icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル44巻8号

2010年08月発行

雑誌目次

特集 徒手理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.637 - P.637

 徒手理学療法(manipulative physical therapy)は,一般的な運動療法と比較してもその歴史は古い.いわゆる治療手技は多岐にわたる一方で,manual therapy, manipulationなど基本的な用語の定義については統一されていない.近年では,臨床推論過程の重要性が指摘され,標準化に向けての取り組みが世界規模で加速している.

 本特集では,わが国の理学療法士が徒手理学療法の現状を正しく理解し,現状と課題について共通認識を持ち,あわせてその標準化に資することを狙いとする.

徒手理学療法の歴史

著者: 砂川勇

ページ範囲:P.639 - P.644

徒手理学療法とは

 徒手理学療法(manual physical therapy)とは,理学療法の治療方法の1つで,神経筋骨格系の機能異常を治療する手技療法の総称であり,機械器具は使用せず手を用いて行う.運動療法であれば,すべて広い意味での徒手理学療法に含まれるといえる.しかし,一般的には座位・歩行練習のような運動学習を伴わない内容で,筋力増強運動や関節可動域増大運動などの運動療法の目的を持たない治療手技が徒手理学療法と理解されている.

 徒手理学療法は,今までは一般的な呼び方として「徒手療法」と呼ばれていた.それが徒手理学療法と呼ばれるようになったのは,世界理学療法連盟(World Confederation for Physical Therapy:WCPT)のサブグループである国際整形徒手療法連盟(International Federation of Orthopedic Manipulative Therapists:IFOMT)が国際整形徒手理学療法連盟(International Federation of Orthopedic Manipulative Physical Therapists:IFOMPT)へと改めたためと思われる(2008年10月).

徒手理学療法の基礎となる機能解剖学

著者: 佐藤友紀

ページ範囲:P.645 - P.651

はじめに

 これまで徒手理学療法と言えば明らかに手技が注目され,徒手理学療法=治療手技という印象が強かった.しかし,治療手技を生かすためには多くの検査(表1)を行い,検査から得られた症状・所見の解釈を基に,どのような治療が必要なのか考える過程がある.

 この症状・所見の解釈という過程に機能解剖は欠かせない.機能解剖を基に,症状・所見の解釈から病態推測を行うことで,適切な治療手技選択が可能となる(図1).

 一方,機能解剖は検査・治療手技の方法自体に直接役に立つという側面もある.例えば,頸椎と腰椎では椎間関節面が違うため,それぞれの角度の違いを考え,関節面に沿った方向に治療手技を加えることで,関節面の負担を最小限にすることができる.

 筆者は,機能解剖を出発点とすることで,病態推測から治療・管理方法,予後の説明に至る前者の過程が特に重要であると考えている.本稿では,機能解剖を理解しやすくするため,機能解剖に必要な解剖と力についてまず簡単に説明する.そして,解剖と力の組み合わせである機能解剖(動きと組織の関係)について,四肢には含まない椎間板が存在する腰椎を説明することで全体を網羅したい.さらに,機能解剖を生かした病態推測の1例を挙げ,機能解剖の重要性を強調する.

徒手理学療法における臨床推論の進め方

著者: 亀尾徹

ページ範囲:P.653 - P.659

徒手理学療法と臨床推論

 カリスマ的な「大先生」が見たこともない徒手的技術を用い,困難な症例をたちどころに改善させ,拍手喝采をあびる.一昔前までは徒手理学療法に対してこのような印象を抱く人が多かったのではないだろうか.しかし,この「大先生」は魔法使いでも手品師でもない.クライアントに望ましい変化が生じたとすれば,そこには何らかの根拠があり,それが目前のクライアントが持つ問題に対して適切に作用したと考えるのが妥当である.

