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雑誌目次

雑誌文献

理学療法ジャーナル45巻10号

2011年10月発行

雑誌目次

特集 認知症と理学療法

EOI(essences of the issue)

ページ範囲:P.819 - P.819

 年々増加する要介護高齢者.そのうち約半数が認知症を有するとされる報告があり,認知症は理学療法を実施する上で避けることのできない疾患となっている.近年は軽度認知障害(MCI)の研究が進み,介護予防の観点から地域での取り組みも盛んになり,運動効果に関する報告も増えている.しかし,認知症は複雑な症状を呈するため,理学療法の提供場面では認知症の症状に戸惑うことが多いと思われる.

 今回は,理学療法士が認知症診断や治療,ケアなどに関する知識を高め,理学療法の提供場面で活用することできるようこの特集を企画した.

認知症の診断と治療

著者: 小阪憲司

ページ範囲:P.823 - P.829

はじめに

 現在わが国の認知症患者は約270万人と推計され1),人口の高齢化が進むにつれ,ますます認知症患者が増加することは間違いない.認知症の原因は多彩であるが,高齢者では脳の老化と密接に関連するアルツハイマー型認知症,レビー小体型認知症,脳血管性認知症がそれぞれ約50%,20%,15%と,認知症のほとんどを占め,これらは三大認知症と呼ばれる2).その他にも,ピック病を含む前頭側頭葉変性症やハンチントン病などの変性性認知症に加えて,種々の脳炎,脳腫瘍,脳外傷,代謝性・中毒性脳障害などによっても認知症が起こることもある.それらすべてについて述べるだけの紙数はないので,筆者の認知症の分類3)を表1に挙げるのみにして,ここでは三大認知症2)を中心に述べることにする.

認知症と理学療法

著者: 山上徹也 ,   山口晴保

ページ範囲:P.831 - P.836

はじめに

 理学療法士(以下,PT)にとって認知症は,リハビリテーション(以下,リハ)の進行を遅らせる阻害因子と捉えられてきた.その後,超高齢化社会を迎え,介護保険施設の利用者の9割が認知症を抱えると言われる現在,認知症を合併していても効果的な理学療法の提供が求められるようになり,さらには2006年より認知症短期集中リハ実施加算が創設されるなど,理学療法による認知症の治療が始まっている.今回,①認知症に対する運動の効果を再考し,②認知症高齢者に対する効果的な理学療法の提供方法を提示する.そして③日本理学療法士協会が行った認知症高齢者の生活実態調査結果に基づき,認知症高齢者に理学療法を実施する上での要点を述べる.

認知症高齢者のADLとケア

著者: 諏訪さゆり ,   島村敦子 ,   飯田貴映子

ページ範囲:P.837 - P.843

認知症高齢者に出現するさまざまな認知機能障害

 世界保健機関(WHO)の国際疾病分類において,認知症は「脳疾患による症候群であり,通常は慢性あるいは進行性で,記憶,思考,見当識,理解,計算,学習能力,言語,判断を含む多数の高次皮質機能障害を示す.意識障害はない.認知障害は通常,情動の制御,社会行動あるいは動機づけの低下を伴うが,場合によってはそれらが先行することもある.この症候群はアルツハイマー病,脳血管疾患,そして,一次性あるいは二次性に脳を障害する他の病態で出現する」と定義されている1)

 認知症の原因疾患として様々なものがあるが,非可逆性の認知症の中でも多数の患者が罹患しているのは,アルツハイマー型認知症,脳血管性認知症,レビー小体型認知症である.これらは三大認知症と言われ,認知症の原因疾患によって病態と障害される部位が異なるので,三大認知症では症状とその経過に表1に示した特徴が現れる.

理学療法の実際

1.介護老人保健施設における重度認知症の理学療法

著者: 村井優子 ,   西田宗幹 ,   山田悠 ,   吉田実加 ,   福岡由規 ,   大熊真平 ,   河口未季 ,   金澤江吏子

ページ範囲:P.845 - P.850

はじめに

 近年高齢者人口の増加に伴い,理学療法の対象においても高齢化が進んでいるのは言うまでもない.その中で介護老人保健施設(以下,老健)の入所者においても身体・認知機能障害の重度化が目立っており,認知症を主疾患とする者が増加し,特に重度認知症者への対応はどの施設においても大きな問題となっている.

