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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル44巻7号

2010年07月発行

雑誌目次

特集 在宅理学療法の実践

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.545 - P.545

 在宅理学療法は単独で行うものであるが故に,担当した理学療法士の力が露呈し,それを補うものは何もありません.これからは急性期や回復期と同等,あるいはそれ以上の専門的な知識・技術をもって取り組まなければなりません.これからの時代,在宅は理学療法の真価を問われる重要な関門となります.

 この特集では,ある意味では最前線とも言える在宅理学療法を幅広い視点から捉え,より専門的な領域とするため,今後の医療・介護制度の方向性,在宅における理学療法をとりまく環境や事情,そして,様々な側面からの在宅理学療法の具体的取り組みの要点について述べていただきます.

在宅医療の現状と課題

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.547 - P.552

はじめに

 平成18年度の医療制度改革以降,医療提供体制の見直しが進んでいる.施設の機能分化と連携体制の確立,そして在宅ケアの推進を目指して政策が打ち出された.平成18年度の診療報酬改定では在宅医療支援診療所のシステムが導入され,また今回の診療報酬改定においても在宅医療支援病院の要件緩和や往診料の引き上げ,訪問看護療養費の新設などが行われている.このうち,在宅医療支援診療所については,死亡前24時間以内の往診に対して1万点の診療報酬を設定するなど経済的にその導入が誘導され,また平成20年度の診療報酬改定でも「特定施設入院総合管理料」による導入などがあり,在宅医療への移行推進が意図されているが,平成22年3月現在,全国で約11,500の診療所が登録するにとどまっている1)

 なぜ,在宅医療の普及は進まないのであろうか.その理由のひとつは在宅医療の内容の変化にあると筆者は考えている.これから増加してくる在宅医療の対象者の多くは,診療所ベースの外来医療からの移行ではなく,医療制度改革の進展に伴い病院の入院医療から在宅に移ってくる患者である.この変化は,病院で行われていた医療が在宅で継続的に行われていく体制を必要とする.すなわち,24時間365日対応が必要な患者の在宅医療が求められているのである.これまで在宅医療の推進は診療所の外来医療の延長線上で考えられてきたが,ソロプラクティス中心のわが国の診療所が24時間対応することの労働負荷はあまりに大きく,この点に構造的な問題があるように思われる.

 あと10年もすれば年間160万人が死亡する時代がやってくる.これらの患者のターミナル期をすべて入院・入所施設で看ることは不可能であり,したがってターミナル期に対応できる在宅ケアの推進が求められている.今後,在宅医療を進めていくのであれば,これまで入院で行われていたターミナル期の医療が在宅で行われるための基盤を整備しなければならない.

 また,医療技術の進歩はこれまで急性期疾患と考えられていた傷病を慢性疾患に変えている.例えば脳梗塞を考えてみよう.急性期医療の進歩により多くの脳梗塞患者が救命され,そしてその後何らかの後遺症を持ちながら10年以上生きることが当たり前の時代になっている.化学療法や放射線治療の進歩により,がんも同様に「慢性疾患化」している.これらの患者のいわゆる急性期は数か月であり,その後数年にわたる慢性期を過ごすのである.こうした患者の療養の場として病院は不適切であり,したがってこのような病態の変化に対応した新しい在宅医療システムの構築が求められているのである.

 これは診療報酬上の設定のみにとどまらず,医療法や医療職の資格と職務権限に関する法律,薬事法など関連諸制度の広範な見直しと,患者および家族を含めた関係者の意識変革を必要とする.本稿ではこのような問題意識に基づき,在宅医療推進のための課題について理学療法士に期待される役割も含めて論述してみたい.

在宅理学療法に求められる資質

著者: 渡邉好孝

ページ範囲:P.553 - P.559

はじめに

 在宅理学療法で利用者に求められるものは,知識や技術が優れていること以上に,心を揺さぶる感動と驚き,幸せの提供ができる「人」である.現在,そして将来にわたり利用者にとって必要なのは,ホスピタリティ・マインドをもって「もっとよくしたい,何とかしたい」という観点から考え,行動できる人なのである.

 理学療法士は,医療にとどまらず介護サービスや健康支援,そして地域生活者へのサービス提供など多様な領域の活動を行うことが多くなっている.職域が広がったことで多種多様な利害関係者(stakeholder)と交流しなければならない場面も増え,その実力は各方面からの評価を受ける.