 本邦の徒手理学療法を概観したとき,専門知識・技術的側面が過剰に強調される傾向にあると感じることがある.専門知識・技術が重要であることは言うまでもない.しかし,それはクライアントが持つ問題点に対して適切に選択されてはじめて価値が認められるものである.徒手理学療法は古くから評価の重要性を強調し,仮説検証的手法,あるいは帰納法を用いて治療内容を決定し,再評価によってその治療を継続するべきか,あるいは他の技術を用いるべきかを決定してきた1).このクライアント中心の問題解決手法こそが徒手理学療法の基本であり,臨床推論は古くから徒手理学療法の根底にある大きな幹のひとつである.

徒手理学療法における機能診断

著者: 板場英行

ページ範囲:P.661 - P.668

はじめに

 起立歩行,日常生活の諸動作,スポーツ・趣味活動などを目的とする身体運動の遂行には,筋,骨格,関節,靱帯の基礎的・運動器系要素が中心的役割を果たす.この筋・骨格系の機能に,身体運動を制御する神経系機能,身体に作用している静的・動的な生体力学的要因,身体運動のエネルギー源となる心肺・代謝系の補助的要素,個人の成育歴・社会歴・生活環境を背景とする情動・認知系としての心理的要素が加わる1)

 正常身体運動遂行には,身体機能システムとしての上記5要素の諸身体機能正常機能の発現と維持向上が必要である.従来,関節可動制限や運動時の疼痛などの身体運動機能低下状態は,関節機能障害(joint dysfunction:JD)や体性機能障害(somatic dysfunction:SD)と表現されてきた.身体機能システムとしての運動機能低下や異常の観点からは,運動機能障害(movement dysfunction:MD)という用語が適切である.

 運動機能障害に対する理学療法の専門性向上,理学療法技術の発展のためには,理学療法士が臨床において分析,診断,判断する理学療法診断学の学問的成熟と発展が重要な課題である.さらにそのためには,解剖学,運動学,生理学の基礎学問をもとに理学療法評価技術によって運動機能障害の要素を推定する「機能診断学」,確固たる臨床科学実践的知識を背景に的確な障害分析を図る「障害分析学」,統合分析した評価結果を考察し臨床応用に直結する「臨床判断学」の3学際領域の確立が必務である(図1).

 本稿では,徒手理学療法(manual physical therapy,manipulative physical therapy)における理学療法機能診断のあり方に加え,日常の異常運動パターン反復や不良姿勢持続の観点から対象者の運動機能障害を把握・分析する運動病理学的モデルの紹介,および腰椎可動性低下と不安定性に対する機能診断過程について述べる.

徒手理学療法の効果と限界

著者: 荒木茂

ページ範囲:P.669 - P.673

はじめに

 徒手理学療法の歴史は古く,「手で行う治療」という意味では理学療法士の行う治療のほとんどは徒手理学療法である.近年モビライゼーションとして紹介された手技は関節モビライゼーション,軟部組織モビライゼーション,神経系モビライゼーションなどに分類され,それぞれ対応する機能障害の治療として注目を浴びた.しかし,その効果を証明することは難しく,効果があるという文献もあればないという文献もあり,未だはっきりとした見解が出ているわけではない1).かつての神経生理学的アプローチと同様に新たな治療法に対する過剰な期待とその反動という歴史を繰り返しているように思える.徒手理学療法には多くの体系があり,またその技術の熟練度は個人差が大きく,ひとまとめに「徒手理学療法」として効果を論じたり,批評することはできない.

 一方,徒手理学療法の効果については多くの症例報告がなされており,その一つ一つは事実であろうし,学術的な研究論文としてその効果が証明されていようがいまいが,臨床の現場では患者や理学療法士にとって有用であるからこそ,長年にわたり淘汰を繰り返し現在の手技に進歩してきたに違いない.さらに今後も理学療法士にとって重要な治療手技として発展していくだろう.