 また,老健では入所者100名に対して理学療法士(以下,PT)が1名在籍することで施設基準を満たすとされ,そのため老健におけるPT 1人当たりの担当数は多く,入所者1人に関われる時間は限られたものである.その厳しい状況の中で,重度認知症者に対して身体機能および能力の維持・改善へ繋げるためにはどのようなアプローチ方法が良いのか,当施設での取り組みから検討していきたい.

2.認知症を伴う大腿骨頸部骨折症例の理学療法

著者: 名古屋譲 ,   佐藤庄吾

ページ範囲:P.851 - P.856

はじめに

 認知症の人への支援がうまくいかない場合,ケアする側が認知症という病気の症状をあまり理解していないことが原因であることが多く,治療やケアの難しさは認知症自体を理解することの難しさに起因する1).本稿では認知症者への基本的な対応方法,理学療法実施上のポイントを提示するとともに,大腿骨頸部骨折を合併した場合の具体的な治療法,症例についても述べる.

とびら

「客観的な自己評価」

著者: 河合玄太

ページ範囲:P.817 - P.817

 エコや健康志向から自転車が人気となり,昔に比べ自転車で走っている人を多く見かけるようになった.私自身も普段から自転車に乗っており,競技としての自転車が生活の一部となっている.

 「臥薪嘗胆」と言う言葉が中国の故事成語にある.成功するために長い間苦労に耐えるという意味をもつ.限られた時間で,どうしたら競技レベルの向上が図れるのか? 試行錯誤の中,臥薪嘗胆の思いで練習を行っていると,自転車競技と理学療法士の間につながりを感じることがある.

特別寄稿

理学療法士の立場から観たケアに関する哲学的考察①―あなたのケアの根源はどこにありますか

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.857 - P.860

はじめに

 現在,大阪大学大学院文学部研究科臨床哲学専攻の浜渦辰二教授らが中心となり,「北欧のケア実地調査に基づく理論的基礎と哲学的背景の研究」が実施されている.本研究のプロジェクトグループは,臨床哲学,文化人類学,社会福祉学,理学療法学,作業療法学,看護学分野のメンバー10人で構成されている.筆者は本研究プロジェクトのメンバーではないが,本研究会の勉強会に招聘され,標記のテーマで講演した.本論は,その内容を記述したものである.

 本論のタイトルを理学療法士の立場からとしているが,理学療法士は医療職,medical professionsの1つであることを十分に認識しながらも,筆者は42年間(臨床10年,教育32年)にわたり理学療法士としての立場をベースにして,対象者のcureとCAREに関与してきたからである.また,哲学的考察としたのは,本研究プロジェクトの意図に沿うような内容になればと願ったことと,筆者自身,これまで理学療法およびリハビリテーション,そしてそれらの背景にあるcureとCAREの本質についても倫理・哲学的に考察してきたことによる.

学会印象記

―第45回日本作業療法学会―意味のある作業の実現

著者: 須永康代

ページ範囲:P.861 - P.862

 6月24~26日の3日間,大橋秀行学会長(埼玉県立大学)のもと,第45回日本作業療法学会が開催された.会場となったさいたま市の大宮ソニックシティは,最寄りの大宮駅西口から徒歩3分とアクセスしやすく,多数の参加者が列をなして会場へと向かっていた.駅から会場までは看板を持った学会スタッフの挨拶と案内の声が響いており,学会が賑わっていることがうかがえた.

 今回は,東日本大震災後の学会ということで開催自体も危ぶまれていたようだが,学会には3日間で4,500名以上の参加者が来場し,公開講座には1,500名以上の参加があった.震災の影響で,国際シンポジウム「高齢者社会における作業療法の役割」は,海外からのシンポジストの来日が困難となり,残念ながら中止となってしまったが,来場者数からも分かるように本学会は盛会であった.なかには,災害発生時の非常事態を考慮し,入場制限をせざるを得ない会場もあったようだ.

―16th International WCPT Congress―World Physical Therapy 2011―4年に一度のWCPT学会・総会に参加して

著者: 西山花生里

ページ範囲:P.886 - P.888

 2011年6月20日から23日にかけて,世界理学療法連盟(以下,WCPT)が主催する4年に1度の学会「World Physical Therapy 2011」がオランダのアムステルダムで開催されました.また,学会に先立ってアジア西太平洋地区(Asia Western Pacific Region:以下,AWP)の総会,そしてWCPT総会も開催されました.