 在宅での仕事は他職種との密接な連携なしには成り立たない.コミュニケーション能力が高く,専門性に裏打ちされた質の高い技術提供ができ,人としての魅力がある理学療法士が,利用者とビジネスパートナー(以下,BP)双方から望まれている.

―在宅理学療法の実践―1.効果的な在宅理学療法のプランニング

著者: 阿部勉 ,   戸津喜典 ,   大沼剛

ページ範囲:P.561 - P.566

はじめに

 以前,筆者が勤務していた総合病院で理学療法業務の内訳を調査したところ,起居動作練習の頻度は歩行練習の次に割合が大きい第4位(1位は関節可動域練習,2位は筋力強化練習)であった.ところが在宅理学療法を始めてみると,最も高頻度に練習や助言,家族指導を実施しているのは起居動作であった.その理由は①最も利用者・家族を困らせる課題であるから,②動作そのものに運動の基本要素が含まれているから,③比較的安全に(自主練習としても)実施できるから,④廃用症候群予防の第一歩だから(廃用症候群予防の最大のポイントである寝食分離のために,起居動作は避けて通れない)であり,在宅理学療法を遂行するうえで最も重要な動作であると言える.

 吉良ら1)は,在宅理学療法における理学療法士の滞在時間は平均43.8分,訪問頻度は7割以上が週1回と調査内容を報告している.この現状から推察すると,在宅理学療法では利用者への直接的なアプローチ時間は限られているため,起居動作を習熟させ日常の活動時間や離床時間の向上を促進することに重点を置かざるを得ないことがうかがえる.このことは,われわれのcluster randomization trialによる訪問リハビリテーションの介入結果が,介入群で有意に離床時間の延長を認めた2)ことと方向性が一致している.要するに,在宅理学療法の現場では一般的に,離床に向けた起居動作の練習を大きな柱として行っているということが推測できる.

 本稿では,在宅理学療法において家族などの背景を踏まえながら多くの問題を解決しつつ最適な方向へ導く効果的なプランニングと展開について,特に身体機能と起居動作の関係に焦点を当てながら解説していく.

―在宅理学療法の実践―2.寝たきり患者の全身管理の知識

著者: 長野雅江 ,   西村眞由美

ページ範囲:P.567 - P.572

はじめに

 在宅理学療法において,寝たきり状態にある患者から依頼を受けることは少なくない.こうした患者に対する理学療法は,訪問リハビリテーションのみならず,在宅・施設の環境整備や他職種の連携が整えば介護保険の通所サービスでも提供可能なケースもある.そうした中で,医療従事者である理学療法士が身体機能のみに囚われていては患者の重大な変化を見逃しかねないため,全身管理のスキルが必須である.本稿では,理学療法にも間接的に関与する知識として,寝たきり状態にある患者の全身状態の管理やリスク管理のうえで重要なトピックについて述べる.

―在宅理学療法の実践―3.訪問理学療法のポイント

著者: 吉田俊之

ページ範囲:P.573 - P.578

はじめに

 訪問理学療法を行う場合には,在宅ならではの視点を知っておくことが重要である.また,在宅に介入することは医師,看護師,そして介護支援専門員などの他職種との少なからぬ連携が不可欠となる.

 本稿では在宅理学療法ならではのポイントを共有し,連携をとるうえで理学療法士がまず行っておきたい能動的な働きかけについて考えてみたい.

高齢者に対する効果的な介護予防について―地域生活のひろがりに着目した介護予防評価

著者: 二瓶健司

ページ範囲:P.579 - P.587

はじめに

 わが国の介護保険法では,高齢者の「自立支援」が基本理念となっており,予防重視型のシステムで要介護状態への悪化を予防するためのサービス提供に重点が置かれている1).なかでも,一般高齢者や特定高齢者,要支援高齢者を対象とした介護予防事業では,全国各地の自治体や事業所などにおいて地域性を活かした様々な事業が展開されている.高齢者に対する在宅理学療法は,その事業の効果を立証するうえで,自立支援や健康寿命の延伸に帰結することが望まれているものの,高齢者の多様な地域での暮らしをどのように把握し,どのような指標で評価をすべきかが課題となっていた.

 社団法人日本理学療法士協会国庫補助事業特別委員会では,高齢者の地域生活における自立支援のあり方を検討する手段のひとつとして,高齢者の機能的状態の特徴と変化を総合的に捉える評価指標の開発に2005年から取り組んできた2~6).理学療法の専門性を活かした視点であらゆる検討を重ね,辿りついた指標は“地域生活のひろがりに着目した介護予防評価(elderly status assessment set:E-SAS)”である6).本稿では,このE-SASを使用した介護予防の実践例について述べていく.