とびら

巧詐は拙誠に如かず

著者: 小尾伸二

ページ範囲:P.635 - P.635

「山梨学院高校,初出場!全国制覇!」

 今年の山梨の正月は全国高校サッカー選手権で大いに盛り上がった.その時チームを率いたのは横森巧監督.過去,韮崎高校を5年連続ベスト4,3度の準優勝に導いた67歳の老雄であったことも県民の応援を盛大にし,全国からも注目を浴びた.山梨のスポーツ界を活気づける明るい話題であったが,毎試合テレビに映るそのベンチには理学療法士の姿があり,県内の理学療法士たちも大いに沸いた大会でもあった.

あんてな

第45回日本理学療法士協会全国学術研修大会in愛媛のご案内

著者: 定松修一

ページ範囲:P.675 - P.680

 2010年10月1日(金)・2日(土)の2日間にわたり,第45回日本理学療法士協会全国学術研修大会が愛媛県松山市で開催されます.会場は,『いで湯と城と文学のまち』松山のほぼ中央にある愛媛県県民文化会館(ひめぎんホール:図1)です.今回は,研修会・各種会議・レセプションをすべて同一会場で開催します.アクセスも,松山空港からバスで30分,松山インターチェンジから25分,松山駅から坊っちゃん列車で15分と便利な場所にあります(図2).この機会に瀬戸大橋を通っておいでになるのも如何でしょうか(図3).

 開催準備が諸事情により大幅に遅れ,ご迷惑をお掛けしております.現在,大会長を中心に,多くの県士会員の協力のもと企画・準備を進めています.

1ページ講座 医療に関連するトピックス

再生医療と幹細胞

著者: 山崎英俊

ページ範囲:P.682 - P.682

 幹細胞は自己複製能と多分化能をもつ細胞集団と定義され,初期胚(生殖細胞系譜)と体細胞系譜に大別される.前者は1981年にEvansらにより発見された胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)1)で,われわれの体を形成する外,中,内胚葉のすべての細胞系譜に分化可能で,個体形成能も併せ持ち,様々な疾患の治療に利用可能と考えられる(図)2).一方,後者は組織(成体)幹細胞とよばれ,骨髄の造血幹細胞,皮膚上皮幹細胞や脳の神経幹細胞など,様々な組織に存在することが報告されている3)

 ES細胞は分化全能性をもつ反面,初期胚を用いるため倫理,他人のES細胞を用いるため拒絶,多分化能による高腫瘍性が大きな問題とされてきた.その点,自己の組織から単離した組織(成体)幹細胞を用いることは,倫理・拒絶の問題を解決できる有効な方法と考えられる.分化能が限局的である点とES細胞のように一度に大量の細胞を準備できない点などの問題はあるが,最近の研究で組織(成体)幹細胞の中には,当該組織を超えた様々な分化能を有する多能性幹細胞も存在することが分かってきた.

理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

支持基底面

著者: 宮崎哲哉

ページ範囲:P.683 - P.683

 支持基底面(base of support:BOS)とは,体重や重力により圧を感じることができる身体表面(支持面)とその間にできる底面のことをいう.健常人の場合,重心線(line of gravity)がこの支持基底面から外れると,転倒するかそれを防ぐための戦略が取られる.ヒトは地球上に生きる限り重力の影響を必ず受けて生活せざるをえないため,支持基底面という概念が存在することとなる.

 身体の安定性には,基本的に支持基底面の広さ,支持基底面内の重心線の位置に加え,支持基底面に対する重心(center of gravity)の相対的な高さが影響を与える.一般に支持基底面に対し重心が高い位置にあれば安定性は低下し,重心が低い位置にあれば安定性は増す.幼児で考えると,一見重心は低い位置に存在するように思われるが,頭部の大きさのために相対的な重心の高さは成人に比して高くなる.その結果として転倒しやすくなるわけである.またヒトに限定すればその身体は1つの剛体ではなく,各関節からなる分節を有した複合体である.つまり単体としての重心のみで安定性は説明できず,関節可動域や筋力,感覚入力による姿勢コントロールも,支持基底面を基準として安定性を語るうえでは重要な因子となる.