 今回私は,日本理学療法士協会の内山靖副会長と,高橋哲也国際部長とともに,総会・学会に参加させていただきました.海外の理学療法士協会の方々との交流を中心に,学会の様子を少しでもお伝えできれば幸いです.

1ページ講座 義肢装具

SOMI型頸椎装具

著者: 井上佳和

ページ範囲:P.863 - P.863

●その特徴と適応

 SOMI型頸椎装具とは,USMC社によってオリジナル版が製作された頸椎装具である(図).SOMIという名称はsternal occipital mandibular immobilizerの頭文字をとったものである.直訳すると「胸骨・後頭骨・下顎(の部分で)固定するもの」ということになるが,まさにそれはSOMI型頸椎装具のデザインを表したものといえる.

 SOMI型頸椎装具の構成は下顎支えと後頭支え,胸骨プレート,支柱,締紐よりなる.下顎支えと後頭支えで頭部を固定している.支柱は,前方の下顎支えからは1本,後方の後頭支えからは2本が体幹側に向かって伸びるが,他の支柱付き頸椎装具と大きく異なる点は後方の支柱が前方に向かって伸びている点である.結果,3本の支柱はすべて前胸部に集まり,胸骨プレートに固定される.後頭部を支える支柱が前方に向かうことによって,装着者の背部には本来,後方支柱を固定するための硬性部品がなくなる.これにより,臥床位で装具の装着を可能にしている.本装具は規格品であるが,支柱の長さ調節が可能であり,アライメントの調節が比較的容易である.この他,本装具の特徴としてはモールド式と比較し通気性に優れていることが挙げられる.

理学療法関連用語~正しい意味がわかりますか?

トリガーポイント(ブロック)

著者: 肥田朋子

ページ範囲:P.865 - P.865

●筋・筋膜性トリガーポイント

 筋・筋膜性トリガーポイント(以下,TP)とは,骨格筋内で硬いバンド様あるいは結節様に触知できる筋硬結内に存在している非常に過敏な点であり,圧痛があり,特徴的な関連痛および自律神経症状を引き起こすと定義されている1).すなわち,関連痛などが生じる引き金(トリガー)となる点(ポイント)のことである.ここでいう関連痛とは,筋などの圧迫によって圧迫部とは別の少し離れた領域に生じる痛みを指すが,Kellgren2)は,ヒトの様々な筋に高張食塩水を注入すると,注入局所以外の部位に関連痛が生じ,その部位は,注入筋によって特有のパターンを示すことを報告している.

 Travellら1)は,TPの触知によって生じる関連痛の領域は,患者の疼痛や異常感覚を訴える領域に一致することを多くの臨床データから明らかにし,筋・筋膜痛症候群の診断と治療に用いた.すなわち患者の訴える痛みの発生は,必ずしもその疼痛部位局所に問題があるのではなく,疼痛部位に痛みが生じるトリガーとなるポイントが別にあり,そのTP部に原因があることを示している.そのため,筋・筋膜痛症候群を疑う場合には,筋硬結とTPの触診が重要である.硬結筋には,痛みによる筋力低下や関節可動域制限が認められ,TPの圧迫により生じる特徴的な関連痛パターンは,患者の痛みを再現する.さらにはTPの圧迫によって,異常発汗などの自律神経症状も出現する.

理学療法臨床のコツ・20

日常生活で心負荷を軽減するコツ①

著者: 清水浩介 ,   奈須田鎮雄

ページ範囲:P.866 - P.868

はじめに

 本稿では心疾患患者を主な対象とした「心負荷軽減のコツ」について述べる.心疾患患者では過度の心負荷は避けるべきだが,必要以上の活動制限は運動能力を低下させるだけでなく病態を悪化させることもある.そのため,「心負荷軽減のコツ」は患者状態に合わせて適用することが重要となる.

