icon fsr

文献詳細

雑誌文献

理学療法ジャーナル45巻12号

2011年12月発行

文献概要

プログレス

ニューロモジュレーションと人間復活

著者: 半田康延12

所属機関: 1東北大学医学系研究科発生発達神経科学分野 2仙台保健福祉専門学校

ページ範囲:P.1041 - P.1048

文献購入ページに移動
はじめに

 Neuromodulation(ニューロモジュレーション)は,近年世界的に急速に発達してきている治療技術である.これは,電気的,化学的,物理的刺激などによって障害された神経回路機能の回復を行おうとするものである.わが国でも,厚生労働省・次世代医療機器事業の第6分野にニューロモジュレーション分野が盛り込まれている.

 このニューロモジュレーションの対象は,中枢神経,末梢神経,自律神経における神経回路網の障害およびそれら神経系で支配されるあらゆる器官・臓器の機能障害と極めて広い.そして,ニューロモジュレーションは本来非破壊的でreversible,かつ調整可能な治療手技であり,即効的で副作用も少ない安全性の高い技術であることもその特徴として挙げられる.

 欧米では埋め込み方式の電気刺激装置の開発と実用化が盛んに行われている.これは脊髄,脳深部その他臓器への直接的アプローチが可能であることによるものである.また,体表面から刺激可能な末梢神経を対象としたものでも,刺激の確実性,再現性の観点と不快感,疼痛がほとんどないことから,埋め込み装置が主流を占めている.しかし,わが国では埋め込み装置の開発と実用化が極めて困難であり,欧米製品に依存しているのが現状である.

 体表面への電気刺激は,皮膚に分布する感覚受容器,体性感覚神経,皮下に存在する末梢体性神経や自律神経などを興奮させ,その神経活動は中枢神経(脊髄・脳)に入力される.このことは,末梢神経にリンクした中枢神経系の機能障害に対し適切な体表面刺激を与えることによりニューロモジュレーション効果を期待できることを示している.実際にわれわれは,仙骨表面電気刺激により尿失禁,頻尿,前立腺肥大に伴う排尿障害1),機能性(原発性)月経困難症への治療効果2)を,四肢筋を支配する運動神経の刺激により不全麻痺肢の随意性の向上,痙性の軽減効果2)を,また頸部の舌骨上部刺激により嚥下障害への治療効果,左頸部迷走神経直上部刺激でてんかんへの治療効果を確認している.

 他方,筆者らは足こぎ車いすを片麻痺などによる歩行障害者に適用しているが,ペダルこぎ運動時に生じる体性感覚が求心性に脊髄を主体とする中枢神経系を賦活させ,より効率的かつ強化されたペダルこぎ運動を惹起させる可能性を見出している.これは一部運動時身体に加わる物理的刺激も関与したニューロモジュレーション効果と見ることができるものである.

 本稿では,われわれが実施している電気的ニューロモジュレーションのうち,リハビリテーション領域の中でしばしば遭遇する尿失禁に対する表面電極式電気刺激治療を紹介するとともに,脳血管障害および頭部外傷などを原因とする歩行困難者に対する足こぎ車いすの適応効果について,物理的ニューロモジュレーションも関与したものとして概説する.それが人間復活の上で重要な役割を演ずるということを述べてみたい.

参考文献

1)半田康延:驚異のニューロモジュレーション,pp1-128,本の森,2009
2)Ogura T, et al:Magnetic resonance imaging of morpho logical and functional changes of the uterus induced by sacral surface electrical stimulation. Tohoku J Exp Med 208:65, 2006
3)鈴木佳代子,他:治療的電気刺激による痙性麻痺者の歩容改善.生体医工学 47:172-175,2009
4)中川晴夫,他:仙骨部表面電気刺激による排尿障害治療.泌尿器外科 18:17-22,2005
5)Yokozuka M, et al:Effects and indications of sacral surface therapeutic electrical stimulation in refractory urinary incontinence. J Rehabil Med 18:899-907, 2004
6)Brazzelli M, et al:Efficacy and safety of sacral nerve stimulation for urinary urge incontinence:a systematic review. J Urol 175:835-841, 2006
7)Seki K, et al:Activity of lower limb muscles during driving a cycling wheel chair in non-ambulatory hemiplegic stroke patients. Tohoku J Exp Med 219:129-138, 2009
8)関矢貴秋,他:歩行障害者に対する足こぎ車椅子による走行練習実施前後の身体機能変化.生体医工学 47:411-416,2009
9)Sekiya T, et al:Change of brain perfusion after performing cycling wheel chair exercise for the patients with walking disability. Proc ISEK 101:564, 2010
10)半田康延,他:重度歩行障害者でも駆動できる足こぎ車椅子の開発とその応用.福祉介護機器technoプラス 39:23-27,2011

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1359

印刷版ISSN:0915-0552

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?