初めての学会発表

2008年のリベンジ

著者: 安彦鉄平

ページ範囲:P.684 - P.685

●福岡の悲劇

 2010年5月27~29日に,岐阜にて第45回全国理学療法学術大会が開催されました.実は,私自身は2年前,福岡で開催された全国学会に参加の予定でした.しかし,5月上旬に腰部椎間板ヘルニアを発症し,激しい痛みによって立つことが困難となり,仕事をすることができず,当然福岡に行くことはできませんでした.完成していたポスターは,職場の同僚に貼り付けてもらうことになりました.参加できなかったことも非常に残念でしたが,なによりも理学療法士として自己管理ができていないことがくやしく,情けなく,そしてとにかく仕事がしたいと強く思いました.それから2年間再発することなく臨床と研究を行うことができ,ようやくこの岐阜での全国学会で発表することができました.

ひろば

私の考える理学療法定義

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.686 - P.686

 理学療法の定義は,昭和40(1965)年に「理学療法士及び作業療法士法」(以下,法律)が制定された際に,その第1章第2条に定められた.法律の第2条には,この法律における「理学療法」とは,「身体に障害のある者に対し,主としてその基本的動作能力の回復を図るため,治療体操,その他の運動を行わせ,及び電気刺激,マッサージ,温熱その他の物理的手段を加えることをいう」となっている.

 理学療法草創期の法的定義としては,作業療法士法との関係もあり,双方の定義を区分する目的やその時期の理学療法の実情に準じた内容であったといえる.しかし,法律制定以来すでに44年が経過し,理学療法のみならず医療の現状が著しく変遷している.また,国民の高齢化あるいは健康増進という観点から考えても,平成元(1989)年頃から保健・医療・福祉に関する政策は,総合的なシステムとして施行する方向に軌道修正されてきた.これは縦割行政の問題に善処するための改革で,評価されている.

入門講座 薬と理学療法・2

薬の処方・薬歴から何を読み取るか

著者: 坂井泰

ページ範囲:P.687 - P.691

はじめに

 理学療法士(PT)や作業療法士(OT)が臨床の場で治療に当たる患者は,必ずといってよいほど薬物治療を並行して行っている.そのため,患者情報として患者の病歴や薬物履歴(薬歴)を知っておくことが必要となる.病院薬剤部や薬局の薬歴簿には,患者個々についての,使用した薬の量と期間,その結果得られた効果や副作用などが生じた場合の状況,およびその際とった処置など,それらの経過を追ったものが記載されている.医師や薬剤師からの使用した薬についての情報だけでなく,患者が薬を飲むのに不都合はないか,どんな食品を食べているかなど,患者からの情報も記載されている.

 薬理作用とは薬が生体機能に及ぼす作用であり,特定の組織や臓器,機能に対して強く作用するものを選択作用と言う.薬にはいろいろな投与方法があるが,薬を投与した局所に限定して作用が現れるものを局所作用,薬が経口的に,あるいは直接血管内に投与され,循環系を介して作用が全身に現れる全身作用がある.また,治療上効果的な主作用と不利益な作用をもたらす副作用があり,これらの作用機序の基本形として,①細胞に対する作用(細胞膜,細胞内成分),②酵素に対する作用,③代謝拮抗による作用,④物理・化学的性質による作用がある1)

 このような薬の様々な作用を理解し,薬の処方内容から医師の処方意図を汲みとってリハビリテーションを注意深く実施することが大切である.本稿では,臨床現場でPTやOTが関わることの多い高血圧症,糖尿病・高脂血症,パーキンソン病,脳血管障害,関節リウマチ,変形性膝関節症について,それらの病態の特徴と代表的な処方例を挙げて治療薬の作用機序と副作用について概説する.