講座 理学療法スタンダード・2

片麻痺歩行障害の理学療法スタンダード

著者: 髙見彰淑

ページ範囲:P.869 - P.875

はじめに

 中枢神経機構である脳の損傷は,運動系,感覚系,認知・知覚系など運動制御に大きく影響する.様々な運動課題に対して,周囲の環境に適応し動作を遂行する際,そのシステムが十分発揮できないことを示す1,2).脳卒中発症により生じた歩行障害に対する治療戦略としては,これらを勘案したヒトの行動と環境適応を考慮した「課題指向型アプローチ」が代表的だが,運動制御理論や装具・機器の使用法をはじめ数多くのセオリーとその介入方法が存在し,適用には十分な配慮が必要である.特に,発症からの時期を考慮すべきであり,治療介入もそうだが,評価指標結果の解釈にも注意を要する.

 精度の高い測定,エビデンスのある先行研究などを参考に,様々な場面を想定して,個体のもつ特性,環境も含め,統合的な解釈にて臨床的意志決定を行うことが大切である3,4)

 ただし,どのような介入方法であっても,リスク管理を徹底して安全性の配慮のもと行われるべきであることは言うまでもない5~8).「リスク管理を十分行い,発症早期から積極的に早期座位,立位,装具を用いた早期歩行練習などを行うこと」が強く勧められると,ガイドラインで紹介されている9)

 今回は,脳卒中歩行障害の理学療法スタンダードということで,この脳卒中ガイドライン20099)を中心に,システマティックレビューなどを参考に,歩行障害に関する測定・評価指標および介入方法について紹介する.

入門講座 理学療法と「てこ」・2

身体にみられる「てこ」

著者: 松原貴子

ページ範囲:P.877 - P.882

てことトルクの基礎知識

 てこは,支点に支えられた棒からなる単純な器具で,シーソーが典型例である.てこは,小さい力で大きなものを動かすことができ,また小さな運動を大きな運動に変えることができる.したがって,てこは簡単な原理であるけれども,日常生活だけでなく生体内においても非常に重要な役割を果たしている.さらに,てこは加わった力を回転力(モーメントmoment,またはトルクtorque)に変換することも可能である.つまり,支点まわりに働く回転する力がモーメントまたはトルク(以下,トルクで統一)ということになる(図1).関節の回転中心を支点に,骨をてこの棒に,筋の発揮する力が作用する点(筋の骨への付着部)を力点,外力や重り(重力)が加わる点を作用点に見立てると,筋骨格系はてこの原理に従って運動を生じさせることがわかる.

 トルクには2種類あり,外力や重りなど外部重量(重力)によって生み出される回転力を外部トルク(external torque),それに対抗するように生体内部(筋)で生み出される回転力を内部トルク(internal torque)と言う.関節トルクとは内部トルクのことを指し,筋や腱,靱帯,骨,皮膚など関節の動きに抵抗性を与えるもののうち,特に関節運動に直接かかわる筋と腱により生み出されるトルクを関節トルクと呼んでいる.

臨床実習サブノート スーパーバイザーの視点・論点―患者さんに触れるまで・7

パーキンソン病

著者: 大森圭貢

ページ範囲:P.889 - P.896

ステップ1.パーキンソン病の患者さんを診るうえでの理学療法士の役割と心構え

 パーキンソン病(Parkinson's disease:以下,PD)の患者さんを担当する際の理学療法士の役割として最も重要なことは,他の疾患に対する理学療法と同様に,患者さんの機能・能力障害への対応を行い,患者さんが直面している生活の困難を軽減させたり,安全な日常生活を獲得させたりすることである.しかし多くの症状を呈するPDのすべての症状に対応できるわけではない.このため,評価を行い,一時的な機能障害,二次的な機能障害,これらが複合した機能障害と活動制限を識別し,理学療法による介入が可能な部分を明確にする必要がある1).また,症状が変動し,長期的には進行する,という特徴ももつため,理学療法場面での評価が生活場面での能力を反映できない,さらには現状にのみ着目した対応では,行った対応の効果が短期間で減少してしまうという可能性がある.このため,心構えとしては①生活場面で活かすための対応を行う,②今後出現が予想される障害に対しての予防的な視点をもつことが必要である.

 学生がPDの患者さんを担当するときの実習期間がおおむね2か月とすると,学生の到達目標は,①理学療法場面での機能・能力の評価,介入が行える,②生活場面で必要な動作を把握,実施,評価し,必要に応じて環境整備を考えることができる,の2つになるのではないだろうか.さらに,実習期間中に退院時期が重なるようならば,③安全な生活を継続するためや,機能や能力の低下が生じる時期を遅らせるために,環境整備や安全に行える自主練習の指導を患者や家族に行う,ということが目標に加わると考えられる.