とびら

信頼感と結果

著者: 山﨑祐輔

ページ範囲:P.543 - P.543

 最近,新しく創設された中学生の硬式野球チームのメディカルサポートを始めた.きっかけはアポなしで学校に乗り込んで来た球団代表が「理学療法士にサポートしてもらうことで選手の故障を防ぎたい.自己管理の方法を早くから学ぶことで高校野球にスムーズに移行できるように力を貸して欲しい」と熱く語ったのが始まりであった.

 本校の野球部出身の学生に聞いた話ではあるが,全国で最も人口が少ない鳥取県の高校野球では,現状としてまだまだ根性論が根強く,痛みは耐えて治すか,レギュラーを辞めるかのどちらかであるという.その結果,多くの選手は接骨院などを利用してその場の痛みを紛らわすことになり,それでも対応できない状態になってしまった選手をクリニックや大学病院で診るという場面が多々ある.こうした状況のなかで,可能な限り予防的な立場で選手に指導できれば,と常日頃から考えていたことと,球団代表の理学療法士への信用と期待が過分に感じられたため,引き受けることになった.

1ページ講座 医療に関連するトピックス

伝統医療・補完医療・代替医療

著者: 大野智

ページ範囲:P.590 - P.590

 わが国では,国民皆保険制度のもと現代西洋医学を主体とした医療が提供されている.しかし,近年,国民の自己健康管理への関心,患者の治療選択における自己決定意識の高まりに加え,インターネットの普及によって個人による健康・医療情報へのアクセスが容易になったことから,医療現場では,通常医療以外の医療,補完代替医療の利用者が急速に増加していることが指摘されている.

 補完代替医療の定義には明確なものはなく,それぞれの国における医療制度や歴史的・地理的背景によって対象となるものが異なる.米国の国立補完代替医療センターは「現時点では通常医療と見なされていない医療・ヘルスケアシステム,施術,生成物などの総称」と定義している.以下,断りのない限り,本稿の表題となっている「伝統医療・補完医療・代替医療」をまとめて「補完代替医療」と呼ぶ.

理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

人工透析

著者: 大平雅美

ページ範囲:P.591 - P.591

 人工透析(artificial dialysis)とは,腎臓がその機能を十分に果たせなくなったとき(急性,慢性腎不全),透析膜を用いて腎機能を人工的に代替する治療法のことで,用語的には,血液透析(hemodialysis)または人工腎(artificial kidney)が適切である1)

理学療法臨床のコツ・7

基本動作練習のコツ―歩行補助具選択のコツ②

著者: 佐々木伸一 ,   久保田真弓

ページ範囲:P.592 - P.594

はじめに

 歩行補助具の適切な選択は,歩行への努力と介助量を軽減し,高い効率性と安全性を提供する.歩行補助具の目的は,①転倒予防,②支持基底面の拡大,③荷重量の軽減と免荷,④疼痛軽減,⑤下部体幹や下肢筋力低下の補助,⑥他者に対する障害のアピール,⑦歩行速度の制御,⑧心理的安心感,⑨歩行耐久性向上などである1,2)

入門講座 薬と理学療法・1【新連載】

薬の話入門

著者: 倉田なおみ

ページ範囲:P.595 - P.601

はじめに

 “薬”は,様々な場面で使われる言葉である.失敗は人にとって“よい薬”と言うこともあるし,陶磁器の“うわ薬”は化学物質であるし,“お薬をいただこう!”と言ってアルコールを飲むこともあり,麻薬や覚せい剤を“薬(やく)”と言ったりする.もちろん,ここでは医薬品である“薬”について解説する.

 理学療法を実施する際に,薬の効果が大きく影響することがある.鎮痛薬の効果が切れていて,痛くて理学療法が行えない場合がある一方,薬で痛みが抑えられている時間であれば理学療法への意欲も増してくる.効率的に理学療法を実施するには,服薬時間を考慮した時間設定が必要になるだろう.そのためには,服薬後に薬の効果が発現する時間と効果の持続時間を知る必要があるが,この時間は個々の薬により異なる.

 ここでは,薬の効果発現・持続時間とその調べ方,および効果に影響する様々な要素や薬の副作用について解説する.

講座 表面筋電図の臨床応用・3

物理療法における表面筋電図の臨床応用

著者: 山口智史 ,   村岡慶裕

ページ範囲:P.603 - P.609

はじめに

 表面筋電図(以下,筋電図)は,体表から測定可能な筋内の電気信号を記録したものであり,従来はシールドルーム内で,主に診断目的で計測が行われていた.しかし近年では,その電気信号をman-machine interfaceとして利用することで,幅広い分野で活用されている.

