かい社会の到来によって卒業式までに学生の心にも多くの桜が咲くことを願わずにはいられません.今年に入って本誌では,「これからの理学療法」(1月号),「脳卒中のゴール設定」(2月号),「病期別理学療法モデル」(3月号)と,挑戦的で壮大なテーマが並んでいます.こんな時代だからこそ,夢や希望の大きなテーマを選んだのかもしれません.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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