報告

健常若年者における利き足の左右差が片足立ちに与える影響

著者: 佐藤健一 ,   小林量作 ,   計良圭一 ,   久保雅義

ページ範囲:P.897 - P.901

要旨:本研究の目的は,健常若年者を対象に踏切足(高跳びの踏切足),蹴り足(ボールを蹴る足)の利き足による違いが片足立ち時間に影響を及ぼすかどうかを検討することである.開眼・閉眼片足立ち時間の測定およびアンケートを学生588名に実施し,このうち骨・関節・筋の既往歴のある者を除いた463名を分析の対象とした.利き足に関しては,踏切足と蹴り足の左右どちらであるかを質問して,この結果と開眼・閉眼片足立ち時間および時間ロンベルグ率(閉眼片足立ち時間を開眼片足立ち時間で除す)を比較した.他に片足立ちに関連する因子として「めまい」「車酔い」「運動習慣」の有無を質問として挙げた.この結果,踏切足が左の者は踏切足が右の者より閉眼片足立ち時間が長く,時間ロンベルグ率においても有意に優れていたが,その効果量は小さかった.若年者の片足立ち時間の測定では,片足立ちに影響する要因のひとつとして踏切足および蹴り足を調査項目として把握しておくことが望ましい.

お知らせ

第1回がんのリハビリテーション懇話会/第10回日本フットケア学会年次学術集会/第18回新しい片麻痺への促通手技(川平法)実技講習会(福岡市)/第38回日本脳性麻痺研究会/第17回スポーツ傷害フォーラム/スポーツ選手のためのリハビリテーション研究会 第32回ワークショップ/第8回看護師・コメディカルのためのFIM講習会

ページ範囲:P.844 - P.902

第1回がんのリハビリテーション懇話会

趣 旨:癌治療技術の向上とともに生命予後が改善し,患者さんのQOL向上が期待されるようになってきています.QOLやADLの改善のためにはリハは不可欠のものであります.しかし癌のリハは歴史の浅いものであり,治療の適応や治療内容など標準的なものは確立されていないのが現状で,医療現場で個別に判断されているものと推察されます.さらにそのエビデンス形成のために必要なディスカッションの機会は十分とは言えません.本研究会は,「厚生労働科学研究費補助金(第3次対がん総合戦略研究事業)がんのリハガイドライン作成のためのシステム構築に関する研究」の一環として,がんのリハの普及と今後の臨床や研究の質の向上を目指した意見交換の場を提供する目的で企画されました.がんのリハに興味をもたれているすべての医療職の方を対象としています.多数の方のご参加をお待ちしております.

日 時:2012年1月14日(土)13時~18時30分

会 場:大阪医科大学

書評

―嶋田智明,大峯三郎,山岸茂則(編)―「実践MOOK・理学療法プラクティス 運動連鎖~リンクする身体」

著者: 長倉裕二

ページ範囲:P.884 - P.884

 運動連鎖って? 聞き覚えのない方でもopen kinetic chain(OKC)やclosed kinetic chain(CKC)の考え方はご存じだと思います.人間が日常の生活を営む上では様々な動作が複合的に行われ,どの動作ひとつ取っても連鎖的な運動を伴わない活動は皆無と言えます.体の各部位は単体ではなく様々な組織,機構によって繋がれています.本書では構造障害を運動連鎖の破綻と捉えて,身体全体に波及していく影響に対して理学療法介入を行っていく,治療の一端を担うことをイメージさせてくれます.運動連鎖というと身体各部の動きを詳細に観察するというイメージがあり,そのためには装置を使った解析を行うことが不可欠であるような感覚もありますが,この本書の中では実際にセラピストが目の前にいる人の動作を観察し,筋や関節を触診して,種々の動作を行っていく中でそのメカニズムを解析する方法が示されています.そして解析に必要な運動連鎖の概念を予め解説し,種々の動作や障害に当てはめて運動イメージを構築していけるようになっています.健常の動作から疾患に至るまでいくつかの考え方を提示されており,臨床の中で実際に確認する方法もわかりやすく解説されています.運動連鎖実践編では疾患からみた運動障害の診方を細かく記載されており,実際に起こり得る現象を新人セラピストや初めての障害を担当するセラピストに対してもイメージしやすく示されています.特に用いられている図に関してはイラストや写真,スケルトンモデルを用いて,骨や筋の動き,運動方向,抵抗,痛み,ストレスの部位など事細かく記されているため,実際の介入の中で再現しやすいようになっています.患者指導の具体的な方法やセルフエクササイズの方法なども記されており,患者のニーズにも応えられるものになっています.また,患者指導など理学療法介入する中で日常的に利用する用語や,理学療法では一般的に利用されていない用語など様々な用語に対して理学療法士が利用しやすい説明が記され,臨床での患者へのオリエンテーションにも活用しやすいと思います.その他,学生指導する場面においても具体的な評価方法や目的,見落としやすい現象も示されているため動作障害を理解するための運動器系テキストとしても利用しやすいでしょう.その他,運動器系疾患だけでなく神経系疾患の障害に対しても記されているため,幅広い疾患への考え方もできるようになっています.現在,研究会も立ち上がって今後さらに理学療法においても周知されていくことは間違いなく,理学療法の効果にも影響を与えられる一冊となるのではないでしょうか.