 リハビリテーション分野においては,切断者に対しての筋電義手,筋電義足の制御,また,四肢麻痺患者に対しては情報伝達機器や車いすの入力デバイス(筋電スイッチやマウス,ジョイスティックなど)で用いられている.さらに介護者に対するパワーアシストロボットなど,その応用範囲は多岐にわたる.一方で,理学療法分野,特に物理療法においては,筋電図はバイオフィードバック療法(以下,BF)で用いられる以外には,その使用は限られていた.

 また,機能的電気刺激(functional electrical stimulation:以下,FES)や治療的電気刺激(therapeutic electrical stimulation:以下,TES)は,脊髄損傷患者や脳卒中患者などを対象として,機能代償や治療として用いられている.この最大振幅100Vにも達する電気刺激中に,1mVにも満たない随意筋電図を記録することは,電気刺激により発生する巨大なアーチファクトのため困難であった.そのため,筋電図を用いた電気刺激装置は,電気刺激が開始される前に筋電図信号をトリガーとして電気刺激を行うものが主流であった.

 しかし近年,電気刺激を印加している電極から随意筋電図を記録する手法1,2)が開発され,さらに,その技術を応用し,随意筋電図によって電気刺激を制御する携帯可能な新しい電気刺激装置が開発され3),市販されている.本講座では,筋電図による電気刺激制御を可能とした新しい電気刺激装置の概要,および適応,使用方法,効果などについて解説する.

報告

地域在住後期高齢者におけるIADL低下の予測因子としての歩行能力

著者: 牧迫飛雄馬 ,   古名丈人 ,   島田裕之 ,   千葉一夫 ,   佐藤一徳 ,   赤沼智美 ,   吉田裕人 ,   金憲経 ,   鈴木隆雄

ページ範囲:P.611 - P.616

要旨:[目的]地域在住後期高齢者において,3年後のIADL低下に対する運動機能の影響を検証することを目的とした.[方法]75歳以上の地域在住高齢者131名を分析対象とした.2005年に握力,片脚立位時間,5m通常歩行時間,老研式活動能力指標を測定した.老研式活動能力指標については,2008年に追跡調査し,老研式活動能力指標の下位尺度ごとに,3年後の低下の有無と運動機能との関係を調べた.[結果]3年後のIADL低下に対してベースラインの5m通常歩行時間が有意な関連を認めた(オッズ比1.79,p<0.05).また,3年後のIADL低下に対する5m通常歩行時間のカットオフ値は4.35秒で,感度82.4%,特異度52.6%であり,5m通常歩行時間が4.4秒以上ではIADL低下のオッズ比が5.18(p<0.01)であった.[結語]後期高齢者のIADL低下を予測する因子として,歩行能力が重要であることが確認された.

ブリッジ運動における足部の高さと頭部の位置が体幹・股関節伸展筋活動に及ぼす影響

著者: 井上拓也 ,   伊藤浩充 ,   池添冬芽 ,   小林紗織 ,   傍島崇史 ,   市橋則明

ページ範囲:P.617 - P.622

要旨:本研究の目的は,ブリッジ運動における足部の高さと頭部の位置が体幹・股関節伸展筋の筋活動に及ぼす影響について検討することである.対象は健常成人30名とした.脊柱起立筋胸椎部,脊柱起立筋腰椎部,大殿筋,大腿二頭筋の筋活動量,ならびにこれら主動筋間の筋活動比を算出した.ブリッジ運動は,頭部を挙上させない通常の場合と,頭部を挙上させて行う場合の2つの条件下で,足部の高さを床面から-20cm,0cm,20cmと変化させた.その結果,足部を高くすることで脊柱起立筋胸椎部・腰椎部の筋活動量は増加した.一方,足部を低くすることで大殿筋の筋活動量は増加し,脊柱起立筋腰椎部と大腿二頭筋に対する大殿筋の筋活動比はともに高まった.また,頭部を挙上させることで大殿筋の筋活動量は増加し,脊柱起立筋に対する大殿筋の筋活動比および脊柱起立筋胸椎部に対する腰椎部の筋活動比も高まった.本研究の結果から,ブリッジ運動において足部高を変化させ,あるいは頭部を挙上させることで,主動筋群内のより選択的なトレーニングが可能であることが示唆された.