講座 表面筋電図の臨床応用・4

表面筋電図バイオフィードバックの臨床応用

著者: 甲田宗嗣 ,   工藤弘行 ,   平山秀和 ,   井川英明 ,   平本恵子 ,   辻下守弘

ページ範囲:P.693 - P.699

はじめに

 筋電図バイオフィードバックは,1960年代より脳卒中片麻痺患者の痙性麻痺筋などに対して用いられてきたが,機器が高価であること,簡便に利用できないなどの理由から,現在に至るまで広く普及しているとは言えない.しかし,近年の技術革新に伴い比較的低価格の機器が開発され,白衣のポケットに入るような小さいものも開発されている.また,増幅アンプ内蔵の電極の開発やリアルタイムでのノイズ除去処理技術の向上などから,皮膚処理をしなくても簡便に実用可能になってきている.

 本稿では,筋電図バイオフィードバックによる介入の特徴,機器の原理,基本的な使用方法を概説し,症例を通して具体的な使用例を提示する.また,筋電図バイオフィードバックに関する無作為化比較対照試験やメタ分析など,比較的最近の報告を紹介する.

理学療法臨床のコツ・8

基本動作練習のコツ―歩行補助具選択のコツ③

著者: 舌間秀雄 ,   木村美子

ページ範囲:P.708 - P.710

はじめに

 下肢に障害を持つ患者や下肢筋力の低下した高齢者において,歩行補助具を使用することで歩行レベルが改善し,QOL(quality of life)の向上へと繋がることがある.歩行に障害のある者にとって,歩行補助具の選択は重要となる.ここでは,介助歩行における人的介助と歩行補助具(物的介助)との関係についての解説および歩行補助具選択のコツを述べる.

臨床実習サブノート 臨床実習に不可欠な基本的技能・5

対象者・職員とのコミュニケーション

著者: 青山誠

ページ範囲:P.711 - P.716

はじめに

 臨床実習では,学生のコミュニケーション能力の拙劣さが大きな問題となることがあり,程度によっては実習が中止になってしまうこともある.

 実習施設の多くが「基本的なコミュニケーション能力は見学実習や評価実習の中ですでに獲得されている」と考えている.理学療法士としての基本的な資質に問題がある学生を,学校側が総合実習に送り出すはずがない,という認識も存在する.

 しかし,「コミュニケーション能力」という言葉は,どの実習施設・学校でも同じニュアンスで使用されているわけではない.明確な定義や共通の評価指標などはなく,その言葉のうちに求めるものが「話し言葉の使い方」にとどまる施設もあれば,「対象者との信頼関係の構築」まで求める施設もある.

 一口にコミュニケーション能力と言っても見学実習で求められる能力,評価実習で求められる能力,総合実習で求められる能力はそれぞれ異なり,相手が対象者なのか指導者なのかによっても変わってくる.まして「うつ」「認知症」「せん妄」など,様々な臨床症状を有する対象者と接する場合,医療従事者として求められる対応も様々に異なるため,事前に十分な知識を得ておく必要もあり,より高度なコミュニケーション能力が求められる.

 それでは,実習にあたって必要な「コミュニケーション能力」とはどのようなもので,何を心がければよいのだろう.

 本稿では,見学・評価・総合実習各々で求められるコミュニケーション能力についておおまかに紹介し,その主なものとして「言葉使い」「傾聴」「文書能力」について,実習で求められるレベルを提示した.また,「対象者」「実習指導者」別に実践的な接し方についてより具体的な解説を加えた.最後に,実習指導者向けに,学生のコミュニケーション能力の評価にあたって実際に当院で使用している方法を紹介した.問題点を確認し,ぜひ,各施設で学生の評価方法を検討してほしい.