―奈良 勲(監),松尾善美(編)―「歩行を診る」

著者: 新小田幸一

ページ範囲:P.902 - P.902

 まず本書については,総論を2章,各論を29章という既刊書にない構成になっている大きな特徴を挙げる必要があろう.すなわち,総論を全体の1割未満のページ数にとどめ,残りのすべてを各論が占める配分としている.臨床実践にバッサリと切り込もうとする編集方針が窺える.これにより,臨床で行われている「歩行の診かた」が,多くの疾患で観察される歩行障害を引き起こす要因を探り出すあらゆる評価法の中に,有機的に述べられている.これらの評価は,STEP 1~3(章によりさらにSTEP数が増える)と進められ,最後に歩行障害に対する理学療法介入法の詳細へと繋げる記述とされている.このほかにも高齢者を扱った第25章のように,移動能力低下の有無と転倒リスクの有無を組み合わせて,歩行練習の対象者の障害像を絞り込み,様々な障害像に対応できるような理学療法の治療指針を示している点は特に有り難い.これらは,初学者が治療の枠組・指針を考える際に,デッドロックの状態とならないよう配慮しているものと思われ,既刊書にみられない特徴として価値ある踏み込み方である.

 とかく敬遠されがちな力学解説にならざるを得ないバイオメカニクスに関する内容は,関節モーメントを中心に適宜,図を用いて丁寧に解説されているので理解しやすいと思われる.このほか,それぞれの要所に“MEMO”がソートされたワンポイントレッスンが取り上げられ,知識を深めるために引用された文献以外の推薦図書・論文が提示されていることも,初学者にとっては足下を照らす明かりとなるはずである.そして,述べられている評価・治療および治療効果の判定は,三次元動作解析装置や床反力計など高額な機器を除き,ほとんどの医療施設に具備されている物品で実施可能なものばかりであり,手の届かない評価手法はないと言ってよい.

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「作業療法ジャーナル」のお知らせ

ページ範囲:P.860 - P.860

文献抄録

ページ範囲:P.904 - P.905

編集後記

著者: 金谷さとみ

ページ範囲:P.908 - P.908

 認知症患者を取り巻く状況は短期間に大きく変化しています.先日,認知症の新薬の説明会に参加する機会があり,会場には大勢の開業医が参加し非常に盛況でした.今後,認知症の治療は開業医レベルでもさらに積極的に行われるようになるであろうと感じた説明会でした.

 今月号の企画では,レビー小体型認知症を発見し,世界でも知られる小阪憲司先生に認知症全般の正しい理解について述べていただくことができました.諏訪先生には看護の視点から日常生活上の留意点などについて細やかに述べていただきました.理学療法士の山上先生には運動効果に着目して理学療法を実施する上での要点について,名古屋先生には大腿骨頸部骨折患者について,村井先生には介護老人保健施設入所者について述べていただきました.理学療法士の先生方が,軽度ばかりでなく重度認知症患者にも真摯に取り組んでいるのが良く分かります.

読者の声募集

ページ範囲:P. - P.

基本情報

理学療法ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1359

印刷版ISSN 0915-0552

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