臨床実習サブノート 臨床実習に不可欠な基本的技能・4

運動療法の組み立て方(3)回復期脳卒中―廃用症候群が顕著な場合

著者: 丹羽義明

ページ範囲:P.623 - P.629

はじめに

 脳卒中は脳内の血管障害によって生じる中枢神経系の障害により様々な病態を呈する疾患であるが,同時に循環調節系,運動器系の要素を含む疾患でもある.脳卒中発症後の回復過程において何らかの原因で低活動・臥床が強いられた状態が長期間に及ぶと,中枢神経系機能の回復低下が生じるだけでなく,循環調節系および運動器系に対しても負の影響を及ぼす結果となる.

 これら低活動・臥床による中枢神経系,循環調節系,骨格筋・関節などの運動器系および精神・心理面の機能低下は廃用症候群と総称され,脳卒中回復期に廃用症候群を呈した症例への介入には,それぞれの病態要素を理解することが必要となる.

 近年の医療情勢の変革により,脳卒中のリハビリテーション(以下,リハ)はリスク管理下での早期離床から機能改善および廃用予防を図る急性期リハ,急性期治療後から残存する障害に対して集中的に実施される回復期リハ,介護保険サービスによって在宅や施設において提供される維持期リハなど施設での機能分担化が明確となっている.介入に際しては,回復期病棟の機能特性を視野に入れた包括的な臨床推論に基づき,どのように介入すべきなのか,あるいは介入することができるのかと方向性を模索していくことが肝要となる.

書評

―嶋田智明(監修),日髙正巳(編)―「地域理学療法にこだわる」

著者: 平上二九三

ページ範囲:P.589 - P.589

 本書は理学療法にこだわった書籍である.そのこだわりはリハビリテーションに対してではなく理学療法に対してであり,しかも15年もの先を見据えて社会に貢献できる地域理学療法の進むべき方向性を描いている.本書の最大の特徴は,時間軸・場面軸・技術軸・対象軸・政策軸という5次元からの構成である.特に地域を時間的・空間的に統合することにより,「生活」にそして「人生」に深く関わる理学療法をめざしている.すなわち,地域理学療法を“Life Based Physical Therapy;生活・人生を基盤に考え・関わる理学療法”として位置づけたフレームワークとなっている.

 その理念を踏まえた42名の執筆者は,何のために地域理学療法をするのかを問い続け,独自の専門性を築き上げてきた開拓者達である.「今,PTに求められていることは?」「社会や時代のニーズの変化は?」「PTが進むべき道は?」「PTが果たすべき役割は?」に正面から答えている.筆者一人ひとりがジェネラリスト・スペシャリスト・プラクティショナーであり,経験豊富な著者からのエキスパートオピニオンは実践力を格段に上げるヒントとなる.

―熊谷晋一郎(著)―「《シリーズ ケアをひらく》リハビリの夜」

著者: 岩﨑清隆

ページ範囲:P.610 - P.610

 この本の著者は,脳性まひをもった小児科医である.この本には,著者の幼少時からの運動学習,モノや人への働きかけの学習のプロセスがある種の感慨をもって描かれている.感慨といっても独りよがりな情緒論に陥ることなく,全体が透徹した公平な視点に貫かれている.適切な内容に,それに見合う適切な言葉が用意周到に選ばれているので,味わい深いと同時にその描写がとても美しくも感じられる.

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文献抄録

ページ範囲:P.630 - P.631

編集後記

著者: 金谷さとみ

ページ範囲:P.634 - P.634

 今年の春は雪が降り,寒暖の差が激しく,出勤時に何を着ていけばよいか悩むことが多かった.外来やデイケアに来る方々も同じように悩んだに違いない.皆,様々な家庭で様々な在宅生活を送っているが,このような迷惑なお天気は地域で共通する問題であり,そこから共通する話題となり会話が生まれる.「こんな天気では体調を悪くする」「米と野菜が不作だ」.

 医療提供体制の見直しにより,理学療法士は今後ますます「在宅」という新たな場所での技術提供を求められる時代となっている.しかし反面,若年層の理学療法士が多くを占めている現状では,理想的には経験豊富な者が従事するべきだと言われる訪問などの在宅理学療法に年若い者が関わる機会が増えることも否めない.医療機関で長年経験を積んだ理学療法士でさえ初めは在宅高齢者の気持ちに近づくことができず,「苦情」に繋がってしまうことがある.在宅介護は医療現場とはまた違った形での洗練を必要としており,医療現場を中心に成長してきた理学療法は,その質を保つために在宅での理学療法業務を整備しなければならない.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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