短報

高齢者におけるTrail Making Test施行時の脳循環動態について

著者: 村田伸 ,   村田潤 ,   堀江淳 ,   溝田勝彦

ページ範囲:P.717 - P.720

要旨:本研究は,要介護高齢者と非介護高齢者を対象にTrail Making Test(TMT)施行中における前頭葉の活動について,近赤外線分光法による脳内血液酸素動態〔酸素化ヘモグロビン(HbO2)の変化〕を測定し,検討した.その結果,良好な注意機能が示された非介護高齢者では,TMT開始直後からHbO2の有意な上昇が認められ,開始7秒後にピークを迎えた後もHbO2の上昇はTMT終了時まで維持された.一方,注意機能が不良であった要介護高齢者では,TMT施行中の有意なHbO2上昇は認められなかった.

報告

伸張刺激負荷量の相違によるラットヒラメ筋の廃用性筋萎縮抑制効果への影響―筋線維タイプ別組織化学的検討

著者: 木村繁文 ,   山崎俊明 ,   西川正志

ページ範囲:P.721 - P.727

要旨:本研究の目的は,体重をもとに負荷量を規定し,伸張刺激負荷量の相違と筋線維タイプ別の萎縮抑制効果,および筋損傷発生頻度の関係を検討することである.8週齡のWistar系雄ラット37匹のヒラメ筋を対象とし,これらを対照群(n=9),2週間の後肢懸垂にて廃用性筋萎縮を作製する群(HS群,n=8),2週間の後肢懸垂期間中にラットの体重相当の負荷量にて伸張運動を実施する群(A群,n=11)と,体重の1/3相当の負荷量にて伸張運動を実施する群(B群,n=9)の4群に分けた.伸張運動は,膝関節を90°に固定し,規定した負荷量にて足関節のみを背屈する装置を作製し,1日20分,週5日行った.その結果,伸張運動を実施した群では筋線維横断面積において完全ではないが萎縮抑制効果が認められ,B群よりもA群のほうがその効果は大きかった.また,B群においてはタイプⅠ線維にのみ萎縮抑制効果が認められた.壊死線維発生頻度においてはA群のみ対照群と比較し有意に高値を示した.以上より,萎縮抑制効果と筋損傷の発生頻度は伸張刺激負荷量に依存すること,さらに筋線維タイプによる伸張刺激への反応の相違が推察された.

書評

―伊藤利之・江藤文夫(編)中村春基・宮永敬市(編集協力)―「新版 日常生活活動(ADL)―評価と支援の実際―」

著者: 隆島研吾

ページ範囲:P.701 - P.701

 ADL(日常生活活動・動作)は,リハビリテーション医療の中枢をなすものとして,QOL向上を最終目標とする現在でもその価値が下ることはない.

 本書は,土屋弘吉先生,大川嗣雄先生,今田拓先生というわが国リハビリテーション医療の第一人者の先生方による編集で,1978年(昭和53年)に「わが国におけるADLに関する最初の単行本として」(初版の序より)刊行され,第2版は1982年(昭和57年),第3版は1992年(平成4年)と版を重ね,第3版は20刷まで増刷が重ねられてきている名著である.内容も,ADLの概念・範囲・意義をはじめ,評価,運動学と障害学,生活関連活動,自助具,リハ機器,コミュニケーション,障害別ADLの実際,在宅障害者のADLなど,およそADLの全体像が網羅されていて,臨床で,また教科書としてその存在価値は大きいものであった.しかし第3版改訂から18年が経過し,編者がすべて故人になられた今,新たに伊藤利之先生,江藤文夫先生という現在のリーダーである先生方にバトンタッチされ,新版としてリニューアルされたものである.章立ては前版を踏襲しながらも執筆者がほぼ一新され,最新精鋭の先生方による内容となっている.

―Mark A. Jones,Darren A. Rivett(編著)藤縄 理,亀尾 徹(監訳)―「マニュアルセラピーに対するクリニカルリーズニングのすべて」

著者: 内山靖

ページ範囲:P.703 - P.703

 このたび,Jones MA,Rivett DA氏が編著され,2004年に英国で出版された“Clinical Reasoning for Manual Therapists”の日本語版として,標記書籍が発刊されました.

 原著は,Jones MA,Rivett DAに加え,Butler D,Higgs J,Jull G,Kaltenborn F,Maitland G,McKenzie R氏など,徒手理学療法を専門としない日本の理学療法士でも身近に感じられる豪華な執筆陣です.このような歴史的な名著となりえる書籍をいち早く理解し,ともすると労力がかかることなどから敬遠されがちな翻訳を決意されたことに敬意を表するものです.日本語の仕上がりが500ページ弱にのぼる大著でありながら,4名の理学療法士によって統一感の高いわかりやすい日本語となっています.

―嶋田智明,大峯三郎,神先秀人(編)―「実践MOOK 理学療法プラクティス リスク管理 その解釈と統合~積極的な理学療法を目指して」

著者: 井上由里

ページ範囲:P.705 - P.705

 超高齢化社会への突入と,医療技術の進歩はリハビリテーション医療に大きな変容をもたらした.多様化した対象と要求から理学療法士の専門性がますます脚光を浴びている.その一方,日常の臨床で,その変化に翻弄されながら,急増する新人指導に四苦八苦する理学療法士にはオールマイティーな能力が求められている.

 本書の最大の特徴は理学療法士に必要とされるリスク管理を集中治療室から訪問まで日々の臨床場面に即して,オールマイティーに構成されている点である.その魅力はリスク管理を完全マニュアル化していないことである.評価を基に何がおきているか考え,判断する能力を持てるよう導きがある.基本知識の整理と応用への導きを欠かさない反面,重要ポイントは臨床ですぐに活用できるよう簡易的にマニュアル化されている.

―山口武典(監修),今井 保,峰松一夫(編)―「DVDで学ぶ脳血管障害の理学療法テクニック―病巣病型別アプローチがわかる動画73―」

著者: 林義孝

ページ範囲:P.707 - P.707

 本書を手にとり,この分野において臨床的感性を備え,信頼性と実践的内容に満ちあふれた,他に類を見ない画期的な専門書が,やっと世に出てきたとの思いがします.

 わが国に8施設ある国立高度専門医療センターのひとつである国立循環器病センター(現,国立循環器病研究センター)は,1977年の設置以来,脳卒中の治療と研究で世界をリードしてきました.その第一線で活躍する脳卒中専門医師とリハビリテーションを担う理学療法士の協同作業によって,長年にわたる膨大な臨床症例の蓄積からなる科学的エビデンスに基づき,いま注目を集める「病型・病巣部位の違いによる特徴的な症候に対応する理学療法」の実際が,責任病巣部位の画像写真による説明と組み合わされ,実にわかりやすく解説されている構成は,読む者の理解を飛躍的に促進してくれます.

--------------------

文献抄録

ページ範囲:P.728 - P.729

編集後記

著者: 内山靖

ページ範囲:P.734 - P.734

 2010年8月号をお届けします.

 理学療法士の臨床能力には,専門職としての誓い(profess)に基づく真摯な態度に加えて,臨床推論(clinical reasoning)力とともに確かな技術が不可欠です.

 学術研修大会や各講習会などでは,いわゆる理論的な座学に比べて理学療法士の巧みな技を披露するような研修内容に圧倒的な人気があります.一方で,1つの手技を習得する過程で,その特定の手技をすべての対象者に適用しようとする傾向が指摘されてきました.また,解剖や生理学のトピックスに続いて,突如,治療後の様子が映し出されるといった研修会のあり方に懐疑的な立場を取る指導的な立場の教職員も少なくありませんでした.これらの技術が特殊テクニックと呼ばれ,関係資料は門外不出とされた時代はそれほど昔の話ではありません.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?